魔人バークスハムは魔王ガイによって魔人にされた元人間だ。
新参の魔人ではあるが、魔王ガイからの信頼は厚く、その関係は良好だった。
それにはバークスハムには有る力があったからと皆が噂するが、バークスハムはそれに対して何も答えない。
そのバークスハムが視た光景は非常に歪だった。
バークスハムにはその理由が分からなかったが、その歪の原因は分かった。
それは世界が正しい歴史を歩んでいないという事…しかし、正しい歴史とは何なのか?
バークスハムでもそれは分からなかったが、時間が経つにつれてその光景が強くなっていた。
そして視たのが1人の少女の姿…それが何を意味するのかはバークスハムでも分からなかった。
ただ、その少女を魔王に会わせる事、それが必要なのだという事が朧気ながら分かった。
そこからはバークスハムの動きは早く、瞬く間に少女を魔王城へと向かわせる事が出来た。
が、同時にその少女の仲間が邪魔をする事も分かっていた。
だからこそ、魔物大将軍を向かわせてその一行の動きを邪魔させた。
一方で、その人間達を魔王城へ向かわせる事も促した。
そして今バークスハムの前に、そのイレギュラーが姿を現していた。
「バークスハム? 誰だ」
ランスの言葉にバークスハムは苦笑する。
「知りませんか…いえ、私は魔人の中でも新参者、人間に知られていなくても無理はない。だが、あなたはそうでは無い様だ」
バークスハムはそう言って剣を抜く。
「魔人メディウサが倒された…それも本来はありえぬ事、だが、現実にそれは起きている」
「それがどうした」
「フフ…ガイ様はあなたの存在を知っている。知っているが、決して手を出そうとはしない。理由は知りませんし、聞く事も無い。だからこそ、あなたの存在に興味もある」
「気持ち悪い事を言うな。男なんぞに興味を持たれても気持ち悪いだけだ」
ランスの言葉を無視してバークスハムは言葉を続ける。
「まあそんな事はどうでもいいでしょう。今私はあなた方を通す訳にはいかない。それこそが正しい事…それを邪魔する事は許されない」
そう言うとバークスハムから凄まじい魔人の気配が放たれる。
それを浴びてランスは思わず身構える。
それはランスの戦士としての勘がそうさせたのだろう。
「ランス様…」
「そんな顔をするな。たかが魔人だろうが」
ランスの言葉を聞いてバークスハムは嬉しそうに笑って見せる。
「たかが魔人…か。面白い事を言う。だが、メディウサを倒せてもこの魔人筆頭バークスハムに勝てるとは思わない事だ」
そう言うとバークスハムは凄まじい速度でランスに向かってくる。
その動きはランスが想像していたよりも遥かに速い。
「チッ!」
ランスはバークスハムの剣を受ける。
が、その一撃はランスが想像していたよりも遥かに強く、一撃でランスの態勢が崩されてしまう程だ。
「うお!?」
「私の外見からこのような力が出ている事に驚きますか? それとも油断ですか? まあどちらも同じ。ガイ様の元には行かせませんよ」
そしてバークスハムはそのまま力でランスを押し切ってしまった。
ランスは吹き飛ばされるが、そこをレンが受け止める。
「炎の矢!」
ジルが牽制に魔法を放つが、それはバークスハムの無敵結界に阻まれる。
「まだ私の無敵結界は健在。さあ、日光を使いなさい。持っているのは分かっている…かつてガイ様と共に魔王ジルと戦った力。その力をこのバークスハムに見せてくれ」
バークスハムは余裕の表情を浮かべてランスを挑発するように言う。
「フン、だったら思う存分に思い知らせてやるわ! 行くぞ、日光!」
「ハイ!」
ランスは日光を抜くと、そのままバークスハムへと向かって行く。
魔人との戦いはまずはランスが無敵結界を斬らなければ勝負にもならない。
バークスハムもそれを分かっているのにも関わらず、全く動こうとしない。
そしてはかない音を立てて無敵結界が斬られ、その勢いのままランスは日光を振り下ろす。
バークスハムは日光を自分の剣で受け止めると、真正面からランスと睨み合う。
「なるほど、本当に斬れるのか。聞くと受けるのではこれほど違う。成程、これがあなたの力という訳ですか」
「やかましい! さっさとどけ!」
「ならばこのバークスハムを倒す事です!」
「うおっ!?」
