「チッ! ったくやりにくいったらありゃしないぜ!」
魔人レイは毒づきながらも楽しそうに笑みを浮かべる。
ガイとの戦いはレイとしてもスリルが有り、楽しいものだ。
自分の力をフルに生かす事が出来ない状況だが、そんなものはレイにとっては当たり前だ。
一度戦ったなら相手も当然対策してくる、それが良く分かる戦いとなっている。
「スノーレーザー」
何処からか放たれる魔法がレイに直撃する。
それは人間の放つ魔法とは思えない力で、魔人であるレイですらも優に吹き飛ばし、大きなダメージを与える一撃だった。
「ったくよ…やってくれるぜ」
相手がどんな手を使っているかは分からないが、レイからは全く相手を認識出来ない。
それはガイの放った幻覚魔法で、まるでホログラムのように無数の相手が見えているからだ。
最初に無敵結界を斬られた後は徹底して遠距離からの魔法で攻められる。
幸いにも魔人の再生能力は働いてはいるが、それも戦いが長引けば大きな疲労となってガイを襲うだろう。
(戦い方もアイツ並に姑息…いや、徹底してやがるか)
こちらに何もさせない戦い方とは少し違うが、ランスと同じくらいやりにくい相手であり―――同時に駆け引きが面白い相手だ。
(ここに誘い込まれた時点で俺が不利って訳か…前の戦いで俺への対策は万全って訳か)
レイは帯電体質で、強力な電撃の使い手ではあるが、今の状況ではその力を100%出すのは難しい。
(まさか俺と戦うためにここら一帯を沈めるなんてな…ランス並みの無茶をしやがる奴だぜ)
ガイと再び戦うべく探していた時、偶然見つける事が出来た。
が、今思えばその偶然も疑わしいものだ。
あっというまにここに誘い込まれ、一気にその地面が崩れ地下に叩き落とされた。
ここではレイの得意の雷雲の力も発揮できない。
そして無敵結界を斬られた後は、幻覚による攪乱と徹底した遠距離攻撃だ。
(こりゃヤバイな…最初から最後まで掌で踊らせてるな。まあそんな簡単にやられる気はねえけどな)
「氷柱地獄!」
「っっ!」
先程のスノーレーザーよりも更に強力な一撃がレイを襲う。
いくら防御態勢をとっていても痛いものは痛い。
この状況は流石に拙いと感じ取り―――レイは躊躇う事無く踵を返す。
そしてそのまま闇の中に消えていった。
残されたのは幻覚の中に隠れていたガイとカオスだ。
「…逃げおったな」
「ああ。見事にな。まさか躊躇う事無く逃げるとは思わなかった」
まさか魔人が人間相手に躊躇う事無く逃げるのはガイとカオスとしても予想外だった。
「厄介だな…同じ手は通用しそうにないな」
ガイはここで魔人を倒せなかったのを悔やむ。
いくらガイが常軌を逸した力を持っていたとしても、相手が魔人ならば厳しいのも当然だ。
「クリスタルを一個使って倒せなかったのは痛いな」
以前にカラーを救った時に、掟で自分を追放しなければならなかったとはいえ、自分に対しては温情をかけてくれた時に渡されたカラーのクリスタル。
それを使ってレイを倒そうとしたのだが、それは叶わなかった。
「どうする、ガイ。このまま魔人を相手をするか? それとも一気に乗りこむか?」
ガイの狙いは魔人では無く魔王だ。
このまま魔人と交戦し続けるのも面倒臭い。
「…乗り込むさ。頭を潰すのが一番早い、そうだろう?」
「その通りじゃな! ガイ! お前ならヤれる! 魔王の城に乗り込むぞ!」
ガイは魔人の事を無視し、一直線に魔王城を目指す。
だが―――彼が魔王の元を訪れるのはもう少し先の事となる。
そう、ある存在と戦い、更に己を高めるために。
ハウゼルの家―――
そこでは魔人ラ・ハウゼルが書物を片手に優雅に紅茶を飲んでいた。
ケッセルリンクから貰った茶葉で、その味は非常に美味しい。
そしてランスから貰った本を楽しんで見ている。
