天界にてクエルプランは悩んでいた。
本来であればクエルプランは悩むなんて事はしない。
ただただ機械的に魂の管理をするだけだ。
特にGL期は魂の管理が大変ではあったが、それでもクエルプランの能力ならば何も問題は無い。
自分を何時もからかいに来るALICEもココに来ることは無い。
では何故悩んでいるか…それはランスの事だった。
(どうするべきでしょうか…)
今回ランスが魔王ジルに捕らわれたのは全てALICEの策略だった。
ALICEはランスには手を出すなという言葉を逆手に取り、セラクロラスの方へ干渉した。
クエルプランからすれば詭弁にも程が有るが、それでも上が満足しているのならば何も問題は無いのだろう。
クエルプランは心配になって―――という言い訳を心の中で言ってランスの事を見ていた。
すると魔王ジルはランスを何処かの異世界へと連れて行った。
ゲートコネクトという魔法が有り、それは異世界へ行くことが出来る。
魔法LV3の持ち主だけが使える技術だが、この魔法の存在は放置されている。
異世界からの漂着物は色々と在り、ポリゴン系もモンスターも異世界から来た存在だ。
他にも異世界から色々なアイテムも流れ着く事が有るが、危険な物ならALICEがバランスブレイカーとして回収させている。
なので異世界に行くという行動自体は神も許している。
だが問題なのは…そのランスが行ったかもしれない異世界だ。
実はこの世界には、太古の昔、神が排除できなかった危険な異界に繋がる召喚ドアというのが存在している。
そこだけは神の管轄で、エンジェルナイトの監視と厳重に封印されている。
そして魔王ジルがランスを誘ったのは、その召喚ドアが存在する異世界だろう。
ただ、クエルプランにはランスが居る所が本当に神が管理している物と同じ召喚ドアかどうかは分からない。
それに、召喚ドアに関しては自分は完全に管轄外だ。
「どうするべきでしょうか…」
ALICEがそうであるように、クエルプランもまたランスに干渉する事は許されていない。
唯一許されているのが、ランスが自分をレベル神として召喚した時だ。
その時だけはクエルプランもレベル神の範疇としてランスに接する事が許される。
ランスに与えた褒美もレベル神の仕事の範囲なので、これも干渉とみなされる事は無い。
だが、異世界に行ってしまったランスをこの世界に連れ戻すのは明らかな干渉だ。
そもそも魔王ジルがランスを連れ戻せるのだから、そもそも神がどうこうする出来事では無い。
ただ問題なのが…そのジルの魔王としての任期が終わりに近づいているという事だ。
ハッキリと言えば、ジルの魔王としての任期はあと数日。
そうなればジルは魔王としての力を失い、次なる後継者に魔王の血を授けねばならない。
だが、魔王ジルは三超神のプランナーと邂逅し、永遠の魔王で居る事を望んだ。
それがどうなるか、クエルプランにも全く予測がつかない。
もし万が一ジルの任期が来て、ランスが異世界へと取り残される事になれば…それはALICEの目論見が叶った事となる。
ALICEはランスを排除したくてしょうがないようで、あの手この手を使ってランスを消し去ろうとしている。
人類管理局であるALICEならば出来る事では有るのだが…ALICEが人間に直接干渉して殺したという事は実は無い。
何だかんだ言って、過剰なまでの干渉はALICEもしては来なかった。
AL教団を通じて、神の意向を伝える事はあるが、生憎の今の時代においてAL教は機能していない。
「ALICEのやったことは同じ神の眷属への干渉…これでは私も何も言えない」
ハッキリ言ってALICEのやった事は気に入らないが、立て前としては確かにランスには干渉していない。
そしてジルとの関係を考えれば、このままランスがジルと再会することなく任期が切れるというのも上は面白く無いだろう。
なので今回の事は恐らくは黙認される…次は確実は無いが、問題はこの事をランスが乗り切れるかどうかだ。
「…どうすればいいのでしょうか」
