ランス再び   作:メケネコ

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英雄の帰還

「ランス…本来であれば…お前は魔人となっている」

「ふーん、そうか」

「だが…気が変わった。しかし、お前は何れ…我の元へと来る」

 ジルはランスの頬を撫でながら割る。

 それは邪悪な笑みではあったが、それでも不思議と温かさが感じられた。

「だったらとっととケッセルリンクを解放しろ」

「まだ出来ぬ…ケッセルリンクには…人質としての価値が有る。だが…魔人四天王を遊ばせておくのも…いかぬか」

 ジルはそう言うとランスから離れる。

「ランス…お前を迎えに来る。それまで…強くなっている事だ」

 そう言ってジルは空間の中に消えていった。

 ランスはそんなジルを見て、自分の剣を手に持つ。

「とにかくこっちをさっさと何とかするか。こっちの方が楽だしな」

 ジルは魔王ジルの中で生きている。

 それが分かっただけでも十分だし、何よりもジルは大きく弱体化した。

 確かに並の魔人よりも遥かに強い…というよりも、実際に歴代の魔人と比べても遥かに強いのは明らかだ。

 LP期のケイブリスだって、今の弱体化したジルにも及ばないだろう。

 なのでランスとしても十分に付け入る隙は有る。

「とにかくとっとと動くか」

 ランスは珍しくやる気になっていた。

 やはり明確な目的が有れば、ランスという人間の動きは非常に早い。

 だが―――ランスの知らぬところでジルに脅威が迫って居る事は、異世界に居るランスには分からない事だった。

 

 

 ジルはルドラサウム大陸へと戻る。

 そこには誰もいないのでジルとしても都合が良かった。

(弱まった…か。だが、魔王の力は行使できる…問題は無い)

 魔王としての圧倒的な力は無くなってしまった。

 だが、それでも永遠の魔王である事は間違い無いし、例え5%だろうと魔人など相手にならない。

 どんなに魔人が強かろうとも、魔人には連携を取る事が出来ないという欠点がある。

 なので例外を除けば戦いは常に1対1、それならば魔王であるジルが破れるという事は万が一にもあり得ない。

 そう…万が一にも無い―――はずだった。

 ジルがこれからをどうしようかと思っていると、魔王の間の扉が開く。

 そこから現れたのは魔人筆頭のガイだった。

「ガイか」

「魔王様…」

 史実においてはガイはジルの愛人だった。

 ジルは驚異的な強さを持つガイに目をかけており、自分の側近として取り立てていた。

 ただ、この時代においてはガイはただの魔人の一人でしかない。

 それでもその強さから、魔王の側近という立場は変わらなかった。

「何の用だ…」

 側近と言っても、ガイからジルの所へ来るのは滅多に無かった。

 なのでジルもガイに対して何の感情も抱いていない。

 魔王ジルにとっては一部の魔人を除き、全ては駒でしかなかった。

「…弱られましたね」

「それが…?」

 ジルの力が弱まったのは誰でも分かる事だろう。

 だが、それでも魔王としての権力は有しており、その圧倒的な恐怖までは消せるものでは無い。

 しかし―――魔人ガイは違った。

「ならば…今ならお前を殺せる!」

「!」

 ガイはいきなり殺気を全開にして魔王ジルに向かって襲い掛かって来た。

「控えろ、ガイ…」

 その言葉に全ての魔人はジルにひれ伏す…はずだった。

 しかし、ガイは真っすぐにその手にある剣…魔剣カオスをジルに向かって振るって来た。

 ジルの持つ無敵結界はあっさりと斬られ、魔王であるジルにすら傷をつけた。

 焼けるような痛みを感じ、ジルは顔を歪める。

「おお、おお! 魔王もそんな顔もするんだな! ガイ! 今の魔王ならお前ならぶっ殺せる!」

「そのようだ。ジル…死んでもらう」

 ガイの言葉にジルは初めて激高する。

「調子に…乗るなよ!」

 こうしてGL1000年…魔王戦争は勃発した。

 