何しろGL期では本なんて中々手に入るものでは無いのだが、こうしてNC期以前と思われる書物が沢山手に入るとは思わなかった。
そうして楽しんでいた時、突然の乱入者が現れる。
「ハウゼル! 居る!?」
それは魔人ハウゼルの姉である、魔人サイゼルだった。
「姉さん…たまにはノックして入ってきて欲しいんだけど…」
「そんな事よりも! 大丈夫なの!?」
サイゼルは慌てた様子でハウゼルの肩を揺さぶる。
「ね、姉さん…や、止めて…」
ハウゼルはサイゼルの手を何とか引きはがす。
「あ、ご、ごめん…」
サイゼルはヒートアップしてしまった事を謝罪する。
ハウゼルはため息をつきながら少し乱れた服を整える。
「で、どうしたの姉さん」
「…ってどうしたもこうしたも無いわよ! アンタ誰かにエッチな事されたでしょ!」
サイゼルの言葉にハウゼルはため息をつく。
もしかしたらと思っていたが、自分が抱かれていた感覚は姉にも伝わっていたようだ。
「…しましたよ」
「どこのどいつよ! ハウゼルを騙した奴は! アンタは本当にお人好しなんだから!」
やはり姉は短絡的に行動をしていたようだ。
勿論自分の身を案じての事なのだが、その短気な所は直して欲しいと思う。
「落ち着いて、姉さん。私は別に無理矢理されたとか、騙されたとかそんな事じゃ無いから」
「はああああ!? じゃ、じゃあ自分の意思でエッチな事したって言うの!?」
「それが約束だったし…少なくとも、姉さんが思っているような事は無いから安心して」
「思ったような事は無かったって…何回も何回もエッチしてたでしょうが! 私にまで伝わって大変だったんだから!」
サイゼルは顔を真っ赤にしてハウゼルに詰め寄る。
サイゼルが味わった感覚は1回や2回ではない。
何度も何度も強制的に絶頂を迎えさせられたのだ。
しかもハウゼルはそれを全く拒否する様子も無かったように感じられた。
「それは…悪いとは思ってるけど…」
ハウゼルもまさかランスがあそこまでエッチで、自分の体を求めてくるとは思っていなかった。
人間とはこうまで性行為を求める物かと勘違いしたくらいだ(スラルやレンによってその誤解は解かれている)。
「とにかく! その人間は何処よ! ハウゼルを汚した奴は!」
サイゼルの物言いにはハウゼルも少しカチンと来る。
確かに自分とエッチをしたランスはとんでもないスケベで、複数の女性とエッチもするというとんでもない男だ。
とんでもない男である事は間違いは無いが、それでもあの芯の強さ、そして意思の力は並外れていた。
いくら自分とエッチをしたいからと言っても、魔人である自分と一対一で戦うなんて無謀極まりない事だ。
確かに罠に嵌められたと言えばそうなのだが、それでも最後はハウゼルも全力を出して戦った。
その上での結果なのだから、ハウゼルとしても文句は無かった。
そんな事情も知らず、汚した奴と言われるのは流石に面白くなかった。
「姉さんも知ってる人よ。戦ったんでしょ?」
「戦った…ああ! やっぱりアイツか! なんか妙な感じがしたのよね…ってアンタ、そんな奴とエッチしたの?」
サイゼルはハウゼルの相手があの時の人間だったと聞き愕然とする。
いや、そうなんじゃないかと薄々は感じていたのだが、こうして突き付けられるとサイゼルとしてもショックが大きかった。
「しました」
ハウゼルは顔を赤らめながら頷く。
姉とはいえ、いや、姉だからこそこんな話をするのは恥ずかしかった。
「その…気持ち良かったです」
「あ、あんたねえ」
恥じらいながら顔を伏せる妹を見て、サイゼルも顔を真っ赤にする。
気持ち良かったという言葉は本当なのは分かっていた。
ハウゼルと繋がっているが故に、ハウゼルが酷い事をされている訳では無い事は分かってしまうのだ。
