魔王城―――そこはこの世界の支配者の居城で有り、前魔王であるジルが使っていた城である。
ガイはその魔王城をそのまま使っており、今でも城の改修が行われている。
その魔王の城の魔王の間で、現魔王であるガイが座っている。
そしてその前には一人の男が跪いて居る。
「バークスハムか」
「はい、ガイ様」
ガイの前に跪いて居るのは真っ白い髪と肌を持つ男、魔人バークスハムだった。
「お前の言う変化…それがどうなるか」
「お戯れを…私の力など魔王様の前では塵に等しい」
「フッ…だがお前には私に見えない物が見える。で、何か見えたか」
「ええ…大変面白いものが」
バークスハムの言葉にガイは笑う。
「お聞きにならないのですね」
「ああ。楽しみにしておこう。お前の言う良き未来とやらをな」
主の言葉にバークスハムも苦笑するしかない。
(さて…未来はどうなるか…それを見極めるためにも、私も使徒を選ばなければならぬ。この暗き世界を晴らす一端のなるべき者を)
「オラァッ!」
レイは稲妻を纏った強烈な一撃を悪魔に放つ。
魔人レイの戦いは完全に喧嘩の域だ。
人間の頃からレイはこの技であの魔王ジルの時代を好きなように生きてきた。
レイはそれで十分だったが、ある日その日常は崩れた。
突如として自分の上に降って来た男―――ランスにレイは負けた。
それからレイはランスに勝つ事を目的にし、ランスと共に行動をする事を選んだ。
一匹狼だったレイが初めて他人に興味を持った瞬間だった。
紆余曲折を得て魔人となったが、それでもランスに勝ちたいという意思は消える事は無かった。
そしてランスがメディウサを倒すところを見届けてからランスに挑もうとした時、予想もしていない邪魔が入った。
それが目の前の悪魔という存在。
レイは自分の目的の邪魔をした悪魔を許す気は毛頭なかった。
「悪魔がどんなもんなのか、しっかりと楽しませやがれ!」
「乱暴ね」
そしてもう一つ、レイは悪魔という存在に興味があった。
レイはある縁が有り、魔人ケッセルリンクとは魔人の中では比較的には親しくしている方…だと一応は思われている。
事実、レイはケッセルリンクに挑んでは返り討ちにされ、彼女のメイドに傷を癒して貰った事もある。
その中でレイは使徒達から色々な話を聞いた。
その内の一つに悪魔という存在の事も知った。
何でも悪魔の前では無敵結界が作用しないらしい。
ただ、レイは長年の生でも悪魔には遭遇した事は無く、それが本当なのかは分からなかった。
「アンコク!」
悪魔はレイの拳を避けると、そのまま強力な魔法を放つ。
レイは悪魔の魔法を受けて吹き飛ばされる。
そして傷ついた自分の体を見てニヤリと笑う。
「成程な。どうやら無敵結界が意味無いって事は事実らしいな」
「そう。いかに魔人と言えども悪魔の前ではその力は意味をなさない。アンタ達は素直に人間を殺してればそれでいいのよ。それなのに何で邪魔する訳? 魔人のアンタが」
「お前が気に入らねえからだ。理由はそれだけで十分だろうが!」
レイの言葉に悪魔は眉を顰める。
レイの言っている事はそれだけ無茶苦茶であり、悪魔である彼女には理解しがたいものだった。
「本当に煩いわね、あなた」
悪魔は明らかにイラついた顔となり、その気配が濃厚になる。
レイはそれを感じて尚、唇を吊り上げる。
「オラァ!」
「黙りなさい。チョウアンコク」
悪魔の魔法がレイに突き刺さる―――と思った時、レイの前にレンが立つ。
そして強力な防御能力で悪魔の魔法を防ぐ。
「調子に乗らない事ね。悪魔が」
レンは普段の態度と違う、冷酷な目で悪魔を睨む。
