ランス再び   作:メケネコ

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魔人バボラ

 魔人バボラ―――ランスはまだ出会った事の無い魔人の1人。

 LP期におけるバボラはそのあまりに大きな身長に対し、脳みその大きさは変わらなかったため相対的に知能が低下してしまった。

 しかし今はまだGI初期、バボラもまだ魔人になってそれほど時間が経っていないので、その知性は衰えてはいない時期だ。

「フフフ…まさかこんな所に人間が居るとはな。しかもこれ程の強さを持っている人間がな」

 バボラは魔物兵達の死体を見て不敵に笑う。

 凄惨な光景を目にしても尚、魔人の目には楽しそうな色が浮かんでいる。

「そしてお前だ。お前がこの中で一番楽しめそうだ」

 バボラはランスに向けてその手に持っている金棒を突き付ける。

「こいつらの死体は普通じゃない。そしてそれをやったのはお前だ。それくらい分かる」

 バボラは闘気をむき出しにして楽しそうに笑う。

「フン、俺様の力を見抜いたか。そうだ、俺様にかかれば魔物兵など敵では無いわ」

「そのようだな。つい最近メディウサが死んだが…それもお前達か?」

 魔人メディウサの死は魔物達の中でも有名だ。

 それ故に今の魔物達による人間狩りはより過激になっている。

 バボラは弱い人間には興味が無い、漢気溢れた魔人なのんで無抵抗の人間を殺す趣味は無かった。

 だが、それでも鬼である事、そして魔王から与えられた血がそうさせるのか、強者との戦いを望む一面を持っていた。

「それがどうした」

 ランスの言葉を聞いてバボラは笑う。

「ハッハッハッ! 魔人を相手にしても怯えた様子すらない…気に入った! お前達との戦いは楽しめそうだ!」

 そう言ってバボラは闘気を剥き出しにする。

「こいつ…魔人になりたてのくせに随分な気迫ね」

 レンはバボラの闘気を感じ取り目を細める。

「魔人になりたて? 何で分かるの?」

「私達が知らないって事は古株じゃない。つまりは最近魔人になったって事でしょ」

 シルキィに言葉にレンは嘆息しながらも武器を構える。

「日光さん…」

「どうやら戦いは避けられぬようです。カフェ、あなたは下がっていてください」

「うん、分かった」

 カフェは日光の言葉を聞き大人しく下がる。

 相手は魔人、ヒーラーである自分が前線に入れるはずがない。

 かつての仲間である日光もそれを十分に分かっている。

「おい、なんでお前とやりあう事になっている。俺様はお前みたいな奴と戦う気は無いぞ」

 ランスの言葉にバボラは笑う。

「魔人を前にしても尚そう言い放つか! お前は面白い奴だ…だからこそお前と戦いたい!」

 バボラはランスに向かって襲い掛かる。

 その速度はやはり魔人だけあって非常に素早い。

 ランスは振り下ろされた金棒を避ける。

 どれ程の力で振り下ろされたのか、大地が陥没して土砂が宙に撒きあがる。

「チッ! おい日光!」

「はい!」

 ランスの言葉に日光はすぐさま刀に変わると、ランスは日光を手に取る。

 そしてこちらに向かってくるバボラに向けて日光を振り下ろす。

 バボラは何かを察したのか、ランスの放った日光を避ける。

 避けるが、確かに日光はバボラの持つ無敵結界を斬り裂いたのをバボラ本人も自覚する。

「無敵結界を斬る…そうか、噂に名高い日光か!」

 魔人の無敵結界を斬る武器はこの世に二つある。

 それが魔剣カオスと聖刀日光。

 その二つの名前は魔人の間でも有名になっていた。

 何しろ無敵であるはずの魔人が人間に倒されるという事が起きているからだ。

「フン、これでお前は只の木偶の坊だ! さっさと死ね!」

 ランスは日光を振るいバボラに対して追撃する。

 これがランスの知る一般的な魔人ならば動揺する、とランスは思っていた。

 だが、バボラはそれを受けて尚笑った。

「ははははは! やはりお前がメディウサを倒した人間か! 鬼の血が滾るわ!」

 バボラはランスに向かって金棒を振るう。

「む」

 ランスとしてはこのまま追撃でダメージを入れるはずだったが、思わぬバボラの攻撃に剣を構えてその打撃を受け流す。

 流石に力の差は大きく、ランスを持ってしても体が宙に浮きあがるほどだ。

「エンジェルカッター!」

「デビルビーム!」

 レンとジルの魔法がバボラに当たるが、バボラは全く怯む事無くランス達に向かって行く。

「させない!」

 シルキィはリトルを全身に纏うとバボラの突進を受け止めようとする。

「しゃらくさい! 吹き飛ばしてくれる!」

 バボラはそう言いながらも楽しそうに笑みを浮かべると、金棒をシルキィに叩きつけるのではなく、その体でシルキィにぶつかる事を選ぶ。

 

 ドン!

