「ほう、お前の世界にはそんなダンジョンがあるのか」
「はいですぎゃ。必ず1階からスタートし、持ち物は食料だけしか許されず、入るたびにダンジョンの形が変わる…その地下には素晴らしいアイテムが眠っているという話ですぎゃ。実際、強力なアイテムの持ち運びには成功した例もありますぎゃ」
「うーむ…中々興味深いが毎回形が変わるとか面倒だな…それも一人でしか入れんのか」
ランスと怪獣王子は冒険話に花を咲かせている。
二人は冒険好きという共通点が有り、それぞれのダンジョンの話をしては大いに盛り上がっている。
お町はそんなランスをじっと見ていた。
「…随分変わったな。一夜で成長したな」
そしてそんなお町をスラルは見ている。
「我とて驚いた。だが、妖怪なのだからそんな事も有るだろう」
「妖怪だから、か。まあそう言われれば不思議はない。一度じっくり調べてみたい。どこかに解体していい妖怪はいないか?」
「お前…意外と物騒な事を言うな」
お町はとんでもない事を言いだすスラルに呆れた声を出す。
「まあ性分だな。ランスが冒険が好きなように、我も知らない事を知るのが好きだ。我が魔王だった頃は妖怪という存在はいなかったからな。それどころかJAPANすら存在していなかった」
「ふむ…まあそうだろうな。JAPANが出来たのはNC期だからな。それもオロチが暴れた時に出来た大陸だ」
JAPANの成り立ちは色々と事情が絡み合った結果だ。
オロチが最初の原因なら、次の原因は神であるアマテラスだ。
その結果、独自の文化を持つJAPANという国が出来上がった。
そしてオロチの牙から黒部が生まれ、そして妖怪たちが生まれていった。
お町は黒部達とは違う方法で生み出されたが、れっきとした妖怪なのは間違いない。
「それはともかく…まあランス好みの体か」
「女なら誰でもいい、という訳では無いのは知っていたが、そうか…こういう体が好みか…」
お町は自分の体に触れる。
年の頃は20前後といった所だが、以前より明らかに肉付きが良くなっている。
大きくなった胸に括れた腰、そして安産型とも言えるやや大きなお尻。
その何れも男を惹きつける魅力を持っているのは間違いない。
「好みはあれど、顔が整っていれば皆等しく女だ。例えそれが魔王であってもな」
「肩書など意味はないという事か。まあ今の時代には肩書など意味は無いがな」
「違いない。まあ特に急ぐことも無い。束の間の休息を味わうのもいいだろう」
スラルは紅茶を飲みながら一息つく。
ジルが用意したのか、ここには食料も飲み物も豊富だ。
当然スラルは食事を作るのは禁止されていたし、ランスも碌に家事が出来ないので作るのはお町の仕事だ。
お町も別に家事が嫌いという事も無いので、割と楽しくやっていた。
「流石に狂王クラスの相手はもう無理だな」
「そうそう居ないだろう。アレは間違いなく魔人級の存在だ。しかも下手な魔人よりもずっと強い」
スラルは今の時代からすれば初期の方の魔王に当たる。
実際、自分の前の時代から今も生き残っているのはケイブリス、メガラス、カミーラだけだ。
ケイブリスから色々と話は聞けたが、その事からスラルは魔王ですらもその立場を脅かされると感じ取った。
その結果が無敵結界となり、それが魔人を無敵の存在へと変えてしまった。
今回戦った狂王は、無敵結界が無ければ魔人とて危うい存在だ。
厄介な特殊能力は無いが、その分破壊力と防御力と生命力がずば抜けていた。
そんな存在がもし自分達の居る大陸を襲ったらと思うと、スラルは背筋が凍り付く。
(ジルが止めたのも理解出来るな…)
あの魔王ジルが自分達の行動を止めたのも、この異世界の物を大陸に持ち込ませないためでもあるのだろう。
ただ、そんな事を考慮しないのがランスではあるのだが、幸いにもランスの興味をひくものは何も無かったようだ。
「魔人級か…やはりランスは強いな。勿論知っていたが、それでもあの強さには驚かされる。ただ、藤原石丸も同様に強かったと聞いている。スラル、お前の目から見てどう思う?」
「我の目からか…」
お町の言葉には純粋な興味のみが有る。
実際にはランスと石丸の実力差を知っているのは黒部だろう。
ランスと共に戦い、そして石丸とも共に戦った存在だ。
