「スラル様…!」
ケッセルリンクは慌てて魔王スラルと名乗った少女に跪く。
そんなケッセルリンクを見てスラルは苦笑する。
「その必要は無い、ケッセルリンク。我は所詮は魔王の残滓であり、魔王ではない…消滅する運命にあったのが、何の悪戯か…こうして話す事が出来るようになってしまっただけだ」
「それはどういう…?」
ケッセルリンクにはスラルの言う事が分からない。
ただ、スラルの言う通り、今の彼女からは自分の主であるはずの魔王の気配は感じられなかった。
「今ここに居るのは魔王としてのスラルの搾りカス…現在外に居る人のスラルとは違う存在。ジルが魔王と人間に分かれた様に、我もまた魔王と人に分かれた。ただ、我は魔王としては残るには血が薄すぎた…」
スラルはランスを見て笑う。
それは確かにランスの知る『魔王』としてのスラルの笑いだった。
「何の因果か、この剣に魔王と神の力が宿った。それ故に、我の力も上がった…と、言っても搾りかす故には話す事くらいしか出来ないが」
スラルは直ぐに自嘲する。
「戦闘には役にたたんという事か?」
「ああ。だが、こうして話す事は出来る。まあ…ケッセルリンク、お前の話し相手くらいにしかならないだろうが…」
「十分です、スラル様」
ケッセルリンクは嬉しそうに笑みを浮かべる。
人としてのスラルだろうが、魔王としてのスラルだろうが彼女にはどっちも同じだ。
魔人として生きている内に、彼女を守りたいと思ったのは確かな気持ちだったからだ。
「で、今の状況はどうなっとるんだ。この中にずっといたんだからそれくらい分かるだろう」
ランスの言葉にスラルは苦笑する。
「ある程度は予測はつくが…真相は分からないだろうな。まあとにかくお前にとっては悪い事では無い」
「なんだそりゃ。結局分からんという事か」
「ああ、分からない。正解なんて誰も分からないさ。分かっているのは、この剣の中でのバランスを取り合っているという事だな。それがお前の剣の変化だ」
ランスは自分の剣を見る。
遠くでは今でも破壊の音がしているが、今は剣に変化はない。
普通のロングソードのままだ。
「ロングソードの姿がバスワルドの状態…そしてバスタードソードがククルククルの状態とでも言えば良いか。お前が魔人を倒した事で魔王の血と共鳴したのかもしれないな。それでククルククルが意識を強めた…とでも言ってもいいかもしれぬ」
「…何だか良く分からんな。つまりはどうにもならんという事か?」
「普通にククルククルとバスワルドに頼めばいいのではないか? 剣の持ち主はお前であって奴等ではない」
スラルに言われてランスは今も激しい戦いを繰り広げている奴等を見る。
「…連中に言葉は通じるのか?」
「理解はしているんじゃないか? 少なくともバスワルドは通じるだろう。ククルククルは…流石に分からぬが」
「…いや、どっちもアレだな」
ランスはバスワルドの事を思い出す。
アレも多分に言葉が通じているかどうかは怪しい。
一応は通じているが、そもそもこっちの言葉に応えるかどうかが怪しい。
(それに奴に頼むと俺様のお宝が…)
何よりも、バスワルドに何かを頼むとランスの宝である貝を要求される。
それはランスにとっては正に身を斬るような思いなのだ。
ランスも旅先で色々な貝を見つけはするが、何かしろの理由があってその貝を消失したりと色々と悩みもあるのだ。
「む」
ランスが色々と考えていると、ランスの体が透けて消えていく。
「どうやらお前が目覚めたようだな」
「ランス、もう一人の我を…頼むぞ。分かれたとはいえ、我の半身には違いないのだからな」
「消える前にやる事があるぞ」
ランスには自分が消える前に、どうしても確かめなければならない事がある。
それを確かめるべく、ランスはスラルに手を伸ばす。
そしてそれは確かな感触として、ランスの手に帰って来た。
「おお! ここだとスラルちゃんのおっぱいをきちんと触れるぞ!」
ランスはスラルの胸をむにゅむちゅと揉む。
