ランス再び   作:メケネコ

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当然の結末

 ランスとカインは同時に魔物大将軍を見る。

 魔物大将軍──ムオバクスはその目が気に入らなかった。

 まるで自分を倒すのは当然だと言わんばかりの態度…それも人間がそう見ているのが何よりも腹が立った。

「調子に乗るなよ人間…!」

「フン、ドラゴン一匹に何も出来ん奴が凄んでも何の迫力も無いわ。どうせ殺しても褒美も無いんだからとっとと経験値になれ」

 ランスはムオバクスの怒りもあっさりと受け流す。

 その態度にムオバクスはとうとうキレた。

「殺す…貴様だけは絶対に殺す! お前達! こいつらを逃がすな!」

「は、はいっ!」

 ムオバクスの言葉に生き残っていた魔物兵達がランス達を取り囲む。

 魔物大将軍が居るからか、魔軍の士気は完全には崩壊していない。

 それが魔軍という存在の特徴でもあるのだろう。

「ランス、そっちは任せるわよ。私はジルとベネットを守りながら戦うから」

「フン、俺様ならば余裕だ余裕。シルキィ、お前も付き合え。日光はレンと一緒にジルの御守をしていろ」

 ランスが剣を突き付けると、もう一体のドラゴンであるキャンテルが現れる。

「カイン、やり過ぎは良くない…と言いに来たけど、そういう状況でも無いみたいだね」

「おう。こいつは魔物大将軍とかいう奴らしいからな。軍隊でドラゴンを攻めてきたんなら話は別だろうが」

 カインの言葉にキャンテルはため息をつく。

「それに人間も居るみたいだし…まあ今回は君の好きにさせるよ。私は外の奴等を相手しているよ」

 キャンテルはそう言って大きく羽ばたく。

 そのまま凄まじい轟音と悲鳴がこちらまで聞こえてくる。

「あいつ…どっかで見た事あるか?」

 ランスは白いドラゴンを見て首を傾げる。

 もしここにシィルが居たらキャンテルの事を覚えていただろう。

 だが、彼女はここに居ないため、ランスはキャンテルの事の名前を忘れていた。

「まあいいか。とにかくすぐ死ね、今死ね、さっさと死ね」

「ほざくな人間! 殺せ! こいつらを殺せ!」

「「「うおおおおおお!!!」」」

 ムオバクスの怒号と共に魔物兵達が一斉に動く。

 100はくだらない魔物兵が居るのだが、ランスはニヤリと笑うだけだ。

「ラーンスあたたたた────ーっく!」

 ランスは溜めていた力を一気に開放する。

 勢いよく飛び上がると必殺技を放つ。

 ランスアタックは広範囲の敵を一度に倒す技にも出来る。

 そして今のランスのレベルは90を超え、そして剣レベルすらも上がって居るため正に人外の技となっている。

 その一撃はまさに魔人に匹敵すると言っても言い過ぎでは無いのだろう。

「「「ぐぎゃあああああ!!!」」」

 そんなランスの必殺技を受けた複数の魔物兵がバラバラになるほどの威力だ。

 それを見て魔物兵達の動きが止まる。

 その一撃は正に人外の一撃、それこそ魔人の一撃を彷彿とさせるものだ。

「相変わらずじゃねえか! それでこそ奴を倒しただけの事はあるぜ!」

 そんなランスを見て嬉しそうに笑ったのがカインだ。

 カインはこの世界から戻ってからキャンテルから世界の歴史を聞いた。

 ドラゴンが何故こうなったのか、そして今のドラゴンの現状。

 そして現れた人間と言う存在と魔王との関係。

 その結論は──―人間は弱いという結論だった。

 しかし、カインが見た人間であるランスは違った。

 一部とはいえ、あの魔王ククルククルに恐れる事無く立ち向かい、そして最終的にはそれを倒した。

 ドラゴンとしての本能が根強く残っているカインは、そんな強者としてのランスを気に入っていた。