「姉さん、何をそんなに怒ってるの?」
「な、何って…えーと」
ハウゼルの純粋な疑問にサイゼルは思わず口ごもる。
何しろサイゼルは頭に血が上りやすく、後先考えずに行動をしてしまうという所が有る。
妹であるハウゼルが冷静に言葉を返してくるので、サイゼルとしても何を言っていいか分からなくなる。
「と、とにかく! あんたに酷い事を奴を私が殺してやるのよ!」
「だから酷い事はされてないんだけど…でも、どっちにしても今は無理よ」
「…は?」
ハウゼルの言葉にサイゼルが首を傾げる。
「ランスさん、今はもうこの時代に居ないみたいだから。現れるとしたら何年後か…もしかしたら数百年後かもしれないし」
「…? どういう事?」
ハウゼルの言っている言葉がサイゼルにはいまいち理解できない。
ただ、普通に考えればそれは当然だ。
「時の聖女の子モンスターであるセラクロラスの力で時間を移動しているみたい。私の目の前で消えていったし」
「…本当でしょうね? まさか何か隠している何て事は無いわよね」
胡散臭そうに自分を見てくる姉に対し、ハウゼルはため息をつく。
「姉さんにそんな嘘つく必要無いでしょ? 次にランスさんが現れたらきちんと姉さんに連絡するから」
「…絶対しなさいよ。それと嘘ついたら許さないからね」
「大丈夫よ。それに…」
「それに、何よ」
「何にも。それよりも姉さん、ケッセルリンクから美味しい紅茶を貰ったの。一緒にどう?」
意味深な笑みを浮かべたハウゼルだが、直ぐに話を切り替える。
サイゼルもハウゼルが何を言いそうになったか気になったが、クールダウンしたのか美味しそうな紅茶の匂いに釣られてしまう。
「仕方ないわね。今回はあんたに免じてご馳走になってやろうじゃないの」
そう言ってサイゼルはもう一つの椅子に座る。
それを見てハウゼルは予め用意してあったティーカップに紅茶を注ぐ。
(姉さんは実はランスさんと結構話が合いそうな気がする。何となくだけど)
とりあえずは、ランスが再び現れるまでの時間をハウゼルは気長に待つことにした。
そしてもう一人ランスと関わり合いの深い人物であるカミーラは、自分の城で苛立ちを隠せずにいた。
あまりに空気がピリピリしているので、ラインコックですらもカミーラに近づけない程だ。
「七星ー…」
「諦めろ。今のカミーラ様には誰も近づけん」
七星の言葉にラインコックは悲しそうな声を出してカミーラを見つめていた。
魔人が倒されたと聞いてカミーラは非常に喜んだ。
同時に、倒された魔人が2体である事と、時期が非常に近い事、そして距離がかなり離れている事に違和感も持った。
そこでカミーラはまずは東の方に向かったのだが、それは外れだった。
レイがその相手と戦っていたが、狩り甲斐のある相手が増えた事はカミーラとしては素直に楽しみだった。
群れる趣味は無いので、もう片方の西の方に向かったが、それは当たりだった。
ランスが狙うとしたら、まず間違いなくメディウサだろうとカミーラは考えていた。
距離が近かった東の方から回ったので寄り道をした形になったが、カミーラとしては都合が良かった。
メディウサと戦っているランスと出会い、そして再びランスと戦った。
確かにランスは強くなっていたが、それでもカミーラは己の勝利を確信していた。
が…それは最悪の形で叶わなかった。
その場に現れたのは自分達の絶対的な主である魔王ジルだった。
その命令を受けて、カミーラは素直に自分の城に戻って来たのだが、戻ってから猛烈な怒りに襲われた。
それは今でも続いており、そのピリピリした空気は使徒であっても近づけない程だった。
ただ、カミーラはジルの魔王としての強さ、そして凶悪さは嫌いでは無かった。
嫌いでは無かったが、自分の邪魔をされたのならば話は別だ。
