ランス再び   作:メケネコ

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戦いに向けて

「しかし付与にそんな力があるとはな…興味深い」

 ジル―――の中に居るスラルが興味深くシルキィの武装を見る。

 あまりじっくりと見る機会が無かったが、やはり特異な力というのは見ていて楽しいものだ。

「ランス君の剣も見てみたいんだけどいい?」

 シルキィはランスが持っている二本の剣を見る。

 シルキィの目から見ても名剣…いや、名剣などという言葉とは違う異質さを持つ剣だ。

 付与の力を持つ者として、ランスの持つ剣には非常に興味がある。

「別に構わんぞ」

 ランスは自分の武器にそれ程執着を持ってはいない。

 武器や防具は使えるものが有ればそれでいいという、ある意味冒険者らしい割り切りが出来る。

 ただ、ランスが長い間使っていた剣…魔剣カオスがランス専用な事と、五月蠅い以外はそこそこ使えるから使っていただけだ。

「ありがと…ってナニコレ!?」

 ランスから剣を受け取ったシルキィだが、そのあまりの重さに思わず手から離してしまう。

 そのまま床を凄い音がなって地面に落ちると思っていたが、その音は意外な程軽かった。

 そして改めて持とうとするが、凄まじい重さでシルキィの力を以てしても持ち上げるのでやっとだ。

「ランス…忘れたか。それはお前以外の者には持てないだろう」

「そういやそうだったな。特に気にしてなかったから忘れてたぞ」

 ランスはシルキィから剣を取る。

 あまりに軽々と持っているので、自分が感じた重さは嘘なんじゃないかと思ってしまう程だ。

「ランス君にしか持てない剣…って事? リトルが私にしか使えないのと同じようなものか…」

 ランスがテーブルに剣を置いたのを見て、シルキィは改めてランスの剣に触れる。

「…見た感じ普通の剣なのよね。でも、凄い力を感じる」

 付与の力を持つシルキィはランスの剣の異質さを見抜く。

 魔物兵すらも一撃で両断する恐ろしい切味…何よりも、アレだけ乱暴に使われて刃こぼれすらしていない。

 まるで新品のような綺麗な剣だった。

 シルキィはしばらく剣に触れていたが、ため息をついてその手を離す。

「ダメね。私の力なんて及ばないくらいの力を感じる…手を出せないか」

「ある意味当然だ。その剣にはとんでもない力が宿っているからな」

「まあ…そうね。私からしたら本当にとんでもない剣だし…」

 ランスの剣について知っているスラルとレンは苦笑する。

 なにしろその剣の力の源は今や破壊神ラ・バスワルドと言ってもいい。

 神の気紛れ…実際には神の実験なのだが、その剣はまさに人知を超えた力が宿っている。

 問題なのは、それは人間に扱う事は出来ないという事だろう。

「うーん…ランス君の力になればいいかと思ったけど、こっちは駄目か…」

「別に構わんぞ。それよりも防具の方が俺には重要だからな」

 ランスとしては今の剣に不満は無い。

 というよりも、カオスよりも手に馴染むし、何よりもランスの無茶苦茶な力にも耐えてくれるのはこの剣だけだ。

「シルキィさん。素材はこんな感じで良いですか?」

 ランスが剣を戻すと、カラー達が入って来る。

 その手には無数の布がある。

「ありがと。うん、これなら十分過ぎるかな」

 シルキィはそれを受け取って満足気な顔をする。

「…何か違うのか?」

 ランスから見ればそれはただの布だ。

 ごく一般的な物だし、違いは全く分からない。

「ランス君から見たらそうね。でも、カラーが作っただけあって特別性ね。これを元にしてランス君の服を作らないと」

「それは私達に任せて下さい!」

「男の人の服を作るのは初めてだけど頑張りまーす!」

 布を持って来た二人のカラーがランスの体にぺたぺたと触れる。

