ダンジョン―――それはいつどうやって作られたかは分からないものだ。
中にはボスモンスターが存在し、時には価値のあるお宝も眠っている。
ランスはダンジョンを探して挑戦するのが大好きだ。
ある意味ランスにとっては女より冒険の方が大事なのかもしれない。
どんなにお金や地位が有っても、ランスは常に冒険を求めていた。
自分が知らない事を知るのがランスにとっては何よりの楽しみだった。
そして今、そのダンジョンをランスは堪能していた。
「がはははは! 雑魚モンスターが俺様の前に出てくるとはいい度胸だ! 経験値になれー!」
「うぎゃあああああ!」
パワーゴリラやアカメ、レッドハニーがランスに蹴散らされる。
「今のランスにとってはこの辺のモンスターも片手間だな。まあ我等が居るから当然ではあるが」
スラルは手元の地図のような物を広げている。
「む、スラルちゃん、何だそれは」
「ああ。これはマッピングの魔法だ。ハンティに教えて貰った」
「ほー。そんな魔法があるのか。いや、あったような…」
ランスはスラルの使った魔法を見て首を傾げる。
いつかどこかでそんな魔法を見たような気がしたが、なんか気のせいのような気もした。
「それよりもお前は本当に大丈夫か」
ランスはリディアを見て、ランスにしては珍しく本気で気をつかった声を出す。
「だ、大丈夫です…足手纏いなのは分かってますが、私は絶対に諦めませんので…」
「まあやれるというなら構わんが。ハウゼル、こいつを守ってやれよ」
「ええ、大丈夫です。私が彼女を守りますよ」
「私はスカウトとして罠と宝箱を担当しますのでー。あ、弓も少しは大丈夫でーす」
今この場に居るのはランス、スラル、ハウゼル、リディア、ウトスカの5人だ。
ブリティシュは男なのでランスは連れてくるのを拒否し、レンと日光はカラーの森のために置いて来ていた。
レンが居るなら滅多なことは無いだろうし、ここにはハウゼルが居るのでリディアの事も問題は無い。
「それにしてもあまり大きくない割にはモンスターは普通に強めの連中が居るな。ウトスカ、ここは普段のダンジョンとは違うのか?」
「ランスさんが居るので、別のダンジョンに来てまーす。普段の所はちゃそばとかまる改とかメイジマンが相手何ですけど…ここまで敵が強くなってるなんて思いませんでした」
スラルの疑問にウトスカは難しい顔をする。
ランスの事を考え、新しいダンジョンに来たのだが、モンスターが想像以上に強い。
強いのだが、
「モンスターですね。ここは私が…火爆破!」
モンスターの集団が現れるが、ハウゼルの放つ火爆破の前にあっというまに蹴散らされる。
その威力はスラルの使う魔法よりも高く、このレベルのモンスターでもあっさりと倒せる程だ。
「流石に魔人の魔法の力は桁違いだな。それよりもマッピングの魔法にもっと慣れねばいかんな」
スラルは歩きながら魔法の地図を見る。
この魔法は自分達の足で歩き回らなければ効果が無い様だ。
それでもこうして魔法で地図を作れるのであれば、スラルとしても有難い事この上ない。
「目的はレベルアップだからな。モンスターをぶっ殺せばいいだけだ。まあハウゼルが居るから余裕だろ」
「お手伝いしますけど、私としてはもっと進んでみたいという気持ちがあるんですよね」
ハウゼルは少し照れくさそうにする。
「私…こうやってダンジョンに来るのも初めてなので。私の思っていたデートとは違ってますけど、私も結構楽しんでるんです」
「ハウゼルがそう言うのなら進むか。リディア、お前もいいな」
ランスの言葉にリディアも力強くうなずく。
「はい。私もランスさんと一緒に冒険出来て嬉しいですから…進めるだけ進みたいです」
「だったらとっとと進むぞ。ウトスカ、お前はスカウト何だから罠はしっかり見つけろよ」
「はーい」
ランス達はダンジョンを進んで行く。
