ランス再び   作:メケネコ

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魔人ラ・ハウゼルの力

「では…行きます!」

 カラーの森を出たところで、ハウゼルはその翼を使って宙に浮く。

 それを見てランスはスラルに対して白い眼を向ける。

「やっぱり空に飛んだではないか」

「てっきり正々堂々と勝負を挑んでくると思っていたのだが…」

 宙に浮かぶハウゼルを見上げていると、そのハウゼルの手の銃が赤い光を放つ。

「ランス!」

「分かっとるわ!」

 ハウゼルの手にある『タワーファイヤー』から凄まじい炎が吹き上がり、地上に居るランス達を襲う。

 魔法攻撃では無いので、ランス達は何とかその攻撃を避ける。

「うげ。なんつー範囲だ。こんなのまともにやってられんぞ」

 ランスはハウゼルの攻撃範囲を見て眉を顰める。

 その炎の威力は非常に高く、まともに喰らえば間違いなく焼け死ぬだろう。

「幸いなのは相手が外してくれている事だな」

 スラルの言う通り、ハウゼルは本気ではランスを攻撃していない。

 もし彼女が本気ならば、もっと連発して来てもいいはずだ。

 そしてそれは大当たりであり、上空でハウゼルは困った顔をしていた。

「これで諦めてくれればいいんだけど…」

 戦いを挑まれはしたが、ハウゼルとしてはやはり戦いたくはない。

 元々争いが好きでは無いし、本のために態々戦うのも避けたかった。

 だからこそ初手から自分の力を見せつけ、それで諦めて欲しいと思ったのだ。

 自分と人間の間には超えられない壁がある、それを思い知らせるだけでハウゼルは良かったのだ。

「でも…姉さんが倒せなかった人間か」

 ハウゼルは上空から自分を睨みつけているランスを見る。

 姉は確かに短気で向こう見ずな性格だ。

 それでも姉は間違いなく魔人であり、人間に倒されるなどありえない…その姉が『倒せなかった』と言ったのだ。

 恐らくは最初は殺す気だったのだろうが、それでも姉はこの男を見逃した。

 そこだけはハウゼルも看過できない部分もあった。

 ハウゼルが思案していた時、地上にランスが剣を構える。

 勿論自分の位置にはランスの攻撃は届かない。

 ましてや剣などは全く無意味―――のはずだった。

「ラーンスあたたたー-----っく!!!」

 その声と共に、凄まじい衝撃波がハウゼルに襲い掛かった。

「っっ!!!」

 まるで嵐に巻き込まれたかのように体のバランスが取れず、その体が地面へと近づいていく。

 何とか態勢を立て直して、地面に降り立つ。

 その時、ランスはハウゼルに向けて猛スピードで走ってきていた。

「がはははは! 行くぞ!」

「くっ!?」

 それはハウゼルには一瞬の事に見えた。

 実際には、ランスは自分が放った必殺の一撃にハウゼルがバランスを崩したのを見て、その時からハウゼルが落ちる方向とタイミングを完全に把握していたのだ。

 その認識力の向上も、ランスの持つ剣戦闘LV3の賜物だ。

 ランスの戦士としての勘が、その力を無意識に使いこなしているのだ。

「とー------っ!」

 ランスの剣がハウゼルに襲い掛かる。

 その剣の速度を見てハウゼルは一瞬目を見開く。

 

 ガンッ!

 

