魔物兵、それは人間にとっての恐怖の象徴。
魔王ガイの時代となって100年以上経過したが、結局ジルの時代と何も変わらない。
いや、魔物による人間の殺戮が横行しているので、ジルの時代よりも酷くなっている。
今の時代はジルの時代よりも人口は減ってしまっていた。
おかげで天界のクエルプランがその処理を急ピッチで行っているのはまた別の話。
「魔物兵が500…凄い数ね」
シルキィが緊張した様子で答える。
これまでシルキィは数多の魔物を倒してきたが、流石にこの数の魔物を相手取るのは初めてだ。
「別に多く無いぞ。連中は数だけは多いからな。500なら全然少ないぞ」
「そうなの? 私、魔物将軍が魔物兵を率いているの見た事無いから…」
ランスの言葉にシルキィは目を伏せる。
「魔物将軍は魔物隊長を200体率いれる。そして魔物隊長は魔物兵を200体率いれる。だから魔物将軍は40000の魔物兵を率いれるって事よ」
「40000…想像も出来ない数ね」
レンの言葉にシルキィは唇を噛む。
流石にそんな数が襲ってくれば対処は不可能だろう。
今の時代、人間にそこまでの数を集める事は不可能に近い。
「ランス様。どうしますか?」
「どうもこうも無い。前と同じように不意打ちして魔物将軍をぶっ殺す。そしてお礼にシルキィとセックスする。簡単だ」
「…そういうのは口に出して言わない方が良いと思うわよ」
「あ、しまった。口に出してたか」
「はぁ…そういうのは隠しておいた方が良いわよ。まあランス君に言っても無駄なような気もするけど」
自分の欲望に正直すぎるランスにシルキィは呆れてしまう。
ここまで欲望に一直線な人間は珍しい。
「で、ランス。どこから不意打ちする? タイミングは任せるけど」
「おう、そんなの後ろからどかんと行くぞ。連中は俺達に気づいて無いだろ」
「そうでしょうね。今現在、魔軍が警戒をしながら進軍するなんて事は無いでしょうし」
日光も何時でも刀を抜ける態勢を取る。
「よーし、ジル。まずはお前が一発ぶちかませ。その後で一気に魔物将軍に突っ込むぞ」
「魔物将軍を狙うの? そのまま魔物兵に囲まれたらどうするの?」
「魔物将軍をぶっ殺したら魔物兵はただ逃げるだけだ。あいつらはそういう連中だ」
「そうなの? 私は知らないからランス君に任せるけど…」
シルキィはまだ魔物将軍を率いる魔物兵と戦った事は無かった。
なのでランスがそう言うのであれば、それに従う以外に無いと判断する。
「ジル、準備はいいか」
「はい。白色破壊光線で良いですか?」
「おう。思いっきりぶちかませ」
ランスの言葉にジルは詠唱を始める。
ジルの足元に魔法陣が形成され、ジルの魔力がどんどんと上がっていく事にシルキィも気づく。
(この子…ランス君の奴隷だって言ってたけど、本当に凄い強いのね…)
シルキィの周りにも魔法を使える人間は居た。
だが、その者と比べてもジルの魔力はまさに桁外れと言っても良かった。
「ランス様、行けます」
「よーし、景気よくぶちかましてやれ。レン、その後はお前がジルを守れよ」
「分かってるわよ。魔法使いを守るのがガードの役割、でしょ。私の本当の任務はアンタを守ることなんだけどね…」
ランスの言葉にレンは苦笑するしかない。
実際、あの程度の魔物兵相手ならランスならばもう守る必要は無いくらいにランスの力はずば抜けているのだ。
「行きます…白色破壊光線!」
凄まじい光が魔物兵達に向かって放たれる。
その光はこちらに全く気付いていない魔物兵を飲み込み、消滅させていく。
「よーし、行くぞ!」
「はい」
「了解」
「了解でやんす」
「分かったわ」
ランスの言葉にそれぞれ返事をすると、魔軍に向けて一直線に突っ込んでいく。
「がはははは! 魔物将軍はぶっ殺す!」
「何が起きた!?」
「魔法です! 強力な魔法が放たれました!」
突然の事に魔物将軍も困惑した様子で叫ぶ。
部下の報告に魔物将軍は驚く。
まさか今の時代で自分達に攻撃を仕掛けてくる人間…そんな馬鹿が居るなんて想像もしていなかった。
今回の事もたまたま人間の集落を見つけた部下の報告で、殺戮を楽しもうとしていた…いわばピクニック気分だったのだ。
それがまさか魔人の攻撃かと勘違いさせるくらいの魔法が放たれるなんて考えても居ない。
その一瞬が戦場で命取りだという事を魔物将軍は忘れてしまうくらい、彼等はその生を謳歌していたと言っても良かった。
