ランス再び   作:メケネコ

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動き出す男

「ハンティ様、こちらが?」

「そう、例の人間。ま、他ならぬこいつ等の仲間だからね。何とかしてやってほしくてね」

 ハンティが1人のカラーを伴って現れる。

「あ、君は確か…カラーの女王だったな。えーと、名前が…」

「レナ。レナ・カラーと申します」

 レナと名乗ったショートカットのカラーは恭しく一礼する。

「ああそうだレナちゃんだ。こっちに来てから色々あって君とはあまり話した事が無かったな」

 何しろランス達はこれまで色々な戦いを繰り広げてきた。

 カラーの女王とは縁があるランスだが、今の時代はカラーが人間に対して排他的なためか、ランスもカラー達とはあまり交流を持てなかった。

 中にはランス達に偏見を持っていないカラーも居るが、それでも人間に対して警戒を解かない者達も数多い。

 これはカラーの歴史からすればやむを得ない事であり、ランスも特に気にしてはいなかった。

「で、君は何をしに来たのだ」

「ハンティ様から話を聞きまして…こちらの方を何とかしてやって欲しいと」

 レナ・カラーはそう言ってカフェを見る。

「…成程、確かに厄介ですね。あなたは私に何の気持ちも持っていないでしょうが、私は少し心をざわつかされています」

「…カラーからもそう見られてるんですね」

「そうですね…普通ならばあなたのために何かをするのも嫌だと思うでしょうね。ですが私もカラーの女王、それくらいの自制心を持っています」

 カラーの女王とは基本的に呪いに強い。

 事実、ランスが知っているパステルは呪いに関しては本当に凄く、エキスパートと言っても良い。

(そういやパステルの親達は呪いより魔法だったな)

 ランスはバベルの塔でパステルとその親達と戦った事を思い出す。

 あれは今思い出してもいいものだった。

「で、何かいい方法はあるかい?」

「あります、始祖様」

 パステルの言葉にレナは頷く。

「カフェさんに手を出せなくなるようになれば良いのです。そのための呪いを開発しました」

「…呪いってそう簡単に作れるものなんですか?」

 あっさりと言い放つカラーの女王の言葉にジルは驚く。

 ジルも魔人を倒すため、呪いの事も調べた事もあった。

 ただ、自分には呪いの才能が無いのと、ランスと出会った事で別の方向にシフトしたので詳しくは無い。

「まあ…本当はベネット様を何とかしようとして作られた、言わば副作用的な呪いなのですが…」

 レナはベネットを見て申し訳なさそうにする。

「あっし? あっしが何かしやしたか?」

「ベネット様は私達の偉大な祖先であるケッセルリンク様と同じく、人と協力して魔人を倒した方です。ですのでカラーとしては子孫を残して欲しいのですけどね…」

 レナはベネットを見てため息をつく。

「…まあこいつは残念な奴だからな」

「その残念ってのが一体なんなんでやんすかね!? 旦那は決してあっしに手を出そうとしないし、あまつさえユニコーンにすら逃げられる始末! あっしこそ呪われてるんで無いでやんすか!?」