「あん!?」

 しかし、ランスの一撃はハウゼルの無敵結界の前に弾かれてしまった。

 その剣の衝撃を受けて、ハウゼルも僅かにバランスを崩す。

「コラ! 無敵結界を使うなと言っただろうが!」

「ご、ごめんなさい。あなたの剣があまりにも早すぎて…意識しないと無敵結界ってきれないから…」

 ランスの文句にハウゼルは思わず謝ってしまう。

 だが、実際にハウゼルは無意識のうちに無敵結界をはってしまった。

 それはランスの持つ剣に脅威を覚えたからに他ならない。

「まあいい。一回は許してやる。だが、次は無いぞ」

「え、ええと…はい」

 ランスの言葉にハウゼルは思わず頷いてしまう。

「という訳でももう一度行くぞ!」

 剣を構えたランスは再びハウゼルに向かって斬りかかる。

 今度はハウゼルも完全に対処する。

「炎の矢!」

 ランスの剣がこちらに当たる前に、ハウゼルは手加減した威力の炎の矢を放つ。

 魔法は絶対命中、決して避ける事は出来ない。

 そう、避ける事は出来ないが、防ぐことは出来る。

 そして高い魔法防御力があれば、魔人の魔法であっても耐える事は出来るのだ。

「あちちちち!」

 ランスは顔を庇いながらハウゼルへと突っ込んでいく。

 その姿にハウゼルは息をのんだ。

 まさか魔人である自分の魔法を受けて、真っ直ぐに突っ込んでくるとは考えても居なかった。

 その動揺がハウゼルの動きを一瞬止める。

 そしてランスにはその一瞬の動揺は十分な隙となる。

「くらいやがれ!」

 ランスの剣がハウゼルに向けられ、ハウゼルは躊躇う事無くタワーファイヤーでランスの剣を受けた。

 凄まじい衝撃がハウゼルを襲うが、魔人の力は伊達ではない。

 来ると分かって居れば防ぐ事は出来るくらい、ハウゼルには技術があった。

 ただ、ハウゼルの誤算としては、ランスはそれこそ尋常ではない強さの剣士だったという事だろう。

「がははははは! 行くぞ!」

 ランスの剣が嵐のようにハウゼルへと襲い掛かる。

「!」

 ハウゼルはその衝撃に目を白黒させる。

 その速さもさることながら、一撃の重さに驚愕していた。

 それこそ魔人の一撃にも匹敵しそうな攻撃を連続して放ってきているのだ。

(強い…! 本当に人間!?)

 ハウゼルは驚愕しながらも、魔人の身体能力を使って何とか攻撃を防いでいる。

 だが、これほどの威力の攻撃をこれ以上続けられれば、ハウゼルの気力が持たないのは明らかだ。

(だったら…!)

 だからこそ、ハウゼルは一歩も退かなかった。

 ランスの攻撃の僅かな隙間を縫って、ランスに向けて攻撃を仕掛けた。

「む」

 ハウゼルの手から炎が吹き上がり、それが剣となってランスに襲い掛かった。

 流石に魔人の炎をまともにぶつかればランスも危うい。

 ランスはその炎の剣を己の剣で受け止める。

 ランスの持つ黒い剣とハウゼルの炎の剣がぶつかるが、炎の剣は直ぐに霧散する。

 その時、ランスの体に強い衝撃が走る。

「あだっ!」

 ハウゼルが僅かな隙間を縫って、ランスの体に体当たりをしたのだ。

 まさか魔人がこんな単純な手、それも女が放ってくるとは思っておらず、ランスはまともに受けて吹き飛ばされる。

「!」

 だが、同時にハウゼルも大きく目を見開き、戸惑っている表情が見える。

 だがそれは一瞬、その隙にハウゼルは再び上空へと飛んでいった。

「こらー! 降りてこい!」

 ランスは文句を言うが、当然上空のハウゼルは降りてこない。

「むう…」

 やはり空を飛ぶタイプの敵は厄介だとランスは改めて思う。

 カミーラもメガラスもサイゼルもそうだが、空を飛べるというのはそれだけで大きなアドバンテージになるのだ。

 そんなランスを見下ろしながら、ハウゼルは改めて深呼吸をする。

(あの感覚は…?)

 ランスに体当たりをした瞬間、ハウゼルに何かが流れてきた。

 それは以前にこの人間と戦ったのではないかという感覚。

 記憶に有る訳も無い、不可思議な事がハウゼルを襲っていた。

(でも…私は生まれてから間もない魔人。彼と戦った事なんて有る訳ないのに…)

 そしてもう一つの戸惑いが、自分がこの人間に手を貸した事が有るような感覚だ。

 まるで自分がこの男と共に協力し、強力な相手と戦ったような気がするのだ。

 勿論ハウゼルにそんな記憶はない。

 今現存する中でも一番若い自分が、この人間の事を知っているはずが無いのだ。

(姉さんが言ってたのはこの事なのかな…)

 今になって姉がふざけてあんな事を言っていたのでは無いと分かる。

 確かにこの人間と自分との間には何かがある、そんな気がしていた。

(だとしたら…私もそれを知らなければいけない気がする。そのためには…)

