ランス再び   作:メケネコ

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スラルの本音

「ランス…どうなってるの」

 レダが戻ってきた時、既にカミーラはこの場にはいなかった。

 そこに残っていたのは全裸で気持ちよさそうに眠っているランスだけだった。

 自分でもかいだ事のある強烈な臭いが充満しており、乱れたシーツを見れば何が起きたのかは一目瞭然だ。

「まさか本当にカミーラと…」

 信じがたいが、一番ランスとやりそうな自分とケッセルリンクがいなかったのだから、相手は自ずと昨夜に訪れていたカミーラしかいなくなる。

「はぁ…」

 どうやら使徒になった訳では無さそうだが、まさかあのカミーラと…とも思う。

「どこまで影響が出るのか…それとも、これも全て承知の上だったのですか…ALICE様」

 今は話す事の出来ぬ1級神を思いながら、レダはため息をついた。

 

 

 カミーラはいつもの様に優雅に薔薇の風呂を楽しんでいた。

 これこそカミーラの癒しの時間であり、汗を流した体には何よりの恵みだった。

「ランス…」

 自分に対して、恐れもせずにあそこまで好き勝手にした人間を思い出し、思わず苦笑いを浮かべる。

『この程度では終わらぬだろう』と確かにいったが、まさか本当に朝まで自分に付き合うとは思ってもいなかった。

 それにその行為もまたかつてのドラゴンとは全く違う。

 ドラゴン達の優越感からくるカミーラの事を全く考えていない行為、ドラゴン繁殖のための義務のような行為とは違う。

「これが人…か」

 思えば『人』という存在が生まれてから、魔物達の有り方も変わった。

 人の姿に似たモンスターが生まれ、その全ては性行為によって繁殖するようになった。

 かつてのムシや、まるいものとは全く違う。

 今まではカミーラにとっては性行為とは自身が慰み物になるための行為であり、ドラゴンを産む為の行為でしか無かった。

 しかしランスとの行為は…自分も楽しかった。

「ただの褒美のつもりだったがな」

 あの男は普通の人間とはまさに格が違う…いや、次元が違う。

 カミーラは気に入ったものをすべて手に入れる事をよしとしている。

 それは今まで自分が抑圧されていた事への裏返しだったのかもしれないが、それを抜きにしてもあの男が気に入った。

 自分相手にも引かぬ度胸、ドラゴンすらも倒す実力、そしてあの強運…全てにおいて退屈をさせない男だ。

「フッ…まさか私が人間を気に入るとはな」

 これまでの自分の生を考え、自嘲的な笑みを浮かべる。

 人間など魔物の玩具に過ぎぬと考えていたが、中にはあのような規格外の存在も生まれるようだ。

 だからこそ、ランスを自分のモノにする。

 そこには怠惰かつ退廃的な魔人は存在しない。

 己の野望を強く持つ魔人が新たに登場した瞬間だった。

 

 

「特に酷いのはやっぱり宝物庫とその付近だな」

「ハイ…魔王様の集めたアイテムは殆ど…」

「そうか…」

 ガルティアとケイブリスが魔王の間にて魔王スラルに昨日の被害の範囲を改めて説明していた。

 一日かけてようやく被害状況の確認が出来た…それだけ魔王の城とは広大であり、被害もまた馬鹿にならない物だと改めてスラルは理解していた。

 何よりも自分の収集していたアイテムが消えたのが一番の痛手だった。

 中にはこの世の理を壊しかねないアイテムも色々とあっただけに、自分のミスが返す返すも悔しい思いをさせる。

(いや、言っても仕方がないか…よく調べなかった我のミスだ。だが考えようによっては、危険なアイテムを処分出来たと考えるべきか…)

