「久しぶりだ、ランス。そしてスラル様も」
魔人ケッセルリンクは椅子から立ち上がるとランスの持っている剣に向かって一礼する。
「もう必要の無い事だというのに…お前は本当に変わらないな」
スラルは彼女が今でも敬意をもって接してくれることに苦笑するしかない。
もう魔王ではなくなったというのに、ケッセルリンクは今でも臣下のような態度を取る。
「これも性分ですので。そして…まさか再びお前達と顔を見合わせる事になるとはな」
ケッセルリンクの視線がブリティシュと日光に向けられる。
その視線だけでブリティシュは背筋が凍り付く。
これまで戦って来た魔人の中でも群を抜いて強い…あの魔人カミーラと同等、いや、それ以上の力を感じてしまう。
「ボクもまさかこんな形で再び会うなんて思わなかったさ」
何とか声を絞り出すが、それでもこの魔人の恐ろしさを感じ取り腰が引ける。
それほどまでにこの魔人は圧倒的な存在感を放っていた。
「まあいい…ランスと共に現れたのであれば私にとっても客人だ。エルシール、彼等も客人としてもてなしてくれ」
「はい。ケッセルリンク様」
ケッセルリンクは再び椅子に座ると、ランス達にも座るように促す。
ランスは堂々とした態度で椅子に座り、レン達もそれに続く。
「目的は果たせたようだな。ハウゼルから話は聞いている」
「おう。ようやくやれたぞ。まあその後で色々とあったが…」
ランスの歯切れが悪い事にケッセルリンクはひっかかる。
ハウゼルとサイゼルとセックスをしたのはもう既に聞いている。
ならば当然のようにランスは喜んでいると思ったが、ランスの表情を見てケッセルリンクは目を見開く。
「…何か問題があったようだな」
「ああ。確かに力はある程度使えるのかもしれないが…その力の使い方が問題でな」
ケッセルリンクの疑問にスラルが答える。
「力を使えばランスのレベルが下がる。それが問題だ」
「レベルをか…それは確かに重大だな。特にお前の場合はな」
スラルの言葉を聞いてケッセルリンクも難しい顔をする。
ランスがご褒美のために頑張っているのは知っているし、レベルに関して焦っていた頃のランスの事も知っている。
「フン、その内何とかなるわ」
ランスの言葉にケッセルリンクも腕を組んで考える。
「ならば…一つ提案がある。私を相手に少し特訓をしないか?」
「お前とか?」
ケッセルリンクの言葉はランスにとっても意外なものだ。
「ああ。私も魔人四天王の一人、お前の全力にも耐えられる自信がある。だからお前も全力で私に向かってくるといい」
ケッセルリンクは立ち上がって笑みを浮かべる。
ランスはちょっと考える。
本来ランスは特訓なんてしないが、必要ならばやる人間だ。
だが、それも一人でやっているもので誰かとやるなんてした事が無い。
しかし、ケッセルリンクがそう言うのであれば、ランスとしても全力で必殺技の修行が出来るのならば、彼女の言葉を受け入れるのは有りだ。
「仕方ないな。お前の言葉に付き合ってやるか」
「意外ね。あんたが特訓なんてするなんて」
「たまにはこういう時もある。まあ俺様なら余裕だ余裕」
ランスは何時ものように自信満々に笑いながら立ち上がる。
そんなランスを見てバーバラは驚いた様子でパレロアに声をかける。
「いいんですか、パレロアさん。ケッセルリンク様に限ってまさかも無いとは思いますが…」
「問題ありません。それにこれはケッセルリンク様の望みですから」
バーバラもケッセルリンクが負けるなんて思ってはいないが、ランスもまた尋常でない強さを持っている人間だという事は知っている。
それに主がこの男をどう思っているのかも。
そんなバーバラの不安を余所に、ケッセルリンクはランスと共に歩いて行く。
