ランス再び   作:メケネコ

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カミーラの想い

「なんか今日は疲れたわね…翔竜山を登った時の方が疲れたはずなんだけど」

 レダはベッドに体を投げ出す。

 若干自分も下界に染まってきたかなーと思いつつも、やはり美味しいごはんと温かい布団の魅力には抗えなかった。

 あのピンクの妙な悪魔…カミーラ、ガルティア、ケッセルリンクの3人の魔人に加え、ランスと自分を相手に戦うなど中々出来る事ではない。

(バランスブレイカーを吸収していたみたいだけど…それでも第四階級くらいはあったかもしれないわね)

 悪魔の強さは完全に階級で決定する。

 天使も一緒で実力が階級に左右されるが、今回のあの悪魔を倒せたのはやはり魔人の力が大きいだろう。

 そしてランスの剣が悪魔が取り込んでいたバランスブレイカーを無視して、相手を倒した。

(悪魔から貰った剣で悪魔を倒す…皮肉よね)

 悪魔はあくまでも契約を大事にするため、ポレロ・パタンが何か言ってくる事は無いだろう。

 しかし一人の戦士として、やはりランスの持つ剣には興味がある。

 ランスの方を見ると、ランスも自分の剣が気になるのか、その剣を見ていた。

 あまり武器には拘らない性格だと思っていたが、やはり自分の剣は気になるようだった。

「うーむ…」

「どうしたの? ランス」

 椅子に座っているランスが剣をみて難しい顔をしている。

 何か不満でもあるのかと思い、ランスの後ろからその剣を覗き見る。

「いや…いつの間にか妙なモノがな」

 ランスの視線を追うと、剣の柄についてある宝玉のような部分に妙なモノが映っていた。

 ソレは間違いなく昼間に倒した悪魔だった。

 確かにランスの一撃からピンクの煙のようなものが噴出し、それがランスの剣に吸い込まれるように消えていたのは分かっていたが、まさかランスの剣にその悪魔が映るなど奇妙この上なかった。

「…あの時の悪魔よね。でもどうしてランスの剣に?」

「俺が知るか」

 ランスは嫌そうな顔をして見ているが、突如としてその剣が震えだす。

「まーおー」

「な、なんだ!?」

「え…これは…」

 この声は確かにあの時の悪魔の声だ。

 そして剣の震えが一層強くなったかと思うと、

 ポンッ!

 と気の抜けた音と共に再び大まおーが姿を現す。

「まーお! まお!」

「うおっ! 復活しやがった! …ん?」

「このっ! って…」

 確かに大まおーは復活した…したのだが、その姿はランス達が戦っていた時の巨大な姿ではなく、非常に小さい…おおきさにして、モンスターのリスと同じくらいの大きさしかなかった。

