魔王城―――そこではまさに異次元の戦いが繰り広げられていた。
魔王ジルと相対するのはガイ。
ガイはカオスと禁術を駆使し、様々な策略を用いてジルへと挑んだ。
それはまさに人外の戦いで有り、誰もそれについていく事は出来ないだろう。
「やれ! ガイ! お前なら魔王を殺れる!」
カオスの言葉にも特に反応もせず、ガイはカオスを振るい、魔法を放つ。
「ラグナロク!」
その強烈な一撃は魔王ジルの体すらも傷つける。
だが、それでもジルは笑った。
「なかなか…やる…」
余裕の魔王を見てガイは尚も激しく攻め立てるが、ついにその時が来てしまった。
ガイの人格が入れ替わり、ジルを前に隙を晒してしまった。
それを見逃すジルではなく、ガイはジルによって無理矢理魔人にさせられた。
その際に、自身の持つ魔法レベル3という技能をLV2にまで落とされた。
そして再び人類は暗黒の時代を突き進むことになった。
それからまた時が流れ―――最弱の魔人だったケイブリスがとうとう魔人四天王の立場へと成り上がった。
そしてそのジルの前で、ケイブリスはアレから遥かに大きくなった体をぺこぺこさせていた。
「今までずっと挨拶もしないでごめんなさい」
ケイブリスは脂汗をかきながら玉座に座る己の絶対的な王に対して頭を垂れる。
強くなったと思った…思ったのだが、魔王の前に居るといかに自分がちっぽけな存在なのかを思い知らされた。
自分がまだ臆病で逃げ回っていた頃を思い出さずにはいられないほど、ケイブリスは委縮していた。
「………」
ジルは何も言葉を発しなかった。
「下がるがいい、ケイブリス。ジル様は何とも思っておらぬ」
ジルの背後に控えている巨漢の魔人がケイブリスに言葉を放つ。
「は、はい…」
それこそ魔人ノス…ケイブリスは確かに強くなり、このノスと同じ立場になったが、この魔人には勝てる気が今は全くしなかった。
それはノスがケイブリスが非力なリスの時代から恐れていたドラゴンの魔人であったからかもしれない。
ケイブリスは何度も頭を下げながら魔王の間から逃げるように去っていく。
そして一人になった所で大きくため息をつく。
「あああああ…おっかねえ…やっぱこっちに来るのは止めた方がいいな…」
ケイブリスは冷や汗を拭いながらそそくさと離れていく。
いかに強くなろうが、魔王の絶対的な強さの前には自分は今でもムシケラ同然なのだと思い知らされた。
同じく魔人四天王であるノス…そしてジルの隣に控えていたもう一人の魔人。
それこそが魔人筆頭と呼ばれる魔人ガイ。
ノスに関しては特に気にならなかったが、ケイブリスは魔人ガイがどうしても気に入らなかった。
「俺様がもっと強くなったらぶっ殺してやるのによ…いや、今はそれよりもカ、カ、カ、カミーラさんだ…」
自分はアレから非常に強くなった。
強くなればあの憧れのカミーラにも認めてもらえるかもしれない。
そう思いつつもケイブリスは迷っていた。
(いきなり行ったら嫌われないかな…)
そんな事を考えながら、魔王の城を後にする。
結局ケイブリスは魔王の城から遠く離れ、そこでちまちまと己の力を磨く事にする。
たまにカミーラに手紙を書いたりもしたが、反応は全く無かった。
そして己が強くなり、他の魔物達が自分に媚びを売るようになってから、ケイブリスの価値観は少しずつ歪になってしまっているのを自分でも気づいていなかった。
ガイの部屋―――
「…相変わらずじゃの、ガイ」
「フン…」
ガイは自室に置かれているカオスが話しかけても気の乗らない声を出す。
「今度はレイか? アイゼルか?」
「どっちでも俺には変わらない。魔王の側に居るのが不快なだけだ」
ガイは吐き捨てるとそのまま腰を下ろす。
ガイは戦いの最中の隙をつかれて魔人となってしまった。