「皆様も見学されるならどうぞ」
シャロンの言葉にレン達もランスの後を追っていく。
ケッセルリンクが案内したのはある部屋だ。
ケッセルリンクが魔法を唱えると周囲に明かりが灯る。
「本当は外でも良いのだが…万が一他の魔人に見つかるのも面倒臭いだろう。それともここだと狭いかな?」
ランスは周囲を見渡す。
そこはランス城の体育館程の広さが有り、ランスの技を放っても影響は無いだろう。
「問題無いぞ」
ランスは剣を抜く。
ケッセルリンクもそれに合わせるように剣を抜く。
「今は夜だ。今は私の時間…ランス、全力で来い。それでこそ、お前のためにもなる」
「がはははは! お前こそ下手に怪我なんてするなよ。その後のお楽しみが待ってるんだからな」
「フフ…お前とは常に隣で戦っていたが…こうして相対するのは初めてか」
「何言ってやがる。お前はジルとの時に邪魔しただろうが」
「あれは…いや、私には何も言う資格は無いな」
ランスの言葉にケッセルリンクは苦い顔をする。
あの時の事は言い訳のしようがない。
ランスとしては軽口のつもりだったが、思った以上にケッセルリンクが落ち込んでいるのを見て剣を構える。
「ほれ。とっととやるぞ。構えろ」
「ああ」
二人は剣を構えて向き合う。
本気での戦いでは無いので二人の間に殺気は無い。
「行くぞ」
先に動いたのはケッセルリンクだった。
ケッセルリンクはカラーではあるが剣を使える
魔法の方が得意ではあるが、接近戦での強さもまた彼女が魔人四天王と言われる所以だ。
ランスはケッセルリンクの剣を受け止める。
魔人の膂力すらもあっさりと受け止めるのは、ランスの力と技がなしえるものだ。
そしてランスに剣を振るったはずのケッセルリンクが一番驚いていた。
最初受け止められたと思ったのだが、次の瞬間に自分の体が完全に流れた。
すると自分を襲ったのは衝撃だった。
「…驚いたな。何時の間に斬られたのか分からなかったぞ」
剣を受け流したはずのランスの手には刀が握られていた。
「無敵結界があったな。そういや」
「ああ。私は無敵結界を使う。その方が修行としてはやりやすいだろう。お前は無敵結界を何とかすべくこれまで旅を続けていたのだから」
「フン、あんまりいい気になるなよ」
ケッセルリンクはランスから距離を取ると、今度はランスの方からケッセルリンクに向かって行く。
その手に有るのは蒼い刀であり、ケッセルリンクはその刀から不気味な冷気を感じ取っていた。
(成程、あの姉妹を抱いたからこそ、ランスの剣は再び変わったか。それにしても剣が増えるというのも不思議な話だ)
ケッセルリンクはランスがこの剣を手に入れた経緯を知っている。
というよりもこの剣を手に入れるためにとんでもない事もさせられた。
それを思うと複雑な気分だが、それがランスの力になっているのならそれでいいと思っている。
「っと。流石に剣だけではお前には敵わんな」
ランスの剣はケッセルリンクでは食い止めるだけで精いっぱいだ。
最初は二本の剣を持って居ると思ったが、実際にはランスは凄まじい速度と自然さで剣を持ち換えている。
(それを見抜いた所でどうにもならんな。どうにもできん)
無敵結界があるからこそダメージは無いが、その衝撃までは防げない。
「では…少し本気で行くぞ」
「む」
ケッセルリンクがそう言うと、彼女の空気が変わる。
その目が力強く輝いたかと思うと、ケッセルリンクがその腕を振るう。
「うおっ!?」
ランスはケッセルリンクの薙ぎ払いを剣で受け止めるが、その一撃はランスの体を吹き飛ばす程の威力がある。
「剣だけではお前の相手にはならないようだからな。ここからは魔人として行かせて貰うぞ」
ケッセルリンクの空気が変わると、彼女の姿がまるで霧のように消えていく。