 レダにも、あの時のような強力な魔力は感じられなった。

「まーおっ! まお! まお! まーおー! まおっ!」

「何言ってるのかしら…」

「まったくわからんな」

 その後も大まおーは身振り手振りで何かを表そうとしているが、ランスとレダにはやはりそれが分からない。

 が、そこでランスは思いついた。

「そうか、お前は俺様の部下になりたいのだな」

「まおっ!」

「えー…」

 ランスの言葉に大まおーは大きく頷く。

 その様子を見てレダは大きなため息をつく。

 ランスの言葉も大概だが、それに大きく頷く悪魔に対しても若干呆れていた。

「だがお前は強いのか?」

 その言葉に大まおーは胸(?)を張ると、その左手には先に戦ったのと同じ様に魔力が集まる。

「普通に魔法が使えるみたいね。流石に魔人達と立ち回ったときの様な力は無いみたいだけど、それでも十分ね。流石は悪魔といった所かしらね」

 レダは冷静に評価しながらも「どうして天使の私が悪魔の力を評価してるんだろ…」と頭を抱えていた。

 魔法以外にも、大まおーは口から火を吹いたり、その大鎌を使って部屋の調度品をあっさりと壊してみせる。

「うむ、フェリスと同じくらいには使えそうだな」

 ランスと契約している悪魔、フェリスと同じくらいには強そうだ。

 女で無いのは気に入らないが、この姿ならランスの邪魔者になる事も無いし、盾としても十分使えると判断する。

 それに男でもないので、視界に入れてもまったく不快じゃない。

「がはははは! 便利な下僕をゲットだ!」

「まーおー!」

 ランスの馬鹿笑いに合わせて大まおーも呑気な笑い声を上げる。

 どうやらランスの事を気に入ったらしいが、一体何がどうなっているのかレダにはさっぱり分からなかった。

「で、貴様の名前は何だ」

「まおー!」

「そうか、まおーか。ならばまおー。俺様の役に立て。役に立たないなら捨てるぞ」

「まーおっ! まおー!」

 心配要らないと言わんばかりに胸(?)を張る大まおーにレダはいよいよ頭が痛くなってくる。

「あの…ランス。これどうみても悪魔よね? 私天使なんだけど…」

「天使だろうが悪魔だろうが俺様はどっちでも構わん。今の状況では役に立つ奴は何人いても困らんからな」

「まあそうだろうけど…」

 ランスの状況は確かに良いとは言えない。

 確かに魔王の庇護下に置かれているとはいえ、周りは魔人と魔物だらけな上、この部屋を出る事すら難しい状況だ。

 たまにカミーラに付き合わされて出かける事はあれど、流石にカミーラから逃れるのは不可能だ。

 頼みのケッセルリンクも魔王の命令に逆らう事が出来ず…と、いうか彼女はランスが魔人になる事を願っているようにも見える。

(確かに戦力の選り好みをしている状況じゃないわね。私が普段の力が出せない以上、一人でランスを守るのは不可能…)

 あれから何度か天界に交信を試みているが、結果は著しくない。

 1級神ALICEに指示を仰ぐべきだと思っているが、現状はそれも難しい。

「話は変わるけど、本当にその剣って一体何なのかしらね? アイテムの効果を無効にする…という訳では無いみたいだし。凄い強いって事以外にも何か特別な秘密の力があるのかしら」

 ランスの剣を見ると、その柄の宝玉には既に大まおーの姿は見えない。

 まるでこの剣に封じられていた大まおーが自分の意思で出てきたようにも見えた。

「それともあんたが余程の大悪魔なのかしらね…あんた、何階級の悪魔なのよ」

 レダは大まおーの体を持ち上げると、意外と柔らかくてもちもちした頬を伸ばす。

「まーおー」

 大まおーは何とも思っていないようでされるがままになっている。

 本来は悪魔は消滅させなければいけない敵なのだが…何故かこの悪魔には天使である自分すらも癒すオーラが溢れているように見える。

(本来は悪魔を狩らなきゃいけないんだけど…でも不思議とこの悪魔は狩る気にはならないのよね…本当に悪魔なのかしら?)

 天使の職務を放棄している状態ではあるのだが、目の前の存在はまったく悪魔には見えない。

 そもそも「まおー!」としか喋れないようなので、これでは人間と契約する事等到底出来ないだろう。

 今はランスを守る任務があるため、現状で役に立つなら放置しようとレダは決める。

 レダが大まおーをいじっていると、部屋のドアが開かれる。

「カミーラか」

 ランスの言葉通り、部屋に入ってきたのはカミーラだった。

 カミーラは何時ものように椅子に座ると、何を言うのでもなくランスの方をただ見つめていた。

 一度だけ大まおーの方を見たが、直ぐに興味を失ったようだった。

 しばらく無言の間が続くと、それに耐えられなくなったランスが声を出す。

「で、こんな夜に何の用だ」

 ランスの問にもしばらくの間カミーラは何も答えない。

 レダにはまるで何かに迷っているような感じに見えたが、しばらくするとカミーラが口を開く。

「…ランス、お前と二人で話がしたい。レダ、お前は外せ」

「外せも何も…何処に行けっていうのよ」

「ケッセルリンクがこの前の場所で指示を出している…そこに行けばいい」

 レダは少しの間、カミーラの言葉の真意を考える。

 ランスに何か話があるのは分かるが、自分に外せというのは初めてだ。

 だが、レダにとってもこのカミーラの言葉は有難い為、素直に従うことにする。

 魔王の命令でランスに手を出す事は出来ないと聞いているので、ランスが殺される事は無いし、無理矢理に使徒にしようとも思っていないだろう。

 もしそうなら自分がいる状態でも力ずくでそうしているはずだ。

「分かったわ。しばらくうろついて来るわ」

(それに魔王の城の詳しい間取りとかを調べるチャンスだしね)

