ハウゼルはランスの出した条件を全て受け入れた。
ランスもまさか相手が自分の出した条件を全て受け入れるとは思っていなかった。
(意外と単純な奴だな)
内心ではそう思っていたが、勿論そんなのはおくびにも出さない。
「よーし、じゃあ戦いは三日後だ。それでいいな」
「ええ。三日後のこの時間…正午でいいですか? ここに来ればいいですか」
「構わんぞ」
「分かりました。では三日後に」
ハウゼルはそのまま翼を羽ばたかせて帰っていった。
ランスはそれを見届けてから、ニヤリと笑う。
「ランス。条件をのませたのはいい。だが、勝てるのか? いくら無敵結界が無くても、お前と魔人の実力差は大きい。確かにお前は強いが、1対1では勝てないぞ」
スラルはランスを見て不安げな顔をする。
ランスは『条件をのめば俺様が絶対に勝つ』とは言っていたが、実力差は明らかだ。
「がはははは! 問題無い。何故なら俺様には必勝の策が有るからな。翼と炎が無ければ俺様が絶対に勝つ」
「ふむ…お前が何を考えているか分からないが、とにかくお前がそう言うのであれば、そうなのだろうな」
根拠の無い自信、と言えばそれまでなのだが、ランスはこれまで数々の奇跡に等しい事をして来た。
魔人を倒した実力は本物だし、その強運も本物だ。
「さーて、まずは準備をするか。まずは丁度いい場所を探さにゃならんからな。まあハンティに協力させれば余裕だな」
ランスはニヤリと笑いながら、カラーの里へと戻っていった。
そして三日後―――
ハウゼルは再びカラーの森へと来ていた。
それはランスとの約束を果たすため、そして本の続きを手に入れるため。
森の入り口でハウゼルが立っていると、森からランスと初めて見る女性2人が現れる。
「おう来たか。ハウゼル」
「はい。約束を果たしに」
ランスの言葉にハウゼルは真面目な顔で答える。
「あれが魔人ラ・ハウゼルか」
「成程…確かに魔人ラ・サイゼルと瓜二つですね」
レンと日光がハウゼルを見て頷く。
「そこの二人は?」
「こいつらは見届け人だ。戦闘には参加しないから問題無いだろ」
「…分かりました。信用しましょう」
正直ランスの言葉を信じていいかは分からないが、それでもハウゼルは信じる事にした。
根が正直という事もあるが、ハウゼルは早くこの戦いを終わらせたかった。
ハウゼルの頭の中にあったのは、あの本の結末を早く知りたいという事だけだった。
「じゃあついてこい。俺様と戦う場所に案内してやる」
「分かりました」
ランス達はそのまま歩いて行く。
暫くの間歩いて行くと、そこには一つの洞窟があった。
ランス達はその洞窟の中に躊躇う事無く入っていく。
そこは狭い洞窟ではあったが、ランスが立ち止まった場所はある程度の広さがある所だった。
「場所はここだ。勿論問題は無いな」
「…ええ。問題は有りません」
どんな場所であろうとも、自分の優位は変わらない。
そもそも、魔人と人間の間にはそれだけ埋められない差があるのだ。
そこには明かりの代わりに篝火が多数有るため、視界は問題無い様だ。
ハウゼルは一度周囲を見渡す。
何か罠が有るかとも思ったが、一見するとそんな物は見当たらない。
「という事で確認だ。俺様は勿論全力で行く。そのためにはどんな手段を使おうが勿論問題は無いな」
「ええ。あなたは人間。私は魔人…それくらいは当然だと思っています」
念を押すようなランスの言葉に、ハウゼルは堂々と答える。
どんな罠が待っていようとも、ハウゼルにとっては問題無かった。
前回の戦いの結果が、自分とランスの力の差なのだから。
「よーし。じゃあ俺様に勝ったらあの本の続きを渡してやる。俺様が勝ったら、俺様とデートしてもらうぞ。いいな」
「二言は有りません。あなたも約束は守ってください」
「お前が破らん限りは俺様も破らん。よーし、じゃあ始めるか」
ランスはそのまま剣を抜く。
