魔王ククルククル―――初代魔王にして最強の魔王。
先にランス達は神の試練として魔王ククルククル…の本体ではなく、その一部と戦った。
それは紙一重の勝利で有り、魔人四天王であるケッセルリンク、カミーラ、そしてドラゴンであるカイン等強力な存在が複数居て初めて勝つことが出来た。
それ程までに強力な存在だった。
「何でこいつがこんな所に居るんだ!」
「お前の剣の中だからだろう。恐らくはお前を呼んだのは奴だ」
「何だと!?」
ランス達が言い合っていると、ククルククルがランス達に向かって来た。
そして以前と同じように触手を使ってランス達に襲い掛かって来る。
「って武器は…ある!」
ランスは何時も自分が使っている剣がきちんと手元にあるのにニヤリと笑みを浮かべる。
そして迫りくる触手を凄まじい速度で斬り落とす。
「がはははは! 以前の俺様では無いわ! お前の触手なんぞ俺様の剣にかかれば…」
ランスは勝ち誇った笑いをするが、その言葉がどんどん小さくなっていく。
ランスが斬り落としたはずの触手は瞬く間に再生し、ククルククルはそれを誇示するかのように悠然とランスを見下ろして居た。
「無駄だ。奴の再生能力を忘れたか。私の闇でもほとんど意味が無い…アレはそういう存在だ」
「そんな奴が何でこんな所に俺様を連れてきたんだ!」
「さあな。生憎とククルククルとは会話が成り立たない。恐らくは言葉を持っていないのだろう」
ククルククルの触手の先端の女性の部分が口を開く。
「げ!」
「来るぞ、ランス!」
それを見てランス達は一斉にその場から飛ぶ。
ククルククルの口から衝撃波が放たれ、ランス達が居た場所を大きく抉る。
そのままククルククルは巨体に似合わぬ速度でランスに接近する。
「くっ!」
ランスは剣を構えてククルククルを迎え撃つしか無かった。
「たあああありゃああああ!」
ランスは勢いよく剣を振る。
その一撃は強烈で、ククルククルの触手の先端の女性の部分の胸に突き刺さる。
が―――それだけだ。
「あんぎゃああああー!」
「ランス! その部分は体の一部分に過ぎない! 人のように見えても実際にはそうではない!」
「忘れていたわ! そんなの!」
ククルククルは触手でランスを拘束すると、その女性の部分でランスを見る。
一応目はついているが、本当にその部分がランスを認識しているかは分からなかった。
そしてその口が開き、流石のランスも死を覚悟させられる。
が、そこからククルククルは動かなかった。
何かをしようとしているのは分かるが、それが何を意味するかはランスには分からない。
「ランス!」
ケッセルリンクはククルククルに対して魔法を放つが、やはり魔王の耐久力の前ではそれほど意味をなさない。
ケッセルリンクの魔力を持ってしても、魔王の体からランスを解放する事は出来ないのだ。
ククルククルは何かをしようとするが、それが出来ない事に気づいたのか、ランスを拘束から解放する。
「大丈夫か! ランス!」
ケッセルリンクは触手から解放されたランスを受け止める。
「こいつは何がしたいんだ!?」
ランスは解放された事に驚きつつも、全く意図が読めないククルククルの行動に困惑する。
ククルククルは再びその女性の部分の顔をランスに近づける。
そこには敵意は全く無く、ランスとしてもどう動くのが正解なのか分からない。
何しろランスの剣であろうとも、ククルククルには大したダメージにはならないからだ。
「私は何となく分かるがな」
「なんだと」
「スラル様やジル様のと同じだ。この魔王はお前を魔人にしたいのだろう。あの行動も、魔王の血をお前に与えるためだと思えば納得がいく」
「じゃあなんでやらんのだ。意味が分からんぞ」
「したいだけで出来ないのだろう。この魔王は本来の魔王ではなく、その体の一部だ。目の前のククルククルは魔王であるが魔王ではない…だからお前を魔人にしようとも出来ないのさ」
「どういう事だ」
「言葉通りさ。ククルククル自身に魔王としての認識が有る。だからこそ、お前に血を与え魔人にしようとしている。しかし、魔王の力は有っても能力が無いのさ」
「…じゃあ奴が本体なら」
「お前は強制的に魔人にさせられていた。今思えばカイズでの行動は、お前を魔人にしようとしてたのだろう。だからこの魔王は手心を加えていたのさ」
カイズで戦ったククルククルの行動は確かに謎が多かった。