言葉だけは出るが、結局はクエルプランにはどうしようもないのだ。
クエルプランにはそんな権限は無いのだから。
だが、万が一の事を考えてランスを助けてあげたいと思っていた。
その時、クエルプランの元に神が訪れる。
「お久しぶりです、クエルプラン」
「あなたは…システム神」
クエルプランの元を訪れたのは、メガネをかけた一人の人間―――に見える1級神でシステム神だ。
「あなたが私の元に来るとは…ALICEよりも余程珍しい事ですが…」
「いえ、あなたが困っているようですから、私としてもあなたに助言をしようと思いまして」
システム神の言葉にクエルプランはその形の良い眉を顰める。
まるで自分の悩みを知っているかのような言葉だが、この神ならばそういう事もあるのだろうとも思っていた。
「ALICEはセラクロラスに干渉しました。ならばあなたも同じことをすれば良いと思います」
「同じ事…とはどういう事ですか?」
「かつてランスさんが異世界へと送られた時、彼を異世界に送ったのはハウセスナースです」
「…そうなのですか」
クエルプランも常にランスの事を見ていた訳では無い。
異世界へと飛ばされた事は知ってはいたが、特に気にしていた訳では無かった。
「ですので、同じように異世界からランスさんを呼び出せば良いのです」
「…言って居る事は分かりますが、私にはそんな権限は有りません」
「ええ、分かっています。ですが、あなたもまた1級神、他の神への頼み事となれば話は変わりますよ」
クエルプランは目を見開く。
「ハウセスナースを通してランスを呼び出すように仕向けるんです。幸いにもその方法は有りますから」
「…宜しいのですか? あなたも私同様に地上の世界への干渉は認められないと思うのですが」
クエルプランの言葉にシステム神はため息をつく。
「流石にALICEがやりすぎです。上が認めているからと言って、何をしても良いという事でも無いでしょう。そもそもこうなった原因は誰に有ると思っているんですかね」
「…? あなたが何を言っているのかは分かりませんが、それが出来るというのであれば私は構いませんが」
「ではお願いします。幸いにもランスさんはベゼルアイ、セラクロラス、ハウセスナースとの面識が有ります。なので問題無く呼び出す事が出来るでしょう」
「しかし何故あなたがそこまで?」
「まあ…色々な意味で付き合いも長いですので。では、お願いします、クエルプラン」
システム神はそのまま姿―――ランスの前に姿を現しているアバターを消していく。
システム神の言葉にクエルプランは色々と考えるが、あの神の言っている事を考えても意味は無いだろう。
「ランスを以前に異世界に送り込んだ…ならばハウセスナースが一番ですね」
クエルプランは早速行動を起こす。
恐らくは時間はもうそんなに待ってはくれない。
「誰か来なさい」
クエルプランの言葉に複数のエンジェルナイト達が緊張した様子で現れる。
「何か御用でしょうか? クエルプラン様」
エンジェルナイトが恐れ多いと言った感じで声をかける。
(うわー…私初めてクエルプラン様から呼び出し受けちゃった)
(クエルプラン様って一人で膨大なお仕事をしていますしね…そのクエルプラン様がエンジェルナイトを呼ぶなんて、余程の事があったのでしょう)
まさかの第一級神の呼び出しにエンジェルナイト達に緊張が走る。
「ハウセスナースを呼んできてください。それも迅速にです」
「は、はい!」
クエルプランの言葉にエンジェルナイト達が一斉に散っていく。
彼女達ならば直ぐに探し出せるだろう。
クエルプランはそう思い、これからどうやってランスを救うか、それだけを考えていた。
「グオオオオオオオオ!!!!」
狂王の狂った雄叫びが響く。
「フン、お前の見たくも無いツラを見るのも今日が最後だ。ぶっ殺す!」
ランスは狂王に剣を突き付ける。
ランスの殺気に反応したかのように、狂王は雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
