ランス再び   作:メケネコ

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恐るべきまおー

 ガルティアは襲い掛かってくるピンクの悪魔の攻撃を避ける。

 本来であれば避ける必要の無い攻撃だが、この敵の攻撃には無敵結界があまり意味をなさない。

 ダメージこそ少ないが、これが蓄積すればどうなるのかが分からない。

「こいつは一筋縄じゃあいかないな」

 ガルティアは流れる血を医療ムシで治しながら歯噛みする。

 ドラゴン並みの体躯をしながら、その動作そのものは俊敏だ。

 手にした大鎌は無敵結界があっても、その威力だけで魔人であるガルティアを吹き飛ばす程の威力がある。

 その上、口から放たれる炎はガルティアの体に小さな火傷をいくつも作るほどの威力だ。

 無敵結界があってもこれなのだ、もし無敵結界が無ければ今頃自分は消し炭になっていてもおかしくない。

「スラルに感謝だな!」

 ガルティアの剣がピンクの悪魔──―大まおーの体に突き刺さるが、意外な程の弾力にその剣が弾かれる。

 ならば自身のムシで攻撃をしかけるが、その巨体故に相手を足止めするタイプのムシは意味が無い。

 毒攻撃も試してみたが、相手の動きが鈍っていない事から、効果があるかどうかは怪しいものだ。

 マインレイヤーバグを打ち込むが、やはり大したダメージにはならないようで、足止めする事も出来ない。

 大まおーの大鎌がガルティアの無敵結界に当たり、ガルティアは大きく吹飛ばされる。

「っと! こいつは厳しいな…」

 自身の体から流れる血を感じ、ガルティアは唇を歪める。

 確かに無敵結界は作動しているが、目の前の存在はその無敵結界をある程度貫通してダメージを与えてくる。

 そして何よりも単純に相手が自分よりも強い。

「ヤバイな…スラルが戻るまで俺が持つかどうか…」

 未だに目覚めないケイブリスから、ラウネアとタルゴを離すわけにもいかない。

 そのために使徒を使えないのがガルティアに辛い状況を作っていた。

 何しろ自分だけでは攻撃力が足りないのだ。

(魔人である俺の攻撃が届かないとなると…やっぱりスラルかカミーラしかいないよな)

 単純に考えるならば逃げるのが一番なのだが、それはやはりガルティアの性に合わない。

「問題なのはカミーラがここに来ているか、だな」

 スラルはメガラスを伴って何処かへ行ってしまったため、何時戻ってくるかはわからないため、スラルを期待するのは厳しい。

 最近のカミーラはよくこの魔王城に来ているが、それでも今日来ているかどうかは分からない。

 だが、今現在でこの相手と戦えるのは間違いなくカミーラだけだ。

 吸い込む事も考えてはみたが、今ここでその力を使えば間違いなくこの魔王城そのものが巻き込まれる。

「まーおー!」

 大まおーの左手から黒いビーム…デビルビームが放たれ、ガルティアをさらに吹飛ばす。

 ガルティアは直ぐに体勢を整えるが、目の前には大まおーの足が迫ってきていた。

 無敵結界がある故に直接は踏まれないが、それでも無敵結界ごと体が地面にめり込む。

「ぐ…お…」

 ガルティアはハワイアンソードを盾にして、必死に堪えるが、それでも質量の差は歴然としており、どんどんと地面に体がめり込んでいく。

(こいつは…マズイか)

