ランスは勇者との戦いでイラついていた。
「こいつ…面倒くさいぞ」
「まだまだ!」
勇者は強い…それは何となくだが分かった。
ただ、純粋な剣術に関してはランスの方が上なのは明確だ。
それなのに、ランスは勇者に対して決定打を放てずにいた。
対する勇者もランスに対して全く有効な一撃を与える事が出来ない。
完全な膠着状態に陥っていた。
「ランス殿! 退いて下さい!」
「黙れ! 俺様の女に手を出す奴はぶっ殺す!」
日光の叫びにもランスは全く退く様子は見せない。
それが日光には何よりも辛い事だった。
だが、それでも日光にはやらなければいけないのだ。
魔王を倒し、この人類の悪夢を終わらせる、それが日光の望みなのだから。
「行くぞ!」
勇者は日光を片手にランスに果敢に斬りかかる。
ランスはその攻撃を防ぐのだが、勇者の攻撃がどんどんと重くなっていく。
まるでランスの動きを見切っているかのようにランスの動きを捉える。
しかし、ランスもランスでやはり凄まじい剣術の持ち主だ。
勇者の攻撃は決してランスには届かない。
ランスは本来防御を考えるような人間では無いが、今のランスは話は別だ。
ランスは『必要ならば』やるタイプの人間だ。
ランスが認めていた仲間がおらず、道具の新調も出来ず、LP期に当たり前にある道具すらも無い。
なので自衛のために防御の技を身に着ける必要があった。
その技術はLV3技能によって更なる強化をされ、まさに伝説に名を残す技を持っていた。
しかし―――それは勇者も同じだった。
勇者の持つ特殊技能はランスにも当然有効で、ランスの技を見切りつつあった。
勿論LV3技能をそう簡単に見切る事は出来ないが、それでも勇者の力は恐ろしいものだった。
何しろ勇者とは神によってそういう存在として作られているからだ。
条件次第では魔人すらも大きく上回り、魔王ですらも倒す事も可能というまさに人類の希望ともなりえる力だ。
だが―――その条件は恐ろしいもので、人類の数が減らなければその力を発揮できない。
だからこそ、ジルは勇者の力を封じるために人間牧場を作ったのだが、その真意を知る者は誰も居ない。
しかし、そんなものは無くてもやはり勇者は恐ろしい力を秘めているのは事実だ。
更にこの勇者はレベルも90と非常に高い。
それはガイがジルに対抗する手段として、勇者を鍛えたからだ。
ガイはジルを倒すためにあらゆる手を尽くしていると言っても良い。
それくらいしなければ魔王を倒す事など不可能だからだ。
「見える…!」
勇者はランスの攻撃を見切っている。
それが勇者の特殊能力であり、あの勇者アリオスがランスと引き分けた理由でもある。
ランスですら引き分けが精一杯であった存在…それが勇者なのだ。
「ぐっ…」
勇者の攻撃はどんどんと激しくなり、ランスも防御に回る時間が多くなる。
まるでランスの攻撃を完全に読んでいるかの攻撃で、それは異常としか言えなかった。
リックのように手数が多い訳でも無いのに、面倒くさい事この上ない。
それでいて一撃が非常に鋭く、重い。
ランスとしてはスラル達が援護をしてくれる事を期待しているのだが、スラル達も余裕が無い様だ。
勇者の剣をランスは避け続けるが、
「あっ」
足元にあった瓦礫に足を取られ、バランスを崩してしまう。
勇者はそれを見逃さず、ランスに向かって攻撃を仕掛ける。
「ランス殿…!」
しかし、勇者の攻撃が日光の声で鈍る。
その声は敵である男に対して放たれた言葉。
本当にこの男を心配している声に、勇者の心が揺らいだ。
(日光さん…どうして)
勇者は日光に憧れの感情を向けていた。
勇者にとっては日光はヒロインになるかもしれないと思っていたくらいだ。
勇者の特性として、異性にもてるという能力がある。
しかし、その効果は日光には通用しなかった。
それは勇者にとっては残念だったが、まさかそれが今になってこんな形で自分を惑わすとは思っても居なかった。
勇者は日光という大人の女性に憧れていたのだ。
その見事なスタイル、そして芯の強さ…全てが勇者の理想の女性と言えた。
だが、その淡い思いは目の前に居る魔王を味方する男によって砕かれた。
その事で勇者は動揺し、ランスへの攻撃の手が鈍った。
そしてそれを見逃すランスでは無かった。
「ランスキーーーーック!!」
「えっ!?」
バランスを崩しながらもランスは勇者の足元を狙って蹴りを放つ。
その蹴りは勇者の膝に当たり、勇者はバランスを崩す。
「アーンドランスニー!」
ランスはそのまま起き上がる動作で勇者の腹に強烈な膝蹴りを放つ。
まともにランスの膝を受けた勇者はそのまま血を吐いて吹き飛ばされる。
「いい加減にさっさと死ね!」
ランスは追撃を仕掛けるが、それでも勇者は立ち上がった。
ランスの剣を日光で弾き、そのままランスの首を狙って刀を振るう。
ランスも刀を使って日光による一撃を防ぐ。
そのままの体勢でランスは剣を振るう。
勇者はランスから距離を取る。
(まともにぶつかったらやっぱり危ない…本当に人間か!?)