「じゃあランスさん服を脱いで下さいねー」

「私達、男の人の肌も見た事無いから、色々と調べないと分からないんですよね」

 そう言いながら二人のカラーは器用にランスの服をあっという間に脱がし、ランスは下着だけにされてしまった。

「…凄い技術ですね」

 日光はその光景を見て思わず感心してしまう。

 それはランスに抵抗もさせない、まさに一瞬の出来事だった。

「な、何だと!?」

 ランスもあっさりと自分の服を脱がされた事には驚く。

 まさに早業、ランスを以てしても全く抵抗も出来なかった。

「おー、これが人間の男の体かあ…」

「やっぱりカラーと全然違う」

 二人のカラーはランスの体を興味深そうに触る。

 1人のカラーはランスの後ろから抱き着くようにして、そのサイズを測っているようだ。

 その際にはランスの体…筋肉に触れているが、全くいやらしい感じはしない。

「そしてここに男の人にしか無い物が…」

「これがあればカラーが増えるんですよね…」

 そして二人はランスの下半身を見て顔を赤くする。

 流石にそこは恥ずかしいようだ。

「がはははは! 別に恥ずかしがる必要は無いぞ。健全な男と女なら当然…ぐがっ!」

「はいアウト。そういうセクハラは止めるようにハンティに頼まれてたから」

 ハイパー兵器を大きくさせようとしてたランスをレンが気絶させる。

「今のうちに測っちゃいなさいよ」

「…はーい」

「見てみたかったんだけどなー」

 二人のカラーは残念そうにランスの体にぺたぺたと触ると、互いの顔を見て頷く。

「これがランスさんの着ていた服だから…やっぱり緑が基準でいいかな?」

「いいんじゃない? ランスさん、緑が好きそうだし。後はランスさんの意見も聞いて調整しましょう」

 そう言うと二人は持って来た布を持って何処かへと言ってしまう。

「…凄い人…いえ、カラーですね」

「あの二人は服飾の才能が凄いでやんすからね…彼女達に任せれば問題無いでやんすよ」

 日光の言葉にベネットが頷く。

「…世代が違うのに分かるのですか?」

 ベネットはセラクロラスの時間移動に巻き込まれてしまったカラーだ。

 今の時代、ベネット・カラーを知っているカラーはハンティしか居ない。

「これだけ時間があれば調べられるでやんすよ。あっしはそういうのが仕事でやんすから」

「それだけ仕事が出来るのに残念なのね…」

「その残念というのが本当に分からないでやんす…人間だけでなく魔物にもディスられる筋合いは無いでやんすけどね」

 レンの言葉にベネットの額に青筋が浮かぶ。

 今でも自分への扱いに全く納得がいっていないのだ。

 特にユニコーンはベネットにとっての生涯の敵となっていた。

「で、シルキィ。お前の付与とはどんな事が出来る?」

「無機物から生物…それらを融合させる事で強くなるって感じね」

 シルキィの言葉にスラルは目を丸くする。

「…凄いな。我も付与は少しは出来るが、我に出来るのはランスの剣に魔力を付与させる事くらいだからな」

 スラルはシルキィの力に素直に感心する。

「でもランス君の防具に生物の力を付与っていうのはちょっと難しいかも…それを調べている時間も無いだろうし」

「ならば無機物…アイテムという事だな」

「ランス君が良ければなんだけど」

 いざ、付与の力を与えたくても、やはり目的は必要となる。

 やはりそれなりの代償が無ければ強くする事は出来ないし、方向性も考える必要がある。

「あだだ…おいレン! 何しやがる!」

「あ、起きた」

 二人が話しているとランスが頭を押さえて起き上がる。

「丁度いい。ランス、お前は自分の防具にどんなものを望む」

「なんだ藪から棒に。そんなの使えればどうでもいいわ」

「…それよりもランス君、服を着て頂戴」

 シルキィは呆れた様子でランスに服を差し出す。

「別に俺様が自分から脱いだ訳では無いだろうが!」