「消えた!?」
「まさか…」
それを見ていたブリティシュと日光が驚きの声を上げる。
そして霧はランスの周囲に集まったかと思うと、霧からケッセルリンクが現れる。
完全に死角からの攻撃だったが、ランスは彼女の剣を刀で受け止める。
「これも止めるか」
「がはははは! 霧になろうが気配がバレバレだ!」
自分の一撃をいとも簡単に受け止めたランスにケッセルリンクは感嘆の声を上げる。
それどころかもう片方の手で持った剣で反撃すらしてくる。
ケッセルリンクはそれを優雅な動きで避ける。
「避けたんだな、ケッセルリンク」
ランスの剣の中からスラルが声をかける。
「ええ。ここからは無敵結界は無しです。実践に勝る経験は無い…とも言いますから。それに…私達が戦って来た相手は無敵結界が通用する相手では無かった」
ランスと共に戦って来たのは、魔人だから何とかなるという相手では無かった。
悪魔、神、魔王…いずれも無敵結界など意味をなさない相手であり、ケッセルリンクも死にかけた事もあった。
その経験もあるからこそ、ケッセルリンクは自分が強くなったと確信している。
「それに私は魔人の中でも強い再生能力を持つ魔人。いくらお前の剣が鋭かろうが、魔人の体力をそうそう奪えるものでは無い。それはお前も分かっているはずだ、ランス」
「フン、今の俺にはそんなのは関係無いわ!」
ランスはケッセルリンクに斬りかかるが、再びその体が霧と化して消える。
だが、その霧から一筋の血が飛び出るのをランスは見逃さない。
そして再び死角から現れるケッセルリンクの腕をランスは防ぐ。
「流石だ。だが、この状況は私に圧倒的に有利だな」
「うぐ」
確かにランスはケッセルリンクの腕を防ぎはしたが、彼女の目的はランスの腕を掴むことだった。
そしてそのままランスの体を抱きしめ、その首筋を軽く噛む。
「これで私の勝ちだ。魔人と戦うというのはそういう事だ」
「何だと!?」
「私がお前の首筋噛んだ時、私はお前の体にウィルスを流す事が出来た。そうすればお前は戦闘不能になっていた。これも私の力だ」
「ぬぐぐ…」
ケッセルリンクがこういう事で嘘を言う訳が無いというのはランスも分かっている。
魔人とはそういう理不尽な強さを持っている存在なのだ。
「さて、続きと行こうか」
「フン、今度は無いぞ」
ランスの剣をケッセルリンクは受けずに避ける。
その動きには全く無駄がなく、ケッセルリンクが百戦錬磨だという事を思い知らされる。
「…凄いな。ランスの動きに完全に対応している」
「ランス殿の攻撃を避けるだけでも凄い事ですからね」
ブリティシュはランスの攻撃を見切っているケッセルリンクの強さに驚愕する。
ランスの攻撃は非常に『やりにくい』という言葉に尽きる。
完全な我流であり一見するといい加減で隙があるように見えるのだが、そう思っていると手痛い反撃を受ける。
ブリティシュも本気のランスとは戦いたくは無いと思っている。
「ランス殿の剣は本当に特殊ですから…でも、彼女はそのランス殿の剣を完全では無いですが見切っている」
ケッセルリンクは魔人としての力もそうだが、その技術も凄まじい。
「ケッセルリンク様はランス様に最も近い魔人…そして共に戦い抜いた戦友です。ランス様の手の内を分かっていますから」
二人に近づいてきたのは使徒のシャロンだ。
「最も近い魔人…」
「ええ。共に魔人と戦った友であり、これまでに様々な困難を切り抜けてきました。そして…ケッセルリンク様はランス様の最大の理解者。それは戦いでも変わる事はありません」
シャロンの言葉に日光は複雑な顔をする。
ランスとケッセルリンクの関係は知ってはいた。
