ランス再び   作:メケネコ

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暗躍する者達

「魔物大将軍って…ああ、アレか」

 流石のランスでも魔物大将軍という存在は覚えていた。

 魔人ザビエルの部下で、ランス達の居る所を襲い皆殺しにしようとしてきた存在だ。

 あの時はベゼルアイとハウセスナース、そして影から手を回していたカミーラの存在もあり倒す事が出来た。

 ただ、その後で出てきた魔人レキシントンの存在から影が薄くなっていたのも事実だが。

 ちなみにもう一体の魔物大将軍と戦ってはいるのだが、そっちは魔王ナイチサとジルの事もありすっかり忘れてしまっていた。

「魔物大将軍って…魔物将軍より上なの?」

「ああ。魔物将軍が200の魔物隊長を指揮出来るなら、魔物大将軍はその魔物将軍を指揮する奴さ」

「そんな奴が…」

 シルキィは魔物大将軍という存在に驚く。

「で、魔人も来てるのか」

「いや、魔人は動いていない。こっちに興味が無いのか…でもそんな事よりも、魔物兵達が私達を殺そうとしているって事が問題なのさ」

「それで皆さん怖がってたんですね…」

 ジルはカラー達の態度に納得がいく。

 確かにそれは大問題…いや、カラーの滅亡の危機と言ってもおかしくはない。

「どれくらいの数が居るの?」

「数そのものはそんなに多くないみたいだけどね。ただ、それでも1万は居るかもね…」

「そんなに…」

 レンの言葉にハンティは苦渋の様子で答える。

 その数は魔物大将軍が率いる数にしては少ないが、決して少なくも無い。

「ふん、じゃあ援軍は無いな」

「どうして分かるの? ランス君」

「魔軍は数だけは馬鹿みたいに多いからな。連中が本気ならもっと数を用意してくるだろ」

 ランスはゼスでの戦いで魔人率いる魔物将軍と何度も戦ったし、それ以外でも魔軍を何度も撃退している。

 その戦いでランスは魔軍という連中の事を分かって来ていた。

「問題なのは私達だけじゃ魔軍を撃退するのは難しいって事さ。例えあんた達が手を貸してくれてもね」

「む…」

 ハンティの指摘にランスは呻く。

 確かにハンティの言う通り、カラーだけで魔軍…それも魔物大将軍率いる万の軍団を倒すのは難しいだろう。

 魔軍という存在はそれだけ強いのだ。

「で、お前達はここを捨てようとしてたって事か」

「流石に魔軍相手には勝てないからね。魔物大将軍の相手は私でも厳しいよ」

「うーむ…」

 ランスは考える。

 もしここでカラーが絶滅すればどうなるか分からない。

 何よりも、ここでカラーが全滅してしまえばリセットはどうなるのか、と思う。

 それを考えるとランスは絶対にここに退く訳にはいかないのだ。

「ランス様…」

「そんな顔をするな。とにかくまずは様子を見に行くぞ」

 取り敢えずは行動、ランスは思い立ったら直ぐに行動を起こす事にする。

 ここで待っていても事態は解決はしない、それだったら自分から動く以外に道は無いのだ。

「…気をつけなよ」

 ハンティの言葉を背後にランスは行動を起こす事にするのだった。

 

 

