「で、何故俺様はこんな所にいるんだ」
「…私に聞かれても」
そこはまさに世界の頂上へと至る道。
無数の強力な魔物、かつてはこの世界の頂点であり、メインプレイヤー達が住まう山。
翔竜山、そう呼ばれる山へとランスとレダは登っていた。
その道は昔ランスが登ったような生易しい道ではなく、さらに過酷な道成りだった。
後世にてある程度整備された道は無く、そくにあるのは獣道のみという有様。
「逃げようにも逃げられんな…」
「まあそうよね」
ランス達の頭上には、魔人カミーラがランス達を見下ろしていた。
その目はランス達を見ているのかは分からないが、流石に上空に魔人がいては逃げるのは難しいとランスは思った。
さらに言えば何処へ逃げればいいのかもわからない為、せっかく外へと来たのに逃げれない状況に苛立ちを隠せなかった。
「レダ、まだ翼は出せんのか」
「うーん…まだ無理ね。エンジェルナイトとしての力が出せないから…防御技能と神魔法は問題無いんだけど」
レダはここに来てから、未だにエンジェルナイトとしての力を取り戻せてはいない。
本来であれば空を飛ぶ事など簡単なのだが、その力を出せないのは本人としてももどかしかった。
そのせいで魔人の無敵結界に攻撃を阻まれるという現実がある。
もっとも一人では流石に魔人を倒す事は出来ないが。
「しかしカミーラ…どういうつもりだ」
ランスはここに来る前の事を思い出す。
「ランス…貴様、暇のようだな」
「なんだいきなり」
カミーラが部屋を訪ねるなりいきなり言い放つ。
相変わらずカミーラからは真意を伺う事は出来ないが、その顔にはランスが知っている嫌悪、諦めは見えない。
ランスも既にこのカミーラは、自分の知っているカミーラとは違うと理解していた。
「ならば…私と来い。退屈凌ぎをさせてやろう…そこの女も来る事を許そう」
「何だと?」
「…一体どういうつもりよ」
ランスとレダはカミーラの言葉に警戒する。
ここは魔王の城であり、魔人とはいえカミーラがランス達を外に出すとは考えられなかった。
(罠か?)
以前ランスはカミーラに命を狙われており、罠である事を警戒する。
(…いや、違うか。こいつはそういった面倒くさい事をしそうにないしな)
「…まあいいだろう。確かに暇だからな」
「いいの? ランス」
レダは今でも警戒しているが、ランスは問題無いという風に手を振る。
「こいつはそんなまどろっこしい事はせんだろ。殺すならとっくに殺してる」
その言葉にカミーラは笑みさえ浮かべる。
それは冷たい笑みではなく、ごく自然な笑みにランスには映った。
「では行くぞ」
ランスとレダはカミーラについて歩く。
ランス達は初めて外に出れたが、そこは魔王の城だけあり、やはり非常に警戒は厳しい。
そこらに魔物隊長が歩き周り、中にはランスも知る魔物、バルキリー等の姿も見える。
その魔物達がランス達を見て何も驚いたりしない所を見ると、カミーラがランス達を連れ出すのは既に知られているのだろうとレダは察する。
(ランスは気楽すぎるのよね。シィル達が苦労しているのが分かるわ…私がしっかりしないとね)
レダは外に出るまでの道筋を全て記憶するように見渡す。
エンジェルナイトの自分の記憶力ならば、外までの道筋を覚えるなど容易い。
(…でも流石に脱出は難しいか。ただの魔物なら私とランスなら切り抜けられる…でも魔人が相手だとそれは難しい)
現在はガルティアとケッセルリンクがランス達を警護しているが、実際には見張りも兼ねているのは分かっている。
最近はカミーラも来るようになった事から、ガルティアが来る頻度は減ってはいるが…その意図はレダには分からない。
「乗れ」
「おっ、うし車だ」
そこにあるのはランスも持っているうし車だった。
何処につれていかれるかは分からないが、移動手段があるのは有難かった。
「カミーラ様」
うし車からの側で待機していた七星がカミーラの前に跪く。
カミーラは優雅にうし車に乗ると、ランス達もそれに続く。
流石に魔人用に作られただけあり、その中はランスが知っているうし車よりもずっと広い。
「行け」
「はっ」
うし車の操縦者であるうし使いが一声すると、うし達は走り始める。
その中でランスは奇妙な違和感を感じていた。
(そういや何で使徒がこいつだけしかいないんだ)
ランスはこの状況になり、ようやく七星の事を思い出していた。
この使徒もかつてランスが倒したはずなのだが、現にこうしてランス達を見張っている。
そして何よりのランスの違和感は、ランスにとっても許しがたい男であるアベルトがいない事だった。
(でもあいつは何時の間にか魔人になっとったな…それにこの状況で一度も顔を見せないのはおかしいぞ)
ランスには嬉しくない事だが、アベルトはランスには興味深々あり、最後はランスの女達を使徒にと誘っていたほどだ。
「おいカミーラ」
「…何だ」
「お前の使徒はこいつだけなのか」
「そうだ」
カミーラは短くもランスの問いに答える。
が、それがランスを逆に混乱させる。
(…アベルトの奴がいないだと? どういう事だ?)