そしてその強さゆえに、魔人筆頭としての立場をジルによって与えられた。
しかし―――ガイの精神は魔王の絶対命令権は効いてはいなかった。
二重人格という特異な体質が影響しているのかもしれないが、それはとにかくガイには好都合だった。
そう、ガイは魔人となった今でも魔王ジルを倒すという事を諦めてはいない。
それどころか、その思いはますます強くなっていった。
幸いにもジルはガイを気に入っているようで、自分の側近として置いている。
本来の歴史と違うのは、ガイがジルの情夫で無い事だろう。
勿論ガイにとってはそれは都合が良かったのだが。
「おうおう、荒れとるの~。ま、儂は口は出せても手は出せんからな」
「フン、役立たずの馬鹿剣が。口を出すしか出来ないなら黙ってろ」
「儂がいなけりゃ魔人同士の戦いで有利はとれんじゃろ」
「全く…無敵結界にもこんな穴があるとはな」
無敵結界の穴…それは魔人同士の戦いでは無敵結界は意味がなさない事。
そしてもう一つ、魔人同士だと無敵結界が変に干渉し合い、致命傷を与えるのが難しい事だ。
だが、カオスがあれば話は別だ。
相手の無敵結界を無効にし、こちらは100%の打撃を与えられるのに対し、相手からの攻撃のダメージは軽減される。
その差は魔人同士ならば大きな差だろう。
「で、ばれとらんのか?」
「ジルの奴は俺が従順になったと思ってる…いや、俺の事なんて興味が無いんだろうな」
ジルによって魔人にされたが、ジルの興味は自分には全く無いのは分かる。
だからこそ、魔人である自分が命令に絶対服従すると思っているのだ。
それに、魔人となった事でガイは弱体化してしまった事も大きい。
「全く…魔人になって弱くなった奴なんて初めてみたぞい」
「不老不死になっても以前の力が使えなければ意味は無い…か。ジルも厄介な枷をくれたもんだ」
魔人となってその驚異的な魔法レベル3が2に落ちてしまった。
2と3の差は非常に大きく、ガイとしても大幅に戦略を変える必要が出てしまった。
「尤も、人間のままじゃあジルには勝てなかっただろうがな」
自嘲的にガイは笑う。
あの時確かに隙を突かれて魔人になってしまったが、逆に言えば魔人にされる程に隙が出来たという事でもある。
自身の体質の弊害でもあるが、そこで殺されていてもおかしくは無かった。
魔人となった事で別の戦い方が出来るようになった、とガイはポジティブに考えるようにした。
「また例のアベルとかいう奴と戦いに行くか?」
カオスの軽口にガイは口を歪める。
「悪いがもう会いたくは無いな。それに、あいつの所に居るとこっちまで気が滅入る」
ガイは強くなるためにあらゆる手段を取った。
その一つが…今は封印されている元魔王アベルと戦う事だった。
そこで格段に強くはなったのだが、流石にもう一度アベルと戦うのは嫌だった。
「カカカ! 魔人になっても魔王を殺そうとするのは儂としても有難いわい! おかげで殺意がお前じゃ無くてジルに行くからの~」
「持ち主である俺に対しても殺気を向けるとはな…」
ガイとカオスの関係は変わらないが、代わりにカオスの殺意は自分にも向けられてしまった。
それだけカオスの魔人への憎悪は深いのだろう。
「とにかく今は準備期間だ」
「儂としては他の魔人をぶっ殺してくれると嬉しいんじゃがの。ほら、あのカミーラとかケッセルリンクとか」
「魔人同士の殺し合いはジルに止められている。それを破ると怪しまれるだろうが」
「そこはお前の姑息な手段でごまかしたりな…」
「馬鹿を言うな。ああ、それとお前の言っていたカフェって人間だが…生憎と見つからない」
カフェの名前が出た事にカオスはその肩…いや、鍔を落としたように見えた。
「ん~そうか。じゃあ死んだのかもな。もしかしたら儂と同じように不老になっていると思ったんじゃがな…」