その時もショックなのは間違いなかったのだが、今は今で複雑な思いを抱いている。
二人はランスとケッセルリンクの戦いを見ていたが、徐々にではあるがランスが押していく。
「…一体何をやっているのか、我にはさっぱり分からんな」
「大丈夫ですよー。私もよく分かりませんし」
お町は二人の戦いを見てため息をつく。
そんなお町に体をくっつけながら加奈代も頷く。
「…何故くっついてくる」
「いやー、昔のお町を知っている身としては、こんなに成長してくれて嬉しいですからねー」
「だからといって気安く触れるな。そこは止めろ」
「あいたっ」
お町の体から電気が放たれ、加奈代がお町から離れる。
そんな事をしていると、とうとうランスの剣がケッセルリンクの体を捕らえた。
ランスの剣がケッセルリンクの肩に当たったのを皮切りに、ランスの凄まじい斬撃がケッセルリンクを襲う。
「む…」
ケッセルリンクは改めてランスの剣を味わう。
(これほどとは…)
昔からランスの剣は凄まじいと思っていた。
剣を使えるからこそ、ランスの剣が異質だという事は分かっていた。
だが、見る事と向けられる事は全く意味合いが違った。
ケッセルリンクはランスの剣を弾くが、間髪入れず刀がケッセルリンクに襲い掛かる。
ランスの剣は重く、刀は鋭い。
しかもそれが矢継に襲い掛かって来る。
おかげでケッセルリンクであっても剣だけでそれを捌くのは難しい。
(なるほど、私とランスの剣の差だな。私では逆立ちしても同じことは出来ないだろう)
「成長しているな。あの時よりも更に磨きがかかった」
「がはははは! 当然だ!」
「だが…それだけでは魔人四天王には勝てない」
確かにランスの剣は素晴らしい。
人間とは思えぬ剣として魔人にも通用するのは間違いない。
だが、それでも魔人の上澄み…魔人四天王となると話は別だ。
「デビルビーム」
「どわっ!」
霧になったケッセルリンクがランスから距離を取ると、そのまま魔法を放つ。
魔法が直撃したランスはそのまま吹き飛ばされる。
流石に魔人四天王であるケッセルリンクの魔法の威力は格別で、ドラゴンの加護を装備しているランスにもダメージを与えた。
「私は魔法の方が得意だ。まあこれをやるとお前の特訓にはならないがな」
「だったらやるな!」
ケッセルリンクの言葉にランスは怒りながら立ち上がる。
「すまないな。さて…バスワルドの力、お前が使っているとは思えない。今回の事はお前がその力を引き出す事が第一だ。ならば…私も本気を出せばいいか」
そう言うとケッセルリンクの気配が変わる。
魔人の気配が濃厚になり、それを感じ取ったランスも顔色が変わる。
「これが…魔人ケッセルリンク」
「この力は…!」
ブリティシュと日光も濃厚なケッセルリンクの気配を感じ取り、冷や汗が止まらなくなる。
「むう…離れろ」
「怖く無いですか? 私が居るから大丈夫ですよ」
お町もケッセルリンクの力に体が震えるが、加奈代がお町に抱き着く。
「ここからか…」
レンだけが若干唇を噛んだだけで一応は平気な顔をしている。
「ケッセルリンク様!」
「大丈夫だよ、パレロア。これくらいしなければ…ランスは本気を出せぬだろうさ」
ランスはケッセルリンクの気配が変わった事に警戒する。
この気配はカミーラや、リーザスで戦った時のノスと同じだ。
つまりはランスの勘が最大限の警戒を働かせていた。
「行くぞ、ランス」
ケッセルリンクの姿が闇に溶け込むように消えていく。
その闇はランスだけでなく、その戦いを見ていた者達をも包み込む。
「こいつは…!」
「これがケッセルリンクの本気だ」
ランスを纏わりつくような闇からは膨大なケッセルリンクの気配を感じ取れる。
「この闇そのものがケッセルリンクだ。夜こそが彼女の領域であり半身。今お前は彼女の内に飲み込まれているに等しい状態だ」