「…アホか! とっとと目を覚ましてしまえ!」
「ぐはっ!」
スラルは顔を真っ赤にしてランスの頭を殴る。
その時ランスは意識を失ったのだった。
「うがっ!?」
「ど、どうしたのランス君!?」
突然飛び起きたランスに対してシルキィは目を丸くする。
今まで寝ていたランスが突如として飛び起きたのだから、驚くのは無理も無い話だ。
「痛く…は無いな。まったく、魔王だった頃のスラルちゃんってあんなに手が早かったか?」
ランスはスラルに殴られたであろう頭に触れるが、特に痛くはない。
そして自分の剣に手を伸ばした時、その形が変わっている事に気づく。
「…うーむ、あっちはククルククルが優勢に終わったのか」
「あれ? ランス君の剣の形が変わってる…」
ランスの手にある剣はロングソードではなく、グレートソード程の大きさと太さになっていた。
「…しかも自己主張が激しくなってるな。お前、実はそういう奴だったのか」
その剣の刀身の根元には一人の女性のような形をした何かが浮き出ていた。
それは間違いなくあのククルククルの触手の先端の人型の何かだった。
そしてそのククルククルの模様はランスを見て確かに笑った―――かのように見えた。
「おいジル。スラルちゃんと話せるか」
「え? スラルさんですか? ちょっと難しいですけど…」
ランスの言葉にジルは少し驚いたように返事をする。
「どうかしましたか?」
「いや、スラルちゃんと話せないなら別にいい」
ランスとしてはスラルに話があったが、今無理ならば仕方の無い事だと納得もする。
(スラルちゃんなら何か知ってるかもしれんと思ったが…まあいいか)
タイミングが悪い事もままあることだとランスは思う。
どうせ何れ話す事が出来るのだから、ランスとしても急ぐ必要は無い。
ランス達が朝食を取っていると、焦った様子でベネットが駆け込んでくる。
「大変でやんす! 魔軍が近くに居るでやんす!」
「何だと」
ベネットの言葉にランスは顔を歪める。
「まさか追っ手か」
「違うでしょ。たまたま魔軍が近くに居るってだけでしょ。ベネット、魔軍はこっちに向かってるの?」
レンの言葉にベネットは首を振る。
「いや、魔軍はカラーを狙っている様子では無いでやんすが…一応皆さんには話した方が良いでやんすから」
「規模はどれくらいですか?」
日光の言葉にベネットは顎に手を当てる。
「うーん…魔物将軍の姿は見えなかったでやんすから、魔軍の1小隊…数としては200くらいでやんすかね。魔物隊長1体を確認できたでやんすから」
魔物隊長は魔物兵200を指揮出来ると言われている。
そして魔物将軍はその魔物隊長を200指揮できると言われている。
ベネットの見たのが全てならば確かに魔物兵の数は200程だろう。
「その程度の数の魔物が動いているのですか? 一体何のために…」
「…これ言うべきか迷っているでやんすけど、やっぱり報告は必要でやんすね。多分魔物兵達は人間達の集落を見つけたんだと思うでやんすよ」
「人間達の集落が近くに!?」
シルキィは目を見開いて驚く。
「まあ…カラーにとっては人間も危険で有る事は間違いないでやんすから…」
ベネットは複雑な顔をする。
彼女の言う通り、カラーとは人間にとってはまさに貴重なマジックアイテムの原料だ。
強力な武器防具はカラーのクリスタルを使って作る事が出来る。
そしてその技術は今でも人間の間で語り継がれているのだろう。
そうでなければカラーを狙う理由が見当たらない。
「ランス君! 行かなきゃ!」
「何をしにだ」
シルキィの言葉にランスはあくまでも冷静に言葉を継げる。
「何をしにって…助けに行かないと!」
「助けに行ってどうする。無駄だから止めとけ」
「無駄って…そんな事分からないでしょ!?」
「今から行っても無駄だって事だ。この連中をぶっ殺しても本隊の連中が出てくる。まさかそいつらまで相手にする気じゃ無いだろうな」
「それは…でも今までは…」
