ランス再び   作:メケネコ

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再び魔人の城へ

「き、気持ちいいです…ランスさん」

「そうか。気持ちいいならそれでいいぞ。もっと気持ち良くしてやろう」

 ランスの下でリディア・カラーが悶えている。

 そのクリスタルは既に青く染まっているが、その肌は朱に染まっている。

 リディアは初めてにも関わらず、快楽を覚えていた。

 それも無理は無いだろう、ついに憧れていた人とセックスをする事が出来たのだから。

(私…ランスさんに処女をあげられたんだ…)

 リディアは喜びから目尻に涙を浮かべる。

 思えば最初に魔人メディウサに捕らわれた時、リディアの心にあったのは絶望だった。

 体の小さかった自分はメディウサによって石にされ、母親と家族がメディウサに犯し殺されるのを見ているしかなかった。

 それは彼女に多大なトラウマと、魔人に対する憎しみを残した。

 だが、何も出来ずにただ朽ちていくだけだと思っていたのに、自分は始祖であるハンティ・カラーと人間であるランスによって助けられた。

 こうして自分が成長できたのは全てランスとハンティのおかげだった。

 それは憧れとなり、ランスが一度姿を消す事で幻になったはずだった。

 だが、ランスは再びカラーの元に戻ってきて、今度はカラーを狙った魔人を倒した。

 こうして憧れは恋へと変わったが、ランスに抱かれる事は叶わなかった。

 それは始祖であるハンティが禁じた事なので、リディアはそれに従うしか無かった。

 だが、魔人への復讐のために行動する事は許して貰えた。

 そしてランス達と冒険をし、レベルも35を超えてハンティからのお墨付きを貰った。

 その時に新たなカラーの女王が決定し、呪いの手ほどきを受けた。

 更に、魔人への対抗手段のため、ランスに抱かれてもいいと女王からの許可も得た。

 ハンティは渋っていたが、インデックスの言葉を聞いて苦渋の決断をしたようだった。

「ランスさん、ランスさん!」

 リディアは全身でランスにしがみ付いて愛情を示す。

 性に疎い自分にはそれしか示せるものが無かったが、ランスはそんな自分を受け入れてくれた。

 恐らくは今のカラーで理想の初体験を迎えられたのは自分だけだろう。

「がはははは! そろそろいくぞ」

「はい! 何回でもして下さい!」

 もう何度もランスの精を受け止めているが、妊娠できない事だけが本当に残念だ。

 避妊魔法をかけられたため、生憎と妊娠は出来ない。

 だが、それでもリディアは幸せだった。

 ランスのハイパー兵器が震え、リディアの中に熱い精が放たれる。

 リディアは艶っぽい声を出して絶頂を迎える。

「ランスさん…」

「まだまだやれるな?」

「はい…」

 リディアはランスに濃厚なキスをしてランスの質問に答える。

 ランスはそのままリディアに対して濃厚なセックスを続けていった。

 

 

 

「という訳で呪いが完了しました」

 リディアを抱いて数日が経過した後、ランス達はインデックスによって呼び出された。

 テーブルの上にはランスの剣が置かれ、その剣の柄の部分に嵌め込まれている紅い宝玉の上の部分にカラーのクリスタルが埋め込まれていた。

「こいつはカラーのクリスタルか?」

「はい。スラルさんが付与すると不思議と剣の中にクリスタルが吸い込まれて…不思議な剣ですね」

 インデックスとリディアは満足そうにランスの剣を見ている。

 カラーの努力の成果が目の前にあるのだから当然と言える。

「で、どういう呪いをかけたんだ」

「はい。ランスさんとリディアの意見、そして他の者の意見を取り入れた結果、新たな禁欲モルルンの派生形が出来ました。尤も、この呪いは魔人メディウサ限定のようなものですが」

「魔人限定の呪いね…」

 レンは感心したように頷いて見せる。

 こうして下界の技術を見るのもレンにとっては新鮮で、ランスとの冒険の結果色々な欲が出てきた。

 それが『知る』という事であった。

「この禁欲モルルンですが、かかった者は女を抱けなくなります」

「………それはまた随分と恐ろしい呪いだな」

 ランスはその言葉を聞いて青い顔をする。

 ランスにとってはまさに致命的な呪いだ。

 もしそんな呪いをかけられれば、ランスは本気で自殺をするだろう。

「本来であれば禁欲モルルンはそのままにしておくとホモになる呪いですが、レベル35以上の女性を抱けば呪いは一度止まります。ただ、禁欲モルルンの呪いにかかった者はレベルが1になりますが」

