ランス再び   作:メケネコ

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乱入者

 メディウサはへびさんという女の子もモンスターの象徴とも言える蛇が斬り飛ばされるのを茫然と見ていた。

 それはまさにありえないはずの光景だった。

 魔人には無敵結界があるので、誰であろうとも負けるはずが無い…はずだった。

 だが、目の前にはそのありえない光景が広がっていた。

 自分の象徴とも言える股間の蛇が人間の刃によって断ち切られた。

 血飛沫が蛇から飛び散るが、メディウサはしばらく茫然としていた。

「い、痛い痛い痛いいたいいたいいいいいいい!?」

 が、もの凄い激痛と共に剣を落としてのたうち回る。

「フン、それくらいの痛みがどうした。お前に殺されたカラーの苦しみはこんなもんじゃないだろ」

 ランスはのたうち回っている蛇の頭をその剣で突き刺す。

 蛇は動かなくなり、ランスはそれを無造作に蹴とばす。

「ファイヤーレーザー」

 その蹴とばされた頭はスラルによって燃やされ、消滅する。

「ランス殿、止めを刺しましょう」

 日光は刀を構えてメディウサに近づく。

 ただ、相手は魔人なので最大限の警戒をしながら近づく。

 もし魔法が来ても、レンが近くに居るので多少の事なら問題は無いだろう。

「まあ待て。こいつはカラーの呪いを受けたからな。そんな簡単に死んだらカラーの気も晴れんだろ」

 ランスは女であろうがメディウサには一切の容赦が無い。

 カラーを苦しめた挙句、あれほどの無残な姿にした奴は流石に女でも抱く気にはなれなかった。

「な、何で…!? さ、再生しない…!」

 メディウサは自分の体を苦しめる痛みに悶えながら涙を流す。

 どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか、ただただ自分可愛さゆえの身勝手さで涙を流しているのだ。