 レダも魔王城からの脱出を諦めている訳ではない。

 魔人であるカミーラが態々外に出る機会をくれたのだから、それを思う存分に生かすことにしようと、大まおーを手に持ちながら部屋を出る。

 どうやら許可さえあればこの部屋を出られるらしい事をレダは気づく。

「ムッ! 貴様!」

 部屋を出ると見張りの任務についている魔物隊長がレダに剣を向ける。

 レダはその様子にも全く慌てない。

「カミーラからの許可は出てるわよ」

「むぅ…」

 レダの言葉に魔物隊長の一人が不承不承といった感じで剣を収める。

 しかしもう一人の魔物隊長は好色な笑みを浮かべていた。

「しかし人間…中々いい体をしているな」

 元来魔物というのは人間の敵であり、人間の女が魔物に捕らわれれば犯し殺されたり、何かの実験に使われるのは珍しくない。

 この魔物隊長も魔物としては一般の考え方を持つ魔物なのだろう。

 それを見てレダは大きなため息をつく。

「なんだ、そのため息は」

「おい、やめろ!」

 今にも手を出しそうな魔物隊長Aに、魔物隊長Bが制止の声を出す。

 その魔物隊長Bの言葉を無視するようにレダに手を出そうとしたとき、魔物隊長Aの体が唐突に止まる。

 見れば魔物隊長Aの手が震えており、先程の好色な笑みは消え、今は顔にびっしりと汗をかいている。

「ため息が…何?」

 それは目の前の女に対する本能的な恐怖だった。

 レダ0774はエンジェルナイト…それも4級神レダをオリジナルとするエンジェルナイトだ。

 その強さは魔物隊長程度では止められる存在ではない。

「い、いえ…その…申し訳ありません…」

 魔物隊長はそれしか言う事が出来なかった。

 レダは「そう」と短く言うと、魔物隊長の横をすり抜ける。

 立ち去っていくレダを見ながら、二人の魔物隊長は己の冷や汗を手で拭う。

「…あいつは本当に人間なのか?」

「わからん…スラル様が直接スカウトした魔人候補との事だが…」

「あのままだと殺されていたな…」

「ああ…お前もこれに懲りたらつまらん事はやめろ。ただでさえ今は大変な時なんだ」

「わかった…」

 二人の魔物隊長はレダには手を出すまいと心から決心した。

 

 

