「はぁ…」
シルキィは落ち込んでいた。
魔物将軍の中に囚われていた少女を介抱し、人里へ届けた。
だがその後あの少女はどうなるか…それが想像できない程子供では無かった。
「何時までため息をついとる。お前が考えたってどうにもならんだろうが」
「私はランス君みたいに割り切れないのよ。それに…ランス君なら助けられたんじゃ無いの? こんな凄いアイテムだって持ってるし」
「アホか。そんな調子でどんどん助けてもパンクするだけだろ。俺様だってそこまで暇じゃ無いぞ」
「…そうだけどね」
シルキィはあの少女を渡した時の事を思い出す。
明らかに迷惑そうな顔をしており、シルキィの頼みだから渋々引き受けたのは明らかだった。
「はぁ…」
あの少女の事を考えるとシルキィも憂鬱になってしまう。
まず間違いなくあの少女の未来は明るくは無いだろう。
「そんなに気にするな。どうしようもないだろう」
「私はそう簡単に割り切れないから…」
ランスの言葉にもシルキィは嘆息するしかない。
「ランス様、これからどうしますか?」
「どうもこうもない。カラーの所に行く、それは変わらん」
今の時代を聞いたが、今はGI119年…あれから100年以上経過している。
それだけ時間があれば、あの魔人メディウサがカラーを襲っていてもおかしくはない。
ハウゼルが気にかけてくれているのは分かるが、それでも完全では無いのだ。
「カラーか…私、カラーには会った事無かったんだけど…皆、ベネットみたいな人達なの?」
「それは無い。あいつが異常なんだ」
シルキィの言葉をランスはバッサリと斬る。
「そう…良かった」
ベネットも悪いカラーでは無いのだが、非常に残念な存在だ。
正直アレが一般のカラーなら、カラーという存在に疑念を持たざるを得ない。
「でも魔軍が堂々と動いているとやっぱり移動が遅くなるわね。派手に動くと魔人が出て来そうだしね。特にカミーラとか」
「それはいかんな…」
レンからカミーラの名前が出た事でランスは面倒くさそうな顔をする。
「カミーラって魔人四天王のカミーラ?」
「あいつはしつこいからな…あんな奴だとは正直思わなかったぞ…」
ランスはゼスで戦ったカミーラと、今ランスを狙っているカミーラを別人と認識している。
だが、ゼスでの戦いはランスでも疲れ果て、戦闘の後でカミーラとセックスする事も出来ずにシィルと共に倒れてしまった程だ。
その後でゼスでカミーラを何度も犯したが、カミーラからは全てに対して諦めたような感情が見えた。
しかし、今ランスを狙っているカミーラは全く違う。
怠惰なのは間違い無いのだが、戦闘になると非常に楽しそうに襲い掛かって来る。
そのギャップの差が今でもランスを困惑させていた。
「しつこいって…カミーラと戦った事あるの?」
「もう何回も戦ってるぞ。その度に面倒くさい事になるからな…」
カミーラはランスに力を見せつけるために無敵結界も使わないし、空も飛ばない。
だが、それでもカミーラは圧倒的な強さを持っており、まさに魔人四天王として相応しい力だ。
「…嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさいよ」
「いや、嘘などついとらんが…まあいい、とにかく慎重に動くぞ。面倒だしな」
シルキィがランスの言葉を嘘と言うのもまあ当然だろう。
実際ランスが最後にカミーラと戦ったのはGL期だし、魔王がガイに変わった後は出会ってもいない。
ランスはLP期でも自分の功績を話してはいるが、当然それを信じる者は居ない。
あまりにも突拍子もない話だし、リーザスとゼスはその情報を隠蔽している。
リーザスはリアの個人的な感情から情報を隠しており、ゼスは魔軍侵略の経緯等を考えて情報を隠している。
ただ、ランスの功績そのものはリーザスの将軍達、ゼスの上層部も知っているのでランスは好待遇を受けられるのだ。
「面倒ですけど仕方ないですね…カラーの所にまで行くのには時間がかかりそうです」
日光の言葉にランスは面倒くさそうな顔を隠さないが、それを言ってもどうしようもない。
今出来る事をやる以外に出来る事は無いのだ。
ランスは短気ではあるが、割り切る必要がある時は割り切るだけの忍耐力も一応持っていた。
「とにかく急ぐぞ」
ランスの言葉に皆が頷く以外に無かった。
その夜―――シルキィはランスの部屋の前で顔を真っ赤にしていた。
リトルの整備をしていたら思った以上に時間がかかり、シルキィも汗だくになっていた。
この魔法ハウスには浴室が有るので、直ぐにでも体を綺麗に出来るのは有りがたい。
だが―――まさかこんな光景に遭遇するとは思っても居なかった。
それはランスと日光がセックスをしている声が漏れていたのが原因だった。
ランスは割といい加減な性格なので、部屋が少し開いている事も気にも留めていない。
日光も既に激しいセックスの虜になっているのか、艶っぽい声を隠す事もなくランスの下で喘いでいた。
(いや…まさか…ちょっと…)
性行為については勿論知っている。
だが、シルキィにはそんな事を気に掛ける暇は無かった。
常に魔物と戦い、人々をその脅威から守って来たのだ。
休める時はリトルの改造をし続け、その心は常に戦場にあったと言っても良かった。
ランス達と出会った事でようやくその心が静まったと言っても良かった。
それなのにまさかこんな光景に出くわすとは想像もしていなかった。
(エッチな人だと思ってたけど…そのまんまだったじゃない!)