ランスを拘束しても決して殺す事は無かった。
だからこそあの時ランスはククルククルに一応は勝つ事が出来たのだ。
「そしてあの時ククルククルがお前の剣に自ら突き刺さったのは…お前に興味があったからだろうな。お前の剣の特性を見抜いていたのかもしれない。だからこそ、ククルククルはお前の剣の中に居る。スラル様とバスワルドと同じようにな」
「…こんな奴が居ても嬉しく無いぞ」
先端部分は確かに女性に見えるが、女性の器官が存在しない。
あくまでも人間の女性に見えるだけで、人間の女性で有る訳では無いのだ。
「む」
「動くか」
ククルククルはランスとケッセルリンクの前に来る。
そこには敵意も殺気も無いが、そんなものが無くても魔王は容易にランス達を殺す事が出来るのだ。
だからこそ警戒はするが、ククルククルは何処か興味深そうにランスを見るだけだった。
「こいつ、まさか俺様に興味が有るのか」
「まず間違いなくな。ククルククルは人間が存在する前の魔王だ。だから人間であるお前やカラーである私を知らない。だからこそ興味も有るのだろうな」
ケッセルリンクの言葉を裏付けるように、ククルククルの触手はランスの体を撫でまわす。
「気持ち悪いぞ」
「我慢しろ。別に殺される訳では無い」
ククルククルはランスの全身に触手を這わせたかと思うと、ランスの目を覗き込む。
そして今度はケッセルリンクの体に触手を這わせる。
「む」
「心配するな。何もされない。私ももう慣れた」
「…と言う事は、お前は何度かこんな事をされたのか」
「まあな。私自身、ククルククルという存在に興味があった。何しろ初代魔王だからな」
ククルククルはケッセルリンクから触手を離すと、そのまま悠然とランス達を見下ろして居る。
「で、こいつは一体何がしたいんだ」
「さあな…何しろ言葉が通じているどうかも分からない。それに何を考えているのかもな」
ククルククルとは意思疎通が出来ない。
だからこそ、この魔王が何をしたいのか全く理解出来無いのだ。
そう思っていると、ククルククルがランスの剣に触手を伸ばす。
「あ、こら。これは俺のだぞ」
ランスの抗議など気にしていない言わんばかりに、ランスの剣に触手を巻き付ける。
そう思っていると、ランスの剣の形がロングソードからバスタードソードの形に変わっていく。
「何だと!? ってこれは…」
形の変わった剣を見てランスは驚くと同時に、その剣に懐かしさを覚える。
「これは…以前お前が使っていた剣の形と同じだな。奇妙なギミックを持った剣だったな」
「そういやそうだったな」
ランスは以前と同じように剣を振り回す。
刀身が厚く長い剣だが、不思議とロングソードの時と重さは変わらない。
そして前と同じようにランスの意思で刀身の先端が斧のような形に変形したり、槍のように長さに変化する。
「うーむ…これがこいつの力だったという事か?」
「変幻自在の剣…恐らくはククルククルの力が尤も強く出た剣なのだろうな。お前の剣が今の形になったのはハウゼルとサイゼルを抱いたからだろう」
「そういやそうだったな。じゃあこっちの刀は…普通にあるな」
ランスはもう一本の武器である刀を手に取る。
不思議とこっちの刀だけは残って居た。
そう思っていると、突如としてランス達を光が包む。
「うお!? 何だ!?」
「これは…」
ランス達は驚くが、目の前に現れた存在に驚く。
「あ。バスワルドか」
それはランスの剣の中に居る神、ラ・バスワルドだ。
ラ・バスワルドはランスの手にある剣、そして魔王ククルククルを見ているようだった。
「…均衡を破ったのはお前か」
バスワルドはランスに向かって尋ねる。
「均衡? 何のことだ」
「均衡が崩れた時、世界の秩序もまた壊れる。今お前の手にある存在はその均衡を崩した」
「何の話だ! ってなんだこりゃ!?」
ランスには何が何だか分からなかったが、突如としてランスの剣が再び真紅のロングソードへと変化する。
「再びバランスは保たれた」
ランスは手にある剣を見るが、それは確かに今まで使って来たロングソードだ。
その時、ランスはとてつもない気配に思わず背筋が凍る。
「ラ、ランス…い、一体何が…?」
「分からん…だが、まさかこいつが怒ってるのか?」
ランスとケッセルリンクが見上げているのはククルククルだ。
ククルククルは明らかにラ・バスワルドに怒りを向けていた。
