ランスとハウゼルが結ばれた翌朝、ランスがいつもより遅く起きた時、そこにはハウゼルの姿は無かった。
「…ありゃ」
部屋を見渡してもハウゼルの痕跡すらない。
何時も使っているベッドのシーツすらも変わっている。
「どーなっとるんだ」
ランスは取り敢えず着替えると、ベッドに立てかけてあった剣が目に入る。
「むう…また変わっとるな」
その剣はまた姿形が少し変わっていた。
最初は刀身から柄まで全部が黒かっただけの剣だが、ランスが戦うにつれてロングソード程の大きさからバスタードソード並みの大きさに変化していた。
そして今もまた形が変わっており、大きかったはずの剣が少し小さくスリムになっていた。
ランスは剣を持つ。
姿形は変化しているのに、重さだけは全く変わっていないという非常に不気味な剣だ。
ただ、何れも共通しているのはランスの手に馴染むという事だけだ。
ランスが剣を持った瞬間、剣が紅い光を放つ。
「うーむ…」
それを見てランスは―――
「俺様に相応しい剣になっていくな。これはこれでイカすではないか」
非常にご機嫌だった。
大きさが変わっても振るうのに問題が無ければランスは気にしない。
戦士として、冒険者としてこれまで沢山の剣を振るってきた経験もあるので、少々の変化はランスにとっては許容範囲内だ。
「それよりもハウゼルは何処だ」
ランスは自分の部屋を出てリビングへと向かう。
そこではハウゼルがキッチンで料理をしている所だった。
「む。随分早いな」
「あ、おはようございます、ランスさん」
ハウゼルはランスを確認すると、少し照れくさそうな笑みを浮かべて一礼する。
やはり昨日の事が尾を引いているのか、その顔は真っ赤だ。
だが、その真っ赤な顔も可愛いのだから美人は得だ。
「あれ、じゃあシーツを変えたのも君か」
「はい…汚れがちょっと…いえ、ちょっと所では無かったので…」
ハウゼルは顔を真っ赤にして目を伏せる。
昨夜の激しい行為でベッドのシーツはとんでもない事になっていた。
なので洗濯する以外の道は無かったのだが、ハウゼルは寝ているランスに気を使って起こさないようにシーツを外したうえで、新しいシーツをしいてランスを寝せたのだ。
「随分と器用だな。で、痛かったりはしないか」
「そ、それは大丈夫です。それよりもご飯どうですか?」
「そうだな。俺様もハッスルし過ぎてすこーしだけ疲れたかもしれんからな」
ランスとハウゼルが他愛もない話をしていると、スラルとレンがリビングに姿を見せる。
「少し寝坊をしてしまったな。やはりハンティからは色々な話を聞けていいものだな」
「報告書の作成を久々にしたけど…こんなに疲れたっけ」
二人はそれぞれで思い思いの夜を過ごしたようで、皆が起きるのが遅れたようだ。
「まあそれよりも飯だ飯。ハウゼルの飯は美味いからな」
「そうだな。我がキッチンに立とうとすると全力で止められるからな。全く…これでは練習すら出来んではないか」
「無駄な努力は止めろ。お前が料理をつくったせいで俺様の魔法ハウスのキッチンが二度と使えなくなったらどうするつもりだ」
「あ、あの…そこまで言わなくても…」
ランスのあまりにも辛辣な言葉にハウゼルは声を出すが、
「甘いわよ。スラルの料理は魔人すら昏倒させる凶器よ。もしスラルの料理が一般流通してしまったら、この世界のバランスは崩壊するわ」
「こいつには絶対料理は作らせん。香ちゃんは美味い飯の中でとんでもない団子を作るが、こいつは作る料理全てが香ちゃん以上だ。料理で人を殺せる奴だからな」
二人のあまりにも辛辣な言葉にスラルは肩を落とす。
なまじ実績があるだけに何の反論も出来ない。