「む…何かヤバイ気配がするぞ」

「ランス、これは一体…」

 ランスとスラルは上空で動かないハウゼルを見て、息をのむ。

 ハウゼルの気配が明らかに変わっているのだ。

 それはあの時のサイゼルの時と全く同じだった。

「ランスさんと言いましたね…訳あって私は本気を出します。ですので…死なないでください」

 するとハウゼルの体から小さな赤い稲光のようなものが放たれ、その右目からはまるで炎が噴き出しているように見える。

 間違いなく、あの時に本気を出したサイゼルと瓜二つだった。

「行きますよ」

 ハウゼルはタワーファイヤーを構えると、先程よりも強い威力でランスに向かって炎を放つ。

 ここはカラーの森が近いので、カラーの森へと炎が燃え広がらないように、攻撃範囲を萎めて放つ。

 それはファイヤーレーザーを遥かに上回る熱線となってランスに襲い掛かる。

「うおっ!?」

 上空から放たれる熱線を見て流石のランスも肝を冷やす。

 あんなのが直撃すれば間違いなく死ぬだろう。

 それくらいの威力を持った一撃をこっちに放って来たのだ。

「おいスラルちゃん! どーなってんだ! あいつ滅茶苦茶やる気だろうが!」

「わ、我に言うな! 我だって驚いているんだ!」

 ランスの叫びに対してスラルも動揺を隠しきれなかった。

 ケッセルリンクから聞いた話では、こんなに好戦的な性格では無かった。

(だが…相変わらず殺す気は無いようには見える)

 もし本気でハウゼルがランスを殺す気ならば、もっと範囲を広げて撃てばいいだけだ。

(いや、連発は出来ないのか? サイゼルとは違うという事か)

 サイゼルとは違い、ハウゼルは威力を集中させてこちらに攻撃をしている。

 ただ、どちらにしろランスは何も出来ずにただ逃げるしかない。

 さっきの攻撃が上手くいったのは、ハウゼルが完全に油断をしていたからだ。

 だが、今のハウゼルは空中を自在に動きながら攻撃をしてくる。

 時には弱い攻撃でこちらの動きを牽制しながら動き回られては、流石のランスも成す術は無かった。

「火爆破!」

「どわあああああああっ!」

 ランスの足元付近が爆発し、ランスの体が宙に舞う。

 ランスは仰向けに倒れるが、その時に上空から凄まじい勢いで地面に降りてくるハウゼルの姿を確認した。

 そして二人は真正面から向かい合う。

 ランスはその剣をハウゼルの喉元に突き付け、ハウゼルはタワーファイヤーをランスの胸に突き付ける。

「これで終わりです」

「むぐぐ…」

 ランスは呻くが、これは明らかにランスの負けだ。

「私の勝ちですね」

 ハウゼルから剣呑な気配が消え、ランスの剣に触れてその剣を自分の喉元から退かせる。

 その時、ハウゼルの体に電撃が流れたようにその体が跳ねる。

 ハウゼルの脳裏に、存在しないはずの出来事が頭に流れてきた。

 それはランスが戦っている姿だったのだが、ハウゼルはそれを剣の中から見ているような光景だった。

 そしてランスは強大な敵と戦い、勝利したのだが、その時に自分は力を貸していたような気がして来た。

 勿論そんな事は有りえないのだが、それは確かな事実としてハウゼルに襲い掛かった。

「クッ…」

「大丈夫か」

 ハウゼルは頭を押さえてふらつくのを、立ち上がったランスが支える。

 勿論さり気なく肩に手を回すのを忘れない。

「ええ…申し訳ありません。急に立ち眩みが…」

 ハウゼルはランスに礼をすると、改めてランスを見る。

「怪我はありませんか? 私も本気を出してしまって…」

「フン、あの程度何も問題は無いわ」

 ランスはそう言いながらも、その実予想以上のハウゼルの実力に驚いていた。

 この戦いは完全にランスの完敗であり、それが分からないランスではない。

「それよりも俺様の本が欲しかったんだったな」

「はい…その、宜しいですか?」

「まあ約束は約束だからな。『俺様の持っている』本をやろう」

 ランスはそのまま置いてあった道具袋を開くと、その中から数冊の本を取り出す。

「これでいいんだろ」

 ハウゼルは本を受け取って内容を確認する。

 それは間違いなく、ハウゼルが望んでいた本の続きだった。

 ハウゼルは顔を輝かせてランスに一礼すると、そのまま凄い勢いで飛んで行ってしまった。

 ランスは不機嫌そうにハウゼルが消えた方向を見ていると、スラルが近づいてくる。

「完敗だな」

「フン」

 スラルの指摘にランスはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 そんなランスの態度を見てスラルは苦笑する。

