ランス再び   作:メケネコ

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スラルとカミーラ

 ―――魔王城―――

 

 ランス達が翔竜山に向かってから少し後、

 

「スラル様! カカカ、カミーラさんが人間達を連れて何処かへ行きました!」

 

 ケイブリスが急ぎ主である魔王スラルに報告する。

 ケイブリスはスラルが激怒するかと思い、気が気ではない。

 しかし意外にもスラルは特に感情を見せる事は無い。

 

「ス、スラル様?」

「分かっている」

「ヘ…?」

 

 ケイブリスは思わず間の抜けた声を出す。

 あの人間を魔人にしようとしているのをケイブリスも知っている…さらにはあのカミーラも使徒として誘っているらしい事も知っている。

 魔王の命令は絶対…それがケイブリスが長い生の中で知りえた教訓だ。

 だからこそあの人間も直ぐに魔人へとなるものだと思っていたが、予想に反してあの人間は魔人と使徒の誘いを断ったと聞いている。

(あのカカカ、カミーラさんの使徒への誘いを断るなんて…)

 実際羨ましいと思っていたのだが…まさかの拒否には全ての魔物達も驚いている。

 

「あのカミーラが自分から動いた…それはそれで興味深い事だ」

 

 スラルがカミーラと出会ってからおよそ400年。

 カミーラから最初に感じたのは、無気力、そして達観だった。

 その後、七星が使徒となり多少は変わったようだった…が、それでも基本的には怠惰な所はあるが。

 カミーラがどのような存在であったかは、以前にウラガノというドラゴンからは聞いてはいた。

 無理もないとは思ったが、スラルとしても特にカミーラに何かを言う気は無かった。

 

「ケイブリス…お前はカミーラのあのような行動を見た事があるか?」

 

 突然話を振られ、ケイブリスは一瞬思案するが、

 

「な、無いです…」

 

 ケイブリスはスラルよりもカミーラとの付き合いは長いが、確かに自発的に動くカミーラというのはあまり見た事は無かった。

 

「お前が知らないのだ…ならば初めてなのだろう。あの男…カミーラをも動かしたのだ。興味深いではないか」

「は、はぁ…」

 

 スラルは興味深げに笑うが、ケイブリスは内心では非常に焦っていた。

(あ、あの人間がカ、カ、カ、カミーラさんを動かしただとぉ…)

 確かに自分ではあのカミーラを動かす事など出来ないが、あの突然現れた弱っちい人間がカミーラの使徒に誘われるというだけでも、ケイブリスには許せなかった。

(でもまだ俺様弱いし…)

 しかし今のケイブリスではどうする事も出来ない。

 魔人最弱どころか、そこらの魔物にすら及ばないという自覚はケイブリスにもある。

 自分が見下されている事を知り、それでもケイブリスは耐えている。

 全ては自分が強くなるために。

 

 

 

 

 

「ふう…ここまでくればもう大丈夫だろ」

 

 翔竜山の麓まで逃げてきたランス達は、ようやく休憩を取る事が出来た。

 途中でドラゴンが襲ってくるかとも警戒したが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。

 

「カミーラ様…」

 

 七星はカミーラを下ろすと、カミーラは七星の首に手をかける。

 

「七星…勝手な事を」

「お許しくださいカミーラ様」

 

 戦いの途中で邪魔が入る…それも自分の使徒が邪魔をする等、カミーラには到底許せる事では無かった。

 いかに自分が不利だったとしても、だ。

 

「ランス…貴様もだ」

「俺は別にお前の使徒でも何でも無いぞ。どんな事をしようが俺の勝手だ」

 

 ランスの言葉にカミーラも口を閉ざし、七星の首から手を離す。

 七星は少し咳き込むが、自分の主が無事な事に安堵していた。

 魔人の再生力をもってしても、同種族であるドラゴンからの傷は治りが遅いようで、カミーラも気怠そうに座る。

 

「だいたいカミーラ。お前が無敵結界を解かなければ問題は無かっただろうが」

「…それこそお前に言われる筋合いは無いな」

「フン、だったら俺様にも文句を言うな。だいたいあのままだったらお前は負けてただろうが」

「…」

 