グルメとして名高いガルティアは美味しいと言ってくれていたのに、それ以外の者からは不評を通り越して批判すら浴びせられる。
「ハウゼルもスラルちゃんには絶対料理をさせるなよ。もし作ろうとしたら気絶させても構わん」
「そこまで言うか!?」
ランスの言葉にスラルは少し涙目になって詰め寄る。
「当たり前だ! これまでどれだけ俺様が酷い目にあってきたか…忘れたとは言わさんぞ」
「そ、それはまあ不幸な巡り合わせがあったというか…その…」
スラルは涙を一瞬で消し、明後日の方向を向いて誤魔化そうとする。
「戻りました」
「あ、ああ。お帰り日光。お前が戻ってくるのを待ちわびてたぞ」
その時、日光が朝の修練から戻ってくる。
スラルは助かったと言わんばかりに話を逸らす。
ランスも別に今更スラルの料理に関しては口に出しても無意味だと思っていたので、誤魔化されることにする。
日光は食事を作っているハウゼルを見る。
魔人は日光にとっては敵であり、ハウゼルの事も正直快くは思っていない。
「…少し体をスッキリさせてきます」
なのでそのまま浴室へと直行する。
「…当然ですけど避けられていますね。それが正しい事なのだと思うのですけど」
「気にするな。どうせあいつもそのうち慣れる」
「はぁ…」
ランスの言葉にもハウゼルは曖昧な言葉を発するしかない。
実際、自分が人間から憎まれているのは当たり前なので、ハウゼルとしても耐える以外に他は無いのだ。
「それよりも飯だ飯。それを食ったらまたダンジョンに行くぞ」
「そうだな。今回は我も同行したいからな」
ランスは重い空気を纏ったハウゼルの頭を軽く撫でると、そのままハウゼルの用意してくれた食事を取る。
相変わらずハウゼルの作った料理は上手で、人間のランスの口にも合っている。
「うむ、相変わらずハウゼルの飯は美味いな。どっかの誰かさんと違ってな」
「まだ忘れていないか…我にも将来というのがな」
「その将来のためにどれ程の犠牲者がでるのかしらね」
相変わらず辛辣な二人の言葉にスラルはシュンとなってしまう。
ただ、二人の言っている事も分かるので反論は出来ない。
スラルが朝から落ち込んでくると、汗を洗い流した日光が戻ってくる。
「おう、来たか。お前の分もあるぞ」
「………いただきます」
ランスの言葉に日光も自分の席に座ると食事を始める。
日光としては思う所も有るが、ハウゼルの作った料理は普通に美味しい。
そして、今の時代でこんな食事を取れるのは非常に贅沢なのだと改めて思い知る。
「どうぞ、ランスさん」
「おう。気が利くな」
ハウゼルがランスにおかわりを渡す。
それを見て日光の目が細くなる。
「…随分と親しくなりましたね」
「そうか?」
「そう見えたのなら嬉しいですね」
日光の少し棘のある言葉にもランスはあっさりと流す。
いや、その言葉の棘に気づいているかどうかも怪しい。
ハウゼルの方も、日光の言葉の真意には気づいていないようで、純粋にランスと親しくなったように見えるのを喜んでいるようだ。
「まあとにかく食事を終わらせるか。その後で本日の予定も決めなければならないしな」
スラルが少々強引にこの空気を終わらせる。
実際にやる事は山ほどあるのだ。
時間は有限なので、日光にはきちんと話さなければならない。
食事を終わらせ、ランスとレンとハウゼルは外に居るカラーの所へと向かっている。
スラルは日光と向かい合っていた。
「気に入らないか? ハウゼルの事が。勿論お前の経緯は知っているし、無理に合わせろとはとは言わないが」
「いえ…必要な事ならばそうするべきだとは思っています。私は両親の仇が討てたのもランス殿のおかげですから…」
それでも日光の顔は落ち込んでいるのが分かる。
「…ランスがハウゼルを抱いた事か?」