「今までは不意打ちと数が少なかったらやれてたんだ。そう都合の良い事なんぞおこらんぞ」
その言葉にシルキィは口を歪める。
ランスの言葉は決して間違っていない。
ランス達ならば魔物隊長率いる1小隊なら撃破は出来るだろう。
だが、その本隊である魔物将軍の部隊となると厳しいのは間違いない。
魔物大将軍を倒した実績はあるが、それも強力なドラゴンが乱入してきたという魔物にとっても予想外の事が起きたからだ。
「だけど…」
「それに助けた後はどうする気だ」
「それは…」
「その後が出来ないなら止めておけ。行っても時間の無駄だ。そいつらは運が悪かっただけだ」
ランスは何処までも冷淡に告げる。
シルキィはそれに対して何も言い返す事が出来ない。
ランスの言っている事は決して間違ってはいないのだ。
人類が生き残れるかどうかは今や完全に運でしか無いのだ。
かつてのシルキィの居た場所がそうであったように。
「で、でも…」
「でもも何も無い。無駄な物は無駄だ。お前だって分かってるだろうが」
「………」
ランスの言っている事は非情だが正しい。
今ここで動いて魔軍を撃退しても、別の魔軍が襲ってくるだけだ。
それは分かっている…分かっているが、それでも動くのがシルキィという女だった。
「ベネット。その人間の隠れ場所って何処?」
「…この辺だけど」
ベネットが地図を広げて指を指したのは本当にカラーの森の近く。
「こんな所に…あったんだ。カラーは何もしてこなかったの?」
「…私達って繁殖するのに人間の男が必要でやんす。時にはそこから確保したりしてたでやんすよ。カラーの場合はそれこそ子孫を残すための死活問題だったでやんすよ」
「…そっか。まあそうかもね。カラーだって子供達を残さないといけないものね…でもそれは人間だって同じ」
シルキィはリトルを手に取ると、あっという間に走り去っていく。
「全く…あのバカは」
ランスはそれを呆れたように見ていたが、直ぐに立ち上がる。
「ランス様…」
「あのバカを追うぞ。下手な事になったらカラーも危ないからな」
「そうですね。シルキィさんを追いましょう!」
ジルは何処か嬉しそうに頷く。
「ベネット、お前が案内しろ」
「了解でやんす。始祖様は今は居ないから、女王に報告だけはするでやんすよ」
ベネットはそう言って部屋を出ていく。
ランス達は直ぐに準備をし、シルキィを追う事にする。
「シルキィは…理屈では無いのでしょうね」
日光もシルキィの気持ちは分かる。
自分達もかつて同じように考え、人間牧場を解放しようとした。
だが、そこに居る人達は人間牧場でしか生きられない人間だった。
それらの苦い経験があったからこそ、ブリティシュ達は魔王を打倒し、魔物の支配から人々を解放しようと考えたのだ。
「考えなしに動くのは只のバカだ」
「…ランス程じゃ無いと思うけど」
「何だと」
「いや、これまでのもっと無謀な事を考えたらそうでしょ。言っとくけどランスの方が余程無茶な事してるからね」
レンは呆れたように言う。
「やかましい。それよりも急ぐぞ。とっととあいつを回収して逃げるぞ」
「じゃあ案内するでやんすよ」
ベネットの案内でランス達もシルキィを追って走る。
ランス達はベネットの案内で森を抜けると、そこからは確かに魔軍が見える。
だが、その数が先程の報告よりも多い。
何故ならそこには二体の魔物隊長の姿があったからだ。
「ランス…これは…」
「チッ、シルキィはこいつらとは会わなかったか」
シルキィがこの魔物達と交戦していれば、既にこの魔物兵達と戦闘になっていてもおかしくない。
それが無いという事は、ここの魔物兵達はベネットが先程言っていた魔物兵とは違う部隊なのだろう。
「ランス、この魔物兵達はもしかしたらシルキィが向かった先に行くのでは…」
「可能性は高いでやんすよ」
日光の言葉をベネットが肯定する。
もしそうなら、こいつらを放置してもシルキィが危ないという事になる。