だからこそ、判断が一瞬遅れた―――そしてそれは取り返しのつかない事態を招く、これは常識とも言える。
「がはははは! 死ねーーーーーっ!!」
「な、何だ!? 人間!? ぎゃああああああ!」
ランスの強烈な一撃が魔物兵に襲い掛かる。
「え」
その剣の一撃にシルキィは思わず声を出す。
それはランスの持つ剣…ロングソードよりは大きいが、バスタードソードよりは小さい、そんな剣だ。
それなのに、ランスに斬られた魔物の傷口は爆発したように弾け、その肉片が周囲の魔物兵に飛び散る。
(何あれ…剣というよりも斧で砕かれたみたい)
そしてランスのもう一本の剣…刀が目にも止まらぬ速さで魔物兵を斬る。
(うわあ…こっちも凄い)
刀で斬られた魔物は先程砕かれた一撃とは真逆で、恐ろしい程の切断面をもって魔物兵を両断する。
その相反する一撃にシルキィは息を呑む。
(凄い…剣と刀、違うのは分かるんだけどそれでここまで違うだなんて)
ランスが強いとは思っていた。
だがまさかこれ程までの強さを持っているとは思っていなかった。
「雑魚共に用は無い! 魔物将軍をぶっ殺す!」
ランスが剣を振るうたびに魔物兵が倒れていく。
ある者は肉塊に、ある者は体を真っ二つにされ。
魔物兵が全く相手になっていない、まさに圧倒的だった。
「行きます」
そしてランスと同じ様に魔物兵に斬りかかる日光の姿を見る。
(彼女も凄い…)
日光の剣の腕はランスには及ばないが、それでも十分すぎる程の剣士だ。
ランスとは剣の質が違うだけで超一流の剣士で有る事は間違いない。
その証拠に日光の一撃で魔物兵が倒されている。
「エンジェルカッター!」
レンの放った魔法が魔物兵を切刻む。
「あ、あいつ魔法使いか!? これ以上やらせるな!」
レンが魔法を放ったのを見て魔物隊長が号令をかける。
「お、おう!」
「こ、殺せ!」
魔物兵がレンに襲い掛かるが、レンはそれを見て薄く笑う。
「魔物兵程度で私を止められる訳無いでしょ」
レンは剣を振るうと魔物兵をあっさりと斬り倒す。
「この! 炎の矢!」
魔法魔物兵がレンに向かって魔法を放つが、レンはそれを特に気にする事無く魔物兵に突っ込んでいく。
「ま、魔法が効いて無い!?」
「そっちの魔力が低いだけ。魔法とはこうするものよ。光の矢」
「うぎゃあああああ!」
レンの放った光の矢が魔物兵を貫く。
初級の魔法のはずだが、レンが使えば魔物兵ですら一撃で倒すことが出来る。
「いやー、皆さん強いでやんすねえ。ま、おかげであっしは戦いでは楽でやんすけど」
ベネットはジルの側で戦況を見ていた。
「あれだけ突っ込んでいるのに、ジルさんが危なくなったらすぐに駆けつけられるんですから、どれだけの事が出来るんでしょうね、あの人」
「レンさんは本当に特別ですから…」
ベネットの言葉にジルは苦笑するしかない。
そう、彼女は本当の意味で特別なのだから人の基準に当てはめる方が間違っている。
今は自分の側から離れているのに、自分が襲われれば一瞬で駆けつける事が出来る、それくらいの技術と判断力を持ち合わせているのだ。
「じゃあ行きます。死爆!」
ジルの放った魔法が魔物部隊を吹き飛ばす。
「あ、あそこにも魔法使いが居るぞ! 何とかしろ!」
「当然気づくでやんすねえ…」
魔物隊長の指示で一部の魔物兵がこちらに向かって来る。
中には赤魔物兵も存在する。
ベネットでは流石に赤魔物兵の相手にするのは骨が折れるが、別に自分が相手を倒す必要は無いのだ。
「うおおおおお! 死ねええええ! えええええええ!?」
勢いよく突っ込んできた赤魔物兵だが、その雄叫びは悲鳴と変わる。
足元に何かが触れたかと思うと、何処からともなく棘のついたボールがその顔に直撃したのだ。
「あっしは弱いでやんすからねえ…こうして罠を仕掛けて無いとおちおち戦場にも出れないでやんすよ」
「あはは…」
ベネットの言葉にジルは曖昧に笑うしかない。
実際にはベネットは相当に強いのだが、本人はいつもこんな感じだ。
「野郎ぶっ殺してやる!」
魔物兵が怒りを露にしてベネットとジルに向かってくる。
「それはあっしのセリフだろうが! ぶっ殺してやる!」
何がベネットの琴線に触れたのか、ベネットは怒りの表情を浮かべて魔物兵に向かって行く。
そしてそのまま魔物兵の斧を避けると、そのまま魔物兵の頭に短剣を突き刺す。