「がはははは! それはお前がカラーの呪いを受けたからだ。お前がカラーを殺してきたから悪いんだ。自業自得だな」

 ちなみにランスがパステルに呪われて禁欲モルルンをかけられたのも自業自得なのだが、それを棚に上げてメディウサを嘲笑する。

「の、呪い…?」

「そーだ。お前は今から女に対して全く欲情しなくなるんだ。それも一生な」

「な、何を勝手な事を…こ、殺してやる! 皆殺しにしてやる!」

 痛みそして人間相手に嘲笑された屈辱にメディウサは激怒しながら襲い掛かって来る。

 だが、ランスに斬られた傷は大きく、そんな動きではランス達の相手にはならない。

「はっ!」

「ひ…あ…あああああああ!」

 日光の刀がメディウサの胸を貫く。

 メディウサは自分の最大の能力である再生能力が全く機能していない事に恐怖を覚える。

 そして股間の蛇は再生する様子を全く見せず、その傷は燃えるように熱い。

 その時、メディウサの部屋の石の扉を破壊し、魔物隊長が魔物兵を率いて部屋へと入って来る。

「ご無事ですか! メディウサ様! …え?」

 そして目の前に広がる攻撃に思わず茫然とする。

 そこには血塗れのメディウサが涙を流しながら痙攣していた。

 それは魔物からすればありえない光景、あの恐怖の象徴である魔人メディウサが血塗れになって倒れているのだ。

「フン、雑魚どもが態々殺されに来たか。だったら死ねー----っ!!」

「え? うぎゃああああああ!」

 魔物隊長が真っ先にランスに斬り殺される。

「ファイヤーレーザー!」

「エンジェルカッター」

 そしてスラルとレンの魔法が魔物兵に突き刺さり、魔物兵はうめき声一つあげる事が出来ずに死んでいく。

「に、逃げろー!! メ、メディウサ様がやられたー!」

 もう一体の魔物隊長が恐怖に震えた声で逃げ出す。

「た、隊長!?」

「ひ、ひいいいいいい! に、逃げろー!」

 そして魔物隊長が逃げ出してしまえばあとは脆い物、魔物兵達は一目散に逃げだしていく。

 誰もメディウサを助けようとする者も居ない。

 それも無理はなく、魔人ですら敵わなかった相手に何故自分達が対抗できるというのかという事。

 そしてメディウサのために命をかけようと思う者も存在しないという事が合わさったのだ。

 結局は、自分の人望の無さがメディウサを見捨てるという行動に繋がってしまった。

「あ、ま、待って…」

 メディウサは茫然と逃げていく魔物兵を見ていた。

 ついに自分は雑兵である魔物兵にすら見捨てられてしまったのだ。

「フン、つくづく哀れな奴だな。まあそれも自業自得だな」

 ランスはそんなメディウサに全く同情などしない。

 ランスの言う通り、これは自業自得の結果なのだ。

 これまで好き勝手にして来たのだから、その報いを受けているだけなのだ。

「ど、どうして…」

 メディウサは茫然とするしかなかった。

 これまであった戦意は完全に抜け落ちてしまっていた。

 あれほど魅力的に見えていた女が、今では全く別の存在に見えるようだ。

 美しい姿をしているというのは分かるのに、何も思う事が出来なくなってしまっていた。

「流石はインデックス様とリディアの呪いですねー。カラーを殺してきたあなたが悪いんです。という事で呪いびーっと」

 ウトスカが一つのクリスタルを取り出すと、そのクリスタルが砕けで更なる黒い霧がメディウサを包む。

「ウトスカ…何をした?」

「んー…死んだのはリディアの家族だけじゃ無かったんです。私の妹も…こいつに殺されてたんです」

 ウトスカは今までの気楽な表情を消し、メディウサに対して激しい憎悪をぶつける。

 あの時のクリスタルの無念がウトスカに語り掛けてきたのだ。

 だからこそ、ウトスカは今回のランスの戦いに無理矢理にでも参加したのだ。

「私がかけたのは普通の呪い。女とのセックスで満足できなくなる普通の呪い…リディアの呪いに比べたら大したことないけど…でも…」

「ウトスカ」

 泣きながら震えているウトスカを日光が抱きしめる。

 彼女もまたリディアと同じく家族を殺されたカラーだったのだ。

 そしてその家族の無念を晴らす事が出来たのだ。

「フン、お前の自業自得だ。まあこのままお前が呪いでくたばるのを見るのも良いが…やっぱり殺すか」