そんなレンに対して悪魔は何かを感じ取り肌を粟立てる。
が、そんな時間も渡さないと言わんばかりにレイが悪魔に突っ込んでいく。
「吹っ飛べ!」
レイの強烈な蹴りが悪魔に突き刺さる―――前に悪魔が翼を使ってレイの蹴りを避ける。
「ライトボム!」
そこを狙ったかのように、レンの魔法が悪魔に炸裂する。
「!」
その威力に悪魔は目を見開く。
吹き飛ばされた悪魔は体から流れる血を見てレンを睨む。
「…この威力ホントに人間?」
悪魔は自分がここまでの傷を負ったことに目を細める。
彼女は第肆階級悪魔、その強さは上位の魔人にも引けを取らない。
かつてこの世界で暗躍した第参階級悪魔の月餅は、当時の魔人の中でも最強格であったあのザビエルを封印する事に成功したほどだ。
悪魔もまた神と同様に完全な階級社会、余程の事が無い限り強さは階級通りとなる。
はぐれ悪魔という例外も居るが、彼女はあくまでも普通の悪魔だ。
その自分に対し、これまでのダメージを与える人間などそう居るものではない。
(AL教団なら悪魔に対する対抗策が有るみたいだけど…今の環境でAL教団が力をつけている訳が無い)
悪魔にとってはAL教団は敵だ。
ただ、いくら敵だといっても無暗に喧嘩を売るほど悪魔はバカではない。
むしろ臆病とも言えるくらいに慎重…言い換えれば腰が重い。
天使に目を付けられないためにも、悪魔はなるべく慎重に動く必要がある。
(じゃあこいつは天使? いや、でもそんな気配は感じられない)
悪魔はレンを見て考えを巡らせるが、そこにレイが襲い掛かって来る。
「おらあっ!」
レイの強烈な拳を悪魔は避ける。
(この魔人も無視していい力じゃない)
1対1ならこの魔人もどうとでも出来る。
悪くても相打ち、普通に対抗できる相手だ。
(でもあの女が邪魔だ。あいつ…強い)
レンは今は天使―――神の力は使っていない。
それでも彼女の強さは非常に高い。
(どうしようかな…逃げてもいいんだけどね)
悪魔はメディウサの方を見る。
メディウサはランス、シルキィ、ジルと戦いを繰り広げておりこちらを手助けする余裕は無いだろう。
それにあの人間の男の強さは正に異常だ。
(あの魂を捧げれば…私の階級も上がるのは間違いない)
悪魔にとっては階級は何よりも大事だ。
悪魔は上の階級の者には絶対服従、それを拒否する事は出来ない。
尤も、上の者がそれほど無茶な要求をしてくる事は無いのだが、それでも彼女は上に行きたいという野望を持っていた。
そのためにも、あの強い人間の魂を持ちかえればそれこそ昇進は間違い無いだろう。
そのチャンスをみすみす溝に捨てる程臆病でも無いのだ。
「くたばれ!」
「もう…煩いわね。アンタには用は無いんだけどね」
魔人レイの一撃をバリアで防ぐ。
その強固なバリアにはレイも舌を巻くしかない。
「チッ…うざってえバリアだな」
「それはそうよ。それが第肆階級悪魔の強さ」
レイもこれまで色々な敵と戦ってきた。
(流石にあの時の魔王…ククルククルよか断然大したことねえ。だが、こうも面倒臭いとはな)
その中でもあの時にランスと共に戦った魔王の一部が一番の強敵だった。
その後も魔人ケッセルリンクに挑んだり、魔人レキシントン、魔人カミーラ、魔人ノスにも喧嘩を売って来た。
そういう事をしているからレイはチンピラだとヤンキーの魔人だのと揶揄されているのだが、それでもレイにとっては意味の有る事だった。
だが、この悪魔はこれらの魔人達とは違う。
(こいつの目的は俺じゃねえ…ランスか)
レイはメディウサと戦っているランスを見る。