「早速始めたわね…!」

 レンは凄まじい力のぶつかりに唇を噛む。

 人間の歴史には疎いが、この戦いの事は一応知ってはいた。

 だが、まさか自分がその戦いを感じる事になるとは思いもしなかった。

「日光、あんたは本気なのね」

 日光は結局魔人ガイについた。

 レンは任務がランスの護衛なので、奴等に付き合う義理は無い。

 見逃されるかどうかは分からなかったが、どうやら自分の事は眼中に無いようだ。

「問題なのはランスの行方か…流石に今の状況でジルに近づくのは危険すぎる」

 間違いなくジルはランスの行方を知っている。

 しかし、今の状況でジルに近づくのはいくらなんでも無謀過ぎる。

(ガイって事は間違いなく次の魔王の名前だしね…という事はこの戦いはガイが勝つはず)

 流石に歴代の魔王の名前くらいは知っている。

 下界に干渉しないのがエンジェルナイトとはいえ、密かに人間界に買い物に行ったりする奴も居るし、レンもその一人だった。

 そうなれば当然今の時代の魔王の名前くらいは耳に入って来る。

「さて…どうするか」

 下手に動いて変な奴に見つかるのだけは避けたい。

 本音を言えば一度天界に戻るのが一番良いのだが、そうもいかない。

 レンが頭を悩ませていると、

「あ、居た。アンタだけが居るっていうのは都合が良いわね」

 突如として声をかけられる。

 レンはその声に聞き覚えがあった。

「ハウセスナース」

 その声の主はハウセスナースだ。

 前に共闘した事もあるし、何よりも同じ神の眷属だ。

「ランスが居る世界が分かったわよ。アンタも飛ぶでしょ?」

「どういう事?」

 ハウセスナースの言葉にレンは目を丸くする。

 ハッキリ言えば状況が全く理解できない。

 何故ハウセスナースがランスの居場所を知っているのか、そして何故そんな事をするのか。

「私も私で動いているの。という訳でそっちが言ってくれれば私はあんたを呼ぶことであいつらをこの世界に呼べる。行ってくれるわね?」

「それしかないならそうするわよ。じゃあ頼むわ」

「問題はいくらか時間のズレが起きるかもしれないって事だけどね。ま、そこまでは私の責任じゃ無いし」

 ハウセスナースはハンマーを取り出すと勢いよく地面を叩く。

 すると地面が割れ、レンはその穴の中に飲み込まれていく。

 ハウセスナースはそれを見届けてから振り向く。

「と、いう訳だから手を貸しなさいよ」

「別にいいけど…私を巻き込まないでほしかったわね」

 ハウセスナースの視線の先に居たのは子供形態のベゼルアイだ。

「交信するのって結構集中力を使うのよ。その間に襲われちゃったら大変な事になるし」

「まあ私は繁殖期じゃ無いから良いけど。じゃあ行きましょう」

 ベゼルアイはハウセスナースの手を引いて、誰も訪れる事は無いであろう洞窟へと向かって行った。

 

 

 