「まさかあれ程の力を持っているとはな。完全に予想外だったが…同時に想定通りか」

 スラルはつまらなそうにしては居ても、全く悔しがっていない様子のランスを見る。

 正直ここまで一方的にランスがやられるとは思ってはいなかった。

 だが、それでもランスの取る行動には全く支障は無かった。

 むしろ、相手の実力が想像以上だという事を知る事が出来たのだから、情報面においてはランスは勝っているのだ。

「それにしても…お前は本当に意地が悪いな」

「最初から確かめない奴が悪い。それに俺様は嘘は言ってないぞ。確かに『俺様が持っている本』は渡した。だが俺様が渡した本の完結編はスラルちゃんが持っているだろうが」

 ランスの言葉にスラルは笑う。

 そう、確かにランスはハウゼルに本を全て渡した。

 だが、それはその本の全てでは無い。

「まあ我も読んでいたのは事実だし、そもそもあの本は我が持ち出した物だからな」

「あいつの強さは大体分かった。さーて、どうするかな」

 そう言うランスだが、その顔には既に笑みが浮かんでいる。

 その笑みを見て、ランスが非常にあくどい事を考えているのがスラルには丸わかりだ。

「何か策があるんだろう? まあ、我はお前のやる事を見させてもらおう」

「がはははは! 次はハウゼルちゃんをゲットじゃー!」

 魔人に対して手も足も出なかったランスだが、その顔には既に勝利を確信した笑いが浮かんでいた。

(あいつはサイゼルと基本は同じだな。炎と氷の違いだけだ。だったらあの翼をどうにかすればいいだけだ)

 確かにハウゼルは強い。

 しかし、ランスはハウゼルに付け入る作戦を既に考え付いていた。

 

 

 

 その夜―――ハウゼルの家

「これがあの本の続き…」

 ハウゼルは自分の家で目を輝かせながら本を手に目を輝かせていた。

 もう手に入らないと思っていたものがこうして手に入ったのだから、その喜びはひとしおだ。

 ハウゼルはウキウキしながらその本を読み始める。

 一気に読んでしまうのは勿体ないと思いつつも、その手はどんどんと進んで行く。

 一日が経ち、そして二日が経つ。

 ハウゼルは寝る事も忘れ、ただただ無心に本を読んでいた。

「これが最後…」

 ハウゼルは最後の本を取ると、感慨深げに深呼吸をする。

 1人の男と、その男に恋をする双子の姉妹の話なのだが、それがいよいよ終わりを迎える。

 これまでの内容はその男は双子の姉妹に対して複雑な思いを持っており、双子もまた色々と葛藤をしていた。

 そして最終巻でその恋に決着がつく…果たして男はどちらを選ぶのか、それとも悲恋に終わってしまうのか…ハウゼルとしては非常に楽しみだった。

 ハウゼルは本の内容を集中して読んでいき―――首を傾げる。

「あれ?」

 ハウゼルは今まで読んできた本を改めて読み返す。

 どこか抜けている所は無いか、もしかしたら読む順番が間違っていたのではないか。

 そんな事を思いながら内容を確認していく。

 しかし、その本の中身には間違いは無く、確かに今ハウゼルが読んだ本が一番新しい内容のはずだ。

 だがしかし、完結はしていなかった。

 明らかに続きがある…そんな内容になっているのは間違いなかった。

「もしかして…」

 ハウゼルは厳しい目をしながら本を閉じる。

 もしかして…自分は騙されたのでは?

