「ジル様…何かありましたか」
「何も無い…」
ノスは主が随分と機嫌が良いのを見て思わず問いかけてしまった。
ジルに仕えてから数百年…これほど機嫌が良いジルを見るのは本当に久しぶりだ。
ジルに絶対的な服従を誓っているノスだからこそ分かる、ジルの機微にノスもまた気分が良くなる。
「曲者が…ジル様のお部屋に」
「始末した…世の中は遇が最も良い…」
普段ならばノスの言葉も無視しただろうが、ジルは随分と機嫌が良いのか答えてくれる。
ノスもジルの言葉を聞き、満足したようにこれ以上何も言わない。
そして何時もの様に…いや、何時もより苛烈に魔物の処刑が始まる。
今日は珍しくジル自らが魔物に対して処刑をする。
中には魔物将軍だけでなく、魔物大将軍すらもジルによって処刑された。
ジルの機嫌が良いのは魔物にとって吉ではなく、自分達への処刑宣告だという事を改めて思い知っていた。
「それで…どうします、ブリティシュ」
「どうするも何もね…今は動けないのは事実だろうね。僕達だけじゃここから脱出するのは難しい」
ここは魔王の城の中、人間であるブリティシュたちは迂闊に動く事が出来ない。
「ランスは間違いなくジルに囚われてるわね」
レンはランスの姿を見失ったが、先程の戦の振動と魔王の気配がランスが魔王と戦った事を意味しているのに気づいた。
非常に厄介な状況なので、レンとしても迂闊に動く事は出来ない。
ランスは無事だろうが、自分が無事である保証が無いからだ。
もしかしたらもう魔人にされてしまっているかもしれない。
「悩んどらんで儂に協力しろ。魔王をぶっ殺すぞ」
カオスが殺意を剥き出しにして話しかけてくる。
「魔王を倒すのは難しいね…僕も嫌という程それを思い知ったからね…」
「じゃが諦めておらんのじゃろ?」
「それはそうさ。でも、今の状況だと難しいというだけさ。仲間が魔王に捕らわれているからね」
ブリティシュの言葉にカオスは不機嫌そうに唸る。
「何時の間にかあの男が仲間か。かつての仲間に対して冷たいもんじゃの」
「ははは、君だって勿論今も仲間だよ、カオス。でも、彼も同じさ。共に魔人と戦った仲間さ」
「魔人と戦ったか…で、殺せたのか?」
カオスの言葉に日光が頷く。
「ええ…魔人イゾウを倒せました」
「…そっか。それは良かったの」
日光の言葉にカオスは少しだけ弾んだ声を出す。
魔人イゾウが日光の家族を殺した魔人だという事は知っていた。
「カオス…あなたは」
「儂だってぶっ殺したよ。まあ魔王は無理だったがの…」
カオスは魔王ジルに挑んだ時の事を思い出す。
ガイはたった一人でジルに挑んだ。
ガイの力は圧倒的で、まさに敵無しといった感じだった。
だが、流石に魔王の力は圧倒的だった。
ガイは禁術をふんだんに使ってジルに挑んだが、ジルは通用しなかった。
一瞬の隙を突かれ、ガイは魔人にされてしまった。
カオスはこれで終わりかと思ったが、その時意外な事が起きた。
それはガイがジルの支配下には無いという事だった。
ガイはそれを悟られる事無く、この数百年従順にジルに従ってきた。
おかげでジルもガイが自分の支配下に無い事には気づいては居ない。
(それに…ジーナの仇は討てたしの)
ガイはカオスの恋人を殺した魔人を討った。
勿論カオスはその事を誰にも話してはいない。
魔人を殺した事でこの上ない高揚感を得たが、それは更なる力をカオスに齎した。
カオスは自分のテンションで切れ味が上がるという力を持っていた。
そしてもう一つあるのだが…
「で、お前達ガイにやられる気は無い? そうすれば儂のエロパワーが充実するんじゃが」
カオスの言葉に日光とレンは冷たい目を向ける。
「お断りします」