 ランスの言葉にカミーラは答えない。

 勿論カミーラも分かってはいる…真っ向勝負では無敵結界無しではノスにはまだ及ばないと。

 

「私は寝る…話しかけるな」

 

 カミーラはそのままうし車に乗り込むと眠りについたようだ。

 七星はそんなカミーラを見て、安堵したようにため息をつく。

 

「流石に肝が冷えましたね…ランス殿、レダ殿、あなたのおかげです」

「元々カミーラが無敵結界を使えば問題は無かったでしょ」

 

 レダは不可解そうに首を傾げる。

 自分達が魔人オウゴンダマを倒した時は、相手の能力を利用して無敵結界を張らせないという手段を用いた。

 だが、カミーラが無敵結界を解除して、あのドラゴンと戦いを繰り広げる理由がどうしてもわからなかった。

 

「私もカミーラ様のお考えが全て分かる訳ではありません…ですが、私が分かるのはランス殿に己の戦う姿を見せたかったのが一番の理由かと」

「意味が分からんな。それがどうして無敵結界を解除する理由に繋がる」

「カミーラ様とランス殿にどのような会話があったのか、私にはわかりません。しかしカミーラ様はランス殿と一戦交えてから、そしてあなたと話してから興味を持たれたようですから」

 

 七星の言葉にランスはこれまでの事を思い出す。

(特に何かあった覚えは無いな…しいて言えばカミーラが別人のようだと思ったくらいだな)

 あの気だるげなカミーラと、ノスに向かって啖呵をきったカミーラが今でも同じ存在だとは思えない程だ。

 

「やはり何も思い浮かばんな。しいて言えば、カミーラが大人しく魔王の下僕になってるのかがわからんと言ったくらいか」

「…なるほど」

 

 ランスの言葉に七星は納得いったといわんばかりに頷く。

(魔人になる事を拒み、カミーラ様の使徒になる事も拒む…その上、カミーラ様が大人しく魔人をしているという事を直接言ったからですか…)

 本来であれば、あのカミーラに意見するなど許される事ではない。

 しかしランスという男、カミーラに対して臆する事無く思った事を言う存在だ。

(カミーラ様が己の力をもってして跪かせたいはずだ…)

 カミーラの過去は、一方的に雄のドラゴンに子を産むことを強要されてきたという歪んだ過去だ。

 新たな存在である人類が生まれてから、ようやくカミーラは己の好きに振舞えるようになった。

 しかしそれは、魔王の命令には絶対という支配下に置かれている事でもある。

 ランスは誰の命令も聞くつもりはは無い。

 例えそれが、魔人であっても魔王であっても変わらない。

 

「魔人の考えてる事はやはりよく分からんな」

「そうね…なんでこんな男を皆気に入るんでしょうね」

「なんだと?」

「言葉通りよ」

 

 レダはニヤリと笑ってランスを見る。

 自分も、カラーも、ケッセルリンクも、魔王も、カミーラも皆ランスが気になっている。

 だからこそ1級神である女神ALICEも気にかけているのかとも思う。

 

「まったく、俺様を何だと思ってるんだ」

「少なくとも私は凄いと思ってるわよ。本当に人間なの? という感じで」

「…それは褒めてるのか」

「人間に対する評価としては最大限だと思うけど」

 

 

 

 

 翌朝、ランス達はようやく魔王城に戻って来ることが出来た。

 そこには既にカミーラを迎えに来た魔物達が整列しており、皆一斉にカミーラに対して首を垂れる。

 魔物達が頭を上げた時、カミーラの姿を見て皆が顔を見合わせる。

 カミーラにはまだ傷跡が多数残っていたからだ。

 

(おい…カミーラ様に何があったんだ?)