勇者はランスの強さに驚愕するしかない。
長い期間魔王ジルと戦ってきたのだが、目の前の人間もまた常軌を逸した強さを持っている。
一度受けた技なら見切る事が出来る勇者の特性があまり役に立っていない。
といよりも剣術としては無茶苦茶で、勇者から見ればランスはただ力任せで剣を振るっているようにしか見えないのだ。
それなのに一撃で自分を殺せるであろう一撃が躊躇なく飛んでくる。
攻め込んでいるはずなのに、何時の間にか立場が逆転しているのも珍しくない。
勇者が攻めあぐねて居るのを見て、ランスは一気に決着をつけるべく必殺技の態勢を取る。
「ラーンスあたたたたーーーーっく!!!」
ランスは飛び上がると、両手で黒い剣を持って勇者に向かって勢いよく振り下ろす。
(単純だが恐ろしい攻撃…! でも、ここを乗り切れば倒せる!)
この男の必殺技は一度受けている。
勇者は相手の技を一度受ければそれを見切る事が出来る。
流石にここまで大振りの必殺技ならば、勇者としては見切る事は出来る。
勇者は最小限の動きで相手にカウンターを入れるべく距離を取ろうとし―――
「ダメです! もっと下がって!」
「え?」
日光の声を共に、目の前の男の剣から紅蓮の炎が沸き上がるのが見えた。
「死、ねーーーーーーーーーーっ!!!」
日光はランスの剣が普通の剣では無い事を知っていた。
だが、それを勇者に伝える暇が無かった。
そう、ランスの剣には魔人ハウゼルの力が宿っており、炎を蓄積してそれを放つ事が出来る。
それがランスアタックと共に放たれるのであれば、ランスの必殺技を紙一重で避けるのは自殺行為なのだ。
勇者の疑問と判断は遅く、勇者はランスアタックを紙一重で避けてしまった。
そして、勇者はランスの剣から放たれる炎…それこそハウゼルのタワーファイヤー並みの炎に巻き込まれてた。
勇者は悲鳴を上げる事すら出来ずに炎に包まれる。
「とどめだ!」
ランスは炎に包まれた勇者に止めを刺すべく、すぐさま居合斬りの態勢をとる。
勇者には逃れる手段は無い―――はずだった。
突然天井が崩落し、その一部がランスに振って来る。
流石のランスもそれには驚き、慌てて崩落した天井を避ける。
凄まじい土煙を上げ、ランスの視界が閉ざされる。
ランスは一応警戒をするが、それ以上の動きは無かった。
とどめを刺せなかったのはランスとしても不覚だが、あの炎をまともに受けて生きて居られる人間が居るとは思えない。
(うぐぐ…使わされたぞ)
それでも、ランスとしては切り札であるハウゼルの炎を使い切ってしまった。
スラルからの付与も使い切り、今のランスの剣は普通の剣になってしまった。
勿論それだけでも恐ろしい程強いのだが、人間相手に切り札を使わされたのはランスにとっては屈辱だった。
だが、直ぐに頭を切り替えてもう一体の脅威であるガイに向かって足を向けた。
「あ…ぐ…」
「大丈夫ですか!?」
土煙の向こうで勇者は空気を求めてもがいていた。
今の一撃で勇者は一度死んだと思ったが、ガイに渡されていたハニージッポの効果で何とか命を取り留めていた。
もし、あの時天井の崩落が無く、ランスが止めを刺してこれば…流石に危なかったかもしれない。
今も十分に危ないのだが、それでも命があっただけでも有難いと言うべきだった。
「体が…痛い…」
ハニージッポの効果で命は助かったが、それでも全身を魔人級の炎が包んだのだ。
いくら勇者であっても無事では済まなかった。
