「がはははは! 余裕だ余裕!」
「この辺りのモンスターはそう強くないようですね」
ランス達はケッセルリンクが留守の間、ランスの趣味と暇潰しを兼ねてダンジョンに来ていた。
そこでランスはモンスターを斬り伏せて高笑いをしていた。
倒れているのは牛バンバラやオッズ、指圧マスターにいもむしDX等だ。
中堅処のモンスターではランスにとっては余裕で倒せる存在だ。
「相変わらず強いですね。改めてランスさんと一緒に居てその強さが分かります」
シャロンが感心したように言う。
シャロンは何時ものメイド服では無く、動きやすい服装に着替えている。
「使徒の私達より遥かに強いですからね…」
エルシールもメイド服では無く、昔に彼女が着ていた魔法使いの服を着ている。
「まあ私達は使徒の中では弱い方だとは思いますが…」
この中で唯一メイド服を着ているのは完全に戦闘に不向きなパレロアだ。
「それでも普通のモンスターなんかより強いだろ」
ランスは相手が使徒だろうが魔人だろうが気にしない。
顔が良くてセックスが出来るのならば全て等しく女なのだ。
そんなランスを見て複雑な顔をしているのは日光だ。
今回の冒険はランス、日光、シャロン、エルシール、パレロアの5人だ。
他の者達はケッセルリンクの城で留守番だ。
「皆さん…本当にランス殿と一緒に冒険していたのですね」
日光はため息をつきながら言う。
ランスという人間は冒険でも本当に我儘な男だ。
ただ、冒険においてはその我儘が良い方向に進むのだから不思議なものだ。
だが、一緒に冒険する方はそうは思わないだろう。
しかし、シャロン達は特に何も言う事も無く自然にランスと付き合っている。
「そうですね。ランス様は昔から本当に冒険が好きで、常に世界を回っていた方ですから。私達も結構長くランス様と冒険をしてましたから」
シャロンは昔ランスと共に冒険してきた事を思い出す。
最初はシャロンは足手纏いで、常にレンと大まおーに守られてきた。
自分が一国の王女だった頃は、まさか自分にスパルタとしての才能があるなど考えもしなかった。
ただ、今はこうして戦えるという事に感謝している。
「私は…今でも戦いは苦手ですけど」
パレロアは戦闘に関しては本当に苦手だが、使徒としての身体能力が有るので足手纏いにはならない。
ただ、彼女はどちらかというと家事を担当しており、ダンジョンでは完全にお荷物だった。
荷物持ちにしかならないとランスに申し訳なく思っていたが、ランスは特に気にしている様子は無かった。
「さてと…と。マッピングも久しぶり。昔はまおーさんに任せっきりだったし…」
エルシールはメイド達の中ではランスとの付き合いが一番長い。
なので当然冒険の数も多く、この中では一番頼りになると言っても良い。
「まおーさんは何処に行ったのでしょうね…」
パレロアも自分を助けてくれた大まおーの事を思い出してため息をつく。
魔王ジルとの戦いの中、ハウセスナースに巻き込まれて異世界に向かった時、大まおーだけが行方不明になってしまった。
「まああいつの事だから問題無いだろう。本当に器用な奴だったからな」
ランスの剣の中からスラルが答える。
自分が拾って来た壺から現れた奇妙な存在だったが、あいつが居なければ自分は完全に消滅していただろう。
それだけでなく、ジルの魂の欠片がランスの剣の中にあるのは大まおーの存在のおかげだ。
最後の最後まで謎の存在だったが、不思議と心配はしていない。
きっと何処かの世界であの間延びした声を披露しているのだろう。
「とっとと行くぞ。久々のダンジョンだからな。どんなお宝があるか楽しみだなー」
ランスはがははと笑いながら進んで行く。
モンスターも大した事は無いが、スカウト技能持ちが居ないので進行は少し遅くなる。
そういう所ではやはりかなみの有難さが分かる。
「ランス様の目指している技とはどんなものなんですか?」
