「こんな所に魔人がね…」
メガラスから『新たな魔人が見つかった』と報告を受けたとき、スラルは当然の如くその魔人が自分の元に来る物だと思っていた。
ほとんど知能の無い魔人ならばともかく、今回見つかったのはハニーの魔人だという。
「それもハニーがこんな所にね…」
正直、スラルはハニーに対してはあまりいい感情を持っていない。
モンスターであるとは思うが、不思議と自分の命令が一切通らない。
一切の魔法が通用せず、ハニーフラッシュという絶対に回避できない攻撃を繰り出してくる。
その強さもまた千差万別、中でも強力なハニーはそれこそ現在の最上級モンスターにも匹敵する。
そしてその王であるハニーキング…出来れば思い出したくも無い。
魔王の魔力すらきかず、何度倒しても復活する様はまさに悪夢そのものだった。
一応は相手の方から退いた形になるが、あのハニーの王はまさに底が知れない。
そしてそんなハニー出身の魔人が居る、と聞けばスラルも会わずにはいられなかった。
「それにしてもこんな所にハニーがいるのかしら…」
遥か地の底、通称奈落と呼ばれる所にその魔人は居るという。
ハニーはかなりの社会性を持った存在であり、王であるハニーキングの下である程度統制されている。
所謂はぐれハニーと呼ばれる存在が、魔軍に加入したりしているだけだ。
魔軍の敵ではないが、味方でも無い…そんな存在だ。
「それなりに整った場所ね…」
進んでいくと、そこには朽ちた祭壇の上に一体のハニーが佇んでいた。
(これは…)
その威圧感には流石のスラルも息を呑む。
自分は魔王であり、負けるという事は万が一にも無いが、目の前の魔人からは非常に強大な気配が感じられる。
「あなたがますぞえね」
スラルの問に魔人ますぞえは何も答えない。
まるで魔王であるスラルすらも映っていないように佇んでいるだけだ。
「聞いているのかしら。あなたがますぞえよね!」
今度は少し大きめに声を出しているが、それでもますぞえは全くといって良いほど反応しない。
その態度にスラルは少し腹が立つが、最強である自分が魔人に対して大人気ないと自分を落ち着ける。
「あなたが魔王様ですか?」
その時ますぞえの後ろから一体のハニーが出てくる。
ピンク色の体に頭部に花をつけている事から、恐らくは女性ではないのかと思うが、ハニーにそれほど詳しくは無いスラルにはそれが判断つかなかった。
「そうだ。お前は何者だ」
「私はハニ子と申します。ますぞえ様のお側に置かせていただいている、一介のハニーにすぎませんわ」
「そ、そうか」
突然のハニーの出現にスラルは面食らうが、こうして話が通じる存在が出てきたのであれば話は早い。
「ところでスラル様、ますぞえ様に何用でしょうか?」
「話は簡単だ。我に従え」
魔人は魔王の命令には絶対服従…だから簡単な事だと思っていた。
いかなる存在だろうとも、魔人・魔物であれば魔王の命令には逆らう事は出来ない。
これは神が作り出した絶対的なルール…のはずだった。
「そうですか。ますぞえ様はこれから300年後に世界を滅ぼすから、それまで待てとの事です」
「…は?」
ハニ子の言葉にスラルの目が点になる。
「いや、お前は魔人だろう。魔人ならば魔王に従え」
スラルの言葉にますぞえは何も反応しない。
ただ、その場に座っているだけだ。
「まあ…朗報ですわ、スラル様。ますぞえ様は機嫌が良いそうなので、200年後にして下さるそうです」
「…いや、お前は何を言っているんだ」
魔王の言葉にも従わないますぞえに対し、スラルも眉を顰める。
「言葉通りですわ。ますぞえ様は今はまだ動く時では無いとの事です」
「…そ、そうか」
スラルも思わず間の抜けた声を出してしまう。
まさかスラルも自分の『命令』を受け付けない存在が居るとは思わなかった。
が、しかしますぞえを排除しようとは思わなかった。