 あれから数百年経ったが、こうして再び再会できたのはカインとしても予期せぬ喜びだった。

「がはははは! 今更こんな雑魚共など相手にならんわ!」

「ざ、雑魚だと…人間如きがほざくな!」

 ランスの言葉に激昂した魔物隊長が剣を構えてランスに向かって突っ込んでくる。

「死ね! 人間!」

「お前が死ね」

 ランスは剣を振り下ろして来た魔物隊長の剣をロングソードで弾く。

「な」

 まさか自分の剣が人間の剣にあっさりと弾かれた事に驚く。

 が、その次の瞬間、魔物隊長の体が上半身と下半身に分かれる。

 ランスの刀が魔物隊長を両断したのだ。

「ば、バケモノだ…」

 誰が放った言葉か分からないが、それは魔物兵全体の共通の認識となった。

 魔物隊長は当然魔物兵よりも強い。

 しかし、その魔物隊長が人間に一撃で殺された事に恐怖を感じた。

「俺の事を無視してんじゃねえよ!」

 そんな魔物兵に向けてカインが雷のブレスを放つ。

 その一撃で複数の魔物兵が消し炭になる。

「ぐ…おのれ」

 その光景を見てムオバクスは歯噛みをする。

 まさかの人間…それも異常な強さを持つ人間の襲撃に部下たちは完全に浮足立っていた。

 ドラゴンだけでも手に余るのに、これほどの強さを持つ人間まで攻めてきたとなれば無理は無いだろう。

「ランブハビはどうした!?」

「ラ、ランブハビ将軍はムオバクス様の命令で後方で待機をしています!」

「ぐ…!」

 自分の怒鳴り声に部下が報告をする。

 それを聞いてムオバクスは余計に苛立ちを募らせる。

(奴が居れば喜々としてこの場で暴れていたものを…肝心な時に!)

 ムオバクスはランブハビが嫌いだった。

 何故嫌いだったかと言うと、それはもう生理的に嫌いだったとしか言えない。

 魔物の中には突然変異で生まれる奴が居るが、ランブハビはよりにもよって、魔物将軍の突然変異だった。

 それ故に同族からは嫌われるのだが、中にはそんな奴に対しても嫌悪を示さない奴も居る。

 ムオバクスは前者だったので、ランブハビに対しての扱いは不遇と言えた。

 ただ、魔物将軍という立場と能力は持っていたので、何かの時のために…もっと言えば不測の事態が起きた時の捨て駒にするために連れてきたのだ。

 だからこそこんな簡単な作戦に問題が起きないと勝手に思い込み、ランブハビを後方に下げてしまった。

 それが今になって自分の首を絞める事になるとは思っても居なかった。

(ク…数が居れば何とでもなるというのに。まさかドラゴンが2体も襲ってくるとは…!)

「がはははは! 死ね!」

 そしてムオバクスに実に楽しそうな笑い声と、部下の悲鳴が聞こえてくる。

 その人間はたったの一振りで魔物兵を砕き、斬り裂く。

 数で囲もうにも、その人間以外の人間も異常なまでの強さを持っている。

「ク…囲めんのか!?」

「む、無理です! もう一匹のドラゴンのせいで近づけません!」

「おのれ…ドラゴンが2体居るというのはこういう事か…!」

 ムオバクスはドラゴンについては知らなかった。

 カミーラというドラゴンの魔人は居るのだが、ドラゴンそのものには詳しく無かった。

 ドラゴンと交戦する機会が無かったので仕方ないと言えばそうなのだが、自分の認識の甘さを今更ながら悔やんでいた。

「とにかくドラゴンを止めろ! そして人間を殺せ!」

「は、はいっ!」

 ムオバクスの言葉に魔物兵達は混乱しつつも機敏に動く。

 それは世界に7体しかいない魔物大将軍の力なのだろう、魔物兵達はきちんと指示に従って動く。

 完全な防御部隊をドラゴンに向かわせ、まずは簡単に殺せるであろう人間から始末する。

 それは決して間違った判断では無かっただろう。

 ドラゴンよりも人間の方が弱い、そんなのは常識なのだから。

 だが──―この男にはそんな常識は通用しない。

 

