ランス再び   作:メケネコ

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過激なデート

 冒険者とはLP期においては非常にメジャーな存在だ。

 冒険者ギルドも存在し、そのネットワークはリーザス、自由都市、ゼス、ヘルマンと非常に広い。

 だが―――今はGL期、冒険など中々出来る事では無い。

 例外なのがエターナルヒーローだろう。

 彼等は見事に冒険を成功させ、魔人を倒しうる力を身に着けたのだ。

 しかし、もう一つの例外が存在している。

 それが冒険LV2という規格外の技能を持つランスという男だ。

「がはははは! とー-----っ!!」

 ランスの剣がモンスターを叩き斬る。

 レベル89かつ、剣戦闘LV3という凄まじいい技能。

 そして冒険LV2というまさに冒険をするための力。

「行きます!」

 巨鉄ちゃんやナマリダマ等の上級モンスターが炎にのまれる。

 魔人ハウゼルの力は圧倒的で、彼女が居るだけで全てのモンスターは焼き尽くされていた。

「流石に魔人が居ると楽ね。楽を通り越して作業感が有るけど」

 レンはスラルに教えて貰ったマッピングの魔法を使いながら呟く。

 やはり魔人の力は反則的で、彼女一人が居ればモンスターの脅威など無いも同然だった。

「私は楽で良いけどね。でも本当に強くなってきてるわね」

 レンがリディアを見る。

 これまで青い顔で戦っていた彼女だが、経験を積んできている事と、レベルの上昇によって戦力になってきている。

 強い魔力の素養はあったのだろう、初級魔法でも十分な威力を持っている。

 ただ、彼女の力はやはりカラーの根源たる呪いにあるだけだ。

「だ、大丈夫です。流石に慣れてきましたし、体力もついてきました」

 リディアは魔法でランスを援護しながら返事をする。

「いやー、最初の頃と比べれば本当にリディアは強くなったよねー。お姉さんは嬉しいよ」

 ウトスカはリディアに抱き着きその頭を撫でる。

「もう…ウトスカさん。きちんと仕事して下さいよ」

「勿論だよー。宝箱の開封や罠の解除は私の仕事だしねー」

 モンスターが全滅した事で、ウトスカが自分の仕事に戻る。

 索敵や罠の解除、それこそがスカウトの基本的な仕事なのだ。

「大丈夫ですか? 皆さん」

 ハウゼルが心配そうに声をかける。

 心優しいハウゼルはこうして人間やカラーも心配する。

 本当に魔人なのか疑いたくなるくらいに優しいのがハウゼルなのだ。

「このくらいのモンスターなら不意打ちでもされん限りは怪我などせんだろ」

「そうかもしれませんけどね。油断は駄目ですよ。油断すればどうなるか分かりませんから」

「分かった分かった。お前は魔人のくせに細かい奴だな」

 ランスはそんなハウゼルのお尻に軽く触れる。

「きゃっ!」

 ハウゼルは顔を真っ赤にしてスカートを押さえる。

「もう…駄目ですよランスさん」

「がはははは! これもデートの一環だ! 色々トラブルがあるのはつきものだろうが」

「これはトラブルではありません、セクハラですよ。女の子にそんな事をしては駄目ですよ」

 ランスのセクハラをハウゼルはにこやかな顔でかわす。

 それを見てランスは内心で唸っていた。

(うーむ…中々いい空気に持って行けんな。デートと言ってはいるが、やってる事はダンジョン攻略だしな…)