だが…それでも魔王の力は絶対的だ。
それに、ジルは先代のナイチサや先々代のスラル、そして自分を魔人にしたアベルとは決定的に違う所が有る。
それは、魔人など本当にどうでも良いと思っている所だ。
(今となると忌々しいが…)
アベルは臆病な性格ゆえに、ドラゴンの王であるマギーホアやドラゴンの追っ手から逃げ続けていた。
スラルも同じく臆病だが同時に慎重な性格だった。
更に、自分が魔人にしたガルティアやケッセルリンクに目をかけていた。
ナイチサは冷酷で非情で、人間をムシケラのように殺してはいたが、それでも人間をある程度放置していた。
JAPANの人間が大陸の半分を制圧するまで特に何もしなかった程だ。
だが、ジルは魔人など何とも思っていない。
それこそ絶対の忠誠を誓うノスでも不要ならば躊躇いなく切り捨てるだろう。
あれこそ正に魔王というべき世界の暴君に相応しい存在だった。
「ランスは…いや、生きているか」
不意にそんな言葉が出てくる。
本来であれば魔王と戦ったのであれば、そこにあるのは確実な死だ。
もしくはジルによって魔人されるか…人間の未来はそれしか存在しない。
ジルとランス、そしてナイチサとの因縁はケッセルリンクからは聞かされていた。
それならばジルはランスを自分の手元に置いてもおかしくは無いが、不思議とジルにはそんな気配は無かった。
カミーラにはそれは解せなかったが、あの魔王が何を考えているかを考えても仕方が無い。
「…七星」
カミーラはようやく己の使徒を呼ぶ。
「はっ、カミーラ様」
久々の主の声を聞き、七星は安心したように主の元に向かう。
もう一人の使徒であるラインコックもおずおずとカミーラの元へと近づいて行く。
「ここ数日…動きはあったか」
「はっ…それが不思議と大きな動きはありませんでした。ただ…メディウサ様の方で動きがあったそうですが…それはカミーラ様の方がお詳しいかと」
カミーラはランスとメディウサの戦いを思い返す。
直接戦った光景は見られなかったが、メディウサは間違いなくランスに負けた。
それだけでなく、何かしらの呪いを受けた様な事を言っていた。
「ジル様が動いたんですよね…?」
ラインコックはその名前を口に出すのも恐ろしいと言わんばかりに身震いする。
「カミーラ様。一体何が起きたのか…お聞きしても宜しいですか?」
七星は思い切って主に聞いてみる。
外からの情報では全ての出来事を把握するのは難しい。
だが、その場に居た主ならば全てを知っているはずだ。
ただ、恐れ多くて聞く事が出来なかったが、ようやく聞く事が出来るくらいにカミーラの機嫌は直って来たようだった。
「無敵結界を斬る存在が現れた。それだけだ」
「やはり…ですか」
主の言葉に七星は嘆息する。
魔人が2体死んだという話は魔人の中では知られている事だ。
ただ、魔人はそれを脅威に思う事は無く、殺された奴が間抜けだと馬鹿にするだけだ。
「それはランス殿のお力でしょうか?」
七星の言葉にカミーラは首を振る。
「違うな…恐らくはそれ以外の何かだ。ランスが私と戦った時に使っている力とは違った」
カミーラはランスの力…無敵結界を無視して魔人を攻撃出来る力を知っている。
それは以前に自分も戦ったからこそ分かる、破壊神ラ・バスワルドの力だ。
しかし、ランスと戦った時はその力が全く感じられなかった。
ランスの持つ刀が振るわれると無敵結界はあっさりと斬られた。
それは再生することなく、ランス以外の攻撃も素通しになってしまった。
「無敵結界を完全に斬る力だ…時間があれば無敵結界は再生するが…」
今は斬られた無敵結界も再生している。
だが、これで魔人の持つ無敵結界は完璧ではなくなった。
それはカミーラにとっては望む所でもある。