 ガルティアがどうしようか思案していた時、突如として大まおーの足がガルティアから離される。

 その隙を見逃さず、ガルティアは地面から抜け出すが、目の前にはラウネアとタルゴが大まおーに向かって攻撃を仕掛けていた。

「ラウネア! タルゴ!」

 しかし二人の攻撃も大まおーにはあまり効果が無い様で、目に見えた傷は全く見えない。

「まーおー!」

 大まおーの放つデビルビームが二人に直撃し、無敵結界の無い使徒はそれに耐え切れずに吹飛ばされる。

 それを確認した大まおーがさらに口から火を吐くべく息を吸い込んだとき、大まおーの頭に大きな穴が開く。

「…っと、流石に疲れるな」

 ガルティアの切り札、レーザーバグの一撃が大まおーの頭に大きな穴を開けた。

 普通のムシ使いでは一度使えば一日は動けなくなる程の威力であり、ムシ使いとして卓越した技量を持つガルティアですらもその疲労は隠せない。

 その代わりに威力は段違いであり、その一撃はかつては魔人にすら大きなダメージを与えたほどだ。

「ラウネア、タルゴ! 大丈夫か!?」

 ガルティアは倒れている使徒に向かって走り出す。

 幸いにも二人とも無事のようだが、使徒である二人にこれほどのダメージを与えたとなると、相手の強さに改めて冷や汗が出る。

 ガルティアは二人を自分の腹の中に戻し、ケイブリスの方を見たとき、目の前に迫ったのは大鎌の刃だった。

 その思いもしない一撃は、無敵結界の上からガルティアを吹飛ばす。

 完全に油断をしていた所での一撃であり、その威力は無敵結界の上からガルティアの脳を揺らす。

「おいおい…」

 ガルティアが起き上がったときに見たのは、先程と変わらぬ大まおーの姿だった。

 レーザーバグが放った傷跡も既に塞がっている。

 大まおーの炎と魔法が雨のように降り注ぎ、流石のガルティアも防戦一方になってしまう。

 何とかその炎の嵐を抜けようと、懸命に体を動かし、その炎の一撃を避けるがその炎はちょうど誰かが扉を開けた所に直撃する。

「あ…」

 誰かが扉を開け、巻き込まれて死んだ…と、ガルティアは思ったが、その炎が収まった後に立っていた人物を見て驚く。

 そこに立っていたのは、ガルティアが望んでいた人物…魔人カミーラだった。

 

 

 

 