 ランスはメディウサのベッドの側に転がる無数の死体を見て笑みを消す。

 やはりこいつは生かしておいても全く良い事は無い。

 ここは後腐れなくこいつを始末するべきだと判断した。

 カラーの呪いの結末が見れなくなるのは残念だが、それでも後顧の憂いはここで潰しておくべきだ。

 ランスが剣を構えてメディウサの首を刎ねようとした時、凄まじい衝撃と共に壁が吹き飛ばされる。

「うおっ!?」

 流石のランスもそれには驚き、メディウサから距離を取る。

「…何故お前がここに」

 スラルは驚愕に目を見開く。

「…フン、私が何処で何をしようと私の勝手だ。それは昔からそうだったはずだ…スラル」

 壁を吹き飛ばして入って来たのは、魔人カミーラだ。

「魔人!?」

「これは…」

 突然現れた魔人にブリティシュと日光は冷や汗をかく。

 何故なら、目の前に現れた魔人の圧倒的な力を感じ取ったからだ。

 それは魔人メディウサとはまさに桁が違う、それこそあの時に戦った魔人ケッセルリンクと同じくらいの気配を放っていたからだ。

「うげ、カミーラ…」

 ランスもまさかこんな所でカミーラが乱入してくるとは思っても居なかった。

 メディウサは突然現れたカミーラに対して喜色を浮かべる。

 誰であろうと、自分を助けに来てくれた、そう思ったからだ。

「カ、カミーラ! た、助けておくれよ! そ、そこの人間を殺してくれ!」

 その言葉にカミーラはメディウサを一瞥すると、そのままメディウサの首を掴むとそのまま壁に向かって投げ捨てる。

「うぐっ!」

「誰にものを言っている…魔人の恥晒しが。だが、相手が相手だ…最初から貴様など役不足だっただけの話だ」

 カミーラのあまりにも冷たい視線にメディウサは何も言えなくなる。

 それは自分よりも圧倒的に強い存在から向けられる侮蔑の視線だった。

 それで全てを理解する、この魔人は自分を助けに来た訳では無いと。

 いや、それどころか自分の事など最初から眼中に無いのだと。

「ランス…魔人の無敵結界を破る手段が見つかったようだな」

「おう。俺様ならば余裕だ余裕」

「フッ…何にせよこれでお前はこのカミーラと対等に戦う権利を得た、という事だ」

「お前は昔から無敵結界なんて使ってなかっただろうが」

 ランスとカミーラの会話にブリティシュと日光は困惑する。

 会話の内容からして、間違いなくこの二人は知り合いである事は間違いない。

 だが、その関係は決して良いものでは無いのは分かる。

「ランス、ようやくその日が来た。このカミーラの血を受け、お前はこの私の前に跪くのだ」

「だが断る! 俺様が誰かに跪くなどありえんからな! 逆にお前が俺様の女になるのだ!」

 ランスは剣を構えると、レン達も戦闘態勢に入る。

 カミーラはそれを見て悠然と微笑む。

「フム…成程、メディウサを蹴散らせるだけあり、中々の獲物を集めたか。まあいい…貴様等全員で来ても構わぬ。ランス、今日こそ貴様は我が使徒となるのだ」

「フン、お前のその言葉もいい加減に聞き飽きたぞ」

「私もだ。ならば最早言葉はいらぬな。来るがいい、人間よ。この魔人カミーラが直々に相手をしてやろう」

 カミーラは翼を広げると、そのまま宙に浮かぶ。

「…アレは何だい」

 ブリティシュはカミーラを前にしてもその戦意は消えない。

 だが、目の前の存在の異常な強さは嫌でも理解してしまっている。

「魔人四天王の一人、ドラゴンの魔人であるカミーラだ。ハッキリ言っておく、メディウサのような魔人と一緒にはするなよ」

「一緒にされるのは流石に不愉快だ。だが許そう、お前達がこのカミーラを楽しませるというのならな」

カミーラはまずはあいさつ代わりと言わんばかりに魔法を放つ。

「氷雪吹雪」

 それは凄まじい魔力となってランス達を襲う。

 魔人メディウサの魔法とはまさに桁が違う、それを思い知らせられる威力だった。

「光の壁!」

 レンの魔法がランス達を包むが、カミーラの魔法はそれを容易く破る。

 そしてカミーラはそのままランスに接近するが、それはランスも同じだった。

 カミーラに対しては守りに入れば不利になる。

 それをランスは身に染みて分かっている。

 力押しの魔人というだけでなく、空を飛べるうえに魔法も使え、ドラゴンのブレスを放ってくる。