 ランスは文句を言いながらも服を着る。

「ランス、これは大切な事だ。どんなものでもやはり方向性は重要になる」

「俺は使えるならなんでもいいぞ。まあ確かに魔法は厄介だが…」

 魔法…これは絶対に命中するという、まさに理不尽な力。

 そしてランスが苦労するのは、やはり魔人や使徒の持つ強力な魔法だ。

 特にカミーラは最近ブレスだけでなく、魔法も使ってくるようになった。

 それでなくても、強力な魔法を使ってくる魔人はやはり強敵なのだ。

 これまでランスは多くの魔人と戦ってきたが、それは多くの仲間達…人類の中でも最強クラスの者達が居たからだ。

 それでも楽な戦いは無かった。

 今はレンが居るので防御に関しては何とかなってはいるが、それでもキツイものはキツイ。

「じゃあ魔法防御が優先か…素材とかも考えると難しくなるかな」

「そうなのか?」

「やっぱり魔法防御はね…そう簡単に上げられる訳でも無いし。付与は素材が重要」

 シルキィは頭を悩ませる。

 ただ、こうして自分の仲間のために悩めるのは贅沢な事だと心の中では笑みを浮かべている。

 これまで一人で戦ってきたが、こうして仲間と言える者達と出会えたのはやはり幸福だ。

「何かいい素材があるかな…今から見つけるとなると難しいけど…」

「ランス。お前の使っていない剣はどうだ?」

「アレか? まあ別に構わんが」

 悩むシルキィを見て、スラルがランスに尋ねる。

 以前、ランスが冒険で見つけた物に剣があった。

 名剣なのは間違い無いが、ランスには愛用の剣があるので殆ど使っていない。

 以前持っていたクリスタルソードはカラーに返却したので、これを第三の剣として使っていた。

「ジル…は居ないか。レン、取ってこい」

「自分で取って来なさいよ…ま、いいけどね」

 ランスの言葉にレンはぼやきながらもランスの部屋から一本の剣を取って来る。

 それは一見すると普通のロングソードではある。

 シルキィはそれを受け取って引き抜くと、その素材を見て目を丸くする。

「こ、これ…ミスリル銀じゃない!?」

「なんだそりゃ」

「なんだそりゃって…ランス君、本当にそういうのに無頓着なのね」

 ランスの言葉にシルキィは呆れてため息をつく。

「これは魔法に対して強力な耐久力がある素材なのよ。でも、まさか剣という形で見つかるなんてね…」

 シルキィはミスリル銀で出来た剣を見る。

 まさかこんな物を見られるとは思いもしなかった。

「でもこれがあればいい防具が出来るわね」

 シルキィは目を輝かせる。

「で、どれくらいで出来るんだ?」

「うーん…私もミスリル銀を使うのは初めてだし…1週間は時間が欲しいんだけど」

「じゃあ1週間後だな」

 ランスは全ての予定を決める。

 少々時間が空くが、それでも万全な態勢を取るべきだろう。

「それまでどうしますか?」

「別に好きにすればいいだろ。1週間なんてすぐだしな。万が一魔軍がもう一度来たらその時に考えれば良いだろ」

「…流石に魔軍が動くとしたらもう少し時間がかかるだろうな。まあ、魔王も本気だとは思えないからな。もし本気なら魔人を動かすだろうし」

 魔王ジルの時代ならば魔人も魔軍も好き勝手に動けなかったようだが、今は魔王ガイの時代。

 そして魔王ガイは人間を殺す事を命令している。

 流石に人類の絶滅までは考えていないようだが、それでも未来はどうなるか分からない。

 何しろ魔王ナイチサは事実人類の半分を殺したらしい。

「我はシルキィの付与を見ていたいが…お前達はどうする?」

「俺様は好きにするだけだ。まあやる事は沢山あるからな」

 ランスはグフフと笑いながら日光の尻に手を伸ばすのを、日光は手で叩く。

「とにかく出来るまでは待機だ待機。適当なダンジョンを見つけに行くのもいいな。がはははは!」

 そして時間は過ぎていく。

 