 魔王戦争―――それは魔王ジルと魔人ガイが4年もの間戦い続けた戦争。

 それは魔王と魔人が戦うという前代未聞の戦いだった。

 だが、その真実を知る者は少ない。

 魔王ジルは確かに永遠の魔王となった。

 だが、それはあくまでも延命方法にしか過ぎず、魔王としての力と能力は大幅に抑えられた。

 それは魔王の寿命は凡そ1000年という、この世界のシステムを乱した弊害なのかもしれない。

 それでもジルは特に問題には思っていなかった。

 何故ならジルは魔王としての能力である、魔人への絶対命令権、そして魔人を生み出す能力は残っていたからだ。

 それなのに―――何故他の魔人の介入が無かったのか、それはガイが予め魔王城と外を隔離していたからだ。

 ガイは魔王打倒のため、他の種族との協力も取り付けた。

 人間、そしてカラーからも協力を取り付け、魔王城と外を切り離す事に成功していた。

 それはガイの持つ圧倒的な魔力があってこそ出来た事だ。

 それ故に、ジルの忠臣とも言えるノスの介入すらも許さぬ状況を作り出していた。

 そしてそんな戦いは既に長い間続いてた。

「死ね! ジル!」

 ガイはカオスを手にジルに斬りかかる。

 元々は魔法レベル3を持つガイではあったが、ジルによって魔人にされた事でその魔法レベルは2に低下していた。

 だが、それでもガイの力は圧倒的だった。

 まさに魔人最強―――魔人筆頭の名に相応しい存在だった。

 しかし、ガイの力の本質はそこではなく、ガイの本当の強さはその二重人格にあった。

 正と負、善と悪、そんな2面性を持っていると思われていたが、ガイが二重人格な事を知っている者は誰も居ない。

 ガイはジルですらも騙し通し、こうして魔王の絶対命令権ですらも跳ねのけた。

 ジルはその事に疑問を抱きながらも、圧倒的な力を持つガイを相手に今日も戦いを繰り広げていた。

「………」

 ジルは魔法を放つが、ガイはその強力な魔法防御力で耐えきる。

 そして手にした剣、魔王の持つ無敵結界すらも断ち切るカオスを持って襲い掛かって来る。

「くたばれ! 魔王!」

 カオスも殺意を全く隠さずにガイの手から殺気を向けてくる。

 その魔人、そして魔王に対しての絶対的な殺意はそのまま攻撃力に加わる。

 ジルの力が100%ならばカオスの殺意すらも影響は全く無いのだが、今のジルにはそのカオスの一撃は脅威となってる。

 一撃で倒されるという事は無いが、それでもまとに受けていい一撃では無い。

 ガイは魔法とカオスの二つを使い、魔王と互角の戦いを繰り広げていた。

 そしてジルの脅威はガイだけでは無かった。

「魔王…覚悟!」

 まだ二十歳にも満たない人間の男、その男もまたジルに対してダメージを与えていた。

 そしてその人間こそが、先代魔王の言っていた勇者である事にジルも気づいていた。

(…ナイチサが警戒した理由か)

 魔王ナイチサから勇者という存在については聞かされていた。

 その危険性と、勇者が魔王を倒す事が出来る力を発揮するための条件も。

 それを知っているからこそ、ジルは人間牧場を作り、その数を増やす事によって勇者の力を無力化した―――と思っていた。

 確かに勇者はジルにとっては脅威とはならないはずだった。

 以前にジルを倒そうと襲って来た勇者アキラも、その力を全く発揮できずにジルによって延々と嬲られ続けた。

 何年かそうしてたら勇者は何時の間にか死んでいた。

 何故死んだのかはジルにも分からなかったが、とにかくジルにとっては勇者は脅威とはならないはずだった。

 しかし、現実に目の前の勇者は脅威となってジルの前に立ち塞がった。

 勇者はガイとは別の意味で厄介な存在だった。

 人間ならば一撃で倒せる威力の魔法はガイが防いだりしながら立ち向かってくる。

 勿論ガイのカバーも万能ではなく、ジルの魔法が突き刺さる事も有るのだが、その時に限って色々な幸運が勇者に起こる。

 崩落した天井がジルの魔法を防いだり、突如として現れたハニーにジルの魔法が直撃したりとありえない幸運が起きているのだ。

 それには流石のジルも少々イラついていた。

 しかし、ガイはそんなジルを煽るかのように攻撃を続けてくる。

 それがワザとだと分かってはいるが、ジルはそれに対して顔を歪めるのを止められない。

(誰も…来ないか。ノスもか)