「大変ですね。諦めますか?」
そこに現れたのは勇者の従者であるコーラだった。
「流石にイレギュラーがあり過ぎですしね。上もどういう魂胆なのやら」
コーラはランス達を見てため息をつく。
コーラの正体はコーラスという神ではあるが、地上に居る事が殆どなので天界の情報については疎かった。
「流石にアレとやり合うのは止めた方がいいですよ。天然からよくあんなのが生まれたな…」
コーラはランスを見て呟く。
それだけランスという存在は異質であると同時に、コーラスよりも上の神が動いているのも分かる。
なのでコーラとしてはランスと関わるのは止めておきたかった。
幸いにもあの男は積極的に勇者と戦おうという姿勢は見せていない。
恐らくは今回が完全にイレギュラーなのだろう。
「いいや…諦める訳にはいかない…」
勇者は火傷で痛む体に鞭をうって立ち上がろうとするが、体に力が入らない。
全身を襲った火傷のせいで体の痛みが止まらないのだ。
「はぁ…仕方ありませんね。本来はこういうのはいけないんですけど…イレギュラーがあったならまあいいでしょう」
コーラはアイテムを取り出す。
「これを使ってください。今回一度きりだけどまあ大丈夫でしょう」
上が色々と動いているのならば、自分も少しくらい動いても良いだろう。
「これは…?」
「時間を戻す砂時計です。これを使えば自分の体の時間を戻せます。どんな怪我でも怪我の前に戻ります。まあ使用するのには、その時間と同じ時間だけ砂時計を動かす必要が有りますが。まあ3分あればいいでしょう。あの魔人なら3分は余裕で持つでしょうし」
「…そんな便利なアイテムがあるのですか」
コーラの言葉に日光は少し恨めし気な声を出す。
こんな便利なアイテムがあるなら、もっと早く出してくれても良かったと思った。
「今回だけです。むしろ使うつもりは無かったですからね。こっちにも色々と事情があるんです」
コーラはそのまま砂時計を3分にセットする。
「使いきりのアイテムですから今回だけです。じゃあ後は頑張ってください」
コーラはそう言ったまま再び姿を消した。
「3分…」
勇者はコーラの言葉を信じ、物陰で3分間を過ぎるのをじっと待っていた。
一方のスラル達は、やはりガイの猛攻に押され気味だった。
「全く…! 本当に厄介な!」
「強いぎゃ…!」
レンと怪獣王子はガイの攻撃を防いでいるが、やはりガイは規格外の存在だった。
ただの炎の矢ですらもファイヤーレーザー級の力が有り、その威力はまさに異常とも言える。
LV3技能が無いので火炎流石弾といった魔法は使ってこないが、もし使われていればあっさりと崩壊させられていただろう。
一方のガイも中々粘る事に顔を歪める。
(ただの女では無かったか…始末しておくべきだったか)
このレンという女はこちらに対して全くの無関心だった。
ガイも自分の邪魔になりさえしなければいい考えて放置していたが、まさかそれがこんな結果を招くとは思っていなかった。
(だがヤツに任せる訳にもいかんな)
ガイは二重人格で有り、もう一つの人格に魔人の強制力を押し付けている。
なのでガイはこうして魔王の持つ絶対命令権に反抗できるのだ。
もう一つの人格ならばもっと効率のよい手段を思い浮かぶかもしれないが、相手が相手だけに変わるのは危険だ。
何しろジルとの戦いではもう一つの人格に入れ替わった結果、魔人にさせられてしまったのだから。
(しかし天使か…?)