「でも何よりも一番大きな被害はやっぱり魔物将軍だな。結構な数が死んだみたいでな…」

「復興には時間がかかる、か」

「ハイ…メイド系のモンスターの被害が大きいので、部屋の片付けにも時間がかかります…」

 二人の報告にスラルは頭を抱える。

 魔王とはいえ、何から何まで出来るほど万能ではない。

 魔法で城を直す事など出来ないし、死んだ魔物を蘇らせる事も出来ない。

 ある程度の頭数が揃うまでは、結局は時間がどうしてもかかってしまうのだ。

「そうか…ご苦労だった。引き続き作業に戻れ」

「おぅ」

「ハイ」

 ガルティアとケイブリスは再び復旧作業に戻る。

 その二人がいなくなった後、スラルは改めて大きなため息をつく。

 それはこの城の問題ではなく、昨夜に見た衝撃的な光景が頭から離れないからだ。

 ランスがそういう行為を好んでいるのは勿論理解はしているし、ケッセルリンクの場合は彼女が魔人となる前からそういう関係だったようだから納得はいくが、まさかあのカミーラが…という思いが非常に強い。

 カミーラは心から自分に傅いてはいない…それどころか、自分を嫌ってすらいる…それは勿論分かっているし、別に自分も心からの忠誠が欲しいとも思っていない。

 最初はカミーラが自分への嫌がらせのために、ランスを殺そうとしたのは分かっていた。

 しかし今のカミーラは違う…あの怠惰で無気力な目が、今はまるで別人だ。

 そして何よりも…

「あのカミーラが人間に体を許すとは…」

 そのプライドの高さは恐らくは魔人一だろう。

 それ故にまさか人間に…という自分の思い込みもあったのかもしれない。

「我が傲慢だったのか…それともランスという人間を見誤ったか…」

 ランスが魔人になる事を拒んだ事、カミーラがランスを使徒へと誘った事、カミーラが何故かやる気を出した事…全てが想定外の出来事だ。

 だからこそ今の状況を楽しんでいた部分もあったが、結局は自分の一番の目的である『ランス、レダ、ケッセルリンクを魔人にする』というのはケッセルリンクしか果たされていない。

 そのケッセルリンクも、自分の意思ではなく死の淵から無理矢理魔人にするという、本来のスラルの予定から大幅に外れた物になっている。

「今思えば…何故我が逃げるように退散しなければならないのだ」

 確かにランスとカミーラがセックスをしていたのは完全に予想外だが、何故魔王がそんな事をしなければならないのだと奮起する。

「そもそも我はまだランスと話してすらいないではないか。それにランスから使徒の気配はしなかった…魔人に誘えるではないか」

 スラルが新たに決意し、椅子から立ち上がったとき、

【奪え…】

「ん?」

 突如として聞こえて来た声にスラルは周囲を見渡すが、その周囲には当然ながら誰もいない。

「何だ…? しかし誰もいないな」

 間違いなくこの場には自分しかいない。

「気のせい…か」

 スラルは気のせいと判断し、改めでランスの元へと向かう。

 しかし確実に、歴史の波がスラルに襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

「ぐふふ…とうとうカミーラと普通に出来たぞ!」

「そう…良かったわねー」

 非常に満足しているランスに、レダは気の無い返事をする。

 正直誰としようがレダには関係無いのだが…しかし妙にもやもやしたものを感じるのは事実だ。

 ランスはそんなレダの複雑な気持ちには全く気づいていないようで、何時ものようにバカ笑いを続ける。

 以前カミーラとした時は無理矢理であり、カミーラもそんなランスに恨みと憎悪を向けていた。

 そんなのもどこ吹く風といった感じだったが、やはり色々と経験した身としては、以前は非常にもったいないと感じていた。

 何よりも、カミーラが自分から動いてセックスをしたという事実は、ランスに大きな満足感を与えていた。

「そういえば俺様が始めてヤッた魔人もカミーラだったな…」

 サテラもサイゼルも触りはしたが、結局は最後までは出来なかった。

(今思えば非常にもったいないな…サイゼル)