 今こうして魔人と魔王が争っているというのに、他の魔人が来る気配は無い。

 ジルの忠臣であるノスや、自分を慕い、ガイを嫌っているレイなら来るとは思っていた。

 それが無いという事は、やはりガイが何かをやったのだろう。

 ジルも魔王城から出る事が出来ず、自力でガイと勇者を倒さなければならないのだ。

「日光…ランスはこの事を知っているのか…?」

 そして勇者の手に握られているのは聖刀日光…勿論ジルはその事を知っている。

 魔人メディウサとの戦いはジルも把握していた。

 その時、メディウサは無敵結界を過信するあまりランスにあっさりと敗れた。

 カラーの呪いを受けた上に、その呪いの上からジルが更なる呪いをかけた。

 元々メディウサはランスを釣るための餌に過ぎず、その後どうなろうがジルには知った事では無かった。

「魔王は倒す。それだけです」

 ジルの言葉に日光は一本芯が通った強い声で返してくる。

 その言葉を聞き、ジルは唇を歪める。

 ランスがジルの中の『奴隷としてのジル』を取り戻すのに強い意志を持って動いているように、この日光も強い意志を持って動いているようだ。

「それに…あなたはブリティシュをどこかに飛ばした。その彼の為にも、私はあなたを倒さなければなりません」

 ジルに挑んできたのはガイと勇者だけでなかった。

 1人の人間も居たのだが、早々にジルはその人間を何処かへと飛ばしてしまった。

 本当はこの勇者を飛ばそうと思ったが、その人間は勇者を庇って異次元へと飛ばされていった。

「…愚かな。いかに強くとも…我は不死身。倒す事など出来ぬ」

 ジルの強烈な風がガイたちを襲う。

「チッ!」

 ガイは舌打ちをしてその風を何とか打ち消す。

 ジルの言う通り、ガイ達はジルに対して有効な攻撃を与えられずにいた。

 無敵結界が作用しているので、ジルからの攻撃はある程度無敵結界が防いではくれる。

 こちらの攻撃はカオスで通るはずなのだが、問題は魔王のその圧倒的な耐久力だった。

 普通に攻撃をしてもジルは回復魔法を使って直ぐに傷を癒す。

 魔王なので無尽蔵の魔力があるようで、魔力切れは正直期待できそうになかった。

「ガイ! 一度退こう! このままじゃあきりがない!」

「…そうだな。どうせ魔王はこの城から出る事は出来ない。だったら時間をかけてでも魔王を殺す…!」

 勇者の言葉にガイはあっさりと撤退していく。

 そういう判断力の高さもガイの強さの一部だ。

 激しい争いがあったとは思えない程の静寂にジルは思わずため息をつく。

「…ガイ、一体何が起きている…?」

 ガイには自分の持っている絶対命令権が発動していない。

 自分が魔王の権力を行使できるのは分かってはいるが、その命令権がガイには届いていない。

「我の力が弱まった…いや、それは魔王の力とは関係ない…」

 確かに大幅なパワーダウンはしてはいるが、それでも今のガイよりも強い。

 ガイが耐えているのは、自分の攻撃が魔人の持つ無敵結界の影響で弱まっているからだ。

「異次元への…ゲートも開けぬか」

 ジルは何とか異界へとゲートを開こうとするが、それはあっさりと弾かれてしまう。

 何かしら強力な力が働いており、異世界への干渉が出来なくなっている。

(何かしらの…アイテムか)

 ジルは完全に油断をしていた。

 確かに弱まったと言っても、魔王としての権力が有るなら問題無いと思っていた。

 自分はランスが決断するまで永遠に魔王で居られる―――そう思っていた。

 戯れと、強大な魔力を持つガイの力を封じるために魔人にしたが、まさかそれが仇になるとは想像もしていない。

 そしてここまで自分に本心を隠し続けてきたガイに対しての苛立ちが募っていく。

(ガイ…許さぬ。が…面倒だ…)

 ジルはたった一人、魔王の玉座に座るしか無かった。

「ランス…」

 今は隣に居ない一人の人間の存在が無性に大きくなっていた。

 

 

 