「冗談言わないでよ」
「儂は別に冗談を言ったつもりは無いんじゃがの…」
エロパワーがあればカオスはより強くなる、それは間違っていない。
ガイもエロい事は好きっぽいので、カオスは常にエロパワーを集める事が出来ていた。
その時にガイが戻って来る。
「おう、何が起きた」
「さあな。ただ…侵入者が来てジルに殺された、そんな話が出ているだけだ」
ガイも感じた魔王の波動。
何かが起きたのは間違いないが、誰もそれを確かめる事は出来ない。
そんな事をして魔王の機嫌を損ねるのは誰しもが御免だからだ。
「お前達の仲間が囚われているというのは間違いないのか」
「十中八九。私達と共に飛ばされたランス殿なら、魔王の元へと飛ばされてもおかしくはないです」
「それは不運だな。だが、俺に出来る事は無い。俺は魔人筆頭と呼ばれてはいるが、ジルからは全く信用されていない。いや、ジルは全ての魔人も魔物も等しく憎んでいるからな」
ガイはジルの中にある憎しみを感じ取っていた。
ジルの鬱屈した感情は人間よりも魔物に向けられているのは分かっていた。
だが、人間牧場…これの存在意義がガイにも全く分からなかった。
魔物牧場に関しては完全な処刑するための生産牧場だ。
しかし、人間牧場は全く意味の分からない施設だった。
ガイも人間牧場から生まれたのでその酷さは分かっている。
確かにあの場所は地獄とも言えるのは間違いない。
人間牧場の人間には思考能力が殆どない。
ただただ子を産み、育たせるというサイクルを延々と繰り返すだけだ。
魔物兵が見張っているが、決して手を出しては来ない。
中には自棄になって人間を犯し殺す魔物達も居るが、そうなれば間違いなくジルの手で惨たらしく殺される。
寿命が尽きるまで魔王直々に嬲り殺すという、まさに地獄が待っているので、人間に手を出す魔物も居ない。
人間牧場の人間には生気は無いが、同時に人間牧場で働く魔物にも生気は無いのだ。
人間に興味が無い魔王ジルが何故そんな事をするのか…ガイはそれだけが全く理解出来なかった。
「ジルに捕らわれたとなると厄介すぎるのよね。お町も一緒かもしれないし、ケッセルリンクもね」
「ケッセルリンク…? カラーの魔人のケッセルリンクか」
魔人四天王の名前が出た事でガイが反応する。
ガイはケッセルリンクに会った事は有るが、特に会話をするような仲でも無い。
ケッセルリンクは魔王城に近づかないし、ガイもジルの側からあまり離れる事は無い。
それ故にケッセルリンクとは接点が無かった。
「さて、どうするか…」
レンはガイの言葉を無視して考える。
動けないというのはやはりもどかしいが、それでも今は耐える以外の選択は無かった。
「うーむ…出られんな」
ランスは魔王ジルの部屋に囚われていた。
特に武器も防具も奪われては居ないが、流石に魔王の結界からは出る事は出来ない。
「魔王の結界だ。出る事は叶わぬだろう」
「そうだろうな…」
ケッセルリンクの言葉にスラルも同意する。
ジルとの戦いから一夜が明けたが、ジルは当然の事ながらランス達を逃がすような事は無かった。
窮屈な訳でも無く、食べ物は有るしベッドも有るのだが、とにかくこの結界からは出る事は出来なかった。
「ケッセルリンク、大丈夫か」
「ええ、大丈夫です。こんな事ぐらいでは折れません」
スラルの気遣いの言葉にケッセルリンクは笑って答える。
「…魔王とはあんな酔狂な奴なのか?」
お町は殺される覚悟もしていたが、まさかの出来事に困惑していた。
ランスとジルの関係は聞いてはいたが、あんな展開になるのは流石に予想外だ。
「ジル様がああも感情を出すのはランスに対してだけだろう」