相変わらずの不気味な黒い剣に、ハウゼルは気を引き締める。
(何故かは分かりませんけど、あの剣は危険な気がします。ある意味彼よりも警戒しないといけないかも…)
姉もあの剣には何かを感じ取っていたようなので、ハウゼルも警戒する。
「じゃあ私が合図を出させて貰うわよ…始め!」
レンの合図にランスは真っすぐにハウゼルに向かって行く。
ハウゼルは当然の事ながらその翼を使って宙を飛び―――ドンッと背中に衝撃を感じて地面に落ちる。
「がはははは! こんな洞窟の中で飛び回れると思っているのか!」
「む…」
ランスの言葉にハウゼルの顔が歪む。
ハウゼルは魔人になって日が浅く、戦闘経験もそんなに無い。
ましてや普段から空を飛んでいる彼女が、こんな狭い洞窟の中で戦うなど想定もして居なかった。
(場所を指定したのはこのためか)
この可能性を全く考えていなかった、逆に言えばランスの言葉に異論を挟むことなく返事をした自分の迂闊さが悪いとハウゼルは頭を切り替える。
そしてタワーファイヤーを構えるが、それよりも早くランスはハウゼルに斬りかかった。
「とー-----っ!」
ランスの強烈な一撃がハウゼルに襲い掛かる。
ハウゼルはその一撃をタワーファイヤーで受け止める。
タワーファイヤーも強固なので、ランスの剣を問題無く受け止められる。
「がはははは! 甘い!」
「っ!」
だが、ランスはそんな事はお構いなしにハウゼルに連続して攻撃を加えていく。
その一撃はやはり重く、接近戦では魔人のハウゼルをして防戦一方になっていた。
「空を飛べなければこっちのもんだ!」
「くっ!」
ランスの剣がハウゼルの体を掠り、ハウゼルの服が斬られる。
いや、斬られたのは服だけでなく、自分の腕から血が流れるのを感じる。
(無敵結界は使っていない…でも、魔人である私の体をこうも簡単に傷つけるなんて…!)
魔人ハウゼルは見た目は人間だが、その防御力や魔法防御力は圧倒的に人間を上回っている。
その自分に対し、掠っただけで血を流させるなど並の技量ではない。
魔人の再生力で傷は癒えるが、自分の体が傷ついた事にハウゼルは少し動揺していた。
「動きが鈍いな。お前、近接戦が苦手だな。まあ分かってはいたがな」
「………」
ランスの指摘にハウゼルは答えない。
だが、その言葉は図星であり、ハウゼルは近接戦は得意ではない。
タワーファイヤーや魔法による攻撃がメインなので、そもそもこんなケースで戦う事などありえないのだ。
ただ、それでもやはり彼女は魔人だった。
「魔人を…甘く見ない事です!」
「む」
ハウゼルの目が前の戦いのように赤い光を放つ。
それは彼女が本気になった合図でもある。
ハウゼルは魔人の強力な膂力を使ってランスから距離を取る。
タワーファイヤーを鈍器のように振るい、強引にランスを引き離す。
宙を自在に飛べるスペースは無いが、それでも素早く動くくらいの空間は有る。
「行きます!」
ハウゼルはタワーファイヤーをランスに向ける。
狭い空間という条件はランスも同じなので、ハウゼルの広域の一撃は避けられない。
ハウゼルはそう思った時、タワーファイヤーの魔力に反応したかのようにランスのマントがめくれ上がる。
「…? あ、ああああああ!」
それを見てハウゼルが悲鳴を上げる。
そんなハウゼルを見て、ランスはニヤリと笑う。
「どうした? それを使わないのか? まあ使った場合はこいつがどうなるか分からんがな」
ランスがマントをめくると、その裏地には何冊かの本がくくりつけられていた。
それは間違いなく、あの時スラルが見せたあの本の続きだった。
「ひ、卑怯ですよ! どうしてあなたがそれを持ってるんですか!?」
ハウゼルの非難にランスは何時ものように高笑いをするだけだ。
「卑怯? 何を言っている。最初から言ったではないか。装備は自由だと。お前だってそれを受けただろうが!」