 あの時は非常事態だったため一度射精しただけで見逃したが、やはりやっとくべきだったとランスは後悔をしていた。

「しかしあの時は俺様もまだ若かったからな。今ならサイゼルもメロメロに出来るのだが…」

「ランス…あんたの頭にはそれしかないの? いや、無いんでしょうね…」

「まーおー」

 レダはケッセルリンクからの差し入れの紅茶を飲みながらため息をつく。

 大まおーもレダに付き合っているつもりなのか、一緒に紅茶を飲んでいる。

(本当に嬉しそうよね…でも私とした時もそうだったか)

 あの時ランスに犯された時を思い出すが、ランスは本当に楽しそうに自分を犯した。

 今思えば自分はとんでもない事を言っていた気がするが、それはもう過去の事を完全に割り切る事にする。

(…いや、でもそんな簡単には割り切れれないけど)

 あの時の事、そして今までの事を思い出しながら赤面する。

「お前はお前で何百面相をしとるんだ」

「な、何よ。私は関係無いでしょ」

「嘘をつくな。今のお前の顔は俺様に抱かれている時の顔をしてたぞ」

「ちょ…変な事言わないでよ!」

「がはははは! 照れるな照れるな! 今の俺様は絶好調だ!」

 ランスはレダを抱き上げると、そのままベッドに押し倒す。

「ちょ、ちょっと! 今は昼間…じゃなくて! なんでいきなり盛ってるのよ!」

「お前がもの欲しそうな顔をしてたからだろうが」

 抵抗するレダを完全に無視し、ランスの大きな手がレダの体を弄る。

(ううう…どうして私って抵抗出来ないんだろ…)

 不思議とランスに触れられると自分でも抵抗をしなくなるのが分かってしまう。

 最初にランスに犯されてからずっとそうだ。

 別に性行為がエンジェルナイトの中で忌避されているという事は無い。

 エンジェルナイトとて、意志を持った一つの個として認められている。

 だからこのような事になっても、特に上から圧力がかかるという事はほとんどない。

「ランス…私はエンジェルナイトなのよ」

「だからどうした」

「本来は人間が手を出していい存在じゃ無いのよ」

「それで?」

「だ、だから…ランスは気楽に私を抱いてるけど、普通はエンジェルナイトなんて人間がどうこう出来る存在じゃ無くて…」

 ランスに体を弄られながら、レダは必死に抵抗する。

 最も本人としては抵抗しているつもりだが、実際にはランスが自分の自分の体を触りやすいように少し体をよじったり、服を脱ぎやすいように体勢を整えたりとしているのだが。

 ランスはこのままレダとも楽しもうとしたとき、何の前触れもなく扉が開かれる。

 ランスとレダはカミーラかと思いその方向を見るが、入ってきたのは魔王スラルだった。

「…はぁ」

 最早見慣れてしまった光景にはスラルもため息をつくしかなかった。

 確かに不自由をさせてはいるが、それでも魔王の城にいるのによくもこんな事をしていられると思う。

 魔人達は基本的に自由に振舞っているが、この男は人間のくせに魔人よりもフリーダムな男だ。

「お前は本当に性行為が好きなのだな…」

「嫌いな奴などおらんだろう。まあよほどの潔癖症なら別だと思うがな」

「いや、あんたほどの奴もいないと思うけど」

 流石のランスも魔王スラルが見ている前では行為に出れないのか、レダを解放して椅子に座ると、レダも乱れた服を直してから同じように椅子へと座る。

「まーおー」

「…何コレ」

 スラルはマントを靡かせて飛んでいる妙な物体を掴む。

 よく見ると、それは先日ランスの剣に写っていたものと同じだった。

 触ってみると意外とスベスベの上もちもちしている。

(あ、意外とカワイイ)