バークスハムは力づくでランスの剣を弾く。
その腕力には流石のランスも驚く。
一見すると普通の体格なのだが、それでも相手が魔人という事を思い知らされる。
「ファイヤーレーザー!」
ジルの放った魔法が今度はバークスハムに直撃する。
レーザー級の魔法を受け、流石の魔人も後方に吹き飛ばされる。
が、それだけだ。
「成程、人間にしてはかなりの魔力だ。だが、このバークスハムを倒すにはまだまだですね」
「…」
ジルは自分の魔法を受け全く無傷の魔人を見て唇を噛む。
魔人とは何度か戦っているが、その戦って来た魔人の中でも格段に上だ。
その魔法に対する抵抗力も非常に高く、レーザー級の魔法でも殆どダメージにならない。
「だが…人にしては大きな魔力。成程、メディウサを倒せるのも頷ける」
バークスハムはランス達の実力を把握する。
魔人を倒せるのだから弱い訳では無いのは分かってはいたが、それでも人間を下に見て油断をするのが魔人という存在だ。
これまでランスが倒してきた魔人も油断しまくりで、ランスはそこを突く事で魔人を倒してきた一面もある。
だが、目の前の魔人にはそれが無い。
初見にも関わらず、バークスハムは全く油断なくランス達を見ていた。
「来なさい。あなた方には時間が無いはずでは無いのですか?」
「やかましい! ぶっ殺す!」
挑発するように言うバークスハムに対しランスは怒りを見せて突っ込んでいく。
「こちらからも行く事にしよう。電磁結界!」
バークスハムが魔法を放つ。
魔人ならば当然魔法を放ってくるのも当然だ。
「くっ!」
レンがランスとバークスハムの間に入り、その魔法の大半のダメージを引き受ける。
それはかなりの威力で、バークスハムの実力の高さを窺わせる。
だが、ランス達もそれくらいでは止まらない。
「死、ねえええええええ! ラーンスあたたたたーーーっく!」
ランスは飛び上がるとバークスハムに向けて必殺の一撃を放つ。
その一撃は以前にもまして鋭く、早い。
だが、バークスハムはその一撃を予測していたかのように最小限の動きで避ける。
それを見てジルは目を見開く。
(この魔人…ランス様の技を見切っている? ううん、違う…何か違和感がある…)
ランスの技はまさに超一流…いや、そういう次元ではない。
「甘いな…その程度で魔人筆頭を倒せるとでも思ったか!」
バークスハムはランスアタックの衝撃の中から姿を見せる。
「チッ!」
ランスはバークスハムの剣を受けようとした時、バークスハムの剣の軌道が変わる。
そのままランスの肩を貫こうとするが―――ランスは超人的な反応速度で日光の柄でバークスハムの剣をずらす。
それにはバークスハムも驚愕する。
完全に虚を突いた一撃だったが、目の前の人間はそれを信じられない速度で打ち払ったのだ。
「とーーーーーーっ!」
そして黒い剣を横薙ぎに振るわれ、バークスハムもそれを避けるために後ろへ飛ぶ。
ランスはその動きを分かっていたかのようにバークスハムに向かって行く。
魔人に有効なのは普段ランスが持つ剣ではなく、日光だ。
その日光を振るいバークスハムの体を斬る。
「まだまだ!」
しかし相手も魔人、ランスの剣を鎧だけを斬らせる範囲で避ける。
「ライトニングレーザー!」
「げっ!」
そしてそのまま至近距離でランスに向けて魔法を放つ。
それをまともに受けたランスは流石にその衝撃で吹き飛ばされる。
「ランス!」
レンはランスに駆け寄るとヒーリングをかける。
ランスの服は魔法防御力が非常に高いので、魔人の魔法を受けても致命傷にならない。
それどころか、その威力は大半の威力を防げるのだが、流石に無傷とはいかない。
「あだだだだ」
ランスは痛む体を押さえると、目の前に居る魔人を睨む。
「ランス、こいつ強いわよ」
「フン、たかが剣と魔法だけだろうが。もっと厄介な奴が居るだろうが」
「その剣と魔法が高水準だから強いんでしょうが」
「言い合いはそこまでだ」
ランスとレンが言い合っていると、そこにバークスハムが襲い掛かって来る。
レンはランスの前に立つと、バークスハムの剣を盾で受ける。
「全く…本当に厄介な事ね」
「それに首を突っ込むのだから君達も随分と物好きだ。大人しく隠れておけばこうなる事も無かった」