「そんなに恐ろしい呪いなのか…」

 ブリティシュも禁欲モルルンの詳細を聞いて顔を青くする。

 今の時代にそんな呪いをかけられれば、間違いなくその男はホモになるだろう。

(…ホ・ラガには効果が無い呪いかな。カオスも自殺を考えそうな呪いだし)

 かつての仲間を思い浮かべ、今何処に居るのかと思いを馳せるが、目の前のカラーの言葉に集中する。

「ただ、女には効果が無い呪いですので…そこを改良しました。それが女を抱けなくなるという事です」

「…メディウサがどのように女を犯し殺すか、リディアから話は聞いています。それなのにメディウサにも有効なのですか?」

 日光の疑問にリディアが自信を持って頷く。

「大丈夫です。この呪いにかかった者は、女性に対して性的興奮を全く覚えなくなります」

「…女性の私には分からない話です」

 リディアの言葉に日光は難しい顔をする。

「殺す事そのものは止められないのかい?」

 ブリティシュの言葉にインデックスは眉を下げる。

「残念ながらそこまで高度な呪いは存在しません。魔人ならば犯し殺す以外にも普通に殺してしまうでしょう」

「それもそうだね…」

「とにかく、女に対して性的興奮を抱けなくなる…女性を抱きたいと思えなくなる訳です…が、それだけだと意味が無いと思いました」

 インデックスの目がギラリと光る。

 彼女も魔人メディウサの凶行には憤っており、カラーの女王として何とかしたいと思っているのだ。

「この呪いを放置すると、男にしか性的興奮を抱けなくなります。しかもバリバリのドMにしかなれなくなるんです」

「…ど、どMですか」

 日光は顔を赤らめる。

 ランスに抱かれているので、少しはそういう睦事の事は分かっている。

 基本的にランスにされるがままだが、日光にとってはそれが閨での当たり前だった。

 男はランスしか知らないので、性に関してはまだ疎いと言ってもいい。

 そんな日光も、ランスには辱められたというプレイをした事は有る。

 いや、最初にランスにおしおきセックスをされたプレイこそがそういうプレイだったのだろう。

「セックスにも色々有るからな―。女なのにやたらと男をいかせるのが上手い奴も居るからな…」

 ランスはしみじみと頷く。

 その脳裏に浮かんでいたのはミリ・ヨークスだ。

 ランスとしても色々馬鹿を言い合える仲だったが、不治の病にかかっていたらしくもう死んでしまっていた。

 最期まで笑っていたのが実にミリらしいとランスは思ったほどだ。

 とにかく、セックスというのは色々と趣味趣向が有り、色々な好みも有るのだ。

 ランスは性癖に関しては完全にノーマルなので、自然のランスに関わればノーマルなプレイとなる。

 勿論オシオキや相手に合わせてプレイを変えたりはするが。

「そしてそれでも無理に女を抱けば…凄まじい激痛がメディウサを襲うでしょう。何しろメディウサはそれ程の恨みをカラーから受けたのですから」

 インデックスはそこで痛ましげな表情を浮かべる。

 呪いをかける内に、そのクリスタルの持ち主がどんな苦痛を受けたのかが何となく分かってしまった。

 リディアが恨むのも無理は無いと思うと同時に、それと戦おうとするランスを尊敬してしまった。

「痛いだけか? 魔人は滅茶苦茶な再生力があるからな。日光で斬らんと直ぐに再生するぞ」

「それに関しては問題ありません。痛みを覚えるのは股間に生えた蛇です。ランスさんに分かりやすく言えば性器をダークチッピに延々と噛まれると言えば良いでしょうか」

「うげ…それは想像もしたくないぞ」

 ダークチッピはモンスターの中でも最強クラスで、その攻撃力は並のガードでは耐えられない。

 いや、上級のガードでも危ないくらいの攻撃力をダークチッピは持っているのだ。

「それでいてこの呪いを受けた者は女を求めたくてたまらなくなります。でも女に性的興奮を抱けない…そんな二律背反な呪いを作りました」

「女を抱きたいのに興奮出来ず、抱いたら抱いたで苦痛だけが残る。確かに地獄だな」

 スラルはカラーの執念には感服するしかない。

 思えばケッセルリンクも今でもランスを想い続けている。

 それだけ情が深い種族なのかもしれない。

「そして男に抱かれると異常なまでの快感を覚える呪いです。しかも自分よりレベルの高い人間からは性的興奮を抱かれなくなるというおまけつきです。更にはレベルの低い男に抱かれると自分のレベルが下がっていきます」