「ランス! 準備出来た!」

「そうか! おい日光、退くぞ」

「了解です」

 レンの言葉にランスは刃を交えていた魔物兵を斬り捨て距離を取る。

 日光もランスに合わせて魔物兵と距離を取る。

 魔物兵はランスを警戒しているようで、そう迂闊には攻めてこない。

「ランス様! 私の全力…行きます!」

「おう行ってこい」

 ランスは魔法使いでは無いが、凄まじい力をジルから感じていた。

「ジル…あなた」

 日光はジルを見て驚く。

 ジルは少女の姿だが、そこから感じられる力は少女のものではない。

 水色の美しい髪の一部が銀色へと変化し、その目の水色の目が緑と赤…スラルのような目に変わっている。

「ランス! これが今の我…そしてジルの力だ!」

 そのジルの口から出たのは間違いなくスラルの言葉だった。

 そして──―

「「ソリッドブラッド!!」」

 ジルの手から強烈な光が放たれる。

 吹き荒れる魔力の嵐には流石のランスも目を覆うしかない。

 まるでランスとスラルの合体技を思わせる力が目の前にあった。

 そして魔力が消えた後には無残な姿となった──―いや、無残な姿が残ってしまった魔物兵があるだけだ。

 魔力が爆発した近くに居た魔物兵はそのまま魔力と氷の嵐に飲み込まれて消滅してしまっていた。

 姿が残って居ても死んでいる奴はまだ幸せだ。

 不幸なのは中途半端に生き残ってしまった連中だ。

「い、痛い…冷たい…」

「お、俺の下半身が…下半身が無い…」

 ジルとスラルの必殺魔法を喰らって中途半端に生きている魔物兵のうめき声が響く。

 その呻き声も弱弱しく、直ぐに死ぬのは明白だ。

「こ、これがジルの力なの…」

 シルキィはジルの放った魔法の力に驚愕し絶句する。

 ジルはその体に魔王の力をほんの僅か…血にして一滴も無いような程度に力を残しているとは聞いていた。

 だからこそ腕力も体力も魔力も外見には似つかわしくない程の力を持っている。

 シルキィはジルとスラルの話に対しても半信半疑だった。

 いや、疑っていたと言ってもいい。

 しかし…目の前の光景はそんなシルキィの想像を遥かに超越していた。

「ほう。確か今のはスラルちゃんのオリジナル魔法だったな。使えるようになったのか」

 ランスの言葉に肩で息をしているジル──―ではなく、スラルが答える。

「ああ…ジルの中にある僅かな魔王の力、そして我の中にある僅かな力…それを共鳴させれば一時的にLV3に近い力を引き出せるようだ。まあ、おかげで魔力が空っぽになってしまったな。今の我は役立たずだな」

 スラルは苦笑する。

 ジルの中に居た時から自分とジルの魔王の力を共鳴させる方法は考えていた。

 なのでいい機会なので試してみたが…どうやら上手くいったようだ。

(ジルと我が強くなれば…いや、ジルの中の魔王の血が安定すれば更なる力を引き出せるだろうな。まあ人間の身ではどれ程の時間がかかるか分からんが)