バークスハムは剣を振るうと凄まじい連撃をレンに浴びせる。
「くっ!」
バークスハムの攻撃は鋭く重い。
だが、それ以上にレンは非常にやりにくかった。
(何なのコイツ…!? 確かに速いし重いのは間違いないけど…それ以上に凄いやりにくい)
レンは何とかバークスハムの攻撃を防ぐが、防戦一方だ。
「どうしました? その程度ならばガイ様の元へとたどり着く資格すら無い」
レンがやりにくいのは、バークスハムの攻撃のいやらしさだ。
(ランスの剣とは違う…一体こいつは)
レンも戦士としての素晴らしい才覚を持っているので、相手の実力はある程度は分かる。
そのレンが相手に対して違和感を覚えていた。
これまで色々な魔人、そして神の用意した試練としての魔王とも相対してきた。
下級とはいえ神であるレンが、目の前の魔人が不気味に見えた。
「遅い」
「ぐっ!?」
そしてとうとうバークスハムの剣がレンの肩を貫いた。
それはレンが見せた隙…というよりも、まるでレンが隙を見せる事が分かっていたかのような動きだった。
だが、それでも彼女に傷をつけるのだから、その技は凄まじい。
「ファイヤーレーザー!」
ジルが詠唱していた魔法を放つ。
バークスハムはバリアでそれを受け止める。
ランスもジルの魔法に合わせ、バークスハムに斬りかかる。
が、バークスハムは慌てる事も無くランスの剣を受け止める。
「いい加減にとっとと死ね!」
ランスは剣と日光を手にバークスハムに連撃をしかける。
だが、それでもバークスハムはランスの剣をまるで分かっているかのようにその剣を防ぐ。
「む」
ランスの剣を嘲笑うかのように防いでいたバークスハムだったが、その顔が歪む。
それはあまりにも早く、そして重いランスの攻撃だった。
バークスハムには相手の動きが視えるという能力を持つ。
だからこそ、相手がどう行動するか、そしてどう防御をするか、それも分かるのがバークスハムの力。
そして魔人としてのバークスハムの力も非常に高レベルで有るが故に、能力と合わさり魔人筆頭の地位を手に入れたのだ。
魔人として日が浅い中、誰もが文句を言えない実力をしめしたのがバークスハムなのだ。
(成程…これがこの人間の力か。人を超えた存在…だがそれは歴史において存在していた者)
バークスハムにはランスの動きが読めている。
ただ、ランスの技術に関してはバークスハムを上回っている。
それ故の防戦なのだが、やはりバークスハムの能力は凄まじいのだ。
ランスは剣を振るい、バークスハムのバランスを崩す。
そこでランスは蹴りを放ち―――同じくバランスを崩しながらもバークスハムの蹴りとぶつかり合う。
「ぐおっ!?」
そしてランスは吹き飛ばされる。
「これが魔人と人間の絶対的な差」
確かにランスは強いが、身体能力的には圧倒的に魔人が上回っている。
そしてバークスハムはランスの攻撃と重なってしまっても、その身体能力故にランスを上回るのだ。
「さあ、終わりだ。デビルビーム」
バークスハムは吹き飛ばされたランスに魔法を放つ。
「ランス様! 危ない!」
そこをジルが魔法バリアでバークスハムの攻撃を防ぐ。
ただ、バークスハムもそこは織り込み済みだ。
すぐさまランスとの距離を詰めると、ランスに向けて剣を向ける。
「立って! ランス!」
レンが何とかランスとバークスハムの間に入る。
「少し待て…!」
ランスは足を押さえながら何とか立ち上がる。
バークスハムと足がぶつかったが、それだけでランスの足が痺れている。
ランスはバークスハムの動きを見て舌打ちをする。
(こいつ…面倒くさいぞ)
ランスが思ったのはこの魔人のやりにくさだ。
まるでこちらの攻撃を予測しているかのように立ち回っている。
勿論魔人としての実力も相当なものだとはランスも感じているが、それ以上に厄介なのはやはりこちらの動きを看破しているような動きだ。
それ故にランス達の攻撃もバークスハムにまともに届いていないのだ。
「ランス、手数を増やしましょう」
日光がランスの隣に現れ、聖刀日光を構える。
「フン、しくじるなよ」
ランスも日光の腕前は良く分かっているのでその申し入れを受け入れる。
「クッ…この!」
レンは何とかバークスハムの攻撃を防いでいるが、それでもバークスハムの力は圧倒的だった。