 ダンジョンデートは中々面白い発想だと思ったが、実際にはそう上手くは行かない。

 勿論ランスはダンジョン攻略を楽しんではいるが、やはり目的はハウゼルとセックスする事なのだ。

 だが、無理矢理襲うのは論外で、そうした場合はランスは間違いなく返り討ちにあうだろう。

「ラーンスさん! ちょっと暗い顔をしてますねー」

 そんなランスを見てウトスカが背後から抱き着いてくる。

「ウトスカか。罠はどうした罠は」

「もう調べ終えましたよー。特に何も無し、平和でいいですねー」

 そこでウトスカは体を乗り上げると、ランスに耳打ちする。

「ハウゼルさんってお堅いように見えて、実は結構むっつりな所あると思いますよ」

「なに?」

 ウトスカの言葉にランスは食いつく。

「ほら、ランスさんが貸してた本ありましたよね。ランスさんアレを最後まで読みましたか?」

「…いや、最後までは読んどらんな。加奈代がこれでいいと言ってたからな」

「やっぱり…実はあの本、最後の方は結構過激になるんですよ。もうそれこそ男と女の絡み合いが満載で」

「何だと!?」

 ランスは驚く。

 面倒くさくなって最後まで読まなかったが、まさかそんな展開が待ってるとは思ってもいなかった。

 もしかして見たかもしれないが、何しろそんな本なんて見なくてもランスには思う存分抱ける女性が側に居るので、頭から抜け落ちていたのかもしれない。

 流石のランスも、魔人を倒すという事で頭がいっぱいだった。

「実はですね…ハウゼルさんが使っている部屋から、ちょっとエッチな声が聞こえてきたりしてるんですよ。アレは間違いなく慣れてない女の声ですね。処女の私だから分かります」