「ガイ、どうする。今のままじゃジリ貧じゃぞ」

「分かっている。弱くなっているとはいえ、それでも圧倒的だ。まさかここまでとは思っていなかった」

 魔王城の外、ガイが用意している隠れ家にガイと勇者が顔を突き合わせていた。

「日光お前、まさか手を抜いてないだろうな」

「抜いていません。ですが、やはり私の力は相性に左右されます」

「それは儂だって同じじゃ。まさかあのガキじゃ無いと力が出せないとか言うんじゃ無いだろうな」

「私の力を100%…いえ、120%以上引き出せるとしたら、それはランス殿でしょう。そこだけは曲げられないです」

 日光の言葉にガイは不機嫌そうな態度を隠そうともしない。

「まさかお前があんな奴がタイプだったとはな! お堅い奴ほどああいう奴に惹かれるのかねー!」

「………」

 カオスの言葉に日光は何も言い返せなかった。

 カオスの言って居る事は決して間違ってはいない…ただ、カオスの言って居る事が全て正しい訳でも無い。

 カオスはランスの事を知らないから好きに言っているが、ランスは実際には優しい所も有るし、ピンチの時には非常に頼りになる。

 その判断力は決してブリティシュにも劣らない…いや、相手に勝つという点では明らかにブリティシュを上回っているだろう。

 どんな卑劣な手だろうが、どんな汚い手だろうが絶対に勝たなければいけない時は躊躇なく選ぶことが出来る。

 それもまた上に立つ者としての素質だと日光は思っていた。

「僕じゃあ日光さんを使いこなせませんか…?」

「…申し訳ありません。ですが、剣の腕でもランス殿はあなたよりも遥かに強い。あなたが弱いというのではなく、ランス殿が強すぎるんです」

「メディウサを呪い、他の魔人を殺した人間か」

 ガイはカオス達の会話からランスという人間の事も聞いていた。

(利用は出来る…だが問題なのは、その人間がこの世界に居ない事か)

 ガイは冷静に、そして冷徹に今の状況を判断していた。

 確かに魔王を倒すには決定力が足りない。

 だが、ガイの見立てではこのままでも魔王を倒す事は出来るとは思っている。

 別に倒せなくとも封印という形を取っても良いのだ。

 そのために人間とも密かに協力し、AL教団の秘宝と呼ばれる道具も人間から渡された。

 カラーも表立っては協力はしてくれはしなかったが、有用なアイテムを幾つか貰う事が出来た。

 それらを全て使い、策略を練った上でガイはジルに挑んでいるのだ。

「とにかく他の魔人の干渉が無いってのは楽だな。ノスやケッセルリンク辺りが居たら面倒だったぞい」

「…そうでしょうね」

 魔人ノスと魔人ケッセルリンク、魔人四天王にして魔人の中でも最強格の二人。

 ノスは魔王ジルの忠臣として、この戦いに気づけば何に置いても自分達を殺しに来るはずだ。

 そしてケッセルリンクもランスのためにジルを守るだろう。

 その魔人がジル側につけば流石のガイでも危ないだろう。

 それをさせないために、ガイはこれまで色々と準備をして来たのだ。

(ケッセルリンクが居ないのは…幸運ですね)

 ケッセルリンクが自分と同じように巻き込まれたのは知っている。

 自分達と違った場所に落ちたという事は、恐らくはランスと一緒なのだろう。

(問題なのはランス殿…ランス殿は必ず、そしてここぞというタイミングで現れるでしょう)

 あの男は天に愛されていると言ってもよく、自分の女のピンチには必ずかけつける男だ。

 そうなれば間違いなく自分達と敵対する事になってしまう。

(願わくば…私達が魔王を倒すまで現れないで下さい…)