「危ない! ランス!」

 レダはランスに飛びつくのと、炎がランス達が立っていた場所を通過するのは殆ど同時だった。

 その威力はまるでドラゴンのブレスであり、流石のランスも冷や汗をたらす。

「カ、カミーラ!?」

 そして真正面からその炎を浴びせられたカミーラだが…当然の如くカミーラは立っていた。

 無敵結界がその炎を防いだのだが、

「ケホッ」

 カミーラは自分の中に溜まった熱気を吐き出す。

 確かにカミーラにはダメージは無い…が、当然の如く激怒していた。

 自分の顔をなぞると、そこには黒い煤が自分の顔についていた上に、自分の髪の毛の一部が焼け焦げ、衣装も少し焼けていた。

 カミーラは自分にいきなり無礼を働いたであろう存在を見る。

 そこにはピンク色の巨大な物体が自分を見ていた。

「カミーラ…」

「ガルティアか…アレは一体なんだ」

 カミーラはガルティアの方を見ると、僅かに眉を顰める。

 見ればガルティアの体には火傷が複数有り、見れば頭部からも血を流した跡がある。

 無敵結界がある故に魔人はダメージを受けない…勿論自分の意思で無敵結界を切れば話は別だが、ガルティアならばそのような事はしないだろう。

 カミーラは一部焼けた自分の髪の毛を見る。

「ほぅ…無敵結界を貫通したか」

 ダメージこそ無いが、その炎は確実にカミーラに届いていた。

 その事実にカミーラは獰猛な笑みを浮かべる。

 ガルティアはその笑みを見て、大まおーとの戦いとはまた別の意味で冷や汗をかく。

 カミーラとは結構長い付き合いとなるが、あのカミーラがこのような笑みを浮かべるとは思ってもいなかった。

「ククク…楽しめそうだな。このカミーラに傷をつけた事、後悔させてやろう」

 カミーラは真っ向から大まおーに向かって突っ込んでいく。

 大まおーの口から放たれる炎を華麗に避けながら、その爪を振るう。

 カミーラの爪が相手を引き裂いた──―そう思ったが、意外な程の弾力を持ってカミーラの爪が弾かれる。

 そしてお返しとばかりに放たれる魔法がカミーラに直撃する。

 流石のカミーラも魔法を避ける事は出来ずに、その威力に負けて吹き飛ばされるが、その翼をもって地面に叩きつけられるという事は無い。

 追撃に振るわれる鎌を上空に飛んで避けると、今度はブレスで大まおーを攻撃する。

 そのブレスは大まおーに直撃する間に、魔法バリアによって弾かれる。

「おいおい…カミーラのブレスを防ぐのかよ」

 ガルティアは改めて目の前の存在に驚愕する。

 カミーラのブレス攻撃を防ぐ等、並みの魔物には出来ない…つまり相手は魔人級の魔力を持っている上に、無敵結界をある程度貫通する事が出来る存在なのだ。

「おい、なんだありゃ?」

「ああ、ランスか。いや、俺も何なのか分からないんだよな」

 いつの間にか横に立っていたランスにガルティアは答える。

 本当にガルティアには何がなんだか分からないのだから、そう答える以外に無い。

「ただ言えるのは、魔人に対してダメージを与えられるって事だな」

 ガルティアは立ち上がると、剣を構える。

 カミーラは怒るかもしれないが、やはりやられっ放しというのはガルティアも不満ではあるし、何よりもこれ以上スラルの城を傷つけられるのは我慢ならなかった。

 それに自分の使徒を傷つけられた事も許せない。

 だからガルティアも剣を片手に大まおーに向かって突っ込んでいく。

「うーん…あいつ、どこかで見た事あるような」

「いや、あんな奇妙な物体、普通一度見たら忘れられないんじゃない?」

 ランスとレダはこの人外の戦いを観戦していた。

 どうやらカミーラは割りと本気で戦っているようだし、ガルティアもそのムシ使いとしての力を使って全力で戦っている。

 流石にこの戦いの中で乱入する気にはなれなかった。

 ガルティアの剣とムシの力で大まおーのバリアを剥した所に、カミーラのブレスが直撃する。

 カミーラの全力のブレスに、大まおーの体が黒焦げになり丸い目が×印に変わり倒れる。

「終わったか?」

「そうみたいね」

 大まおーが倒れたのを見て、ランスとレダも近づく。

 カミーラは少しは気が晴れたのか、先程の不機嫌さも少しは収まったようだった。

「フン…もう少し楽しめると思ったが」

 カミーラは倒れた大まおーに背を向ける。

 ガルティアも安心したように地面に座り、ため息をつく。

「カミーラ! 後ろだ!」

 ランスの声に反応してカミーラは宙に飛ぶ。

 先程カミーラが立っていた場所に、大まおーの大鎌が突き刺さっていた。

 ランスとレダは見た…大まおーの体が光り輝いたかと思うと、何事も無かったかのように立ち上がったのだ。

 流石のカミーラもその様子には眉を顰める。

 確かにカミーラのブレスは大まおーを黒焦げにし、一度は倒したはずだった。

 しかしその体には先程の傷は一切存在しない。

「まーおー!」

 大まおーはランスとレダも敵と認識したのか、二人に向かってデビルビームを放つ。

「ランス!」

 レダは盾を用いて大まおーの魔法を防ぐ。

 エンジェルナイトが使用する、防御力・魔法防御力に優れた盾に加え、盾防御LV2を持つレダの技量は魔法すらも防いでみせる。

 それもその体がのけ反る事も無い…まさに神の盾だ。

 カミーラはその隙にブレスを放つが、大まおーのバリアによって防がれる。

「まーおー!」

 大まおーの両手に黒い光りが放たれ、その暗黒がカミーラを包むと、カミーラもその威力に耐えられずに地面に叩きつけられる。

 チョウアンコク級の魔法の前では、流石のカミーラも耐える事は出来なかった。

「おいカミーラ!」

「…問題は無い」

 カミーラはすぐさま起き上がると、目の前の敵を睨む。

(こわ…)

 その眼光には思わずランスも怯んでしまう。

 このような目は、ランスと戦った時にも見せた事は無かった。

 そしてカミーラは再び大まおーに襲い掛かる。

 続いてガルティアも大まおーに向かっていくが、やはり何度攻撃して倒しても、大まおーの体が光り輝くとすぐに起き上がってしまう。

 何度も復活する大まおーに、流石のカミーラも苛立ちを隠せなくなる。

「まーおー!!」

 大まおーが一際大きく声を上げると、その手に強力な魔力が溜まっていく。

 それは先程のカミーラに向けられたアンコクよりも巨大な魔力だ。

 そしてその魔力が巨大な力と共に爆発する。

 死爆…それも圧倒的広範囲の闇魔法の前には、流石のレダもランスを庇う事は出来なかった。

 が、ランスを助けたのは意外な人物…カミーラだった。

 カミーラはランスを自分の翼で覆い、相手の死爆を受ける。

「カ、カミーラ!?」

 流石のランスもカミーラの行動には驚きを隠せない。

 まさかあの魔人カミーラがランスを助けるなど、ランスには考えられない事だった。

「お、おぉ!?」

 カミーラはランスを離すと、そのまま大まおーに向かって再び向かっていく。

 ランスは流石に驚いたが、直ぐに自分を剣を抜く。

 生意気にも、自分に攻撃を仕掛けてきたふざけた生き物を許せないのはランスも一緒だった。

「俺様に向かっていい度胸だ!」

 ランスも大まおーに向かって一直線に突っ込んでいく。

「ランス! 無茶は厳禁よ!」

 レダも直ぐにランスの横につく。

 これほどの力を持つ敵が相手ならば、ランスをガードしなければ人間であるランスはあっさりと死んでしまう。

 だからといって、引けといわれて引くような男ではないため、自分がランスを守らなければならない。

(それに…もしかしたらコイツは悪魔かもしれない)