(いや、わからん…無敵の魔人様に限り傷つけられる等ありえん事だが…)

 

 魔物達が小声で話しているのをカミーラは無視し、悠然と城の中に入っていく。

 七星もそれに続いて歩いていく。

 

「大変だったな」

「うむ、色々な意味でな」

 

 ランスとレダを迎えに来たガルティアがランス達を労う。

 ガルティアもカミーラの取っ付き難さは知っており、それに振り回されているランス達を本気で心配していた。

(スラルのお気に入りだしな)

 しかし見た所、カミーラも特に気にしている様子では無かったため、ガルティアも安心した。

 

「ところで何か飯はあるか。非常食だけではやはり物足りん」

「おお、そういう事ならあたらしい料理…こかとりす丼があるぞ。中々いけるぞ」

「うむ、デザートもあるんだろうな」

「中々甘いフルーツが手に入ったぞ。それを絞ってジュースにするのも絶品だぜ」

 

 2人は食事の話をしながら、ランスに至っては我が物顔で魔王城に入っていく。

 魔物達の鋭い視線などまるで感じていないような様子に、レダは逆に感心してしまう。

(なんかいつの間にか仲良くなってるし)

 ランス達は何時もの部屋に戻されると、ガルティアが用意していた食事にかぶりつく。

 

「しかし何処に行ってたんだ? カミーラと一緒に出かけるなんて、俺からすれば信じられないんだがな」

「ドラゴンの山だ、ドラゴンの。まったく、カミーラに付き合わされて大変な目にあったぞ」

「そうか…しっかしカミーラがまさか人間を使徒に誘うなんてな。人間を見下してる所があるからなぁ」

「私からすれば、魔人なのに人間とこうして食事とってるあんたも相当だと思うけど…」

 

 ガルティアは魔人ではあるが、人間に対して悪意を持っていない。

 だからこそこうして平気で人間と食事をとる事が出来る。

 

「で、カミーラの使徒になるのか? 俺としてはお前が魔人になってくれたほうが面白そうなんだけどな」

「だから俺は魔人にも使徒にもなる気は無いぞ。まったく…俺様が優秀すぎるのも困った物だな」

 

 ランスは暢気に笑う。

 

「でも不思議よね…まさか魔王と魔人でランスの取り合いになるなんてね。本人にはその気は全く無いみたいだけど」

「当然だ。俺様が誰か一人の女に縛られる訳が無いだろう」

 

 当然の事ながらランスは本気でそう思っている。

 自分が誰か一人の女のモノになるなど、世界の損失であると。

 

「じゃあケッセルリンクはどうなんだ? 前からの知り合いなんだろ?」

「ケッセルリンクは俺の女だ。何で俺が自分の女の使徒にならなきゃならんのだ」

「ふーん…じゃあ本当に魔人にも使徒にもなる気は無いんだな」

「全く無いな」

 

 ランスがあっさりと言い切った事に、逆にガルティアは興味を抱く。

 

「アンタは人間でしょ? なんで魔人になったの?」

「最初は俺も魔物と戦ってたんだけどな…まあ色々あってスラルに直接魔人へと誘われてって感じだな」

「ふーん。つまりは人類の裏切り者か」

 

 ガルティアはランスの言葉に苦笑いを浮かべる。

 あまり気にはしていないが、確かに人類からすれば裏切り者に他ならない。

 

「本当に色々あったのさ…で、ランスはどの辺の生まれなんだ? お前くらい強いと色々と大変だったろ」

 

 ガルティアもその強さ故に妬まれ、同じ人類から裏切られてしまった過去を持つ。

 だからこそ、自分と同じ様に凄まじい強さを持つ人間であるランスが気になった。

 

「分からん。気づいたらカラーの村にいたからな。未だに人間とは会っとらん」

 

 ちなみにランスの頭からは、勇者アーズラの事は綺麗さっぱり抜け落ちている。

 男などランスにとってはその程度の扱いでしかない。

 

「はあ? 人間に会ってない? どういう事だ?」

「そのまんまだ。気づいたらカラーの村にいて、ムシや魔人と戦った。そしたらここに連れてこられただけだ」

「大分説明が抜け落ちれるけど、大凡は合ってるわね…」

 

 レダはランスのあんまりな説明にため息をつく。

 しかし確かにランスから見ればそうとしか説明がつかないだろう。

 ガルティアもランスの言葉には若干困惑しているように見える。

 少し頭を捻っていたガルティアだが、腹の虫と共にその考えを投げ捨てたようで、

 