そもそも、今のカミーラは無敵結界に頼るという戦いは全くしないのだから。
「ククク…実に愉快だ。それにあいつにはまだ隠し玉があるはずだ…次に会う時までに…奴は何処まで強くなっているか…」
(カミーラ様、凄い嬉しそう…)
上機嫌になって笑うカミーラを見てラインコックは安堵する。
やはり美しい主にはこうして笑っていて欲しいものだ。
「カミーラ様、それ以外には何か有りますでしょうか?」
「………無いな。それが全てだ」
「分かりました。配下の者を密かに動かしましょう。ですが…もし魔王様と遭遇したのであれば、もうこの時代に居ない可能性も考えるべきです」
七星の言葉にカミーラは腕を動かす。
それを見た七星は一礼して、ラインコックと共に去っていく。
それは七星に全てを任せると言うカミーラからのサインだった。
ならば七星とラインコックはその主の望みに従うだけだ。
「ねえ七星。あのランスって奴、もう居ないかもしれないってどういう事?」
「ああ…お前は彼の事は良く知らないからな。彼の強運は並外れている…魔王スラル、そして魔王ナイチサと遭遇して尚生き延び、その度に時間を移動していった」
「僕からしたら信じられないんだけど…でも時間を移動した奴なんてどうやって探すの?」
「ある程度は察しが付く。魔人の動きを注視すればいいだけだ」
「魔人を?」
七星の言葉にラインコックは首を傾げる。
何故魔人の動きを追う事があの男に近づく事になるのか、ラインコックには分からなかった。
「ああ。魔人とぶつかれば必ず大きな戦いになる…その痕跡を見つけ、網を張るのが一番いい。ただ、カミーラ様には近づいてこないのが難点だがな」
七星は思わず苦笑する。
あの女好きの男が主であるカミーラの事は苦手のようだ。
無理も無い話だが、何れはカミーラと全力でぶつかる日が来るのは間違いないと確信もしている。
「だが、本当にこの時代にいないのであれば、探すのは無意味でもあるのだがな」
カミーラが本能のまま動けばその場に必ずランスは居る。
それはこれまでの歴史が証明してきた。
ただ、その度に邪魔が入るのも事実な訳だ。
「ねえ七星。ジル様もあの男を狙ってるの? もしそうなら…」
「それは…私からは何とも言えない。可能性だけを考えて動くのは危険だ。ただ、ジル様が本当にランス殿を魔人にしようとしているのなら、今回の戦いで魔人になっているはずだ」
七星はそれだけは確信を持って言える。
そもそも魔王に逆らうなどこの世界の誰しもが不可能なのだ。
それほどまでに絶望的な差が魔王と、この世界の全ての生命体の間には存在する。
例え全ての魔人と魔物と人類が共闘しようとも、魔王には決して届かない力の差が存在しているのだ。
「ううう…カミーラ様の願いは全部叶えたいけど、あの人間がカミーラ様の使徒になるのは嫌だなあ…」
「お前の意見など関係無いだろう。全てはカミーラ様の御心のままにだ」
「分かってるよ。ちょっと愚痴っただけ。まあ…ボクじゃああの人間に勝てそうにないし…」
「ケッセルリンク様ならば我等よりも詳しい事情を知っているだろうが…まあ教えてはくれぬだろうな」
ランスに一番近い魔人であるケッセルリンクに詳しく聞けば良いのだが、間違いなく話してはくれないだろう。
何が起きたかを教えてはくれるが、それ以上の事を話してくれたことは無かった。
他の魔人とも積極的に交流を深めるような魔人でも無い。
(だが…新たに魔人となったラ・ハウゼル様は個人的に親しい様子だとも聞いている。何かしら関係が有りそうな気もするが…迂闊に動くのも危険か)
相手が魔人ならば七星も慎重にならざるを得ない。
いかにカミーラが魔人四天王という立場だとしてもだ。
「ラインコック。お前にも働いて貰うぞ」
「うん」