「…っ!」
スラルの言葉に日光の体が震える。
「だがランスには必要な事だ。お前とランスでは目的が違うのは分かっていただろう。それでもあえて言おう。ランスにはお前の力が必要だ」
「ランス殿が…魔人を倒せる力を持ったとすれば、私は必要ないのではと…」
日光は少し弱音を吐く。
日光にとってはランスは恩人で有り、大切な人な事は間違いなかった。
女好きでスケベなのは分かっているが、それでも尚日光の考えは変わらなかった。
どんなに性格が曲っていても、その全くブレない姿と勇姿が日光には眩しかった。
「だったらランスに素直に気持ちをぶつけるべきだ。ランスはアレでいて好意に少し鈍い所もあるからな。女の感情には鋭いくせにな」
「ス、スラル殿!」
日光は慌てて顔を真っ赤にする。
「しかしお前にもそういう感情が有るんだな。ランスと別れてからそう言った感情を押し殺しているようだったからな」
スラルの言葉に日光はもじもじと手を合わせている。
自分の気持ちを見透かされたのと、自分の想いを看破された事による気恥ずかしさがある。
「その…スラル殿はどうなのですか? ランス殿の事は…」
日光の言葉にスラルは笑う。
「あいつは女を追い求めるからこそいい結果が生まれる。我はそれを知っているからな…まあこういう場合は女として複雑、と言うのだろうな」
「スラル殿…」
「我は元魔王、我には我なりの愛し方があるのだろう。それよりも、お前の最大のライバルは我では無いぞ?」
「それは…?」
「一番の障害は間違いなくケッセルリンクだ。何しろ元のカラーの時からあいつを事が好きなんだ。カラーの愛は凄いからな…それこそ惚れた相手のために何でもするだろうさ」
ウトスカとリディアと合流し、ランス達も冒険へと行く準備をする。
今回はスラルも合流する代わりに、レンとブリティシュに留守を任せる事にしようという話になる。
ランスが準備を終え、皆を待っていると同じく準備を終わらせているスラルがランスの剣を見る。
「ランス…また剣の形が変わったな。前よりも随分と細くなっているな」
「ああ。ハウゼルとやったらまた剣が変わった。まあ重さも変わらんし、今の俺様ならばどんな剣だろうと使えるしな」
スラルの指摘を受けて、ランスは改めて形状が変わった自分の剣を見る。
以前は非常に無骨な剣だったが、今は非常にシャープになっている。
見た目も普通のロングソードよりの形にと変化していた。
「形は変わるのか? 前はお前の意思に合わせて変化していただろう」
「そういやそうだったな。うーむ…」
ランスは少し考えて剣を振るう。
だが、その剣の形は特に変わってはいない。
ただ、変化としてはランスの持つ剣が全体的に紅い光を放っている。
「色が変化するか…何か出来る事はあるか?」
「分からん。まあかっこいいからいいがな。それに何よりうるさくない」
ランスが剣を一振りすると、その剣の軌道が揺らいで見える。
それと同時に、スラルはランスの剣から熱を感じる。
「…ランス、その剣熱くないか?」
「はあ? 何言っているんだスラルちゃん。特に何も感じないぞ」
「それは変だな…ランスの剣の軌道が熱を帯びているように感じたのだが」
スラルはランスの剣を見るが、やはり見ただけでは全く分からない。
「ハウゼルを抱いた事でランスの剣は変化した…ならばラ・バスワルドの力の半身を解放した事になる…ハウゼルは炎の使い手の魔人で、サイゼルは氷の使い手の魔人…まさか」
考え込んでいたスラルだが、一つの結論に達する。
「ランス。お前のイメージでその剣に炎を纏わせる事は出来ないか? 我がお前の剣に魔法の力を付与していた時のイメージでいい」
「スラルちゃんとのあの合体技か。確かこんな感じだったか…?」