「あ、それ私も気になります。昔からランスさんは凄い剣の使い手だと思ってましたけど、そんなランスさんがどんな技を編み出そうとしているのか、正直気になります」
シャロンの言葉にエルシールも頷く。
エルシールは魔法使いとしてランスと共に冒険していた期間が長いので、ランスの実力は嫌と言う程思い知っている。
魔人を相手にも対応できる剣はまさに人を超越している。
ただ、ランスはそれ以上の存在と相対する事が多いだけだ。
「がはははは! 世界で俺様しか出来ん事だ!」
「だからどんな技なんですか? 正直見てみたいです」
「む…」
エルシールが純粋に興味が有るという目でランスを見る。
それを見るとランスとしても期待に応えるという事しか無いのだが…
「少し待て。まだランスの技は未完成だ。迂闊に使うとランスのレベルが下がる」
スラルの言葉にエルシールは目を見開く。
「レベル…ですか。確か今ランスさんのレベルが89ですから…そこから下がるとなると大きいですね」
レベルが上がって来ると、次のレベルに上がるための経験値が膨大に大きくなる。
それは主でるケッセルリンクが顕著だ。
それこそランスとは比較にならないレベルで経験値が必要となる。
その代わり、レベルが下がるのも相対的に遅いという事もある。
(ランスさんの目的からすると、やっぱりレベルが下がるのは大変ですからね…)
ランスの事情を良く知っているメイド達としては、ランスが中々技を使おうとしないのも理解出来る。
それ故に、ランスは全くしない修行みたいなことをやっているのだから。
「…ランスさん、一つ良いですか?」
「なんだ、パレロア。言ってみろ」
「その…ランスさんはその必殺技をどういう感じで使いたいのですか? 私は剣に関しては全く分からないので」
「そんなのは簡単だ。とにかく相手をぶっ殺す。それでいいだろ」
ランスに必要なのは一撃の破壊力。
魔人を相手にするのにもとにかく使えるものは何でも使う。
そして破壊神ラ・バスワルドの力を解放出来るならそれが一番近道だとランスは考えた。
事実、ランスとしても手応えは感じていた。
が、そこから先に進めていないのが現状なのだ。
「皆さんから色々と話は聞きましたけど、JAPANの刀…というのですよね。それを使えば出来るんですよね」
「うむ。まあ俺様なら剣でも使える…はずだ」
最後は少し小さな声で言う。
ランスとしてもちょっと難しいかなと思い始めているのも事実だ。
「ランスさんの必殺技…昔から凄かったですけど、ランスさんはそれを起点にしているんですよね?」
「それがどうした」
「もしかしたらそれが障害になっているのでは無いかなと思いまして…」
「何だと」
「その…生意気を言ったのならごめんなさい。でも、どうしてもそう思ってしまって…」
パレロアの言葉にランスは少し無言になる。
余裕が無い状態ならパレロアに対して怒鳴っていたかもしれないが、幸いにもランスは冒険の途中という事もあって気分が良かった。
なので少し考えるという事も出来た。
(うーむ、俺様は確かに天才だが流石にアレが出来るようになるとは思えんぞ)
破壊神ラ・バスワルドの力はそれこそ規格外だ。
人間が真似出来る事では無いのはランスも理解している。
しかし、同時に最も効率良く相手を倒すという事に特化している。
ある意味で単純なランスとしては、目指すのには丁度良い。
「ランス、お前の剣はお前にしか分からない。我はお前の好きなようにすれば良いと思っている」
スラルの言葉にランスは何も言わない。
ただ、パレロアの言う事も今なら少しだが理解出来ている。
それもランスが少しは大人になったという事と、目的の存在が魔王ジルだからだろう。
「なんかパレロアさんの言葉は子供に言い聞かせるような感じがしますね」
「彼女の過去からすると当然です。パレロアは…自分の子供を失ってますから」