 魔軍陣営―――そこに一体の魔物将軍が居た。

 その魔物将軍は普通の魔物将軍とは姿が違っていた。

 普通魔物将軍は金色の体を持っているのだが、その魔物将軍の体は青かった。

 そして普通の魔物将軍よりも体格が良く、目は一つしかない…そんな姿をしていた。

 普通の魔物将軍では無く、魔物将軍の変異種…それ故に普通の魔物兵から若干疎まれている、そんな魔物将軍だった。

「ランブハビ将軍、いいんですか? またムオバクスが煩いですよ」

「ほっとけ。別にあんな奴が何を言ってこようが俺には関係無い。スサラム、ケンダル、お前達こそあの野郎の所に行かなくていいのか」

 魔物将軍ランブハビの言葉に二体の魔物隊長が笑う。

「俺達もあいつが嫌いなんですよ。将軍と同じです」

「別に俺達は奴の直属の部下って訳じゃ無いですしね」

「ケッ、お前達も物好きな奴だぜ」

 ランブハビは二体の魔物隊長の言葉に苦笑する。

「しかし将軍、奴はなんでカラーなんかを狙ってるんですかね」

「ああ、それはあのメディウサが裏で糸を引いてるって話だ。全くくだらねぇがな…」

 吐き捨てるように言うランブハビは苛立ち気に足元の木を踏みつぶす。

「将軍は普通に戦いたいってだけですしね」

「ああ。俺はシンプルに強い奴と戦いてえんだよ。そのために今活発なここに来たっていうのによ…拍子抜けだぜ」

 ランブハビは魔物将軍の突然変異だけあり、変わった思考を持っていた。

 彼の頭にあるのはシンプルな戦いであり、ムオバスクのような大量殺戮兵器を用いての虐殺では無い。

 それどころかランブハビは弱い相手ならば戦う価値も無いと無視する程の戦闘狂だった。

 同時に、そういう変わった所が疎まれているのも事実だった。

「全く…こんな事なら別の所に移動した方がマシだな」

「将軍が行くなら俺達もついて行きますよ」

「ええ。どうせ将軍が消えた所であいつが何か言うって事も無いですしね」

「はっ! だったらとっととずらかるか。もっと骨のある奴と戦いたいからな」

 ランブハビはそう言って豪快に笑う。

 彼の望むのはシンプルな争いで有り、そこに虐殺は含まれていない。

 ここでは闘争は起きないと思い、とっとと消えようと考えていた時だった。

「成程、あなた達は闘争を望みますか」

「あん?」

 突如として聞こえてきた声にランブハビは怪訝な声を出す。

「失礼。あなた達の会話が聞こえたのでね」

「あ、あなたは…」

 スサラムが驚愕の声を出す。

「ま、まさか…魔人アイゼル様!」

 ケンダルの言葉にアイゼルはその端正な顔に笑みを浮かべる。

「少々思う所があって来たのですが…そういう事でしたか」

 魔人アイゼル…魔人一の美形であり、別名妖術魔人のとも呼ばれる程の力を持つ魔人。

 魔人が現れた事には流石のランブハビも驚く。

「何故あなたが…」

「フッ、何故私がここに居るかは重要では無いでしょう。問題なのは魔物大将軍…ムオバスクの事でしょう」

 アイゼルは悠然と笑みを浮かべる。

 その圧倒的な強者の気配にはランブハビも冷や汗を流す程だ。

「で、あなたはどうしたいのですか」

「アイゼル様…」

 まるで自分の考えを全て見透かしているようなアイゼルにランブハビは恐怖すら覚える。

 これこそが自分より遥かに長い時を生きる魔人…それを思い知らされたようだ。

「正直に言うと…私もこの状況は避けたい。何しろあのケッセルリンクが関わるかもしれない」

「ケッセルリンク…今は行方不明とされているあの方が…」

 魔人ケッセルリンク…魔人四天王の一人にして、恐るべき力を持つ夜の女王。

 ただし、今は前魔王ジルの命令で姿を消している…という噂だ。

「流石に彼女が戻って来た時に色々あると面倒です。だったらどうすればいいか…それは直ぐに分かる事でしょう」

「「「ハハッ!」」」

 アイゼルの言葉に三体の魔物達は一斉に頭を垂れる。