「…貴様は何か知っているのか」
「いや…別に」
カミーラの探るような言葉にランスは言葉を濁す。
ランスもカミーラの気質を知っているため、迂闊な言葉は控える。
実際にはランスもこの状況を理解できないため、言葉にしても仕方が無かった。
それ以上の言葉は発せず、ランスはそのまま眠りについた。
以上が翔竜山に来るまでに起った顛末だった。
カミーラの意図は不明だが、久々の冒険にランスのテンションは上がっていた。
「がはははは!」
魔物を蹴散らし、時には宝箱を開けて一喜一憂したりとランスは非常に満足していた。
「テンション高いわねー。いい事だけど」
レダも久々のランスの心からの馬鹿笑いに苦笑を浮かべている。
(あ、レベル上がった)
今の状況はレダとしても有難かった。
難しい事を考えなくてもすむし、何より下がった自分のレベルを上げるにはもってこいだ。
それにやはり体を動かすのはやはり自分の性に合っていると思った。
「相変わらずランスのレベルは上がらないのよね」
「嫌な事を思い出させるな。あれから幸福ポックルも見つからんし…JAPANの時は結構簡単に見つかったんだがな」
ランスは未だにレベル神も呼び出せないため、今現在はどれほど自分のレベルが変化したのか分からない状態だ。
魔人を撃退したり、廃棄迷宮での冒険でも大分経験値を稼いだはずだが、最後にレベル屋で見てもらった時も結局は変化なしだった。
レベルが下がらないのはともかく、やはり上がらないのはランスとしても辛いものがある。
ランスの特徴の一つに上がりやすいレベルがある。
だからこそその強さを実感しやすいのだが、今はそれが感じられないために焦燥感を感じていた。
「経験値パンを食べてもあんまり効果無さそうだしね」
「どうなっとるんだ全く…」
最初は気楽に考えていても、やはり現実は非常だ。
だがそれでも技能レベルはランスを裏切らず、この辺のモンスターでもランスの相手にはならない。
ランス達は大して立ち止まる事もなく、順調に登っていた―――ここまでは。
「ムッ…」
そこでランスは空を見上げる。
照りつける太陽を一気に覆い隠す巨大な存在、ドラゴンがランスの頭上を飛んでいた。
そしてランス達の前に下りてくる。
そのドラゴンは緑色の鱗を持つ、グリーンドラゴンである。
「ランス。大丈夫なの?」
「問題無い。俺様がこんなトカゲに負けるわけが無いだろう」
グリーンドラゴンは鋭くランス達を一瞥すると、すぐに雄たけびを上げながらランスにその爪を振るう。
かつて魔王ククルククルやその配下の魔人達と戦ってきた存在、その一撃はまさに強力無比だが、
「甘い!」
レダは盾を用いてグリーンドラゴンの攻撃を弾く。
防御に優れるエンジェルナイトのレダの前では、ドラゴンの一撃でも防ぎ切れる程の力がある。
ランスはその隙にグリーンドラゴンの鱗を切裂く。
「グガァァァァ!」
まるで人間に傷つけられた事が信じられないように、グリーンドラゴンは声を上げる。
(やはりこの剣はいいな。やる気のない時のカオスよりも断然強いぞ)
本気であれば、カオスはあの魔人ノスの鱗すら切れるのだが、カオス本人のやる気次第の部分もある。
しかしこの剣はそのカオスをある意味超えている。
魔人の体を切り裂き、巨大なムシの体を切り裂き、そしてドラゴンの鱗をも切り裂く。
「何よりも煩くないのがいいな」
カオスはとにかく喧しいため、ランスもたまに辟易する事がある。
この剣は当然ながら喋らないため、ランスも純粋に剣として振るうことが出来る。
「受けて死ね! 俺様の華麗な剣捌き!」
ランスの剣がグリーンドラゴンの体を易々と傷つけ、追い詰める所をカミーラはじっと見ていた。
(ドラゴン相手にこうまで立ち回るか)
グリーンドラゴンは確かにドラゴンの中では弱いが、それでもただの人間が勝てるような相手ではない。
かつて魔王と戦い、そして倒したとされるドラゴンが、弱く愚かな人間によって倒されるなど考えてもいなかった。
無論、人間とて強い存在がいる事はガルティアが証明していたが、まさかこの期間にそんな存在を二人も見るとは思わなかった。
強いのはランスだけではなく、レダという名の人間も強い。
ドラゴンの攻撃を盾で防ぐだけでなく、時には剣で傷つける。
その防御力はまさに鉄壁であり、ドラゴンの攻撃はロクにランスに届いていない。
ドラゴンの一撃は確かに強力だが、その傷もレダの魔法で癒されいる。
(スラルが魔人として欲しがる訳だ)