「ぐへ」
どれほどの力で刺されたのか、魔物兵は一撃で倒れる。
「離れて下さい! 火爆破!」
そしてジルの放った魔法が魔物達を吹き飛ばす。
「あ、あのガキ…滅茶苦茶強いぞ!?」
「あ、あんなガキが存在してるのかよ!?」
ジルの強力過ぎる魔法を受けて魔物兵が驚愕する。
詠唱も早いし威力も高い、まさに魔法使いとして恐ろしい程の実力を持っているのだが、それがこんな少女の姿なのだから驚くのは無理はない。
「覚悟!」
そんな魔物兵の動揺をシルキィは見逃さない。
魔法具リトルを纏い、手には斧のような槍のような形状の武器を構えて魔物兵達に突っ込んでいく。
「はああああああ!」
「うげ!」
シルキィは力任せに手にした武器を魔物兵に叩きつける。
それだけで魔物兵の体がひしゃげ絶命する。
「な、何なんだこいつら!?」
「つ、強すぎる…」
突如として襲って来た人間達に魔物兵達は何も出来ずに蹴散らされる。
ランスを先頭に魔物達を蹴散らしながら進んで行く。
「邪魔だ! とっとと死ね! ランスあたたたたーーーーーーっく!!」
そしてランスの必殺の一撃がとうとう魔物兵の集団すらも吹き飛ばした。
ランスの剣から放たれた強烈な衝撃波が魔物兵の体をまるでゴミのように打ち砕いていく。
即死出来た奴はまだ幸せで、下手に生き残ってしまった魔物兵は砕けた己の体を見て絶望するしかない。
(…凄い。まるで暴力の嵐ね)
シルキィはランスの剣を暴力と揶揄したが、それは間違いなく今の人類にとって必要な暴力だった。
「私も行くよ、ランス君!」
シルキィもランスに歩調を合わせるように魔物兵に向かって行く。
シルキィの魔法具はまさに攻防一体、魔物兵の斧を弾き飛ばし、手に持った武器が斧のように重く、時には槍のように鋭く魔物兵を打ち砕いて行く。
「ほう。面白いな」
そんなシルキィを見てランスは感心する。
ランスの目から見てもシルキィは非常に強い。
(こいつはリックにも勝つかもしれんな)
ランスもその強さを認めているリック・アディスンだが、そのリックよりも強いだろう。
ランスの直感は正しく、シルキィこそこの時代においての本当の意味での英雄なのだ。
後の魔人四天王の一角の力は本物なのだ。
「ランス君! 魔物将軍が見えた!」
「とっととぶち殺すぞ」
「ええ!」
ランスとシルキィは肩を並べて魔物兵に突っ込んでいく。
「…成程、彼女もランスが見つけてきただけあって強い」
日光は肩を並べて走る二人を見て薄く笑う。
ランスという人間はつくづく強い女性を引き寄せる力があるようだ。
ただ、それは人間だけでは無いのが日光としては複雑ではある。
(今更ですね。今は魔物将軍を倒す事を優先しましょう)
日光はそう決意し、ランスとシルキィの二人の後を追って駆ける。
「この!」
途中で魔物兵が襲ってくるが、日光はそれを一太刀で斬り伏せる。
(やはり富嶽の方が魔物兵相手には有効…聖刀としては複雑な気持ちですが)
聖刀日光はやはり誰かが持ってこそ真の力を発揮する。
確かに自分でも振るえるが、どうしてもランスや勇者が持っていた時よりも威力が劣る。
複雑ではあるが、この刀もランスと共に手に入れた素晴らしい刀だ。
「この…将軍の元へは行かせんぞ!」
ランス追う日光の前に魔物隊長と複数の魔物兵が立ちふさがる。
「邪魔をするならば…斬ります」
「やらせはせん、やらせはせんぞ!」
魔物隊長は大剣を構えて日光に襲い掛かる。
「うおおおおおお!」
「殺せ、殺せ!」
その背後には青魔物兵、そして灰色魔物兵の姿が在る。
(成程…魔物隊長が私を足止めし、青魔物兵と灰色魔物兵で私を攻撃するという事ですか)
日光にとっては特に珍しくも無い攻撃方法だ。
かつてブリティシュ達と旅をしていた時に何度も戦った布陣だ。
その時はブリティシュにホ・ラガ、そしてカオスにカフェ…何れも最高の仲間達だ。
「ですが…今の私はあの時よりも強い。そして…その仲間も」
日光は魔物隊長の大剣を弾く。
確かに魔物隊長の一撃は重いが、そんなものはランスに比べれば軽すぎる。
「むぅ!」
魔物隊長は日光が自分の大剣を弾いた事に呻くが、その背後からは魔物兵達が攻撃を加えようとしているのを感じて唇を吊り上げる。
(どれだけ強かろうが、魔法と遠距離攻撃の同時には対処は出来まい! バランスを崩した所で倒す!)