自分に対してもそういう目をしていたのは気づいていたが、本当にそのまんまの人物だとは逆に驚いてしまう。
シルキィは唾を飲み込んで隙間からチラッと覗き見る。
そこにはあの日光がランスの首に手を回し、力強く抱きしめている光景があった。
それを見てシルキィは慌てて目を反らす。
そして音をたてないようにそっとその場を離れる。
浴室まで音をたてないように忍び足で入り、慌てて服を脱ぐ。
だからだろうか、その側に小さな衣服が有る事に気づかなかった。
そして扉を開けた時、
「え?」
「あ」
そこで体を洗っているジルの姿があった。
「あ、ごめんなさい。まさか先に入ってたなんて…」
同性であるジルを見てシルキィは謝るが、その目が大きく見開かれる。
「あなた、その手足…」
ジルはシルキィの視線から隠す様に体を動かす。
その様子を見てシルキィは真剣な様子でジルの体を見る。
右手の二の腕の途中から黒く変色し、右足も同じように太股の当たりから黒く変色している。
「彼にやられたの?」
シルキィの言葉にジルは慌てて首を振る。
「ち、違います! ランス様はそんな事しません!」
「でもあなた…奴隷だって」
「本当に違うんです! この手と足はランス様のせいじゃありません!」
力強く否定するジルにシルキィは頭を下げる。
「ごめんなさい…そうね、彼がそういう人なら日光さんもレンさんも一緒に居る訳が無いものね」
シルキィはジルの隣に座る。
「…話して貰う事って出来る?」
「これは…」
自分の手足を見てジルは顔を下ろす。
「ごめんなさいね。辛かったら聞かないわ」
「いえ、良いです」
ジルは自分の黒い手足に触れる。
ランスはこんな手足でも全く気にしていない、それはジルにとっての救いだ。
ただ、自分の体がこのような幼い体なので、流石にランスは手を出してこない。
ジルも幼い体に精神が引っ張られているのか、そういう気にもならない。
ランスもロリコンでは無いのでジルに手を出すなんて事も無い。
「我から説明しよう」
「え?」
突如としてジルの口調が変わった事にシルキィは困惑する。
「ジル、我がシルキィに説明する。構わないな?」
「分かりました。スラルさんに任せます」
その言葉は同じ口から発せられた事にシルキィは訳が分からなくなる。
「シルキィ・リトルレーズンと言ったな。我はスラル…今は訳あってジルの体の中に居る。そして我は事情を説明できる」
「…何が何だか分からないわね。そもそもあなたは誰?」
シルキィはジルに胡散臭そうな視線を向ける。
「まあそれは互いに浴槽の中で話そう。このままなのも何だしな」
「…そうね」
二人は浴槽の中へと入る。
(贅沢ね…こんなお風呂)
シルキィは浴槽の中で完全にリラックスをしていた。
色々と考えさせられる事も有り、自分も結構いっぱいいっぱいだったのかと思ってしまう。
「さて…まずは我だが、名前はスラル…今はジルの体の中に入っている。ランスのパートナーだ」
「パートナー? あの人の?」
「ああ。で、何が聞きたい? 一から説明するよりもそちらが聞きたい事に答えた方が早いだろう」
「………私が聞きたいのはその手と足かな」
スラルの言葉にシルキィは少し考える素振りをすると、一番聞きたい事を尋ねる事にする。
「ああ…この手と足は魔王の残り香…先代魔王ジルが人と魔を分けた結果だ」
「先代…魔王? どういう事? 確かに前の魔王はジルって名前らしいけど…今の魔王はガイでしょ?」
「ジルは間違いなく先代の魔王だ。信じる信じないはお前の勝手。どちらだろうが我は構わんからな」
「…信じられる訳無いでしょ。あまりにも現実離れしているもの」
シルキィにはやはり信じられない。
いきなり『自分は元魔王だ』と言っても信じないのは当然の事でもある。
「言っただろう、信じる信じないはお前次第、我にはどうでもいい事だ。そしてこの手足は…ジルが己を分けた結果だ」
シルキィはスラルから説明をされるが、事情が分からないし魔法にも疎い彼女には何が何だかさっぱりだ。
ただ、話を要約するとジルは前魔王ジル本人であり、魔王であるジルと人間であるジルが分かれた結果らしい。