「…それはまた恐ろしいね」

 ブリティシュは何度目かの戦慄を覚える。

 それほどまでに、カラーのメディウサに対する恨みは深いのだ。

「だけどよくそんなに複雑な呪いを作れたわね。実際にそんな事可能だったの?」

 レンの言葉にインデックスは頷く。

「ランスさんが提供してくれたクリスタルソードのおかげです。この剣もまた非常に強い呪いの力を持っていました。ランスさんはこの剣になってしまったカラーから感謝されていました」

「俺様ならば当然だな」

「なのでクリスタルソードになってしまった同胞の長い恨みもまたこの呪いの糧となりました。ただ…クリスタルソードは失ってしまいました。ランスさん、ごめんなさい…」

 インデックスを始めとしたカラー達が頭を下げる。

「構わんぞ。俺様にはこいつがあればいいしな。それに魔人戦ならどの道日光を使う事になるからな」

「…そうですね。私が魔人の無敵結界を斬らなければ話になりませんから」

「それよりも問題なのはどうやってメディウサを呪うんだ」

 ランスにはそっちの方が疑問だ。

 勿論ランスに相手に呪いをかけるなんて事は出来ない。

 それはスラルもレンも同じだろう。

「メディウサの抵抗力を失わせた後、この剣でメディウサを傷つければ呪いがかかります。ただ、それまで魔人を追い詰める必要が有りますが…」

「じゃあ問題は無いな。ぶっ殺すだけではいかんと思っていたからな。せいぜい苦しませてやる」

 ランスにとってはメディウサは絶対に許せない敵だ。

 生き残っていても絶対に厄介な事にしかならない。

 それが分かっているからこそ、メディウサに対しては容赦はしない。

「よーし、じゃあとっととメディウサをしばきに行くか」

「待て、ランス。メディウサの城に行くと言っても中々距離があるぞ。バイクはもう無いしどうする気だ」

 次の問題となるのは移動手段だ。

 何しろ世界は広い…LP期のように移動手段か用意され、道路の整備も行われてもいない。

 今は魔王が世界を支配する時代、世界は荒れ果ててしまっている。

「問題無いぞ。ハウゼルに用意させるからな」

「…ハウゼルと何かを話していたがそう言う事ね。私達にも一言くらいあってもよくない?」

「フン、話そうが話すまいが結局は使う事になるんだから一緒だろ。そろそろ来るはずだが」

 ランスがそう言うと、ハウゼルが姿を現す。

「お待たせしました。ランスさんに頼まれたものの用意が出来ました」

「おお。丁度今お前の事を話していた所だ。で、何処に用意してある」

「森の外に。私の部下に見張らせていますので問題はありません」

「…用意が良い事だ。いや、お前ほど働き者の魔人が珍しいと言うべきか」

 ハウゼルの素早い対応にスラルは複雑な顔をする。

(我が魔王だった頃にはここまで柔軟な魔人は居なかったからな…圧倒的に弱いケイブリス、反抗的なカミーラ、コミュニケーションを取るのが難しいメガラスとますぞえ…まともなのはケッセルリンクとガルティアだけだったか)