特に変なギミックが有る訳でも無い普通のダンジョンだ。
なのでランス達も楽々進んで行く。
やはり魔人であるハウゼルが居ればモンスターなど敵では無い。
スラルも新しい魔法の制御に集中できるし良いことだらけだ。
ただ、ランスとしてはちょっぴり退屈なのも事実だ。
「うーむ、魔人が居るのはやっぱり楽だが、緊張感に欠けるな…」
「ケッセルリンクが居た時もそんなものだっただろう。魔人とはそういうものだ」
無敵結界があるので、ハウゼルはモンスターからの攻撃を全く受け付けない。
ランスはあまりにも順調すぎてちょっと退屈を感じてはいたが、それでもこうして順調に行くなら文句はない。
「ここが最奥だな…あまり広いダンジョンでは無かったようだ」
スラルはマッピングが完成する事に満足気な笑みを浮かべている。
情報魔法の類は得意では無いが、これくらいの魔法ならばスラルならば容易に習得が可能だ。
ランスは特にはお宝には期待していなかったが、そこにはランスにとっても非常に予想外のモンスターが居た。
「遊んで遊んで! 私はあなたに倒されるとすっごい幸せなの!」
そこに居たのはきゃんきゃんだった。
だが、ランスはそのきゃんきゃんを見て喜びの声を上げる。
「おお! 幸福きゃんきゃんではないか! がはははは! こいつはラッキーだな!」
「これが幸福きゃんきゃんですか…始めて見ました」
ランス達の周囲を踊っているきゃんきゃんを見てハウゼルは感心したように声を出す。
何しろ幸福きゃんきゃんはレアモンスターであり、滅多に会う事が出来ない。
ただ、会う事が出来、それを倒す事が出来れば莫大な経験値が手に入るのだ。
「うむ、じゃあ早速倒してやるか。いくぞー、とー」
「きゃあ♪ あなたに倒されて良かった」
ランスの攻撃に幸福きゃんきゃんは嬉しそうな声を出しながら倒れる。
「あ、レベルが上がりました」
幸福きゃんきゃんが倒れた事で膨大な経験値が入ったのか、ハウゼルのレベルが上がる。
「ああ、そういや魔人とかモンスターは自動でレベルが上がるんだったな」
「はい。私達はそうやってレベルが上がりますね。それにしても魔人である私のレベルがこうも簡単に上がるだなんて…幸福きゃんきゃんって凄いんですね」
「滅多に出会えんモンスターだからなー。それよりもお宝は…なんだこのニンジンは。七色に光ってるぞ」
幸福きゃんきゃんは七色に光るニンジンを落としていた。
こうしてレアアイテムを落とす事もあるので、レアモンスターはお得なのだ。
「でもブリティシュさんと一緒に来た時は幸福きゃんきゃんどころか、レアモンスターにも出会えなかったのに…やっぱりランスさんって持ってますねー」
「当たり前だ。俺様は幸運の星に生まれた男だからだな」
ランスは得意げにがははと笑うが、実際にはランスには比喩では無くその幸運の星がついているのだろう。
何しろ冒険LV2という、この世界に一人しか持っていない技能を持っているのだから。
「で、ダンジョンはどうだ」
ランスの言葉にハウゼルは少しはずんだ声で答える。
「そうですね…本で見たものとは全然違いますけど…それでも楽しい、と思えましたね。それも良い物を見つけたのなら特に」
ハウゼルがこれまで見てきた本には、ダンジョンを冒険したりする本も有った。
何しろ魔人故にハウゼルには冒険をするという考えが無かった。
(ケッセルリンクさんは凄い冒険をしたことが有ると言ってましたけど…どういう冒険だったんだろう)
ケッセルリンクとの会話の中で、彼女がカラーだった頃や魔人になってからの冒険の話は聞いた事があった。
勿論ランスの事は話していないが、それくらいは話のタネにしても良いとケッセルリンクも判断している。
だが、こうして聞くとやるのではこれほどの違いがあるとは思わなかった。