その結果、ジルには魔王の部分が若干残ってしまった事で、その黒い手足が残ってしまったらしい。
「…正直何を言ってるかさっぱりなんだけど」
「別に理解する必要は無い。我は結果を話しただけ。別に信じなくても我もジルも構わんからな」
(うーん…嘘を言ってるようには見えないんだけど…)
これが本当だとしても内容がぶっ飛んでしまっている。
大体それが本当なら彼等は一体何歳なのか、という疑問が出てくる。
今はGI119年…ジルが魔王だったのは今から100年以上前の事だ。
だからと言って彼等が魔人やその使徒だとも思えない…信じられないのは当然だった。
「さて…我は引っ込むことにしよう。ジルの気持ちを聞きたいなら、ジル本人に聞くべきだろうからな」
「もう…スラルさんったら」
言う事だけ言って本当に引っ込んでしまったスラルに対してジルは困った顔をしていた。
そんなジルに対し、シルキィは遠慮がちに聞く。
「あの…あなた、本当に奴隷という事で納得してるの?」
「え? あ…そうですよね、奴隷といったら普通はそう思いますよね…」
奴隷というのは勿論良い言葉ではない。
シルキィの居た所にもそういう扱いをされてる者達はどうしても存在するものだ。
何とかしたいという思いもあったが、結局はどうにも出来なかった。
彼等はそうする事でしか生きていけないという事情もあるのも分かってしまったからだ。
「私…確かにランス様に買われましたけど、同時に助けられたんです」
「助けられた?」
「本来私を買う人たちは…私の事を良く思ってませんでしたから…」
「そっか…」
「仲間だと思ってた人に裏切られて…本当は多分殺されるか、それ以上に酷い目にあうはずだったんです。でも、ランス様はそんな私を救ってくれました」
ジルの顔は本当に晴れ晴れとしており、その顔を見れば確かに奴隷には見えないだろう。
「ランス様は私を何度も助けてくれました。だから…私はランス様にずっとついて行きます。それが奴隷でもいいんです」
「そうなんだ。ごめんなさいね、何も知らないで生意気な事言ってたみたいね」
「そんな事は無いですから。シルキィさんもランス様と同じように優しい人だなって…」
「うーん…ランス君が優しいという言葉には違和感があるんだけど…」
「あ、あははは…」
シルキィの言葉にジルは曖昧に笑うしかない。
ジルにとってはランスは優しい人だが、それは女に対してだけだとも知っている。
男には本当に辛辣で、それこそジルが男だったらランスは助けてはいなかっただろう。
「で、あなたは本当は大人…なのよね? スラルさんって人が言ってたけど」
「はい。今はこんな体ですけど…それを」
「ややこしい事になってるのね。信じがたいけど…」
(でも確かにジルって体の割には考え方が大人っぽいのよね…戦闘でも全然冷静だったし…)
ジルは体は子供だが、その考え方は大人だとは思う。
それは先の戦闘でも魔軍相手にも取り乱すことなく、魔法を使っていた。
「それで…大切な事を聞くけど、あなたはランス君にずっとついていくつもりなの?」
「はい。私はずっとランス様について行きます」
「躊躇わないのね…でも分かったわ」
シルキィはジルの隣に行くとその頭を撫でる。
「シルキィさん…お願いですからランス様に協力してくれませんか。ランス様…無理をしないか心配で…」
「大丈夫よ。ランス君だってそんな無謀な事はしないでしょ」
ランスはあれでいて冷静な感じがする。
かなり無茶苦茶な性格をしているのは分かるが、戦闘では結構冷静だと感じた。
「女性の事となると本当に何でもするのがランス様なので…」
「ああ…そういうタイプなんだ」
ジルの言葉にシルキィは微妙な顔をする。
「多分シルキィさんの事も…その…狙っていると思います」
「あんなに魅力的な人達がいるのに? 私、見ての通り女性としての魅力は無いと思うんだけど…」
シルキィは自分の体に触れる。
そこにはあまり起伏のない体がある。
「私から見てもシルキィさんは魅力的だと思います。ランス様もそう思っていると思いますよ」