 改めて魔人も増えたんだなという事を自覚させられる。

 そして中には強大な魔人も増えたという事も思い知らされる。

「よーし、じゃあ早速行くぞ」

「いきなりかい?」

「こういうのは用意が出来た時にやるのがいいのだ」

 ランスは思い立ったら直ぐに行動だ。

 その決断力こそがこれまで幾度となく危機を乗り越えてきたのだ。

「ランスさん! 戻ってきてくれますよね…」

「当たり前だろうが」

 リディアの言葉にそうとだけ言って、ランス達は女王の部屋を出ていく。

「…本気なんだな、あの人間は」

 それはランスを…いや、人間の事を嫌っているカラーの言葉だ。

 彼女だけでなく、今のカラーには人間を嫌っているカラーの方が圧倒的に多い。

「ランスさんは本気です。そうじゃないと、魔人の所にまで来て私を助けてくれる訳が無いです」

 リディアは涙を流しそうになるのを堪える。

 本当は行って欲しくない、でも家族の仇も取りたい、

 そんな思いがリディアの頭に渦巻いている。

 ランスについて行きたいが、仲間のカラーの事を考えるとそれも出来ない。

「大丈夫ですよ。あの人を信じましょう」

 インデックスがリディアの頭を撫でる。

 全てのカラーが複雑な表情を浮かべている中、一人のカラーが首を捻る。

「ところでウトスカは? この場に居ないなんて珍しいと思うんだけど」

「え? …あ」

 インデックスは改めてカラー達を見渡し、ウトスカが居ない事に気づく。

「…はあ。あの子は本当に自由ですね」

「インデックス様?」

「今更間に合わないでしょうから…後はあの子の判断に任せましょう」

 カラーの女王は、自由奔放過ぎる一人のカラーを思ってため息をつくしかなかった。

 

 

 