普段のジルを知っているケッセルリンクとしては、あの態度は予想はしていた。
執着心だけでなく、色々な感情、そして魔王で有るジルとしての行動が相まって行動がメチャクチャだ。
ただ、魔王としてもランスの事は評価しているというのは分かる。
「暇だ」
「…どうする事も出来んだろう」
ランスの言葉にスラルが応える。
事実、いくら武器があろうとも魔王の結界は破る事は叶わなかった。
「暇だからヤルか」
そしてランスは何時もの通りにケッセルリンクを押し倒した。
「ランス、お前こんな状況で…」
「どんな状況だろうとやる時にはやる、それが俺様だ。それにお前だってそんな恰好をしているではないか」
「魔王の命令だ。魔人は逆らえんさ」
ケッセルリンクは今でも扇情的な姿をさせられている。
そんな姿ならばランスが興奮するのは当然の事と言えた。
「それに昨日はお前とはやれなかったしな」
昨日はジルとはヤッたが、ケッセルリンクとはヤれなかった。
ジルがそれを許さず、ケッセルリンクはランスとジルのセックスの後始末をさせられていた。
二人の結合部から垂れてくる皇帝液を舐めらされたり、ジルに愛撫され無理矢理絶頂を迎えさせられたりと散々だった。
「お前が泣きそうな顔をしているのは見てて面白かったがな」
「…お前はそういうどうでもいい事には敏いな」
ランスの楽しそうな顔にケッセルリンクが憮然とした顔をする。
「がはははは! それよりもお前も俺様のハイパー兵器が無くて寂しかっただろ。早速やるぞ」
「ちょっと待て! ランス、お前はこんな状況でも本当にやる気か!?」
ケッセルリンクを押し倒したランスを見てお町が怒鳴る。
この状況にありながらもまだこんな事をするランスが信じられなかった。
図太いにも程がある。
「お前も来い」
「は!? 何を言っておる!」
「お前も実は興味あるんだろ。しっかり見てただろ」
「う、うるさい!」
ランスの指摘にお町は顔を真っ赤にして怒鳴る。
実際には図星だった。
確かに男女の営みはお町も知ってはいる。
だが、実際の営みを見たのは昨夜が初めてだった。
しかも相手は魔王…その魔王が嬌声をあげながら乱れるのを見て、お町は実際には目を離せなかった。
「何だ。それともまだ足りんのか」
「お、お前の力はもう嫌という程分かっておる! じゃ、じゃが…」
「お前もいい加減に覚悟を決めろ。まあ今はまだ突っ込むのは止めてやる」
ランスはお町を引き寄せるとその服を脱がす。
お町は文句を言うが、顔は真っ赤だし抵抗らしい抵抗も無い。
やはり彼女も興味がありありなのだ。
「お前も俺の女にするからな。まずは手付だけでも貰っておくぞ」
「何を、むぐっ」
お町が何かを言う前にランスはその唇を塞ぐ。
それだけでお町の尻尾がピンと立ち上がり、体が凍りつく。
ランスはそんな彼女に構わずに抱き寄せる。
ソフトなキスが終わった後にお町の顔を見ると、その顔は既に真っ赤になっていた。
(そういやお町さんとだけはやれなかったんだよな。今はあの目玉も居ないからな)
お町とだけはセックスが出来なかったので若干消化不良だった。
だが、今は正宗も居ないしあの目玉が出て来る前に口説くのには何の躊躇いは無い。
(そにしてもでかいと思っていたがやっぱりでかいな。まあ今の姿の方が若いが…)
LP期のお町も美人だが、今のお町もやはり美人だ。
だが、LP期のような大人では無くまだ成長過程なのは間違いはない。
それでも胸はかなりの大きさだし、ランスとしても好みの体だ。
「良かっただろ」
「…わ、分からん」
ランスの言葉にお町は自分の唇に触れる。
心臓が高鳴り、何も考える事が出来ない。
困惑しているお町を見てランスはニヤリと笑い、そのままその体に触っていく。