未だにスラルは魔人をガルティアとケッセルリンクしか作っていないが、この二人を魔人にしようとするのは納得がいった。
だからこそあの二人、特にランスがスラルの魔人になる事は気に入らない。
元々カミーラは人間、それも美しい少女であるスラルが自分の上に立つ事が気に入らなかった。
自分を無理矢理魔人にしたアベルも気に入らなかったが、それ以上にスラルが気に入らない。
それもあって最初はランスを殺そうとも思ったが、会ってみて考えが変わった。
自分でも驚いているくらいだ。
(ランス…か。私に傷をつけただけでなく、あのような言葉を発するとはな)
返す返すも無礼な人間だが、何故かそれで殺す気にならなかったのは初めての事だ。
カミーラが薄く笑みを浮かべていると、目の前の戦いには変化が訪れる。
「がはははは! どうしたトカゲ!」
グリーンドラゴンの体は傷だらけであり、まさに満身創痍と言っても良かった。
対するランスとレダにはほとんど傷らしい傷は見当たらない。
グリーンドラゴンはブレスを吐くべく準備をするが、ランスとレダはそれを許さずに猛攻を加える。
「とどめだ! ラーンスアタターック!!」
ランスの必殺の一撃がグリーンドラゴンの急所を切り裂く。
グリーンドラゴンは断末魔の雄叫びを上げながら倒れ伏した。
カミーラはそれを見届け、地に足を下ろすと別の方向からランス達を見ていた七星が横に並ぶ。
「強いですね」
「このカミーラに手傷を負わせたのも納得出来たか?」
「はい」
七星はカミーラが気に入った理由の一つが理解できた。
この男は強い…それこそ、使徒である自分をも上回るかもしれないと感じていた。
下級のグリーンドラゴンとはいえ、相手はドラゴンでありその力は人間よりも遥かに上回る。
「スラル様が魔人として欲するのも理解できます」
魔王スラルが無闇に魔人を作らないのは、魔人を厳選しているからだろうと思っている。
だから未だに自らの意思で作った魔人が一人しかいない。
後は散らばった魔血魂から復活したり、又は新たな魔人として生まれるかでしか存在していない。
それらの魔人は全てがスラルに消されている訳ではないが、魔王はその血を初期化している事が多い。
「しかし如何致しますか。あの人間は魔人にも使徒にもなる気は無いようですが」
七星の言葉に意外にもカミーラは笑っている。
自分の意にそぐわぬ者をその圧倒的な力で排除して来た自分の主がだ。
「だからこそあの男にこのカミーラの力を見せ付ける…あの男が自らの意思で私の使徒へとなるようにな」
「カミーラ様…」
七星はこのドラゴンの住まう山に来るのは気が進まなかった、と言うよりも主が再びこの地に足を運ぶ等とは考えてもいなかった。
それだけカミーラはこの山を忌み嫌っている。
(あの男はそのカミーラ様の意思をも動かすというのですか…)
七星はランスの方向を見ると、ランス達は何か宝箱を見つけていたようだった。
「…いつ見ても面妖ですね」
何時の間にかモンスター…ドラゴンも含む存在が、倒されたときに宝箱を落とすようになった。
そしてこの世界に凄まじい力を持つアイテムも存在するようになった。
カミーラはそれらに興味は無い様だが、魔王スラルは興味があるらしく色々なアイテムをケイブリスやメガラスに回収させている。
中には危険なアイテムもあるようで、それらを魔王自らが処分しているようだ。
「おっ…なんだこれは」
「なんだろうね、これ」
ランス達が宝箱を開けたとき、そこに入っていたのは白色のドラゴンの像というべき物だった。
それを見たカミーラと七星の動きが一瞬止まる。
「…カミーラ様」
「…まさか、な」
カミーラの記憶に間違いが無ければ、今ランス達が手にしたアイテムは『ドラゴンの加護』と呼ばれる凄まじいアイテムだ。
ランスはその価値が分からないようだが、同じドラゴン族であるカミーラと七星にはそれが分かる。
「如何なさいますか?」
「…放っておけ。奴が手に入れたのであればそれはそれで構わぬ。むしろスラルの方が欲しがるだろう」
「ハッ…」
七星はその言葉だけで主が何を言いたいか理解した。
「ランス殿」
「何だ」
「そのアイテムは非常に貴重な物です。ですのであなたがお持ちになられた方がよろしいかと…」
「言われんでも俺が見つけたなら俺の物だ」
今は存在しないが、ランスは自分の城にこれまでの冒険で手に入れた貴重なアイテムを収集している。
だからランスにもこのアイテムが高価な物であるとは理解していた。