レンと呼ばれた女の背中には純白の透き通った翼が生えている。
ガイもカラーからはその生態を聞かされていたが、どうやら目の前の存在は元カラーという訳では無い様だ。
だとすると考えられるのは神の存在だ。
ガイも人間だった頃にはレベル神という存在が専属でついており、神とはそういう存在なのだと理解していた。
しかし、こうして敵になるとは思っていなかった。
しかも相手は相当な防御技術の持ち主で有り、ガイですらも決定打を打てずにいた。
(防具と魔法の複合技術の防御か…厄介だな)
一対一ならばガイも勝てる自信はある。
しかし、問題となるのはその他の存在だ。
緑色をしたモンスター風の存在は普通に強い。
純粋に攻撃力と防御力が高く、タフネスも非常に高い。
獣の耳をした女も普通の人間では無い様で、異常なまでの力でこちらを攻撃し、時には防御技術を使う。
これはJAPANの技術だと思ったが確信は無い。
分かっているのは相手が只者では無いという事だ。
そしてガイとしては急ぎたい理由が出来てしまった。
それはジルがクリスタルに封印されていたケッセルリンクを出そうとしている所だ。
何故ケッセルリンクがそんな状況なのかは分からないが、ケッセルリンクが出てくればガイとしては非常に厄介だ。
自分よりも劣るのは間違い無いが、それでも魔人四天王の一人で夜の女王という異名を持つ魔人。
直接戦った事は無いので力は分からないが、ガイとしても強敵が増えるのは面倒だった。
しかも今の時間は夜で、魔人ケッセルリンクが本気を出せる時間帯だ。
撤退も視野に入れたいが、ガイとしては目の前の者達が非常に不気味だった。
特に黒い剣の剣士…その存在はガイとしても警戒が必要だった。
剣の腕では自分をも上回るだけでなく、何よりも何をしてくるか分からない不気味さがあった。
しいて言えばもう一人の自分に似ているのかもしれないが、恐らくはその自分以上に『勝つ』ためならば何でもやってくる男だ。
だが、ガイにも時間制限がある。
もう4年間も魔王城を隔離しているが、何時これが終わるか分からない。
そうなれば間違いなく魔人ノスや魔人レイが来るだろう。
流石にノスが相手となるとガイも厳しくなってしまう。
何しろ魔王をこの城から出せば最後、全ての魔人がガイを襲って来るからだ。
だからこそ、ここで決着を付けなければならない。
そう思っていた時、ガイすらもその方向を見ざるを得ない凄まじい炎が放たれる。
見れば凄まじい炎が勇者を包み込んだ。
男―――ランスが何かをやったのだろうが、それが何なのかはガイは分からなかった。
ランスは勇者に止めを刺そうとするが、突如として瓦礫が落ちて来て止めを刺す事が出来なくなる。
そしてランスは躊躇う事無く自分目がけて襲い掛かってくる。
(勇者は死なない…ならば…)
ガイはこの程度で勇者が死ぬはずが無いと確信している。
そして今勇者が大人しくしているという事は、何かしらの思惑が有るのだろう。
ガイはそれを察し、ランスに向けて剣を向けるのだった。
「がはははは! あの馬鹿は片付けたぞ! 次はお前だ!」
ランスはガイに剣を突き付ける。
「…意外と言えば意外だな。まあいい…どうせお前達の行為は無意味に終わる」
ガイは悠然とランスに向けて剣を向ける。
その余裕の態度がランスには気に入らない。
「フン、余裕なのも今の内だ。さっさと死ねーーー!」
ランスはそのままガイに向かって駆ける。
それに合わせて怪獣王子も共に駆けて行く。
「無茶はするんじゃないわよ!」
レンはランスと怪獣王子に防御魔法をかける。
この魔人が相手だと長くは持たないが、それでもかけない理由は無い。
それと同時にレンもガイへと向かって行く。
「ランスが戻ったか…ジル、まだ時間がかかるか」
「…ああ」
ジルがかけた封印は魔王の力が100%あった時のもの。
力を失った自分ではどうしても解除に時間がかかる。
スラルも手伝ってはいるが、そう簡単にいくものではない。
「ジル…あの男は何故お前に逆らえる」
「…我の力が…弱まったからだと言っていた。真相は…知らない」
ガイはジルに対して反抗してきた理由は、ジルの支配が弱まったからだと言っていた。
だが、ジルとしてはそれを素直に受け入れる事は出来なかった。
何しろ相手はあのガイなのだ、特別な事をしたという事も考えられる。
しかしそれを考える余裕は無い。
「スラル…話がある…」
「何だ」
ジルはスラルの耳元で囁く。
それを聞いてスラルの目が大きく見開かれる。