理由は分からないが、この悪魔はランスをどうにかしたいというのはこの戦いで分かる。
その証拠に、レイに対しては煩いとは思っていても、絶対に殺すという意味での必殺の殺気が感じられない。
(って事はそこに付け込めるか? …いや、ガラじゃねえな。ランスじゃあるまいし)
自分の中に出てきた考えを自分で苦笑する事で断ち切る。
「何よ、こんな状況で笑うなんて。余裕のつもり?」
「ああ、そうだぜ。お前はこれまで俺が戦って来た奴の中じゃあ大した事はねえ。ま、ウザい事だけは認めてやるよ」
「…言ってくれるわね」
レイの言葉に悪魔は不愉快そうに顔を歪める。
「ホワイトレーザー!」
そんな中、レンの魔法が悪魔に突き刺さる。
「私を無視とは馬鹿にしてくれるわね。アンタ、ホントに悪魔?」
「………」
悪魔は起き上がってレンを睨む。
「…そう、そういう事。確かに面倒だけど…ここで殺せば関係無い」
悪魔から強烈な気配が放たれる。
「本気になったって事? ま、そっちの方が有難いわね」
レンは悪魔が本気で自分を殺そうとしているのを察し、表情を引き締める。
ここからが本気、つまりは第肆階級の悪魔が殺しにくるという事だ。
レンが以前に狙った悪魔―――フェリスは色々な理由があって弱い悪魔となっていた。
その時にランスに撃退され犯されたのだが、その時はフェリスを見逃す事にした。
それはフェリスの階級が低かった事と、人間に負けたという事があって誰にも言えなかったが…今回は話は別だ。
(流石にあの時の悪魔…第参階級悪魔のフィオリよりは弱い。でも、階級は一つしたの肆階級。今の私一人じゃ厳しい相手)
もしこれが自分一人ならとっとと撤退していただろう。
そしてこの悪魔も天使と戦うという選択肢を取らず、逃げていたのは間違いない。
(でも…レイが居れば戦える。そして確実に倒すために…今の私が本気で戦うのは相手を確実に倒す時、止めを刺す時にしたい)
神の力を全開に出来ればもっと楽に渡り合えるだろうが、それだと間違いなく相手は撤退を選ぶ。
それをさせないため、相手に『自分達を倒せる』と思わせなければならない。
(相手は私の正体に気づいたはず。でも、私の強さを誤解してくれれば…十分付け込める。本当はランスが居てくれれば楽なんだけどね)
今ランスはメディウサと戦っているので助力は望めない。
(でも…私を引き上げてくれたクエルプラン様、そしてALICE様の命令通り…ランスを悪魔から守って見せる)
ちなみにレンは未だにALICEの命令を誤解しているのだが、それは誰も知る事は無かった。
「死、ねええええええええ!」
ランスの強烈な一撃がメディウサの腕を痺れさせる。
「この…人間如きが…!」
あまりの衝撃にメディウサが唇を噛んでランスを睨む。
この人間の剣の腕前はまさにバケモノ、それこそ魔人の中でもランス程の技を持つ者は居ない。
メディウサも剣を使う魔人は少しは知っている。
闘う気は更々無いが、魔人ガルティア、そしてつい最近魔人四天王になったケイブリス…それらは剣の腕前も凄い。
ケイブリスとはまだ小さいリスだった頃から知っている仲で、今の強さになったケイブリスの腕前も知っている。
ケイブリスには全く勝てる気はしないが、目の前の人間からはそのケイブリスとはまた別の恐ろしさを感じさせる。
(ありえない…こいつは人間だ! ジルが目をかけてたとはいえ…ただの人間だ!)
その人間に魔人が破れるなどあってはならない。
人間など魔人にとってはとっておきのオモチャでしかないのだ。
(いや…こいつは本当にただの人間なのか? そもそもどうしてまた私の前に現れる?)
