ガイはジルを倒すためにあらゆる手を用意した。
まずはジル本人を隔離する必要があった。
幸いにもジルはかなりの放浪癖があるので、数年いなくなっても何時もの事かで流される。
だが、流石にジルとの戦いが起きればそれに気づかない奴は居ない。
特にやっかいなのがジルの忠臣である魔人ノスだった。
ガイとしても流石にジルとノスを同時に相手にするのは厳しいので、まずは魔人の介入を防ぐ事を第一に考えた。
それが魔王城と外界を隔離する事だった。
バランスブレイカーと呼ばれるアイテムにガイの力を利用し、数年は持つであろうバリアを作成した。
万が一他の魔人が乱入して来ても良いようにあらゆる手を考えた。
その内の一つが魔人ケッセルリンクを封印するネックレスだった。
ガイはカラーにも協力を取り付け、一つの要望を出した結果がこのネックレスだった。
カラー達も自分達を守ってくれているケッセルリンクに危害を加えるのを嫌がり断って来た。
だが、ガイはカラー達を説き伏せた。
『俺もケッセルリンクとは戦いたくはない。だが、魔王の命令があればケッセルリンクの意志は関係無い。その場合俺はケッセルリンクを殺さずにジルと戦う事は出来ない。そうならないためにも、一時的にケッセルリンクを封じる手段が欲しい』
その言葉は覿面で、カラー達は悩みつつもこのアイテムを自分に渡してくれた。
ガイとしてはそれは本音で有り、魔人四天王でありながらも多彩な戦闘能力を持つとされるケッセルリンクとまともにやり合うのは避けたかった。
勿論使わなければ返すという方向で話を着けた。
その結果もあって、こうしてケッセルリンクを何とか無効化する事に成功した。
(…上手く行ったか。流石にお前とジルを同時に相手する事は難しいからな)
ケッセルリンクに関しては正直介入してくるか怪しかったが、それでも手段を用意したのは正解だった。
勿論殺した訳では無いので、その封印だって解く事が出来る。
1000年と言ったが、実際には自力でもっと早く封印を解く事が出来るだろう。
そんな事からガイは一瞬だが気を抜いてしまった。
だからこそ―――脇腹に感じる鋭い痛みに声が全く出せなかった。
自分は魔王を倒すためにあらゆる手段を用意したつもりだった。
だが―――まさかガイが一番軽視していた…いや、対策すらも取っていなかった人間がここまでやって来るとは想像もしていなかった。
「ぐ…貴様…!」
「俺様の女に手を出す奴は殺す!」
ランスはそのまま手にした刀―――日光を捻って傷口を大きく広げようとする。
焼けつくような痛みにガイは顔をこわばらせるが、それでもやはりガイは魔人筆頭に相応しい存在だった。
すぐさまランスに対して魔法を放ち距離を取る。
「貴様…勇者はどうした」
「勇者? ああ、あの雑魚の事か。そいつならどっかに落ちてったぞ」
「…日光、お前は」
「…申し訳ありません。何の言葉も返す事は出来ません」
ガイの言葉に日光は消えそうな声で返すしかない。
日光自身ガイを裏切る結果になってしまった事は非常に心苦しい。
(私はあなたよりランス殿を信じてしまったのです)
日光は先程の事を思い返していた。
魔人ケッセルリンクが魔人ガイと戦っている頃、ランスもまた勇者と戦っていた。
勇者は強い―――それは紛れも無い事実だ。
ランスだっていくら相手が気に入らなくても、強い奴は一定の評価はする。
勿論その評価は基本的には悪意に満ちており、どんな手を使っても殺すという躊躇いの無さもある。
これまでの戦いでランスはこの相手が強いのは理解していた。
ランスが強いと認めているリックさえも上回る剣技を持っているが、それよりも何よりも奇妙な点がある。
自分の剣を見切っている…と錯覚される程にランスの剣を避けてくる事だ。
そんな事はあのケッセルリンクにすら不可能で、魔人であってもランスの剣を見切るなんて事は出来ないはずだった。
「いい加減に死ね!」