日光の呟きにシャロンが痛ましい顔をする。
彼女の過去はシャロンも実際に見てしまったため、ある意味自分よりも酷いとも思ってしまう。
自分は酷い目にあわされる前にランスとケッセルリンクによって助けられた。
だが、彼女は目の前で子供を失ってしまったのだ。
「…そんな事が」
日光は相手が使徒とはいえ、子供を失った母親の気持ちを思い何も言えなくなる。
魔人には魔人の、そして使徒には使徒の事情もあるのだろう。
ただ、殆どの魔人と使徒が明確に人間の敵であるというのもまた事実だ。
「新しい技を生み出すなんて事は簡単には出来ないと思いますが…あの時カミーラ様のブレスすらも斬ったランスさんなら何か思いつくかと思いました」
「うむ…そうだな。俺様はカミーラのブレスも斬れる天才だからな。まあ何とかなるな」
パレロアの言葉を受けてランスは上機嫌に笑う。
袋小路に嵌ってしまっているのは事実だが、そんな事を一々気にしてはいられない。
その内何とかなるだろうし、絶対に何とかするのがランスという男だ。
しかし、今もまだその道は遠い。
その夜―――
「うーむ、今回の冒険は久々に当たりだったな」
ランスは目の前にある剣ともう一つの宝を見て嬉しそうに笑う。
そのダンジョンから見つかった宝の中に、ランスが非常に喜ぶアイテムがあった。
「しかし何度見ても美しい…」
ランスが見て喜んでいるの理由は、その手の中にある貝だ。
そんなランスを見て日光は非常に珍しいモノでも見るかのような顔をしている。
「ランス殿が貝の収集が趣味なのは知ってましたが…あんな顔をするのですね」
「JAPANに向かった時も貝塚は何処だと言ってましたしね…私は今でも貝塚とは何なのか分からないですが」
「ランスさんにとっては大切な趣味ですからね。私でも触らせて貰った事もありませんから…」
嬉しそうな顔をしているランスを見てパレロアも微笑む。
女好きでセックスが大好きなランスだが、それと同じくらいに貝の収集も大好きだ。
もしかしたら手に入れた剣よりも喜んでいるかもしれない。
「しかしこの白さくら貝…いや、白というよりもプラチナと言うべきか…」
ランスが手に入れた貝は純白のさくら貝…いや、白というよりも光輝いているように見える。
その輝きはまさにプラチナ…貝のコレクターならばまさに誰もが欲しがる代物だ。
ただ、その貝のコレクターという者が珍しいのだが。
何しろ価値を見出さない者にとってはゴミでしかないのだから。
「お前は本当に貝を集めるのが好きだな。まあそれも人の趣味だから我も何も言えんが。それにしてももう片方の剣…これはこれで中々価値が有りそうだな」
スラルは剣の中から今回のダンジョンで手に入ったお宝を見る。
中々豪華な装飾がされた剣で、かなりの切れ味を持っているのは間違いない。
ロングソードに比べて大柄だが、それでもバスタードソード程大きくも無い。
ランスが持つハデスとそれ程変わらない大きさで、ランスも問題無く扱えるサイズの剣だ。
「こいつが有るから別にいらんがな。日光、お前使ってみるか」
ランスは特に剣には興味を示さず、手に入れた剣を日光に渡そうとする。
日光は一度その剣を受け取るが、直ぐにランスに返す。
「私には少し重いです。やはり私には刀が一番ですから」
その手の中の『聖刀日光』を片手に日光は微笑む。
ただ、ランスの気持ちは純粋に嬉しかった。
「レン様やブリティシュ様に渡しても良いと思いますが」
「レンはともかく男にはやらん。まあ後々使える気もするしな」
シャロンの言葉にランスは剣を片手に不敵な笑みを浮かべる。
何だかんだ言って、この剣は中々の当たりの類だとランスは思っている。
豪華な装飾などに興味はなく、純粋にこの剣の力を感じ取っていた。
剣LV3を持つランスだからこそ分かる剣の鼓動ともいうべきものを確かにこの手に感じていた。