妙な存在だと思ったのもあるが、ハニー種においてこんなハニーが存在しているとは思わなかったからだ。
今までのハニーの事を考えると頭が痛くなるが、このハニーは五月蝿くないだけ全然いい。
それに200年後に動くというのであれば、それはそれで問題ない。
魔王にとって200年などあっというまだ。
「分かった、ならば200年後に必ず魔王城に来い。いいな」
それだけを言ってスラルは立ち去る。
魔王が立ち去った後、
「ますぞえ様…本当に200年後に世界を滅ぼすのですか?」
「………」
ハニ子の言葉にますぞえは何も答えない。
だが、それでもハニ子は笑う。
「あら…そうですか。全てはますぞえ様の思うがままに…」
スラルが地上に戻ったとき、共に来ていたメガラスがどこか遠くを見ていた。
「どうした、メガラス」
メガラスは非常に無口なため、スラルでも意思疎通には苦労をする。
何しろスラルですら数えるほどしかメガラスの声を聞いた事が無いのだ。
そのメガラスの視線を追うようにスラルは視線を向けると、そこには火を上げる魔王の城の姿があった。
「…は?」
思わずスラルは間の抜けた声を上げる。
炎を上げているのはどう見ても自分の住まう城だからだ。
スラルはしばらく呆然としてると、魔王とは思えぬ悲鳴を上げながら走り出した。
「………どういう事?」
魔王スラルは魔人達が一斉に集まっているのを見て呆然としていた。
確かにここに来るまでも酷い状況だった。
廊下は焼け爛れ、城の一部は完全に崩壊し、あちこちから煙が上がっている始末だ。
そしてさらにはこの大広間…主に魔物達が戦う闘技場において、凄まじい赤い爆発がその最足る物だった。
そしてスラルの目の前には、服の一部が焼けたカミーラ、若干血の跡が残っているガルティア、黒焦げになったケイブリス、無傷のケッセルリンク、服の一部が焼けているランス、こちらも少々血の跡が残るレダの姿があった。
「…魔人同士で争っていたのか?」
カミーラやガルティアが争ったのかと思ったが、そうでも無いようだ。
もし本気でカミーラが戦ったとしたらガルティアの傷が小さすぎる。
「何か変なピンクの物体が暴れてた。だから殺した。それだけだ」
「いや、それじゃ分からないからもっと詳しく」
当事者じゃなければ分からないランスの説明には流石のスラルも理解が出来ない。
「ケイブリス。お前が話せ」
「ええっ!?」
カミーラに振られ、ケイブリスが上擦った声を上げる。
スラルの疑惑の視線がケイブリスに向けられると、ケイブリスはごく自然に土下座の形をとる。
「ス、スラル様が持ち込んだ壷から変なヤツが出ました…その変なヤツがスラル様の集めたアイテムを吸収して暴れだしたんですぅ…」
「…は?」
ケイブリスの説明にスラルは思わず間の抜けた声を出す。
持ち込んだ壷…とは、恐らくはあの時にカラーの村から失敬してきた物だろう。
そこから変なヤツが出てきて、自分の集めたアイテムを吸収してこうまで暴れまわったとケイブリスは言っている。
スラルはケイブリス以外の魔人を見渡すが、カミーラは我関せずといった感じにスラルの方を見ていない。
ガルティアはケイブリスの言葉に頷いている事から、それは真実なのだろうと感じる。
「…で、その変なヤツは、ランスが殺したという事か?」
「ああ」
「我が集めたアイテムに世界樹の葉があったはずだが…どうやって殺した?」
「知らん。俺様の剣で斬ったら普通に死んだぞ」
スラルが集めたアイテムの中には、無条件で復活するという凄まじいバランスブレイカーのアイテムが存在していた。
勿論後で処分するつもりだったが、研究をしてみたいという欲求もあったため、すっかり処分が遅くなっていた
他にも身体能力や魔力が上がるアイテムが複数あったため、今ここに魔人とランス達でその敵を倒したのだろうとは理解した。
そしてそのアイテムも消えてしまった事も。
(わ、我の集めたアイテムが…)