自分達と共に願いを叶えたカフェ・アートフル。
その願いはカオス達を驚かしたが、それもカフェの人生なのでカオスも特に何も言う気は無い。
ただ、自分と同じように願いを叶えた日光が魔人を倒したという事は聞いていた。
「日光という方も聞かないな。ただ、メディウサがその日光で斬られ呪われたのは事実らしいがな」
「あのクソ蛇か…いや、今はもうクソ蛇じゃ無くなったか。しかしカラーの呪いは恐ろしいな。まだ呪いが解けんのじゃろ?」
「そのようだな。俺にはどうでもいい事だけどな。だが、その日光を探す事には意味があるな」
「儂と同じように魔人への特効性を持っているようじゃからな。あれば力になるじゃろ」
日光は自分と同じ願いを叶えたはずだ。
ならば自分と同じように剣の姿になっていてもおかしくはない。
だが、メディウサとの戦いの後その噂はぱったりと途絶えてしまっている。
「まあじっくり行くさ。時間はそれこそあるんだからな…」
ガイはその顔に確かな殺意を抱きながら、魔王ジルの命を狙っていた。
「っっがはっ!」
「まだまだですね。そんな物では一番星殿にはついて行けませんよ」
「…化物め」
金色の髪をし、その尻から金色の尻尾を生やした少女が血反吐を吐きながら睨む。
そこを赤い肌をした女性が悠然と微笑んでいる。
「貴様がまさかあの魔人の使徒だとはな…」
「ええ。私は使徒です。だからこそ強い…そしてあなたを鍛える事が出来る」
使徒戯骸は金髪の少女―――お町を見ている。
「先代妖怪王黒部は本当に強かったですよ。あなたはまだ黒部の域に達していない。それでは妖怪王の名が泣きますよ」
「…フン、貴様も同じことを言う」
黒部の名前が出た事でお町は再び立ち上がる。
自分も妖怪王として名を上げるためには、黒部は乗り越えなければならない大きな壁だ。
そして目の前の使徒は、その黒部やその主である藤原石丸とも戦ったとされる存在。
「それにしても…貴様は主の封印を解かぬのか?」
お町は気になっている事を聞く。
お町がやって来たのは天志教が魔人ザビエルを封印している場所だ。
ここに陰陽術の事が学べるのではないかと思ってやって来たが、それは正解だった。
人間は陰陽師の事も書き残しており、お町はその本を読んでいた所にやってきたのが戯骸だ。
久々に目を覚ましたら、侵入者が居るのを確認してやって来たと言っていた。
お町は戯骸に挑んだのだが、その実力差は圧倒的で、お町は何も出来ずにやられてしまった。
「普通に時間経過を待たないといけないみたいですしね。それまでは自由にやりますよ」
そして戯骸はお町がランスの関係者だと知ると、戯れにお町を鍛える事を始めた。
お町は使徒に教わるのは不満だったが、実際に教えられれば相手の強さと自分の弱さが嫌というほど分かった。
「フン…奇妙な使徒じゃ。それにしてもランスとも知り合いだったとはの」
「ええ…私は一番星殿と熱烈な戦いをしました。その結果一度死んだわけですけど…一番星殿は女性しか好きじゃないので、男である戯骸は死にました」
「…いや、覚悟決まり過ぎじゃろ」
何しろ今の戯骸は男として生まれた時間よりも、女として生きている時間の方が長い。
すでに自分が男である事も忘れ、服装も言葉遣いも完全に女性のものとなっていた。
「その上我を鍛える魔人の使徒…本当に奇妙な奴じゃ」
「暇潰しですよ。それに私も久々に体を動かせて嬉しいですし」
巫女府に身を纏った戯骸がその手に炎を宿す。
それを見てお町も雷を纏う。
「さて…行きますよ」
「今度こそ我が勝つ」
そして二人激しくぶつかり合い、お町もまた急激に成長をする事になった。
「本当に時代を移動しているんだね…いや、正直僕の理解を超えてしまっているよ…」