「我の視点からなら、藤原石丸は帝になる前の話だ。それで良ければという事になるが」
「構わない。お前の目から見た事を知りたい」
「我の目から見れば…ランスが石丸と争っていた時は、純粋な力なら石丸が上だったな。恐らくレベルは互角…そしてランスはその時は自分の剣を持て余していたからな。今のレベルが上がったランスなら、当時の石丸には勝てるだろう。だが…」
「だが?」
「黒部から話を聞いたが、帝というのは不思議な力が有るらしい。バランスブレイカーを3つ持ち、神の加護が有るのならばそれがどれ程のものか、我にも想像出来ん。なので全盛期の石丸と今のランスを比較する事は出来んな」
「帝…か」
「帝とはどういうものなのだ? 我はその仕組みについては全く知らないからな」
スラルの言葉にお町は考える。
「我とて実物は見ていないので、言い伝えだけになるのだがそれでもいいか?」
「ああ。構わない」
「帝はJAPANの君主、その威光の前にはJAPANの者は逆らう事が出来ない」
「…魔王の仕組みに似ているな」
お町の話を聞き、スラルの唇が歪む。
魔王の仕組みも同じで、魔の物に属する者は魔王に逆らう事は出来ない。
「言われてみればとも思うが…大分スケールが違うとも思うが」
「魔王はこの大陸最強の存在だからな。しかし帝というのも興味深い…そしてその後で帝が生まれていないという事もな」
「確かにそうじゃな…石丸亡き後、その後を継ぐ者は居なかった。石丸の残したものを守るので手一杯だったのかもしれんな」
(だから陰陽師達は我を作った、か。ランスの言う通り、我は妖怪王の器では無かったという事か)
お町は改めて自分の存在に苦笑するしかない。
人によって作られた自分が妖怪王などと、随分と思いあがっていたものだ。
「だが、その石丸も魔人には勝てなかった…ランスが勝てたのはやはり日光の力か?」
お町が一番気になっていたのはその事だ。
魔人の無敵結界が斬れる日光が現れたのはGL期になってからだ。
もしもの話になるが、それが気になるのはやはりJAPANに住む者として当然の事だった。
「それは否定しない。ランスが魔人の無敵結界を何とかしようとしていた時に、全く関係の無い所でそういう力が得られた。その辺も時代の流れということだろうな」
スラルとしても魔人の無敵結界を斬れる存在には驚いた。
もし自分が魔王の時代にそんなのが現れたら…間違いなく日光を誰の手も届かない所に封印していただろう。
殺せるかどうかは分からないが、それが出来るのであればそうしていたのは間違いない。
「では石丸の時代にあれば…」
「魔人は何とかなったかもしれないな。だが、結局は魔王には勝てぬ。魔王の強さは無敵結界など関係の無い所にある」
石丸が持っていれば魔人ならばどうにかなったかもしれない。
しかし、結局は魔王ナイチサが直接動いただろう。
あの大虐殺の事を考えればある意味当然だ。
「それもまた運か。その点を考えればやはりランスの運が凄まじいな」
「それはそうだ。ランスの強運…いや、悪運とも言うべきか。必ず土壇場で何とかなるのがランスだ」
魔王と出会って生きている…それだけでランスの運が凄まじいというのが分かる。
しかもスラル、ナイチサ、ジルといった歴代魔王と直接出会っているのだから。
「中々面白そうなダンジョンだな」
「ランス殿の世界も回ってみたいものですぎゃ」
スラルとお町が話に花を咲かせている間に、ランスと怪獣王子の話も盛り上がっていたようだ。
男と話してこうも上機嫌のランスはぶっちゃけ気持ち悪いくらいだ。
どうしても男に対して当たりがキツイランスではあるが、怪獣王子はどうやら別格なようだ。
(まあ…安全圏の存在だからか。もし怪獣王子が人間の姿をした色男なら、ランスは間違いなく斬ってただろうしな)
その点を考えればどうしても石丸と比べて器が小さいと言えるだろう。
ランスを部下にしたがっていた石丸と、石丸に対して殺意が溢れていたランスの違いだ。
(その辺りがランスが万人から受け入れられない理由か。問題なのはランスがそれを何とも思っていない事か)
性格だから絶対に直らないだろうし、そもそもランスには石丸のような大陸を統一しようという意志も無い。