「まったく…やっぱり魔物は魔物で下品よね。まあ人間もそんなに変わらないけど」

「まーお!」

 レダはカミーラに言われた通りに先に大まおーと戦った場所に向かって歩いていく。

 魔物兵が色々と資材を持って忙しそうに歩いており、時たま自分に不審な目を向けてくるが、やはり忙しいためか声はかけられない。

 そして大まおーの炎によって焼けている廊下を歩き、一際大きな扉を開けると、そこには魔物に色々と指示を出しているケッセルリンクの姿があった。

「ケッセルリンクー」

「レダ!? 何故お前がここに…それにその手にあるのは先程の…」

 突如として現れたレダにはケッセルリンクも驚きを隠せない。

 その手には昼に戦った、この騒動の原因となった存在を持っているというのであれば尚更だ。

「いや、カミーラがランスと二人にしてくれって」

「そうか…スラル様の命令もあるから大丈夫だとは思うが…」

 少々不安だが、まあランスならば上手くやるだろうと一先ずは自分を納得させる。

 昼間に主にアドバイスをしたつもりだが、どうやら彼女はまだランスの元には訪れてはいないようだ。

「指示通りに進めていろ」

「ハッ!」

 ケッセルリンクが手近にいた魔物将軍に指示し、二人は休憩部屋として使われている部屋に入っていく。

 幸いにも今は誰も休憩には入っていないらしい。

「しかしこうして二人で話すのも久しぶりだな」

「そうね…ケッセルリンクが魔人になってからは初めてね」

 人(実際にはエンジェルナイトだが)と魔人…本来は敵同士であり、こうして談笑する等ありえない事だ。

「不自由を強いてるな…ランスの相手は大変だろう」

「慣れてきたわよ。大きい子供みたいなものよ」

 レダの言葉にケッセルリンクは笑う。

 大きい子供、という言葉はまさにランスにぴったりな言葉だと思った。

「レダ。お前に聞きたい事がある」

「何?」

「お前も魔人になる気は無いのか?」

「私は私で理由があってね…理由は話せないけど、とにかく魔人になるつもりは無いわ」

「そうか…私個人としては残念だな」

 ケッセルリンクの本当に残念そうな声に、レダも少し申し訳なくなる。

 だが、自分の任務のためには、魔王に拘束されてしまう魔人となる訳にはいかない。

 それを考えると、無理矢理に魔人にするつもりはない今の魔王の存在は有難い。

「私も聞きたいんだけど。ケッセルリンクはランスを使徒にするつもりは無いの?」

「…スラル様がランスを魔人にと望んでいる。私が手を出す訳にはいくまいよ」

「そういう事じゃなくて。スラルがどうとかじゃなくて、ケッセルリンク本人がって話よ」

「お前も意地の悪い事を聞くな…」

 レダの問にケッセルリンクは唇を歪める。

 その顔には「分かっているくせに聞くな」と言わんばかりの表情が出ている。

「…使徒にしたいさ。もしカラーのままならば…あいつの子を生み、次の世代にカラーの未来を託していただろう。だが今の私は魔人だ…ランスが望まぬのに、使徒にする訳にはいかないさ」

「思ったよりも直情的ね…やっぱりカラーだからかしら」

 揶揄するようなレダの言葉にケッセルリンクは少し嫌そうな顔をする。

「別にカラーだからという訳では無いさ。だが…ランスと一緒に居たいと思うのは事実だ。あの男と一緒にいると心地がいい。何よりも退屈とは無縁になるだろうからな」

「確かにね。ランスと居れば絶対に退屈はしないでしょうね。それ以上にランスに振り回されるとは思うけど」

「違いない」

 ケッセルリンクとレダは笑いあう。

 一人の『人間』に対してエンジェルナイトと魔人が話すなど、これから先も無い事だろう。

「後はランスに全て任せるさ…あの男は絶対に自分の選択に後悔はしないだろう」

「そうね。ランスは死ぬまでランスなんでしょうね」

「まーおー!」

 

 

「で、俺様と二人で話したいとはどういう事だ」

 レダと大まおーが部屋を出ていくと、早速ランスはカミーラに話を切り出す。

 今まではレダなど眼中に無いといった態度だったが、今回初めてカミーラはランスと二人だけで話したいと言った。

 流石にそれにはランスも興味がある。

「…お前は何故私を恐れぬ」

「はぁ? 別に俺を殺す気も無い奴を恐れる必要なんて無いだろ」

「そういう事では無い…お前は最初から私を恐れてはいなかった。当然のように私に向かって剣を向けた。それは何故だ」

 思えば最初に会ったときは、ランスはカミーラに対して驚いてはいたが、恐怖を感じているようには見えなかった。

 実際に戦っていた時もそれは同じ…その目には死に対する恐怖が、そして諦めがまったく感じられないのがカミーラには不思議だった。

(…私ですら一時は諦めていたというのにな)

 カミーラの問にランスは少し悩む。

 ランスがカミーラを恐れなかったのは、以前に戦い勝利した事があるからというのもあるが、過去にそれ以上の存在である魔王ジルと戦った経験があるからだ。

 魔王ジルはランスでも逃げる事を考える程の恐ろしさだった。

 それと比較すれば、カミーラの方がずっとマシだった。

(…過去にカミーラと戦った事は黙っていた方がいいな。俺様が知ってるカミーラとも違う訳だしな)

「まあ俺も過去に色々あったのだ。それに俺ほど強ければ恐れるものなど何もないわ」

 ランスの過去には特に興味も無いが、ランスの強さはカミーラも認めている所だ。

 しかしだからと言って、自分に恐怖もしないとは大した度胸だと思った。

 カミーラにはそれ以上に聞きたい事があるのだ。

「お前は…何故私にあのような事をした?」

「あのような事?」

「私の唇をお前は奪った…しかし何故そのような事をしたのか私には理解できぬ」

「…お前はキスの意味も知らんのか」

「その行為に何の意味がある」

 ランスはそんなカミーラに若干呆れた顔を見せる。

 ランスが知る限り、カミーラはかなり古い魔人だと聞いている。

 それなのにキスの意味も知らない事に呆れたのだ。

(そういや前も少し呆然としてたな。今回はカミーラからされたのは俺様的に役得だったが)

「まあキスは色々と意味があるからな。挨拶だったり求愛の行動だったりな」

「…求愛、だと」

(あ、もしかして怒らせたか?)