「くっ…ここで負ける訳にはいかないんだ!」
そしてランスにとっては虫唾が走るような事を言いながら攻撃を仕掛けてくる。
これもまたランスには気に入らない。
「何故魔王を庇うんです!? 魔王は僕達人類の敵です!」
「そんなのは知った事では無いわ! 俺様の女を傷つける奴は殺す!」
「…魔王に洗脳されているとでも言うのか?」
ランスの言葉に勇者は苦虫を噛み潰したように言う。
勇者にとっては魔王を助ける人類が居る事すら信じられない。
まさに狂人と言っても過言では無いだろう。
しかし、実際にそんな人間が自分の前に存在していた。
しかも日光の持ち主だと言っており、実際に日光をその手に握って見せた。
その事が勇者を困惑させていた。
「ランス殿は洗脳などされていません。アレが素です」
「素でアレ何ですか!?」
日光の言葉に勇者は驚く。
では一体何故この男は魔王を庇うのか…そして何故ここまでの強さを持っているのか。
余計に勇者の頭は混乱してしまった。
だが、そんな勇者の混乱などお構いなしにランスの攻撃は鋭くなっていく。
一撃一撃がまさに必殺の一撃であり、尚且つ異常なまでに攻撃が見切り辛い。
いくら勇者の特性が有ると言っても、相手は剣LV3の言葉通りの怪物なのだ。
そして勇者はジルの勇者対策によってその真の力を発揮する事は出来ない。
本来の勇者の武器であるエクスソードすらも解放されていないのだ。
それを差し引いてもやはり目の前の男は異常だった。
「くっ!」
勇者はランスから放たれた鋭い斬撃を何とか防ぐ。
異常なまでに鋭く、まともに喰らえば腕が落とされる程の威力だ。
そして今度は力任せに振るわれる剣を避ける。
刀を使った繊細な攻撃をしながら、剣を使った暴力的な攻撃をしてくる。
その二面性とも言える攻撃を前には勇者であっても見切る事は難しかった。
「まるで異なる剣士二人と戦っているようだ…」
「その認識で合っていると思います。ですが、ランス殿にはまだ切り札も有ります」
「…あの炎と氷だね。アレをどう防ぐか」
勇者が最大限に警戒しているのはランスの剣だ。
ランスの必殺技そのものは躱せたが、その剣から放たれる炎に勇者は全身を焼かれてしまった。
それだけでは死なないのは勇者だが、代わりにコーラによってレアアイテムを使わされてしまった。
そして同じアイテムはもう無いともコーラは言っていた。
ならばあの技を二度も喰らう訳にはいかない。
あの技が来ると分かっていればそれだけでもやり方はある、勇者の戦い方は慎重だった。
「問題が有るとしたら時間か…」
勇者は冷や汗を流す。
勇者に残された時間はあと僅か、それを過ぎれは勇者はその力を失ってしまう。
レベルは下がるような事は無いが、勇者の持っている特性は全て失われてしまう。
そして勇者の特性無しで相手を出来るような相手ではない。
それを考えるとどうしても時間はかけられない。
「日光さん、僕は彼を殺さずに無力化する事は出来ない。それでも良いですか」
「それは…」
勇者の言葉に日光は言葉を放つことが出来ない。
日光もそれを考えていない訳では無かったが、いざ言われてしまうとどう答えていいか分からなくなる。
日光にとってはランスは命の恩人で有り、同時に大切な人でもある。
今の日光が居るのもランス達のおかげなのだ。
だが、もし自分がランスを殺してしまうのだとしたら…それを思うと日光の心に影が差す。
こうなった以上どうしようもない、そう思っていても日光には躊躇いが出てしまう。
そんな心に影響が出たのか、日光から覇気が無くなるのを勇者は気づく。
同時にこの美女がこの男をどれだけ大切に思っているのか、それが勇者には分かってしまった。
だがもう時間が無いのだ…ここでジルを倒せなければ、もしかしたら魔王は逃げてしまうかもしれない。
ガイの作った結界も永遠では無いと本人も言っていた。
「行きます!」