そればかりはもう仕方が無いだろう。
(どうせ相容れない二人だったのだから、ランスが消えた事はある意味世界には良い事だったのかもしれないな)
もっとまともになれば…とはランスに関わった者が誰もが思う事かもしれない。
だが、ランスはそんな事は全く気にせずに、世界を巻き込んで生きていくのだろう。
「もうこんな時間か。久々に何もせんかったが、意外と時間が経つのは早いな」
ランスの体内時計は正確であり、それも冒険者として長い時間を学んできた賜物だろう。
技能も関係しているかもしれないが、冒険においてはランスは非常に勘が働く上に、判断力も的確だ。
「よーし、寝るか」
そう言ってランスは二人を見る。
その目は何を考えているか丸わかりで、スラルもお町も苦笑するしかない。
そうでなくてはランスとは言えないというのも事実だ。
「ではランス殿、お休みですぎゃ」
怪獣王子は知ってか知らずか、ランスの言葉を聞いて素直に自分の部屋へと戻っていく。
そういう所もまたランスとの相性も関係しているのかもしれない。
「行くぞお前達」
「別に構わんが…お前は本当にそういう事に関しては底なしだな」
「藤原石丸にも無数の妻と子供が居たとされているが…やはり英雄とはそういうものなのかもしれんな」
スラルとお町も口では色々と言うが、素直にランスに付き従って部屋へと消える。
そしてそこからは二人の女性の艶っぽい声が途絶える事は無かった。
そしてついにその日はやって来た。
ランス達は退屈凌ぎに召喚ドアを開け、そこで変わったモンスターと戦っていた。
狂王のような凶悪なモンスターは出てこず、ランスと怪獣王子、そしてスラルが居れば何も問題は無かった。
「お前も随分と強くなったな」
「そ、そうか」
ランスの言葉にお町は嬉しそうな顔をする。
「うむ、昔のように足手纏いでは無くなったし、十分な戦力になってるな」
「昔はまあそうだな…我は弱かった。しかしお前の言う戦力とは随分とハードルが高いな」
「スペシャルな俺様に付いて来る奴に弱い奴はいらんからな。何故か最後までついて来る奴も居るのが気に入らんが…」
何度崖から突き落とそうとも戻って来るロッキーを思い出してランスは不愉快な顔をする。
結局ゼスでは最後まで付き合う事となってしまった。
幸いにも顔が安全圏だった事、そして料理が上手だった事、そして何故か上がる才能限界に救われた奴だ。
尤も、ゼスでの戦いの後はもう限界レベルは戻っていたので、その後はランスに言わせればただの肉壁でしかない。
「お町殿は成長して明らかに強くなったと思いますぎゃ。もっと自信を持っても良いと思いますぎゃ」
「う、うむ。我は黒部殿の次の妖怪王じゃからな。その名を穢す訳にはいかんからな…」
怪獣王子にもそう言われ、お町は嬉しそうな笑みを浮かべる。
そんな穏やかな空気の中、凄まじいプレッシャーがランス達を襲う。
そのプレッシャーに怪獣王子の肌が粟立ち、最大限の警戒を持ってそのプレッシャーを見る。
「やっと来たか。ジル」
「…狂王を倒したか」
そこに現れたのは魔王ジル―――この世界の絶対的な支配者だ。
「ランス殿…これは」
「こいつがジル。前にも話した魔王だ」
「魔王…これが」
怪獣王子は冷や汗が止まらないのを自覚する。
自分の世界にもそういう存在が居るのは間違い無いが、目の前の存在はまさに恐怖の象徴だ。
流石の怪獣王子も異世界の魔王の前には体が思わず震えてしまう。
そんな怪獣王子を一瞥し、ジルはランスについて来るように手を動かす。
そしてレストルームに戻ると、ジルはランスを見て笑みを浮かべる。
「まさか…これほど早く狂王を倒すとは思わなかった。それも…我の予想の範囲外でな」
その予想とは間違いなく怪獣王子や、他の世界の乱入者の事だろう。
「フン、俺様にかかればあの程度問題無い。それよりも早くケッセルリンクを解放しろ」
ランスは未だクリスタルに閉じ込められているケッセルリンクを指さす。
魔王の封印は強固で、流石のランスでも手も足も出ないのが現実だった。
「ククク…駄目だな。ケッセルリンクはお前に一番有効な人質…そう簡単に開放する事は出来ん。ある一つの条件を除いてな」