魔物隊長の予想通り、日光に向かって炎の矢や氷の矢、そして青魔物兵の鞭が襲い掛かる。
勝利を確信した魔物隊長だが、その攻撃が当たる前に何者かがその攻撃を盾で防ぐ。
「無駄よ」
レンが日光の前に立ち、魔物兵達の攻撃を全て防いだのだ。
「とっととランスを追いましょ」
「あの二人なら大丈夫だと思いますけど」
二人は互いに武器を構えると、魔物兵達に突っ込んで行った。
「クッ…たかが数人の人間、何故潰せん!?」
魔物将軍は苛立ちを隠さずに叫ぶ。
奇襲されたのは分かったが、この程度なら何とかなると思っていた。
だが、現実には恐ろしい程の勢いで魔物兵が蹴散らされていく。
魔物隊長は既に死に、魔物兵の悲鳴がこちらにまで聞こえてくる。
「がはははは! 死ねーーーーーーっ!!!」
そして凄まじい衝撃波が魔物兵達を襲い、その肉片が魔物将軍の元へと飛び散って来る。
「…バケモノか!?」
その様を見て魔物将軍は顔を引きつらせるしかない。
これほどの暴力、それはまさに魔人級の力にしか見えなかった。
「お前が魔物将軍か」
そしてその人間達はついに現れた。
「き、貴様等…」
それは二人の男女…それだけだった。
たったそれだけの数で、自分の目の前に現れたのだ。
「がはははは! とっととその腹から女の子を出せ」
「どういう事? ランス君」
「魔物将軍はその腹の中に女の子を入れているのだ。優秀な奴を入れているんだと」
「…なら尚の事倒さないと」
ランスの言葉を『女の子を助ける』という勘違いをしたシルキィだが、実際にはランスは人助けと称してお礼として一発やりたいだけなのだ。
まあシルキィにはそんな事は分からないのだから、知らない方が幸せだろう。
「くっ…魔物兵! こいつらを殺せ!」
魔物将軍の指示に魔物兵達が雄叫びを上げてランス達に襲い掛かる。
「フン、雑魚共が! 俺様を止められると思うなよ!」
ランスの剛剣が魔物兵を蹴散らす。
相変わらず本当に剣で斬っているのか疑いたくなるような一撃で、魔物兵の体がバラバラに砕け散る。
「その体の中の子…解放してもらう!」
シルキィもリトルを構え、魔物達に突っ込んでいく。
シルキィの武器はその手の中で形を変え、変幻自在の武器となって効率的に魔物兵を倒していく。
「この!」
魔物兵の鞭がシルキィを襲うが、シルキィは纏ったリトルの装甲で魔物兵の攻撃を弾く。
同時にシルキィの腕から何かが発射される。
「う、うぎゃあああああ! 目が、目があああああ!」
魔物兵が目を押さえて悶える。
シルキィの武器から発射された球体が魔物兵の目を正確に打ち抜いていた。
「死ぬがいい!」
シルキィは動揺してる魔物兵に対して武器を振るう。
その小柄な体からは信じられない程の威力で、魔物兵ですら一撃で倒される程だ。
「ば、バケモノ共め!」
そして魔物将軍の前にシルキィが立つ。
魔物将軍は声を引きつらせながらも、シルキィに向かって鉄球を振るう。
シルキィはそれを斧状になっていたリトルで弾く。
そしてリトルが剣のように形が変わったかと思うと、その剣で魔物将軍の腹を傷つける。
「ぐっ!?」
「浅いか」
どうやら腹の中に居る存在を気遣うあまり、シルキィの一撃は甘くなってしまったようだ。
「ならば頭を潰す!」
リトルが再び姿を変え、斧のような形へと姿を変える。
「お、おのれ! 調子に乗るなよ! 火爆破!」
魔物将軍はシルキィに魔法を放つ。
魔物将軍の武器は鉄球だけでなく、魔法も使うことが出来る。
魔物兵を指揮するだけでなく、魔物の中でも有数の実力を持って居る事も魔物将軍の特徴なのだ。
「それが…どうした!」