 スラルは内心で苦笑する。

 確かに絶大な力だが、それを制御するのは恐らくは不可能なのは間違いない。

 ただ、それに近づける事が可能というだけだ。

 事実、今の一撃だけでほぼ全ての魔力を使い果たしてしまったのでは意味が無い。

「うわー…凄いでやんすね。死体の山ですぜ」

 ベネットも感心呆れが入り混じった声を出す。

「やるじゃねえか。ランス、お前の仲間って奴はどいつもこいつもやるじゃねえか」

 カインも何処か感心したように声を出す。

「フン、殺し損ねたわ」

 ランスはジルの魔法が魔物大将軍すらも飲み込んだのを見て詰まらなそうな声を出す。

 自分の手で殺せれば一番良かったが、まあ自分の奴隷が倒したなら手柄は主人である自分の物だと考える。

 が、その死体の山から立ち上がった者が居た。

「おのれ…人間め…」

 憎々し気にランス達を睨むのは魔物大将軍ムオバクスだった。

 その目は怒りによって血走り、深い憎悪をランスに向けている。

「おっ。生き残ってたか。中々しぶといな」

 魔物大将軍は無敵結界の無い魔人と称されるだけあり、非常に強い。

 そしてムオバクスはその魔法防御力がずば抜けていた。

 なのでジルとスラルの魔法を受けてもこうして生きている事が出来た。

「貴様…貴様…許さんぞ。よくもこの俺を…絶対に許さん!」

 ムオバクスは怒りの声を上げると、その口から白い煙を吐き出す。

「あの煙…アレが例の毒ガスみたいね」

 レンはそれを見て眉を顰める。

「ハッ! そんなもん、俺のブレスで全部ぶっ飛ばしてやるよ」

 カインがムオバクスを鼻で笑うと、その体から雷光が漏れ出す。

「そこまでだよカイン。そろそろこっちを手伝って欲しいな」

 ブレスを放とうとした時、同じドラゴンであるキャンテルが姿を見せる。

「あん? 何でだよ」

「やり過ぎは良くないさ。後は彼等に任せれば良いだろう」

 キャンテルはそう言ってランス達を見る。

 ランスはやっぱり何処かで見た事があるような気がすると思ったが、やっぱり思い出せなかった。

 男に対する扱いなんてそんなものである。

 ましてやランスがキャンテルと会ったのは結構前の話なので無理も無いのかもしれない。

「チッ、まあいいか。ランス、あいつはくれてやるよ。また後で話を聞かせろよ」

 カインはそう言ってキャンテル共に外の魔物兵に向かって行った。

 それを見てムオバクスがランス達を嘲るように笑う。

「クックック。ドラゴンはいなくなった…お前達を殺せばそれで終わりよ」

「アホか。どうせお前は死ぬんだから結果は変わらん。とっとと俺様の経験値になれ」

「ほざくな人間! 人間如きにこの魔物大将軍ムオバクスの首を取れると思うなよ!」

 ランスの言葉にムオバクスが吼える。

 同時にその口から放たれる毒ガスの量も多くなる。

「ランス、アレはまずいわよ。人間が吸ったら即死するわよ」

 レンがガスを見て真面目な顔をする。

「そんなにか」

「ええ。ランスでも危ないわよ。射程は短いけど剣よりは長いわ」

「そうだ! これでお前は俺に近づけまい!」

 レンの言葉を肯定するようにムオバクスが更に毒ガスを吐き出す。

「そして! 俺には魔法は効かぬわ! さあ、死ぬがいい!」

 事実この魔物大将軍の魔法防御力はかなり高い。

 ジルとスラルの放った魔法でもぴんぴんしているのがそれを証明している。

「ランス君、どうするの? これじゃあ近づけないわよ」

 シルキィも毒ガスを吸い込まないように距離を取る。

「私が突撃してもいいけど…」

 だが、シルキィは躊躇わずにこんな提案をしてくる。

 それがシルキィという人間なのだから仕方の無い事だったが、勿論ランスはそんな事は認めない。