「それは俺の新たな部下だ」

「…部下? これが?」

 スラルが見る限りではただのカワイイ生命体にしか見えないのだが。

 手を離すと、トコトコと歩いてレダの膝の上に収まる。

「…まあいいか」

 興味は惹かれるが、今はランスの方が大事だと頭を切替え、改めて決意を秘める。

 先日ケッセルリンクに言われた事を思い出し、本音でランスと話すべく一度深呼吸をする。

「ランス。お前はカミーラの使徒になったのか?」

「いいや、なってないぞ。相変わらず使徒に誘われてはいるがな」

「そ、そうか」

 カミーラの使徒にはなってないのは分かってはいたが、こうしてランスの口から聞くとやはり安心する。

「改めて言おう。我の魔人となれ…いや、魔人となって欲しい」

「…何?」

 ランスはスラルの言葉に思わず驚く。

 魔王はこれまで一貫して『魔人となれ』という命令をしていた。

 しかし今の言葉は違う。

 あの魔王が、人間であるランスに『魔人になって欲しい』と頼みごとをしているのだ。

(…この子、ほんっとうに魔王なのか?)

 ランスに過去に出会った魔王を思い返す。

 一人はランスが過去に戦った魔王ジル…彼女はランスがこれまで戦ってきた相手でも、ぶっちぎりで最強であり最凶だった。

 最後は彼女以上に強くなったランスが真正面から倒した事で、この世界は何とか守られた…はずだ。

(今思えば勿体無い事をしたな…)

 今考えるとあの最後はランスとしても勿体無いと思ったが、恐らくジルが戻ってくれば間違いなく世界は地獄へと変わるだろう。

(後は…美樹ちゃんか)

 ランスと一番関わり合いが深いであろう魔王の血を持つ少女…彼女は間違いなくものすごいボケだ。

 一緒にいる健太郎もボケなので、その相乗効果でシリアスが全く続かない奴らだ。

 だが、魔王リトルプリンセスとは一度対峙し…その結果、シィルが2年程氷漬けだった。

 確かにあの時の美樹…いや、リトルプリンセスは恐ろしい程の存在感を放っていた。

「うーむ…」

 それに比べると、目の前の少女が魔王とはとても信じられなかった。

 確かに強さはある…それはランスの目から見ても間違いない。

 しかしその行動がどうしても魔王とは結びつかない。

「少し…話をしようか」

「別に構わんぞ」

 スラルは一度深呼吸をする。

 これから話すのが魔王の…いや、スラルの本音だ。

「我は…いや、私は生まれた時から魔王だった」

「生まれた時から?」

「ああ…世界の支配者だったドラゴンに変わる存在として人が作られ…そして新たな魔王も作られた」

 ランスはスラルの話が理解できずに頭を捻る。

 どうやって人が作られた等と言う話は興味は無いが、魔王が作られるという事がランスには不可解だった。

 実際に美樹は魔王になるのを嫌がっており、その時代の魔王に無理矢理魔王にされた…と聞かされていた。

「ランスは…私が何に見える?」

「何と言われてもな。俺にはスラルちゃんはカワイイ人間にしか見えんぞ」

「そ、そうか」

 ランスの言葉にスラルは嬉しそうに笑う。

 ランスの言葉には裏表はない…それはこれまでの事で十分に理解できている。

 だからランスは本当に自分の事をそう思っているのだろう。

「私は…こうして人間と同じ姿をしながら魔物の王として生まれた…怖かった。私の周りには魔物が跪き、そして何かを狙っているようにしか見えなかった」

「むぅ…スラルちゃんの体を狙うとは随分と不愉快な奴らだな。よし、殺そう」

「いや、違うでしょランス。魔物が魔王から狙うものは一つ…魔王の血でしょ。それしか無いのかアンタの頭は」

 ランスの言葉に思わずレダが突っ込む。

 その様子を見てスラルは笑う。

「ハハハ…そう、レダの言うとおりだ。魔物が私に従うのは私が魔王だから…そして魔人となって永遠の命が欲しいからだ。魔人も魔王には逆らえないという縛りがあるから私に従っているだけだ」