ブリティシュは頭を抱えながらため息をつく。
ランス達と再会してからもそんな事もあるのかと思ってはいたが、いざ自分も関わったかと思うと話は変わって来る。
今はGL期777年と人里で聞いて、ブリティシュは愕然としていた。
「…日光以外とは会えなかったな」
かつての仲間を思い出し、ブリティシュは何とも言えない顔をする。
こうして日光と出会えたのは奇跡とも言えたが、他の仲間達とは会う事は出来なかった。
カオスに関しては日光と同じ願いを叶えて貰ったらしいので、日光と同じように剣になっている可能性もあるので、まだ会えるのではないかと感じていた。
「そうですね…ホ・ラガとカフェに関しては何の情報も掴めませんでしたしね」
日光もランスと再会する前はかつての仲間を探していたのだが、生憎と何の情報も掴めなかった。
なので普通に考えればもう死んでいるはずだ。
ランスはそんな二人を見て、
(カフェは生きとるんだが…いや、そういや呪われてたな。じゃあカフェを探すのもいいかもしれんが…)
そんな事を考える。
だが、流石に今の時代カフェが何処に居るのか分からないし、何時呪いにかけられたのかも分からない。
なのでランスとしても探しようが無い。
「とにかく今はサイゼルだな。それとスラルちゃんも何とかせんとな」
「不便と言えば不便だ。ただ、我にかけられているのは魔王の封印の影響である可能性が高い。そこをどうしたものか…」
「大丈夫だろ。魔王の呪いも解けるアイテムがあったはずだからな」
ランスとしては魔王の呪いを解けるというアイテムがあるので、それほど気にはしていない。
ただ、実はそれはランスの思い違いなのだが、ランスがそれを知るのは本来の歴史においては遥か先…それこそ全てが終わる時の話だ。
「とりあえずはどう動くか…ランス、お前が決めてくれ」
こういう混沌とした状態では、ランスが本能のままに動く方が良い結果に動く方がいい。
スラルに振られてランスは考える。
明確な目標としては、やはり魔人サイゼルと会う事だろう。
ハウゼルとセックスした事で新たな力がランスの剣に宿った。
ならば、サイゼルと出会えばまた新たな力が解放されるかもしれない。
だが、その前にランスにはやる事があった。
「まずはパイアールの所に行くぞ。そろそろ移動するのも面倒臭くなってきたからな」
「そっちもあったわね。そういやここから近いみたいだし、行ってみるのもいいんじゃない?」
ここは幸いにも大陸の東側…カラーの森から遠いのは難点だが、代わりにパイアールが居る所に近い。
ならば以前にシャロン達から聞いたパイアールの所に行くのが良いだろう。
「パイアール…魔人パイアールですか」
パイアールの名前が出た事で日光は難しい顔をする。
何しろ相手は魔人、日光にとっては倒すべき敵である。
「新しいバイクは俺様も欲しいからな。作れるのはあいつしかいないみたいだしな…」
ランスにとってはバイクとは非常にお気に入りの道具だった。
ランス自身がバイクの操縦技能を持っている事も有り、相性は抜群だった。
「とにかく行くぞ。文句は無いな」
ランスにそう言われれば流石に誰も何も言えない。
ブリティシュとしても少々思う所は有るが、結局は何も言えなかった。
そして…ランス達は移動する。
幸いにも魔王が居る時期なのか、魔軍の動きは非常に小さいものだった。
なのでランスも問題無くパイアールの居る所へと移動する事が出来ていた。
以前にシャロンから教えてもらっており、パイアールの居る所は既に把握している。
それはランスも良く知るハイパービルの近くなのだが、ランスはまだその事には気づいていない。
「結構近づいてきたと思うんだけど…」
レンは地図を見ながら呟く。