「これです」

 ハウゼルが用意したのは少し大きめのうし車だ。

 そしてうし車から灰色魔物兵が出てくる。

「これでいいですか? ハウゼル様」

「モンスター!?」

 声の主は女なので、中身は女の子モンスターなのだろう。

 ブリティシュは警戒するが、それをハウゼルが諫める。

「この子は大丈夫です。それよりも予定通りにしなさい」

「分かりました、ハウゼル様」

 魔物兵は御者台に乗り込み、何時でも出発できる準備をする。

「大丈夫なのか?」

 スラルの言葉にハウゼルは目を伏せる。

「ええ。魔物達も生き残るのに必死なんです」

 実際にほとんどの魔物は魔物牧場で生まれ、そして直ぐに処刑される。

 野良モンスターはその点処刑される心配は無いが、それでも好き勝手出来る訳では無い。

 魔物スーツを纏った同胞に殺される可能性も有るのだ。

 だが、そんなモンスターの中でも魔人の配下につけば安泰なのだ。

 勿論完全では無いし、中には配下に魔物をつけない魔人も居る。

 ケッセルリンクは優秀な使徒が居るので魔物兵は必要無いし、レイは一匹狼なので配下の魔物を持たない。

 カミーラのように魔物兵を組織立って動かしている者、魔物兵を使ってケスチナを守らせているレッドアイ、配下を使って女を集めているメディウサのような者も居る。

 その魔人の中でも温厚で心優しいハウゼルに拾われたとあればまさに一生が安泰なのだ。

 そしてこの女の子モンスターはその機会を掴んだ。

 ハウゼルの言葉には絶対服従、例え彼女が人間と何かをしようともそんな事は自分の人生には関係無いのだ。

 生きるために必死なのは人間だけでなく、モンスターも同じだった。

「では予定通りに。皆さん、うし車に乗って下さい」

 ハウゼルの合図にランス達はうし車に乗る。

 ランス、スラル、レン、日光、ブリティシュの5人が馬車に乗っても問題が無いくらいに広い。

「この荷物は何だ?」

「ランスさんに許可を貰って頂いた本です。あの方の書いた書物以外は持って行っていいと言われたので…まずかったですか?」

 スラルの言葉にハウゼルは気まずそうにしている。

「いいんじゃない? どうせあってもランスは読まないし。スラルだってそんなに興味は無いでしょ」

「…別に興味が無い訳では無いが…まあランスが決めたなら従うさ」

「皆さん、乗ったら念のためそこのシーツを纏ってください。魔物兵が魔人である私の荷物を見るとも思えませんが、念のためです」

 ハウゼルの指摘にランスは置かれていたシーツを手に取る。

 その時、ランスは一つの違和感に気づいた。

「…そこだ!」

「あ、見つかっちゃった…」

 ランスがシーツを剥ぎ取ると、そこには一人のカラーが居た。

「ウトスカ! あなた、何時の間に…」

「えへへ…スカウトの技能を持つ私の力が必要だと思って。それにランスさんと魔人の戦いはカラーの誰かが見届けないとと思って」

 ウトスカは何時のも柔和な笑みの中に強い意志を持ってランスを見る。

「どうする、ランス」

「今から戻れと言っても戻らんだろ。それならついて来てもいいだろ。それにレンなら万が一も無いだろ」

「それはね。でも、私としてはランスを守るのが第一だけどね。ブリティシュにやらせればいいんじゃない?」

 レンの言葉にランスはブリティシュを見る。

 確かにブリティシュは強い…その上、ランスの女に色目を使わない。

 ただ、顔立ちは整っているし女にはモテるタイプだろう。

 つまりは、ランスにとっては嫌いなタイプだ。

 だが、ブリティシュはランスにとってはリックと同じくらいには安全圏の男だとも思っている。

 この男はリックと同じくお堅いタイプだとランスは感じ取っていた。

「まあいい。おいお前、ウトスカを傷つけるなよ。お前はどーなってもいいが、ウトスカが傷つくのは許さんからな」

「分かってるさ。それに彼女の力は僕も存分に知っている。彼女を守ってみせるよ」

「フン、言った事は必ず守れ。よし、じゃあ行くぞ」

 ランス達はシーツを被り、外から見えないように態勢を低くする。

 ウトスカは気配を殺して馬車の後ろから周囲を警戒するようだ。

「では行きなさい」

「はい。ハウゼル様」

 ハウゼルの合図でうし車は走り出す。

 うし車の速度は結構早く、魔物の邪魔も無いため大した時間もかからずに進められた。

 流石に一日は日が落ちるが、魔人であるハウゼルが居るので何も問題は無かった。

 幸いにも野良モンスターにも魔物兵にも出会う事無く再びメディウサの城の近くに来ることが出来た。

「あそこが魔人の城か…」

 ブリティシュはメディウサの城を鋭く睨む。

 魔人は敵であり、特にメディウサは女性を嬲り殺しにする憎むべき存在だ。

「ですがランス殿…このまま乗り込むのは無謀ではありませんか?」

「問題無い。以前俺様はこの城に乗り込んだからな。あの時も警備もズボラだったしそんなもんだろ」

「逆に警戒を強めている可能性は? 君達が以前に使っていた通路も使えないかもしれない」

 日光とブリティシュの疑問は尤もだ。

 ランスもその辺りは少し考えていたが、

「大丈夫だと思いますよ。何しろ相手はメディウサですから。ランスさん達が侵入した事すら気づいてないのではないでしょうか」

 ハウゼルが少しの呆れを混ぜて言葉を出す。

「どういう事?」

「メディウサは怠惰ですが苛烈で下のミスに容赦しない魔人です。そんな魔人に自分達の汚点を報告するとは考えられませんから…」

 ハウゼルのうし車がメディウサの城に近づくと、流石に魔物兵達がそのうし車に近寄って来る。

「止まれ! 何者だ!」

 魔物隊長の言葉にハウゼルがフードを取る。

「私です。何か問題でも?」

「あ…ハ、ハウゼル様!?」

 魔物隊長もまさか魔人が出てくると思わず、魔物隊長と魔物兵が一斉に跪く。

 うし車の中身も確かめようとしない、絶対的なヒエラルキーが存在していた。

「ど、どうしてハウゼル様がここに…」