コレクターの一面を持つスラルには、今まで集めたアイテムが消滅してしまった事に非常に落胆する。
しかしケイブリスの説明によると、自分が持ち帰った壷から変なヤツが出てきたとの事で、それを考えれば明らかに自分の不注意だ。
それがどんなアイテムなのか調べもせずに、無造作に宝物庫に置かせた自分のミスだ。
(ランスに拘り過ぎたが…でもこの状況を考えると、ランスがその世界樹の葉を取り込んだ相手を倒したようだし…)
スラルは一度ため息をつくと、
「ケイブリス、ガルティア…お前たちはとりあえず負傷者の手当てと城の再建の手配をしろ。ケッセルリンクは…夜になったら同じ様に頼む」
「わ、わかりました」
「おう」
「はっ」
それぞれが返事をすると、三人は即座に行動を移す。
しばらくは忙しくなってしまうが、こうも自分の城が壊れていているのは魔王の威厳が無くなってしまう。
カミーラに命令をしなかったのは、こうした事はカミーラには向いていないからだ。
「はぁ…」
スラルは思わずため息をついて、その場に座り込む。
まさか自分が魔王になって、自分の城が壊れるほどの被害を受けるとは思っても居なかった。
それも自分が持ち込んだアイテムのせいなのだら、他の誰かを責める訳にもいかない。
ただ、城がここまで壊れる被害がありながら、ランスとレダが無事だったのは喜ばしい事だった。
「…まあ気を落とすな、スラルちゃん。壊れたなら直せばいいだろ」
ランスはあまりの魔王の落ち込みように声をかける。
こうして見ると、目の前の少女があの魔王だとは信じられなかった。
「ランスゥ…」
スラルは自分が魔王である事も忘れてランスの胸に顔を埋める。
その様子を見てカミーラが唇を僅かに吊り上げる。
(所詮は小娘か…だが、気に入らんな)
カミーラはかつての魔王アベルをよく知っている。
そしてそのアベルにすら打ち勝ったドラゴンの王の事も。
それら力の世代を生きてきたカミーラにとっては、今の「人間」から突如として魔王になったスラルの事がやはり気に入らない。
だからだろうか、普段のカミーラならばしそうに無い事を考えていた。
「ランス…貴様の力、楽しませてもらった」
カミーラはランスに近づくと、半ば無理矢理スラルの体から引き剥がすようにしてランスの首を掴む。
スラルの体から引き剥がしたときは凄い力だったが、ランスの首を掴むカミーラの手は意外なほど優しい。
(カミーラ?)
スラルは怒るよりも驚きの方が先に来る。
カミーラがランスの事を気にいっている事はしってはいるが、まさか自分の前でこのような行為に出る等考えてもいなかった。
そしてそれはランスも同じ。
(うーむ、まさかカミーラがこんな行動に出てくるとは)
繰り返すが、ランスの知っているカミーラとのあまりの違いにはまだランスも慣れない。
しかし同時にチャンスだとも考える。
(こうまでカミーラが積極的なのだ。だとすれば動いた方がいいな)
前はランスはカミーラとヤりはしたが、結局は自分が楽しんでいただけだった。
勿論当時はそれで良かったが、やはり若干成長した身としては、カミーラを犯すのではなく普通にしてみたいとも思う。
「ランス…貴様に褒美をやろう。何を望む?」
「ほう…」
カミーラの言葉にランスは悩む。
確かにチャンスではあるが、選択肢を間違えれば殺される結果になってもおかしくはない。
(考えろ。こんなチャンスは滅多に無いぞ。カミーラも俺様のものにするためには…)
ランスはここで考えに考える。
以前はどうだったかを、そして今回の違いは何かを。
そして思いつく。
「うむ、決まったぞ」
「言ってみろ」
肝心のスラルはこの状況を、どこか心を躍らせながら見ていた。
カミーラが自ら動いているという状況、そして人間であるランスがどのような答えを出すのか、楽しんでいる所もあった。
「うむ…それはこうだ!」
ズキュ────ン!!!