ランスの凄まじい気迫…そして恐ろしい殺気にメディウサは飲まれそうになる。
そもそもこの人間が再び現れる事なんて無いと思っていた。
ジルがいくら言っていたとしても眉唾だと思っていた。
そして今戦っても、あの悪魔が居るのだから問題無いと思っていた。
だが、物事はそううまく運ばない。
まさかの魔人レイが自分の邪魔をするために動いているのだ。
そう思うとメディウサは腸が煮えくり返る様な怒りを覚える。
(こいつだ。こいつが居るから全てが狂った)
この人間がいなければ自分はもっと好き勝手出来ていたはずなのだ。
ジルだって自分にあんな冷たい無関心な視線を向ける事も無かっただろう。
それなのに、この人間は全てをぶち壊しにした。
「お前だけは殺してやるよ!」
メディウサは憎悪を剥き出しにしてランスに襲い掛かる。
「むっ」
その強烈な気迫はランスをして驚かされる。
これまで戦って来た魔人の殆どは人間を馬鹿にし、見下してきた。
アイゼルも、サテラも、そしてカミーラもカオスを持っているランスを見下していた。
だが、ここまでランスに憎悪を剥き出しにする魔人はランスも見た事が無い。
ゼスでのカミーラは最後の戦いではランスを付け狙ったが、そのカミーラもランスに敗れて直ぐに全てを諦観したような顔になった。
しいて言えばあの魔人ザビエルに近い。
だがしかし、ザビエルとの決定的な違いがある。
「がははははは!」
メディウサの猛攻をランスは全て凌いで見せる。
いかに力が人間より優れて居ようとも、それはレキシントンには程遠い。
メガラスのようなスピードも、ノスのような硬さも無い、カミーラのような圧倒的な強さも無い。
行ってしまえばメディウサはランスにとっては凡庸な魔人でしか無い、それ程までにランスは多くの魔人と戦ってきたのだ。
「雑魚が何をしようが所詮は雑魚だな!」
「人…間…!」
メディウサはランスの圧倒的な剣技に弾き飛ばされる。
腕力では圧倒しているはずなのに、何が何だか分からない内に自分が追い詰められるのだ。
メディウサからすればこんな理不尽な事は無いだろう。
だが、それこそがLV3技能というこの世界のバグのような技能だった。
「行ける…!」
ランスとメディウサの戦いを見てシルキィは確信する。
確かにメディウサは強い…もし自分が初見でメディウサと戦っても間違いなく負けていただろう。
(これもランス君がメディウサの能力を知っていたからか…)
ランスの言っている事は眉唾物だったが、こうなっては最早信じるしかない。
相手の能力のタネさえ割れてれば、いくらでも対策が可能なのだ。
そしてメディウサの能力で厄介なのは視線で相手を石化させる能力。
だが、それはランスに完全に見切られているのだ。
勿論相手との視線を切りながら戦うなんて器用な事は自分には難しい―――だが、ランスならばそれが出来るのだ。
時折妖しく光る視線を避けながら、ランスは確実にメディウサにダメージを与えていた。
「まだです…ランス様でもまだ相手に有効なダメージを与えられていません」
「え?」
ジルの言葉にシルキィはメディウサを見る。
「あ…」
彼女の言う通り、メディウサは何度かランスの剣やシルキィの攻撃、そしてジルの魔法を受けながらも疲労した様子は無い。
それどころか、ランスがつけたであろう傷は既に塞がっていた。
「メディウサは強固な装甲を持っています。そして魔人の持つ再生能力。それとランス様の持っている日光による攻撃だけは確実に防いでいます」
「そうか…」
「このままではランス様の体力の方が先に尽きるかもしれません。それを打開するには、日光で大きなダメージを与えて、魔人の再生能力を封じないといけません」
「日光ならそれが出来るの?」
「はい。聖刀日光には魔人の持つ再生能力を封じる力があるってスラルさんも言ってました」
ジルの説明を聞き、シルキィもそれに頷く。
「じゃあ隙を作らないと…ジル、自分の身は守れるかしら?」
シルキィの言葉にジルは頷く。
「はい。今の私なら少しなら魔人の攻撃も防げます。だから…シルキィさん。ランス様を援護して下さい」