「アホ、戦姫みたいな事を言うな。こんな奴相手に命をかける価値は無いぞ」

 ランスは呆れたようにシルキィを止める。

 実際、こんな奴に命を投げ捨てる必要は全く無い。

 ランスにとってはその程度の相手でしかない。

「レン。相手の毒を中和出来ますか?」

「出来はするだろうけど…流石に戦いながらは無理ね。魔力を使い果たしたジルも守らないといけないし」

「も、申し訳ありません…」

 レンの言葉にジルは申し訳なさそうに頭を下げる。

 ランスの役に立ちたいと思い、自分の出来る全開の魔法を使ってしまった。

 まさか魔物大将軍がここまでの魔法防御力を持っているのは計算外だった。

「人間! 死ね!」

 ムオバクスは毒をまき散らしながらランス達に向けて突進してくる。

 ランス達はそんなムオバクスから距離を取る。

 レンはその毒を中和しながらランス達を守っている。

「フハハハハハ! どうした! 偉そうな事を言っておいて逃げる事しか出来ないか!」

 そんなランスに向けてムオバクスは見下すように笑う。

「フン、そんな煙など俺様の前には意味は無いわ。せいぜい勝ち誇ってろ」

「何も出来ない奴が偉そうに何を言う! 貴様は命一杯苦しめてから殺してやる! その女達が犯し殺されるのをその目で見物させてやる!」

 ムオバクスは更に毒の煙を口から放つ。

 ランスはそれを見てロングソードを仕舞うと、その右手に刀を持つ。

 そして居合斬りをするかのように左手で刀を握る。

「死ね! 人間!」

 ムオバクスはやはり毒ガスをまき散らしながら襲い掛かって来る。

「死ぬのはお前だ! ランスアタ────ーック!!」

 ランスは向かってくるムオバクスに向けて刀を抜き放つ。

「ちょっとランス君! 全然届いてない…!?」

 シルキィにはそれは何の意味も無い行動に見えた。

 それは当然、ランスの刀はムオバクスに全く届かない距離で抜き放たれたはずだった。

 だが、ランスの刀はムオバクスのガスを斬り裂き、ムオバクスの体に大きな傷をつけていた。

「バ、バカな!? い、一体何が!?」

 ムオバクスもランスの一撃を受けその突進が止められる。

 信じられないといった顔で自分の体から流れる血を見ていた。

「フン、お前の毒ガスなんぞカミーラのブレスに比べたらカスだカス」

 ランスの基準は最早カミーラのブレスが基準となってしまっていた。

 それだけカミーラとの戦いが長く続いているという事でも有るが、その戦いの最中でランスは相手のブレスを斬るという技を身に着けた。

 本来は斬れぬものすらも斬り裂く…それこそが伝説のLV3の技の一端とも言えよう。

「凄い…ランス、これ程までに刀を使いこなしているんですね」

 日光もランスの技を見て感心している。

 刀を基本を教えたのは自分だが、最早自分を圧倒的に上回る技術には感服するしかなかった。

 それ程までにランスの技術はずば抜けているのだ。

「これが…ランス君の力…」

 シルキィはランスの言葉の意味をようやく理解した。

 確かに強いと思っていた──―だが、これまでの相手はその実力の一端すらも引き出せる相手では無かったのだ。

 魔物兵も魔物隊長でも一撃で倒せる技…いや、技なんて使っていないかもしれない。

(そうか…これだけの力があるから、皆ランス君の事を信用しているんだ)

 ランスはお世辞にも素晴らしい人間であるとは言えない。

 直ぐ調子に乗るし、迂闊な所も多い。

 言ってしまえば欠点ばかりが目に付いてしまう、そんな人間だった。

 しかしランスにはそれを補って余りある長所がある。

 ずる賢いと言えるまでの頭の回転の速さ、そしてその圧倒的な強さだ。

(魔人相手でも殺すって言ってたけど…嘘じゃ無かったんだ)