「なんだそれは。とっととお前の条件をクリアしてやるから言え」
ランスの言葉にジルは唇を歪める。
「お前が魔人になること。それがケッセルリンクを直ぐに開放する条件」
「………」
ジルの言葉にランスは黙る。
昔からジルがランスを魔人にしようとしているのは当然知っている。
ランスも魔人になる気は無いので、なるべくジルに会わないように動いていた。
幸いにも、ジルも直ぐにランスを魔人にする気はない様だった。
「だがお前はそれを呑まない。何故ならそれ以外で我がケッセルリンクを解放するという事を分かっているからだ」
ジルはランスの首を撫でる。
その顔は正に魔王と言うべき邪悪さと、一人の男を気に入る女の顔の二つの面があった。
「だから…我はお前を魔人にしない。時間は永遠だからだ…お前を魔人にするのは何時でも出来る」
ジルはランスから離れるとその長い髪を揺らしながら椅子に座る。
ジルは全裸なので体の全てが露になっているのだが、そこに性的魅力を感じる者は居ないだろう。
居るとすればそれはランスくらいのものだ。
「ジル、ならばお前の要求は何だ」
スラルの言葉にジルは唇を吊り上げる。
「ランスの限界を知りたい。そしてその限界に突き当たった時お前はどうするか…」
「…成程な」
ジルの言葉にスラルは複雑な顔をする。
(ジルはランスの才能の限界が無い事を知らない…だからランスを追い詰めようとしているのか)
ランスはこの世界で唯一才能の限界が存在しない人間。
それをジルが知らないのは良い事なのか悪い事なのか…それはスラルには判断出来なかった。
「だが…ここまで早くお前が狂王を倒すのは…予想外だった。更なる手段を用意しようと思ったが…無駄になった」
ジルは楽しそうに笑った後で立ち上がる。
「それよりも褒美だ褒美。それを寄越せ」
「そうだったな…まずはくれてやろう」
ジルが取り出したのは一枚の札だ。
「なんだこりゃ」
「絶対解除の札。これが有ればどんな魔法だろうと解除できる。それが魔王のものでもな」
「なんだと!?」
ジルの言葉にスラルは驚く。
もしそれが本当ならば、これは明らかなバランスブレイカーだ。
「使用は一度きり…それをどう使うかはお前次第」
ランスはジルから札を受け取ると、それを持ってケッセルリンクの元へと向かう。
そしてその札を躊躇う事無くケッセルリンクを閉じ込めている水晶に貼る。
が、特に何も起こる気配は無かった。
「おい。何も起きんではないか!」
「当然だ…ケッセルリンクにかけたのは魔法では無いからな…」
「じゃあ何だ!」
「呪いと魔法は少し違う…それぞれに技能が備わるようにな。解除できるのは攻撃、防御、そして精神系の魔法等色々と在る。それは魔王の魔力でも解除できるモノだ」
「…絶対服従魔法とかか」
「そうだ。それが魔王がかけたものであっても、それを使えば解除出来る」
ランスはジルから渡された札を見る。
絶対服従魔法…それはシィルがかけられていた魔法ではあるが、その効果はとっくに切れている。
だが、それを無しにしても魔法というのは非常に厄介なものだ。
それを解除できるのであれば、確かに使い方によっては切り札となりえるだろう。
「そして…狂王を倒した褒美だ」
ジルはランスの元へと行くと、その頭を掴んでキスをする。
「ククク…しっかりと寵愛を与えてやる…」
そう言って有無を言わさずランスを連れて部屋へと消えていった。
それを見届けて、怪獣王子とお町はその場にへたり込む。
「あれが…魔王」
「そうだ。世界の絶対的支配者で有り…ランスの元奴隷。そしてランスが取り戻そうとしている女だ」
「ランス殿の…」
スラルの言葉を聞いて怪獣王子は辛そうな顔をする。
ランスは怪獣王子にとっては友だ。
そしてその友の一番の悩みが…あの魔王なのだろう。
詳しくは聞いていないが、きっと良い事では無かったのだろう。
「奴の背負ったものは…大きいな」
お町も沈んだ顔を見せる。
自分の悩みよりもより重いモノをランスは持っている。
だが、ランスはそんなのを全く感じさせない態度を取っている。
素である事は間違い無いが、それでもランスにとってはジルは絶対に譲れないものなのは分かる。
「…ランス」