「がはははは! 魔人と妖怪と3Pセックスじゃー!」
「…こんな状況でもお前は本当に」
「あ、こ、こら! 我はそういう事はな!?」
そして数時間後―――お町は荒い息をつきながら体をベッドに横たえていた。
ランスが宣言したとおり挿入はされていないが、その体からは濃厚な淫靡な匂いが漂っている。
ケッセルリンクはその後始末をしている。
散々自分を苛め抜いたハイパー兵器をその口で綺麗にしている。
「ふー、満足満足」
「全く…魔王に捕らわれているというのに呑気な奴だな。我の時でもこんな感じだったな」
スラルは剣の中から呆れた声を出す。
ランスの図太さはまさに異常と言う他無い。
「んっ」
ケッセルリンクは最後に残ったモノを飲み干すと、そのままハイパー兵器に軽くキスをしてから離れる。
体をピンク色に染めた彼女の体は非常に色っぽく、それを見ているだけでも再びハイパー兵器に力が灯る。
「…流石に駄目だぞ」
ケッセルリンクのは軽く微笑んでからお町の体を拭き始める。
ハイパー兵器こそ受け入れていないが、その体は散々ランスに愛撫されて大変な事になっている。
(彼女も期待していたのだろうな。ただまだ踏ん切りがつかないといった所か)
彼女もまたランスの事を本心から拒んでいるという事は無い。
だが、それでもまだ踏み切れないのは何かしろの事情が有るのだろう。
(妖怪王、だったか。そうか、先代の妖怪王…黒部だったな。その者と自分を比較しているのか)
先代妖怪王黒部…魔人レキシントンとの戦いで見事に散った偉大な存在。
黒部の事はエルシールから良く聞いており、非常に勇敢で頼りがいのある存在だったと。
そしてランスとも妙にウマが合い、ランスとの仲も良かったそうだ。
それだけ偉大な先代王が居るならば、この少女がまだ自分に納得出来ないのも理解出来る。
(この少女もまたランスに並び立ちたいという事か…)
彼女の気持ちはケッセルリンクにも良く分かる。
今でこそ魔人四天王としてランスを上回る力を持っているが、カラーの時はランスには遠く及ばなかった。
カラーの中では一番の使い手とも言われていたが、ランスはそれを遥かに上に行っていた。
そして共にムシと戦い、そして魔人と戦い…その中でケッセルリンクはランスに並び立ちたいと思った。
それは彼女がスラルに助けられる形で魔人となった事で叶わなかったが…それでもランスの隣に立つ事は出来ている。
(フフ…君も難儀な男に見初められたものだな)
お町は口では色々と言っていたが、幸せそうな顔で眠っている。
この調子なら彼女の思いが通じるのも遠い日では無いだろう。
ケッセルリンクが彼女の体を綺麗にした時、濃厚な重圧が感じられる。
「む、来たか」
ランスもそれを感じ取り、重圧が感じられる方向を向く。
そこにはこの世界の王である魔王が立っていた。
その魔王は自分の部屋が濃厚な性の匂いが立ち込めているというのに、何処か楽しそうに笑っている。
「ククク…魔王の部屋で好き勝手やってくれる」
「好き勝手出来る様にしてったくせによく言いやがる」
ランスの言葉にもジルは笑うだけだ。
「ランス…私はお前を魔人にしたい…だが、今のままでは不満が有る」
「何だと?」
ジルの言葉にランスは首を傾げる。
彼女がランスを魔人にしたがっているというのはこれまでの経緯から明らかだ。
だがそれをしないのは何か理由があるか、戯れかとも思っていたが、どうやら前者のようだった。
「魔人になるという事は…お前の剣が死ぬ可能性もある…それは惜しい」
ジルとしてはランスを魔人とするつもりだった。
ハウゼルとサイゼル…いや、バスワルドと接触を感じた時にそろそろ良いかと思った。