 カオスの指摘通り、ランスこそが自分の運命の相手だ。

 こうして自分が性行為無しに刀になれるのも、ランスと共に手に入れたアイテムのおかげだ。

 しかし、だからこそ分かってしまう、自分とランスの相性の良さに。

 それは体だけでなく、聖刀としての相性もまさに最高だった。

 今この少年に握られてはいるが、それでも日光の性能を完全に生かせるかと言えばNOだろう。

 この少年は弱い訳では無い…むしろ自分が知る人類の中でも最強クラスだ。

 それでも、日光にはどうしても相性というものが出てしまう。

 そればかりは日光にもどうしようもなく、時間が解決してくれる問題でも無い。

「日光、お前は本当に全力なのか?」

「ええ、全力です。私もまたカオスと同じです。私の出せる全力がここまでという事です」

 ガイの指摘に日光は答える。

 それだけでガイは全てを察したようだ。

 ガイは人間だった頃からカオスを使っているので、その危険性も知っている。

 同時にカオスのやる気次第でどれ程の力を発揮するかという事も。

 カオスはとんでもなくスケベで、その力の源はエロパワー…つまりは持ち手がエロいとそれだけ力を発揮できる。

 ガイは二重人格ではあるが、その人格の一つがもの凄いスケベだ。

 エロい事も大好きなので、その部分からカオスとの相性が良いのだろう。

(日光も同じという事は…仕方ないか)

 ガイ自身はカオスとの相性の方が良いと自覚している。

 日光も使えなくは無いだろうが、ガイは刀を使った事が無いので使い慣れたカオスで戦う方が良い。

「まあいい…ジルは魔王城から数年は出られない。そこで決着をつける」

「年単位とは随分と長くなるの。まあ相手は魔王だから当然か」

「絶対に倒します」

「…そうですね」

 ガイの目は何処までも決意の炎が揺らめいていた。

 

 

 異世界―――

「む…」

「どうした怪獣王子」

 突然怪訝な声を出した怪獣王にランスは声をかける。

「いえ…声が聞こえましたぎゃ。それも懐かしい声ぎゃ…」

 怪獣王子が耳を澄ますと、その声は確かに聞き覚えのある声だった。

 それは怪獣王子の国が危機に陥っていた時、異世界の勇者を召喚する儀式をしていた時だ。

 その時に自分達と交信した存在の声と全く同じだった。

「この声は…ハウセスナース殿ですぎゃ!」

「…あいつか」

 怪獣王子の声にランスは微妙な顔をする。

 ランスにとってはハウセスナースはすぐ泣いてうるさい存在だった。

 かなり滅茶苦茶な奴で、ランスが声をかけても全く靡かなかった。

 ベゼルアイも居たので、とりあえず放置はしていたのだが、まさかこの場所でその名前を聞くとは思わなかった。

「む…来ますぎゃ!」

「む」

 怪獣王女の声と共に、ジルが開いたような異世界へのゲートが開く。

 そしてそこから出てきたのは―――

「あ、レン」

「ようやく見つけた! ランス!」

 エンジェルナイトにして、ランスを護衛する任務を請け負っている(尚そんな命令は出ていない)レンだった。

 レンはランスが無事だった事に安堵する。

「レン、お前どうやってこの世界に来た?」

 スラルが不思議そうな顔をする。

「話は後、それよりも…見つけたわ!」

 スラルの声を無視し、レンはランス達では無い誰かに声をかける。

「ランス、スラル、お町、掴まって! って怪獣王子はどうすれば…」

 怪獣王子は異世界の存在、流石に連れていく事は出来ないが、この世界に置いて行くというのもどうかと思う。

 そもそもレンは何でこんな所に怪獣王子が? と首を傾げるのだが時間が無い。

「まあいいや! とにかく、元の世界に戻るわよ! この世界は危険なんだから!」

 レンはランス達を掴むと、

「これでいいわ! 回収して!」

 再び誰かに声をかける。

「あ、ちょっと待て!」

 ランスは走ると大きなクリスタルを持ってくる。

 相当に重いのだろうが、ランスは躊躇わずにそれを持って来た。

「…何が起きたってのよ」

 それを見てレンは眉を顰めるが、時間が無いのでケッセルリンクが入っているクリスタルも掴む。

 するとランス達はゲートに呑まれ消えていった。

 それと同時にこの世界の虹色の鉱石が蠢き、この世界を埋め尽くしていったのだが、それはランス達は知る事は無かった。

 