そしてラ・バスワルドもまた無表情だが、ククルククルを見ている。
「…逃げるぞ」
ランスの嫌な予感は最高潮に達した。
そしてランスの選んだ事は逃げる事だった。
ランスはケッセルリンクの手を引いて一目散に逃げる。
「それがよさそうだ」
ケッセルリンクはランスに手を引かれたまま一度背後を見るが、そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。
アレに巻き込まれたら間違いなく命が無いだろう。
尤も、このランスの剣の世界の中で本当に死ぬのかは分からないが。
ランス達はククルククルとバスワルドから距離を取るが、そこからでも見えるくらいに激しい戦いが繰り広げられていた。
「ぐぬぬ…俺様の剣の中で何と言う傍迷惑な事を」
ランスは自分の手にある剣を見る。
その剣はロングソードになったりバスタードソードになったりと忙しく姿を変えていた。
「ロングソードになるとバスワルドが、バスタードソードになるとククルククルが優位となるようだな」
「どうでもいいわ! どっちでも良いからとっとと終われ!」
ランスはイライラした様子で吐き捨てるが、人外の戦いは恐らくはそう簡単には終わらないだろう。
どっちが勝とうがランスには心底どうでもいい事だった。
「それよりも…ここはどういう世界なんだ?」
「さあな。スラル様が居ればもっとよく分かるだろうが…まあとにかくこっちに来てくれ」
ケッセルリンクも少し疲れたため息をつきながらランスを伴って歩いて行く。
するとそこには一つの木で出来た家が出てくる。
「…本当に何でもありだな、ここは」
「私にとっては有難いがな」
その木の家に入ると、ランスは少し驚く。
「お、ここは…昔のお前の家か?」
「よく覚えているな。私がカラーだった頃のイメージで作った。まあこの剣の中で住む家を作るというのも変な話なのだが…」
ケッセルリンクは苦笑しながら部屋へと入る。
そこは非常に質素だが、ランスはむしろそれが懐かしかった。
「それにしても…こういう材料は何処から出てくるんだ?」
「そういう事は言いっこなしだろう。それこそきりがない」
「そうだな。別にどうでもいいな。それよりも…」
ランスは質素なベッドに目をつけると、そこにケッセルリンクを押し倒そうとする。
が、魔人である彼女の腕力でそれは阻止されてしまう。
「ストップだ。私としてもお前の望みは叶えたいとは思う。だが、今はそれ以上にしなければならない事があるはずだ」
ケッセルリンクの真剣な顔を見て流石のランスも彼女を押し倒そうとするのを止める。
「まずは…メディウサを倒してくれて改めて礼を言う。魔王の命令が有る限り私でも奴を殺す事は出来なかった…奴はカラーにとっては害悪だったからな」
「気にするな。あいつは俺様がぶっ殺すと決めてた奴だからな」
「そしてもう一つ…お前の技はまだ完成してないな。メディウサとの戦いでお前は使わなかった」
「む…」
ケッセルリンクの指摘にランスは難しい顔をする。
彼女の言葉通り、メディウサとの戦いではランスは新たな必殺技こそ使ったが、空間すらも斬り裂くバスワルド由来の技は使わなかった。
「副作用…私には分からない話だが、やはり体に負担がかかるのか?」
「フン、大したことは無い。だが経験値が減るのが鬱陶しいだけだ」
「…そうか。やはりリスクが大きいな。人間であるお前ならば尚更か」
ランスの言葉にケッセルリンクも難しい顔をする。
剣についてはランスには全くついて行けないが、それでも深刻な事は分かる。
「何かコツのようなものは無いのか? いくらお前が天才的な剣の腕前でも、何か切っ掛けが無ければそれを覚える事は出来なかっただろう」
「うぐ…」
ケッセルリンクの指摘にランスは苦渋に満ちた顔をする。
「やはり何かあったのだな? 一体何があった?」
「うぐぐ…俺様のお宝…俺様の貴重な貝が…」
「…そうか。お前もかなりの代償を支払ったという事か」
普通に考えれば貝などいくらでも犠牲にしてもいいだろう。
コレクター以外には貝なんてゴミ同然だからだ。
しかし、ランスのような収集家からすれあそれは貴重な宝を差し出したに等しいのだ。
ケッセルリンクはランスが貝を大事にしていた事を知っている。
ランスの貝は自分にも滅多に触れさせてくれなかった。