「なにー----!?」
「ランス。これが私の本気だ。この状態で相手になろう」
ケッセルリンクの声は闇から響いてきており、ランスでも何処に居るのか判断がつかない程だ。
「おい明かりだ明かり! 何も見えんのでは戦いにならんぞ!」
「無駄だ。ケッセルリンクの闇の前では明かりに意味は無い。言っただろう、これが魔人四天王であり夜の女王と呼ばれるケッセルリンクの本気だと」
「ぐ…」
魔人とは本来理不尽な存在、それを忘れていた訳では無いが、まさかこんな力を持っているとはランスも予想外だった。
もしかしたら彼女が闇になっていたのを見たかもしれないが、何分自分に向けられたものでは無いので完全に失念していた。
「行くぞ、ランス」
闇から響く彼女の声に、ランスは咄嗟に剣を振るう。
しかしそれは空を斬っただけでケッセルリンクに影響を与えるものでは無かった。
「うおっ!?」
背中に衝撃を感じ、ランスは背後に刀を振るう。
しかしそれも空を斬るだけで、ケッセルリンクに何の影響も与えられなかった。
「うぐぐ…これがあいつの本気か」
ランスはケッセルリンクの闇の中で呻く。
今も全く見通せないし、何処から攻撃がくるのかさっぱり分からない。
「こういう事も出来る。デビルビーム」
「あんぎゃー!」
突如として放たれた魔法にランスは成す術も無く吹き飛ばされる。
防御態勢を取っていれば違っただろうが、まさかの攻撃には対応が全く出来ない。
「あだだ…おい! 魔法も使えるのか!?」
「ああ。闇は彼女の魔法では無く魔人としての能力だからな。言っただろう、夜の女王だと。夜の間は間違いなくカミーラよりも強いぞ」
スラルの言葉にランスは内心で呻く。
強いとは思っていたが、今までは常にランスを助けてくれたのがケッセルリンクだ。
ジルに命令された時は相当に手加減されたと、今更ながら理解出来た。
「だったら…こいつでどうだ!」
ランスが体を捻るようにして剣を横薙ぎに振る。
ランスの必殺の一撃である、闘気の渦が闇を裂く…はずだった。
「な、何だと!?」
しかしランスの放った技はケッセルリンクの闇には何の影響も無かった。
カミーラのブレスを斬り裂くはずのランスの剣は、ケッセルリンクの闇には何の影響も及ぼさなかった。
「無意味か…まさかこれ程までとは」
スラルもランスの必殺技すらも意味が無いのを見て剣の中で唇を歪める。
強いとは思っていたが、まさかランスの技すらも無効するとは思っていなかった。
何とかなるかもしれない…と思っていたが、自分の見積もりは甘かったようだ。
「それくらいでは私の闇を払いきる事は出来ないな」
ケッセルリンクの言葉と共に、ランスの剣が反射的に動く。
すると甲高い音を立ててケッセルリンクの一撃が防いげたのが分かる。
今のは勘で防げていたが、これが連続で来たり魔法が飛んでくるとなると厳しい。
「たりゃあああああ!」
ランスは剣を振り回すが、それはケッセルリンクには全く当たった様子は無い。
「フフ…そんな攻撃では私には通らないな」
そしてケッセルリンクの薙ぎ払いがランスの体を吹き飛ばす。
同時に闇がどんどんと晴れていき、ケッセルリンクの姿が見える。
「むぐぐ…全く影響が無いではないか」
「当然だ。彼女は再生能力も高い。しかし、お前の剣をもってしても全くダメージを与えられていないとはな…」
スラルもケッセルリンクを見て呻く。
強いとは思っていたし自分が魔王だった頃は信頼していた。
しかし、こうして相対するとその強さに戦慄する。
カミーラとは別のベクトルでの強さがある。
「さて…まだ続けるか?」
「当たり前だろうが!」
ケッセルリンクの挑発にランスは当然のように乗っかる。