 気の抜けるようなデザインだが、先程の威力の魔法、そして何よりも魔人に対して無敵結界を多少なりとも貫通している事からしても、只者ではない。

「まーおー!」

 大まおーの炎がランスを襲うが、既にランスはその場にはいない。

「がはははは! とー!!」

 ランスが剣を大きく振りかぶり、その巨体に向かって剣を振るう。

 カミーラのブレスにも耐える大まおーは、その一撃を自身の鎌で受け止める。

「むむ…」

 ランスの剣はドラゴンの鱗すらも切り裂くほどの切味だが、どうやら相手の武器はそれを上回る硬度を持っているようで、流石のランスでもこれ以上は剣が進まない。

「消し飛びなさい!」

 レダの一撃…悪魔祓いの一撃が大まおーの体に突き刺さる。

 しかしその感触は、かつて悪魔を消し去った時に比べれば非常に小さい。

(この感覚…悪魔なのは間違いないけど、私の知ってる悪魔じゃない…もしかしてかなりの階級の悪魔?)

 下級悪魔ならば一撃で消滅させられる一撃にも大まおーは平気な顔をしている。

 アンコクがレダを襲うが、レダはその一撃を盾で防ぐ。

 その隙にガルティア、カミーラの攻撃が大まおーを襲い、大まおーは再び目を×印にして倒れる。

 が、再び体が光り輝くと、何事も無かった様に起き上がり、カミーラとガルティアにデビルビームを放つ。

 ルドラサウム大陸において、魔法は必中という理不尽さを持つ。

 ガルティアは魔法を防御する事が出来るムシの盾を展開し、カミーラは己の魔力でデビルビームを防ぐ。

「おいおい! 一体どうやったら死ぬんだ!?」

「知るか! 死なないなら死ぬまで殺すだけだ!」

 ガルティアは魔人すらも上回る再生力に驚愕し、ランスは死ぬまで殺すと己の剣を振るう。

 大まおーはカミーラのブレスやガルティアの一撃、レダの対悪魔の攻撃は体で受けても、ランスの剣の一撃だけは絶対に受けようとしない。

 意外と俊敏な動きでランスの一撃を避け、時には鎌で攻撃を払う。

「世界樹の葉だ!」

 その時、ケイブリスの声が辺りに響く。

「そいつは魔王のアイテムを沢山取り込んでるぞ! 普通に倒せば何度でも復活する!」

 ケイブリスの声に反応し、カミーラがケイブリスを掴む。

「カ、カ、カ、カミーラさん!?」

 突然の事にケイブリスの鼓動が跳ね上がる。

 カミーラに掴まれたのは初めてだし、これほど間近で彼女を見るのも生まれて初めてだった。

「話せ、ケイブリス」

「え、え、え、えーと…ス、スラル様が言うには…本当に何回倒されても復活するみたいで…その、処分をするって言ってました」

「無効にする手はあるのか?」

「な、な、な、何でも『物品禁止』という魔法とか、『絶対差し押さえの札』とかのアイテムがあればいいって」

 ケイブリスの言葉にカミーラは眉を顰める。

 何れの言葉もカミーラも知らない。

 つまりは現状を打開する手段は存在しないという事だ。

 カミーラはケイブリスを乱暴に離すと、そのまま大まおーの体を切り裂くが、相手はその程度では倒れない。

 ブレスの一撃ならば倒せるが、復活されるのでは意味は無い。

「くたばれ!」

 しかしその一撃が初めてランスの剣が大まおーを傷つける隙を作る。

「まお!?」

 すると今までに無い声を出し、大まおーが苦しむ。

 ランスが傷つけた所から、ピンクの煙が立ち上がる。

 そしてその煙がランスの剣に吸い込まれるように消えていく。

「…おい、あいつ少し小さくなってないか?」

「…確かに小さくなってるわね」

 ごく僅かにだが、確かに大まおーの体が小さくなっていた。

(ランスの剣…あの悪魔から貰った剣だけど、一体どんな剣なのかしら)

 レダもその場に居たが、ランスの持っている剣は非常に謎が多い。

 ランスは気にしていないようだが、エンジェルナイトであるレダには非常に気になってしまう。

 何しろ相手はあの三魔子、ボレロ・パタンだったからだ。

(いや、今はそんな事を考えている暇は無いわね)