大雑把な位置なのは分かっているが、流石にあの少年が居る施設なら目立つだろう。
「まあ進んで行けばその内つくだろ」
ランスは気楽に言う。
モンスターも魔軍の姿も無く、特に問題無く移動が出来ている。
そして、ランスの持つ冒険LV2の技能のためか、非常に運が良い事が起こる。
「あ! あれパレロアじゃない?」
レンは遠方を見ながら指さす。
「…どこだ。俺様には小さな点にしか見えんぞ」
レンの指さす方向を見るが、それはランスには点にしか見えない。
「…見えるんだ」
ブリティシュも同じくレンの指差す方向を見るが、そこに何が有るか全く分からない。
日光も同じのようで、目を細くしてその方向を見るが何も見えない。
「まあ居るんなら丁度いい。レン、お前が行ってこい」
「分かったわ。ちょっと待ってなさい」
レンはそのまま走ってその方向へと向かって行く。
ランスは木の陰に腰を下ろすと、保存食の干し肉を食べ始める。
「ランス殿。そのパイアールという魔人はどんな魔人なのですか?」
「知らん。あいつが魔人になってからは俺様は会った事が無いからな」
ランスの返事に日光は目を丸くする。
「では人間の頃に…?」
「そもそもあいつが魔人になった事も知らなかったからな。どうやったか知らんが、魔血魂を飲み込んだんだろ」
魔血魂を飲み込み、その相手より精神力が上回れば魔人となる事が出来る。
パイアールがどうやって魔人から魔血魂を取り出したのかは分からないが、それでも魔人になったのは事実だ。
ただ、相手が男なのでランスは特に興味が無いだけだ。
「僕からも聞きたいんだけど」
「男に答えてやる気は無い」
「………」
ブリティシュはあっさりと言葉を斬られ、沈黙するしかない。
「ランス、そういうのは良く無いぞ。聞きたい事が有るなら我が答えてやる」
「あ、コラスラルちゃん。勝手な事はするな」
「別に我はお前に行動を制限されるいわれは無いぞ。で、何が聞きたい」
スラルの言葉を受けて、ブリティシュはランスの持つ剣を見る。
「彼女…レンは何者なんだい。偽エンジェルナイト…なのかい? でもそうだとしたらおかしいとも思うんだけどんね」
「そんな事か。彼女は本物のエンジェルナイトだ。彼女の役目はランスを守る事、そうだな?」
「そういやそんな事も言ってたな」
レンとはかなり長い間一緒に居るので、ランスも『自分を守りに来た』と言っていたという事を忘れていた。
「エ、エンジェルナイト…ほ、本当に居るんだ」
ブリティシュは驚いて声を出す。
ホ・ラガからそういう話を聞いてはいたが、まさかこんな身近に居るとは思わなかった。
「ただ、それを言いふらした場合は…死んでもらう事になるな。いや、レンがお前を殺すだろう」
「…それは怖いね。勿論言いふらしはしないさ」
ブリティシュはあの時メディウサの城でレンに体を掴まれた。
その時に見たのだ…彼女の背中にある透き通った白い翼を。
「そう願おう。別に我はお前と殺し合いをしたい訳では無いからな」
「俺は別にこいつは死んでもいいんだがな」
相変わらずのランスに日光はため息をつく。
「ランス殿。ブリティシュは必ずあなたの役に立ちますよ」
あえて『役に立つ』という言い方をする。
そっちの方がランスに対しては良い言い方だと思ったからだ。
「フン、せいぜい足を引っ張らない事だな」
ただ、内心はランスはブリティシュの強さは認めてはいる。
何しろこの男の強さはまさにリック並だ。
いや、防御力を考えればリックすらも上回るかもしれない。
リックはランスも認める強い男で、これまで何度も共に魔人を倒している。
「まあそれは大丈夫だと思うよ」
ブリティシュも苦笑しながらランスに声をかける。
ランスは悪い人間ではない…いや、ランスは悪い人間なのは間違い無いだろう。