「そうか。お前も大変だったんだな。ほら、これも食えよ」

「うむ、食ってやろう」

「あ、私も」

 

 ランスとレダはガルティアが差し出した料理…こかとりすの唐揚げを口にする。

 すると、ランスに非常に懐かしい、そしてもう味わいたくないあの感触が思い出される。

 

「あばば!!」

「ぴぎっ!!」

 

 ランスとレダは短い悲鳴をあげるとその場に倒れる。

(こ、これは…まるで香ちゃんの団子…)

 ランスは今ここにいない自分の妹分の事を思い出すと、意識を手放した。

 一方のレダも、

(エ、エンジェルナイトの私がこうも簡単に…い、一体何が…)

 自分に何が起きたのか分からず、ランスと同じ様に意識を失った。

 

 

「あれ? ランス、レダ?」

 

 料理を口にした途端、動かなくなった二人をガルティアは怪訝な表情で見る。

 2人とも僅かに痙攣しているため、生きているのは分かる。

 

「どーしたんだ?」

 

 ガルティアは今も自由が無く、そしてカミーラの無茶に付き合ってきた二人のために、とっておきのご馳走をプレゼントしたつもりだった。

 それがこの一品…まさに至高の味とも言える、魔王スラルの作った一品。

 これを食せばまさに宇宙を見る事が出来るという、ガルティアにとっては何より大切な一品。

 魔王故に、自ら食事を作る事は無いスラルが、自分のために作ってくれたこの料理こそが世界一の料理だとガルティアは信じている。

 

「…そうか。あまりの美味さに倒れたのか。まあ無理は無いよな。これほどの絶品は世界を探しても何処にも存在しないからな」

 

 ガルティアは一人頷きながら、スラルが作ってくれた一品…こかとりすの唐揚げを大事そうに頬張る。

 咀嚼する度に意識が揺さぶられ、まさにこの世の真理にたどり着けそうな程の刺激を与えてくれる。

 

「うめぇ…やっぱりこれこそが一番だな」

 

 ガルティアはその後もスラルの作った料理を心行くまで味わっていた。

 ランス達が目覚める事が出来たのは結局翌朝だった。

 

 

 

 

「カミーラ…お前がここに来るのは何百年ぶりだろうな」

 

 魔王スラルの前にはカミーラが跪いていた。

 魔人にって魔王は絶対であり、命じられれば例え死であっても実行しなければならない。

 幸い、魔王スラルがそのような命令を下すような存在で無い事をカミーラも知っている。

 知ってはいるが、やはりこうして命令されるというのは気に入らないと感じていた。

(…少し前はこのような事など考えもしなかったのだがな)

 今でもランスの言葉が頭から離れない。

 

『お前が一番そういうのを嫌うと思ったがな』

 

 魔王アベルが死んだ後も、自分はドラゴンにとっての子を産むための存在として見られていた。

 魔人となって、ドラゴンを産む事が出来なくなると、ドラゴン達は一斉に自分から興味を失い、争う事をやめてしまった。

 ノスが例外過ぎるのだ。

 

「特に覚えてはいない…」

 

 カミーラはあくまで冷静にスラルの問に答える。

 実際にカミーラにとってスラルはただの『魔王』という存在に過ぎない。

 美しい少女である事が生理的に気に入らない、その程度の感情しか抱いていない。

 

「覚えていない、か。まあそれはどうでもいい。我はお前に聞いてみたい事がある。何故お前は…いや、お前ほどの者があの人間に拘る? 相手はお前が常日頃見下している人間だ」

 

 スラルの問にもカミーラは表情一つ変えない。

(絶対的な命令ではない、か)

 もしスラルが自分に『命令』をしていたのであれば、自分はこうして何かを考えるという事も出来ずに答えているだろう。

 しかしこうして思考を巡らせる事が出来るという事は、スラルは命令をしていないという事だ。

 

「あの男が気になった…それだけ」

 

 だから正直に話した事は自分でも意外だった。

 カミーラは確かにランスの事が気になっている。

 