スラルは二人が消えた扉を見て胸が痛むのを押さえられなかった。
「ククク…ランス、いくら貴様でも我の手にかかれば赤子の手を捻るようなものだ…」
「むむむ…」
ベッドの上でランスは唸るしかない。
ランスはあっさりと魔王ジルの手でいかされてしまった。
相変わらず魔王の体は極上で、ただ入れているだけでも絶頂を迎えてしまう程だ。
百戦錬磨のランスだろうと、人間が魔王とのセックスに耐えられる訳が無かった。
しかもジルはこれでもランスを殺さないようにしながらセックスをしている。
もしジルが本気なら、ランスはとうの昔に腹上死しているだろう。
「だが…やはりお前はいい…我が物になれば…永遠に楽しめるものを…」
「別に永遠などいらん」
「いい女と…セックスがしたいお前が…それを否定する。それもまた面白い」
ジルは興味深そうにランスを見る。
その視線はランスの知っている奴隷のジルでは無く、リーザスで見た魔王の視線にそっくりだ。
「だからこそ…それを汚したくなる…お前がそうなった時…どうやって我に逆らうのかな」
「む」
流石のランスもその言葉には身構える。
今ランスがこうして人間でいられるのは、ジルがランスを見逃しているからに過ぎない。
本来であればとっくの間に有無を言わさずランスは魔人とされているはずだ。
ジルの言う通り、いくらランスが強くなろうが、赤子の手を捻るようにランスを潰せるのは事実なのだ。
「だが…そんなつまらぬ真似はしない。ならば…限界まで搾ってみるか」
そう言ってジルは妖艶に笑う。
(ぐ…ヤバイぞ。確かに俺様はハイパーだが、流石に魔王が全力でセックスをしてくるとなると)
ジルと異世界でセックスをした時はランスのレベルがそれこそ桁違いに上がっていたからだ。
ランスにしか起こしえぬ奇跡、そして手っ取り早くランスを潰そうとした魔王の誤算。
それらが合わさってようやく魔王に勝てたのだ。
その後のセックスもランスのレベルが上がっていたのも影響があるのだろう。
(だがなあ…)
ランスは最後のジルを思い出す。
あの時ランスはジルを冷たく突き放した。
魔王ジルは何処までも冷酷で、ランスとしても正直おしおきセックス出来たのだからいいかと思っていた。
何よりも、あのままジルと共に大陸に戻ったとなれば、その後がどうなるか全く予想も出来ない。
しかし…ジルの最期の言葉は今になってランスの頭に蘇る。
何かに縋るようにランスに手を伸ばした事…そして「行くな…」という言葉と「お前も私を…」という言葉。
あの姿は絶対的な力を持った魔王の姿とは思えなかった。
「ちょっと待て!」
「待つ理由は無い…が、お前が何を言うのか興味も有る…」
ジルはそう言うと本当にランスから一度体を離す。
「えーと…そうだ。お前は誰かに裏切られた事が有るのか」
「ある…私は…私を妬む人間によって売られた。だがお前が私を買った…奴隷としてな」
「うぐ…」
普通は奴隷と言えば悲惨な待遇だ。
奴隷と口にしつつも自分のモノだと公言し、実際にはどんな事があろうとも助けるランスが異常なのだ。
「その後…ナイチサが我を魔王にした。お前と我の子を殺してな…だから…殺した」
「………」
ナイチサがランスとジルの子を殺したのはランスも当然知っている。
当然ランスは強く怒り、ナイチサを殺そうとしたが結局はそれは叶わず、ナイチサは自分の後継者であるジルに殺された。
「だから…魔物の世界を地獄にした。私とお前の子を殺したから…だから殺す…そう、永遠に」
その言葉にはランスも戦慄する。
ジルの作ったものは人間牧場…それはカオスから嫌と言う程聞かされてきた。
ジルの時代は人類の地獄、魔物が栄華を極めていた時代だと。
だが、実際にはこの世界は魔物にとっても地獄の世界だ。
なのでランスはカオスに担がれたのかと思ったが、実際は違った。
ジルは自分の子を殺したのが魔王だからこそ、その魔王の眷属とも言える魔物に対して地獄を見せているのだ。
「そう、だ。ランス…我にも叶わぬ事がある。それが…命を持つ事。だから…今一度、この身に命を宿す」
その目から狂気が溢れ、ジルはランスを押し倒す。
「あ、こらもうちょっと待て!」
「ダメだ…待たぬ」
(いかん、本気でヤバいぞ!)