「そしてお前の望みも叶うかもしれない…さて、お前はどうします」

 アイゼルの言葉にランブハビは思わずその顔に笑みを浮かべた。

 その言葉の真意が分からない程ランブハビは間抜けでは無い。

「俺の目的は強者との戦い…それ以外は望まない。そしてアイゼル様がその場をくれるのなら…俺は従いますよ」

 ランブハビの言葉にアイゼルは唇を吊り上げる。

「いいでしょう。ならば…サファイア、トパーズ、ガーネット」

「イエス、アイゼル様」

「はい…アイゼル様」

「はい! アイゼル様」

 アイゼルの後ろから三人の少女が現れる。

 それはあられもない格好ではあるが、ランブハビ達はそれに興奮するとかいう事は無い。

 何しろ彼女達からは圧倒的なパワーが感じ取れるからだ。

 即ち使徒―――魔人から血を分け与えられた魔人の僕だ。

「これをどうするか…あなた達に任せる事にしましょう。上手くやって見せなさい」

「「「はい! アイゼル様!!!」」」

 使徒達は嬉しそうに返事をする。

 使徒達にとってアイゼルは絶対的な主であり、彼に喜ばれるのが何よりの喜びだ。

 そして何よりも、初めて主から大きな仕事を任されたという喜びがあった。

「ですが本当に何か起こる時は…私が動きます。その時はあなたの目的は果たされないと思いなさい」

 アイゼルの言葉にランブハビは剛毅な笑みを浮かべる。

「望む所です。で、確認ですが…ムオバスクは殺ってもいいんですか?」

 ランブハビの言葉にアイゼルもまた冷笑を浮かべる。

「事故はつきもの、でしょう」

「成程…事故、ですな」

「さて、私は私で動きます。後は好きになさい」

 そう言ってアイゼルは使徒を残して去っていく。

「フッ…魔人様も魔人様で色々とあるらしいな」

「それを使徒であるぼく達の前で言う?」

「悪いな。俺は根が正直なもんでよ。で、使徒様はどうなさるんで?」

 ランブハビはその口に喜色を浮かべながら訪ねる。

 彼女達は使徒であり、自分達よりも立場が上の存在だ。

 それにあの魔人アイゼルが残していったのだから、彼女達も相当の実力があるのは間違い無いだろう。

「それは…簡単。魔物大将軍を…始末する。アイゼル様の言う通り…事故はつきもの」

「それは有難い。ま、そのためのお膳立てはさせて貰うぜ。スサラム、ケンダル、あいつに反感持ってる奴を集めろ。あの性格だ、取り巻き以外は不満を持っている奴は多いだろうさ」

「了解です、将軍」

「なあに、あの性格です、奴に反感持ってる奴なんてあっという間に集まりますよ」

 ランブハビの言葉に二体の魔物隊長は笑って見せる。

 そこには同僚だろうが平気で討つ事が出来る戦闘狂の目があった。

 

 

 そしてランス達は森の中を移動していた。

「ねえランス君。私、魔物大将軍って知らないんだけど、どういう奴なの?」

「レン、教えてやれ」

「絶対覚えて無いでしょ…まあいいわ。魔物大将軍はその言葉通り魔物将軍を束ねる奴。モンスターとしても強いと思うわよ。何しろ無敵結界の無い魔人って言われてるくらいだし」

「…魔人級の力を持ってるって事? そんなのがカラーを狙ってるなんて」

 レンの言葉を聞いてシルキィの目に静かな炎が宿る。

「無暗に突っ込むのは止めてよ。連れ戻すの大変なんだから」

「私、そんなに無鉄砲に見える?」

「「「見える」」」

 シルキィの言葉にランス達はそう言い放つ。

「…そ、そうなんだ」

 流石に全員からそんな事を言われるとは思っていなかったシルキィはショックを受ける。

「でもランス様…魔物が一度に襲ってきたらカラーは持ちませんよ」

「そんなの分かっとるわ」

 もし魔物達がその数に任せて襲ってきたら流石のランスでもどうしようもない。

 いくらランスでも1万もの魔物兵を相手にするのは無謀というものだ。

(一匹ずつぶっ殺すのも面倒だな…やはり頭をぶっ殺すしか無いな)