 ベネットはユニコーンの事を思い出し激怒する。

 ベネットはカラーなので当然ながら容姿は美しい…のだが、何故だが男からそういう目で見られない。

 男だけでなく、女の子モンスターであるユニコーンからも逃げ出される始末だ―――処女なのに。

「ベネット様は本当に呪われているんじゃないかと思って調べましたが…」

「…調べたんでやんすね」

「残念ながらベネット様は呪われていませんでした。つまりはそういう目で見られるのは最早才能と言うほか有りません」

「ふざけんな! そんな才能が居るか!」

 カラーの女王に断言され、ベネットは当然のようにキレる。

「で、この残念なバカの事はどうでもいいとして、カフェを何とか出来るのか」

「旦那…あっしとやる気が無いからホント好き勝手言ってくれやすね…」

 ランスの言葉にベネットは本気で落ち込む。

 無類の女好きで、カラーの里に居るにも関わらず平気で毎日毎日セックスをしている男。

 その男にこうまで言われるとは、一体自分は何なんだろうかと本気で落ち込んできた。

「その過程で新たな呪いが出来ました。それが『残念モルルン』です」

「残念…」

「モルルン?」

 レンとジルが首を傾げる。

「ええ。この呪いをかけられた者は…ベネット様と同じようになります」

「うわあ…それは酷い呪いね。あっ…」

「へいシルキィさん!? あなたもあっしの事そう思ってたんでやんすね!? あなたは違うと思ってたのに!」

「ご、ごめんなさい! わ、私はそんなつもりは…」

「そこで素直に謝られるのは余計に腹立つんですけどねえ!? いや、あっしは本当にどういう目で見られてたでやんすか!?」

「と、とにかく。この呪いをかければカフェさんに手を出そうとする人間はいなくなるはずです。その呪いはもう私達で実証済み。後はカフェさんがそれを了承すれば…」

「あ、お願いします」

「…即答ですか」

 カフェは二つ返事でレナに頼む。

「そうでもしないと、私はまともに生活すらもままならないんです…それに、私が本当の意味で日光さんの…皆の役に立つためにはそれくらいしないといけません」

「…分かりました。解除は何時でも出来ます。それと呪いは永遠という訳では無いので、定期的にかけ直す必要も出てくると思います。それでいいですね」

「はい。お願いします」

「分かりました。では…残念モルルン!」

 レナの手から光が放たれ、その光がカフェを包む。

「…成功です。どうやらカラーの呪いとあなたの呪いは別物のようですね」

「…はあ。でも私は特に何も変化は無いですけど」

 カフェは自分の体を見る。

 特に何か変化が有る訳も無く、自分は呪いをかけられたという自覚は無い。

「まあそれも含めてテストしましょ。ランス、今のカフェを見てどう思う?」

「あん? そんなのは普段のカフェと変わらんだろ」

 レンに促され、ランスはカフェを見る。

 相変わらず人並外れた美貌で、男ならば誰もが襲いたくなる極上の『肉』だ。

 そのはずなのだが…

「…いかん、いかんぞ。何か今のカフェに手を出したら負けのような気がして来たぞ」

「ファッ〇ン! それは旦那のあっしに対する態度と全く同じ! つーかあっしが元となった呪いって何!? あっしは素で手を出されたら負けだと思われているでやんすか!?」