今のジルは完全に狂気に支配されている。
そしてそのままセックスをすれば、ランスとて搾り殺されるかもしれない。
そんな恐怖がランスを襲った時だった。
突如として、ジルの体から放たれる圧倒的なプレッシャーが霧散する。
「む…?」
それはジルにも分かったようで、その目から狂気が消える。
「お」
ランスもジルが大幅に弱まったのを感じ取る。
今でも魔人よりも圧倒的なプレッシャーを放ってはいるのだが、魔王ジルが放っているとは思えない程にその力が弱まっている。
1000年―――それが魔王の任期。
神がスラルの願いを叶え無敵結界を生み出した時、同時に魔王にも寿命をつけた。
その期間が1000年…勿論前後するが、もしそのまま期間が過ぎればかつてのスラルと同じように血に飲み込まれて消滅する。
そして神によって新たな魔王が選定され、そのサイクルが永遠に続いてくのだ。
しかし、ジルはそれを嫌いかつてのスラルと同じ方法で願いを叶えた。
それはジルが永遠の魔王で有る事だ。
プランナーはその願いを叶えた。
そのためにラ・バスワルドの神聖を使い、ジルが永遠に魔王としての権力を行使する事を許した。
しかし―――ジルの想定外の事が今起きた。
確かにジルは今も魔王であり、永遠の命も持っている。
しかし…魔王の圧倒的な強さまでは永遠とはいかなかった。
永遠に魔王であるために、魔王の血は5%程しか行使できなくなってしまった。
これは別にプランナーがジルに対しての嫌がらせでそうした訳では無い。
ただ単純に、ジルが永遠に魔王であるためにそうしただけだ。
プランナーには人の心が分からない、だからこそジルに対しても本当に永遠に魔王でいられるようにしただけだ。
その結果がどうなろうが、プランナーには知った事では無いのだ。
「な、なんだ…?」
ジルも己の体の変調に気づいたようで困惑した声を出す。
魔王の力があるのは分かるのだが、その魔王の血の力を引き出すことが出来ない。
魔人を圧倒する力はまだ残っているが、それでも全力の時と比べれば20分の1の程度の力しか出す事が出来ない。
(チャーンス!)
ランスはそれを見逃さなかった。
不思議と、今ならジルを何とか出来るのではないかと思ってしまったのだ。
「む」
ランスはジルと態勢を入れ替えると、その唇を奪う。
ジルはうっとりした顔でそれを受け入れ、ランスに対して情熱的な抱擁をする。
「がはははは! 何だか知らんが弱くなったな!」
「ま、待てランス…一体何が…起きて…」
「このチャンスを見逃す俺様では無いわ! さーて、誰が主人なのかしっかり教えてやるからな!」
「や、止めて…ラ、ランス…」
ジルは何かに怯えるような態度を取るが、ランスにはそんな事は通用する訳が無かった。
ジルが弱体化した理由付けに織音さん設定を使用致しました
その方が話も作りやすいと判断しました