スラルの指摘を受けてランスは剣を振る。
スラルとの合体技ともいえるあの技は非常に強力で、それこそ戦略級の威力を有しているが、その分扱いも難しく使い手であるランスですらも傷つける可能性が高い技だ。
それ故に使い勝手が悪く、ランスとスラルも滅多にそれを使おうとはしない。
「うーむ…確かあの時はスラルちゃんが制御していたのだったな」
「最初の頃はそうだ。だが、我が肉体を得てからは我がその剣に魔法の力を付与していただけで、その後はお前自身の力のはずだ」
「俺様は魔法は使えんからな…シィルに借りて少し使ってみた事は有るが、剣の方が圧倒的に楽だからな」
玄武城に迷い込んだ時に戯れでシィルに魔法を借り、雷撃や電磁結界とかを使いはしたが、魔力に関しては才能が無いランスにとっては遊びに近い。
いわば冒険を楽しむためのスパイスで有り、本格的に魔法を使おうと考えた事も無い。
「そうだな…お前らしいイメージとしては、ハウゼルの事を考えたらいいのではないか? その炎の力は間違いなくハウゼルを抱いた事に起因しているはずだ」
「ハウゼル…ハウゼル…うむ、いい体をしていたな」
「思い出すのがそこなのか…」
ランスらしいと思いながらも、スラルはランスに呆れてしまう。
(うーむ…ハウゼルは胸も大きい方だし、感度もいいし、いい女だ。次は口でやらせるのもいいな。うむ、色々と出来るのは良い事だ)
これからハウゼルにどんなエッチな事をしてやろうかと考えているうちに、ランスの剣の赤い光が強くなる。
するとランスの剣の周囲が揺らぎ始める。
「む」
「ほう…そうなるのか。外観では炎が出ているかどうかは分からないが、それは間違いなく炎の力で周囲が歪んで見えているのだろうな」
スラルはランスの剣から確かな熱気を感じる。
ただ、持ち主であるランスは全く熱くは無い様だ。
「少し剣を振るってみてくれないか。それも見てみたい」
「まあ構わんが…フン!」
ランスは普段から稽古なんて事はしない。
今はジルを取り戻すために必要なのと、防具の調達が難しい事から『受け』の技術のために少しは努力している。
運命の悪戯によって伝説の技能を有してしまった事で、ランスは確実な成長を遂げていた。
そしてその剣は無骨であり、無駄が多そうに見えるのだが、実際にランスと相対すればその異質な剣によって命を奪われるだろう。
そんなランスが剣を振るっていると、たまたまそこにあった木材をランスが真っ二つにする。
「あ」
するとその真っ二つになった木材が勢いよく炎を放つ。
「うお!? なんか燃えたぞ!?」
「氷の矢!」
燃えた木材に魔法を放ち、これ以上炎が広がらないようにする。
ランスは自分の剣を見るが、そこから熱さはやっぱり感じられない。
スラルはそんなランスを見て、
「おいランス。少しいいか」
「なんだスラルちゃん」
「炎の矢」
スラルがランスに向けて魔法を放つ。
「どわ!?」
ランスは反射的にその炎の矢を剣で払おうとする。
実際には魔法に対しては全く無意味な行動なのだが、それもランスの本能が剣を動かしていた。
「何しやがるスラルちゃん! 危ないだろうが!」
怒鳴り声を上げるランスを見て、スラルは目を丸くする。
「驚いた…我の魔法が斬られた…いや、その剣に呑まれたと言えばいいのか?」
「何言ってやがる! それよりもいきなり俺様に魔法を放つとはどういう事だ! 志津香じゃあるまいし! いや、志津香でもまだ手加減してたぞ!」
「落ち着け。それよりもランス。気づいたか? 我の放った魔法はお前に当たらなかった」
「あん!? あ…」
スラルの指摘にランスも驚いて剣を見る。
この世界の魔法は絶対に命中する。