「ただデートしては微妙かもしれませんねー。まあ私もデートなんてした事無いけど」
「まともなデートなど出来んからな。全く、厄介な事だな」
GL期である以上、そういう事が出来ないのはもう仕方が無い。
ランスも人間の隠れ里には入った事はあるが、何処も陰気でランスとしては当然気に入らない。
娼館とかも有るのだが、流石にそんな所でデートをするほどランスは馬鹿ではない。
「…魔王様は何故こんな事をするのでしょうか。でも、ジル様が何の根拠も無くこんな事はしないとは思うのですが」
ジルはハウゼルの目から見ても理知的な魔王だ。
狂気の一面も有るが、ハウゼルからすればその狂気は人間よりも魔物に向けられている。
人間に対してはまるで単なる義務感からそうしているような気がするのだ。
人間牧場というシステムを作った後は、人間に対しては無関心と言っても良い気がする。
それよりも、魔物を苦しめる事に力を入れている…そんな気がしてならない。
「楽しんでいるようには見えないという事か?」
スラルの言葉にハウゼルは頷く。
「ええ…私からすると、ジル様は人間には興味が無いように見えるんです。ただ、人間の数だけは気にしているようです」
「数…か。確かに『数』を気にするなど魔王としてはおかしな話だ。ナイチサはおおよそ人類の半分の人間を殺したと聞いている。だが、我等が出会ったナイチサは死にかけだった。最強の存在である魔王なのにな」
スラルが覚えている魔王ナイチサは確かに恐ろしく強い魔王だった。
ただ、強いと言ってもその力は大きく落ちており、ランスすら殺す事が出来なかったくらいだ。
いくらランスが強くても、この世界の最強の存在である魔王に抗う事は不可能だ。
だが、ナイチサはランスを殺せなかった。
それ程までにナイチサは弱っていた。
スラルには魔王がそこまで弱る理由が分からなかった。
「もうその辺でいいだろ。それよりもリディア、辛くなったらハッキリ言えよ。隠される方が面倒だからな」
「だ、大丈夫です。体に関しては本当に問題ありません。それよりも、ここが行き止まり…なんですか?」
ランスの言葉にリディアはしっかりした声で応える。
それはランスに気を使っているという訳では無い様だ。
「ここが最終地点だな。そこまで大きく無いダンジョンなのは間違いないだろう。隠し通路とかがあれば話は別だがな」
スラルは魔法で出来上がった地図を見て答える。
ウトスカもあちこち見回っていたが、特に成果は見られなかった。
「じゃあここで終わりだな。よーし、地上に戻るぞ。スラルちゃん、いいな」
「ああ。じゃあ使うとするか…しかし本当に便利なアイテムだな」
スラルはお帰り盆栽を取り出すと、その盆栽の中の枝を折る。
すると帰り木の効果が発動し、ランス達は一気にダンジョンを脱出する。
「…凄い便利ですね」
一瞬でダンジョンを脱出した事にハウゼルは目を丸くする。
魔人であるハウゼルは当然この手のアイテムの事は全く知らない。
生まれてから間もないという事も有るが、世間知らずである事は間違いない。
「うーむ、中々実りのある冒険になったな。幸福きゃんきゃんを倒せてレアアイテムっぽいのも手に入れたしな」
ランスの手には虹色に光るニンジンが握られている。
「凄い綺麗ですね…」
キラキラした目でリディアがニンジンを見ている。
その目を見てランスは少し考える。
それは勿論リディアを美味しく食べられる(性的な意味で)かどうかだ。
(うーむ…しかしハンティがうるさいしな。なんでか知らんがあいつは俺様がカラーとやるのを止めているからな…)
ハンティはランスがカラーと性交をするのを止めていた。
ただ止めるだけならランスは止まらなかっただろうが、
『カラーのためにお前がこの子たちに手を出すのを止めてくれ。それがカラーの未来のためなんだ』
と言われれば流石のランスも考えてしまう。