勇者は日光の言葉を待たずに駆けだす。
例え相手が日光の想い人であろうとも、勇者にはやらなければならないのだ。
人類の解放―――即ち魔王を倒して自由をもたらす。
あの魔人筆頭ガイが協力してくれているのだから、こんなチャンスは二度と訪れないのは明らかだ。
だからこそ勇者はやらなければならないのだ。
だが―――そんな勇者の思いは無常にも強大かつ凶悪な壁に阻まれている。
ランスはまさに異常だった。
(彼は二刀流の剣士じゃない…それだったらどんなに良かったか)
もしこれが二刀流の剣士ならば勇者もこれほど苦労していないだろう。
それこそ勇者の技能、そして彼自身の才能で苦戦はしても倒せる。
しかし、目の前の男はそのどれにも当てはまらない、奇妙な技としか言えなかった。
一見隙だらけだが、そこを狙うと手痛い反撃が来る。
(彼が手伝ってくれたらどれだけ良かったか…)
もし彼が共に戦ってくれたらもっと早く魔王を倒せていただろう。
だが、現実はそうはいかない。
彼は敵であり、実際に魔王を守っている。
彼が正気なのか狂気なのかは分からないが、倒さなければならない敵なのだ。
それなのだが―――この男は強すぎた。
二人の刀が何度目かの火花を散らしす。
相変わらずの衝撃に日光の刀身が悲鳴を上げる。
やはりランスの剣の腕は凄まじい上に、持っている刀も非常に強い。
自分の持ち手である勇者も確かに強いのだが、日光にもカオスにも相性という物がある。
カオスは誰にでも持てるが、相性が悪いと持ち上げる事すら叶わぬ上に、所持者の心を壊してしまう危険な剣となっている。
本人のテンションによって切味も変わり、今魔王と戦っている時こそカオスは絶好調なのだろう。
対して自分は契約をする事で持つ事が出来る武器だ。
契約内容はセックスであり、それは女性に対しても有効だ。
だが、ランスと共に手に入れた運命の女のアイテムが有れば、契約をしなくても誰でも使う事が出来る。
そしてランスが持ち手ならば、日光本人が『聖刀日光』を持つ事で魔人と戦う事が出来るのだ。
日光はその特性があれば問題無いと思っていたのだが、実は自分もカオスと同じ特性を持っている事に気づいてしまった。
カオス同様に日光にも相性が有り、相性が悪いとカオスと同じく切味が落ちてしまう。
そして心の在り方も問題であり、今のように日光本人の心が鈍れば聖刀日光にも影響が出てしまうのだ。
その影響が今まさに目の前にあるのだ。
(カオスに比べて私は…)
日光も魔王を倒すと言っておきながら、いざ目の前にランスが居ると決心が鈍りそうになる。
カオスならば全く迷わずに魔人と魔王を倒す事を選ぶだろう。
カオスにはその覚悟が有り、それこそが自分の生き甲斐と言い切るほどだ。
なまじ自分は人の姿になれるという事、そして人と肌を重ねた事…それが自分の心に影響を強く与えていた。
そして皮肉にもランスこそが日光にとって最も相性の良い相手だった。
だが、運命はそれを許さずこうして今敵対していた。
(運命の女…その運命に逆らった報いなのでしょうか)
自分はランスと共に居る事で最大限の力を発揮できる。
しかし、今それを成す事が出来ない事に日光はもどかしさを感じているに気づいてしまった。
「くっ…」
そんな日光の迷いが示す様に、勇者がランスの力に押されていく。
技量はランスの方が上だが、勇者の特性で何とか食らいついてた。
しかし、それ以外の部分で少しづつ差が出てきたのだ。
それが武器の差だった。
徐々に勇者はランスに対して防戦一方になっていく。
ランスの手は二本しかないのに、それでも凄まじい速度で攻撃を切り替えて攻めてくる。
そしてランスにはそれを成し得る体力もあった。
ランス自身は自覚は無いだろうが、ランスは体力においても普通の人間よりも遥かに高い。
あのパットンには及ばないが、実際にはランスは体力でも優れているのだ。
確かに勇者は強いし、勇者の特性だって非常に強力だ。