「チッ、こいつらをぶっ殺さんといかんか…?」
「そうね…こいつら以外の後詰めが居なければ倒しても良いと思う。でもその場合は速攻になるわよ」
「だったら速攻でぶっ殺すぞ。ジル、一発ぶっぱなせ」
「は、はい!」
レンの言葉にランスは即座に決断する。
この決断の速さが、これまでランスの行動を支えてきている要因の一つだ。
「全滅させるのがベストだけど…流石にそれは難しいわね。魔物隊長を狙いましょう」
「奴等は数が多くて面倒だからな。頭をぶっ潰す、それでいい」
ランスは剣を抜く。
以前の剣とは形が変わってしまったが、それでも振るった感触は全く変わらないのがこの剣の不思議な所だ。
それに刀に関しては全く変わっていないので、問題無く使える。
「ランス様、行けます」
「よーし、魔物隊長を狙ってぶっ放せ。まずは一匹ぶっ殺せばいい」
ランス達は魔物兵達を上手く不意打ち出来るように位置取りする。
魔物達は警戒心は皆無だ。
尤もそれは今の時代と、これが魔軍にとっては戦争ですら無いからだろう。
だからこそ、ランスも今の時代でありながらも魔軍を退けれているのだ。
これがゼスでのカミーラダークの時ならば、あんな悠長にしている程魔軍は楽観的では無かった。
「ベネット、お前に合図を任せてやる」
「それは有難いでやんすね」
ランスはかつてかなみに任せていた事をベネットにやらせる。
(…こいつ、こんなんだがぶっちゃけかなみより優秀だしな)
かなみも決して使えないなんて事は無いのだが、かなみより優秀な者はそれこそ沢山居るという事だろう。
ただ、こんな残念な奴がかなみより使えるというのが何となく気に入らないランスだった。
「…3、2、1、今でやんすよ!」
「ジル、やれ!」
「はい! 黒色破壊光線!」
ジルの放った強力な魔法が開戦の合図となった。
魔物兵達は行軍だというのに気楽そうだった。
それもそのはず、今はGI期…GL期のように魔物すら締め付けられている世界ではない。
それどころか、魔王が人間を殺す事を許可したので人類の数が著しく減っている状態だ。
ただ、ある程度人間の数が減った時はガイは人類を殺す事を禁じていた。
そして今は魔人メディウサが人間に殺された事で魔物達は…喜んでいた。
あの恐怖の存在だったメディウサが死んだ事は確かに驚きだ。
だが、それを理由に魔物による人間狩りが盛んになっている。
「こうして大っぴらに人間狩りが出来るなんて良い時代になったよな」
「そうだよなー。ジルが魔王の時代は俺達魔物すらも飼われていたんだよな」
「ガイが魔王になった事でようやく人間殺しが出来るようになったよな」
魔物兵達はまさに今の時代を謳歌していた。
ジルの時代は魔物にとっても地獄の時代、そしてガイの時代こそまさに魔物の時代だと。
「この先に人間の住処見つけたんだろ? いやー、今から楽しみだぜ」
「そうだな…俺もどうやって奴等を殺してやろうか、今からたまらねえぜ」
魔物達は人間をどのように殺すかで盛り上がっている。
ただ、今はそれが当たり前の時代なのだ。
しかし―――世の中には必ず例外というものは存在する。
人間の中には強烈な力を持つ者、所謂英雄と呼ばれる者達が必ず現れる。
そして今の世界にはその英雄の中でも無茶苦茶な男が存在しているのだ。
「え?」
「なんだ?」
魔物達は強力な魔力の存在を感じ取る。
その方向を向いた時には既に遅く、魔物兵達が立っていた場所を黒い光線が通り過ぎていった。
そしてその跡には何も残って居なかった。
「な、何だ!? 何が起きた!?」
魔物達を率いていた魔物隊長は突如として襲って来た魔法に困惑する。
「た、大変です! わ、我等の部隊の隊長が…! 今の魔法に巻き込まれて消滅しました!」
「何だと!?」
魔物隊長は突然の同僚の死に驚く。
が、その驚きは直ぐに消える事になった。
「死ねーーーーーーーーっ!!!!」
「え? 人間? うぎゃあああああああ!}
ざくーーーーーーっ!