ランスの行動はあの時のゼスの時と同じ…カミーラの唇を奪う事だった。
「むぐ!?」
流石のカミーラもランスのこの行動には目を白黒させている。
スラルはスラルで口を大きく開けて驚いていた。
レダはというと「やっぱり…」と言わんばかりにため息をついた。
(これは…唇か? 唇というのはこうも柔らかいものなのか…)
今まで散々ドラゴンに犯され、ドラゴンを生んできたが、唇と唇を合わせるというのは無論初めての事だった。
ここでランスは以前には出来なかった事をやってのける。
「ん…!?」
カミーラはさらに驚いて反射的にランスから離れようとするが、ランスはそれを逃さないというかのように、意外にも力強い腕でカミーラの頭に手を回す。
ランスはカミーラの口内に舌を侵入させ、カミーラの舌と絡ませる、いわゆるディープキスというのをしていた。
前回はただ唇を合わせただけだが、今回は舌を入れる事が出来たことにランスは内心で喜ぶ。
(うわぁ、うわぁ)
スラルは目の前で行われてる事に内心ドキドキしていた。
ただのキスであれば何も珍しくは無い…そんな事は人間ならば当たり前のようにしているからだ。
しかし目の前にいるのは、自分が魔人の候補として定めた人間であるランスと、あの高いプライドを持つドラゴンの魔人カミーラだ。
しばらくすると、ランスとカミーラの唇が離れる。
そこからは二人の唾液が糸を引き、非常に艶かしい空気がある。
「がはははは! カミーラのファーストキスを頂いてやったぞ!」
ランスは馬鹿笑いをしているのを前に、カミーラは自分の唇を押さえながらどこか呆然としていた。
そこには怒りは存在し居らず、自分に何が起こったのかを理解しかねている様子だった。
(…これは)
この行為は非常に無礼な行為だ。
本来であればカミーラは怒りで相手を殺しているほどの無礼だろう。
しかし、カミーラは何故か怒りに身を任せる気にはならなかった。
ランスはまだ馬鹿笑いを続けているとき、カミーラは動いた。
ズキュ────ン!!!
「ムグッ!?」
今度はカミーラがランスの唇を奪う。
ランスが目を白黒させるが、それは一瞬。
直ぐにカミーラに対して反撃を行う。
先程はランスにされるがままだったカミーラも、若干たどたどしくはあるがランスの舌に動きを合わせる。
さっきのキスよりも長い時間をかけ、二人の唇は離れる。
カミーラはランス達に背を向けると、そのまま飛び去っていってしまう。
「あ! おい! カミーラ!」
ランスの声に振返りもせず、カミーラはそのまま消えていく。
「まったく…何だったんだ」
せっかくのチャンスが…と、ランスは思っていたが、内心では少しだけホッとしていた。
あの時は割りとヤケクソ的な状況でカミーラの唇を奪ったが、今回どうなるかとランスとしても踏み込んだという意識はあった。
「ランスが無茶しすぎなのよ。よく殺されなかったわね」
「ほ、本当だな。ランス、勇気と蛮勇は違うぞ」
レダの言葉にスラルも頷く。
かなり驚いたせいで、若干自分の顔が赤くなっているのを自覚する。
「し、しかし我が集めたアイテムを取り込んだ存在をよく倒せたな」
「俺様にかかれば余裕だ余裕」
「ふむ…お前の持つ剣はよほど特別な力を持っているのだろうな」
スラルは問答無用でランスの剣を取り上げる。
「あ、こら」
ランスの抗議など耳に入らないといった感じで剣を見る。
(これは…)
剣の柄の部分に宝玉のような物がついているのは知っていたが、今はその部分に妙なモノが写り込んでいた。
ピンク色の体に頭部には角、黒いマントをして右手に大きな鎌を持った変な物体が見えている。