しかし、目の前に居るのはそれに比肩する怪物だった。
「フン、お前はムカつくから絶対殺す」
ランスの純粋で、そして子供のような言葉だがその殺意は本物だ。
この男にとっては自分は本当に邪魔者でしか無いのだろうと勇者は唇を噛む。
何とかこの男を倒したいが、焦りからどうしても攻撃が単調になっている。
そしてそんな動きでランスを止める事は出来ない。
「落ち着いて下さい。冷静にならなければランス殿には勝てません!」
「で、でも…」
「何をごちゃごちゃ言っておる! お前が俺に勝つなんぞ100万年早いわ!」
ランスの剣が日光とぶつかり合うが、その威力に負けて勇者が吹き飛ばされる。
ランスはその勇者を追って追撃を仕掛ける。
勇者は何とか態勢を整えるが、ランスの重くて速い一撃には腕が悲鳴を上げる。
しかしそれでも勇者は勇者だった。
次に来るランスの攻撃を完全に予測していた。
それこそが勇者の持つ相手の攻撃を見切る事が出来る特性だった。
「はっ!」
ランスの持つ剣を受け流し、今度は勇者がランスに斬りかかる。
このタイミングでの反撃にはランスも驚く。
だが、ランスはこれまでにも何度も危機を乗り越えてきた人間だ。
すぐさま体を捻って勇者の剣を避ける。
今度は攻勢が逆転し、勇者がランスに斬りかかる。
「君がどうしても魔王を助けるというのなら、僕は君を斬る!」
「フン! 魔王なんぞどうでもいいわ! 俺様の女を殺そうとする奴は絶対に許さん!」
勇者の本気の殺意にもランスは退かない。
二人の剣がぶつかり合い激しい火花を散らす。
「魔王がどうでもいいなら何故!? それにあの魔王ジルがあなたの女!? 何を言っているか分かってるんですか!?」
「知らない奴が口出ししてくるんじゃねー! とにかく俺様の邪魔をする奴は誰であろうと許さん!」
ランスの言葉に勇者は混乱する。
(…知らない者からすればそういう言葉が出るのは当然ですね)
日光はランスとジルの関係を知っている…が、それを誰かに言う気は無い。
ランスと共に行動をし、実際にランスと共に魔人と戦ったブリティシュにだけは話したが、カオスには話さなかった。
カオスはランスとジルの関係を聞いて躊躇う性格では無いし、それに興味も無いだろう。
ある意味自分よりもシンプルに魔人を殺すという決意に溢れた性格だ。
だから当然ガイと勇者にもその事を話していない。
知らなければランスの言ってることは滅茶苦茶で、頭のおかしい人間と取られても仕方の無い事だろう。
ある意味ランスはガイよりも茨の道を進むことを選んだとも言えるのだから。
「フン!」
ランスは力任せに勇者の剣を弾き飛ばそうとする。
だが、勇者はそれを分かっていたかのようにランスの剣を力を巧みに逃がす。
そしてその動作で反撃を行うのだが、ランスもそれを完全に見切っている。
自分に当たりそうな攻撃は全て刀で防がれる。
卓越した攻撃と防御の技術…剣技に関しては完全にランスの方に分がある。
しかし、勇者には勇者にしかない特性がある。
「はあっ!」
勇者は一度受けた技を見切る事が出来る。
そして勇者の特性として、普段は不幸だがいざとなると非常に強運になる。
それがあったからこそ、先程のランスの攻撃を受けてもこれ程までに早く復帰する事が出来たのだ。
その強運もあって、勇者は今やランスと完全に互角に切り結んでいた。
「いい加減しつこいぞ!」
「それはこちらの言葉です! 人類のため…あなたを斬る!」
勇者はランスを倒す事を決意し、本気でランスを殺すべく斬りかかる。
その強さは本物で、流石のランスでもそう簡単に勇者を倒す事は出来ない。
「あ」
何度目かの斬り合いの中、ランスが瓦礫に足を取られる。
それこそ勇者の持つ絶対的な強運の一つ。
普段は不幸だかいざという時には必ず運が良くなる。
そう、幸運にも相手が瓦礫に躓き隙をさらしたのだ。
(日光さん…御免!)