「うーん…正直複雑というか何と言うか…」
シルキィはため息をつく。
何しろランスと日光が激しいセックスをしている所を見てしまった。
これまでのランスの言動などを考えても、ランスは間違いなく女好きだ。
そんな人物に狙われている…と聞くと、警戒するのは当然だろう。
「あはははは…」
そんなシルキィに対し、ジルは曖昧な笑みを浮かべる以外に無かった。
「で、どうだ。ベネット」
「大丈夫でやんす。少々結界が複雑にはなっていやすが、基本的にカラーならば分かるようになってやすから」
少々時間がかかったが、ランス達はようやくカラーの森へと入る事が出来た。
ベネットが居るので問題無くペンシルカウに入れると思っていたが、そこでベネットは顔を顰めた。
どうやら以前と結界が変わっていたようだった。
ただ、それでもベネットは腐ってもカラーなので、問題無くペンシルカウに向かう事が出来る。
「それにしても…なーんか空気が不穏でやんすねえ…」
「どういう事よ、ベネット」
「いや…森が緊張しているというか…何かでっかい事が起きそうな気がするでやんすよ」
ベネットが森を色々いじっていた時、ランスが突如として木の上を見る。
「ランス君? どうしたの」
「いや、木の上から視線を感じた。まあ間違いなくカラーだろうな」
「…分かるの?」
「余裕だ余裕。おーい! そこのカラー! ハンティを呼んで来い!」
ランスは木に居るらしい誰かに声を出す。
当然何の反応は無く、ランスの声が響いただけだ。
「あれから100年以上経過しているからね。カラーも代替わりして私達の事を知らないでしょ」
「そういやそうだったな」
レンの言葉にランスは面倒くさそうな顔をする。
「そういう事だよ。それにしても今は大声を出さないで欲しかったね」
「え?」
突如として聞こえて来た声にシルキィはリトルを構えてその方向を見る。
するとそこには何時現れたのか、黒い髪の女性が立っていた。
「警戒しなくていいよ! こいつは私の知人だから!」
ハンティはランスが声をかけた方向に向けて声を放つ。
すると木の上から二人のカラーが降りてくる。
「…どうして分かったんですか」
1人のカラーが納得いかないという感じでランスを見る。
「がはははは! 俺様はいい男だからな。女の視線に気づかん訳が無いだろう」
「…そんな理由で」
カラーはランスの言葉を聞いて尚納得がいかないという顔をする。
「で、そっちの新しい人間は何時まで私に武器を向けてるのかな」
「あ…ご、ごめんなさい! つい」
ハンティの言葉にシルキィは慌ててリトルを仕舞う。
そんなシルキィを見て、ハンティは「へぇ…」と声を出す。
「ま、とにかく案内するよ。今カラーは本当に大変な事になっていてね」
ハンティの顔は何処までも真剣だった。
「ここが…カラーの里ペンシルカウ…」
シルキィは初めて見るカラーの里に目を見開く。
大勢のカラーが遠巻きにこちらを見ているが、そこから感じるのは焦りと恐怖だった。
ただ、その目は自分達にではなく、別の方向に向けられているように感じられた。
「今の女王の所に案内するよ。大丈夫、ローザの子孫だから話は通じるから」
ハンティはカラーの家の中でも一番豪勢な家にランス達を案内する。
「始祖様!」
そこに居たカラー達が一斉にハンティに頭を下げる。
「ああ、いいよ。それよりもレナ、彼等は私の知り合い。カラーの味方だから安心していいよ」
「分かりました。もしや彼等がローザ様が言っていた…」
「はいストップ。それよりも今は考えないといけない事があるだろう」
「あ、はい…コホン、ようこそ人間の皆さま。私がカラーの女王、レナ・カラーです」
レナと名乗ったショートカットのカラーがランス達に挨拶する。
「おう。それよりも随分と殺気立ってるが何かあったのか」
ランスの言葉にレナと名乗ったカラーが辛そうな顔をする。
そこにあるのは確かに絶望とも言える表情だった。
「そこは私が話すよ。ま、座ってよ」
ハンティに促されてランス達は椅子に座る。
同時に集まっていたカラー達も座るが、カラー達は全く落ち着いていない様子だ。