 

 

「ふぅ…」

 シルキィはランス用の服を前に汗を拭う。

「良くやるものだな。服は形を変えぬのに、確かな力は感じる」

 スラルはシルキィの付与の姿を見て感心した声を出す。

 どういう理論なのかは分からないが、それでもその力は感じ取れる。

「それが私の力だしね。それにしても…ランス君って本当に変わらないのね」

 シルキィはスラルの言葉に苦笑で返す。

 確かに今はそれぞれに動いているが、ランスは相変わらずだ。

 日光とレンとベネットと共にダンジョンに行ってるのはまだいいが、毎夜毎夜レンと日光を呼んでセックスをしているようだ。

「あいつは変わらんよ。そしてそれでいいんだ。あいつはそうした方が物事は上手くいく」

「私には良く分からないわね…ジルから話を聞いたけど、正直半信半疑だし」

 シルキィの言葉にスラルは苦笑する。

「別に信じる必要は無い。真実はその場に居た者だけが知っているからな」

「…だって無茶苦茶だもの。時間の移動とか、魔王と戦ったとか…彼女が元魔王とか」

「普通はそうなのだろうな…だが、全て事実だ。ランスはそれだけの激闘を潜り抜けてきた。それだけは信じて欲しい所だな」

「実力は信じてるけど…やっぱり性格はね…」

 スラルはその言葉には頷くしかない。

「まあ万人受けする性格では無いな。だが、あいつには人を率いるカリスマが有る。それはあいつにしか無い物だ。我もそれを見て…いや、もう昔の話か」

 思えばスラルもランスを魔人にしたかった。

 それは実力もそうだが、ランスには自分に無い圧倒的なカリスマを見たからだ。

 だが、自分は魔王の血に負け、消滅するはずだったのだが、ランスのおかげでこうして世界に留まれてる。

「人を率いる、か。私には無いものかな…」

 シルキィは少し羨ましそうに呟く。

 誰もが魔王を、魔人を、魔物を恐れ、自分の言葉に賛同してくれる者はいなかった。

 ただ一人、ランスだけが自分の言葉を受け入れてくれた。

 それが例え下心があったものだとしても、こうして魔物や魔人と戦っているのは事実だ。

「で、お前は本当にランスに抱かれるつもりか? 変な約束をするとあいつはそれを盾に色々と要求してくるぞ」

「そ、それは…勢いで言っちゃって…」

 シルキィの困った顔にスラルは呆れたため息をつく。

「全く…あいつは本気で実行するぞ。女の事に関してはあいつは本当に妥協しないぞ」

「そ、そうなんだ…」

「ああ。あいつはそういう男だ。だからこそ、色々な意味で信頼できる男でもあるぞ。分かりやすいとも言うがな」

「ううう…今から無かったことには出来ないかな…」

 シルキィの言葉にスラルは首を振る。

「ダメだな。あいつは一度約束した事は必ず守らせるぞ。事実、あいつはそういう約束は守る男だ。だから魔人を倒すまでお前には手を出さないしな」

「はぁ…やっぱりだめかぁ」

 困った顔をするシルキィだったが、その顔が真剣になる。

「ランス君が本気なら…私も本気で応えなきゃだめね。ランス君が妥協しないなら、私も妥協無しでやらなきゃ」

 ランスの服を手にシルキィは真剣な顔をする。

「相手は魔人、用心に用心を重ねても尚不安だしね」

 そんなシルキィに対してスラルは笑う。

「お前も大概な奴だな」

 こうして時間は過ぎていき―――全ての準備が整った。

「ほー。これが俺様の新しい服か」

「そう、これがランス君専用の服。ミスリル銀は全部使っちゃったけど…これで凄い魔法防御力を持った防具の出来上がりよ」

 シルキィは胸を張ってランスに服を手渡す。

 これはまさに会心の出来であり、シルキィとしてもこれを上回る防具を作れと言われても困るだろう。

 それだけミスリル銀は希少であり、また素晴らしい道具だった。

(…ちょびっとだけ端材は貰っちゃたけど)