 その中でもこちらの必殺技や魔法を阻害するブレス、そしてこちらを痺れさせるブレス、そして破壊力のあるブレスは非常に厄介だ。

 搦め手を使われてジリ貧になるくらいなら、速攻でカミーラを倒す。

 それがランスの出した結論だった。

 ランスの剣とカミーラの爪がぶつかり火花を散らす。

「ククク…成程、あの時から変わったな。だからこそ狩り甲斐があるというものだ」

 カミーラはランスの剣を見て楽しそうに笑う。

「フン、お前は何も変わっとらんがな」

 ランスはカミーラの爪を受け流し、そのままの勢いでカミーラの体を狙って剣を振るう。

 カミーラは翼を素早く動かし、その翼から放たれた衝撃波でランスの剣の動きを止める。

「スノーレーザー!」

 ランスに攻撃を加えようとするも、スラルの放った魔法がカミーラを吹き飛ばす。

 壁に叩きつけられるカミーラだが、ダメージそのものは小さいようで直ぐに態勢を立て直す。

「無敵結界を使っていない!?」

 日光はカミーラがスラルの魔法を受けて傷を受けた事に驚く。

 自分はまだカミーラの無敵結界を斬っていないのに傷を負った。

 という事は、この魔人は最初から無敵結界を使っていなかったという事になる。

「こいつは昔からだ。俺様と戦うのに無敵結界は必要無いだと」

「そんなに昔から戦っているのかい」

 ランスの言葉にブリティシュは驚く。

 こんな魔人と昔から戦っていたのだとしたら、ランスがこれ程までに強く、そして魔人の事も詳しいのも納得がいく。

「弱点とかは無いのかい」

「無いぞ。こいつは本当に普通に強いタイプの魔人だからな」

 そう、カミーラは真っ当に戦えば本当に強い魔人だ。

 空を飛べ、魔法を使え、ブレスも使え、その上接近戦もこなせる万能タイプの魔人だ。

 全てが高い水準で纏まっている非常に厄介なタイプだ。

「フン…人間の中にもそこそこ使えるのが居るか。だが、そうで無くてはつまらぬな…」

 カミーラは酷薄に笑うが、それでも非常に楽しそうに見える。

「随分と戦闘狂になりおって。お前本当にグータラしてた魔人なのか」

「…怠惰で有る事は否定はしない。だが、お前にそこまで卑下される覚えは無いな」

 流石のカミーラも不愉快そうに顔を歪める。

 そしてそのままランスから距離を取り、大きく息を吸い込む。

「私の後ろに下がりなさい!」

 それを見てレンが盾を構えて皆の前に出る。

 するとカミーラから強烈なブレスが放たれる。

 それはカミーラの得意とする破壊力のあるブレスだ。

 カミーラのブレスはランス達全員を飲み込む。

「ぐわああ!」

「うぐっ!」

「きゃああああ!」

 ブリティシュと日光とウトスカはレンの防御壁の上から吹き飛ばされる。

 レンの防御があっても尚この威力、魔人四天王の強さを思い知らされるブリティシュと日光。

 しかし、ランスとスラル、そしてレンは全く怯まなかった。

 勿論無傷では無いのだが、それくらいでランス達は慌てもしない。

 そしてそれはカミーラも同じ、ランスとレンが突っ込んでいるのを慌てる事も無く迎え撃つ。

 ランスの剣は魔人にとっても脅威ではあるのだが、カミーラは当然の事ながらそんな事では臆しない。

 多少傷がつこうが、魔人の体力と再生能力でランスに対して優位に立っている。

 いかに技能レベルが3あっても、魔人と人間の力の差は激しい。

 逆に言えば、ランスがとてつもない技能を持っているという事だ。

 しかしその技能をもってしても、カミーラという壁は厚くて高い。

 それこそが、怠惰の部分を無くした魔人四天王のカミーラの力だった。

「スノーレーザー!」

「フン…」

 スラルの放った魔法をカミーラはその腕で受ける。

 クリスタルリングをつけているはずのスラルの一撃でも、カミーラには通用しない。

 少し顔を顰めた程度で、その傷も直ぐに再生してしまう。

「ここで終わるか…続けるか…どうする、ランス」

「フン、俺様が負ける訳が無いだろうが!」

 カミーラの挑発にランスは突っ込んでいく。

 ランスの剣の威力は凄まじいのだが、やはりそれが魔人が相手ならば話は変わる。

 ランスの剣はカミーラには当たるのだが、カミーラは全く怯まない。

(こいつ…滅茶苦茶強くなってるぞ)