「打ち合わせ通りに行ってくれよ! お町! お前の負担は大きいが頼むぞ!」
スラルは魔法陣を展開して己の魔力を上げる。
これもジルが得意としていた戦い方で、スラルはそれを応用した魔法陣を展開する。
魔力の使用量も大きいが、スラルは歴代最弱の魔王と言われてもそれでも元魔王。
人間よりも遥かに大きな魔力と容量を持っている。
「へっ! 今日こそぶっ潰してやるぜ!」
「ランス殿への恩を返すため…倒すぎゃ!」
「フッ…これも修行よ!」
黒部、怪獣王子、タイガージョーも戦意は十分で、それぞれ狂王に向かって行く。
「おらぁ!」
黒部の爪が狂王に突き刺さると同時に、狂王のパンチが黒部に当たる。
狂王の攻撃力は流石に強力で、受けた黒部でもよろける程だ。
「行くぎゃ!」
「これが閃真流奥義なり!!」
怪獣王子、タイガージョーもそれぞれ狂王に攻撃する。
しかし、やはり狂王は狂王と呼ばれるに相応しいバケモノだった。
黒部、怪獣王子、タイガージョーの攻撃を受けてもびくともしない。
狂王の強さは魔人が持つような厄介な特殊な能力では無い。
そのあまりある体力と恐ろしい程の攻撃力と耐久力、それこそがこの狂王の強さの全てだ。
黒部たちの攻撃が狂王に通じているか、それが全く分からない。
全身が炎に包まれているような姿なので、その表情を伺う事が出来ない。
だが、ランスはそんな事を気にせずに攻撃を加える。
「がはははは! 今度こそぶっ殺す!」
狂王はランスの攻撃を受けるが、やはり全く応えた様子は無い。
ランスに向けて拳が放たれるが、ランスはそれを余裕で避けて攻撃を加える。
極々単純な攻撃なので、今のランスならば受け流しからのカウンターすら決めて見せる。
しかし、狂王の防御力は非常に高く、ランスの攻撃すら届いているか怪しい所だ。
「皆離れろ! スノーレーザー!」
スラルの声で黒部たちがスラルの射線上から離れる。
スラルから放たれた極太のスノーレーザーが狂王に突き刺さる。
その威力は狂王すらも吹き飛ばす。
が、直ぐに起き上がると変わらぬ様子で襲い掛かって来る。
「クッ…我のスノーレーザーでもダメージになっているか分からんな」
(…やはりアレをやるしかないか)
スラルは意識を集中させる。
やはりこの相手には自分の得意とするあの技を使う以外に無い。
魔王だった頃の威力は望めないが、それでも自分が使う魔法の中では一番の威力が有る。
ただ、使うのにどうしても時間がかかってしまう。
(だがやるしかない)
スラルはより意識を集中させる。
「皆! すこし時間を稼いでくれ! 少々大きい威力の技を使う!」
「構わねえけどよ! しくじるんじゃねえぞ!」
黒部の声にスラルは笑みを浮かべる。
こうして黒部と肩を並べて戦うのは初めてだが、やはり気心の知れた仲間の存在は大きい。
ランスとは違う安心感が黒部にはある。
「やるんなら一発で決めろ!」
「分かっている! だが、それだけでは倒す事は出来ない! やはりお前に任せるしかない!」
スラルの言葉にランスは唇を吊り上げる。
「がはははは! 最後は主人公が決めるものだ! 俺様に任せればいい!」
ランスは剣を構えて狂王に切り込む。
その変幻自在かつ、尋常ではない威力を持つランスの攻撃が狂王に突き刺さる。
ランスはスラルの込めてくれた氷の魔法の力を解放して斬りかかる。
それは狂王には確実にダメージを与えている。
だが、それでもやはり狂王の耐久力、防御力は異常だった。
「うぐ…こいつ、バケモノじじい並か? いや、ククルククルくらいあるかもしれんぞ」
ランスは構わずにこちらに殴りかかって来る狂王に対して唇を歪める。
かつてランスが倒した魔人ノスも異常なまでにタフだったが、それ以上の耐久力だ。
それはあのククルククルを思わせる耐久力だ。
あの時はケッセルリンク、カミーラ、そしてドラゴンのカインも総出で戦って何とか倒せたレベルだった。
狂王はそのククルククルよりも間違いなく弱いのだが、それはそもそもの基準が高すぎるのだ。