「威張って言う事か。というかお前そんな事をしてたのか」

「ほら、カラーって今は自由に人間とエッチ出来ないじゃないですか。それも私達のご先祖様のせいなんですけど…まあそれは兎も角、カラーは結構耳年増な所も有るんですよ」

「そんなもんか」

 ランスは自分がエッチをした事のあるカラーを思い出す。

 イージスは武人肌で、記憶を失った所をランスが恋人だと偽りエッチをした。

 パステルは…無理矢理襲った結果、ランスは人生最大のピンチを迎える事になった。

 それ以来ランスはカラーを襲うという行為は絶対にしないと決めていた。

 ケッセルリンクは一度エッチをしたら結構積極的だった。

 ただ、それはケッセルリンクが居た時代にはカラー狩りが行われなかったからだろう。

「処女は同じ処女の気持ちが分かるんですよ。私はランスさんがスラルさんやレンさんや日光さんとエッチしてるのを見て、密かに一人エッチをしていたから分かります」

「貴様、覗いていたのか。というか俺様も気づかなかったぞ」

 明かされる衝撃の事実に流石のランスも困惑する。

「だからね、実はハウゼルさんはそういう事に興味があるんですよ。ちなみに本の内容はこんな内容です」

 ウトスカがランスに耳打ちする。

 その内容を聞き、ランスの顔がニヤリとした笑みを浮かべる。

「ほー。そうか。だったら何とかなりそうだな。いや、何とかする」

「わー、ランスさんかっこいい。それでこそですよ! で、私とかはどうです?」

 ウトスカはランスから離れると、真正面に回り込んでランスを見る。

 それを見てランスは微妙な顔をする。

「うーむ…もう少し育っていればいいのかもしれんがな…というかお前成長が遅いな」

「いやー、正直私はもうこれ以上の成長は諦めてます。これが私の最終形態なんですよ。でもこの体も私のステータスなんですよ! という訳でバッチ来いです」

「アホ。お前に手を出すとハンティがうるさいからダメだ。俺様はカラーとは争うつもりは無いからな」

 ランスはウトスカの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。

 そんなランスを見てウトスカは楽しそうに笑う。

「ランスさんってカラーに対して本当に律儀ですよね。あ、でもリディアの事はきちんとエッチしてあげて下さいよ」

「だからハンティが止めてるだろうが」

 ランスも流石にハンティを敵に回してまでカラーとエッチをする気は無い。

 何しろハンティはこの先…そう、遠い未来でヘルマン革命の時まで付き合うからだ。

 それにハンティの強さは折り紙付きで、流石にハンティに命を狙われるのはランスとしては御免だ。

「リディアは良いと思いますけどねー。それにリディアが本当に魔人を倒したいなら…絶対に人間とエッチしますし、ランスさん以外の人間は嫌でしょうから」

「何の話だ。まあリディアが俺様に惚れとるのは分かっているがな」

「そりゃ惚れるでしょ。だってランスさんは危険を顧みずに魔人の城から自分を救ってくれた恩人ですし。まあ何れ分かりますって。やっぱりランスさんって英雄だなー」

 ウトスカはクスクスと笑いながらリディアの所へと向かって行く。

「変な奴だな…まあいい。そんな事よりもハウゼルだ」

 ランスはリディア達と話しているハウゼルを見る。

 やはり非常にいい女で、スタイルもいい。

 女として十分魅力的であり、ランスとしてはバスワルドの力は無しにしても近づきたい存在だ。

(ウトスカが言っていたな…取り敢えず色々とやってみるか)

 ランスは色々と考えながら進んで行く。

 モンスターはレッドハニーやスカイ目玉、まじしゃんやとっこーちゃんといった中々強いモンスターは出るが、そんなものはものともせずに進んで行く。

「はいここで終わり。マップが埋まったわよ」

 レンは魔法のマップを見ながら呟く。

「本当に正しいんだろうな、その魔法は」

「間違い無いわよ。ここでマップが埋まっている」

 ランスはレンの魔法のマップを覗いてみる。

 確かに、魔法のマップは間違いなく図面が埋まっていた。

「ボスモンスターが居ないダンジョンも有るとは思いますけど…宝箱も無いですよね」

 リディアが残念そうに呟く。

 このダンジョンはモンスターばかりで、宝箱が何も存在しなかった。

 これは完全に外れダンジョンであり、ランスとしても非常に残念だった。

「チッ! しけたダンジョンだな。宝箱の一つも無いとは」

 ランスは苛立ち気にダンジョンの壁を蹴る。

「そんなに怒ったって良い事無いですよー。外れのダンジョンだってあるでしょう」

 ウトスカの言葉にランスが返そうとした時―――

 

 ゴゴゴゴゴ…

 

「な、何だ?」

 突如として地響きが起こる。

 するとランスの足元が崩れ、ランスが暗闇にのまれていく。

「のわーーーーーー!?」

「ランスさん!」

 穴に落ちていくランスを追ってハウゼルが穴に飛び込む。

「ランスさん! ハウゼルさん!」

 リディアがランスの後を追おうとするが、

「待ちなさい! こっちも来るわよ」

 レンがリディアを止める。

 その言葉に合わせるように、モンスターが現れる。

 こんにちはやこんばんわだけなら問題は無いのだが、その中に問題の有るモンスターが居る。

 それは突如として空間から出てきた不気味な魔物。

「アレは…」

 ウトスカがその魔物を見て震えた声を出す。

 リディアもその魔物を見ると震えが止まらなくなる。

 それほどに圧倒的な気配を持つモンスターが無数に居た。

 ジャバラやくずの悪魔が何時の間にか現れていた。

「悪魔か」

「悪魔!?」

 レンの声にリディアが驚きの声を上げる。

 まさかこんなダンジョンに悪魔が居るなど想像もしていなかったのだろう。

 そしてその悪魔の中から、巨大な鎌と赤いマントを羽織った大きな存在が現れる。

 それはベベターのはずだが、それは2メートルを超える巨大なベベターだった。

 だが、そんな存在が現れてもレンは全く動じない。

 それどころか普段は見せない酷薄な笑みを浮かべる。

「私も久々に本来の仕事をするとしますか。悪魔は消えなさい」

 

 

 