カラーの未来とは、即ちリセットの事もある。
ハンティの言っている意味は正直分からないが、あのハンティが頭を下げるくらいなのだから相当な理由が有るのだろう。
実際には、ハンティはランスの血がカラーに流れるのを少し恐れていた。
理由としては、ランスが時間の移動をしているという事だ。
そんな不安定な存在の遺伝子をカラーに残すのは躊躇われた。
ランスの子を望んでいるカラーが居るのは分かってはいるが、それでもハンティはカラーの未来のためにそこだけは譲れなかった。
「ランス。もしかしたらそれは聖なるアイテムの可能性も有る。我には分からんが、レンに見せれば直ぐに分かるだろう」
「これがか。そうは見えんがな…まあ聖なるアイテムじゃ無かったらお前にやるぞ」
「え、本当ですか!?」
ランスの言葉にリディアが嬉しそうにする。
そしてカラーの里に戻った時、レンが放った言葉はリディアにとっては残酷な現実だった。
「ああ、これは聖なるアイテムね。それにしても流石はランスねー。こういうレアアイテムも簡単に手に入れられるなんて」
レンが確認した結果、この七色に光るニンジンは聖なるアイテムとの事だった。
「これがか。うーむ…そんな物には見えんがな」
ランスの目から見れば、これは宝石の類にしか見えない。
だからこそ、ランスは簡単にこれを手放すと言えたのだ。
ただ、これが聖なるアイテムならば話は別、これはクエルプランに渡すためのアイテムだからだ。
ランスも目的のためには手段を選んではいられない状況にある。
ランスが悩んでいるのを見て、
「いいですよ、ランスさん。それはランスさんの目的のために使ってください」
「いいのか」
「ええ。私はランスさんと初めて冒険に出れたので、その記念になるかと思っただけですから。でも、私も強くなればまたランスさんと冒険に行けると思いますから。記念品はその時に受け取ります」
「そうか。だったらこいつは俺様が使わせて貰うぞ。まあ次にはもっといいものをお前にくれてやる。期待して待ってろ」
ランスの自信満々な言葉にリディアは嬉しそうに笑う。
「しかしこれが聖なるアイテムですか…価値のありそうな宝石にしか見えませんね」
日光が虹色に輝くにんじんを見て首を傾げる。
自分もこういった宝石のような物の類には疎いので、これがどんなものなのかさっぱり分からない。
「それはそうと、幸福きゃんきゃんを倒したんだって? 私が居ないときにそういうのに会うなんてね…」
レンは少し恨めしそうにランスを見る。
何しろ幸福きゃんきゃんは膨大な経験値を持つ女の子モンスターだ。
それ故に希少で、滅多に出会う事が出来ない存在なのだ。
そんなモンスターに自分が居ない時に出会うなんてと愚痴の一つも言いたくなる。
「そういやこれまで見なかったな。プラズムゴーストは見たがな」
スラルも初めて幸福きゃんきゃんを見た事を思い出す。
存在するのは知ってはいても、実際には見た事も無い。
魔王だった頃は一々モンスターの事も覚えていない。
そもそも魔物スーツを着なければ魔物は兵隊として役に立たない。
スラルは別に魔物兵に何かを求めていた訳では無い。
そんなものが無くても、無敵結界を持つ魔王ならば恐れるものは何もないからだ。
「どうせ何れ会う事も有るだろ。俺様は別に幸福きゃんきゃんが珍しいと思った事は無いからな。それよりも後一つだな。それで聖なるアイテムが三つか」
聖なるアイテムを三つクエルプランに渡せば特別なアイテムが貰える。
思いがけずに手に入れた聖なるアイテムだが、残り一個となるとランスとしてもやり甲斐が出てくる。
「それよりも久々にクエルプランちゃんを呼ぶか。そういや魔人を倒した後もごちゃごちゃしてて呼んでなかったしな。という訳でカモーン! クエルプランちゃん!」