「この装甲を何とかせねば倒せぬか」
タイガージョーも奥義を狂王に当ててはいるが、それが効果があるかは分からない。
相手が人間ならば表情の変化なども読めるだろうが、狂王にはそんなものは存在しない。
ただ燃え滾った爬虫類のような顔があるだけだ。
そして狂王は疲れを知らないようにランス達へと襲い掛かる。
知能の欠片も感じさせない攻撃だが、その分ただ単純に恐ろしく強い。
「皆避けろ!」
その時、スラルの声が響き渡る。
ランス達はスラルと狂王の射線上から避ける。
スラルの体からは凄まじい魔力が溢れており、それはランスの目から見ても恐ろしい力を宿っているのが分かる。
志津香やマジックの使う白色破壊光線をも上回る魔力…いや、あのアニスに匹敵するかもしれない力をランスは感じ取る。
「ソリッドブラッド!!」
スラルの強力な魔法が狂王に突き刺さる。
凄まじい冷気が狂王を包んだかと思うと、そこから無数の魔力の氷が狂王に突き刺さる。
その魔法を受けた者は、その魔法の名のように血をまき散らしながら倒れる事は間違いない。
そしてその強力な魔力は相手の体力だけでなく、貯め込んでいた気力すらも奪っていくまさに必殺の魔法だ。
「通じたか」
スラルは確かな手ごたえを感じた。
が、次の瞬間その目が驚愕に見開かれる。
「グオオオオオオ!」
狂王は立ち上がり、先程と変わらずにランス達へと攻撃を加えているのだ。
「何という奴だ…我のソリッドブラッドでも抑えきれんか」
「化物じゃな…」
スラルの言葉にお町も驚愕の顔を浮かべている。
まさに狂った王、その名に相応しい暴力を振るってくる。
「あ」
「ランス殿! あぶないですぎゃ!」
狂王の凄まじい熱気と狂気に押され、ランスもどんどんと体力を奪われていく。
ランスとタイガージョーは人間なので、黒部や怪獣王子のような常識を超えた体力は無い。
怪獣王子はバランスを崩したランスを庇って狂王の拳を受ける。
「怪獣王子!」
「問題無いですぎゃ! ランス殿は攻撃を!」
ランスの言葉に怪獣王子は本当に何とも無いと言わんばかりに声を張り上げる。
ランスはその声を聞いて氷の魔力を限界まで解放する。
やはりこいつ相手には出し渋るのは悪手で、直ぐにでも倒さなければならない。
そうしなければこの不毛な戦いが永遠に続いてしまう。
「いい加減にくたばれ! ランスアターーーーーーック!!!」
ランスの必殺の一撃が狂王に突き刺さる。
今のランスの技量で放たれる一撃は、カオスと日光で無くとも大きなダメージを与えられるだろう。
だが、その一撃を受けても狂王はまだ暴れまわる。
「ランスの一撃を受けても全く応えてねえってか!? どんだけしぶといんだこいつは!」
「普通の生命体とは違う! 恐らくはこいつはダメージによって動きが鈍るという事は無い生命体なんだ!」
黒部の言葉にスラルが叫ぶ。
狂王は最早スラルが知る生命体の範疇とはかけ離れている。
もうそういう生命体と認識して倒す以外に方法は無い。
「はあああああ! これぞ閃真流の新たな技! 受けよ!」
タイガージョーが鋭く、そして重い一撃を狂王に放つ。
狂王はその一撃を受けて僅かに揺らぐ。
だが、決して倒れる事は無く、その拳をタイガージョーに向ける。
「漢とは決して引けぬ時がある! それが今なのだ!」
何とタイガージョーは狂王の拳を受け止めたまま、無理矢理にもう一撃叩きこむ。
「この新たな奥義で…道を開くのだ!」
タイガージョーは血を吐きながらも奥義を繰り出す。
無数に分身したかのように狂王と取り囲んだタイガージョーが次々に攻撃を繰り出す。
「これで貴様の装甲は無意味だ!」
そして最後にタイガージョーが渾身の一撃を叩きこむ。
それと同時に狂王の強烈な拳がタイガージョーの体を捉え、とうとうタイガージョーは吹き飛ばされる。
まともに受ければ死んでいた一撃だが、お町が何とかバリアを張って致命傷は免れる。
「タイガージョー!」
お町がタイガージョーに駆け寄る。