魔物隊長が頭から真っ二つになって倒れる。
いや、ただ真っ二つになったのではなく、斬られた部分が強烈な鈍器で殴られたかのように滅茶苦茶になっていた。
が、魔物兵達はそれに気づく事も出来なかった。
「今だ! ぶっ殺せ!」
ランスの合図にレン達は一斉に動く。
「エンジェルカッター!」
「斬ります!」
「さーて、このウルンセルの刃は今日も血に飢えてるでやんすよ!」
レンの強烈な魔法が魔物達をバラバラにする。
日光の刀が魔物兵達を斬り裂き、ベネットのナイフが魔物兵の急所に的確に突き刺さる。
「こ、この野郎!」
魔物兵が斧を構え何とかランス達に反撃をしようとする。
「デビルビーム!」
「ぐわっ!」
だが、それもジルの魔法で複数の魔物兵が倒れる。
「このまま一気に攻めるぞ!」
ランスが剣を振るとその一撃で魔物兵の体が砕ける。
斬っているはずなのだが、ランスの一撃はまるで打撃のように魔物兵を確実に壊していく。
「だ、だめだ! 俺は逃げるぜ!」
そしてとうとう魔物兵の士気は崩壊する。
「に、逃げろ! 俺は死にたくねえ!」
「あ、こら待て…うぎゃあああああ!」
逃げれた者は幸運で、逃げ遅れた者は確実にランス達に潰されていく。
その光景を見た魔物兵は皆一目散に逃げ去っていく。
もう本隊に合流しようなどという理性など残って居ない、士気が崩れ魔物隊長と魔物将軍が居ない魔物兵の軍隊としての脆弱さが露になった形だ。
「急ぐぞ! 魔物将軍が居たら面倒だからな」
「そうね。魔物隊長が居たなら魔物将軍が居ても不思議じゃない。今の連中からの報告が無ければこっちに部隊を送って来るわ。こいつらの死体を見つけたら絶対にその原因を探るはずよ」
「そうですね。ベネット、案内を」
「アイアイサー! こっちでやんすよ!」
魔物隊長率いる部隊を退けたランス達は、シルキィを追って駆けるのだった。
その隠れ里では結婚式が行われようとしていた。
本来であればこんな時代でも幸福な出来事のはずだった―――が、花嫁の顔は諦めに満ちていた。
「こ、こ、こ、これでボク達はずっと一緒だよね…」
その男は不細工だった。
顔はお世辞でも良いとは言えないが、その体格だけは立派と言えた。
そしてその周囲には無数の男がおり、その男達も女に対して凄まじい欲望を向けている。
見ればその花嫁は首輪がつけられており、その手と足には枷が嵌められている。
自殺出来ないように猿轡までされた姿は、花嫁というよりも奴隷という言葉が相応しかった。
「ヘッヘッヘ…これからこの女を毎日抱けると思うと今からたまらねえぜ」
「ああ…煩い奴等も黙らせたしな」
男達の言葉にも女は無反応だ。
もうこんな状況は嫌と言うほど見てきた。
そしてそれと同じことがまた繰り返されるだけだ。
(どうして私は…あんな願いをしてしまったのだろう…)
女に有るのはたった一つの後悔。
昔の仲間達が魔人を倒すための術を求める中、自分だけは心の中にあった嫉妬心からとんでもない願いをしてしまった。
良かったのは最初だけで、そこからは直ぐに後悔へと変わった。
見ているのは自分の容姿と肉体だけ…そんな人生に嫌になってしまったが、それでも死ぬことは出来なかった。
なので今から行われる事もこれまで自分が体験してきた事と変わらない―――そう思っていた。
「人間だ! 人間が居るぞ!」
「殺せ! 殺せ!」
突如として沸き上がる雄叫び、そして悲鳴。