「そういやケッセルリンクは何時頃戻って来るんだ。カミーラに呼ばれてるんだろ」
生憎とケッセルリンクはまだ戻って来ていない。
魔人なので人間とは違った時間の感覚を持っているのかもしれない。
もう三日経過しているが、メイド達は特に気にした様子も無かった。
「ランスさんが居ますし、そろそろ戻って来るとは思いますが…」
「そうか。まあとにかく戻るとするか」
エルシールの言葉に頷くと、ランスは貝を片手に上機嫌で自分の部屋に戻っていった。
「…あんな楽しそうなランス様を久しぶりに見ましたね」
「貝の事になると本当に嬉しそうですね、ランスさんは」
「変わった趣味…になるのでしょうか?」
日光は自分の部屋に戻ったランスの方向を見て複雑な顔をしていた。
(…使徒と協力して冒険をしただなんて、カオスに言っても信じてくれないでしょうね)
その夜ランスは手に入れたさくら貝を宝物としてしまい、珍しく女を呼ばずに寝ていた。
そしてランスはと言うと…
「…何処だここは」
ランスが居るのは良く分からない場所だった。
その手には剣と刀…二つに分かれた自分の愛剣が握られている。
「おいスラルちゃん。居るか」
ランスはスラルに声をかけるが、そのスラルから返事は無い。
「むぅ…前と同じか。という事は…」
ランスは周囲を見渡すと、そこには以前にも見た絶世の美女を見つける。
その美女はフワフワと浮いており、そのオッドアイでランスの事を見ていた。
「またお前か。バスワルド」
そこに居たのは破壊神であるラ・バスワルドだ。
相変わらず何を考えているか分からない無表情で、本当にランスを見ているかどうか怪しい所だ。
だがランスは躊躇う事無くバスワルドに向かって行く。
どうせこれは夢なのだが、それでも美女が現れるならランスとしては問題無い。
「おい」
ランスは声をかけるが、やはりバスワルドは無表情でランスを見ているだけだ。
「………我を呼んだか」
「別に呼んではいないが…いや、嘘だ。お前を呼んだ」
呼んでいない、と言葉にした時バスワルドの姿が消えていくのを見て、ランスは慌てて言葉を変える。
すると半透明だったバスワルドの姿が元に戻る。
「我は破壊を司る神、バスワルド。世界に破滅が近づいた時、破滅を防ぐ為に、世界を破壊する者。我を我にし、呼び出したのは貴様か?」
「いや、違うぞ」
「………」
「ここは俺様の夢の中で、そこにお前が居たぞ」
「………」
「なんでお前がここに居るか、もしかして自分で分かって無いのか?」
ランスの言葉にバスワルドはしばしの間無言でいると、突如としてその手が光始める。
「ってやめんか! いくら俺様の夢の中でも洒落にならんぞ!」
ランスは慌ててバスワルドを止める。
何しろこの神はとんでもない奴で、もし止めるとなればランスでも歯が立たないレベルだ。
ランスの言葉にバスワルドの手から光が収まり、再び感情の籠らない目でランスを見る。
「あ、そうだ。また会えたなら丁度いい。あの力の使い方を教えろ」
「………人が神の力を望むか」
「別にお前の力はいらん。だが、お前の力は俺の役に立つからな。まあ教わってやってもいい」
相変わらず偉そうなランスに対し、バスワルドの目が細まる。
「それが神に頼みごとをする態度か」
「何だお前レベル神みたいな事を言いおって…まあ、無口で無愛想で無表情よりもずっとマシだな」
バスワルドの言葉にランスは怒るどころか楽しそうに笑う。
そんなランスにバスワルドは少しの間無言だったが、
「ならばお前は対価として我に捧げる必要がある」
「む…対価だと」
バスワルドの言葉にランスは少し驚く。
まさかこの神からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
(まあクエルプランちゃんも色々と要求してきたしな。あのハイレベル神とやらも宝石を要求してきたし、そういうもんなんだろう)