 

 重量級の物体がぶつかり合う音がし、シルキィの体が吹き飛ばされる。

「あぐっ!」

 シルキィはリトルで全身を覆っているのに尚これ程の衝撃を受けた事で吐血する。

「俺の前にまともに立ちふさがるとは見上げた奴だ! だが、この俺を止めるには至らなかったようだな!」

 バボラは倒れたシルキィを無視してランスに向かって行く。

「このバカ力が!」

 ランスはバボラの金棒を避け、日光でバボラの体を斬る。

 だが、その感触はまるで鋼を叩いたような感触が返って来るだけだ。

「ランス! この魔人は人型ですが硬いです!」

「分かってるわ!」

 日光の言葉にランスは乱暴に返事をすると、そのまま日光を振るってバボラに斬りかかる。

「この俺の筋肉、そう簡単に貫けると思うなよ!」

 バボラはそんなランスに対して楽しそうに笑いながら突進していく。

「こいつは…レキシントンと似てるわね…!」

 レンはそんなバボラを見て同じ鬼である魔人を思い出す。

「ほう! レキシントンを知っているのか!?」

 同じ鬼である魔人の名前が人間から出た事でバボラは一度ランスから距離を取る。

 その隙にカフェが倒れているシルキィに向かって行く。

「大丈夫ですか! 痛いの痛いの飛んでけー!」

 そして得意のヒーリングをかけると、シルキィは何とか立ち上がる。

「ありがとう。凄いヒーリングね。レンと同じくらいに凄いわ」

「私はそれしか出来なかったから」

 シルキィの言葉にカフェは苦笑する。

 が、その目は油断なく魔人バボラを見ている。

 その顔は間違いなくエターナルヒーローであり、魔王を倒そうとしていた昔の彼女の顔だ。

「レキシントンの名前を出したとなると、お前達は奴と戦った事があるのか?」

 バボラは興味深そうにランス達に尋ねる。

 魔人レキシントンはバボラと同じく鬼出身の魔人。

 だが、バボラよりも遥かに前…魔王ナイチサの時代に魔人となった結構な古株でもある。

 同時に恐ろしく強く、あのトッポスとも激闘を繰り広げた剛の者だ。

 それ故にバボラにとってはレキシントンは尊敬し、憧れの存在でもあった。

 例えそれがどんな性格だったとしても。

「レキシントン…あのむさ苦しい鬼のおっさんか」

 流石のランスもあの魔人の事は覚えていた。

 何しろ何度も戦っているし、あの全裸の使徒であるアトランタの事もある。

 何よりも、レキシントンはランスからエルシールを誘拐していった奴だ。

「ほほう…やはり知っているか。だとしたら不思議な事よ」

 バボラは唇を吊り上げて闘志をむき出しにして笑う。

「だがそんな事はどうでもいい! 俺はお前と戦いたい! それだけだ!」

 バボラはそう言って再びランスに向かって襲い掛かって来る。

 あまりに真っ直ぐで実直な動きだが、それ故に迷いが無く早い。

 流石のランスもこの魔人の攻撃を受けるような事はせず、回避をするしかない。

「フン!」

 そしてランスの一撃はバボラの腕を斬り裂く。

 その硬い筋肉はランスの手にした日光でも肌を斬り裂くだけだ。

 だが、それでもランスはニヤリと笑う。

「がはははは! お前、魔人になって僅かだな!?」

「ぬう!?」

 ランスの黒い剣をバボラは金棒で受け止める。

 その人とは思えぬ膂力をその金棒で感じ取り、流石のバボラも驚きの声を上げる。

「そんな奴が俺様と戦おうなど100年早いわ!」

 ランスは剣で金棒を絡めとるように弾き飛ばすと、無防備になったその腹に日光を突き刺す。

 バボラは躊躇わずに後ろに飛んだため、日光はバボラの腹に僅かに突き刺さるのみに終わる。

 ランスはそのまま追撃をしようとした時、バボラの足がランスに向けて放たれる。

「チッ!」

 ランスはその足を避けるためにバボラから距離を取るしかない。

 魔人になって間もない存在とは言え、相手は魔人。

 その力は人間を遥かに凌駕する。

 ただのキックであっても人間を容易に殺すことが出来るのが魔人なのだ。

「無駄にでかい図体をしおって」

 ランスは自分の剣がバボラに届かなかったのに苛立ちを感じる。

「ランス君、相手はかなり強いわよ。あのメディウサとは違うわ」