その変な物体は器用にスラル目掛けて首を傾げる動作をする。
「………」
それを見てスラルは無言でランスに剣を返す。
「どうした?」
「いや、何でもない。我は何も見なかった」
ピンク色の妙な物体…それがスラルの城を半壊させた謎の生命体である事は間違いないだろう。
あんな妙に可愛らしい奴が魔人達と戦い、自分の集めていたバランスブレイカーを吸収してここまで暴れたかと思うと少しやりきれなかった。
(…てっきりもっと威厳のある奴がやったのかと思っていた)
そして可能であれば自分の魔人に…とも少し考えたのだが、流石にアレは無い。
アレを魔人にすると間違いなく自分の威厳が失われると思った。
「とにかく…ご苦労だったな、ランス。何れ褒美を取らせよう」
「褒美をくれるなら俺様を自由にしてもらおうか」
ランスの言葉にスラルは気を取り直し、魔王として威厳のある──―と本人は思っている笑みを浮かべる。
「自由が欲しければ我の魔人となればいい。そうすればお前はこの大陸で自由に動けるぞ」
「代わりに魔王の下僕になれってんだろ。そんなの自由でも何でも無いだろ」
スラルはその言葉を聞いて少し自嘲的な笑みを浮かべる。
「…そうだな。そんなお前だから我はお前を魔人にしたいのかもな」
「そうか。でも俺はそんなのはゴメンだぞ」
「分かっている。だが、人の心は変わるものだ。我は意外と気が長い…まだまだ待つ事にしよう。メガラス、ランス達をあの場所に戻しておけ」
何時の間にか現れていたメガラスが無言で頷く。
こうしてこの戦いは終わりを遂げた…各々に色々なモノを残して。
「カミーラ様…いかがしましたか?」
カミーラは自分の城に戻ってきてからは、何時もの様に玉座に座っていたが、使徒の七星から見ても主は上の空に見えた。
何か不愉快な事があった訳ではないだろうが、それでも何かあったのかは理解できた。
魔王の城が半壊したのは七星も知っており、そこにカミーラが居合わせたのも知っている。
(恐らくはランス殿でしょうが…)
現在カミーラは人間であるランスを気に入っているが、カミーラに影響を及ぼすとなるとやはり彼しか存在しない。
どちらかというと、何かに迷い悩んでいるようにも見える。
まるで何かを始めて知ったかのような様子に加え、時おり自分の唇を指でなぞるっているのは、長年仕えている七星でも困惑している。
(…何故ここまであの時の事が気になる)
カミーラは昼間のランスの行動を全く理解出来なかった。
初めてあのような事をされたが、決して不快では無かった…もしこれをしたのがケイブリスならば、即座にミンチになっていただろう。
(確かめてみるか…)
カミーラは迷いを振り払うように立ち上がると、再びランスに会うべく翼を広げる。
「どうだ、ケッセルリンク」
「はっ…かなりの被害が出たようです。多くの魔物隊長と魔物将軍が失われたようです」
「そうか…」
ケッセルリンクの報告にスラルは頭を抑える。
魔物隊長はまだしも、貴重な魔物将軍が多数失われたのは非常に大きな損失だ。
何しろ魔軍というものは上に強力な者がいなければ直ぐに瓦解してしまうほど脆い。
個としては強力だが、集団としては今一と言わざるを得ない。
そして魔物将軍を失えば、配下の魔物達は一斉に無秩序の塊と化す。
物的被害も大きいが、何よりも今は魔王城にいる魔物の数が半数以下になるという人的被害の方が酷かった。
魔王である自分や、カミーラやガルティア、メガラスといった古参の魔人が居るからこそこの程度の被害で済んだとも言える。
「ふむ…やはり魔人・魔物を束ねる者が必要だな」