ただ、悪いと言っても悪辣だったり外道だったりする訳では無い。
「そうだ…ランス殿。お町はどうしますか? これだけ時間が経過すれば彼女も腕を上げてると思いますが」
「あ! そうだな。お町が居たか。じゃあ次はJAPANに行くか」
お町と別れたのはランスとしてはそこまで時間は経っていないが、お町からすれば話は別だ。
修行をする言って別れたが、あれから200年は経過している。
だとすれば、ランスが良く知るあのお町が登場していてもおかしくは無い。
「で、スラルちゃんは不便じゃないか」
「不便と言えば不便だ。今まで出来ていた事が出来ないのだからな。更にはここから幽霊の体も出せない。魔法も使えない。まさに役立たずだ」
ランスの言葉にスラルは少しいじけた様に呟く。
まさかここまで自分が役立たずになるとは流石に思っていない。
ただ、魔法を使えない魔法使いなどまさに役立たずの極みだろう。
「ふーん。まあその内何とかするから心配するな」
「…まあ信じよう。お前は本当にやり遂げてきた男だからな」
ランスの言葉を聞いて、スラルは剣の中で笑う。
そう、この男はどんな困難でも必ず乗り越えてきたのだ。
だったら、ランスを信じてついて行くだけだ。
「ああ…それとな、ランス。お前の剣の中で少し分かった事が有る」
「なんだ」
「お前は自分の剣を活かしきれていない…前に言った事を覚えているか?」
「…そういや昔そんな事を言ってたな。天才の俺様に対してありえん事だな」
「確かにお前は天才だ。その剣に関しては我も何も不満は無い。だが、それでもお前は藤原石丸よりもまだ下だ。勿論剣の腕だけを言っているがな」
スラルの言葉にランスはムッとする。
あの男と今でも比べられるのはランスとしても不愉快だ。
ましてやあの男はもう既に死んだ存在なのだ。
「勿論戦えばお前が勝つ…と我は思う。剣の腕では無い、それ以外の部分ではお前は奴を上回るだろう。『勝つ』という事に関してはお前の方が上だと思う」
ランスは勝つためならば何だってやる。
それこそ汚い手段でも平気で使うし、剣で向かってくる相手なら平気で遠距離から攻撃する男だ。
「だが、魔王と戦うには圧倒的に足りない。それどころか、真正面から向かってくるカミーラにも勝てないだろう」
「魔王はともかくカミーラには…いや、あいつも異常に強くなってたしな…」
流石のランスも魔人とタイマンをする気は全く無い。
カミーラとはなし崩しにそうなっているだけで、本来であればまともにぶつかっていい相手では無い。
それに、カミーラは空を飛ばずに戦ってくれているので、カミーラ自身が己に枷をつけて戦っているのだ。
その上で、カミーラはランスを上回る力が有るのだ。
「根本的に見直しても良いと思うぞ。お前の我流の剣を磨くだけでなく、一度見直しても良いと思う。尤も、我の言葉をどう取るかはお前の自由だ」
「………」
スラルの指摘にランスは珍しく考えていた。
剣の腕前に関してはランスには本当に才能が有る。
人類の中でもトップクラスの実力を持ち、これまで何度も魔人を倒してきた。
しかし、これからランスが戦うのはその魔人…しかも状況はLP期の時よりも悪い。
魔人と戦う時はランス一人では無く、シィルや志津香、マリアやかなみ、リックやパットンという人類の中でも有数の仲間と共に戦った。
カオスを持っているランスの働きが一番大きいのは間違い無いが、それでもランス一人では魔人には勝てない。
そして今の時代にはそれらの仲間が居ない。
レンとスラルは居るが、それでも魔人が相手では厳しい時も多いだろう。
「うーむ…修行とやらをするか」
その言葉に日光は驚く。
「ランス殿がですか!?」
「何をそんなに驚く」
「いえ…まさかランス殿からそんな言葉が出るとは思わなかったので…」