そして凄まじい速度でケッセルリンクに向かって行く。
ケッセルリンクの姿が再び霧になり、ランスの攻撃が空を斬る。
そして霧が集まっていったとき、ランスはその場所に素早く刀を振るう。
「む」
それには流石にケッセルリンクも驚く。
ランスは気配だけで完全にケッセルリンクが何処に現れるのかを理解していた。
そしてケッセルリンクに対しては、その力を震わせる前に攻撃を重ねるしかないと判断した。
「く…」
流石のケッセルリンクもランスの攻撃には顔色を変える。
剣戦闘LV3という技能、そして凄まじい力を持つ剣と刀。
その二つの強烈な攻撃は魔人すらも怯ませる。
だが、それでもやはり魔人という存在は圧倒的だった。
「デビルビーム」
ケッセルリンクはランスの攻撃を防ぎながら魔法を放つ。
ランスもそれには耐えられずに吹き飛ばされる。
本来魔法使いなら接近戦に弱いものだが、やはり魔人の力は圧倒的だった。
「ランス、例の力は使えないのか?」
「そんな簡単に使えるのなら苦労はせんわ」
「それも尤もだ」
再びケッセルリンクの体が闇に溶けていく。
「またか」
ランスはうんざりするが、魔人とはそういうものだ。
「フン」
ランスは刀を構える。
魔法で来られるとどうしようもないのだが、今回はランスの修行だ。
だったらケッセルリンクも理不尽な事はして来ないと判断した。
空間を斬る一撃を直接ケッセルリンクに叩きこむ。
それ以外に有効打は存在しない。
そして闇の中からケッセルリンクの気配を掴む以外に道は無い。
闇の中からケッセルリンクはランスの動きを見る。
(成程…流石はランスだ。これしかないという行動を確実にする。その判断力の高さはやはり素晴らしい)
魔法ならばケッセルリンクは確実に勝てる。
だが、当然彼女はそんな選択肢は取らない。
これはランスにとっての重大な修行、ならば自分の身がどうなろうが、ランスのために行動を取るだけだ。
そしてケッセルリンクは闇の中からランスの死角から強襲する。
するとランスはその姿が見えていたかのように自分の方向を向く。
ランスの判断は何も間違っていないのだが、それでも一瞬遅かった。
ランスがケッセルリンクに向かって刀を振るおうとした時、その腕がケッセルリンクの手によって止められる。
刀を抜く事が出来ずにランスが一瞬硬直すると、その頭に手が回されたかと思うと、その唇に柔らかいものが覆いかぶさる。
「むぐ」
それは濃厚な口づけだった。
今までの鬱憤を晴らすかのようにケッセルリンクの舌がランスの舌と絡み合う。
「私の勝ちだな」
闇が晴れると、ケッセルリンクがランスの首を掴んでいる所だった。
「…お前な」
ランスは少し文句を言いたそうだが、ケッセルリンクの顔を見て何も言えなくなる。
「たまにはいいだろう」
「フン」
ケッセルリンクが微笑み、ランスから手を離す。
ランスはそれを見て毒気が抜かれた様に刀を収める。
「…正直何が起きてるのかさっぱりだったね」
「何も見えませんでしたからね」
ブリティシュと日光は残念そうな声を出す。
ランスの動きを客観的に見れると思ったのだが、結局それを見る事が出来ないのだから。
「…所で加奈代、あなたは何をやってるのですか?」
シャロンは呆れたように地面に倒れて痙攣している加奈代を見る。
「闇の中で不埒な事をしてくるからじゃ!」
お町は周囲に雷を放ちながら呆れたように声を出す。
「お町ちゃん…随分と立派になって…」
加奈代はそう言って笑いながら意識を失った。
一度保存したデータが何故か保存されていないという悲劇が襲い、丸まる書き直しに
なので一度見直して全く違う内容になりました
どうしてこんな事が起きたのか理由が不明で困惑してます