タイガージョーは荒い息をついているが、どうやら命に別状は無いようだ。
「後は君達に任せる…が、奴の装甲は殺す事が出来た。青年…道を切り開くのだ」
そう言ってタイガージョーは気を失った。
「うおおおおおお!」
黒部は雄たけびを上げながら狂王に殴りかかる。
狂王は相手の攻撃を避けようとはしないため、その拳は狂王に突き刺さった。
そしてその反応は先程のまでの反応とは違ったものだ。
「お! 本当に柔らかくなってやがる!」
黒部の一撃は深く狂王へと突き刺さった。
先程の異常なまでに硬い感触は感じられず、黒部の本来の一撃が突き刺さったような感じだ。
「ランス! 怪獣王子! 畳みかけるぜ!」
「続きますぎゃ!」
「お前が命令するんじゃねー!」
怪獣王子とランスが動く。
狂王はそれを迎え撃つように拳を振るう。
ランス達は狂王の攻撃を避け、時には受け流しながら狂王へと攻撃を加えていく。
ランスの剣は狂王へと深く突き刺さる。
それを見てランスはニヤリと笑みを浮かべる。
「その厄介な装甲が無くなったのならお前はもうただの雑魚だ! とっとと死ね!」
そしてランスの嵐のような連撃が狂王へと襲い掛かる。
「おおお…これがランス殿の本気の剣」
「マジかよ…ランスの奴、あれから更に強くなってやがる。石丸とは違うが…すげえな」
怪獣王子と黒部はランスの剣に見惚れてしまう。
それは見事なまでに洗練された、相手を確実に殺すという事に特化した剣だった。
ランスの剣は誰にも理解出来ない剣と称されているが、その力は本物だ。
使徒のアベルトをあっさりと退け、魔人ザビエルですらも石丸と重ね合わせた暴力的な剣。
決して優雅とは言えないが、その動きはまさに誰にも真似できない、ランス独自の技があった。
ランスは両手で剣を持つのではなく、剣と刀をそれぞれ入れ替えながら攻撃している。
二刀流では断じて無い、それでも無数に放たれる刃には狂王ですらも押されていた。
(うーむ、またこの感覚が来たな)
そしてランスもまた以前にあった奇妙な感覚を味わっていた。
相手の動きが完全に読め、非常に遅く感じる。
実際にはランスは相手の攻撃が来る前に既に相手の攻撃を避けているのだ。
まるで未来すらも予知したような動きにスラルもお町も思わず見惚れてしまう。
その動きはまさにLV3の技の持ち主だと思い知らされた。
そして当の本人のランスだが、この厄介な敵相手には苦戦をしていると言っても良かった。
(こいつ、滅茶苦茶再生能力が高いぞ。硬いだけじゃ無かったのか)
それはあの魔人ノスを思い出させる程のものだった。
ランスの攻撃は確かに当たっている…当たっているのだが、それが有効打になっているとは思えなかった。
手応えはあるし、実際に斬っている感触はある。
しかし、それはまるで炎を斬るという不安定な感覚なのだ。
ランスは狂王の腕を落としたと思ったのだが、斬った先から直ぐに繋がってしまう。
(分かった。こいつ、獣のような姿をしているが、実際には違うな)
長い冒険者生活で色々なモンスターを倒してきた。
だが、そのモンスターの中でも最も凶悪で、そして訳の分からない生命体だった。
これまで戦って来た男の子モンスターや女の子モンスターのカテゴリに当てはまらない、正に未知の生命体だった。
「スラルちゃん! 氷の魔法をあて続けろ!」
「わ、分かった! お町、援護を頼むぞ!」
「ああ!」
ランスの言葉にスラルは直ぐに魔法の詠唱をする。
怪獣王子がランスと共に狂王を殴り、そして黒部がランスを守る。
その時間稼ぎの内に、スラルが魔法の詠唱を終える。
「絶対零度!」
氷雪吹雪を圧倒的に上回る冷気が狂王を襲う。
「凍りついた!」
その結果を見てお町が喜びの声を上げる。
狂王の防御力が下がった影響なのか、その体が徐々に凍り付いて行った。
そして明らかに狂王の動きが鈍る。
「がはははは! 思った通りだ! こいつで止めだ! ランスあたたたーーーーーーっく!」
狂王が凍り付いたところで、ランスの強烈な一撃が狂王を砕く。