「うぐ…ぐ…」

「大丈夫ですか! ランスさん!」

 ランスは目を覚ますと、そこには焦った様子のハウゼルがランスを覗き込んでいた。

「いちち…俺様は落ちたのか?」

「はい。どうやら落とし穴になっていたようで…」

 ハウゼルが魔法の明かりを灯してくれており、その視界はゼロでは無いが、それでも暗さを感じさせる。

「…俺様はどれくらい落ちたんだ」

 ランスは上を見るが、ランスが落ちた穴はランスの視界からは見えなかった。

 つまりはそれほど高い所から落ちたという事だ。

 だが、そんな高さから落ちれば流石のランスでも死んでいたはずだ。

「結構な高さでしたけど…ランスさんが地面に激突する寸前に私が何とか抱えたのですが、衝撃までは完全に吸収できなくて、無敵結界の反動でランスさんが気絶したんです」

「…う、うむ。そうか」

 ハウゼルの言葉を聞いてランスは肝を冷やす。

 つまりはハウゼルが居なかったらランスは本気で危なかったという事だ。

「それよりもここから出られそうなのか。ハウゼルは飛べるだろう」

「それなんですけど…何故か飛べないです。だから無敵結界を利用してランスさんを地面の激突から防ぐしか無かったんです」

「何だと」

 ランスは周囲を見渡すが、その広い空間には誰も存在しない。

 それなのに、ハウゼルは空を飛べないと言う。

 その時、ランスは奇妙な気配を感じる。

 それは戦士としてのランスの嗅覚で有り、それは間違いなくランスに警戒心を抱かせた。

「ランスさん?」

「構えろ。何か居るぞ」

 ランスの忠告を受け、ハウゼルもタワーファイヤーを構える。

 だが、その周囲には何も居ない。

 それなのに、ランスは奇妙な気配を敏感に感じ取っていた。

 そして地響きと共に、その気配が濃くなっていく。

「下か!」

 ランスがそう言った時、ランス達の周囲から無数の紫や黒の触手がランスに襲い掛かる。

 ランスはその触手を斬り、ハウゼルは魔法で触手を燃やす。

 そして二人は急いでその場から離れる。

 すると二人が立っていた所に巨大な口が現れ、その口が閉じられる。

 そのまま立っていたら、二人はその魔物に飲み込まれていただろう。

「これは…」

 ハウゼルは醜悪なモンスターを見て顔を顰める。

 無数の目玉と口を備え、その体からは無数の触手が蠢ている。

「カースAか」

 ランスは昔この不気味なモンスターと戦った事があった。

 結構強かったが、それでもランス達はこのモンスターを倒した。

「モンスターならば私が戦います。ランスさんは自分の身を守ってください」

 ハウゼルはそのままタワーファイヤーを構え、その砲口から炎が放たれる。

「ぐげげげげげ!」

 カースAは不気味な悲鳴を上げるが、その触手がハウゼルへと向かって行った。

 ハウゼルはその触手を避ける事も無くタワーファイヤーを構え―――

「避けろ!」

 発射しようとした時にランスの怒鳴り声が響く。

 ハウゼルの動きが一瞬遅れ―――そしてカースAの触手がハウゼルの手からタワーファイヤーを弾き飛ばした。

「え?」

 モンスターの攻撃は魔人の無敵結界の前には無力だ。

 その無敵結界が発動しなかった事にハウゼルは一瞬我を忘れ、その隙を突かれる事となる。

「きゃあ!」

 カースAの触手がハウゼルの体を締め付け、その服をビリビリに破く。

 そしてカースAの触手はハウゼルを捕らえたまま、その本体の所へと戻り、ハウゼルを飲み込むべくその口を大きく開ける。

(食べられる!?)