「そ、装備…そ、それは本であって装備では無いでしょう!?」
「ちがー---う! これは対ハウゼル用の装備品だ! つまりはこの本は立派な防具なのだ!」
「え、ええええええええ!?」
あまりにも堂々と言い放つランスにハウゼルは困惑の悲鳴を上げるしかない。
そんな光景をレンは楽しそうに、日光は呆れたように見ていた。
「いやー、まさかあんな手段を取るなんてね。でもランスらしいと言えばランスらしいわ。久々にランスっぽい戦い方見た気がするわ」
「…卑怯と言えば確かに卑怯なのでしょう。いくら相手が魔人でもこれは可哀想です」
相手が魔人とはいえ、ランスの取った卑怯な手段には日光は微妙な気持ちになる。
三日前―――
「という訳で俺様は魔人ハウゼルとタイマンをする。そのための準備をするぞ」
「魔人とタイマンって…随分無茶を言うね」
ランスの言葉にハンティは目を見開いて驚いている。
例え無敵結界が無くても、ハンティ一人では魔人と戦うのは難しい。
生まれたての魔人でも厳しいし、魔人の中級クラスでも倒す事は無理だろう。
ただ、瞬間移動という唯一無二の力が有るので死なないというだけだ。
「ランス殿。それは無謀だと思います。あの魔人イゾウでも私達が力を合わせて倒したのです。あの魔人サイゼルの妹というのならば、ランス殿一人では倒せません」
日光もランスの行動には眉を顰める。
かつて魔人サイゼルと戦ったが、恐ろしい強さをしていた。
その魔人の双子の妹という言うならば戦い方は同じのはずだ。
上空からの遠距離攻撃の前には剣など意味が無いのだ。
「そうだね。ランス、一対一で魔人と戦うのは無謀過ぎる」
ブリティシュは仲間達…それも世界に名を残るレベルの力を持っている自分達でも、魔人には勝てなかった。
無敵結界が有るから当然ではあったが、無敵結界を使用していなかったはずのケッセルリンクには手も足も出なかった。
それを考えれば魔人と一対一など普通に考えればありえない。
「フン、お前達は揃いも揃ってまともに魔人と戦おうとする馬鹿ばかりだな。誰がまともに魔人とぶつかると言った」
「…言ってくれるね。でもそういやそうだったね。アンタは昔にまともなじゃない手段で魔人を倒したんだったね」
ランスの言葉にハンティは昔の事を思い出す。
それこそ馬鹿らしい手段で当時のカラーと、そしてランスは魔人オウゴンダマを倒したのだ。
それを知らない日光とブリティシュは首を傾げるだけだ。
「しかしランス。一体どういう戦いをする気だ」
「フッフッフ。あいつの弱点はもう分かってる。あいつの弱点はずばり本だ!」
ランスの言葉にレン以外が首を傾げる。
どうしてそれが魔人の弱点になるのか、それが全く結びつかないのだ。
スラルですらもランスの言っている事は分からないくらいだ。
「それよりもまずはだな。ハンティ、この近くに丁度いい大きさ…天井がなるべく低くてそれでいて戦いやすいダンジョンはあるか」
「随分な要求だね…まあ探せば有ると思うよ。この手のダンジョンは何処にでもあるもんだからね」
ランスの要求はハンティにも不思議なものだったが、この男がこう言うのだから、きっと何かがあるのだろうとハンティは判断する。
「それなら僕達が今攻略しているダンジョンがいいと思う。相応に広くて、戦いやすい場所だ」
ブリティシュは今自分達が攻略しているダンジョンが、まさしくランスの要望を満たしてると判断する。
「間違いないだろうな」
「ああ。だったら君も一度確かめればいい」
「フン、まあ信じてやる。だったらダンジョンは解決だな。それとだな、こういう事が出来る奴はいるか」
ランスはハンティに耳打ちすると、ハンティの口がどんどんと吊り上がっていく。
それは非常に面白い事を聞けたときの顔だった。
「…アンタ、凄いこと考えるね。そりゃ魔人も倒せる訳だ。これまでいろんな英雄とかは見てきたけど、アンタほどあくどい奴は見た事が無いよ」