だが、ランスに向けて放たれた魔法はランスに当たる前に剣に吸われるように消えていった。
「興味深いな…これもまたお前がハウゼルを抱いた事と関係があるのだろうな。お前の成長と共に剣もまた成長しているという事か?」
「魔法を防げるなら便利だな。スラルちゃん、別の魔法はどうだ。威力を抑えてやってみろ」
「フム…ハウゼルは炎を使っていたな…だとするとサイゼルが氷か? ならば別の属性で試してみるか。威力は抑えるからきちんと剣で受け止めろよ。雷の矢」
スラルは今度は雷の矢を放つ。
ランスは先程の同じようにそれを剣で受けようとして―――魔法が命中した。
「うお!? ちょっぴりピリッとしたぞ」
「だとすると現状で防げるのは炎という事なのだろう。だが、これは大きい事だと思うぞ」
「何だ、つまらん。炎だけか」
魔法を防げる手段が出来たと思ったが、どうやらそれは炎だけのようだ。
ただ、それでも厄介な攻撃魔法の一部を防げるのであれは十分とも言えた。
「一度じっくり研究をしたいものだな。ただ、我ではその剣を持てぬのが難点か…」
スラルはランスの剣を見てため息をつく。
「お待たせしました」
その時、準備を終えたハウゼル、ウトスカ、リディアがやってくる。
「おう。遅かったな」
「ランスさんが早いんですよー。ってランスさん、剣を変えたんですか?」
ウトスカがランスの剣を見て首を傾げる。
それはランスが使っていた剣とは形状が変わっていたので当然の疑問だ。
「いや、これが俺様の剣だ。何か知らんが色々形が変わるらしい」
「変な剣ですねー。でもランスさんのオンリーワンの剣みたいでかっこいいですねー。リディアはどう思う?」
「えーと…私は今のランスさんの剣の形の方がかっこいいと思うけど…前のは鈍器みたいで…」
ランスの剣は乱暴で、斬るというよりは叩きつけるような鈍い音を立てていた。
勿論それでモンスターを倒すランスの力は凄まじいのだが、リディアは同じ剣の使い手であるブリティシュの剣と比較してしまう。
どちらも凄まじいのだが、いざ剣術と言えるのはどちらかと言えばブリティシュの方が洗練されているように見えてしまう。
「フン、ようは強ければいいんだ。俺様は魔人を倒せるくらいに強いから問題無い」
ランスは剣を鞘に背中に背負う。
以前使っていた鞘が使い物にならなくなったので、また新調する必要が出てくる。
「ランスさんの剣…そこから凄い力を感じます…でも、これってもしかして…」
ハウゼルがランスの剣に触れる。
その宝玉の部分に触れると、ハウゼルはその剣の中から誰かが自分を見ているように感じてしまう。
「お前の力だろうな。クエルプランちゃんが言ってたのはこういう事だったのかもしれんな」
クエルプランの言っていたランスの新たな力とは、この剣に関する事だったのだろう。
確かにランスの剣はパワーアップしているのは分かる。
その原因は間違いなくハウゼルとセックスしたからだろう。
「後はサイゼルだな。ハウゼル、サイゼルを連れてこれるか」
ランスの言葉にハウゼルは難しい顔をする。
「それはちょっと…ランスさんに協力はしたいですが、それは私がどうこうするよりもランスさんが自分の力で成し遂げる事だと思います。少なくとも姉さんは納得しないでしょうし」
「面倒だな…俺様も何時までこの時代に居られるか分からんからな。ケッセルリンクとあいつの使徒に何か考えて貰うか」
ランスの口からケッセルリンクの名前が出た事にハウゼルはため息をつく。
「ケッセルリンクさんの事をはやっぱり知ってるんですね」
「ああ…そういや言ってなかったな。あいつは俺様の女だ。お前の事もよく教えてくれたぞ」
「え、えええええええ!? じゃ、じゃあもしかしてこの前の戦いは!?」