 以前に戦ったカミーラとは比べ物にならない程に強くなっている。

 魔人なのに人間相手に全く油断せず、確実な方法でランスを相手取っている。

「お前も強くなっているようだが…それは私も同じという事だ」

 そう、カミーラもまた強くなっていた。

 時代を飛ばし飛ばしで移動させられているランスと、常に己を鍛えてきたカミーラ。

 その時間がランスとカミーラの間に大きな壁を作っていた。

「知るか! 俺様は絶対に負けん!」

「ククク…それでいい。貴様を完膚なきまでに叩きのめす。それでこそこのカミーラの力を示せるのだ」

 カミーラの爪がランスに襲い掛かる。

 ランスはカミーラの爪を弾くが、その重さが増している。

「カミーラ!」

 スラルが魔法を放つが、それもカミーラの高い防御力の前に防がれる。

「…うるさいな、スラル」

 カミーラはランスの胸倉をつかむと、そのままレンに向かってランスを投げつけた。

 投げつけられる際にランスはカミーラの腕を傷つけるが、その程度では全くカミーラにはダメージにならない。

「ぐうたらカミーラがよくもまあここまでになったものだな」

「貴様のおかげだな」

 スラルの皮肉にカミーラもまた皮肉で返す。

「スノーレーザー!」

 スラルの魔法がカミーラに直撃するが、全く応えていない。

 そしてカミーラの強烈な蹴りがスラルの腹部に突き刺さり、スラルは吹き飛ばされる。

「カハッ!」

 スラルは蹲って吐血する。

 いかに元魔王であっても、今の肉体は人間と殆ど変わらない。

 魔法使いのスラルが魔人の一撃をまともにくらってもその程度で済んでいるのは、スラルのレベルの高さがあってだろう。

「スラルちゃん! カミーラ! 許さん!」

「落ち着きなさいよ!」

 怒るランスをレンが必死に抑える。

 カミーラはランスを挑発してこのような行動を取っている。

 全てはランスを完膚なきまでに叩きのめすためにだ。

「離せレン!」

「生憎とそういう訳にはいかないのよ。私の役目はあんたを守る事!」

 カミーラはランスに対して魔法を放つ。

 レンはそれを持ち前の防御技術で防ぐ。

 それを見てカミーラは笑う。

「フン…レン、やはり貴様は一筋縄ではいかんか。だが…それもここまでだ」

 カミーラは再び大きく息を吸い込むと、そのままランスに向かってブレスを放つ。

 レンはランスに直撃するはずのブレスを盾で受け止める。

 先程の破壊力のあるブレスよりは威力は少ない。

 だが、レンは地面に片膝をつく。

「しばらく黙っていろ。ランス…これで邪魔者は居ない」

 そのままランスに突っ込んでいくカミーラだが、そのカミーラの前にブリティシュが立ちふさがる。

「勝手に戦力外にしないで欲しいな!」

「邪魔をするな」

 カミーラは構わずにブリティシュに向けてその凶悪な爪を向ける。

 それでブリティシュを倒せるとカミーラは思ったが、なんとその爪がブリティシュの盾の前に割れる。

「!」

 カミーラもまさか人間相手に自分の爪が割れるとは思っても居なかった。

「返す!」

 ブリティシュはそのまま盾をカミーラにぶつける。

 それだけでカミーラは吹き飛ばされ、割れていた爪は砕けてしまった。

 勿論魔人なのでその爪は直ぐに再生するのだが、まさかランス以外にこんな事を出来る人間が居るとは思わずカミーラも隙を晒してしまった。

 そしてランスはその隙を見逃さない。

「ランスシュート!」

 ランスは手に持った剣をカミーラへと投げつける。

 一直線に飛んでくる剣をカミーラはその翼で弾き飛ばそうとするが、ランスの剣は非常に重く完全に威力を殺す事は出来なかった。

 翼の一部が斬り裂かれ、流石のカミーラもさらにバランスを崩す。

 カミーラは直ぐに態勢を立て直す。

 ランスの剣はランスの意思で手元に戻ってくるのは知っている。

 なのでそのための備えをしていたのだが、カミーラの予想は完全に覆された。

「ラーンスアターーーーーーック!」

「!」

 ランスの手に握られていたのは一本の刀―――即ち聖刀日光だ。

 だが、カミーラも流石はドラゴンの魔人であり、魔人四天王という立場で有ると言えた。

 自分に迫る刀を見て、カミーラは言いようの無い寒気を覚えた。

 普通ならば真正面からランスの剣を受け止めるのだが、カミーラは攻撃を回避するという手段を取った。

 しかし、それは一瞬遅かった。

 ランスの必殺の一撃はカミーラ体を斬り裂く。

「ぐ…!」

 カミーラは呻くが、それでも魔人四天王は全く怯まなかった。

 ランスに向けてその爪を振るってくる。

 ランスはそれを右手で持った日光で受け止めると、

「来い!」

 己の剣を呼びその左手に剣が収まる。

(これは…)

 カミーラはランスに斬られた部分の傷の治りが遅い事に気づく。

 これまで他の魔人とも争っていた事も有ったが、その時にもここまで傷の治りが遅い事は無かった。

 体から力が抜けていくのが嫌でも分かり、今更ながらランスの持つ刀から伝わる凄まじい魔人への殺意に気づく。

(そうか…これが魔人を倒す力という訳か)

 それに気づいて尚―――カミーラは笑った。

「ククククク…成程、お前以外にも魔人を殺すために動き…そして結果を出した人間がいる訳か。この殺意…久々の感覚だ」

「そうです。これこそが人間の力です」

 刀から聞こえてくる女の声にもカミーラは尚も笑う。

「ランス、貴様という人間にはつくづく驚かされる。だからこそ…面白い」

 ランスの剣を受け止め、日光には触れぬようにカミーラは体を動かす。

(こいつ…何時の間にこんな技を)