 ランスとしては一点突破、魔物大将軍を殺す以外に方法は考えられない。

 事実それは正しいのだが、それが出来るかどうかは別の話だ。

 ランスが頭を悩ませていると、先行していたベネットが戻って来る。

「旦那、魔物の偵察隊がきてやすよ。すごい軽装だったんで逃げ足は速そうですぜ」

「数はどれくらいだ」

「30程度でやんす。ただ、その後に後詰めの部隊もいるみたいでやんす」

「よし、まずはそいつらをぶっ殺すぞ」

 考えてばかりいるのは性に合わず、ランスは取り敢えずやってくる魔軍を潰す事を選択する。

 ランス達はベネットに案内されて例の魔物の偵察隊が居る場所へと向かう。

 するとそこには確かに軽装…頭に紙袋のような物を被り、その手には小型の斧を持った魔物兵らしく存在が居た。

「なんだありゃ」

 ランスも始めて見る魔物兵に思わず声を出す。

「…まあ偵察用と言えば確かにそうよね」

 レンも少々呆れている様子だが、既に臨戦態勢を取っている。

「ランス、どうしますか」

「どうもこうも無いだろ。他の連中に気づかれる前にとっとと始末するぞ」

「了解。大きな音を出さないで始末する必要があるわね。ランス、あなたの必殺技は使わないでよ」

「分かっとるわ。ジル、魔法はなるべく音が出ないのを使え」

「はい、分かりました」

 ランス達は臨戦態勢を取る。

 魔物兵からは緊張感が全く感じられず、こちらを警戒している様子も無かった。

「で、カラーの住処って本当にここにあるのか?」

「さあな。でもメディウサ様がそう言ってるんなら事実なんだろ」

「ふーん。俺はカラーよりも人間をぶっ殺したいんだけどな」

「ははは! 違いねえ!」

 魔物兵達はゲラゲラと笑いながら行進を続ける。

「どうやらカラーの結界の事に関しては知らないようでやんすね」

 ベネット少しほっとした様子で答える。

 もし結界のことがばれれば、それこそカラー達は終わってしまう。

 が、結界も万能では無いのでこのままでは時間の問題だ。

「速攻で潰すぞ。悲鳴も出させるなよ」

「分かってるわよ。そっちこそやり過ぎないでよ」

「こっちは何時でも行けます」

「こっちもいいわよ、ランス君」

「よーし。ぶっ殺すぞ…行くぞ!」

 ランスの声に合わせて皆が一斉に飛び出す。

「な、なん」

 魔物兵が突然の物音にランスの方向を向いた時には既にその首が宙を舞っていた。

 ランスはそのまま返す刃で魔物兵の首を飛ばしていく。

 恐ろしい程の技量で斬られた魔物兵は、呻き声一つ上げる事も出来ずに倒れていく。

 そしてランスと同じようにレン、日光、シルキィが魔物に声を上げさせないように倒していく。

「に、逃げ…」

 魔物兵の誰かが『逃げろ』という前にランスの投げつけた剣が魔物兵の頭を貫く。

「ひ、ひいいいいいい!」

 魔物兵の一体がか細い悲鳴を上げながら逃げようとするが、

「氷の矢」

 ジルの放った魔法が魔物兵を貫き絶命させる。

 ランス達は一体も逃がすことなく、偵察魔物兵を全滅させる事に成功する。

「随分と手応えが無いな」

「偵察任務だからこんなに軽装なんでしょうね。魔物兵にも色々種類がいるわね」

「ですがこの魔物兵が戻らない事を不審に思う者が居るでしょう。これからどうするべきか…」

「魔物兵はバカだからな。このまま不意打ちで殺せるだけ殺すぞ」

 ランスは忌々し気に魔物兵の死体を蹴とばす。

「旦那! 魔物の正規兵がきやす! 今度は魔物隊長が来てるでやんすよ!」

 偵察に出ていたベネットが木の上から降りてくる。

「魔物隊長…確かあの青い奴よね。もしそうなら結構な数が居そうだけど…流石に数が多いと全滅は難しいおと思う」

「分かっとるわ。今考える」

 シルキィの言葉にランスは頭を悩ませる。

(うーむ…いくら俺様が天才でも必殺技無しに魔物隊長の部隊を一匹も残さないで皆殺しにするのは難しいぞ)