 ランスの言葉に反応したのはベネットだ。

 この衝撃の展開にはベネットも当然のようにぶち切れ。

 同胞であるカラーの女王からのディスられっぷりには流石のベネットも激怒する。

「ベネット様から見た彼女はどうですか?」

「あっし!? あっしは最初からカフェさんの事は何となく気に入らないって感じで…あれ?」

 レナの言葉にベネットはカフェを見る。

「…ヤバイ、あっしは今のカフェと魂の双子だと思わんばかりにシンパシーを抱いているでやんすよ」

「それは暗にアンタが残念だと認めた事になるんだけどね…」

 ベネットの言葉にハンティは複雑な顔を呟く。

 ハンティとしてもベネットの有能さは認めているが故に、周囲からの評価は残念だと思っていた。

 だが、彼女の残念さはどうやら自分が思っていたよりも遥かに重症のようだった。

「でもそれでランス様がカフェさんを襲う事は無くなったんですか?」

「…そうだといいけどね」

 ジルの言葉にシルキィも不安そうだ。

 何しろ二人にはカフェに何か変化があったとは思えない。

 元々精神的にも強かった彼女達は、カフェを見ても元々何かしらの暗い感情を持つ事は無かったからだ。

「ランス、本当に大丈夫ですか? カフェを襲うような事は…」

「うーむ…いかんな。今でもカフェは美人だとは思うが…手を出すと終わるような気がしてならん」

「ランスにそう言わせるなら大丈夫じゃない? だって実際ランスはベネットに手を出して無いんだし」

 レンの言葉に誰もが頷く。

「んー…まあ取り敢えずカフェに妙な気分を起こさんならそれでいいか」

 ランスとしても急にカフェを襲うという事が無くなればそれで良かった。

 確かに極上の体だが、何と言うか理性が消えるというのはランスとしても嫌だったので丁度良い。

「すっごい納得がいかないでやんすよ」

 ただ一人、ベネットだけが恨みがましい目で周囲を睨んでいたが。

「カフェの事は取り敢えず良いですが…ランスの言う男除けの指輪の事も気になります」

「そうですよね…それがあれば私も呪いをかけて貰わないといけない手間が省けますし」

 それはそれとして、ランスの言う男除けの指輪の事も日光達は気になっていた。

 それさえあれば、カフェもカラーに呪いをかけられる事も無く、世界を冒険できるかもしれない。

 あくまでもこれは一時しのぎで有り、呪いの効果が何時切れるか、そして切れた後はどうなるのかを考えれば予防措置はいくらあってもいい。

「ランス様。当ては有るんですか?」

「む」

 ジルの言葉にランスは考え込む。

 男除けの指輪はクルックーがランスと出会っていた時からつけていたアイテムだ。

 ランスが見つけた物ではなく、最初からクルックーが探していたか、誰かから貰ったかだ。

 その両方の場合でも、ランスとしては当てが無い。

「カイズにあるか…? いや、そうとも限らんしな」

 もし誰かから貰ったのだとしても、今の時代のカイズにそんな物が有るとは限らない。

 何しろ今の時代はGI初期、まだまだ人類が新たな文明を気づけてもいない状態だ。

 それなのに今のカイズにそんなアイテムが残って居るとは考えにくかった。

「取り敢えずはこれで良いです。それよりもこれから先はどうなるのか…」

 カフェの言葉にシルキィが唇を噛む。

 今回はカフェを救う事は出来たが、その隠れ里に居た人間は魔物によって皆殺しにされてしまった。

 結局の所、人類の未来は今も魔王ジルの時代と変わらないのだ。

「…やっぱり狙うのは頭、かな」

「シルキィさん…でもそれは」

「危険なのは分かってる。でも、私にはそれしか考えられない」

 そんなシルキィにランスは呆れた声を出す。

「まだ分かっとらんのか。魔人にも勝てないお前が魔王に勝てる訳が無いだろ」

「それは…そうだけど…」

 魔人メディウサ、そして今回魔人バボラと戦った。

 だが、それは全てランス、そしてレンの二人の力が大きい。

 シルキィの目から見ても、この二人の強さは正に別次元の力だ。

「あ…そう言えば魔人が死んだって話を聞いたんだけど…それってもしかしてランスさん達が?」

「ええ。私はランスと共に、複数の魔人と戦い、一部の魔人を倒す事が出来ました」

「じゃあ日光さんは仇を…」

「ええ…私の家族を殺した魔人は…私達が倒しました」

 日光の言葉にカフェの目が輝く。

「そっか…そうなんだ…とうとう人間の手で魔人を倒す事が出来るようになったんだ」

 カフェにとっては魔人は敵だ。

 だからこそ、カフェもエターナルヒーローとしてブリティシュ達と共に戦ってきたのだ。

 そしてカフェは一度深呼吸すると、