それでもハンティは非常に楽しそうだ。
「それはアタシが何とかしてやるさ」
「よし、じゃあこれも問題無いな」
ダンジョンの問題と、ランスのある策の事が解決し、ランスは上機嫌でスラルを見る。
「後はスラルちゃんだな」
「我が出来る事はあるか? お前とハウゼルのタイマンならば、我が出来る事は無いと思うが…」
スラルの言葉にランスは鼻で笑う。
「何を言っておる。ここだここ。スラルちゃんはここに入って戦うんだ」
ランスが指を刺したのは、ランスが持っている剣の宝玉だった。
「という訳で何も問題は無い! 何故ならお前自身が認めたからだ! まさか今更文句を言うんじゃ無いだろうな」
「え、えーと…それは…」
ランスの言葉にハウゼルは言葉に詰まる。
確かに自分は相手の全ての条件を受け入れた。
受け入れはしたが…まさかこんな非常識な手段を取ってくるだなんて思ってもいなかった。
「がはははは! 恨むなら本に釣られた自分を恨め!」
そう言ってランスはハウゼルへと向かって行く。
ハウゼルとしては何とか距離を取りたいが、距離を取っても出来る攻撃が無い。
何しろハウゼルの攻撃は火炎攻撃に特化しており、どうやっても相手を燃やしてしまう攻撃しか出来ないのだ。
勿論手足や鈍器を使って攻撃するという手段は有るが、その手の攻撃で目の前の人間を倒せるとはどうしても思えなかった。
ランスの剣技はそれ程までのレベルに達しているのだ。
(空を飛ぼうにもこんな低い所では意味が無い…よしんば飛べたとしても、こちらから出来る攻撃が無い…!)
ハウゼルとしては八方塞の場面だった。
普通に考えれば、人間との約束など破ってしまえば良かった。
姉であるサイゼルならばそれくらいの事はやってのけるだろう。
だが―――ラ・ハウゼルという魔人は違った。
彼女は実直で、相手との約束を守る魔人だった。
これがとんでもない外道ならば彼女も約束なんて守らない。
しかし、目の前の男はその手のタイプの人間には見えなかった。
だからこそ、ハウゼルはどうしていいか迷ってしまっていた。
しかし、その迷いは戦いの中では隙を晒してしまう事になってしまう。
「がはははは! これまでだなハウゼルちゃん!」
ランスの剣がハウゼルに迫る。
その剣を見て、ハウゼルはとうとう覚悟を決める。
相手は限られた手段で全力で自分を倒しに来るのだから、自分も今自分の限られた手で相手と戦うだけだ。
「む」
ハウゼルの右目から炎が揺らめき、その体から赤い稲妻が走る。
即ち、魔人としての戦闘体制を取ったという事だ。
「条件を受け入れたのは私自身です。でも、それだけで魔人を倒せるとは思わない事です!」
ハウゼルはタワーファイヤーをその手で振り回す。
ランスはそれの一撃を受け流すが、その衝撃には唇を歪める。
やはり相手は魔人、その腕力も半端ではない。
まともに当たればランスの頭部をやすやすと砕くだけの威力があるのだ。
「行きますよ!」
ハウゼルはそう言うと、タワーファイヤーを構えている手とは逆の手で炎の剣を作りってランスに斬りかかる。
「サイゼルと同じような事をしおって!」
ランスはその剣を何とか避けるが、その熱量はランスの体を炙る。
ドラゴンの加護があるので、そこまでの痛みは無いのだが、それでも厄介な事には変わりは無い。
「言ったはずです。今の私の全力だと」
ハウゼルはそのまま翼を使ってランスの死角に回り込む。
上空からの砲撃は出来ないが、それでも相手の死角に回るこむスピードまでは殺されてはいない。
ハウゼルはランスのマントをはぎ取ろうと手を伸ばすが、ランスはこちらの姿を見ないままその剣で攻撃をして来た。
「!」
剣が形を変え、まるで槍のように伸びてくる。
ハウゼルはその一撃を何とかタワーファイヤーで受け流すが、同時にバランスを崩される。