シルキィは炎を受けながらも果敢に魔物将軍に向かって行く。
その目には凄まじい闘志が浮かんでおり、絶対に倒すという強い意志が伝わって来る。
「…!」
魔物将軍はその眼光に怯むが、その時シルキィから放たれた球体がその顔に直撃する。
「ぐっ!」
魔物兵より遥かに上の耐久力を持つ魔物将軍ではあるが、それでも急に襲って来た衝撃に思わず顔を押さえる。
だが魔物将軍はそのくらいでは倒れない。
そして怒りのままシルキィを攻撃しようとした時、
「あ…?」
突如として自分の体の異変に気付く。
鉄球を振るおうとした自分の手が空をきったのだ。
「な…!?」
そして目を開いて改めて気づく―――その腕が既に無い事に。
「う、腕が!? 俺の腕が!」
シルキィも同時に目を見開いてランスを見る。
(…ランス君が斬った? あの距離で?)
ランスは周囲に群がる魔物兵を相手に戦っていたはずだった。
確かにランスの意識がこちらに向いていたのは分かっていたが、一体何をしたのだろうか。
だが、この場には自分とランスしかいない…ならば、魔物将軍の腕を落としたのはランス以外に存在しない。
「おいシルキィ! とっとと止めを刺せ! あ、腹の女の子は殺すなよ」
「…分かった!」
ランスの言葉にシルキィの唇は弧を描く。
そのままリトルを斧のように変えると、そのまま魔物将軍に向かって行く。
「覚悟!」
「ま、待ってく…ぐぎゃああああ!」
シルキィはその斧を魔物将軍の頭に勢いよく叩きつける。
魔物将軍の頭が砕け、そのまま倒れる。
「し、死んだ…将軍が死んだぞ!?」
「しょ、将軍が死んだ…もうダメだ!」
「う、うわあああああああ!」
魔物将軍が死ぬと同時に、魔物兵が悲鳴を上げながら散り散りになって逃げだす。
それを見てシルキィは目を丸くしていた。
「魔物兵なんぞ頭が死ねばあんなもんだ」
ランスはそのまま魔物将軍に近づくと、その腹を剣で斬り裂く。
「さーて、ご褒美は…」
うきうき気分だったランスだったが、腹の中の女を見て微妙な顔をする。
確かに美女なのは間違いないのだが…今のジルと同じくらいの体格の少女だった。
「こいつ、ロリコンか」
ランスは詰まらなそうに少女を魔物将軍の腹から抜き出す。
「おいレン」
「分かってるわよ」
魔物将軍が死んだことでレン達がランスに合流する。
レンは意識が無い少女を介抱する。
「全く…無駄骨だったな」
「無駄骨って…魔物将軍を倒したのに?」
「フン、魔物将軍1体ぶっ殺したところで何も変わらんぞ」
シルキィのちょびっと非難の籠った視線にランスは鼻で笑う。
「そうだけど…」
ランスの言っている事は正しい…が、シルキィはやはり納得できない所もある。
「この子、どうするの?」
「どっか適当な村にでも置いておけ。ま、その後どうなるかはこいつ次第だ」
「…あまりいい未来にはならなそうだけどね」
ランスとレンの言葉にシルキィは顔を歪める。
あまりにもランスの言葉は冷たいが…同時に今の世界の現実を現していた。
この少女を助けはしたが、その未来がどうなるか誰にも分からない。
それこそランスの言う通り、この少女次第なのだが…レンの言う通りその未来が明るいかどうかは別だ。
もしかしたらこのまま死んだ方が幸せだったのかもしれない。
(…やはり魔王を何とかしないと)
シルキィは虚ろな目をしている少女を見て、より一層魔王を何とかしないといけないと決意を固めるのであった。
シルキィは人間の頃から滅茶苦茶強かったと思います
ただ戦い方は非常に迷いましたが、魔封印結界を受けて弱体化したシルキィをイメージしています