ハウゼルの言葉にスラルはため息をつく。
「バラす必要は無いだろう。まあ今更だが、ランスがあんな手段を取れたのはお前の事を聞いたからだ」
「卑怯だなんて言うなよ。戦いに汚いもクソも無いんだからな」
「…戦いの結果には文句はつけませんけど…そうですか、ケッセルリンクさんが」
ハウゼルはケッセルリンクがやたらと自分と姉を気にかけたのを思い出した。
魔人の中で新参者の自分達をケッセルリンクは快く受け入れてくれた。
なので彼女達もケッセルリンクを信頼し、よく彼女の城へと遊びに行っていた。
そしてハウゼルは一つの可能性に気づく。
「…ランスさん、ジル様が魔王になった所に居たんですよね…もしかしてその場にケッセルリンクさんも」
「居た。だからこそ、ケッセルリンクはジルを助けるためにランスに協力している」
「やっぱりそうですか…」
ケッセルリンクがジルに対して何か特別な感情を抱いているのは知っていた。
ただ、それは信頼でも恐怖でも無く、痛ましいものを見るかのような目だった。
(そうなんだ…ケッセルリンクさんは全てを知っていたんだ。それで私をランスさんに…って待って。ランスさんさっきとんでもない事を言わなかった?)
ハウゼルはランスの言葉を流していたが、その中にとんでもない言葉が隠れていたのを思い出す。
「あの…ケッセルリンクさんがランスさんの女って…」
「事実だぞ。あいつは魔人になる前から俺様の女だ」
「え、えええええええ!? そ、そういう関係だったんですか!?」
それには流石に驚いてしまう。
そもそもジルの本にケッセルリンクが出てきたことが不思議だったのだ。
ただ、本の内容が明らかにケッセルリンクが取りそうな行動だったので、それを受け入れる要因の一つとなっていたのだ。
最初はケッセルリンクがジルに会いに来たのだと思っていたが、それは違っていたのだ。
ケッセルリンクはランスに会いに行って、その時にランスと共に居たジルに出会っていたのだ。
「あ、あの…ケッセルリンクさんがランスさんの女って本当に…?」
ハウゼルはスラル達に目を向ける。
カラーの二人は知らないと言わんばかりに首を振る。
「我の口から言っても信じるのは難しいだろう。本人の口から聞けばいい。お前がランスに抱かれたのを聞けば、あいつも真実を話すだろう」
「…それって凄いハードルが高いんですけど」
スラルの言葉にハウゼルは目に見えて恥ずかしそうにする。
いくら女同士とはいえ、そんな事を面と向かって聞くのは恥ずかしい。
「ま、まあそれは後で聞きます。本当は聞きたくないけど…それはそれとして今日は何処に行くんですか?」
「ああ。今回はレベルを上げるための行動だからな。前と同じところだ。代り映えはしないが、強くなるにはそこが一番だ」
こうしてランス達は冒険に繰り出し、沢山のモンスターを倒し続けた。
そんな日々が続き…そしてハウゼルはランスに抱かれ続けた。
「あー、えがった。お前ももう十分に慣れてきたな」
「…言わないでください」
ついこの間まで処女だったのに、ハウゼルは既にランスとの性交で何度も絶頂を迎えていた。
抱かれれば抱かれるほど自分の意識にラ・バスワルドという存在の記憶が入ってくるような気がする。
勿論ピンと来ないのだが、同時に納得もしてしまうそんな奇妙な関係があった。
「それよりも今回は別の趣向を用意してあるのだ。そろそろ来るか」
ランスがそう言うと同時にランスの部屋の扉がノックされる。
「おう、入ってこい」
「失礼します」
ハウゼルが疑問の言葉を出すよりも早く、一人の女性が部屋へと入ってくる。
入って来たのは日光だ。
日光はベッドの上に居る二人を見て顔を歪める。
「ランス殿…どういう事ですか」