「おお!」
ついに狂王が倒れ、黒部が喜びの声を上げる。
「がはははは! こんなものだ!」
ランスは剣を掲げて勝ち誇る。
だが、お町は砕け散った狂王を見て違和感を感じていた。
(なんじゃ…この言いようの無い不快な気分は…)
それが何かは分からないが、嫌な空気が立ち込めてくるのは分かった。
そしてお町の危惧は直ぐに現実のものとなる。
「ランス! まだ終わっていない!」
「何だと!?」
お町の声と同時に、砕け散った氷が複数に集まっていく。
そしてそれは複数に分かれてそれぞれ融合するように模ると、そこから狂王の炎が吹き荒れる。
「げっ! 増えやがった!?」
無数の氷の欠片に変わった狂王はその姿を増やす。
先程のように巨大な姿では無いが、それでもランスの身長程の大きさは有る。
その狂王が3体も現れたのだ。
「! そうか! こいつら最初から3体居たのか!」
それを見てスラルが驚愕の声を出す。
「どういう事だ!」
「あの狂王は3体の狂王が融合していたんだ! そしてお前がその狂王を斬った事で、本来の狂王の数に戻ったのだ!」
「な、何だと!?」
「「「グオオオオオオオ!!!」」」
3体に分かれた狂王たちは一斉に雄たけびを上げると、そのままランス達に襲い掛かって来る。
「チイ!」
黒部はランスを庇って狂王の拳を受ける。
同時に黒部の爪が狂王の体を斬り裂く。
「ランス! さっきの狂王が3体に増えた訳じゃねえ! 弱体化してやがる!」
黒部は狂王の拳の感触からニヤリと笑う。
確かに狂王は3体も増えたが、先程の狂王よりは大幅に弱体化している。
それならば付け入る隙は十分にある。
だが、それ以外の問題はやはり存在した。
「弱体化したと言っても個々の強さはとんでもないですぎゃ」
「だな! 分裂してこれかよ!」
それは狂王は確かに弱体化したが、それでも劇的に弱くなったという事では無い。
確かにあの暴力的な一撃も異常な防御力も失っているが、それでも個々の力は異常なまでに強い。
しかもそれが3体も居るのだからたまったものではない。
「流石に一匹を一人で受け持つのは難しいぜ! 一体ずつ潰す以外にねえか!」
「ですぎゃ! ランス殿! まずは一体潰しますぎゃ!」
「お前等に言われんでも分かっとるわ! ぶっ殺す!」
ランス達は何とか狂王を倒したいのだが、流石に3体も居ると厳しい。
かろうじて何とか一体を相手とれるのだが、何しろランス達にはこれまで戦って来た疲労がある。
タイガージョーもまだ動けないので、ランス達もどんどんと押されてきた。
「ぐっ…」
ランスは狂王の攻撃を防ぎながら呻く。
流石のランスも疲れてきており、腕もどんどんと重くなってきていた。
アレで終わりだと思っていたが、まさかの展開にはランスも少し追い込まれていた。
だが、それでもやるしかないのだ。
スラルの魔法に合わせて攻撃をするしかないのだが、やはり魔法というものは使用までに時間がかかる。
スラルの魔力が膨大だろうとも、詠唱の完全短縮は出来ない。
それが魔法使いの弱点なのだ。
「いかん、スラルちゃん!?」
ランスが足止めをしている時、狂王の一体がランスの背を飛び越してスラルへと向かって行った。
そしてこれが魔法使いの弱点、接近されると魔法を使うのが難しい。
守ってくれる者がいなければ何も出来ない、それが一般的な魔法使いだ。
スラルも詠唱を止めるかどうかを判断しようとしている内に、お町が狂王の前に出る。
「スラル、お前は魔法を唱えろ!」
お町は躊躇う事無く狂王に立ち向かう。
そして狂王の拳がお町に突き刺さる。
お町は狂王の拳に耐え、その拳にしがみ付く。
「妖怪王を…舐めるな!」
お町の体から凄まじい電撃が放たれ狂王の体を襲う。
だが、狂王はそれでも構わずに再度その拳をお町に向ける。
「お町!」
黒部の声が響くが、黒部も目の前の狂王相手に手一杯だ。
だが―――当然この状況で誰よりも早く動いた男がいる。
女のピンチには必ず駆けつける、誰よりも自分の女を大切にする男が。