 ハウゼルの背筋が寒くなった時、

「ラーンスアターーーーーック!!!」

 ランスの必殺の一撃がカースAを吹き飛ばした。

 その衝撃でハウゼルを掴んでいた触手が緩み、ハウゼルはその触手から解放される。

「ぼーっとするな!」

「あ…ご、ごめんなさい! でも何で無敵結界が…!?」

 ハウゼルは無敵結界が作動しなかった事に驚きパニックとなる。

 自分で解除もしていない、誰かに何かをされた訳でも無い。

 それなのに目の前のモンスターは確かにハウゼルの体を捕らえていた。

「こいつ…悪魔だな」

「悪魔?」

「悪魔の攻撃には無敵結界は発動しないんだと。それよりもとっとと得物を拾え!」

 ランスは襲ってくるカースAの触手をその剣で斬り飛ばす。

 この程度の触手攻撃など、ククルククルの攻撃に比べればどうという事は無い。

 ハウゼルは慌てて触手に弾き飛ばされたタワーファイヤーを拾う。

 服が破れ、その肌が露になっているがハウゼルはそれ以上に戦士だった。

「ランスさん、どうすればいいですか」

「こいつは滅茶苦茶再生する奴だったな。まあ再生が追い付かないくらいに奴をぶっ殺せばいいだけだ! 行くぞ!」

 ランスは黒い剣―――スラルが名付けた魔剣ハデスを構えて突っ込む。

 カースAは無数の触手でランスを襲うが、ランスは襲ってくる触手を全て目にもとまらぬ速さで斬り飛ばす。

(凄い…!)

 ハウゼルは改めてランスの剣を見て感嘆する。

 まさに人を超えた剣技…それは無骨で有りながらも洗練された迷いの無い剣だった。

「行きます」

 ハウゼルもタワーファイヤーを構えてランスの援護に入る。

 空を飛べないので、ハウゼルの得意とする空中からの攻撃は出来ない。

 だが、それでもハウゼルの魔力と炎の威力は変わらない。

「ファイヤーレーザー!」

 ハウゼルの放った魔法がカースAに突き刺さる。

「グオオオオオオオ!」

 カースAは悲鳴を上げるが、ハウゼルの魔法が直撃し、焼け爛れたはずの部分から新しい肉が盛り上がる。

 そしてその部分は完全に再生してしまう。

「ランスさんの言う通り凄い再生力…でも、これほどの巨体なら私の攻撃は当たりやすい」

 ハウゼルは魔法では無くタワーファイヤーによる攻撃に切り替える。

 これならば広範囲に渡って相手を焼き尽くす事が出来る。

「ランスさん! タワーファイヤーを撃ちます!」

「タワーファーヤーってあの炎か!?」

「そうです! 離れて下さい!」

 ハウゼルの言葉にランスはカースAの触手を斬り飛ばすと、カースAから距離を取る。

「焼き付くします」

 そう言ってタワーファイヤーの引き金に手を触れた時、突如として地面から触手が襲い掛かってくる。

 その触手はハウゼルの手に絡みつき、タワーファイヤーが不発に終わる。

 そして触手は手だけでなく、その首にも絡みついてくる。

 こちらを絞め殺そうとするのを感じ、ハウゼルは魔人のパワーで触手を振りほどこうとする。

 だが、一瞬遅くカースAの触手がハウゼルの首を絞めようとした時、

「俺様の女に手をだすんじゃねえ!」

 ランスの剣がハウゼルの手に絡みついている触手を断ち切る。

 その勢いのまま首を絞めていた触手も斬り飛ばし、ランスはハウゼルを抱えてその場から離れる。

「油断するな。お前達魔人は無敵結界ばっかりに頼ってるから防御がおざなりになるんだ」

「あ…も、申し訳ありません…」

 ハウゼルは驚いた顔でランスを見る。

 ランスの目はどこまでも真剣にカースAを睨んでいる。

(あ…こ、これって…)

 そんなランスを見て、ハウゼルの胸が高鳴ってしまう。

 それはハウゼルが読んでいた小説の中にあったのと同じ展開だった。

 魔物に捕らわれた少女が絶体絶命のピンチになった時、騎士の男が颯爽と助けてくれるのだ。

(で、でも私は魔人なのに人間に助けて貰うなんて…)