「ジル! お前!」
「…それが…一番いい…我にも…ランスにも」
「…何がお前をそこまで変えた。魔王ジル」
スラルはジルを見て複雑な顔をする。
魔王とはこの世界の絶対的な支配者であり、自分も無敵結界を手に入れた時からそうだった。
だが…ジルがスラルに話した事はその魔王のやり方としてはあり得ない。
勿論その知識や技能は魔王の力があってのものなのだが。
「さあ…な。だが…我の中にあるジル…そして…あの男…ジルの指輪が…そうなのだろう」
「運命の女か…お前もジルである以上、それに引っ張られる運命なのかもしれないな」
「スラル…お前は…この話を…受けるか?」
ジルの話した事は正直無茶苦茶だ。
失敗する可能性もある…というよりも、この状況ではその可能性の方が高い。
「お前は…あの魔人と戦ってた時から考えていたのか?」
スラルの言葉にジルは首を振る。
「ランスが…本当の意味で…我と話してから。そして…あの指輪があったからだ…」
「そうか…ジルの手に入れたアイテムはまさに彼女の運命を変えるものだったのだな。いや、ランスとの出会いがそうか」
もしジルがランスと出会ってなかったどうなっていただろうか。
勿論そんな話は机上の空論、もう考えても意味の無い事だ。
ランスと出会った事でやはりジルは救われたのだろう。
「受けよう。我もランスと出会った事で救われた。それに…ジルが魔王になったのは我が原因だろうからな」
スラルは自嘲する。
ジルが魔王になったのは間違いなく自分が原因だと思っている。
その原因は分からないが確信はしている。
だからこそ…自分がジルをランスに返さなければならないのだ。
「スラル…貴様は…この世界の…全てを知りたいか?」
ジルの突然の言葉にスラルは目を丸くするが、直ぐにその顔に笑みを浮かべる。
「いらないな。全てを知ったら楽しくないだろう。知らない事があるからこそ、知る事が楽しいんだ」
そんなスラルの言葉にジルはその口を僅かに釣り上げる。
「そう…か。なら、いい」
そして二人はケッセルリンクの封印を解くべく魔力を放出し続けていた。
「ライトニングレーザー」
「まだまだ!」
ガイの放った強烈な魔法をレンは防ぐ。
魔法は必中だが、必ずしも狙った本人に当たるとは限らない。
レンはランスとガイの射線上に入り、ガイから放たれる魔法を防いでいた。
ランスはその隙を見てガイに接近する。
ランスとガイの剣がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
腕力や体力で上回るガイと、純粋な剣術でガイを圧倒できるランス。
そんな二人だからこそ完全な互角の世界が繰り広げられていた。
「いい加減にとっとと死ね!」
「そんな気は無い。お前こそ消えるがいい」
ランスとガイは睨みあい、互いに譲らぬ姿勢を向ける。
ガイは膂力でランスの剣を押すが、ランスはその力に逆らわずに受け流す。
ガイはバランスを崩すという事は無いが、凄まじい速度で放たれた居合に肩を斬られる。
無敵結界こそ斬られたが、魔人としての耐久力、そして再生能力は健在だった。
「また再生しやがったか」
「それが魔人という存在だ」
ランスはガイにダメージを与えても、直ぐに再生されることに腹が立ってくる。
そしてガイの手の中にあるカオスに対しても腹が立ってくる。
カオスがあれば魔人相手にも有効的なダメージを与えられるのだが、そのカオスが相手の手の中にある。
「おいガイ。何時までも時間はかけてはいられんぞ」
「分かっている。だが…中々やる」
ガイとしても急いでランス達を排除したいのだが、中々そういう訳にもいかない。
しかし、ガイには勝算があるのもまた事実だ。
その証拠に、ランスとレンはまだ体力も十分ありそうだが、ここまでガイの攻撃を防ぎ続けていた怪獣王子とお町はそうはいかなかった。
「大丈夫?」
「まだ死なないぎゃ…ですが体が…」
レンは膝立ちの怪獣王子に回復魔法をかける。
だが、流石にダメージが大きい事と、傷は治せても体力までは回復は出来ないので怪獣王子もこれ以上の戦闘は厳しいかもしれなかった。
お町は体にこそ傷は少ないが、既に大量の魔力を消費しており、精神力が限界に近づいていた。
ガイはそれを見て内心で笑う。
これも全てガイの想定通りであり、このまま十分に押し切れる自信もある。
「人間。貴様の行動は全ては無意味だ。今退くのならば見逃そう」
「偉そうに俺様を見下してんじゃねー!」
ランスは激昂してガイに斬りかかる。