「確かにカミーラが大人しく従うとは思えんな」

 あのカミーラの気質からして、本当の意味で魔王には従ってはいない。

 何よりもあのプライドの持ち主がそう簡単に誰かに従うとは思えない。

「カミーラは…な。魔王が嫌いというのもあるだろうけど、それだけでは無いと思う」

「ああ、それは簡単だ。カミーラはスラルちゃんがカワイイから気に入らないだけだと思うぞ。根っからの女王様気質だからな」

 過去のカミーラとの事を思い出しても、少女に対して100人強姦させたりと女に対しては非常に厳しく見えた。

 もちろん男に対しても容赦はしないが、特に女に対しては苦しめてから殺す…という事に徹底していた。

「まあカミーラの事は今はいい。それよりも話を戻すが、私には…信じられる者が存在しない。だから…お前を」

「別に信じる必要なんて無いだろ」

「…え?」

 ランスの言葉は以外にもスラルを突き放すものだった。

「誰が何を信じようがそれはそいつの勝手だ。信じられる者がいないと言ったが、そのために何かをしてきたのか」

「それは…」

「無条件で誰かに信じられる等ありえんぞ」

 魔王スラルの本質は臆病で慎重というものである。

(私は…)

 過去を思い返すと、確かに自分で何か行動を起こした事はあっただろうか…と思う。

 魔王となった時、真っ先にケイブリスが自分に忠誠を誓い、その後でメガラスが自分に跪いた。

 カミーラは今でも自分にはまったく関心が無い…自分が命令を下すだけの係わり合いでしかない。

 唯一違うのはガルティアだけ…でも、それだけだ。

「…ランス、あなたは自分を信じられるの? 相手に信じられないのが怖くないの?」

「自分が自分を信じられないでどうする。相手が信じないのならば勝手にすればいい。俺は俺のやりたいようにするだけだ」

 ランスの言葉にスラルは何も言い返せない。

 本気でそう思っているようで、その目には嘘偽りは全く存在していない。

(…そっか。私がランスを魔人にしたかったのは、自分に持っていないものを持ってるからなんだ)

 恐らくランスが魔王ならば、無敵結界など願わないだろう。

 他の奴の言葉など何のその、むしろ黙って自分についてこいというタイプだ。

(そんな私と対照的だから…私はランスを求めたんだ…)

 スラルは自分の心知り愕然とする。

 まるで自分の無力さを突きつけられたように感じた。

【奪え】

(えっ?)

【全てを奪え】

 それは先程に聞こえた声。

 そして次の瞬間、スラルに変化が現れる。

「フフフ…アハハハハ!」

「む。な、なんだ」

「ど、どうしたの?」

 急に笑い出したスラルにランスとレダは驚く。

 魔王が急に楽しそうに笑い出せば誰だって驚くだろう。

「いや、私がどれだけ何もしていなかったのかとな。色々威厳をだそうとしたりしたが…結局は私はただの魔王でしかなかったと分かった」

 スラルの顔には今までのような無理して余裕をだしているような笑みではなく、子供のように楽しそうな笑みを浮かべていた。

「だとしたら尚の事だな。私は…我はお前を魔人としよう」

「だから俺は魔人になるつもりは無いと言っているだろう。本当に話を聞かん奴だな」

「お前の言葉等必要ないからな」

 スラルがそう言うと、スラルの気配が一瞬にして変わる。

「!」

 その気配に押されるようにランスとレダは飛び上がり、武器を構える。

(マジか。この気配…ジルと同じだぞ)

 ランスは改めて魔王という存在を思い知る。

 背筋には嫌な汗が流れ、思わず逃げ出したくなるほどのプレッシャーだ。

(これが…魔王)

 レダも初めて見る魔王の力に背筋が凍る。

 魔王より強い存在が沢山いるのは知っているが、それでも実際に見るのでは大違いだ。

 廃棄迷宮にて出会ったポレロ・パタンは魔王より強いという事を聞いてはいるが、今目の前にいる『魔王』の存在感は圧倒的だ。

「…これでもお前は魔人になる事を拒むか? ランス」

「当然だ。そんな簡単に諦めると思うなよ」

(…とは言うが、これは本気でまずいぞ)