「がはははは! ドラゴンが落としたアイテムならばさぞやいいアイテムなんだろう!」
ランスの言葉に七星は苦笑いを浮かべる。
(実際には貴重という言葉ではすまないと思うのですが)
「でもさ…一体カミーラの目的は何なの? まさか本当に退屈しのぎなんて事は無いでしょ」
レダの言葉は何処までも厳しい。
ランスは久々の冒険に少しは満足しているようだが、カミーラの真意が掴む事が出来ない。
「ええ…カミーラ様の目的は別にあります」
七星が見据えるカミーラの視線の先には、その頂が映っている。
勿論七星はその目的を知っている。
本来であればそのような事は止めて欲しいのだが、主の願いを叶えるのが使徒の役目だ。
「七星…」
「申し訳ありません、カミーラ様」
カミーラの声に七星は跪く。
「ランス。お前の腕、見事と言っておこう。そしてその運もな」
「…お前、悪いもんでも食ったか?」
まさかカミーラが素直に人間の事を褒めるなど、過去のカミーラとの事を考えれば有り得ない事だ。
(どうなっとるんだ…まさか本当に別世界とか言うんじゃないだろうな)
過去にミラクルの力で別の世界に行ったり、ジルを追いかけて亜空間に行ったりはしたが、まったく同じ容姿をした奴が自分の事を知らなかったり、一度殺した奴が生きていたりと訳が分からない。
「次は私だ」
「あん?」
カミーラはゆっくりと歩き出す。
ランス達もカミーラの後についていくが、不思議な事にあれ以降ドラゴンが襲ってくる気配は無い。
「で、何処に向かっとるんだ」
「直ぐに分かる」
ランスの問にもカミーラは短く返すだけだ。
翔竜山の中枢辺りにつくと、カミーラがその歩みを止める。
すると地の底から響くような声が聞こえてくる。
「何用ダ…カミーラヨ…」
「うおっ!」
「これは…!」
「クッ…」
その声は圧倒的なプレッシャーを持ってランス達に圧し掛かる。
「貴様に会いに来た…と言えばどうする」
「ほう…貴様がカ…ドラゴンの牙を腑抜けにした忌まわしきドラゴンがカ!」
その怒声と共に地が揺れ、それが姿を現す。
「久しぶりだな。ノス」
それは非常に巨大なドラゴンだった。
小さな山くらいはありそうな巨体に、黒光りする鱗…その姿が、普段は男の事など覚えていないランスの頭を刺激する。
「化物ジジイか!?」
ランスはリーザス城で戦ったある魔人の事を思い出す。
あの時は魔王ジルの事で頭がいっぱいになっていたが、その前に戦ったドラゴンの魔人がいた。
その戦いではランスも含め、全員が満身創痍になる戦いだった。
その時の魔人が今、目の前に存在していた。
「カミーラ…魔人となっタ程度で勝てると思うカ」
「貴様を殺すくらいは簡単だ」
こうして2体のドラゴンの戦いが始まった。
―――天界―――
新たなメインプレイヤーが生まれてから400年程度。
魂管理局クエルプランは普段と同じように仕事をしていた。
ドラゴンに変わり、新たなメインプレイヤーとなった人間という存在は遥かに劣り、そしてドラゴンとは比較にならない速さで増えて、そして消える。
それと同じく作られた男の子モンスター、女の子モンスターもまた人間と同じように増えて、そして消えていく。
1級神クエルプランはそのすべてを把握している。
だからこそ、この異質な存在に気付いた。
「一体何なのでしょうか…この魂は」
その存在は急に現れた。
普通の人間のように生まれるのではなく、突如として出現した。
それもエンジェルナイトと一緒に。
「ALICEの役目ではあるのですが」
メインプレイヤーの事は、人類管理局ALLICEの役割ではあるが、突如として現れた魂に関しては自分の領分でもある。
「ですが…情報がありません」
その魂から全ての情報が分かるのだが、登録されていない魂に関してはそれも分からない。
一緒にいるエンジェルナイトは、4級神であるレダを元に作られているというのは分かるが、それは自分の領分では無い。
「困りましたね」
これまでの400年と少し、特に問題らしい問題は無かったが、ここに来て初めて問題に直面している。
無論、大した問題ではない。
それこそエンジェルナイトを派遣すれば済む話なのだが…今は魔王と魔人と共にいるのが気になる。
あの我儘ALICEならば面白そうだと放置しそうだ。
「それでも一度ALICEには話してみましょうか…気は進みませんが」
カミーラの調べるべくランス6を起動
まさかのセーブデータ無し
やり直すのに時間がかかったと言い訳…
再び投稿が戻るようにがんばります