だが、それはガイという人間を魔人にした事で止めざるを得なかった。
そう、ガイは魔人の時よりも人間の時の方が強い。
言わばジルはガイを魔人にする事で弱体化させる事に成功したのだ。
それを感じた時、ジルには迷いが生じた。
ランスを魔人にする事で、ランスもまた弱くなる可能性が出た事により、どのようにすべきかを考えていた。
だからこそより大きな『試練』を与えるべきだと。
そしてそれを乗り越えた時―――ランスは自分と共に永遠を生きる存在になるのだと。
「だからこそ…お前を誘おう」
ジルの周囲の景色が変わっていく。
「む、こいつは」
ランスはこの光景を見た事が有る。
それはリーザスでノスを倒した時だ。
ジルは空間を抉じ開けて別の世界へと向かった。
それを追えるのはランスだけで、別世界でジルと戦った。
その時の現象と全く同じだ。
「ジル様」
「ケッセルリンク…貴様にも褒美を与えてやる…これまで我の想像以上の働きをした事に対してな」
「…それは一体」
ジルの言葉にケッセルリンクは困惑する。
(まさか…私の行動全てがジル様の想定内だったというのか?)
空間が晴れるとそこは何処だか分からない洞窟だった。
「む…」
ランスのこの洞窟の気配を感じて眉を顰める。
それはランスの冒険者としての勘、そしてランスの持つ冒険LV2という技能が働いたのかもしれない。
ランスは即座に着替えて剣を構える。
「分かるか…ランス」
ジルはそんなランスを見て満足そうに笑う。
「どこだここは」
「さあな…ここが何処かは我にも分からぬ。だが、一つ言えるのは我等の住む大陸とは別の世界」
「別の世界…ここがか」
スラルはジルの言葉に驚愕する。
魔王ならば別の世界への扉を開けるのはおかしくは無い。
「ここならば…お前の力も更に磨けるだろう」
ランスは周囲を見渡すが、ここはランスが知っているこれまでのダンジョンとは全く違う。
ジルはそんなランス達に構わずに歩きだし、ランスもそれに続く。
「ケッセルリンク。お前も来い。お町を忘れるなよ」
「あ、ああ」
ケッセルリンクは来ている服を脱ぎ、何時もの服に一瞬で着替える。
そしてお町に素早く服を着せると、失神している彼女を背負う。
ランス達はジルの後を追う。
「ここは何だ?」
そこは只の洞窟なのは分かるが、明らかに作りが違う。
そこらにクリスタルのような結晶が散らばっている。
「異世界、か。我等も怪獣界とやらに飛ばされた事があっただろう。それと同じ事をジルはやったのだろう」
「ああ。ミラクルが同じことをやってたな」
「…同じことをやっていたと気安く言うが、これはLV3技能が無ければ出来ない技だぞ。お前にはそんな事が出来る知り合いが居るのか」
「そんなに凄いのか。やってる奴は意外とポンコツだぞ」
ランスの言葉にスラルは心底呆れたようにため息をつく。
「全く…お前という男はどこまで」
ランスの周囲には強い者…特に女が集まる。
スラルはランスがすんなりと名前を出した事で、そのミラクルという者が女だと理解した。
「うーむ…しかし奇妙な所だな」
ランスは剣で結晶を叩く。
そこには確かな硬度が感じられる事から鉱物である事は分かる。
「マリアなら喜んで調べるだろうな。一つくらい持っていくか」
ランスがそう言って結晶に手を伸ばした時、その手が止められる。
「止めておけ」
その手を止めたのはジルだが、その顔は非常に真面目だ。
そんなジルの顔にランスは素直に手を引っ込める。
「フン、危ないものならそんな所に俺様を連れてくるな」
ジルはランスの文句に答えずに進んで行く。
そして洞窟はどんどんと広くなっていく。
「モンスターの気配は無いな…一体何なのだ、この世界は」