ランスが指を鳴らすと、眩い光と共にクエルプランが現れる。
「お久しぶりです、ランス。レベルアップですね」
「おう。今回はかなり戦ったからな。自信があるぞ」
「それでは…レベルアップを行います」
クエルプランが呪文を唱える。
「ランスはレベルが89になりました」
「幸福きゃんきゃんと魔人を倒して1しか上がっとらんだと!?」
「スラルはレベル88になりました」
「まあランスが上がって無いのだから、我もそれしか上がらんだろうな」
「レンはレベルが上がりませんでした」
「まあ私は幸福きゃんきゃん倒して無いし…」
「日光はレベル65になりました」
「まだ強くなることが出来たんですね…」
「ウトスカはレベル38になりました。これで才能の限界です」
「これで私は打ち止めかー。結構限界レベル高かったなー」
「リディアはレベル21になりました」
「…凄い上がりましたね」
「以上になります。魔人は私の範囲外ですので、彼女のレベルは私は干渉しません」
「人間のレベルアップってこんな感じなんですね」
「レベルアップは以上になります」
「あ、そうだクエルプランちゃん。聖なるアイテムをまた1個見つけたぞ」
用件が終わり消えようとする彼女をランスが呼び止める。
そして虹色に輝くにんじんをクエルプランに差し出す。
「ほれ。これが聖なるアイテムだろ」
「ええ、確かに。ではこれは私が預かるという事で宜しいですか?」
「ちょっと待って欲しい。それは何か特殊な力を持っているアイテムなのか? もしそうならこちらで使える可能性があるのだが」
スラルがクエルプランに尋ねる。
万が一、これが特殊なアイテムなのだとしたら、ここで彼女に捧げるのは惜しいともスラルは思っていた。
「いえ…別に特殊な力はありません。ただ、人間の世界では価値が高いとは思います。これは本物の宝石で出来たものですから」
「宝石…宝石か。まあそれならば別にいらんと言ってもいいか…」
宝石と聞いてスラルは少し考える。
だが、今の時代にはお金の価値が低く、物々交換の方が相手に喜ばれるのが現実だ。
この宝石の聖なるアイテムを人間界で処分しようとしても、それこそゴールドにしかならないのが関の山だろう。
しかし今はゴールドにはかなり余裕があるので、だとすればお金としての価値しかないアイテムならば必要無いとスラルは思った。
「金目の物か。まあ今はいらんな。特に使う所も無いからな」
ランスもゴールドにしかならないのなら、そのアイテムは手放しても良いと判断する。
「それでは受け取りましょう。残りは一つです。それを渡してくれれば、約束の物を渡しましょう」
「おう、当然いいものなんだろうな」
「………そうですね、いいと思いますよ」
「今の間は何だ」
クエルプランの奇妙な間を指摘するが、クエルプランはそのまま消えていく。
「残り一つか。一つなら割と早く見つかりそうだな」
「そうだな。それに神が渡すアイテムにも興味がある」
スラルも少し楽しみそうな顔をしている。
恐らくは外れは無いだろう。
「………」
ランス達が話し合っているのを見て、ハウゼルは少し茫然としていた。
「ん? どうしたハウゼル」
そんなハウゼルを見てランスは声をかける。
「いえ…凄いレベルが高いなと思いまして。人間でもそこまでレベルが上がるんですね…」
ランスのレベルを聞きハウゼルは驚いている。
魔人ならばレベル100を超えているのは全く珍しくない。
しかし、それは限界レベルが高い事と、魔人にはとてつもない長い時間があるからだ。
それに才能限界は魔人にも存在する。
人間でレベルが89となれば、驚くべきレベルの高さだろう。
だが、そうでなければ魔人を倒す事など出来ないだろう。
「リディアももう少し仕上げねばならんな。せめて30は欲しいな」