「…ランス、今この時間私達は触れ合う事が出来る。ならばお前の剣を再び私に見せて欲しい」
「何だと?」
「私自身…強くなりたいという欲求が生まれた。魔人四天王と言われても、それでもまだ上を目指せる。お前と共に居て私は改めて実感した。それに…今の私ではククルククルには手も足も出なかった」
「お前、あいつと戦ったのか」
「…私自身がククルククルについて知りたかった。それとお前の手助けになれればいいと思っていたのだが…どうやら混乱を招いただけだったようだ。すまない」
ケッセルリンクは本当に申し訳なさそうにランスに謝る。
「別にお前が悪い訳じゃ無いだろ。それにしてもこの剣は意味が分からんな」
ランスとしては使いやすい便利な剣なのだが、その副作用とも言うべきか、ランスにとっても訳が分からない状況になってしまっている。
ただ、それを差し引いてもこの剣の強さはやはり別格だ。
「お。剣が落ち着いたぞ。これはバスワルドの方だな」
形を変えていたランスの剣がロングソードの姿に落ち着く。
「ランス、一度いいか? 私も剣しか使わないからな」
「うーむ、こんな所でも戦わんといかんのは面倒だが…まあ他ならぬお前の頼みだからな。その代わりやらせろよ」
ランスの言葉にケッセルリンクは少しむっとした顔をする。
そしてランスを抱き寄せるとその唇を奪う。
「私を抱くのに条件なんていらないだろう。お前は女にモテたいと言っているのに、女心に関してはやっぱり疎いな。まあお前のこれまでの生がそうさせたのだと思うがな」
「やかましい」
ケッセルリンクに指摘されてランスは少しバツの悪そうな顔をする。
そういう指摘は鈴女にもされていたが、ケッセルリンクからもされるとは思わなかった。
一応はそういう所も直ってきていると自分では思っているのだが、そう簡単には直る物でも無い様だ。
「さて…やるか」
「やると言ってもお前は剣はあるのか」
「一応な。私が魔人の時に使っていた剣と大差ない…とは思う」
ケッセルリンクは剣を抜く。
カラーでありながらケッセルリンクは弓も呪いも得意ではなく、剣と魔法に才能があった。
魔人としては闇を生み出す事が出来たりと色々と器用な事が出来るのだが、元がカラーとしては異質だろう。
「それと今は夜なのか、昼なのか。お前はそれで力が変わるだろ」
「ここではそういう区切りは無い様だ。あくまでも精神世界…とでも言えば良いのか。闇は生み出せるが、夜の時ほどの力は感じない…そんな曖昧さがあるな」
ケッセルリンクは剣を構える。
その姿は様になっており、彼女の美しさを強調させる。
「ランス、手加減はいらない。むしろ本気でやってみなければお前の剣が分からんから…」
「いきなりランスあたーーーーーっく!!」
「おい!?」
ガッ!
ランスの突然の一撃がケッセルリンクに襲い掛かる。
流石のケッセルリンクも態勢が悪く、その剣が吹き飛ばされる。
「がはははは! 俺様の勝ちだな! あだっ!」
「いきなり必殺技を放つ奴が居るか!」
勝ち誇るランスに対してケッセルリンクがその頭に拳骨を叩きこむ。
魔人の腕力だけあり、手加減がされていてもやはり痛い。
「何をする」
「何をするじゃない。お前と打ち合うために剣だけで戦おうというのに、いきなりランスアタックをするな」
ケッセルリンクは弾き飛ばされた剣を拾う。
(やれやれ…確かに不意打ちの形だが、魔人の私から剣を弾き飛ばすとは…やはりランスの剣技は素晴らしいな)
改めてケッセルリンクは剣を構える。
「普通にやってくれ普通に」
「分かった分かった。じゃあ普通にやってやる」
ランスも剣を構える。
(分かっては居るが…ランスは一見隙だらけに見える)
魔人であり剣の才能もあるケッセルリンクだからこそ、ランスの構えは一見すると隙だらけに見える。
だが実際には、その隙に打ち込んでもカウンターを喰らうという質の悪い相手だ。
ケッセルリンクが先手を打とうとした時、それよりも早くランスが動いた。
「!」
振り下ろされたランスの剣をケッセルリンクは剣で防ぐ。
その一撃はやはり重く鋭い。
「流石だな…ランス」
「がはははは! 魔人だろうが今の俺に剣で勝てると思うなよ!」
「…違いない!」
だが、ケッセルリンクはやはり人を大きく上回る魔人だった。
「うお」
なんとケッセルリンクは力づくでランスを弾き飛ばす。