 本の内容は非常に楽しめた…が、ハウゼルにとってはそれは自分にはあり得ぬ光景だと思っていた。

 思っていたのに―――その光景が今正に目の前で自分の身に起こっていた。

「来るぞ! 今度は外すなよ!」

 再び襲い掛かってくるカースAの触手に対し、ランスが剣を構える。

「大丈夫です」

 ハウゼルはタワーファイヤーを構える。

 カースAは自分を狙っているのは明らかだ。

(私がエンジェルナイトの魔人だから…? 悪魔の力を有したモンスターが私に敵意を向けているという事か)

 ランスへの攻撃はあくまでもおまけなのだろう。

 だからこそ、執拗に自分を狙っている。

 だが、それが分かればハウゼルにとっては好都合だった。

「ランスさん! 私が囮になります! あの敵に攻撃をして下さい!」

「何!?」

 ハウゼルの言葉にランスは驚くが、彼女の言葉を信じた。

 そもそもランスよりも彼女の方が強いので、ランスとしてもそれはある意味好都合だった。

 ハウゼルに対して触手が向かってくる一方で、ランスに向かってくる触手の数が圧倒的に減る。

「俺様を無視するとはいい度胸だ! だったらそのまま死ねーーーーー!!!」

 ランスは怒りを込めてカースAに剣を突きさす。

 おぞましい悲鳴と共に、カースAの無数の目がランスを睨む。

 勿論ランスはそんな物に怯みもしない。

 そしてハウゼルの時と同じように、地中から触手がランス目掛けて襲い掛かる。

「フン! 俺様にそんなものは通用せんわ!」

 ランスは素早くその場から避けると、無数の触手を一太刀で両断する。

 今のランスには相手がどんな方向から攻撃してくるのか、それがどんな速度なのかが見え見えだ。

 目の前の敵に集中したランスには、異形のモンスターであろうとその動きが手に取るように分かる。

 怒りの声を上げるカースAだが、その怒りはランスにとっては全くの無意味だ。

「いい加減に死ね! ランスアターーーーック!!!」

 そしてランスの必殺の一撃がカースAに完全に突き刺さる。

 触手による防御も出来ずに、巨大なカースAの体が両断されると錯覚するくらいに引きちぎられる。

「ランスさん! どいて!」

 そしてハウゼルの声と共に、ランスはカースAの射線上から離れる。

 するとカースAを飲み込む程の炎がハウゼルから放たれ、完全にその姿を飲み込む。

「グゲゲゲゲゲゲゲゲ!」

 恐ろしい悲鳴と共に、カースAの体が悶える。

 だが、その悶えも徐々に小さくなり、内側から焼かれたカースAは動かなくなる。

「フン、雑魚が」

 ハウゼルの無敵結界が発動せずに少し驚いたが、こうして落ち着いて戦えばただのモンスターに過ぎない。

 ランスは剣を仕舞おうとした時、カースAの口が大きく開いた。

 そしてその口の中から、仮面を被った4本の手を持つ異形の悪魔が現れる。

「何!?」

「これは…悪魔!?」

 カースAの口から現れたのは、悪魔カースだ。

 その仮面はただの赤では無く、真紅に染まっており、ただのカースで無い事を思わせる。

 カースは怒りに満ちた目で仮面の奥からランスを睨みつける。

 4本の手からは凄まじいまでの魔力が練られており、ランスもそれには肝を冷やす。

「げ!」

「ト・ニ・ミ・イ!!」

 悪魔が怒りの方向を上げると、その手からは強烈な魔法が放たれる。

 それこそがLV3の技能しか使えぬ炎系魔法の最強魔法、火炎流石弾。

 その炎がランスに襲い掛かった。

「ランスさん!」

 ハウゼルもその炎に巻き込まれるが、ハウゼルは体質的に炎の攻撃が通用しない。

 だが、人間のランスがLV3魔法…それも悪魔が使う魔法に耐えられるとは思えなかった。