 カミーラの声に若干不機嫌なものが混じる。

 ランスに対して不機嫌というよりも、何か別の事に苛立っているという感じだ。

「貴様は私に求愛したという訳か?」

「褒美をくれると言われたから貰っただけだぞ」

 ランスの言葉にカミーラは黙り込む。

 確かに褒美を与えると言ったが、それがまさかあのような行為だとは思っていなかったからだ。

 不快な気分では無く、唇の柔らかさへの驚き、そして口の中で動く舌に戸惑っていた。

「貴様は…私を抱きたいと思うか?」

「当たり前だろ」

 間髪入れずに繰り出されたランスの言葉にカミーラは思わず無言になる。

 自分に対して欲望の眼を向ける物は当然にいる…ケイブリスも見ないフリなどしているが、その下にある本性はカミーラも見抜いている。

 この男も確かに自分に対する欲望を隠していないが、ケイブリスや他の魔物とは違い、自分に対する畏怖や媚びるような態度が無い。

「お前は…私が『ドラゴンの王冠』と呼ばれていた事を知っているか」

「この前お前の使徒がそんな事を言ってたな。お前を巡ってドラゴンが争ってたんだろ」

「そうだ。私の意志を無視してな」

 カミーラは不愉快そうに顔を歪める。

 この過去はカミーラにとっても今でも忌々しい過去…唯一のメスであるという事で、ドラゴンの間で激しい争いが起こり、その勝者がカミーラに子供を産ませるという許しがたい行為だ。

 まだ幼いカミーラにはそれに抗うすべは無く、これまでに幾度と無く犯されてきた。

「という事はドラゴン共と戦い、勝てばお前を抱けるという事か?」

「…貴様は何を言っている」

「そういう事だろ。だったらドラゴン共と戦うのも悪くはないな!」

 ランスは楽しそうに笑う。

 何か大きな目標を見つけたかのように、その目は子供のように輝いている。

 そんなランスを見てカミーラは苦笑いを浮かべる。

 そのように単純に物事を考える事が出来るランスをある意味羨ましくさえ思う。

「…魔王アベルはドラゴンの王から私を浚い、魔人とした…そして魔王とドラゴンの間で戦争がおき…魔王は敗れた」

「は? 魔王が負けたのか?」

「そうだ。その時には無敵結界は存在しなかった。魔王アベルが敗れ、私はドラゴンの元へ連れ戻されたが…魔人となった私は既に子を産む事が出来なくなっていた。そしてドラゴンは争う理由を無くした」

「子を産めないからSEXしないとか…ドラゴンはどれだけ不能の集まりなんだ」

「不能、か。ある意味そうかもしれんな」

 ランスの言葉にカミーラは笑う。

 魔王とドラゴンの決闘もランスにはどうでもいい事なのだろう。

 それよりも、ドラゴンがカミーラを求めなくなった事の方が関心が大きいらしい。

「魔王が敗れ世界から争いが無くなった時…世界は一度滅んだ。無数の天使共が現れ、ドラゴンを絶滅寸前にまで追い込み…そして人間が生まれた」

「ふーん」

 カミーラの意外な過去にランスは興味深げに聞いている。

(こいつはもっと我侭に生きてきたと思ったが…意外と苦労しとるんだな)