相変わらずレベル神と2級神を同じレベルで考えるランスだが、当然バスワルドはそんな事は知らない。
「で、お前は何が欲しいんだ」
「………」
対価を要求されたが、バスワルドが何を求めているか分からないのでランスとしては当然のように聞く。
だが、バスワルドはその言葉にまた無言になる。
しばらくの間沈黙が続くが、ランスは半眼になってバスワルドを睨む。
「お前まさか対価とか言ったが、まさか何も考えていないんじゃないだろうな」
「………」
ランスの言葉にバスワルドは答えない。
何しろ当の本人であるバスワルド自身、己の言葉の意味を理解していなかった。
ただ、そう言わなければいけないような気がしたのだ。
「お前が何を要求してるか分からんのでは何も出来んではないか」
バスワルドはやはり無表情にランスを見る。
「お前の大切なモノを我に捧げよ」
「大切なもの…ハイパー兵器か!? 絶対にやらんぞ!」
「そんなものはいらない。捧げるのはお前の大切なモノだ」
「俺様の女も却下だ却下。そんな事ならお前から何もおそわらん」
「………」
ランスは話にならんといった感じの態度を取る。
そんなランスを見てバスワルドは無言になる。
「だーっ! だから直ぐに消えようとするな! だからお前の望むものを言え!」
再びバスワルドの姿が消えそうになるのを見てランスは慌てて止める。
バスワルドは少しの間ランスを見るが、
「我は何を望む」
「そんなのは知らん。大体自分で自分の欲しい物が分からんなんてありえんだろ」
「我は人ではない。我は破壊の神。それが全て」
「破壊の神だろうが何だろうが欲しいものくらいあるだろうが。だからお前も俺様に要求したのだろうが」
「………」
ランスの指摘にバスワルドは何も答えない。
そもそもバスワルドがこんな事を言ったのは自分自身でもよく分かっていない。
ただ、神が願いを叶えるならば何かしらの理由が必要となる。
そしてバスワルドはランスの持っている腕輪…即ちクエルプランの残り香を感じ取り、自然とそんな事を口にしていた。
なのでバスワルド自身、自分が何故こんな事を口にしたのか分かってもいない。
「お前の大切なモノ…それが我の要求するモノだ」
「なんと曖昧な…あ」
結局バスワルドが要求しているのものが全く分からない。
これはランスとしても困ってしまう。
そしてランスは大切なモノ、という言葉で一つの物を思いついた。
いや、思いついてしまった。
「まさか…俺様の持っている貝か!?」
それはランスの大切な趣味で有り、ランスにとっては大切なものである貝だ。
人にとってはゴミにしか過ぎないが、ランスにとっては非常に大切な物だ。
何しろこの男には常識が通用しなく、欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れる。
それこそ卑劣な手段も厭わないし、何なら力にものを言わせて奪う事も日常茶飯事だ。
しかし貝に関してはコレクターとしての仁義があるのか、オークションに参加したり冒険で手に入れたりと割と真っ当な方法で手に入れている。
シィルにすらも滅多に触らせない、それがランスの貝に対する熱い思いだ。
「むむむ…まさか神が貝を要求するとは…だが、確かに貝は貴重で価値のあるものだが…」
バスワルドは何も言っていないのに、ランスは勝手に悩んでいる。
そんなランスを見てバスワルドはほんのちょっぴり困惑していたが、何だか面白そうなので静観している。
「うーむ…」
ランスは本気で悩む。
他から見ればバカバカしいと思うかもしれないが、ランスにとってはまさに財宝を要求されたのと同じだ。
だがそれでも、ランスにはやらなければやらない事があるのだ。
『ランス様』
自分の目の前で四肢をもがれ、そして自分の子供まで殺されたジル。