「いいから来い。お前だって色々言いたい事があるんだろ」
ランスの言葉に日光は厳しい顔をしながらも部屋へと入ってくる。
「ラ、ランスさん!? ど、どういう事ですか!?」
「ほれ、日光。言いたい事があるなら言え。毎日何か言いたげな顔で俺様達を見てるんじゃない」
「………」
ランスの指摘に日光は何も言えなくなる。
同時に、スラルが言っていた事を思い出していた。
ランスは自分の感情に敏感だと。
日光はため息をつくとランスの隣に腰掛ける。
「ランス殿…私が魔人に対していい感情を持っていないのは知ってるでしょう。それなのにこんな場面に呼ぶのは酷いです」
「こんな所だからいいんだろうが。魔人だろうが何だろうが同じ女だろうが」
「…私はあなたのようには割り切れません」
ランス程割り切れるのであれば、日光はそんなに悩んではいない。
「あの…彼女は…」
「こいつの名前は日光。俺様の女だ。こいつはな」
ランスは日光の事について話し始める。
ハウゼルは日光が魔人を強く憎んでいるのを聞いて納得する。
彼女だけは自分に対して厳しい目を向けていた。
それも彼女の経歴を聞けば納得いく。
「はあ…本当にランス殿は勝手です。私の気持ちを無視して事を進めてしまう…」
「これからこういう事は何度も起きるぞ。だったらお前も慣れろ」
「それはこれからも魔人を抱くという宣言に等しいのですが…でもあなたは本気なのでしょうね」
慣れろと言われて慣れるのであれば苦労はしない。
そもそも人間と魔人は明確な敵同士でしかないのだから。
日光は覚悟を決めたようにハウゼルを見る。
シーツで体を隠しているが、そこにはランスとの濃厚な性交の痕が見えている。
「あなたは…本当にランス殿を助けるつもりですか?」
「わ、私は…」
ハウゼルは日光の強い目を見て一瞬躊躇うが、直ぐに同じように強い意志を持った目で日光を見る。
「手伝います。ランスさんの意思は固いですし…それに何よりも…」
人間としてのジルがあまりにも不憫だ、という言葉をハウゼルは飲み込む。
それは口に出してはいけないように感じたからだ。
「いえ、少なくても私はランスさんに協力したいと思っています。それは私自身のためでもありますから」
「あなた自身…ですか」
「はい。私もランスさんに関係する何かを持っている…それは事実なので」
ハウゼルとしてはまだ自覚は無いが、ラ・バスワルドという存在が関係しているのは明らかだ。
そうで無ければあんな光景…ランスが魔人と協力して自分と戦っているという記憶が流れてくるはずが無いのだ。
「それだけですか?」
「それだけ…とは?」
日光の言葉にハウゼルは首を傾げる。
「その…何と言えばいいのでしょうか…」
そんな日光の様子を見て、ハウゼルは察する。
「…私はまだ自分という存在の感情が分かりません。それは私が人では無いからでしょう」
ハウゼルは目を伏せる。
ただ、これはハッキリと彼女に言わなければならない。
「でも、自分の気持ちにもしっかりと向き合います。その上で…ランスさんに協力します」
真っ直ぐに自分の目を見て臆せず言い切る彼女を見て日光の方が気圧されてしまう。
(…彼女ですらこんなに正直なのに)
自分の臆病さが今になって分かる。
魔人と戦った時にもこんな気持ちにはならなかった。
そんな日光を見てハウゼルが微笑む。
「口に出さないと分かりませんよ。人の気持ちとはそういうものでしょう」
「………」
魔人に指摘されて日光は目を伏せる。
「…なんか二人で勝手に分かりあっとるな」
もうちょっと揉めるかなと思っていたランスだが、思いのほか穏便に片付きそうなのを感じて少しだけ詰まらなそうな顔をする。