「私が自分の意思で何処に行こうと私の勝手では?」

「そ、その通りでございます! おいお前等! 持ち場に戻れ!」

 魔物隊長の合図で魔物兵が持ち場に戻っていく。

 それを見てハウゼルは改めて言葉を放つ。

「少しうし車を休ませたいですけど構いませんね」

「あ、も、勿論です! 存分にお休みになって下さい!」

「分かりました。私も少し集中したいので声をかけないでくださいね」

「か、かしこまりました! 他の者にも伝えておきます!」

 そう言って魔物隊長は報告すべく戻っていく。

「…大丈夫ですよ。それで何処にうし車を止めればいいですか」

「裏側の方だ。そっちに魔物兵が居たら教えてくれ」

 スラルの言葉にハウゼルは魔物兵に指示を出し、スラルの言った方向にうし車を走らす。

 やはり魔人ハウゼルが居るせいか、魔物達はこちらに近寄る事もしない。

 魔人とは魔物にとっても恐ろしく強い存在なのだ。

「ランス。あそこが以前の我等の脱出ルートだ。しかし…本当に誰も居ないのだな」

 スラルは以前に脱出したルートを見るが、見事に誰も存在していない。

 見張りすら存在していない。

「随分と無警戒というか…いや、当然か。魔人が外敵を恐れる理由は無いからな」

「それよりも行くぞ。ハウゼルも少し待っていろ」

「分かりました。気を付けて下さいね」

 ランス達はうし車を降りると、以前に脱出したルートへと侵入する。

 本当に見張りすら存在せず、魔人の城だというのに拍子抜けするくらいに何も無い。

「…あっさりと侵入できたね」

 ブリティシュも正直この展開には驚いている。

 魔人の手引きがあるとはいえ、まさかこんなにも簡単に魔人の城に侵入できるとは思っても居なかった。

「…血の匂いが凄いですね」

 日光はむせ返るような血の匂いに顔を顰める。

「そういう所だ。だからさっさと片付けるぞ」

「それにしても本当に誰も居ないわね。私達が以前に侵入した事も魔人は知らないのかしらね…本当に」

 レンも呆れた声を出す。

 そしてレンの言う事は…全てにおいて正しかった。

 そう、魔人メディウサは以前にランス達が自分の城に侵入した事にすら気づいていない。

 正確には、配下の魔物兵達がメディウサに報告するのを止め、事実を隠蔽したのだ。

 誰も好き好んであの恐ろしいメディウサに対して、自分達の怠慢を馬鹿正直に話す訳が無いのだ。

 人間達に殺された魔物兵の死体を片付け、あの日には何もなかった…それが魔物将軍が下した結論だった。

 ハッキリと言えば、魔物兵達も生きるために必死であり、自分達のミスを報告する事でメディウサの怒りを買う事を恐れたのだ。

 やる気も殆ど無い魔物達が殆どで、メディウサの城の警備はザルと言っても良かった。

 そもそも、この時代で魔人に対して警備なんて必要無いのだから。

「これは…」

「酷い…」

 進んで行くと、無数の女性の死体が無造作に転がっていた。

 何れも凄惨な拷問を受けたかのように傷ついており、まともな死体は一つも無い。

 誰もが死の恐怖を味わわされて殺されていた。

「行くぞ。とっととメディウサを殺すぞ。道は分かってるからな」

 ランス達は以前にこの城に潜入した事が有る。

 その時マップを作成していたので、魔人の居る所までは簡単に分かる。

「じゃあ行きますよ…」

 ウトスカは警戒しながら扉を開ける。

 気配は微塵も感じられず、魔人の城だというのに非常に静かだ。

「えーと…こっちですね」

 ウトスカはスラルから預かった地図を見ながら進んで行く。

 気味が悪いくらいに魔物兵とも遭遇しない。

 それもそのはず、そもそもここに居る魔物兵にはやる気など微塵も無いのだ。

 何時もと同じようにだらけていても何も問題は無い、それが当たり前になってしまったのだ。

 それは魔物隊長や魔物将軍も同じで、職務をまともに全うしようとする者など一体も居ない。

「…気味が悪いくらい簡単に進むね」

 魔人の城とは思えぬくらいの警備の薄さにブリティシュは逆に不安になる。

 罠を疑いたくなるが、実際にはそんな事は全く無い。

「ランス殿。私は剣になりますか? それとも私自身が無敵結界を斬りますか?」

 日光はランスが居れば自ら『聖刀日光』を振るう事が出来る。

 ランス程の威力は出せないが、日光の剣の腕前も非常に高いので問題は無かった。

 手数が増える分、相手によっては彼女自身が刀を握った時が良い事もあるだろう。

「お前が斬れ。ただし、斬るのは相手が油断しきった時だ。それまでは手が出ない演技でもしてろ」

「分かりました」

 前の時と同じように、魔人を油断させ隙を見せた所で一気に攻める。

 ランスの言葉通り、日光は『聖刀日光』を強く握る。

「近いわね」

 レンの言葉通り、殺風景だった城が少し豪華になっていく。

 上質の絨毯や燭台が並び、そこに魔人が居るのを嫌でも理解させられる。

 同時に魔人の持つ独特の気配が強くなっていく。

 そして一際豪華な扉につくと、ランスは躊躇う事無くその扉を蹴破る。

「がはははは! 見つけたぞメディウサ! お前は絶対に許さん! 覚悟しろ」

「うぎゃあああああああ!」

 ランスの声に応えたのはメディウサの声では無く、恐ろしいまでの人間の悲鳴だった。

「…誰よ、アンタ」

 そして魔人メディウサはそこに居た。

 股間から生えた蛇が人間の女の腹を食い破り、血まみれになりながらも笑っていた。

「…絶対ぶっ殺す」

 こうして魔人メディウサとランスの戦いが始まろうとしていた。

 




呪いの質に関してはこんな呪い有る訳ないだろ…と自分でも思いました
でもメディウサならこれくらいしないと絶対意味無いと思いましたので…
まあ本編であれだけ活躍してたなら、これくらいしてもいいよねと自分を誤魔化しています
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