腕力だけでランスを弾き飛ばしたケッセルリンクは一瞬で攻勢に回る。
「行くぞ」
ケッセルリンクの剣はランス程重くは無いが、それでも人を遥かに上回る力から放たれる剣は人間では受けるのは酷だろう。
しかしランスはその剣を受け止める。
「む」
ランスが自分の剣を受け止めたのを見てケッセルリンクも目を見開く。
本気で力を込めて剣を振るっているのだが、それでもランスの剣を押し切る事は出来ない。
が、突如として剣が軽くなる。
ランスは剣を受け流し、ケッセルリンクに向けて剣を振るう。
ランスの剣は横薙ぎに放たれるが、ケッセルリンクは肩からランスにぶつかる事でその剣の間合いを潰す。
そしてケッセルリンクは剣を持った逆の手でランスの体を狙う。
ランスはケッセルリンクの手から逃れると再びケッセルリンクに剣を振るう。
今度はランスは力押しでケッセルリンクを狙うのではなく、手数でケッセルリンクを襲う。
「む、く」
ランスの剣は相変わらず捌きにくい。
ケッセルリンクは魔人としての驚異的な力で何とか剣を捌いているに過ぎない。
そう思っていると、ケッセルリンクは自分の手から何時の間にか血が流れているのに気づく。
(これは…)
ケッセルリンクは目を凝らしてランスの剣の動きを見る。
ランスは剣を振るっていたはずだが、何時の間にかその手に握られているのが刀になっている。
(何時の間に…!)
以前に本気でランスと戦ったが、その時にはあまり気にならなかった。
ケッセルリンクはその時は闇を使っていたので、ランスの剣をそれ程見る事は無かった。
だが、改めてランスの剣を見るとその異質さに舌を巻く。
「がはははは! 少し本気で行くぞ!」
「むっ!」
ランスの鋭い一撃でケッセルリンクは弾き飛ばされる。
そしてランスは剣と刀を交互に混ぜて攻撃をしてくる。
「くっ…これは」
ケッセルリンクはランスの剣に対して剣で立ち向かう事は殆ど無い。
それだけランスの剣は素晴らしいし、そもそも闇を使うケッセルリンクがランス相手に剣で向かう事はないからだ。
だからこそ、ケッセルリンクは今のランスの剣を改めて味わっていた。
(無敵結界は働いていないが、私の魔人としての体力と再生能力は働く…だが、それをしてコレか)
細かな傷がケッセルリンクについていく。
ランスの剣から放たれる衝撃波がケッセルリンクの体を傷つけるが、魔人の再生能力故にそれがダメージにはなっていない。
「流石だな…お前の剣、確かに味わった」
ケッセルリンクはランスと距離を取ると降参だと言わんばかりに両手を上げる。
「剣ではお前には敵わないな。魔人としての膂力が全く意味をなさない」
「当然だ。剣で俺様に勝てると思うなよ」
ケッセルリンクが剣を収めた事でランスも剣を収める。
「しかし…尚の事もどかしいな。お前の剣が安定していないのと、やはりスラル様の助力が無ければあの時の技は安定しないのがな」
「フン、日光があればどうとでもなる。魔人相手だったら日光の方が良いくらいだ」
「それでもだ。使える手札は多ければ多い程良い。それにお前がセラクロラスに巻き込まれた時、必ずしも日光がお前の側に居る訳ではない。最悪のケースは想定すべきだ」
「お前は心配性だな。まあそれだけ俺が大事だという事か?」
「当然だ。私はお前とスラル様とジルのために魔人として生きているようなものだ。それに私は魔王の命令があればお前とも敵対しなければならない。だからこそ、そのための備えはするべきだ」
ケッセルリンクは何処まで真面目だ。
本気でランスの事を心配しており、ランスもそれは十分に分かる。
「同感だ。体を得てから我もお前の剣の事は調べられなかったからな。しばらく居ない内に興味深い事になっているようだな」
突如としてランス達の横に女性が現れる。
「あ、スラルちゃんか」
「スラル様」
それはランス達が良く知るスラルの姿。
「ああ。こうしてお前達と喋るのは何時振りか…」
「あん? つい最近も話していただろうが」
ランスの言葉にスラルは首を振る。
「いいや、我は魔王スラル。正確にはその魔王の残骸とも言うべき存在。本来は魔王血魂に飲み込まれ消滅するはずだった…が、この中に魔王と神の力が入り込んだ事により、我もまた消滅を免れた。尤も、消滅寸前だった故に力も何も残って居ない、文字通りの残りカスだがな」
そう言ってスラル―――赤い瞳をもった魔王は自嘲するのだった。