 何しろ相手は、カミーラとガルティアの二人の魔人に加え、人類でも突出した力を持つランスとエンジェルナイトを相手にして立ち回っているのだ。

 大まおーの手に魔力が集まり、レダはランスを守るべく盾を構えて前に出る。

 だからだろうか、魔法が来ると思い込みからか、大まおーの蹴りを避ける事が出来なかった。

「グッ!」

 その一撃に思わず息が詰まる。

 レダが起き上った時は、既に大まおーの魔法がランスに向かって放たれていた。

 ランスも非常に焦った顔をしている。

 大まおーの魔法の威力は強大で、人間のランスならば一度でも食らえば大ダメージとなってしまう。

「ランス!」

 この位置ではカミーラもランスを庇う事は出来ない。

 大まおーの放つデビルビームはランスに当たる前に、突如として何かに弾かれるようにその軌道を変える。

「…こうまで騒がしいと、寝ていられないな」

「ケッセルリンク!」

 ケッセルリンクの魔法バリアが、大まおーの攻撃を逸らしたようだ。

 今日は太陽が出ていないため、ケッセルリンクも少しは余裕があるようだ。

「ランス。こいつは一体何だ」

「生意気にも俺様に喧嘩を売ってきたバカだ。なんか復活するらしいが、俺様ならば奴を殺せる」

「そうか。ならばとっとと排除しよう。私も昼間に動くのはキツイ」

 ランスは再び真っ直ぐに大まおーに向かっていく。

 大まおーはランスに向かって鎌を振るうが、その一撃はカミーラによって止められる。

「がはははは! 死ねー!」

 ランスの一撃が大まおーに深々と突き刺さる。

 突き刺した部分からは再びピンクの煙があがり、

「まーおー!」

 大まおーが苦しげな(?)声を上げると共に、その体がどんどんしぼんでいく。

 最初はドラゴンほどの大きさを持っていたが、今はサイクロナイト程の大きさしかない。

 それに比例するようにその魔力も小さくなっていく。

 まるで最後の足掻きのように、大まおーの体が赤く光り始める。

「自爆する気か!?」

「ランス!」

 ケッセルリンクとレダの声が重なり、ランスが大まおーから剣を引き抜き、

「ラーンスアタ────ック!」

 必殺の一撃で大まおーを両断し、それと同時に大まおーが爆発するのは同時だった。

「「ランス!!」」

 その熱量はランスでも絶えられない…レダとケッセルリンクが悲鳴を上げるが、炎の中にカミーラが飛び込んだかと思うと、ランスを掴んで炎から出てくる。

「アチチ!」

 ランスは服についた炎を払うが、あの熱量にも関わらず怪我らしい怪我は殆ど無い。

「ランス! 大丈夫!?」

「無事か! ランス!」

 ケッセルリンクとレダがランスに駆け寄るのを見て、カミーラが笑う。

「問題は無い…この男が持っているアイテムを忘れたか」

「あっ!」

 カミーラの言葉にレダは思い当たる。

 確かにランスはあの時に『ドラゴンの加護』というアイテムを手に入れていた。

 その力はまさにバランスブレイカーで有り、大まおーの爆発にもある程度耐える事が出来たのだ。

 それでもカミーラの一瞬の判断が無ければ、ランスは燃え尽きていただろう。

「まったく…一体何がどうなってたんだ?」

 ガルティアが周りの惨状を見回しながら呻く。

 大まおーが暴れた被害は相当な物で、大まおーが通過した廊下は崩壊、又は炎によって焼け爛れている。

 この広場の被害も相当であり、あちこちにクレーターが複数できている。

 そして何よりも被害が大きかったのは、騒動の元である魔王の宝物庫だろう。

「ケイブリス。一体何が起きたんだ?」

 ケイブリスは、あの大まおーの強さ、そして不死身の理由を知っていた。

 つまりはあの悪魔は宝物庫から生まれた事になる。

「そ、それは…」

 ケイブリスは冷や汗をかきながらガルティアから視線をそらす。

 その場にいる全員がケイブリスに疑問の目を向けていた。

「………何コレ?」

 ここで呆然とした声が響く。

 全員がその方向を見ると、スラルが呆然と立ち尽くしていた。

 




少し遅れました
大まおーが強いのは第2部でアームズが強いのと同じ理由です
実際この世界のバランスブレイカーって強すぎますし

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