「ねえランスさん。私も助けになりたいんだけど…いいかな?」

 真剣な顔でランスを見る。

 そんなカフェに対してランスは「今更何言ってんだ?」みたいな顔をする。

「助けも何も俺がお前を助けたんだから、お前が俺を助けるのは当然だ。まあお前はヒーラーとして優秀だからな。これでレンもガードに集中出来るだろ」

「まあそうね。神魔法を使えるのは私だけ…というのも危ない所も有るからね。それに私はどちらかと言うと回復よりも戦闘の方が得意だし」

「…アレだけの回復力があって、それでも戦闘の方が得意なんだ」

 レンの言葉にシルキィは感心したように頷く。

 やはりランスとレンに関しては別格だ。

「と、言っても出来る事も無いがな。今は魔人共もうるさいだろ。大体短期間に魔人に会い過ぎだ」

「それは…そうですね。流石にこの短期間で3体の魔人と会うというのは考え物ですね…」

 ランスの言葉に日光も苦い顔をして頷く。

 魔人は確かに日光にとっては倒すべき敵ではあるが、その強さはやはり別物だ。

 いくらランスと言えども、魔人との連戦となればどうなるか分からない。

 ましてやランスは魔人四天王のカミーラから狙われている。

 あまり大きく動くと、あのカミーラが襲ってくる可能性も高い。

 そしてカミーラはこれまでの魔人と比べてもその強さは別格…ランスと言えども勝てる保証は無い。

「魔人3体と遭遇…?」

 カフェが怪訝な顔をする。

「…ええ。私達は短い時間で3体の魔人と遭遇しました。この前あなたも戦った新たな魔人であるバボラ。そして私達が倒した魔人メディウサ…そしてあなたも出会った事のある魔人レイです」

「魔人メディウサに魔人レイ…あ、魔人レイって」

「はい。昔私達が出会った時に現れた魔人です」

 カフェはランス達との最初の出会いを思い出す。

 アレはお世辞でも良い出会いとは言えない事だった。

 最初はランス達と自分達は黄金像を巡って対立していた。

 その時の黄金像を巡って現れたのが、あの魔人レイだった。

「魔人メディウサは…倒せたの?」

「ええ。魔人の撃破に成功しましたが…その時色々ありましてね。その事も説明した方が良いでしょう。が、到底信じられる事では無いかもしれませんが…」

 日光はため息をつく。

 実際にランスと行動を共にするとあり得ない事ばかりが起こる。

 しかし、それは全て事実なのだから有りのままに話す以外に方法は無かった。

 日光は自分が知っている事で、尚且つランスに影響が無い範囲をカフェに説明する。

「魔人と一緒に魔人と悪魔と戦った…正直意味が分からないんだけど」

「そうでしょうね。私もこれをカフェから聞いたなら信じないと思います」

 魔人メディウサとの戦いでは、メディウサと協力関係の悪魔が居たが、その悪魔はメディウサと同じ魔人であるレイによって倒された。

 つまりは魔人が魔人の邪魔をしたという事になるのだが、カフェはそれが信じられなかった。

「別に魔人は同じ魔人だから仲が良いなんて事は無いぞ」

 ランスの言葉にもカフェは難しい顔をする。

 ただ、カフェの反応は普通であり、信じる方がどうかしている。

「信じられないけど本当なのよね…私も正直今でも信じられないし…」

 シルキィも複雑な表情だ。

 魔人は全て倒すべき相手なのは間違い無いが、ランスはその一部の魔人と親しい関係だ。

 ただ、魔人は魔王の命令には絶対に逆らえないので、魔王を相手にするならその魔人とも必然的に敵対関係になってしまう。

「日光さんは…それをどう思ってるの?」

 カフェの指摘に日光は難しい顔をする。

「私は…やはり魔人は倒すべきだと考えています。ランスと協力出来る魔人が居るのは事実ですが、ランスが居なくなれば魔人は人間の敵になるでしょう」

 日光はランスを真剣な顔で見る。

「ランス、あなたは自分が死んだ後の事は考えて無いでしょう?」

「当たり前だ。何で死んだ後の事なんて考える必要がある」

「…まあそうですね。ランスの言っている事はある意味間違っていない。それに、問題なのはやはり魔人ではなく魔王ですから」

「魔王…」

 日光の言葉にカフェも厳しい顔をする。

 結局は魔王が居る限り、人間に明るい未来は無いのだ。

「魔人にも勝てない私が…本当に何が出来るのかな」

 魔王という言葉を聞き、シルキィも肩を落とす。

(私は魔人にも勝てない…ランス君のような強さが私にも有れば…)

 シルキィはランスが羨ましかった。

 純粋な強さ、そして魔人すらも屠るその技。

 何よりも、魔人に対しても恐れずに向かって行く自信と勇気。

(魔人相手でも楽しそうに笑う…私には出来ないなあ)