お町に拳を振るおうとした狂王の頭に剣が突き刺さる。
その衝撃には流石の狂王もその動きが止まる。
ランスが自分の持っている剣を投げつけ、それが狂王の動きを止めたのだ。
「終わりだ! 氷柱地獄!」
そして魔法の詠唱を止めなかったスラルが狂王に対して魔法を放つ。
無数の氷柱が狂王に突き刺さる。
だが、狂王はそれでも動きを止めずにお町に拳を振り下ろす。
「ぶっ殺す!」
だが、それを許すランスでは無かった。
凄まじい勢いで狂王に向かい、その手に持った刀でとうとう狂王の一体を両断した。
「お町!」
ランスはお町に駆け寄る。
「気にするな…奴を倒すのだろう…」
お町は血を吐きながらも、その戦意は全く消えていない。
ランスはそれを見て残った狂王へと向かって行く。
だが、その時にとうとう怪獣王子が倒れた。
「も、申し訳ありませんぎゃ…」
そして狂王はランスへと真っ直ぐに向かって行く。
ランスは自分の剣を呼び戻すと、再び意識を集中させる。
「スラル! お前は黒部を見ていろ!」
「…分かった! やれるな!」
スラルはランスを信じ、黒部の援護に向かう。
そしてランスは狂王に対して剣を振るう。
確かに弱体化しているが、それでも狂王の力は圧倒的だった。
だが、ランスは当然のように諦める事は無い。
狂王の攻撃を受け流し、ランスは凄まじい速度で剣を振るう。
それでも狂王は全く止まらず、ただただ愚直にランスを攻撃する。
ランスですらも押し切るその力は単純ながらもやはり恐ろしい。
「雷撃…!」
そしてお町も痛む体を必死で堪えてランスを援護する。
それは弱弱しい攻撃だったが、それでも戦意を失ってはいない。
「うがあああああ! いい加減とっとと死ねーーーーーーっ!!」
ランスは怒りを爆発させ剣を振るう。
こいつは自分の女であるお町を傷つけた許せない奴だ。
そう怒りを募らせた時、ランスの身に着けていた腕輪が淡く光る。
(あれは…)
ランスは集中し過ぎていて気付いていないが、お町だけはその光を見ていた。
するとランスの剣から半透明の何かが現れ、ランスの後ろに立つ。
(クエルプラン…というレベル神に似ている…)
金色の神をした美しい女性がランスの背中に触れると、ランスの剣が紅に、刀が蒼く輝く。
「ランス…アターーーーーーック!!!」
もう鬼畜アタックを放つ気力も無い、全力のランスアタックを放つ。
刀で空間を斬り、その空間に剣を叩きつける。
空間の歪みが見えない衝撃となって狂王の全身を包む。
すると狂王の体がボロボロと崩れていき、とうとう狂王の体が完全に飲み込まれた。
頭部が完全に吹き飛んだ狂王はランスに向けて一歩、二歩と歩くととうとう前のめりに倒れた。
それを見てランスもとうとう地面に腰を落とすしか無かった。
「ランス…」
「流石に…疲れたぞ」
お町は何とかランスに向かって行くと、残った最後の狂王を見る。
「黒部! 行けるな!」
「誰に物を言ってやがる!」
流石に黒部とスラルのコンビは強く、弱体化した狂王を完全に押していた。
「スノーレーザー!!」
「こいつで…終わりだぜ!」
そしてスラルのスノーレーザーが狂王を貫き、凍り付いた部分に黒部の爪が突き刺さる。
そのまま黒部は狂王に牙を突き立てる。
狂王は黒部を引きはがそうとするが、黒部も全力で狂王を離さない。
「これで終わりだ…氷の矢」
互いの力が互角なら…後は切っ掛けが有れば簡単に決着はつく。
スラルが放ったのは尤も初級の氷の魔法―――だがそれで十分だった。
一瞬狂王の力が緩んだかと思うと、黒部の爪が狂王の体を引き裂き、その牙が肉を引きちぎる。
そして黒部が止めの一撃を放つと、狂王はとうとう動かなくなった。
こうして狂王との戦いは―――ランス達の勝利で終わりを告げた。
今回は少し長めに
聖魔教団に関しては本当に悩む
何しろ日光カオスがあれば魔王以外は何とか出来ていたみたいだし
しかも闘神ってカオスを無条件で持てるかもしれないですし…
あと本当に悩むのが闘将の扱い…
こればかりは本当に辛いです