 

 ガイとジルの戦いはついに4年目に突入した。

 ガイの強さはやはり恐ろしく、あの手この手を使って確実にジルを追い詰めていった。

 ジル自身、まさかここまで魔人相手に苦戦するとは思っていなかった。

 だが、現実にジルはガイと勇者によってジワジワと押されていた。

「終わりにするぞ、ジル」

「………」

 ガイの言葉にジルは何も答えない。

 ガイが用意したアイテムがどんな効果を持っているのか知らないが、それは4年間もジルを押さえつけていた。

 いくら5%程とは言え、魔王である自分の魔力をここまで押さえつけるアイテムが有るとは思ってもいなかった。

 そしてガイ達はここで決着をつけると言わんばかりに攻撃を仕掛けてきた。

 それでもやはりジルは強かったが…ガイもまた異常と言える強さだった。

 魔法レベルは落ちてもガイは禁術を何の制限もなく使う事が出来る。

 その手の知識が豊富で、ジルはその対処に追われると同時に勇者の相手もしなければならなかった。

 勇者は勇者でその成長速度が異常だった。

 同じ手は二度通用しないと言わんばかりの行動力にはジルも辟易していた。

「終わりだ…ジル!」

 成長した勇者が日光を片手にジルを睨む。

 ジルも知らないが、ガイと勇者も実は少し急がなければいけない理由があった。

 それが勇者の期限…それが明日なのだ。

 つまりは今日倒しきらねば、勇者はその特殊能力を失ってしまう。

 そうなれば流石にジルを相手にするのは厳しくなる。

 そこで何度も何度も攻撃をしかけ、ジルを少しずつ疲労させていった。

 そして今日そのチャンスが来たのだ。

「行けるぞガイ! 今こそジルをぶっ殺せ!」

 カオスも今こそ魔王を倒せると確信し、その強い殺意をジルに向ける。

「ジル…これで終わりです」

 日光は平静を装ってジルに声をかける。

 このままいけばランスが来る前に全てが終わる…そしてランスが現れたら、自分はどんな事でも受け入れるつもりだった。

 それでランスの気が済むのなら、自分が奴隷という存在なっても良い…それ程の覚悟を日光は持っていた。

「ガイ…」

 ジルの体からは血が流れ、憎々し気にガイを睨む。

 ガイはそんな事は知らないと言わんばかりに必殺技を放つ。

「ラグナロク!」

 ガイの放つ最強の必殺技をジルは何とか防御をする。

 その腕が悲鳴を上げ、枯渇しつつある魔力がジルの体に疲労となって現れる。

 とうとう耐えられず、ジルは吹き飛ばされる。

 そしてジルの目に入ったのは、日光を構えて自分に向かってくる勇者の姿だった。

(ラン…ス…)

 ジルが最後に思ったのは、魔王である自分をジルとして見たただ一人の人間だった。

 ジルが覚悟を決めた時―――刃と刃がぶつかる音が響く。

「おいお前。俺様の女に何しやがる」

 そこには一人の男が勇者の刀を受け止めていた。

「ラン…ス…?」

「がはははは! 正義の味方ランス様参上! 俺様の女を虐める奴は誰だろうとぶっ殺す!」




4年間のガイとジルの戦争ですが、こういう設定にしました
そうしないとノスが4年も動かなった理由がどうしても分からなくて…
03での会話からノスはカオスを持ったガイと一度も争っていないので、
こういう風にしないといけないかなあと思いました

なので戦争内容も大幅にカットせざるを得ない状況に
普通に考えたらガイVSそれ以外の魔人という形にならないとおかしいし…
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