 ただ、本当にちょっとだけ、シルキィはミスリル銀を拝借してリトルの強化に使ってしまった。

 これはランスには隠さないといけないが、まあランスが追及してくる事は無いだろうという打算もあったのは彼女の秘密だ。

「はーい、じゃあ着せますねー」

「大人しくしてて下さいね、ランスさん」

 そして何処からともなく二人のカラーが現れると、あっという間にランスに新しい服を着せる。

 それはランスでも止めようもない早業で、ランスも何時自分が着替えさせられたか分からない程だった。

「…たまにカラーにはお前達みたいな奴が居るな」

「世界は広いですからねー」

「そうそう。私から言わせればベネットさんの方がよっぽどですし」

「いや、あいつは大概だと思うよ。ま、出来る事が有るのはいい事だけどね」

 二人のカラーの言葉にハンティが苦笑する。

「ランス。それはカラーも協力した大切な物だ。大切にしなよ。じゃないと、カラーの呪いがあるかもしれないよ」

「怖い事を言うな!」

 ハンティの言葉にランスが怒鳴り、ハンティが笑う。

「でも良かったの? カラーのクリスタルまで使っても…」

「いいんだよ。死んだカラー達だって、あんた達に使ってくれた方が嬉しいからね」

 シルキィの言葉にハンティの顔が沈む。

 ハンティはランスの服の付与の材料にカラーのクリスタルを提供してくれた。

 正確にはカラーの女王が提供してくれたのだが、それは即ちカラー全体の総意という事になる。

 そしてカラーが渡してくれたクリスタルは、色々な理由が有ってクリスタルを取られて死亡したカラー達の遺したモノなのだ。

「始祖様の言う通りです。それに…ランスさんはカラーを救ってくれた方です。むしろこれくらいしか私達には返せるものがありません」

「別に構わんぞ。まあ俺様は体で返してもらった方が…いや、何でも無い」

 ランスの言葉にハンティが凄い目でランスを睨んできたので、流石のランスも言葉が無くなる。

「ランス様。これで準備は完了ですか?」

「おう。ジル、お前ももう本当に大丈夫だな」

「はい。魔力も戻りましたし。ランス様の足を引っ張るような事はしません」

 ジルももう完全に治ったようで、ランスはその頭をぐりぐりとする。

「よし、じゃあ行くぞ」

「はい、ランス様」

「了解」

「分かりました」

「これからが本番ね…」

「あっしもついて行きますよ」

 ランスの言葉に魔人討伐に参加する者達が返事をする。

「私は参加は出来ないけど…そっちに伝えた情報は役に立ててよ」

「それは大丈夫です。ランスもその点に関しては慎重ですし」

 ハンティはシルキィの付与の時間の間、世界を巡って色々な情報を仕入れてきていた。

 取り立て大きな情報は無いが、逆に言えばランスが魔物大将軍を倒した事は魔王にとっては特に大きな出来事では無かったという事の表れだった。

 それは何よりも大きな情報なのかもしれない。

「がはははは! シルキィの処女を頂くためにもとっとと魔人をぶっ殺すぞ!」

「だからそう言う事は言わない!」

 堂々と変な事を言うランスに対し、シルキィはその頭を叩くのだった。

 そしてランス達がペンシルカウを出ると、ベネットがある方向を見て目を細める。

「どうしたの? ベネット」

「うーん…ま、カラーに影響は無さそうだから放っておいたけど…もしかしてこれって別の案件でやんすかえねえ…」

「何の話?」

「やっぱり旦那と姉御達関連かなーって。でも一体何がどうなってるのか、あっしにはさっぱりでやんすよ」

 ベネットはため息をつくと、何者かが消えた気配があった所から目を離した。

 