 そんな思いがハウゼルの脳裏によぎる。

 だからこそ、自分は確かめなければならない。

 もし自分が騙されたのであれば…

「いえ、そう考えるのは早計ですね。確かめないと駄目ですよね」

 ハウゼルは自分にそう言い聞かせながら、改めてカラーの森へと向かって行った。

 向かって行ったのはいいが、これからどうしようかとも思ってしまう。

 確かにあの時カラーの森に人間は居たが、今も居るとは限らない。

 自分と戦ったのだから、アレから移動している可能性は非常に高い。

 そして、これ以上ケッセルリンクに迷惑をかける訳にもいかない。

「どうしましょうか…空から確認しようにも、森ですから確認は出来ませんし…」

 ハウゼルが悩んでいると、森の中から人間が出てくる。

 それは間違いなく、ランスとスラルだった。

「よう、ハウゼル」

「やっぱり来たか。筋金入りだな」

「あなた達は…!」

 まるで自分が来るのが分かっていたかのような態度に違和感を覚えるが、ハウゼルにとってはそれは二の次だった。

 ハウゼルはタワーファイヤーをランスに向ける。

「…私を騙しましたか?」

 剣呑な空気を身に纏っているハウゼルに対し、ランスは全く態度を変えずニヤリと笑うだけだ。

「騙してなんかいないぞ。確かに俺様はハウゼルちゃんが探していた本を持っていたが、それがどこまであったかなんて数えていなかったしな」

「…つまりは、最初から持っていなかったと?」

「ああ。だから俺様はハウゼルちゃんに渡した本がそれが最後かどうかなんて知らなかったからな」

 ハウゼルは目を細めるが、確かにランスの言う事も分かる。

 ただ、それを確かめる手段がハウゼルには無いのだ。

「そもそもあの本は我が持っていた本だからな。続きもここにあるぞ」

 スラルが本を取り出した事で、ハウゼルは目を見開く。

「あ、あなたが持ってたんですか!?」

「ああ。確かにランスは続きを持っているとは言ったが、最後まで持っているなんて一言も言ってなかったぞ」

「…そうでしたっけ」

 自分が待ち望んでいた本の続きという事で、ハウゼルは少し舞い上がっていたのかもしれない。

 が、確かに最後まで持っているなんて一言も言っていなかった。

「では…その本を渡してもらう事は出来ますか?」

「我は別に構わん。本の一つで魔人と事を構えようとは思わない。だが、もう一度ランスの挑戦を受けて欲しいと言ったらお前はどうする?」

「…本気ですか?」

 スラルの言葉にハウゼルは眉を顰める。

 それは先に出した条件と全く同じだった。

 だとすれば、結果は全く同じものになるはずだ。

 そんな急激に強くなれる世界では無いのだ。

「勿論条件は有る。お前がそれを吞んでくれるのであれば…我が持っている他の本をお前に渡してもいいぞ」

「ほ、本当ですか!?」

 他の本がある、その言葉にハウゼルは食いついてきた。

(よっぽど本が好きなのだな…まあそういう欲望が有る方が魔人らしいか)

 あまりの食いつきっぷりに内心で驚きと呆れが混じっているが、そんな事は全く態度には出さない。

 ハウゼルは暫く葛藤していたが、

「…受けましょう。その条件を言ってください。ですが、あまりに酷い場合には拒否させて頂きますが」

 結局は自分の欲望に折れた。

 それを見てランスはニヤリと笑う。

「条件は簡単だ。俺様とタイマンだが…俺様の指定した場所で戦ってもらう。それは勿論構わんな」

「…ええ、いいでしょう」

 ランスの出した条件にハウゼルは少し考えたが、それくらいは構わないと受ける。

「装備は自由、それも勿論構わんだろ」

「勿論です。私にもコレが有りますから」

 武器の有無だけで自分が負ける訳が無い、ハウゼルはそれを確信しておりその条件ものむ。

「無敵結界は勿論無しだぞ」

「ええ、それは構いません」

 無敵結界があれば最初から勝負にならない。

 なのでその条件も受け入れる。

「逃げたら負けだ。それも構わんな」

「魔人である私が逃げる訳がありませんから」

 人間相手に逃げるなど魔人としてはありえない。

 それも受け入れる。

「そして最後の条件は、俺様が勝ったら俺様とデートしてもらう。それも構わんだろう」

「え? で、デート…ですか?」

 ランスの言う最後の条件にハウゼルは目を見開く。

 まさかそんな条件を突き付けられるとは思ってもいなかったからだ。

(デート…ですか。まさかそんな言葉が出るなんて…)

 勿論デートなど魔人には全く無縁の事だ。

 ましてや今の時代ならば尚更だ。

「お前が読んでいる本の同じ作者の短編集を我は持っているぞ。ランスに勝てばそれもやろう」

「受けます」

 スラルの言葉にハウゼルは即答してしまった。

 こうしてハウゼルはランスとスラルの口車に乗ってしまった。

 それがどういう事になるのか、そしてランスという男の恐ろしさを知るのはこの後すぐの事だった。

 

 




ランスがあっさりと負けましたが、実際魔人と人間ってそれくらいの差は有ると思います
ゲームだとあっさりと浮遊を解除出来ますが、文章にするとそんなの不可能ですから
なので空を飛んで遠距離攻撃を出来る魔人は強いと判断しました
普通に考えたらレベル3技能があろうが、空中から魔法と遠距離を連発してくる奴に勝てませんしね

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