これは以前から考えていた事だが、やはり魔人の間でも序列が必要であると思っていた。
魔王である自分が居れば問題は無いが、その自分が不在の時に魔物を纏める者が必要だ。
「だが…今現在では意味の無い話か」
スラルは自嘲的な笑みを浮かべる。
今現在において、それほどの力のある魔人はカミーラくらいしか居ないのだが、そのカミーラがそもそも魔物を束ねる事にはあまり興味が無いようだ。
やろうと思えば出来るのだろうが、あの怠惰なカミーラがそんな事を進んでやるとは思えなかった。
ケイブリスは実力的にも論外だし、メガラスに至ってはそもそも会話が成立するかどうかも怪しいところだ。
ガルティアもやれない事は無いだろうが、あの性格からして誰かの上に立つのもあまり興味が無いだろう。
ケッセルリンクはカラーを束ねていただけあり、その素質や能力は十分だろうが何しろ昼間にはあまり動けないという重大な欠点がある。
長い年月を重ねていくうちに何とかなるかもしれないが、それがいつになるか分からないのでは絵に描いた餅だ。
他の魔人達も恐らくは無理だろう…そもそも、魔人は割りと好き勝手に動いている存在であり、現在魔王城にいる魔人達が特殊なのだ。
(ランスならばどうだろうか)
あの男には『この男なら何とかしてくれる』と思わせる何かが感じられる。
カリスマ、と言えばいいのだろうか…とにかく人を惹きつける何かを感じられた。
だからこそ、自分やあのカミーラ…そして口には出さないだろうが、ケッセルリンクも欲しているのだろう。
「ケッセルリンク…あの男を魔人にするには何が足りないのだと思う?」
「…恐れながら申し上げて宜しいでしょうか」
「構わぬ。言ってみよ」
ケッセルリンクは一呼吸すると、
「スラル様の本当の言葉を言わねば、ランスには届かぬと思います」
ランスと過ごした時間はそう多くは無い…が、それでもあの男の事は少しは分かる。
ランスに嘘や偽りの気持ちで接しても、恐らくは本質的な意味ではあの男を動かす事は出来ないだろう。
カラーを助けてくれたときには下心があるのは分かっていたが、それでも無理矢理事を起こすような人間でも無かった。
だからこそケッセルリンクも本音でランスと付き合ってきた。
ケッセルリンクから見れば、魔王スラルは「魔王」としてランスと接しているかもしれないが、それは「魔王」の言葉であり「スラル」の言葉では無い様に思えた。
「…ケッセルリンク」
「スラル様はランスに対して本当の事を言っていないように思えます」
ケッセルリンクの言葉にスラルは何も言い返せない。
魔王スラルは生まれながらにして「魔王」として生まれてきた。
そこにはこれまでの生も過去も何も無い。
魔物の王ではあるが、それは「魔王」という存在に傅いているのであり、スラルに傅いている訳ではない。
「本当に言ってくれるな…つい最近魔人になった者が」
「申し訳ありません。しかし、今のままではランスは自らの意思で魔人となる事は無いと思います」
「私の言葉、か」
スラルは初めて言われた言葉に天を仰ぐ。
しばらくはそうしていたスラルだったが、ケッセルリンクに向き直ると、一つ咳払いをする。
「…ありがとう、ケッセルリンク」
「スラル様…」
はにかむ様なスラルの笑みに、ケッセルリンクも笑みを返す。
こうして後に『夜の王』として語り継がれる、スラルとケッセルリンクの信頼関係が築かれた。
何とか更新…だけどやっぱり展開遅いなぁ
もうちょっと早くしたいけどそれはそれで描写が足りなくなる方が問題
早く更新出来る人は本当に尊敬します
訂正しまくりです…
いや、本当に情けないです
もっと良く確認します