 ランスは戦闘狂では無いが、魔人相手にも不敵に笑う。

 そんなランスにシルキィはある種の憧れを抱いてた。

 圧倒的な強さ、そしてそのカリスマ性からくる、ランスならば何とかしてくれるという空気。

(はぁ…悩むなあ)

 こうしてシルキィも又、ランスと出会った事で色々な悩みを抱えていた。

 

 

 

 ???―――

「………良くないか」

 魔王城の一室、そこで魔人バークスハムは眉を顰めていた。

「何かが違う…だが、それが何なのかが分からぬ。しかし、このままでは…」

 それはレーモン・C・バークスハムの持つ予知とも呼べる力。

 その魔人が見たのは、この世界の停滞、そして永遠に続く闇の世界だ。

 だが、それはかつてバークスハムが見ていた未来とは変わっていた。

 その時はこの世界の『停滞』が起こっていなかった。

 世界の停滞が見え始めたのはつい最近の事だ。

「世界の変化…それは一体何なのか…だが、早急にどうにかせねばならぬ」

 バークスハムが見た未来、それが何を意味するのかは自分にも分からない。

 だが、それでもバークスハムにはそれが『視えた』以上は何とかしなければならないという使命を抱いていた。

「変化…いや、変化は確実に起きている。魔人メディウサの死がそれだ」

 魔人メディウサの死、それは確実に変化をもたらせていた。

 魔物による人間狩りの増加、それによる人口の減少―――それは確実にバークスハムが見た未来を暗黒へと変えていた。

「人の死が闇となる…それは何故か。しかし問題はそうではない」

 バークスハムは魔王城の己の部屋からバルコニーに出ると、天を仰ぐ。

 美しい夜空ではあるが、バークスハムの目に映るのは闇だ。

「しかし断片は見えた。青い髪の少女―――彼女こそ、この世界を変える存在」

 バークスハムの予知に出てきた一人の少女が居る。

 その者こそが、この世界を変える鍵となる、バークスハムはそれを確信していた。

 その者を己の主に引き合わせる事が出来れば、この世界の闇の一つを払えるだろう。

「…だが、そのためにはどうするべきか」

 バークスハムが見た光景はあくまでも断片的であり、それが何なのかははっきりしない。

 彼の力とて決して万能では無いのだ。

「分からぬのならば…動くしかあるまい」

 バークスハムはそう言うとその顔に笑みを浮かべる。

「そして…ガイ様と会わせねばならぬ者がまだ居る」

 それはバークスハムのもう一つの予知。

 この世界の闇を照らす光であり、同時に混沌でもある存在。

 まだそれが何なのかは全く分からないが、それでもバークスハムはやらねばならない。

「全ては世界の、そして我等の主のため」

 魔人バークスハムはそう言って一人何かを求めて動き始めた。

 

 

 