 ランスの知るカミーラは残酷で、人を人と思っていない、まさに『魔人』とも言うべき存在だった。

 しかしこの時代のカミーラにはまだそれが無い。

 確かに人を見下しているようだが、以前ほどの刺々しさも無く、生気にも溢れている。

「『人』から魔王スラルが生まれ…そして今まで来ている。昔ほど退屈はしなくなったがな。特にお前だ…ランス」

「人を退屈しのぎの道具の様に言うんじゃない」

「魔人にとっては人間はその程度の価値しかないという事だ…最も、メガラスやガルティアは分からんがな。新たに魔人となったケッセルリンクはそうは思ってないだろうがな」

「少なくとも俺はお前の退屈しのぎの道具になるつもりは無いぞ」

 ランスの目には明らかな拒絶と反骨心が見て取れる。

 それを見てカミーラは笑う。

「それでいい…お前はそうで無ければ私が楽しめぬ。お前が私に跪き、使徒への哀願の声を聞くのが私の望みだ」

「断言してやる。そんな日は絶対に来ないぞ」

「ククク…人の生は短い。そしてその考えも変わりやすい。お前は必ず私の使徒になる事を望む日が来る」

 カミーラはそう言って立ち上がると、己の服に手をかける。

「うおっ!?」

 流石のランスもカミーラの行動に驚く。

 ランスの目の前には完璧すぎるカミーラの裸身がある。

 確かにランスはカミーラを犯しはしたが、その裸身は見た事が無い。

「おおっ!」

「お前は本当に恐れぬのだな…」

 早くも興奮状態にあるランスを見て、カミーラは呆れたように笑う。

「当たり前だ。全裸の女を恐れる馬鹿がどこにいる」

 とりあえずジルの事は記憶の片隅に追いやる。

「ランス…私の使徒となれば、私がお前に寵愛を与えてやろう。この体を抱く権利を与えてやる」

「あん?」

 カミーラの言葉にランスが不満そうな顔をする。

「…嫌なのか?」

「嫌ではないが…使徒と引き換えとなるとな…」

「フッ…ククク」

 本気で悩むランスを見て、カミーラは本格的に笑い出した。

 それは昔のような冷笑ではなく、本当に何か楽しい物を見たかのような純粋な笑い。

「欲望に正直かと思えば、それでも拒否をするか…ますますお前を私のモノにしたくなった」

 ランスの態度がカミーラのプライドを刺激する。

 一体この男はどのように自分に跪くのか…それを想像するだけでも愉悦に浸れる。

 カミーラは力でランスを押し倒すと、その首筋に噛み付きその血を吸う。

「俺がお前のモノになるのではない! お前が俺のモノになるのだ!」

 ランスはその僅かな痛みを跳ね除けるようにカミーラとの上下を入れ替えると、いつもの早業で全裸になる。

 今までは醜いと蔑んでいた人間の体をカミーラはじっと見る。

「ランス…お前に私を犯す勇気はあるか」

「何を馬鹿な事を。こんな美人が相手ならどんな事をしても抱くのが俺様だ」

「魔人…それもこのカミーラに対して剛毅な事だ…いいだろう、先の褒美の続きだ。私を抱く事を許そう」

「がはははは! その内お前から抱いてと言う様になるわ!」

「ククク…それは違うな。お前が私に『抱かせてくれ』と懇願するようになる」

 こうしてランスとカミーラの夜は更けていく。

 

 

 スラルはケッセルリンクの助言に従い、ランスに自分の本心を伝えるべくランスの元へ向かっていた。

 頭の中で何度もシチュエーションを考え、必ずランスを自分の魔人にすると決意を秘めていた。

「スラル様!」

 見張りに立っている魔物隊長の二人が跪く。

「ランスは部屋にいるな?」

「は、はい…しかしカミーラ様もここに」

「何? カミーラが? …まあいい、お前達は外せ」

「ハッ!」

 魔物隊長はスラルの言葉に従い、この場を離れる。

 他に誰も居ない事を確認し、深呼吸するとその扉に手をかける。

 そして少し扉が開いた所で、悩ましい女の声と、楽しそうな男の声が聞こえてくる。

(…え?)

 先程魔物隊長はカミーラがここに入ったと言っていた。

 だとすると、今部屋にいるのはランスとレダとカミーラの3人…でもまさかカミーラがランスとレダがしている所を見るという悪趣味な事をしているとは思えない。

(まさか…ね)

 スラルは音が出ないように、ひっそりとドアを開ける。

 魔王である自分が何故そんな事をしなければならないのかと思いつつも、それでも何故か音を立てるのは躊躇われた。

 そして薄く開いた扉から見えたのは…

(!!)

 そこにはスラルが一番ありえないと思っていた光景が広がっていた。

(あのカミーラが…)

 スラルが知る限りで一番プライドが高く、人間を見下していたカミーラが、ランスに組み敷かれて喘いでいる。

 2人の動きがだんだんと激しくなり、そして動かなくなる。

「!」

 そしてカミーラと一瞬視線が合ったような気がした。

 慌ててスラルは扉を閉めると、大急ぎでその場を離れる。

(もしかしてカミーラの使徒に…?)

 

 

「ん? どうしたカミーラ」

「ククッ…何でも無い。それよりももっとお前を刻み付けるがいい。ただの人間がこのカミーラの寵愛を受けられるなど無いのだからな」

「フン! これから何度でも抱いてやるわ!」

「ならば私の使徒となる事だな」

「それはことわーる!」

 ランスは再びカミーラに覆いかぶさるが、カミーラはその力でランスとの位置を入れ替える。

「おっ」

「今度は私が楽しませてもらおう…ランス、貴様も豪語するからには当然この程度で終わらぬだろう?」

「がはははは! 当たり前だ!」

 そのまま二人は朝まで体を重ねた。




カミーラは本当に難しい…デレがまったく想像出来ないキャラなんですよね
カミーラなら使徒とかに甘そうだからいけるかな
もう少しでSS期が終わるといいなぁ…

大まおーはお助けキャラ
大番長とかでもお手軽に仲間に出来る結構な強キャラですし
あと何よりもカワイイし

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