 もしランスアタックが使えれば、魔物隊長だろうが全滅させるのは可能だ。

 だが、流石に今のランスの技量で全力のランスアタックを放てばかなりの範囲が吹き飛ぶだろう。

 そうなると魔物兵は絶対に散り散りになって逃げてしまうだろう。

 もしこれにランスも良く知る将軍…それこそリックやバレスが率いる部隊が居れば全滅は容易であろう。

 しかし今居ない人間の事を考えても仕方が無い。

(いかん。いくら俺様が強くてもそれ数が足りんぞ)

 カラーを動員出来れば話は変わるかもしれないが、恐らくはそんな余裕は無いだろう。

 カラーはカラーで手一杯なのは間違い無いのだ。

「旦那、近づいてきやす!」

「チッ! さっきと同じように不意打でぶっ殺すぞ」

「…流石に数が多いわよ」

「何とかなる!」

 ランスはそう言うしかない。

 ある意味ヤケクソな言葉だが、本当にそうする以外に道が無いのだ。

 そしてランスの思考を邪魔するように魔物隊長を先頭に魔物兵が進んでくる。

「先遣隊の連中は何処まで行ったのだ。いくら何でも報告が遅いぞ」

 魔物隊長は咎めるような声を出すが、周囲の魔物兵がそれを宥める。

「まあまあ。連中は魔物スーツが与えられなかったんですから大目に見ましょうよ。奴等もはしゃいでるんですよ」

 赤魔物兵の言葉に魔物隊長は苦笑する。

「気持ちは分かるな。だが、我等の目的はカラーの連中を探す事だ。それを第一に考えろよ」

「はっ!」

 魔物隊長の言葉に魔物兵達は返事をするが、それはやっぱり気が少し抜けている感じがする。

 今の時代ならば無理も無い事なのかもしれない…何しろ今は完全に魔王率いる魔軍が生を謳歌する時代なのだから。

「む?」

 魔物隊長が歩いていると、何かの違和感を感じて立ち止まる。

「隊長、どうしましたか」

「いや…血の匂いだ。それもまだ新しい」

「おお…流石隊長。ハラキリ出身の魔物だけはある」

「相変わらず血に敏感ですな」

 隊長の言葉に魔物兵達はゲラゲラ笑う。

 だが、隊長の顔色は険しいままだ。

(この血の匂い…人間のものではない。だが、カラーの匂いとも思えん…ならばまさか!?)

「全員警戒しろ!」

 魔物隊長は優秀だったのは間違い無いだろう。

 だが、それでも相対した存在はまさに人外のバケモノと言っても間違ってはいなかった。

「死ねえええええ!」

 突如として聞こえた声は頭上からだった。

 頭上を見上げた魔物隊長が見たのは、赤く輝く刃の光だった。

「ぐがっ」

 魔物隊長はそのまま頭から真っ二つに両断される。

「た、隊長!?」

 突如として魔物隊長が死んだことに魔物兵は驚愕の声を上げる。

 だが、その隙にランスの刃が魔物兵の体を両断する。

「な、なんだ!?」

 突如の襲撃に混乱する魔物兵だったが、その混乱に乗じて更なる襲撃者が現れる。

「はああああ!」

「魔物兵…逃しはしない!」

 日光とシルキィが魔物兵に向かって突っ込み、その武器を振るい魔物兵達を屠っていく。

「に、逃げろ!」

 誰かがそう叫ぶのと同時に魔物兵達は散り散りになって逃げようとする。

「一匹も逃すなよ!」

 こうして魔物兵達は瞬く間に全滅した―――だが、それでも例外は存在していた。

 