ランスは常に強い…それは日光も認めている。
剣に関しては今でも日光はランスには勝てない。
ただ、日光はランスが修行をしている所を見た事が無かった。
そんな事をしなくてもランスは強いのは日光も認めていた。
「フン、どいつもこいつも俺様がそう言うだけで驚きおって」
「それだけお前の口から出た言葉が信じられないのだろう」
スラルの言葉にもランスは何も言わない。
ただ、ランス自身も実は少し焦っている所もあった。
それは今がGL777年という年代だ。
そう…GL期はもう少しで終わるのをランスは知っている。
そしてジルがリーザスに封印されていた事も知っている。
ただ、誰がどうやってジルを封印したのかまでは知らない。
その封印のために使われたのが、あのカオスなのだ。
しかし、ランスは誰がどうやってジルを封印したのか全く知らない。
その辺りの事はランスは全く興味が無かったからだ。
ただ、一つ分かっているのはジルの治世は永遠には続かないという事だ。
(そういやサテラが言ってたな…前の魔王の娘が居ると。という事は、ジルの次の魔王がそのサテラが言ってた魔王で、その後が美樹ちゃんという事か)
つまりは、ジルは誰かに負けるという事は確定している。
ランスはかつて魔王ジルとまともにぶつかって勝利したが、この前戦ったジルはあの時のジルを遥かに凌駕していた。
生物としてのレベルが違う、として言えなかった。
流石のランスも、今のジルには全く勝てる気がしなかった。
(流石に今のジルを倒すのは…無理だな。全く勝てる気がせん)
戦士としてはクレバーなランスはジルを相手に戦う無謀さを知っていた。
しかし、ジルを取り戻すとなると流石に時間が足りないと思ってきた。
(うーむ…いかんな。どうすればいいか全くわからん)
流石のランスでも手詰まり感が凄い。
それ程までに魔王というのは圧倒的な存在だった。
「ランス、来たわよ」
「お久しぶりです、ランスさん。スラル様」
ランスが考えていると、レンが本当にパレロアを連れてくる。
「おお、パレロアか。本当に居たんだな」
「私も驚きました。事情は聞いていますが、パイアール様に会われるんですよね?」
「そうだ。前にシャロンから色々話を聞いたからな。そろそろ自由に動ける足が必要だ」
「分かりました。ではご案内します。私が居れば問題無いでしょうし」
パレロアは微笑みながらブリティシュ達にも一礼する。
「ご挨拶が遅れました。私はケッセルリンク様の使徒のパレロアと申します。久しぶりですね、日光さん」
「…そうですね」
パレロアに一礼されて日光が複雑な顔をする。
「…日光の事もしっているんだね」
「はい。日光さんには昔JAPANで出会っています。その時に事情はお話ししています」
「ブリティシュ、彼女は大丈夫です。昔からのランスさんの知り合いのようですから」
日光の言葉にブリティシュはため息をつく。
「どれだけ交友関係が広いんだい…? しかも魔人とも。僕の常識がどんどん崩れていく気がするよ」
「そんなのは知らん。パレロアは俺様の女だからな」
ランスはパレロアの腰を引き寄せ、自分の側に立たせる。
「まあ…駄目ですよ、ランスさん。仲間にそんな態度をとっては」
「フン、分かった分かった。お前は本当に変わらんな」
昔からランスはこのパレロアのおかんパワーには弱い。
元々年上のお姉さん気質の女性には何故か弱い所がある…それはランスの過去が起因しているのかもしれない。
「ではパイアール様の所にご案内します。決して私から離れないようにして下さいね」
ガイに関してはあっさりと流す以外に有りませんでした
織音さん設定である、ガイがアベルと戦ってレベルアップしたのを取り入れる事にしました
丁度良く魔王を出せる設定だと思いましたので