相変わらず凄まじい攻撃だが、ランスの攻撃はガイの魔法バリアに防がれる。
「ランス!」
「お前が一番厄介だな…天使よ」
ガイにとって一番の脅威はランスでは無く、目の前の天使だ。
だが、ガイは十分な程に対策を練ってきていた。
こういう邪魔が入る事も想定しており、そのための道具も用意してきたのだ。
「フン!」
ガイは懐からロープを取り出すと、そこに魔力を流す。
するとロープが勝手に動き出し、凄まじい速度でレンに向かって行く。
「え?」
レンは嫌な予感がし、そのロープから逃れようとするが、
「デビルビーム」
その前にガイの魔法が炸裂する。
魔法はレンによって防がれるが、その動きによってロープから逃れる事が出来なかった。
「ちょ、ちょっと何よ!?」
ロープはひとりでにレンの体を縛り付ける。
するとレンは自分の体から力が抜けるのが分かる。
「こ、これは…!?」
「神の属性を持つ者の力を抑えるロープ…力は長続きはしないが、それで十分だ」
「こ、この…」
レンはロープを引きちぎろうとするが、不思議な程に力が入らない。
「後はお前だけだ」
ガイはそのままランスに斬りかかる。
ランスはガイの剣を防ぎ、再び二人は睨みあう。
ガイは技術でランスとは争わず、そのまま魔人の圧倒的な身体能力でランスを押していく。
ランスも技術でならば対抗できるが、何しろガイは魔人最強の上、剣LV2を持つ剣の使い手だ。
いくらランスがLV3技能を有していても、それだけでガイを上回る事は不可能だった。
「終わりだ!」
ガイはランスの剣を力づくで弾き飛ばす。
ランスの剣は宙を舞った後で地面に突き刺さる。
ガイは畳みかけるようにランスに攻撃を仕掛ける。
ランスは刀でそれを防ぐが、流石に魔人の腕力には敵わずに吹き飛ばされる。
「スノーレーザー!」
直撃しても死にはしない、ガイはそれを考えてランスに魔法を放った。
だが―――ガイは再び己の目を見開く結果になった。
ランスが刀を振るうと、ガイの放った魔法がランスの刀に吸い込まれるように消滅した。
(! 炎だけでなく氷もだと)
炎の魔法がランスの剣に吸収されたのを見てガイはランスに対して炎の魔法を使わなかった。
だからこその氷の魔法だったのだが、まさか氷の魔法も防がれるとは思わなかった。
「そのまま返してやるわ! ランスアタタタターーーーーック!」
ランスはそのまま刀を使ってランスアタックを放つ。
ガイとは距離が離れているが関係無かった。
「な、なんじゃと!?」
「これは…」
ガイの視界がランスアタックの闘気と圧倒的な冷気が覆う。
自分の放った魔法がそのまま返ってきたような感覚にガイは一瞬動きを止める。
だが―――その一瞬をランスは待っていた。
「死ね!」
ガイは凄まじい殺気と共に放たれるランスの斬撃をカオスを使って防ぐ。
右手で握られいるランスの刀がカオスに当たり火花を散らす。
そしてランスの左手にあるのはガイが弾き飛ばしたはずの黒い剣。
「!」
とても拾いに行く時間など無かったはずなのに、その手には確かに黒い剣が握られていた。
だがそれでも―――ガイは笑った。
ランスはその顔を見ても攻撃の手を止めなかった。
それがガイの横腹に突き刺さると思った時―――ランスの剣が弾かれる。
「何だと!?」
ランスの剣を弾いたのは―――ランスが倒したはずの勇者だった。
その体には何の傷も無く、先程の一撃がまるで効いていなかったかのようにランスの剣を防いだのだ。
「これで…終わりだ!」
勇者の手にある日光がランスの剣を弾き飛ばし、そのままランスの胸目がけて日光が向かって来る。
(あ、いかん)
ランスは防ごうとするが体勢が悪すぎた。
右手はガイに集中していたため、今から防御に回す事は出来ない。
それでもランスは体を捻ろうとするが、それでも間に合わないのが嫌でも理解出来た。
流石のランスにも嫌な汗が流れた時―――その日光の切っ先が突如として闇に包まれる。
「え」
ランス周囲を闇が覆ったかと思うと、その手には何の感触も伝わってこない。
そしてその結果を見てガイの顔色が苦いものに変わる。
「…何の真似だ、とは言うまい。だが、まさかお前がそうするとはな」
「私は私にとって当然の事をしているだけだ。むしろ何の真似だ、という言葉は私が出すべき言葉だろう」
「そうだな…しかしお前が人間を助けるとはな…ケッセルリンク」
そこには夜の女王と称される、魔人四天王の一角…その中でも最強格とされる魔人が立っていた。