「はぁ…はぁ…」

 一体の魔物兵が荒い息をついて地面に倒れる。

 森の外へと何とか逃げようとしているが、自分がどんな歩き方をしたのかももう分からない。

 ここは一体何処なのか…それすらも分からなくなっていた。

「畜生…なんであんな奴等がこんな所に居るんだ!?」

 魔物兵は文句を言うが、それでも生きていただけでも運が良かったのは間違いないだろう。

「報告…しなければ」

 魔物兵にあるのは怒りだった。

 自分が人間なんかにいいようにされた怒り―――そして確かに感じた恐怖。

 それを払拭するべく魔物大将軍に報告に向かうべく立ち上がる。

 その時、何者かの気配がする。

 魔物兵は慌てて武器を構えるが、その存在を見て安堵のため息をつく。

「随分とやられたな。ええ?」

 そこに居たのは魔物将軍ランブハビだった。

 魔物将軍の変異種のなので気に入らない相手だったが、それでも味方である事には変わりは無かった。

「良かった…急いでムオバスク将軍に報告したい事が…」

「ああ、分かってるぜ。お前はよくやってくれた。生き残ってくれて助かったぜ」

「…は?」

 魔物兵が何の事か分からずに聞き返した時だった。

「ユー…シャラップ。これ以上トークは必要無い」

 突如としてその視界現れたのは胸を丸出しにした女の姿だった。

 が、それっきりこの魔物兵の意識は戻る事は無かった。

「フン、生き残ったのは評価してやるぜ。俺が利用できるんだからな」

 ランブハビは楽しそうに笑う。

「それにしてもマジで全滅させる程の連中が居るとはな」

 魔人アイゼルの言葉を完全には信じられなかったが、この結果を見てランブハビは嬉しさに笑みが止まらなかった。

「アイゼル様のプランにミスはありません」

 アイゼルの使徒サファイアが得意気に胸を張る。

「それでこいつをどうするつもりです?」

「ああ。こいつには報告をしてもらう必要があるからな。それと…あの連中にもな」

 ランブハビは完全にサファイアの操り人形になった魔物兵を見て笑う。

「ククク…楽しい時間になりそうだ」

 人間、カラー、魔軍…その思惑は複雑に絡み合っているのは間違いない。

 それがどういう結果になるか…それはまだ誰も分からない。

 

 

 

 ???―――

「さて…これがお前の仕事だ。出来ますね」

「お待ちください…アイゼル様…」

 魔人アイゼルの下に魔物隊長が跪いている。

 それは魔物兵として珍しくない光景だが、一つ違うのはその魔物隊長の目が完全に虚ろな事だ。

 魔物隊長はそのまま歩いて消えていく。

「フッ…しかし私は運が良い。いや、本当に運が良いのはあの人間か」

 アイゼルは一人の男を思い出し笑う。

 それは本当に偶然だった―――アイゼルもまた今の時代を自由に生きる男だった。

 今の魔王ガイにも思う所も有るが、基本的にアイゼルはガイを認める数少ない魔人だった。

 そのアイゼルがこの世界を歩いている時、ある人間を見つけた。

 その人間は魔物将軍を蹴散らし、その腹の中の人間を救った。

 それを見た時、アイゼルが非常に驚いていたのを使徒達は不思議そうな顔でみていたものだ。

「成程…レイが気に掛けるだけはあります。何かを持っている…それは間違いない」

 アイゼルはランス達を見つけた時、密かにその後を追った。

 その結果今のカラーの状況も察することが出来た。

「流石にケッセルリンクを敵に回したくはないですしね」

 魔物大将軍ムオバスクの背後に居るのは魔人メディウサだ。

 互いに互いを利用しあう間柄のようだが、それでもケッセルリンクは良く思う事は無いだろう。

 それどころか争いになっても不思議ではない。

 アイゼルとしてはどうでも良い事だったが、あの人間が絡んでいるのならば話は別だった。

「さて…彼はどう動きますかね。あの時の雪辱戦…いや、それはメディウサの方か」

 ランスがメディウサを狙うのは間違い無いとアイゼルは確信していた。

 アイゼルのやっている事は自分の同胞たる魔人を裏切る事―――なのだが、アイゼルはメディウサが単純に嫌いだった。

「人間に討たれるのならその程度だっただけの事。まあせいぜい頑張る事ですね」

 アイゼルはそう言ってメディウサの城から姿を消す。

 こうして魔人達もまた複雑な事情で動いているのであった。




アイゼルの三使徒の事を知るために03を再プレイ
ここら辺で出さないと多分出番が無いと思ったので…
トパーズとガーネットはともかくサファイアが本当に難しいです

そしてこの三使徒ってジルの事知ってた事に今更気づきました
いや、どの道GL期に出番は作れませんでしたけどね
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