 カミーラがランスの剣をあっさりと避けた事にランスは驚く。

 魔人と言うのは確かに強いが、ここまでの技術を見せた魔人は少ない。

 力押しだけでも十分に脅威であり、その最もが魔人ノスであり、ゼスでのカミーラだった。

 しかし、今のカミーラには洗練された技術が存在していた。

「フン、俺様の剣を見切れると思うなよ」

「見切る必要は無い。そんな事をしなくても私は勝つのだからな」

 腹部から血を流しながらも、カミーラの攻撃は激しくなる。

 傷をつけられた事に逆にカミーラは闘争本能を増していった。

 やはりカミーラもドラゴンなのだ。

 カミーラは爪だけでなく翼も使ってランスを狙う。

 ランスは当然のようにその不意打ちを防ぐ。

 攻める事が殆どだったランスだが、こうした防御技術も本能で開花していた。

 やる気が無いのがランスの欠点だが、強力な魔人との戦い、そしてLP期からかけ離れた環境がランスを否応にも強くさせていた。

 その結果はランスを確かに強くした―――が、同時にそのランスを己のものにするためにカミーラを刺激もした。

「フン」

「げ!」

 カミーラの強烈な蹴りがランスに襲い掛かる。

 ランスは呻きつつもその蹴りを剣の腹で受け止める。

 だが、その衝撃までは完全に殺す事が出来ず、カミーラとの距離が開いてしまった。

 そうなるとカミーラの取る行動はもう決まっている。

「ファイヤーレーザー」

 そう、ランスに有効なのは遠距離攻撃。

 ブレスはランスに斬られる事は分かっているので、カミーラは魔法攻撃に切り替えたのだ。

 だが、それはランスにとっては非常に運が良かった。

 カミーラが知らない新たな力、そしてカミーラが選択した魔法。

 それらが完全にランスの味方をした。

 ランスはカミーラの放った魔法に突っ込み―――その魔法をランスの剣で受け止めた。

 するとその魔法がランスの剣に吸い込まれるように消えていく。

「!?」

 流石にその結果にはカミーラも目を見開く。

 いくらランスがドラゴンの加護を装備して居ようとも、魔人カミーラの魔法を完全に防ぐ事など出来ない。

 その目論見もあっての魔法だったのだが、まさか無効化されるとは考えもしなかった。

「ランスあたたたたーーーーーック!!!」

 ランスの必殺の一撃にカミーラは動こうとしたが、それはもう遅かった。

 まだ距離が有るので完全は無いが避けられるとカミーラは思っていたが、それはカミーラの予想もしなかった一撃が放たれた。

 ランスの剣から放たれた紅い閃光がカミーラを飲み込んだのだ。

 それは強烈な炎であり、その熱気がカミーラを包み込んだ。

「あちちちちち!」

 ランスは思わず剣を離す。

「ランス殿、大丈夫ですか?」

「勢いのままやったが、やっぱいかんな」

 カミーラのファイヤーレーザーを吸収した事でスラルとの合体技のような事が出来たのだろう。

 それが制御できずに持ち手であるランスすらも傷つけたのだ。

「! まさか…」

 炎が収まった時…そこにはまだカミーラは立っていた。

 全身が炎に包まれたにも関わらず、その美しい容姿は全く変わっていない。

「…流石に驚いたな。お前はどこまでも私を楽しませる。だが、それだけでは私は倒れないな」

 カミーラはまだ悠然と微笑む。

「お前も大概にしつこいな。まあ俺様なら…」

 ランスが言葉を続けようとしたが、その言葉が出てこなかった。

「ランス殿!?」

 日光はランスを見るが、あのランスが冷や汗を流している。

 そして日光自身も刀であるにも関わらずに凄まじい寒気がしてくる。

「あ…あ…」

 カミーラに投げ捨てられぐったりしていたメディウサは逆に歓喜の声を上げる。

「…まさか」

 カミーラも大きく目を見開き、自分自身が明けた穴を見る。

 そこに居たのは…全裸で長い水色の髪を靡かせた異形の手足をもった存在。

 だが、そこに居るだけで圧倒的な絶望感を与えてくる存在。

「魔王…ジル…」

 日光の震えた声だけがその場に響き渡った。

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