 力の差は歴然としており、ここから逃げる事も難しいとなると出来る事は一つしか無い。

(大人しく受け入れてそれから逃げるか…? いや、サテラが魔人は魔王の命令にはどんな事でも絶対服従といっとったな)

「ふむ…では、お前が魔人を望むように我が譲歩しよう。お前に命令をしない…というのはどうだ?」

「フン、約束なんていくらでも破れるだろ。魔王なら尚更だ」

「それもそうだな。ではカミーラをお前にやろう」

「自分の意思も持たないような人形などいらん。つまらんからな」

「ならばケッセルリンクはどうだ?」

「ケッセルリンクは俺様の女だ。魔王だろうが何だろうが知った事か」

 スラルはランスとの問答を楽しむかのように笑う。

 そしてランスは気づく。

 今までエメラルドのようなスラルの瞳が、まるで血のように真っ赤に染まっているのを。

(これは…美樹ちゃんの時と同じか!?)

 ランスの驚きを余所に、スラルが一気にランスとの距離を詰め、その首を掴んだままベッドに押し倒す。

「ぐえっ!」

「ランス!」

「まーおー!」

「動くな」

 スラルが短くそう言うだけで、レダと大まおーの動きが止まる。

「ランス…お前は魔人となる。そして殺し、犯し、奪い、我を楽しませろ」

 スラルは妖艶に笑うと、ランスの唇を奪う。

「ムグッ!」

 それは男と女の口付けなどではなく、一方的にスラルがランスを犯しているだけだ。

 流石のランスも魔王の力には敵わず、なすがままとなっている。

「ランス…お前は私のモノだ」

 スラルの牙が光り、それがランスの首筋に当てられる。

(ヤバイ、ヤバイぞ! 俺様超ピンチだぞ!)

 今まさにランスに血が与えられようとした時、スラルは顔を上げると自分の頭をその手で打つ。

「スラルちゃん?」

「ラン…ス、逃げろ…」

 スラルの目が緑と赤の交互に変わっていく。

「これは…」

 ランスはかつての美樹を思い出す。

 あの時はシィルが犠牲となり、そしてあの小川健太郎の必死の説得とヒラミレモンがあってようやく収まった。

(むぅ…こんな時は)

「ランス! 逃げて!」

 レダの悲鳴が響き、スラルは必死に自分に中の魔王の血を押さえ込もうとしている。

 そしてランスは…

「と────っ!」

「って…何してんのよアンタは!?」

 ランスはスラルを逆に押し倒すと、一瞬の早業で全裸になる。

「がはははは! 普通に考えれば魔王から逃げられんだろ! だったら俺様は魔王に挑む!」

「何訳わかんない事言ってるのよ!」

「なせばなる! 昔美樹ちゃんもショック療法で魔王を抑えた! ならば俺が魔王にショックを与えるのだ!」

 ランスはそう言いながらスラルの服をあっさりと脱がす。

「ラ、ランス…!」

 スラルは突然の出来事に目を白黒させる。

 その間もその瞳は緑から赤にと交互に変わっていく。

「スラルちゃん! 俺は今から君を治療する! がはははは! 怖がる必要は無い!」

「ま、待て! 待って! 我は…私は初めてで…」

「大丈夫だ! 俺様は昔魔王ともヤッた事があるからな! 何の心配もいらん!」

「いや、そうじゃ無くて…」

「ではいくぞ! スラルちゃん!」

 ランスは尚も抗おうとするスラルの唇を無理矢理奪う。

 魔王であるはずのスラルはそれに全く抵抗できず…いや、スラルには抵抗の意思が全く無い。

(あ…私…)

「がはははは! 強くなれ俺様!」

 その日、スラルは女になった。




スラル散る
ランスだし手を出されるのは仕方ないね
もう少しでSS期が終わるかなぁ…
ちょっと急ぎすぎな気もしなくも無いです

カミーラが本気モードを維持
人類は苦労するけど仕方ないです
ランスのやる事が必ずしも先の人類のためになる訳では無いです
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