剣だけでレンを圧倒し、その体を傷つけていく。
「させません!」
日光はレンを助けるべくバークスハムに斬りかかる。
「ぶっ殺す!」
ランスは日光と逆の方向から駆け、バークスハムに襲い掛かる。
「フッ…」
バークスハムは不敵な笑みを浮かべると、
「ファイヤーレーザー!」
日光に向けて強烈な魔法を放つ。
魔法は必中、絶対に避ける事が出来ない一撃なので日光はその直撃を受けてしまう。
防御態勢を取っていたので致命傷にはならないが、やはり魔人の魔法は強烈過ぎた。
日光は吹き飛ばされるが、ランスは構わずにバークスハムに斬りかかる。
「死ねーーーーーーっ!」
ランスの剣がバークスハムの首を狙う。
バークスハムはランスの剣から距離を取る事でその一撃をやり過ごす。
完全にランスの剣の動き…いや、ランスの動きそのものを見切っているような動きだ。
ランスは構わずにバークスハムに刃を向けるが、やはりその動きは見切られている。
「まだまだ」
剣技ではランスが上回っているが、その剣技が通用しないとなるとやはりランスでも厳しい。
ランスは剣と刀、その二つで攻撃を仕掛け、その動きを見切る事など容易では無いのだが、この魔人はそれをやってのけている。
「フッ」
「うぐ!」
そしてランスの苛立ちから剣が少し鈍った一瞬を突き、バークスハムの剣がランスの脇腹をかすめる。
「ランス様が! ライトニングレーザー!」
ジルが魔法を放つが、バークスハムはそれを予想していたかのようにバリアで魔法を弾く。
「一旦集合!」
そこでジルの口から、彼女が放つにしては似つかわしくない声が放たれる。
それを聞き、ランス達はジルの元へと集まる。
「なんだスラルちゃん。今目覚めたのか」
「目覚めたのはお前達があの魔人と戦う直前だがな。相手を見極めるためにあえて口を出さなかったが…相当に苦戦しているな」
「大したことない。直ぐにぶっ殺す」
スラルの言葉にランスは何時ものように吐き捨てる。
「落ち着け。客観的に相手を見ていたが…このままでは勝つ事は出来ないぞ。それくらいの力の差がある。あいつは間違い無く夜のケッセルリンク級の実力を持っている」
その言葉にはランスも無言になる。
それはランスも感じ取っており、この魔人の強さは間違い無く魔人四天王級…それこそカミーラやケッセルリンクと同じくらいの力はある。
剣と魔法というシンプルな攻撃方法だが、それ故に隙が無い。
ランスからすれば非常にやりにくい相手だ。
「で、客観的に見て相手の力が分かったって事?」
レンの言葉にスラルは少し難しい顔で頷く。
「相手の力かどうかは分からぬが…これしか考えがつかない」
スラルはため息をつくと、バークスハムに向けて言い放つ。
「貴様の力は予知能力だ。違うか?」
「予知能力!?」
スラルの言葉に日光は驚きの声を上げる。
「ああ。これまでの動きからもうそれしか思いつかない。相手の防御は完璧過ぎる。それこそランス達の手の内を完全に読んでいるとしか考えられない。あまりにも不自然だ」
バークスハムはスラルの言葉に唇を吊り上げる。
「だったらどうする?」
「…まあそうだな。分かった所でどうしようもない」
スラルはバークスハムの言葉に苦笑するしかない。
「おいスラルちゃん」
「あの魔人の言う通りだ。対抗策は無い。何しろこちらの動きが全て分かっているんだ。だからこそ、取りえる手段は一つしかない」
そう言ってスラルはニヤリと笑う。
「お前も得意とする手段。真正面からの正面突破、力による粉砕。それ以外にあの魔人を討ち倒す術は無い。尤も単純で、尤も効果的な事だ」
「スラルちゃんはやっぱり脳筋だな。元魔王ってのはみんなそうなのか」
「力が尤も有効な場面というだけだ。付け入る隙が無いのならば、圧倒的な力で粉砕するしかない。それがこの世界の理だ」
「フン、まあ分かりやすいな。あのバカをぶっ殺さないとシルキィを連れ戻せんしな。おいお前等。とにかく奴を力づくでぶっ殺すぞ」
ランスの言っている事は無茶苦茶だ。
だが、こういう時こそ、ランスの無茶が輝くのも事実だ。
「全く…ジルは私が守るから好きになさいな」
「私はあなたが今までどんな苦難を乗り越えてきたのも知っています。だから、あなたに賭けます」
レンも日光もランスに付き合う事を言葉にする。