ランスは振り返りざまえに元の形に戻った剣でハウゼルを攻撃する。
「っ!」
その剣の腹がハウゼルの腕に当たり、ハウゼルはその衝撃に吹き飛ばされる。
そしてそのままの勢いでランスはハウゼルに斬りかかる。
「クッ! 炎の矢!」
ハウゼルはランスのマントを燃やさないように、威力の小さい魔法でランスを攻撃する。
「!? そんな!」
だが、その炎の矢はランスに当たる前に何かの壁にぶつかったように霧散する。
その隙にランスの剣がハウゼルに襲い掛かる。
「ラーンスあたたたー--っく!」
「クッ!」
ランスは飛び上がると、そのままの勢いでハウゼルに向かって剣を振り下ろす。
その威力にハウゼルは身の危険を察知し、翼を羽ばたかせて何とかその場を離れる。
ランスの剣が地面に当たると、その地面が爆発して凄まじい衝撃波がハウゼルに襲い掛かる。
その衝撃波に飲み込まれ、ハウゼルの体はダンジョンの柱にその体を叩きつけられる。
勿論その程度ではダメージにはならないが、ハウゼルは直ぐに態勢を立て直すと、自分に向かってくるランスの剣をタワーファイヤーで受け止める。
二人の間で火花が散り、ランスとハウゼルは真正面から顔を突き合わせる。
「…強いですね。まさかこんな人間が居たなんて」
ハウゼルは素直に感心する。
最初から強いとは思っていたが、まさかこれ程の強さがあるなんて想像もしていなかった。
だが、それでも自分は決して負けない。
それが魔人という存在なのだ。
「火爆破!」
「うおっ!?」
ランスの足元が爆発し、その体を吹き飛ばす。
直接魔法を当てなければランスの持っている本が燃える事は無い。
ハウゼルは態勢を崩しながらも何とか耐えているランスに向けて、その炎の剣を振り下ろす。
マントを焼かないように攻撃をし、ハウゼルとしてはこれで終わったと思った。
しかし―――自分の持つ炎の剣に信じられない事が起きた。
「冷たい! えっ!?」
ハウゼルの炎の剣があっという間に小さくなり、自分の炎の剣を受け止めているランスの剣から強力な冷気を感じる。
「危ない所だったな。やはり相手は魔人、翼と炎を奪って尚これほどの強さを持っている」
「剣から声が…!?」
その声はランスの持つ剣から聞こえてきた。
「フン、それでも俺様が勝つ! そんなのは当然だろうが!」
ランスの持つ剣が青い光を放ったかと思うと、ついにはハウゼルの持つ炎の剣を飲み込んだ。
「そんな!?」
その事実にハウゼルは驚きに目を見開くが、それが大きな隙になってしまった。
ランスの強烈なタックルをくらい、流石のハウゼルもバランスを大きく崩す。
「がはははは! これからが本番じゃー---!」
再びランスの剣がハウゼルに襲い掛かる。
ハウゼルは魔法バリアでその剣を防ぐ。
「どういう事…!?」
自分に迫る剣を見て、ハウゼルは混乱している頭を何とか鎮めようとする。
しかし、ランスはその隙を見逃す程甘くは無かった。
「とー-----っ!」
ランスが再びランスアタックを放つと、それは強烈な氷の嵐になってハウゼルに襲い掛かる。
ハウゼルはその翼を使って何とか直撃は免れるが、ランスの剣から放たれた氷の嵐が自分の足と腕を傷つける。
ハウゼルは炎の攻撃に長け、炎の攻撃によるダメージを受けない体質を持つ。
同時に、ハウゼルは氷の攻撃に弱いという弱点を持ってしまっている。
しかし目の前の剣士が自分が苦手とする氷の攻撃を行う手段があるとは考えもしなかった。
(いえ、これも全ては私の油断が招いた事…そう、本質的には人間は魔人に及ばないという事を当然だと思ってしまっていた…)
人間を下に見るのは魔人として当然の事だ。
ハウゼルもまたそんな当たり前の魔人だった。
だからこそ―――目の前のランスの力を見極める必要が出てきた。
この期に及んではもう本なんて関係ない。
(私の持っている違和感も含めて…私の持つ全てでこの人の力を見極める!)