 これはランス達がメディウサを倒すための準備をしてる間の出来事。

 ベネットは木の上で何者かを追跡してた。

「このっ! 一体何なんでやんすか!」

 その視線を感じ取り、ベネットはすぐさま追跡を始めた。

 それが何なのかは分からなかったが、木の間からハッキリと感じられる気配に対し、彼女は動くしか無かった。

「レンの姉御が居れば問題無いでやんすけどね…」

 もしこの場にレンが居れば、問題無く今自分が追跡している存在を捕獲、又は撃退が出来ただろう。

 だが、今彼女はランスと共に冒険に出ているので存在しない。

 そして悩んだ末に、ベネットはこちらを見ていた者の情報を得るべく動いた。

 ベネットはさり気なく動いたのだが、その監視者はベネットの存在に気づくとあっさりと逃げ出す。

「森の中でカラー…それもあっしの追跡から逃げられる?」

 森の中はカラーの独壇場、そしてベネットはその手のスペシャリストでもあった。

 だが、相手はそのベネットを相手に逃げている。

 幸いにも見失ってはいないが、相手は凄いスピードで木から木に移動していた。

(一瞬見えたけど白い毛をしてた。パワーゴリラにしては細すぎるでやんすけど…)

 まるで猿のような手足で木々をかけていく。

「だけど…これならどうでやんすか!」

 ベネットはナイフを取り出すと、それを相手が移動するであろう方向へと投擲する。

 ベネットのナイフは相手に当たり、相手は一瞬バランスを崩して地面に落ちる。

「ビンゴ!」

 ベネットはそのまま相手を取り押さえようとするが、相手の強烈な蹴りを喰らって吹き飛ばされる。

「んぐ!?」

 その衝撃にベネットは木に叩きつけられる。

 が、即座に態勢を立て直すと、ナイフを手に攻撃してきた相手を見据える。

 それは非常に奇妙な存在だった。

「フォロルルルルル……」

 相手はベネットを見て唸るような声を出す。

「何なんでやんすか、こいつは…女の子モンスターなんかじゃない。まるで…」

 まるで使徒みたい―――そう思う前に相手―――使徒タルゴはベネットに向かってくる。

「っく!」

 タルゴの一撃をベネットはナイフで何とか反らす。

 それは魔物兵の一撃すらも軽く上回っている。

 まともに喰らえばベネットでも命を落とすだろう、そんな一撃だった。

「この!」

 ベネットはナイフを振るい、タルゴに反撃をする。

 が、タルゴはその足で跳躍すると、再び木の上へと移動する。

 そしてあっという間にベネットの視界から消えていく。

(追えはする…でもあっし一人じゃ勝てないでやんすね…)

 これほどの力を持つ存在は魔人の使徒だと確信し、ベネットは追うのを断念する。

「でも一体何者でやんすか…? 魔人メディウサの使徒…とはちょっと思えないでやんすが…」

 魔人メディウサならば再び魔軍を動かしそうなものだ。

 そして、あの使徒はカラーの里を探していたというよりも、こちらを監視していたように思えた。

「やっぱ旦那達でやんすかねえ…でも、今はメディウサの方が重要…」

 ベネットとしては今の相手も気になるが、少なくとも殺気や悪意は感じ取れなかった。

 意図は不明だが、今の状況で出来る事は無いのも事実だ。

「カラーとしてはやっぱりメディウサをどうにかしないといけないでやんすからね…そっちが終わってからじゃ無いと報告も難しいでやんすか…始祖様には報告しておくでやんすか」

 ベネットはこの状況に頭を抱えながらも、今出来る事をするべく移動するしかなかった。

 

 




なるべく早く仕上げるべく頑張っていますがやっぱり大変…
やっぱり冬は辛いです
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