「そうね。でもそのためにはランスが一緒に行けば良いと思うけど。もしかしたらまたレアアイテムを見つけるかも」
レンの言葉にランスは考える。
今回リディアのレベルが急速に上がったのは勿論幸福きゃんきゃんを倒したからだ。
ただ、幸福きゃんきゃんは会おうと思って会える存在ではない。
「うーむ…そっちに回るのも有りか。ハウゼル、お前はどうしたい」
「え? 私ですか?」
ランスに話を振られた事にハウゼルを目を丸くする。
まさか自分に話が向かってくるとは思っていなかった。
「ダンジョンに行くのも面白いと思うがな。どうせ暇だろ」
「まあ…暇というほど暇でも無いですけど…でも、確かに興味が出て来ました」
「なら決まりだな。今度はもっと遠くのダンジョンに行ってみるか」
こうしてランスは次のダンジョン攻略という名のデートへと意欲を見せるのであった。
確かにLP期のような娯楽は無いが、ランスにとってはダンジョン攻略が何よりの楽しみなのだから。
天界―――
「ふむ…これで二つですか。私の予想以上に速い展開ですね…」
クエルプランは手元にある虹色のニンジンを見て嘆息する。
ランスとは確かに三つの聖なるアイテムを集めるように言ったが、これで二つ目だ。
それはクエルプランの予想よりも遥かに速いペースだった。
今の時代、探そうと思って探せるものでは無いアイテムだが、それでも見つけてくる辺りがあの人間の強さなのだろう。
「でもそれ以上に…これはALICEに渡しませんと」
「何よクエルプラン。珍しく話があるだなんて」
クエルプランの部屋に自分と同格の一級神が入ってくる。
本来は会いたくない存在だが、それでも用件があるならば話は別だ。
「いえ、あなたが常々人間にやらせていたバランスブレイカーの回収…思わぬ所で私の手元に来ました。あなたの管理下に置くのが妥当でしょう」
「バランスブレイカー? ああ…それか」
ALICEはクエルプランから渡された虹色のニンジンを見てつまらなそうにする。
「ログボニンジン…1ヶ月に一度決まったGOLDが手に入るアイテムなんだけど…今の時代だと何の価値も無いアイテムなのよね」
「そうですか。ですが一応渡します。それをどうしようがあなたの勝手ですので」
クエルプランはそう言うと自分の作業に入る。
何しろGL期は生命体が直ぐに生まれ、そして直ぐに消耗される時代だ。
人間よりも魔物の方が作業が甚大だが、最近は最早流れ作業になってしまっている。
幸いにもALICEが邪魔しに来ることも無いので、クエルプランの本来の仕事は順調そのものだ。
「相変わらずつれないわね…それにしても、人間に試練を出すなんて…あなたも酔狂な事をするのね」
「それもレベル神としての仕事の一つと聞きました。必要ならするだけです」
「それはいいんだけど、例の人間に出した試練の褒美は大丈夫なの?」
「ええ、それならば問題ありません。レベル神ならば人間のレベルをある程度自由に上げると聞いています。ですのでそのレベルを上げればいいだけです」
クエルプランの言葉にALICEは少し慌てる。
「ちょっと待ちなさいよ。確かにそういう事もあるだろうけど、流石に直接レベルを上げるのは駄目よ。これは人類管理局として言わせて貰うわ」
ALICEの言葉にクエルプランは少し驚く。
人類に対して底知れない悪意を持っている彼女の言葉とは思えなかったからだ。
もっと言えば、ALICEは人類全体に悪意を持っているのであり、個人に対しては全く興味を持っていないはずだ。
何しろ人間の生は長くても100年、時間が経てば目障りな人間だろうと死んでくれるのだ。
「珍しいですね。あなたがそう言うなんて」
「そっちが担当している人間は創造神様のお気に入り…私も干渉はしたくない。あなたのレベル神としての介入は私達が合同で決めた事だからいいんだけどね」
ALICEは忌々しそうに言う。