そして今も魔王として苦しみ…その先の未来でランスが見捨てる事になってしまった女。
それを取り戻すためにどんな事でもランスはする。
「よし分かったいいだろう。この俺様の大切な貝をお前にやろう」
ランスは本気で断腸の思いで決断する。
丁度今ランスの手元には先ほど手に入れたプラチナの輝きを持つさくら貝がある。
これは夢だからまあいいかという打算がありつつも、ランスは自分の宝である貝をバスワルドに向けて差し出す。
バスワルドは少しの間無言だったが、そのさくら貝を受け取る。
「…いいだろう、対価は得た。我が力、お前に教えよう」
そう言うバスワルドの手に破壊の力が宿る。
破壊の力は周囲の物体に触れるとその部分が削り取られる。
「うーむ」
それを見てランスは呻く。
相変わらず理不尽なまでに強力な力だ。
かつてJAPANで魔王の理不尽な力を味わった事があるが、その魔王の力に匹敵する理不尽さだ。
流石にランスもこんな力が使いこなせるとは思わない。
ハッキリと分かったのは、バスワルドと同じ力を使うのは不可能だという事だけだ。
ランスは剣を抜くが流石にあんな事が出来るとは思えない。
そう思っていると、バスワルドがランスの手に触れる。
「お、意外と柔らかい手をしてるんだな」
ランスの軽口にバスワルドは反応しない。
そのままランスの手を取り、その手ごと空間に向かって剣を放つ。
「お、おお!」
たったそれだけの事なのにランスは驚く。
刀でしか出来なかった空間をも斬る一撃…それが簡単に出来たのだ。
「まだ何か無いのか。かっこいい技は無いのか」
「技…」
ランスの言葉にバスワルドは少し考え、その力を目の前の空間に具現化させる。
凄まじい轟音と共に、地形が変わるほどの衝撃がランスを襲う。
「どわああああああ!」
ランスは成す術も吹き飛ばされ、何とか着地をする。
「おいこら! 何をする!」
ランスは怒るが、目の前の光景を見て口をあんぐりと開ける。
そこにはまるで天変地異でも起こったような状況が広がっていた。
「天地崩壊。全てを破壊し無にする。それが我が力」
それはあの魔法バカのアニスですら起こしえない、まさに力の象徴が存在していた。
「こんなの出来る訳が無いだろうが! もっと無いのか」
「無い。我はこの破壊の力こそが全て」
確かにこの力が有れば小手先の力など必要無いだろう。
剣も魔法も何も関係ない、ただただ無慈悲な破壊の力。
それがこの神の力だとランスは理解する。
「これは論外だが、まあ使えそうだな。よーし、じゃあ早速特訓だな。俺様の宝を渡したんだからお前もしっかり俺様に教えろよ」
「………何故教わる方が偉そうなのだ」
「がはははは! 待ってろよジル!」
「はっ!」
ランスは何時もの時間よりも早く目を覚ます。
「うーむ…不思議な夢だったな」
夢というには生々しい感触が自分の手に残っている。
まるで自分の体に何かが染みついたような、そんな感覚が全身に感じてしまう。
「どうしたランス」
スラルが声をかけてくるが、ランスは少しの間自分の手を見ていると、突如として起き上がる。
「ま、まさか!」
ランスは自分の宝物が入っている箱を開ける。
まさかと思いつつもその中を見た時…
「あああああああ! お、俺様のプラチナさくら貝(ランス命名)が…」
愕然として肩を落とす。
昨日そこに確かにあったランスの宝であるさくら貝は影も形も無く消えていた。
つまり夢の中の出来事だと思っていたのが、まさかの現実に起こった事なのかと錯覚してしまう。
ただ、現実にランスの宝である貝が消えている。
「うぐぐぐぐぐ…うわーん!」
「う、うわーん!?」
ランスの言葉にスラルは本気で困惑する以外に無かった。
申し訳ないです、大分遅れました
色々と凹む事があったり風邪をひいたり怪我をしたりと…踏んだり蹴ったりでした
まだ色々と忙しいので少し遅れるかもしれません
申し訳ないです