ランスの計画としては、このまま二人纏めて…とか不埒な事を考えていたのだが、どうやらそういう空気にはならなさそうな感じがしていた。
そう思っていると、ランスの手に日光の手が重ねられる。
「何だ。日光」
「…ださい」
「ハッキリ言え。お前らしくないぞ」
小さい口で何かを言う日光に対し、ランスが少しだけ困惑した様子を見せる。
態度が明らかに日光らしくない。
日光は一度深呼吸すると、
「抱いて下さい」
ハッキリと大きな声でそう言った。
「…は?」
ランスは日光の言葉には流石に言葉を失う。
この状況で日光の口からそんな言葉が出るとは考えもしなかった。
日光は服を脱ぐと、一糸まとわぬ姿でランスに抱き着く。
「どうした日光。お前らしくないぞ」
この態度にはランスも完全に困惑する。
まるで志津香が自分から『抱いて』と言って服を脱ぐくらいありえない光景に、喜ぶよりも困惑が勝ってしまう。
「ま、負けたくないんです…わ、私だって…」
日光はそのまま目を瞑ったままランスにキスをする。
目を瞑ったままなので、ランスの唇から少しだけずれるが、直ぐにそれを修正してランスの口内におずおずと自分の舌を入れてきた。
まさかの日光からの積極的な行動にはランスもフリーズする。
そんなランスを見て、ハウゼルは微笑む。
「ランスさん…彼女をしっかり愛してあげてください」
そう言って立ち上がると、自分の衣服を掴んで部屋を静かに出ていった。
ただ、最後にランスに聞こえるか聞こえないかの小さい声で『私にもお願いしますね』と言ってたようにランスは感じた。
「おい日光。お前どうした」
「私だって…女なんです。戦士になったつもりでも…あなたの前でだけはあなたのよく知る日光なんです」
日光の目には薄く涙が浮かんでいる。
「だーっ! 泣くな!」
女の涙…それも自分から抱いて欲しいと言ってきた女が涙を流している事にランスはちょっとだけ苛立つ。
セックスの時に嬉し涙を流されるのは良いが、それ以外の涙を流す女を抱くのはランスとしてもちょっと嫌だった。
無理矢理襲っていたり、おしおきセックスならいいが、こういう時は話は別だ。
そのままランスは日光を押し倒してその顔を見る。
桜色に肌を染めた日光の体は非常に美しく艶っぽい。
「わ、私は…ランス殿を…お、お慕いしているんです…そ、それを口に出す勇気が有りませんでした」
「お、おう。そ、そうか」
突然の告白にはランスも驚く。
まるで上杉謙信に告白された時のようにランスの態度は少しおかしかった。
それは明らかにお姉さん的なタイプの日光にそう言われたからなのかもしれない。
「だ、だから…だ、抱いて下さい。私にランス殿を刻み付けて下さい」
日光の言葉にランスは混乱していた頭を正常に戻す。
即ち、普段のエッチが大好きで、今は女の子を絶頂に導くのが大好きになったランスへと。
「そうか。だったら滅茶苦茶にやってやる。あ、でもお前には普段から結構滅茶苦茶にやってるからな…そうだな、優しくやってやるか」
日光とのエッチの時はランスは彼女をやや乱暴に抱いていた。
初体験が日光へのおしおきエッチになってしまったので、こうして抱く機会は無かったかもしれない。
「そうか、日光は俺様が好きか」
「は、はい」
「うむ、お前も俺様の運命の女だからな」
ランスは日光の大きな胸に触れながらその唇を奪う。
「よーし、じゃあ本当に普通にやるぞ」
「…はい。お、お願いします」
日光の鼓動がこれまでは段違いに大きくなる。
口に出してしまった事で、体がもう素直に反応しきっていた。
自分の体はもうとろとろで、これから与えられる刺激にはきっと耐えられないだろう。
それでも、日光は初めて幸せな気持ちでランスに抱かれる事になった。