ハウゼルはタワーファイヤーを構えると、そこに魔力を込める。
「む!?」
ランスはハウゼルが武器を構えたのを見て同じように力を籠める。
「ランス!」
「分かっとるわ! スラルちゃん、こっちも全力で行くぞ」
ハウゼルが本の事も関係無しにこちらに攻撃をしようとしているのを見て、ランスも全力を出す事を決める。
「スノーレーザー!」
スラルの声が響き、ランスの剣が更に青く輝く。
そしてそれはランスの持つ黒い剣と重なり、黒と青が混じったオーラを放つ。
「防いでみなさい!」
「そんなので俺様を倒せると思うなよ! 鬼畜アターーーーーーック!!」
タワーファイヤーから凄まじい熱量の炎が放たれ、同時にランスも鬼畜アタックを放つ。
鬼畜アタックは先程よりも凄まじい氷の嵐…いや、氷の竜巻となってハウゼルに向かって行く。
そして炎と氷がぶつかり合い、凄まじい水蒸気が発生する。
「ランス殿!?」
「落ち着きなさい」
レンは日光の前に立つと、その盾を構える。
二人の攻撃の余波がレンに襲い掛かるが、防御に秀でた彼女はその攻撃を難なく防ぐ。
ハウゼルは強烈な水蒸気に目を押さえながら警戒をする。
(…倒した手応えは無かった。でも無傷だとも思えない)
実際、ハウゼルもその余波によってタワーファイヤーが少し歪んでしまっている。
しばらくの間は使えない事を自覚しながらも、相手の動きを探る。
そして、ハウゼルの予想通り、ランスは水蒸気を斬ってこちらに向かって来ていた。
しかし、まだ剣の届く範囲ではないのが分かる。
ハウゼルはそれを察知し、用意していた魔法を放つ。
「ファイヤーレー…」
「だー---りゃああー----!」
だが、その詠唱が終わる前にランスは躊躇う事無く手元にある黒い剣を投げつけてきた。
「あぐっ…!?」
魔法を唱える事に集中していたハウゼルは投げつけられた剣を避ける事は出来なかった。
回転しながら飛んできた剣の柄がハウゼルの肩に当たる。
それでハウゼルはバランスを崩すが、幸いにも刃はハウゼルに当たらなかった。
ハウゼルはランスの持つ剣を奪うためにその剣に手を伸ばし―――
「えっ?」
その剣の重さにバランスを崩してしまった。
「がはははは! 貰ったー----!」
そして目の前にはランスが迫ってきており、その手には透き通った青い剣が握られていた。
「ラーンスアタタタターーーーーック!」
「きゃあ!」
そしてクリスタルソードからランスアタックが放たれ、ハウゼルはとうとうそれをまともに受けて吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられたハウゼルに、剣を拾ったランスが迫り―――
ガンッ!
そのわき腹―――の横にランスの剣が突き刺さった。
そしてその首筋にはもう一本のクリスタルソードが突き付けられる。
「俺様の勝ちだな」
「………そうですね。私の負けです」
ハウゼルはごくごく自然にその言葉を口にできた。
不思議と敗北感は無く、何故かその結果をあっさりと受け入れる事が出来た。
「よーし、いい子だ。だが…流石に疲れたぞ」
ランスは敗北を受け入れたハウゼルのから剣を離す。
そしてそのままハウゼルに向かって手を伸ばした。
ランスの右手ハウゼルの顔の横の壁に勢いよく当たり、二人は間近で顔を突き合わせる。
(…え? これってもしかして…あの本の中にあった壁ドン…?)
こんな状況なのに、そんな言葉出てくる自分に少し呆れるが、ハウゼルはランスの顔をじっと見る。
「あ…大丈夫ですか?」
ランスの体には火傷が有り、見ればその手にも火傷がある。
間違いなく、自分の一撃とランスの一撃がぶつかった時に出来た傷だろう。
「今になって痛くなってきたぞ…おいレン! 回復魔法だ回復魔法!」
アドレナリンが全開になっていて、今になってランスに痛みが襲ってくる。
「いちちちち…無理し過ぎたか」
「…そんなに無理するくらい、私に勝ちたかったのですか?」
「当たり前だろうが。お前とのデートがかかっているのだから当然だ」
その言葉にハウゼルは大きく目を見開き―――そして微笑んだ。
「お見事です。あなたの力と執念、しかと受け止めました」
そう言うハウゼルの表情は、ランスも見惚れる程に美しかった。
やっぱりハウゼル戦はランス10が面白かった
ですので殆ど同じ展開ですが…これ以上の手段は正直思い浮かびませんでした
空を飛べる魔人は本当に難しい…