「そうね。でかいくせに結構早い。今のランスの攻撃が当たらなかったのも、あの巨体があっての事だしね」

「分かっとるわ。目測を誤っただけだ」

 シルキィとレンがランスの横に並び立ち言い放つ。

 バボラは今までに出会った魔人よりも体が大きい。

 それこそデカントの魔人と言っても信じられるくらいにバボラは大きい。

 それ故に剣が当たる面積も大きいが、同時にそのリーチも長い。

 日光がバボラに突き刺さらなかったのも、そのバボラの体の大きさ故にランスが攻撃の目測を誤ったからだ。

「フフフ…ヒリヒリするな…この感覚。魔人となって初めて味わう感覚よ。だが、それこそ鬼の本懐、お前達を砕いてくれよう!」

 バボラは全身の筋肉を躍動させ、その巨体とは思えぬ速度で宙に浮かぶと、そのままランス達に向けて金棒を向けて襲いかかってくる。

 ランス達は一斉に散開する。

 そしてランス達が立っていた場所にバボラが金棒を振り下ろすと大地が揺れる。

「なんて力…!」

「ただのパワーだけの奴じゃ無いでやんすよ!」

 カフェは久しぶりに見る魔人の力に驚愕し、ベネットもバボラの凄まじい力を見て目を見開く。

 バボラはパワーだけでなく、素早さもある。

 そして何よりも魔人として若輩なせいか、無敵結界が無くても変わらぬように動いている。

 最初から無敵結界など当てにしていなかったような戦いぶりには、魔人メディウサを見てきたベネットも唸るしかない。

「ああいうパワータイプの敵にはあっしの攻撃なんて無意味でやんすし」

 バボラの暴れっぷりを見てベネットは歯噛みする。

 ウルンセルの爪で出来たこのナイフでは、あの魔人の筋肉に傷をつける事は出来ない。

 更にはあの魔人の攻撃を一撃でもベネットは耐えられない。

「当たらなければどうという事は無いと言ってた少佐がいやしたが…流石にあっしにはそれは無理でやんすよ」

「そうね。でも…魔人相手に私は退けない。私はこうなっちゃけど…やっぱり皆と一緒に戦いたい!」

 カフェは決意を固めてバボラを見る。

「ファイヤーレーザー!」

「ぬるいわ!」

 ジルの魔法が当たるが、バボラは全く意に介さず襲ってくる。

「やっぱり魔人に対しては普通の魔法は効果が薄い…ランス様がもっと大きく傷をつけてくれなきゃ…」

 自分の魔法が効果が薄かったのを見て、ジルは別の手段を探す。

「ねえジルちゃん。それってどういう事?」

 ジルの言葉が気になりカフェが尋ねる。

 カフェは魔人と戦った事はあるが、倒した事は無い。

 そもそも魔人に対しては無敵結界の関係でダメージが与えられないので、魔人とは戦わないようにしてきた。

「ランス様が日光で攻撃すれば、その部分の再生力は大きく下がるんです。魔人には強力な自己再生能力が有りますから」

「…そうなんだ。だから日光さんはランスさんに任せてるんだ」

 日光が自身で『聖刀日光』を扱えるのならばそれに越した事はない。

 何しろ日光もまた優秀な戦士であり、今この場に日光が居れば手数が大きく増える事になる。

 そうしないのは、ランスが日光を使った方が魔人に対して大きくダメージを与えられるからだ。

「ジルちゃん。あの魔人の足を止められる?」

「…粘着地面程度で止められる相手じゃ無いです」

 カフェの言葉にジルは考えるが、粘着地面ではあの魔人は止められないだろう。

 何しろ体が大きいし、その足の力も凄まじい。

 少しバランスは崩せるかもしれないが、それ以上の期待は出来ない。

「そうね…でも出来る事はやるべきよ。魔人に対してはどんな事でもやらなきゃ。そうしないと魔人は止められないもの」

「カフェさん…」

 ジルはカフェの言葉に目を見開く。

 ジルが最初にカフェを見た時、その目にあったのは諦めと絶望だった。

 それはジルがかつて抱いた感情で有り、ジルもカフェの気持ちが何となくだが分かってしまった。

 確かにカフェは美しいが、だからと言ってこれまでその美しさが本当に彼女のためになってはいなかったのだろう。

 それどころか彼女に後悔と絶望を植え付ける結果となってしまった。

(そうなんだ…この人は仲間に…日光さんに…)