やってきたのは魔軍だった。
「な、なんだお前達は!」
「うるせぇ! 死ね!」
「うぎゃああああああ!」
女に欲望を滾らせていた男達は魔軍によってあっさりと殺させる。
いかに屈強な男だろうとも、魔物の軍相手には全く意味はない。
それだけ魔物兵という存在は人間にとっては脅威なのだ。
「おい…いい女がいるぜ」
「ああ…すげえな。これまで色々な人間を見てきたけどよ…こんな上物は初めてだな」
人間の男達をあらかた殺し終えたのだろう、魔物兵は人間の女を一か所に集める。
その中には無論無理矢理花嫁にされかけていた女も居る。
「久々の時間だ! お前達も存分に楽しめ!」
「「「おおおおお!!!」」」
魔物隊長の言葉に魔物兵達は一斉に歓喜の声を上げる。
「ただこいつは俺のモノだ! いいな!」
そう言って魔物隊長は首輪をつけられた女を引き寄せる。
「そりゃないぜ隊長!」
「俺達だってその女を使いたいんですよ!」
不満をぶちまける魔物兵に対し、魔物隊長は下卑た笑みを浮かべる。
「心配するな。お前達にもきちんと使わせてやる。それまでそこの女共で楽しんでろ」
「…ま、いいか。どうせこいつらもぶっ壊すしな」
「後でちゃんと使わせて下さいよ、隊長」
「おい。だからしっかりと…遊んでやれ」
魔物隊長の言葉に女達は恐怖の悲鳴を上げるしかなった。
そして繰り広げられるのは凄まじい凌辱と拷問だった。
魔物隊長はそれを満足そうに見ている。
「これだ…これこそが我等と人間の正しい関係なのだ」
魔王ジルの時代には魔物達は人間に手を出す事を許されなかった。
それどころか、魔物ですら魔王に飼われるという地獄の時代だった。
それが魔王ガイによってようやく終わり、魔物達は本来の姿にもどれたとこの魔物隊長は思っている。
「…しかし貴様、恐怖すら感じないか。心が壊れている訳では無さそうだがな」
魔物隊長は全く感情を感じさせない顔をしている女を見て不思議そうな顔をする。
普通の人間ならば恐怖に震え、失禁くらいしてもおかしくない。
だが、この女はこんな扱いをされているというのに、顔色一つ変えない。
「まあいい。それよりも俺様もそろそろ楽しませて貰うか」
魔物隊長は女の頭を掴み、背後から無理矢理挿入しようとした時だった。
「うぎゃああああああ!!!」
何処からか悲鳴が響いたかと思うと、凄まじい勢いで何かが突っ込んできた。
ソレは魔物兵を紙のように吹き飛ばしながら一直線に向かってくる。
「な、なんだこいつは!? ぎゃあああああ!」
女達を凌辱していた魔物兵達は、突っ込んできた存在の一撃をくらいその肉が弾ける。
そしてその存在はもう動かない女達、そして今にもこと切れようとしている者達を見て怒りの目を向ける。
「外道が…お前達は絶対に許さない!」
シルキィは怒りに満ちた目で魔物兵達を見る。
そしてそんなシルキィを見て、魔物隊長に掴まれていた女の目が見開かれる。
(…この女の人…強い。もしかしたらブリティシュや日光さんと同じくらいに)
長年人を見てきたが、自分がそう思ったのはもう何百年ぶりだろうか。
女―――カフェ・アートフルの目には、シルキィが非常に眩しく映るのだった。
凄い迷ったけどここで登場させました
実際どういう人生送って来たのか…多分凄いハードモード
もうちょい後にしようかと思ってたけど、実際この辺りが一番いいかなあって