「分かったわ!」
その言葉を聞き、シルキィも再びメディウサに突っ込む。
「はあああああ!」
シルキィはリトルを槍の姿に変えると、ランスと斬り合っているメディウサの脇腹を突く。
その強固な皮膚はシルキィの力を持ってしても貫く事は出来ない。
「ちょこまか煩いわね!」
メディウサは苛立ったように股間の蛇でランス達を薙ぎ払う。
シルキィにとってはそれは恐るべき一撃だった。
「ぐあっ…!」
何とか防御はしたが、それでも凄まじい威力に手が軋む。
身に纏っていたリトルも一部が砕け、シルキィはそのまま壁に叩きつけられる。
その衝撃に息が詰まるが、それでもシルキィの目はランスとメディウサの戦いを目に納めていた。
「アンタ…本当に人間…!?」
そしてメディウサは目を見開いてランスを凝視する。
そこにあるのは確かな困惑、そして僅かな恐怖だった。
「フン、お前の攻撃は全て見切ったわ!」
ランスは何とメディウサの蛇の攻撃を飛ぶことで避けたのだ。
それもただ飛ぶだけでなく、その蛇を蹴って宙を飛び、メディウサに一撃を喰らわせた。
何とかランスの一撃を剣で受け止めたメディウサだが、その二人の剣技の差故か、メディウサの剣はランスの一撃に負けて砕け散っていた。
まさか自分の獲物…それも長い年月をかけて見つけたモノを真正面から砕かれる等思っても居なかったメディウサはランスの一撃をまともに受けた。
ランスの一撃はメディウサの肩に突き刺さる。
更にランスは追撃を行おうとするが、メディウサはそのままランスを睨む。
ランスはメディウサから視線を外すが、メディウサはそれを見てニヤリと笑う。
「む!?」
ランスはそのメディウサの表情を見た訳では無いが、自分に迫る殺気は明確に感じ取っていた。
メディウサの方を全く見ないまま日光を抜き放つ。
するとその手に凄まじい衝撃が走り、流石のランスも吹き飛ばされる。
「今度こそ…死ね!」
そして感じる確かな魔法の気配。
「げ!」
ランスはメディウサに一杯食わされた事を悟る。
あれはランスを石にする視線ではなく、それを囮にしてランスに攻撃を加えるのが目的だったのだ。
「ライトニングレーザー!」
メディウサの強力な魔法がランスを襲う。
魔法は絶対に当たるので、避ける事は出来ない。
「ランス様!」
だが、避ける事は出来なくても防ぐ事は出来る。
ランスの目の前に立ったジルが魔法バリアでメディウサの魔法を受け止めたのだ。
「ジル!」
「く…」
メディウサはどれ程の力を込めたのか、その一撃はジルの魔力をもってしても完全に威力を殺す事は出来なかった。
「きゃあ!」
その威力に負け、魔法バリアは破られてジルは吹き飛ばされる。
「ジル! ランス君!」
シルキィは慌ててランスに向かって走っていく。
ランスは吹き飛ばされたジルの体を受け止めるが、そこにメディウサの蛇の目がギラリと光る。
「まずは…その小賢しいガキからよ」
その殺気はランスではなくジルに向けられる。
ランスはジルを受け止めているので、その一撃は防げない―――はずだった。
「は?」
それはあまりに不可解な出来事、メディウサの蛇が目に見えない壁にぶつかったように弾かれたのだ。
「な、何が…」
そしてその動揺がメディウサの隙を呼ぶ。
ランスはジルを素早く寝かせると、そのままの勢いでメディウサに向かって来たのだ。
「ラーンスあたたたたーーーーーっく!!!」
そのままメディウサに―――メディウサの蛇に向かって必殺の一撃を放つ。
黒く輝くその剣は不気味オーラを纏っていたのだが、メディウサはそれに気づく事は出来なかった。
「ぐ、ぐああああああああ!? へ、蛇が…あたしの蛇が…!?」
その一撃がどれ程の威力を持っていたのか、メディウサの股間の蛇がそのまま宙を舞う。
『ランス、私が出来るのはここまでだ。後は…任せる』
「フン、手が出せるなら最初から言え」
ランスは剣の中から聞こえてきた声に応える。
メディウサの蛇を断ち切った輝きが薄れるが、ランスはそのまま構わずメディウサにむかって突き進む。
その手には刀が握られている。
(ダメだ…! あの刀だけはまずい!)