 それでも彼女は魔人を前にして光を取り戻した。

 普通は魔人相手など絶望以外無い。

 ましてや彼女はこれまでの人生を絶望して生きてきた女性だ。

 だが、彼女はかつての仲間である日光を…自分がコンプレックスを抱いていた女性と再会しても、それでも前を向いている。

(私も…出来る事をやらないと。スラルさんは引っ込んじゃったし…)

 魔人バボラの襲撃があってから何故かスラルは自分の中に引っ込んでしまった。

 話しかけても反応が無く、ジルは不思議に思っていたが、もうそんな事は言ってられない。

「私に出来る事は…」

 ジルはランス達と魔人の戦いを見る。

 バボラは魔人になってそんなに日が経っていないだろうに、それでもあれ程強いのだ。

 単純に『鬼』という種族としての強さがそのまま『魔人』という存在で伸ばされたような形だ。

(技ではやっぱりランス様が凄い…魔人の攻撃を完全にしのいでいる)

「いい加減に死ねーっ!」

「ははははは! お前が俺よりも強ければ俺を殺せる! だが、そう簡単に出来ると思うなよ!」

 ランスの攻撃をバボラは受けているが、致命傷だけは確実に避けている。

 日光による一撃だけは貰わないように立ち回り、レンとシルキィの攻撃はその膨大な体力と筋力で防いでいるのだ。

「うあっ!」

 バボラの金棒を受けてシルキィが吹き飛ばされる。

 シルキィはランス程の技術が無いので、どうしても魔人の攻撃を受ける方に回ってしまう。

 いや、シルキィもまた凄まじい技を持っているのだが、流石に魔人が相手だと厳しいのだ。

「大丈夫!? ヒーリング!」

 カフェはシルキィの側によるとその体にヒーリングをかける。

「ありがとう! あなたの回復魔法…本当に凄いわね」

 シルキィは直ぐに立ち上がり、魔人バボラへと向かって行く。

「…凄いわね。ブリティシュみたい」

 カフェは直ぐに魔人に向かって行くシルキィを見て目を丸くする。

 その後ろ姿は自分達のリーダーであったブリティシュを思わせる。

(そっか…私達のやった事は無駄じゃ無いんだ。こうして後に続いてくれる人達が居る)