「本気でマズい事になっててね…それこそカラーの危機さ。このペンシルカウを捨てないといけないくらいのね」
「あん?」
ハンティの真剣な様子にランスは思わず眉を顰める。
このペンシルカウはLP期にあるペンシルカウの位置と何も変わらない。
LP期のカラーは排他的ではあったが、ペンシルカウ自体は長い歴史がある…みたいな事をパステルが言っていた。
ランスは話半分で聞いていたのだが、パステルがやたらと煩かったのでそのまま押し倒したから、何となく耳に残っていたのだ。
なので、このペンシルカウを捨てるなどという事はありえない事なのだ―――本来の歴史においては。
「魔軍が近づいてるのさ」
「魔軍が?」
「それもこれまで見たいな少数の数じゃないし、魔人が個人的に襲ってきている訳じゃ無い」
「じゃあなんだってんだ」
ランスの言葉にハンティは唇を歪める。
「魔物大将軍率いる魔物部隊。これがカラーを狙っているのさ」
魔軍のテント―――そこでは一体の巨大な魔物将軍が居た。
ただ、その魔物将軍は普通の魔物将軍とは違っていた。
青い肌に、全身を覆う白いプロテクター。
何よりも違うのは、その腹の中に入っているのは女ではなく、ゴーグルをかけた男の顔だった。
「ムオバクス将軍、実験は成功しました」
「ご苦労、カマイジャン。そして効果はどうだ」
「問題無く。人間共は問題無く皆殺しとなりました」
「そんな事は分かっている。人間共の様子はどうだったと聞いているんだ」
ムオバクスと呼ばれた魔物大将軍がカマイジャンと呼ばれた魔物将軍を睨む。
その恐ろしい視線にカマイジャンは冷や汗をかく。
「は、はっ…人間共は直ぐに血を吐いて絶命しました」
「直ぐだと。即死か」
「それに近い状態でした」
その言葉にムオバクスは苛立ち気な様子を見せる。
「ちっ、また失敗か」
「失敗ですか。人間共を皆殺しに出来たのですが…」
「何を言っている! 即死だと人間共が苦しまないだろうが! 人間共が長く苦しむガスを作らなければ意味が無いだろうが!」
「も、申し訳ございません!」
ムオバスクが怒りから言葉を放ったことに、周囲の魔物将軍は恐怖で体が震える。
「もっとガスを改良しなければ…私の理想とするガス…そう、名付けてサーティバンチを」
ムオバスクが口から白い煙を放つ。
それを見て魔物将軍達が慌ててムオバスクから距離を取る。
「ム、ムオバスク様! ガスが! 口からガスが漏れています!」
「む…いかんな」
魔物将軍の指摘にムオバスクの口から白い煙が止まる。
「で、もう一つの目的…カラー共はどうなっている」
「はっ、特に目立った動きはありません」
「そうか…カラー共は下手に皆殺しには出来んからな。まあ一匹生き残って居ればそれでいいのだがな」
ムオバスクは楽しそうに笑う。
魔物にとっては人間も亜人も等しくその命はゴミであり、皆殺しにしても構わないと考えている。
「しかし…カミーラ様が何かを言ってくるかも…」
「はっ! あの怠惰な魔人が実際に何かをする訳が無いだろう。それにカミーラが目をつけているのはメディウサだろう。俺達は関係無い。ま、メディウサに対してカラーを渡すのは意味が有る事だからな」
ムオバスクは別にメディウサの部下でも何でもない。
だが、魔人は魔物大将軍よりも上の立場であり、流石にその言葉を無視は出来ないのだが…何しろそのメディウサが自分達の後ろ盾だ。
魔人四天王のカミーラがメディウサと敵対しているようだが、そんなものはムオバクスには関係無かった。
とにかく人を殺したい、それがムオバクスの何よりの目的だった。
ただ、カラーを狙っているというメディウサに対して恩を売っておくのは悪くない事だ。
「ところで…ランブハビの奴はどうした」
「はっ…その…ランブハビは興味が無いと…」
「フン…所詮は魔物将軍の中でも突然変異種、奴など当てにならんな」
「は、はい…そうですが、ランブハビは滅茶苦茶強いですから…」
「放っておけ。それよりもカラーを捕らえるぞ。その後は…皆殺しだ!」
「「「はっ!」」」
魔物大将軍…本気の魔軍が今、カラーに対して迫っていた。