 が―――そのハウゼルは確かに見た。

 ランスの持つ剣の宝玉が輝き、そこから一人の女性の姿が浮かび上がったのを。

 水色の髪をしたその美しい女は…間違い無くハウゼルが良く知る魔王ジルその人だった。

 ジルは小さいながらも魔法の結界でランスを悪魔の魔法から守る。

 そして炎が収まった時、そこには傷を負いながらも立っているランスが居た。

 そのランスを見てカースが仮面の奥で驚愕したようなきがする。

「よくもやりやがった! いい加減に死ねーーーーッ!」

 ランスは怒りのままカースを真っ二つにする。

 カースは断末魔の悲鳴すら上げる事も出来ずに崩れ去った。

 同時にハウゼルの魔法の灯しか無かった一室に光が灯り、その全容が明らかになる。

「うげ…なんつー所だ」

 そこには辺りに白骨死体が散らばっていた。

「ここは…悪魔の住処だったのでしょうね。ここに宝を求めた冒険者達が命を落とした場所なのでしょう」

「こんな所でか」

「多分ですけど、ジル様の前の魔王の時から作られていたダンジョンだったのだと思います。魔王が代替わりした事に気づかずに今でもここで人間を狙ってたのでしょう」

「とんだボケ悪魔だな。まあそんな奴ももう終わりだ」

 ランスは鼻を鳴らして剣をしまう。

 そしてハウゼルを見て、満面の笑みを浮かべる。

「おお! 服の上から分かっていたが、やっぱり君はスタイルがいいな」

「え…? あ、きゃあ!」

 ランスから指摘され、ハウゼルは慌てて体を隠す。

 そういえばカースAの触手に自分の服をボロボロにされていたのを思い出したのだ。

「ほれ」

 ランスはそのまま自分のマントをハウゼルにかける。

(こういう事だとウトスカが言ってたな)

 ウトスカから助言された事の一つに、服が破れたら男がそれを隠してやるのが良いと言われていた。

 ランスは幸いにもその機会をあっさりと得る事が出来たのだ。

「あ、ありがとうございます」

 ハウゼルは顔を赤らめてランスのマントで体を覆う。

 ランスとしてはもっと見ていたかったが、こんな陰気臭い所にこれ以上居るのは御免だ。

「それよりももう空は飛べるのか」

「あ…そうですね。悪魔が倒されたなら、私も飛べると思います」

 ハウゼルが翼を羽ばたかせようとした時、

「ランス! 生きてる!?」

「この声はレンか。おう! 俺様もハウゼルも生きてるぞ!」

 レンの声が聞こえ、ランスも大きな声で返事をする。

「そう! こっちも終わったわ! 上がって来なさい!」

「だとよ。じゃあ頼むぞハウゼル」

「え…あ、はい。そうですね。じゃあ私の背中に」

 ハウゼルはランスを背負うとそのまま上の穴へと飛んでいく。

 空を飛ぶ感覚にランスは驚くが、それ以上に密着しているハウゼルの体の柔らかさを堪能していた。

(うーむ、やっぱりいい体だな。こうしてみるとやっぱりサイゼルとは双子だという事だな)

 ランスはそのまま躊躇う事無くハウゼルの胸を揉む。

「きゃああああ!」

「どわあああああ!」

「あああ! ランスさんごめんなさい!」

 驚いたハウゼルに振り下ろされ、地面に激突する寸前で何とかハウゼルに拾われるランスであった。




今回のボスのカースAはランス03と10に出てきた敵です
ややこしいですが、悪魔のカースはランス5Dに出てる敵です
ゲームシステム上鬼畜アタックに耐え、火炎流石弾を撃ち込んでくる強敵です
当時は男の子モンスターだと思ってましたが、悪魔という分類になったのでこの役割に
まあこれが魔物スーツを着ても大幅弱体化だよなぁ…
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