 ランスという男は間違い無く悪人だろう。

 だがそれでも魔人と戦うその姿は英雄のソレに他ならない。

「援護するわ! 鉄の壁!」

 カフェはランス達に防御魔法を放つ。

 魔人バボラは見た感じ物理一辺倒という感じだ。

 魔法も使えるかもしれないが、これまでの戦闘の傾向からしてその可能性は低いだろう。

 もし魔法を使って来たとしても、自分とレンの神魔法があれば十分に立て直せる。

「フン! いい加減に死ね!」

「ハハハハハハ! こんな楽しい戦いを堪能せずして死ねるものかよ! それよりも貴様は楽しくないのか!? この血沸き肉躍る闘争が!」

 ランスの剣をバボラは力任せに弾き飛ばす。

 が、ランスはバボラの力を利用して飛び上がると、そのまま頭上から日光を振り下ろす。

「甘いわ!」

「何だと!?」

 その後のバボラの行動はランスの行動を超えていた。

 なんとバボラは日光を振り下ろすランスにそのまま肩から体当たりをしたのだ。

「ぐはっ!」

「ぐうっ!」

 当然そんな事をすればお互いが無事でいられるはずが無い。

 日光がバボラの肩先から胸に向かって斬り裂き、ランスはバボラのタックルを空中でまともに受けてしまう。

「ランス!」

 レンは凄まじいスピードで地面に叩きつけられたランスを抱き上げる。

「く…まさかこんな手段を…!」

 レンは予想外過ぎる魔人の動きに唇を噛む。

「はははははは! この程度で俺は止まらん!」

 バボラも傷口から勢いよく血を噴き出しているが、それでもバボラは闘志を剥き出しにしてランスに向かって行く。

「させない!」

 シルキィはランスの前に立ちバボラの巨体を受け止める。

「ランス! カフェ! お願いします!」

「うん!」

 日光の言葉にカフェはランスの側に駆け寄る。

「…うぐぐ、あの野郎」

 ランスは口から血を流しながら何とか立ち上がろうとする。

 だが、受け身を取れない状態でまともに魔人の攻撃を受けてしまったランスもダメージは大きい。

「剣で受け流してこれか。魔人になり立てのくせにやたらと思い切りがいいわね」

 カフェがランスに回復魔法をかけたのを見て、レンもシルキィと共にバボラを止めるべく立ち向かう。

「ランス様!」

「旦那!」

 ジルとベネットはランスに駆け寄り、魔人に対して強い警戒を示す。

 幸いにもバボラはレンとシルキィを相手に足止めされているが、それでも油断は出来ない。

「ランス様、大丈夫ですか!」

「一々大声を出すな。あの時の馬鹿に比べれば大したことは無い」

 痛みは取れたが、体はまだまだ本調子とは言えない。

 剣でバボラの一撃を受け流したとはいえ、流石に全身に受けた衝撃が大きすぎた。

 だが、そんなものはランスには関係無い。

 あのふざけた奴を殺す、ランスにあるのはそれだけだ。

「ジル、あいつの足を止めろ。一瞬で構わん」

「ランス様…はい!」

 ランスの意志を汲み取りジルも魔人を注意深く見る。

 ランスとしても魔人相手にこうまでやられてタダで済ますような人間では無い。

 日光ではなくハデスを手にバボラに目を向ける。

「ランス…私を使わないのですか?」

「フン、今の俺様は無数の必殺技があるんだ。それをお前達にみせてやる」

 ランスは剣を何時ものように構えるのではなく、地面につきそうな程に下に下げる。

「ジル、俺様の合図で奴のバランスを崩せ。それだけでいい」

「は、はい!」

 ジルはランスの言葉に頷いて粘着地面の詠唱を始める。

 魔人相手でも一瞬だけでも効果があるのはこれ以外に考えられない。

 そしてランスがそれを要求するという事は、必ず状況を打破できる手段があるのだ。

 カフェはランスを見て背筋が震える。

 何をしようとしているか分からないが、それだけの気迫がカフェには伝わってきている。

「今だ! やれ!」

「はい! 粘着地面!」

 それはバボラがその大きな足でシルキィを蹴り飛ばした瞬間だった。

「む!?」

 バボラは片足立ちだった事も有り、突如として足元がぬかるんだ事でバランスを崩す。

「しゃらくさいわ!」

 だが、それでもやはりバボラは魔人だった。

 そのまま踏みとどまると、粘着地面でぐちゃぐちゃになった地面を踏みぬくようにして足を下ろす。

「…む!?」

 その時バボラはようやくランスの動きに気づいた。

 それはランスから凄まじい闘気が放たれていた事に今更気づくと言う、バボラとしては最大の不覚だった。

「死ねーーーーーっ! ラーンスアターーーーックⅡ!!」

 ランスは地から剣を走らせるように振りぬくと、その闘気と衝撃波が言葉通り地面を走っていく。

「おまけだ!」

 間髪入れず、ランスはもう一度同じように剣を振る。

 黒と緑が混じった衝撃を前にバボラはそれでも笑う。

「面白い! 受けて立つわ!」

 地面がぬかるんでいた事でランスの放った衝撃波を避けられないと判断したバボラは、直ぐにランスの放つ技を迎え撃つ。

「うおおおおおおおお!」

 バボラはランスの放った衝撃波を金棒で叩き潰そうとする。

 その強靭な両腕から放たれた一撃はランスの放った一撃を相殺する程に強力だった。

 しかしそのバボラの力をもってしてもランスの必殺技を完全に殺し切る事は出来なかった。

「ぐおおおおお!?」

 バボラの全身の筋肉が盛り上がり、ランスの必殺技の威力に負けぬようにその場に踏みとどまる。

「フンッ!」

 そして凄まじい筋肉の膨張と共に、ランスの技を跳ね飛ばした。

「甘いわ! 小僧! …!」

 その時バボラは自分に接近しているランスの姿を見た。

(こいつ…! この技は目くらましか!?)

 ランスは既に必殺の間合いに入っている。

 だが、バボラはそれでも剛毅な笑みを浮かべる。

「来い! 人間!」

「とっとと死ね! 新ランスアタ」

「ライトニングレーザー!」

 メディウサを屠ったランスの必殺に一撃を放とうとした時、何処からともなく放たれた魔法がランスに直撃する。

 魔法防御力の高いランスにとっては大したダメージではない。

 だが、それでもランスの必殺技を妨害するのには十分だった。

「な」

 そして驚愕の言葉はランスからではなくバボラから放たれる。

 バボラがカウンターで放った強烈な拳がランスの胸に突き刺さったのだ。

 ランスは言葉も放てずに吹き飛ばされる。

「ランス!」

「ランス様!」

「ランス君!」

 レン達の言葉と共に、バボラの背後から声が聞こえる。

「ご無事ですか、バボラ様!」

 そこには何時の間にか、魔物将軍率いる魔軍が集結していた。




バボラに技能レベルが無いので戦い方が凄い迷いました
オーソドックスなフィジカル強者という事に落ち着きました
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