実際、ALICE個人から言わせて貰えばランスの存在は非常に邪魔だ。
邪魔なのだが、上から止められているのであればALICEも何も言う事が出来ない。
神もまた完全なピラミッド型の階級、上の命令は絶対だ。
「それに関しては別のアイテムを用意するわ。それを渡しなさい」
ALICEの言葉にクエルプランの目が細くなる。
「そう言って実際には違うものを渡すつもりでは無いでしょうね」
「そんな事はしないわよ。全く…あなたが贔屓をするからこういう事になる。少しは大人しくしなさいな」
「私としてはそんな気は無いのですが…それに、システム神からレベル神の心得を聞いていますので、これくらいは問題は無いかと」
「とにかく、渡すアイテムはこっちが用意する。向こうが用意したアイテムに相応しい物を渡す。それは約束するわ」
「あなたの約束程胡散臭いものは無いですが…信じましょう。それにこれは他の一級神の意向でも有りますから」
「分かってる。全く…少しは加減しなさいな」
ALICEは面白く無さそうにクエルプランの部屋から消える。
「やりすぎ…ですか。少し自重する事にしましょう」
人類管理局ALICEがそう言うのなら、自分もまた干渉し過ぎなのだろう。
これからはランスの言葉でも安請け合いは止めようとクエルプランは決心する。
するが―――
「はぁ…」
クエルプランは下界の様子を見てため息をつく。
彼女の目に入るのはランスという一人の人間だ。
「後1レベル…そして次は100レベルですか」
レベル90とレベル100の時に褒美を渡すと自分から宣言した。
それを撤回する気はクエルプランには全く無い。
それにシステム神もそれくらいで構わないと言っていた。
「次は…この衣装ですか」
別に人間に対して肌を晒す事に躊躇いは無い。
それこそ神の立場からすれば、たかだが人間でしか無いのだ。
「………」
だが、クエルプランは自分の頬が紅潮してくるのを自覚する。
「私はどうしてしまったのでしょうか。このエラーを消す事が出来ません」
これまでのランスに関する記憶は頑丈にロックされており、クエルプラン自身にも消す事は出来ない。
「レベル100になった時は…」
自分はどうなるのだろうと思いつつも、それを楽しみにしている自分が居るのが分かる。
「まずは目の前の仕事を片付けましょう」
クエルプランは大量に出てくる仕事を前にして、意識を完璧に切り替えて本来の職務に没頭していた。
ALICEの間―――
女神ALICEの間で、ALICEは非常に不機嫌な顔をしていた。
「忌々しいわね…でも手出しは厳禁、それを破る訳にはいかない」
何しろ創造神の興味の対象だ。
もし何かあれば、それこそ世界、そして神のリセットが起きてもおかしくは無い。
「レベル…経験値関係の事か。別に人間のレベルには興味は無いけど…けどこれ以上クエルプランが変な事を言わないならやるしかないか」
ALICEとしては非常に不本意だが、やるしかない。
「適当なアイテム…じゃあダメか。もしかしたらもっと大変な事になるかもしれない。だが仕方ない」
断腸の思いでALICEは配下のエンジェルナイトを呼ぶ。
「お呼びですか、ALICE様」
「人間が集めているアイテムで、経験値に関する道具を見繕いなさい。バランスブレイカーでも良いわ」
「はっ」
ALICEの言葉を機械的に聞いてエンジェルナイトは消えていく。
「はぁ…でも今の世界を創造神は気に入っている。それはそれで良い事か」
それでもALICEは不愉快な態度を消す事は無かった。
彼女もまた、ランスによって運命を捻じ曲げられた存在の一人だった。
ランスでデートって難しいわ…
何しろ性格が性格ですし、時代も時代なので…
ここは素直に一発やらせてた方が話は早いですけど、個人的にハウゼルが好きでどうしても長引いてしまう…