 大口を叩いているとシルキィも少し思っていたが…そんな事は無かった。

 この男は本気でそう言っていて、それだけの力がある男なのだと見せつけられた。

「畳みかけるぞ! ぶっ殺せ!」

 ランスの言葉に日光とシルキィが同時に駆ける。

 二人もまた生粋の戦士、この好機を見逃す程甘くは無かった。

「ぐ…貴様等!」

 ムオバクスは日光とシルキィの攻撃にうめき声を上げる。

 流石に魔物大将軍は非常に硬く、二人の攻撃も致命傷にはならない。

 しかしそれでもムオバクスにとっては鬱陶しい事には変わりは無かった。

 だが、そこに凄まじい殺気を感じ、背筋が凍り付く。

「がはははは! 死ね──────ーっ!!!」

 自分に向かってくるランスの存在に気付いたのだ。

 その凄まじい殺気は魔物大将軍である自分に死を予感させるものだった。

「ひ、ひぃ!」

 魔物大将軍は何とかランスの剣を避けようとする。

 しかし、ランスの剣の技はやはり凄まじくその一撃を避ける事が出来なかった。

「ぐ、ぐああああああ!」

 ランスの剣が胸を深く抉り、魔物大将軍の本体にまでその剣が届きそうになる。

 その強力な防御力から何とか致命傷を防いだに過ぎない。

 ムオバクスの口から再び白い煙が上がり、それがランスを襲う。

「ランス!」

 それにいち早く気づいたレンがランスの首を掴んで魔物大将軍から離す。

「ぐがっ!」

 そして富嶽を構えた日光がムオバクスの喉を横から突き刺す。

 その刃はその体を貫通し、ムオバクスは白い煙と共に大量の血を吐き出す。

 同時にその喉元から爆発のような勢いでガスが噴出する。

「距離を取りなさい!」

 レンの言葉にシルキィは慌ててムオバクスから離れる。

 レンは魔法を唱えてランスとジルの前に出る。

 大量の白い煙が収まった時──―ムオバクスの姿はそこには無かった。

「…逃げた?」

 シルキィは口元をリトルで覆いながら怪訝な表情をする。

 あの巨体が見えないというのは流石におかしいからだ。

「日光! 無事か!」

「問題ありませんよランス」

 煙が晴れた時には日光の姿はそこになく、二本の刀がそこに横たわっていた。

「ああ成程…剣になって毒ガスを防いだんだ。確かに剣ならガスは効果が無いか」

 レンは若干呆れたように声に出す。

 日光は直ぐに自分の体を人型に戻すと富嶽を手に取る。

「それよりも追いましょう。まだ遠くには行ってないはずです」

「フン、そんなのは当然だ。あいつをぶっ殺すぞ!」

 ランス達はムオバクスの血の跡を追って走り始めた。

 

 

「はぁっ! はぁっ!」

 ムオバクスは口から血を吐きながら必死に走っていた。

 喉を貫かれたのは確かに凄まじいダメージだったが、それでも即死する程の傷では無かった。

 だが、流石にもうあの人間達と戦う事は不可能だった。

 ムオバクスが目指すのは魔人メディウサの城だ。

 そこに逃げ込めば人間は手を出すことは出来無い、まずはこの傷を癒さなければいけない。

 その時、ムオバクスの目に同軍の姿を見る。

 そこに居たのは自分が冷遇していたランブハビの姿があった。

 それを見てムオバクスは安堵のため息をつく。

 気に入らない奴だが、この場に居てくれたのは有難かった。

 ランブハビもムオバクスの姿に気づいたのか、部下を引き連れて近づいてきた。

「ランブハビ…人間が来る…何としてでも時間を稼げ!」

 余裕の無いムオバクスの言葉にランブハビはその口元に笑みを浮かべる。

「随分やられましたな、将軍殿」

「黙れ…とにかく時間を稼げ。俺はメディウサ様の所へ行く」

「メディウサ様の所へ…ですか」

 ランブハビは楽しそうに唇を歪める。

「やっぱりメディウサの奴の命令を受けてたって事か」

「そうがどうした…魔人様の言葉は絶対だ。違うか」

「いいや、間違って無いね。そう、魔人様の言葉は俺達にとっては絶対さ」

 魔物大将軍であろうとも魔人の命令には逆らう事は出来ない。

 いくら魔人級の力があると言っても、結局は無敵結界の前には無力だからだ。

「足を用意しろ。とにかく俺はメディウサ様の所へ行かねばならん。さっさとしろ」

 ムオバクスはやや苛立ち気に言葉を発した時、その目に映ったのはランブハビの拳だった。

 そしてその拳がムオバクスの顔に容赦なく突き刺さる。

「ラ、ランブハビ貴様!? 正気か!?」

「そっちに事情があるって事はこっちにも有るって事だ! 俺もお前と同じように魔人様から命令を受けて居るんでね」

 その言葉にムオバクスの顔が凍り付く。

(あ、あの噂は本当だったのか!?)

 ランブハビは確かに優秀だが…もう一つの逸話があった。

 それは気に入らない上司を謀殺したという噂だ。

 ムオバクスにとってはそれはただの噂でしかなった。

 だが──それは本当だったと今更ながらに気づかされた。

「前からお前のやり方は気に入らなかったんだよ。消えな!」

「う、うぎゃあああああああ!!!」

 ランブハビはその巨大な足でムオバクスの腹を蹴り飛ばす。

 そしてランスの剣を受けてひび割れていた腹に何度も蹴りを入れる。

 ムオバクスは痙攣しながら血を吐き出が、もうどうする事も出来ない。

 その体は既に死に始めていたのだ。

「ランブハビ将軍、来ましたよ」

「やっとか。ククク…楽しい戦いになりそうだ」

 ランブハビはムオバクスなどもうどうでもいいと言わんばかりに、その首を踏みつける。

 嫌な音を立て、ムオバクスの痙攣が小さくなっていく。

 そしてランブハビの顔が変わり、戦士の顔となる。

 そこには彼が待ちわびていた人間の姿があった。




大分遅れました
寒くなってきた上に厄介ごとが重なる不運
一体いつになったら解放されるかなあ…
何とか区切りをつけたいです
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