「…そうか。お前がな」

 

 スラルはそれだけで納得したようだった。

(ここまで、か)

 同時にカミーラにある種の諦めが宿る。

 魔王といいドラゴンの王といい、自分の上に立つ物はいつもそうだ。

 カミーラの意思を無視し、勝手に物事を決めていく。

 

「ならばそれでいい。お前はお前でランスを使徒に誘えばいい。結果、お前の使徒になろうが我は構わぬ」

 

 だが、スラルから放たれたのは意外すぎる言葉であった。

 思わずカミーラはスラルの方を見るが、肝心の魔王は普段のように余裕の表情を崩す事は無い。

 その表情からは魔王の意図を推し量る事は出来ない。

 

「ただし危害を加える事だけは引き続き禁じる…それを守れば良い」

「分かった…」

 

 カミーラは短くそう言うと、何時もの様に優雅にその場を立ち去っていく。

 カミーラが立ち去ってどれ程時間がたったか、スラルは一人ため息をついた。

 

「これで良かったのだろうな…」

 

 スラルはこれまでのカミーラとの出来事を思い出す。

 今思い出しても、カミーラとは事務的な会話以外を交わした事はほとんど無かったと思う。

 それこそ、時たま魔人を狩り、魔血魂を手に入れる事はあっても、それでも実際には使徒である七星から渡される。

 そんなカミーラがスラルが知る限りは初めて己の意思で動いた…それも本人が忌み嫌うドラゴンの元へ。

 

「ランス…か。カミーラすらも動かすか…」

 

 自分にカミーラを動かす事が出来るだろうかとスラルは自嘲する。

 魔王であるからこそあのカミーラに命令をする事は出来るが、果たして自らの意思で自分のために動いてくれるだろうかと思う。

 

「どこまでも不思議な奴だ。だがそれだけの奴なのだろうな」

 

 やはり自分の人を見る目は確かだと思う。

(後はランスが魔人になれば…)

 カミーラの使徒になるのも構わないともいいとは思うが、やはり魔人になって欲しいと思う。

 そして出来れば自らの意思で魔人となり、ランスの心が欲しいものだとも。

 

「そのためにはどうするか…」

 

 スラルはランスを手に入れるため、再び思考の渦に沈む。

 全ては自分がよりこの世界を楽しむために。

 

 

 

 

 カミーラは自分の居城に戻ると、何時ものように王座へと座る。

 

「カミーラ様。スラル様は何と」

 

 先に戻っていた七星が恭しくカミーラに尋ねる。

 魔王が自分の主に何を言ったのか、やはりその使徒としては気になる物だ。

 

「スラルは私がランスを使徒にするのは構わぬと言った…」

「それは」

 

 七星としてもその答えは意外なものであった。

 もうランスには構うな…くらいの事は言われるのでは無いかと思っていたくらいだ。

 

「スラル様の意図は一体…」

「あの魔王が何を考えているかなど構わぬ。ランスが私の使徒になればそれで良い」

 

 魔王の態度に若干引っかかるものはあるが、とにかく魔王の許可は出た。

 後はどうすればあの男が使徒になる事を選ぶのかだ。

 何しろあの男は永遠の命にも価値を見出していない様子だ。

 だからと言って悟っているわけでも無い。

 スラルが作り出した新たな魔人…ケッセルリンクの様子から見ても、欲望に忠実な男なのだろうとは思う。

 

「七星。スラルが作った新たな魔人…ケッセルリンクをここに呼べ」

「はっ」

 

 カミーラは今の状況を楽しんでいる自分に気づく。

 思えば、力以外で何かを手に入れようとは考えた事も無かった。

 それをあの小さな人間がそうさせているというのだから、カミーラ自身も驚いている。

 だが、あの過去の無力感よりもずっと心地よい。

 

「ふっ…魔人となった時はこんな事になるとは考えてもいなかったな。だがこれもいいだろう」

 

 カミーラはどこまでも笑っていた。




大分遅れました…GWでも休みとは限らないから…
ホント早く進めたいけどどんどん時間が取れなくなってしまいます

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