勇者は心の中で日光に詫びる。
この男は日光とは知り合いのようだが、それでも人類のためには斬らなければならない相手だった。
そう、全ては人類の未来のため、勇者もまた覚悟を決めた男なのだ。
勇者の刃がランスに迫り、その心臓を貫こうとした時―――凄まじい轟音が勇者を襲った。
「うわあああああ!」
その刺激に勇者はたまらず悲鳴を上げる。
凄まじい全身の痺れにその切っ先がランスから外れてしまった。
「ランスを…やらせはせん」
ランスの後ろから勇者に電撃を放ったのはお町だった。
妖怪王であるお町もまた成長したとこでその力を飛躍的に伸ばした。
その攻撃は優れた防御力を持ったアイテムを持つ勇者であっても、完全に耐える事は出来ない程に。
「いいぞお町!」
ランスは当然その隙を見逃さない。
「ランスキーーック!!」
「うぐっ!」
カウンターとして放ったランスの強烈な蹴りが勇者に突き刺さる。
人間の蹴りではあるが、その威力は勇者をして柱まで吹き飛ばすのに十分の一撃だった。
勇者はランスの追撃に備えて痺れる腕で日光を構えるが、予想に反してランスの追撃は来なかった。
ただ、相手は何故か刀を居合斬りのように構えているだけだった。
それを見て日光が刀の中で青ざめる。
「避けて!」
「え?」
「早く!」
日光の声に勇者は疑問の声を上げる。
日光は知っている…今のランスには距離が有ろうとも関係の無い必殺技が有る事に。
そして勇者はそれを知らない…それが致命的な隙となってしまった。
「くっ!」
勇者の動きが遅れた日光の取った行動は、刀から人の姿になり勇者をランスの一撃から救う事だった。
ランスの刀が抜かれたかと思うと、勇者が立っていた頭部に当たる部分が歪んだかと思うと、勇者が体を預けていた柱の一部が見えない何かに飲み込まれたように消失する。
今のランスの技は空間をも斬り裂くというランスにしか出来ない技がある。
日光はランスの技にもデメリットがあるのを知っていたので、その技の使用を控えているのは分かっていた。
だが、流石はランス、こういう隙を見逃すはずが無かった。
「ランス殿!」
日光はランスに抗議をしようとするとが、帰って来たのはランスの強烈な蹴りだった。
「がはっ!」
ランスの蹴りが勇者の腹に突き刺さり、勇者の体がバウンドする。
そして勇者の体はガイとジルの戦いの余波で脆くなった地面に叩きつけられると、そのまま地面は崩壊して勇者は闇に飲まれていった。
「チッ。逃がしたか」
ランスは蹴りでなく剣を打ち込めば良かったかと思いつつも、もう既に勇者に対しての興味を失っていた。
そしてランスはそのまま日光に近づくと―――
「このアホが!」
「あうっ!」
割と本気の拳骨が日光の頭に突き刺さる。
その衝撃に日光は頭を押さえる。
「何で俺以外の男に使われておるんだお前は!」
「…私は聖刀です。魔人を倒せるのであればランス殿の力が無くても」
「アホか! 俺様がお前を一番上手く扱えるだろうが!」
何時もの調子で怒鳴るランスに日光は目を細める。
「む」
それは日光が本気で怒っているとランスは分かる。
だが、それはランスも同じであり、ここはランスも退く気は無い。
「私の目的は話したでしょう。魔王を倒す事…それが私が聖刀になった理由です」
「俺様も言っただろうが。ジルは必ず取り戻すと」
「…ええ、言いました。ですが、それが出来るのですか? ならば私にも私の道を行く権利が有ります」
「なるに決まってるだろうが!」
「…え?」
日光としてはランスは何も言えないはずだった。
だが、ランスはあっさりと言葉を返してきた。
「ジルを何とかする手段が見つかったと言っとるんだ。だからお前がジルを殺す理由は無い」
「それは…」
日光はランスの言葉に目を丸くする。
もしそうならば…確かに自分はランスを邪魔している事になる。
「ですが、本当にどうにか出来るのですか」
「当たり前だろうが」
あまりにも堂々と答えるランスに日光は何も言えなくなってしまう。
ただ、ランスはそんな下らない事を言い訳にする人間では無い。
これまでもどんなに不可能と言われた事でもやってきた…それがランスという男なのだ。
そしてそんな奇跡を日光は存分に味わって来ていた。
そう、ランスもまた十分すぎる程に英雄の素質、そして凄まじい強運を持って居る事に。
「…私は」
日光が何かを言おうとした時、ケッセルリンクの気配が消える。
ランスはそれを見てすぐさま彼女に何かが起こったのを察する。
「話は後だ。お前へのオシオキは後で十分してやる。それよりもとっとと俺様に力を貸せ」
自分がランスを裏切ったのはこれで2回目だ。
それでもランスという男は自分を必要としている。
「…分かりました」
そして日光は聖刀の姿となり、ランスはそれを掴むと躊躇いなくガイへと向かって行った。
「俺様の女に手を出す奴は殺す!」
日光を手にしたランスはガイの脇腹に日光を突き刺す。
ガイの表情が初めて歪み、ランスは日光を捻ってガイにダメージを与えようとするが、ガイもまた並ではない。
力任せにランスを弾き飛ばすと、その痛む傷口を押さえる。
「貴様…」
「がはははは! 真の英雄である俺様があんな奴にやられると思ったか! とにかく! お前は殺す!」
ランスは日光をガイに突き付けて何時もの様に笑った。