スラルはダンジョンだというのに全くモンスターの気配が無い事に首を傾げる。
こういうダンジョンならばモンスターが居て当然で、この手のダンジョンならばこの地独自のモンスターが居てもおかしくは無い。
「ケッセルリンク、お前は何か知っているか」
「いいえ…私もこんな世界を見たのは初めてです」
ケッセルリンクも周囲を見渡すが、この異様な光景には眉を顰める。
非常に冷たい世界には、ケッセルリンクですら不気味なモノを感じずにはいられない。
「なんだありゃ」
暫く歩いて行くと、そこには複数の扉が存在している。
ただ、それは本当に扉が立っているだけで、ランスは扉の後ろに回るがそこには何も無い。
虹色に輝く扉がただポツンと立っていた。
「ここが…お前の力を発揮させる場所となる。扉を開くがいい」
ジルの口に笑みを浮かべる。
その笑みは本当に楽しそうに笑っている。
「フン…まあいい。開けてやる」
ランスはジルに促されて扉を開ける。
「宇宙刑事ユーダイン、只今参上!」
「な、何だ!?」
すると扉から変なモンスターらしき存在が飛び出してくる。
「俺は巫女が好きだー!」
奇妙な事を言いながらランスに蹴りを放ってくる。
が、そんな攻撃を受けるランスではなく、ユーダインを一刀両断にする。
「宇宙へ…帰ろう」
「何だこいつは。まさかこいつが俺様の力を発揮させる奴とか言わんだろうな」
ランスの視線にジルは無表情になると、そのまま扉に手をかざす。
その行為を続けていくと、一つの扉に触れて笑みを浮かべる。
「…これを開けるがいい。ああ…そこの妖怪も起こしていい」
ジルの言葉にケッセルリンクはお町の体を軽く揺さぶる。
「ぬ…」
お町は意識が覚醒したのか、周囲を見渡して耳と尻尾をピンと立たせる。
「な、なんじゃここは!?」
「驚くのは早いぞ。この扉を開けたらモンスターが出るんだと」
「は、話が急すぎてついていけんのじゃが…」
「理解は後でしろ。それよりも準備はしておけ」
ランスは扉に手をかけた時、
「待て…ランス、お前がより戦いやすいようにしてやる」
ジルはランスの手を止めると、その顔が歪む。
それはまさに魔王としての笑みで、そこには邪悪な意志が存在している。
すると、ケッセルリンクの体がクリスタルに包まれる。
「な、何だと!?」
「ランス…お前が強くならぬ限り、ケッセルリンクは解放されぬ。これがお前に一番有効な手段だ」
「お前な…!」
ランスは怒りの籠った目でジルを睨む。
だが、ジルはそんなランスを見て楽しそうに笑うだけだ。
「ランス。怒りをぶつけるのは後だ。それよりも今は言う通りにするしかない」
「わかっとるわ! とっとと殺しておしおきしてやる」
魔王であるジルに向かって行っても意味は無い。
ランスもそれを理解して言う通りに扉を開ける。
その時、ランスの背筋が凍る。
そこには凄まじい圧力を持った存在が飛び出してきた。
かろうじて人の形をとっているのは分かるが、その手は異常に太い。
何よりも全身が炎に包まれており、頭部はまるで爬虫類のようだ。
「グオオオオオオオオ!!」
その炎に包まれた存在はランスを見て吼える。
「な、なんだこいつは!」
「狂王」
ランスの言葉にジルは答える。
「狂…王?」
スラルはジルの言葉を反芻する。
確かにこの馬鹿げた存在は狂った王と呼ぶに相応しい存在だ。
「ランス…これがお前の相手だ。さあ…倒して見せろ」
実はランスシリーズには狂王って存在してないんですよね
まあ代わりにクレージーキングは出ていますが…
流石にクレージーキングは無理かな思い、その前座の狂王で
わいどにょの狂った世界のアップデートは今でも衝撃でした…