メディウサはダメージを受けながらもそれだけは理解する。
ランスの刀を残ったもう一本の剣で受け止める。
「お前は絶対殺す!」
ランスは怒りの表情を浮かべながら刀でメディウサを斬りつける。
メディウサは何とかランスの一撃をやり過ごすが、その時に自分の体に凄まじい痛みが走る。
「は?」
自分の胸から一本の刀が生えてきたのだ。
「え?」
メディウサは困惑するが、体が焼かれるような痛みに叫び声を上げる。
そしてそのまま力任せにランスを、そして自分の背後に回っていたシルキィを吹き飛ばす。
「…な、そんな」
「フン、今更気づいたか」
「そうね。私なんか数にも入れてなかった…だから気にも留めない」
シルキィの手にあったのは…聖刀日光。
「ランス君」
シルキィは日光をランスに向かって投げる。
「おう、よくやったぞ、シルキィ」
「まあ…これくらいはね」
ランスの言葉にシルキィは苦笑する。
メディウサの蛇がジルに届く前にシルキィはランスの側に辿り着いた。
蛇は突如として弾かれた時、ランスはシルキィに日光を手渡した。
シルキィはそれで全てを察した。
メディウサの意識は完全にランスに向いており、シルキィの事は大したことは無いと思い込んでいる。
だからこそ―――ランスはそこに付け込んだ。
メディウサにとっては大したことは無いのかもしれないが、シルキィは人類の英雄になれるほどの逸材なのだ。
そんな彼女ならば日光を使えば魔人に致命傷を与える事は出来るのだ。
「バカな…バカな…!?」
メディウサは吐血しながらランスを憎々し気に睨む。
日光による一撃を受けた傷は再生する様子が無い。
心臓だけは辛うじて外れたようだが、それでも致命傷には間違い無かった。
「フン、ようやく終わりだな」
ランスは刀を構える。
「ランス殿?」
自分を使わないランスに日光は怪訝な声を出す。
「がはははは! 喜べ、お前が俺様の新必殺技で死ぬ最初の奴だ」
ランスは刀を構える。
(この型は…)
日光は剣だからこそ分かる。
ランスの構えは正に日光が教えた居合の構えだ。
だが、そこはランスと言うべきか日光が教えた物とは違っている。
「や、やめ…」
「ダメだな。女の子を殺したお前は絶対に許さん。死ね」
ランスが無慈悲にメディウサの言葉を斬り捨てる。
そしてそのまま一歩を踏み出す。
「新ランスアタタターーーーーック!」
メディウサにはランスが突然消えたようにしか見えなかっただろう。
「え?」
何かが自分の体を通り抜けていった感覚にメディウサは困惑する。
チン、という音がメディウサの背後から聞こえる。
同時にメディウサの全身から大量の血が噴き出す。
「うむ、流石俺様。新しい必殺技の威力も絶大だな」
ランスは新たな必殺技の感触に何時ものように得意気に笑みを浮かべていた。