七星とラインコックは主であるカミーラのため、今日も懸命に働き続けるのであった。
魔王城―――そこではジルが王座で悠然と座っていた。
その隣には従者のように魔人ノスが控えている。
ノスはジルの機嫌が良い事を敏感に察していた。
何やら魔人メディウサの所に向かっていたようだったが、それ以降はジルは明らかに嬉しそうだった。
勿論それを口に出すような無粋な真似はしない。
それに、ノスはメディウサの事を下衆だと思っており、どうなろうが知った事では無かった。
当の本人であるジルは、ランスと再び出会えたこと、そして明らかに自分を意識して居る事に御満悦だった。
(やはり…まだまだ強くなる…そう…奴は叩けばまだ伸びる…その時こそ…)
ジルには永遠の時間があるので、まだランスを魔人にする必要は無いと考えていた。
勿論自分のモノにするつもりだが、今それをするのは詰まらないという判断からだ。
かつての人間としてのジルの部分、そして魔王としてのジルの部分…それが合わさった結果、そのような考えとなった。
ジルはランスとの戦いで傷を負わされた指先を見る。
勿論そこには傷跡等残ってはいないが、ジルにとっては愉悦とも言える時間だった。
それに比べれば魔人の無敵結界を破れる武器の存在など、些細なものでしか無かった。
人間に殺されるような魔人など淘汰されてしまえばいい、そんな風にさえ思っていた。
魔王としての本能で人間に苦しみを、そして人間ジルとしての魔王や魔人、魔物への恨みで魔物にも苦しみを与える。
その傲慢さ、そして凶悪さこそがまさに魔王と呼ばれる存在そのものだった。
「ジル様…本日の処刑のお時間でございます」
何時もの時間となり、ノスがジルに声をかけてくる。
流石に毎日処刑をする訳にもいかず、魔物の数が有る程度増えてから処刑を行っている。
ノスの言う通り、そろそろ魔物達を処刑している時間になっていた。
(…そうか、そんな時間か)
ランスとの出会い、そしてこれからの事を考えていると魔物の処刑の事も忘れていた。
だが、ランスの事と魔物に対する恨みは話は別だ。
ジルが合図をすると、ノスが配下の魔物兵に指示を出す。
魔物兵は震えながらその指示を受ける。
何しろ自分達の同胞がその主によって無慈悲に殺されるのだ。
その矛先がいつ自分に向くか、魔王の城で働いている魔物兵達は気が気では無いのだ。
ジルの恨み、そして呪いは500年以上経った今でも消えない。
今日もまた無慈悲に魔物達は魔王によって処刑される日を過ごすしか無いのだ。
(さて…次は…あそこがいいか…ランス…お前が本当の意味で我がモノとなるまで…戦い続けるがいい)
ただ魔人にするだけではランスの強烈な意志力が失われる可能性がある。
ジルとしてはそんなランスの強力な行動力を制限するのは避けたい。
そう、己の強力な意志の力こそが、己の糧となるのだから。
(ただ…手助けくらいは…してやる…全ては…その餌に過ぎない…)
メディウサは本当に良くやってくれた。
自分の予想と違う結末にはなったが、それでもやはりランスはやり遂げた。
だからこそ、メディウサには更なる呪いをくれてやった。
これまで好きにさせていたのだから、それくらいは当然なのだ。
(さて…次は何時になるか…時間はある…そう、永遠にな)
ジルは次に現れるであるランスを楽しみに待つ事にする。
幸いにも待つ事にはもう慣れた。
だが、ジルの前にもう一人の重大な人物が現れる事になるのを、神では無いジルには分からなかった。
完全説明回
なので話の進展としては全く無いです
アイゼルやノスの事をもう一度深く知るために03をプレイ中
細かくセーブをして各イベントをもう一度見ています
03が正史になっているので、その辺りをもう少し詳しく見ていく事に