 カミーラの城―――

「只今戻りました。カミーラ様」

 使徒七星が己の主の前に跪く。

「何かあったか」

「特には…魔物共がメディウサの死と同時に好き勝手にやっているだけです」

 カミーラの問いに七星は感情を全く見せずに答える。

 つまりは世界の情勢にはそれほどの変化はないという事だ。

「ランスは…」

「恐らくはカラーの元へと身を寄せているでしょう。メディウサが死んだ今、ケッセルリンク様を恐れカラーに手を出す者は居ないかと」

「…だろうな」

 七星の報告を予想していたと言わんばかりにカミーラが呟く。

「カミーラ様…体は大丈夫ですか?」

 七星と同じ使徒であるラインコックが心配そうに呟く。

「問題は無い。鈍った体を取り戻すには丁度良い時間だ」

 カミーラはそう言うが、その体には決して小さくない傷が有る。

 それは魔人の体であっても傷が残る…つまりは、ドラゴンとドラゴンの激しい戦いがあった事を意味していた。

「フン…ノスの奴もジルが死んだ事で腑抜けたかと思ったが…」

 カミーラは同じ魔人であるノスと激しい戦いを繰り広げた。

 魔人同士の争いは禁じられているのだが、殺し合いにまで発展しなければ問題は無い様だ。

「しかし私は今でも信じられません。あのジル様がガイに倒されるなど…」

 七星の言葉にカミーラは珍しく苦笑する。

「別におかしくは無い…魔王アベルはマギーホアに敗れた…無敵結界が無い時期ではあるがな」

 カミーラは忌々しそうに魔王アベルの名を呟く。

 カミーラの性格が歪んだ一因に魔王アベルの存在が有る。

 そのアベルはドラゴンの王、マギーホアによって敗れた。

 その事もまた、カミーラの性格を歪ませる一つではあったのだが。

「動きますか? カミーラ様」

「…そろそろ奴との決着をつけるか」

 カミーラの目に小さな炎が宿る。

(ランスを我が前に跪かせ、私の使徒にする…そろそろ良い時期か)

 勿論カミーラにとってはランスを倒すという事は、全力を出させてから倒すという事を意味する。

 そうしてこそ、カミーラは本当の意味でランスを手に入れる事が出来る、という誓いを立てていた。

 ただ使徒にするのではなく、ランスを屈服させ使徒にする…それこそがカミーラが狙った最大にして極上の獲物と定めたランスに対する、カミーラなりの誠意とも言えた。

「た、大変です! 七星様!」

 そこに慌てた様子の魔物将軍が駆け込んでくる。

「…どうしましたか」

 普段であればこの魔物将軍の行動はカミーラの元では許されない事だ。

 ただ、目の前の魔物将軍は七星が見込み、己の部下として使っている優秀な魔物将軍だ。

 その魔物将軍が自らがこれ程慌ててまで報告に来る、それは重大な何かがあったという事だ。

 だからこそ、七星もその話を聞く事にする。

「バークスハム様が…レーモン・C・バークスハム様が動きました!」

「…何だと」

 魔物将軍の報告に反応したのはカミーラだった。

「バークスハムが…何処に動いた」

「も、申し訳ありません、カミーラ様!」

 カミーラの姿を確認し、魔物将軍は慌てて臣下の礼を取る。

 その仕草は魔物将軍としては非常に優雅であり、取ってつけたような態度でも無い。

「バークスハム様が何処へ動いたかはまだ分かりません。ですが、部下の報告では西に動いたと…」

「西…魔王城からという事で間違い無いですね」

「はっ! 尤も相手はあのバークスハム様…我等の尾行など気づいておられるでしょうから、必ずしも西に向かったとは限りませんが…」

「いえ、重大な情報です。カミーラ様、西といえば…」

「ああ…そうだな」

 七星の言いたい事をカミーラは良く理解している。

 魔王城から西…つまりはカラーの森がある方向でもある。

 勿論偶然かもしれないが、あの男にはその偶然が通用しない。

 そしてあのバークスハムが動いたという事は、何かしらの事がこれから起きるのは間違いない。

 カミーラはバークスハムの事はあまり知らないが、その強さは感じ取っていた。

 何よりも、バークスハムはあの魔王ガイの忠臣だ。

 つまりは、魔王ガイに何かしらの影響がある事を掴んだとしてもおかしくは無い。

「…七星、この者達は動かすな。バークスハムは好きにさせろ」

「カミーラ様!?」

「言う通りにしろ。だが…カラーの森を観察させろ。やるのは観察だけだ…絶対に手を出すな」

「はっ! 分かりましたね。カミーラ様直々の命令、成し遂げなさい」

「ははっ!」

 魔物将軍は急ぎながらも慌てた様子も無く走り去っていく。

「…バークスハム。何故奴が動く?」

 カミーラはあのバークスハムの挙動に眉を顰めるしかない。

「七星」

「はっ」

「魔王城の動きも監視せよ」

「ははっ!」

 主の命令に七星も動き始める。

「何かが…起きる」

 カミーラは目を細めて笑みを浮かべる。

 それがどんな事であれ、この世界に変化が起きる…そんな予感をカミーラは感じ取っていた。




大分遅れました
PCが使えない環境が非常にキツイ…
あと普通に風邪をひくという運の無さ
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