「俺様について来れば間違い無い。とっととあいつをぶっ殺してシルキィを連れ戻すぞ!」
ランスはバークスハムに突っ込んでいく。
日光もランスと同じようにバークスハムに向かって行く。
「む」
バークスハムはランス達の動きを見て眉を顰める。
確かにバークスハムは強いが、それでも無敵ではない、それは彼自身が良く分かっている。
そしてランスの攻撃はバークスハムの目から見ても人を超えていた。
勿論1対1ならば負けないが、残りの者達も非常に強い。
そして何よりも―――
(私は彼等を殺してはならない。もし私が彼等を殺せば…この世界がより歪んでいく)
バークスハムが視たのは暗黒の未来。
その未来を回避するためには、この者達をこの世界から排除してはならないのだ。
それこそがバークスハムが尤も避けなければならず、魔物大将軍に彼等を通す様に命じた最大の理由だ。
(フッ…これもまた私の役割か。ならばこそ、そのために動くのみ)
バークスハムはランスを迎撃するために動く。
この中で一番危険なのは間違い無くランスだ。
あの剣の腕前はまさに脅威で、技術だけならば自分を上回る。
ランス達を無力化する、そのために動かなければならぬのがバークスハムの枷となっている。
そんな事を知らないランスは全力でバークスハムを倒すために動く。
「がはははは! 予知能力で自分が死んだのでも見えたか!」
「そのような未来は無い!」
ランスの一撃をバークスハムは受ける。
膂力ではランスを上回るバークスハムだが、即座に放たれるランスのもう一つの剣を完全には防ぎきれなかった。
ランスの刀がバークスハムの鎧からその体を傷つける。
ただ、それは日光による一撃では無いので魔人の再生力ならば直ぐに再生する。
厄介なのは日光によって傷つけられる事、カオスと日光で傷つけられると魔人の再生能力そのものが殺されてしまう。
「雷の矢!」
バークスハムはランスを見たまま、後方にいる日光に向けて魔法を放つ。
「!」
自分の事を全く見ずに魔法を放ったバークスハムに日光は流石に驚く。
魔法は直撃し、日光はその場に倒れる。
「デビルビーム!」
ジルの魔法をバークスハムは受ける。
バークスハムの態勢が崩れるのをランスは見逃さない。
力づくでバークスハムを弾き飛ばすと、その大きな剣を構える。
「し、ねえええええええ! ラーンスあたたたたーーーっく!」
「…!」
その時バークスハムには視えた。
この一撃はどうあっても避けられない、いや、避けた方が被害が大きくなると。
だからバークスハムは防御姿勢をとりランスの必殺の一撃を受け止める。
「くっ!?」
それはバークスハムの想像以上に重く鋭い一撃だった。
バークスハムの体から血が流れる。
が、それでもやはりバークスハムは強力な魔人だった。
ランスの一撃を受けても踏みとどまり、ランスに向けてカウンターを放つ。
「何だと!?」
まさかランスも自分の必殺の一撃を受けながらも反撃をしてくるとは思っていなかったのか、一瞬防御が遅れる。
そしてバークスハムはその防御の薄い所を確実について来る。
バークスハムの剣はランスの肩口に食い込む―――瞬間、ランスは剣を手放し自分の態勢を低くし、バークスハムの一撃を最小限に食い止める。
そしてその左手は刀に添えられる。
「新ランスアタタターーーーーック!!」
ランスの姿が消えたかと思うと、バークスハムの体を透過するように移動する。
瞬間、バークスハムの体に無数の傷がつく。
「なるほど…だがまだ甘い!」
もしこれが日光だったらバークスハムでも大きなダメージを負っていただろう。
しかし、ランスの手にあったのは日光ではない。
それがこの勝負の明暗を分けた。
「ライトニングレーザー!」
バークスハムの魔法がランスに直撃し、流石のランスも吹き飛ばされる。
「ランス!」
レンがランスに近寄り回復魔法をかける。
「うぐぐぐ…しぶとい奴だ」
メディウサを倒したランスの必殺技だが、それでもバークスハムを倒すには至らなかった。
その手にあったのが日光でも結果は変わらなかった、ランスは優れた戦士故にそれも分かってしまった。
この魔人は間違い無く強い―――まさに魔人四天王クラスの力が有る事を思い知らされた。
ランスはそれでも立ち上がるが、唐突にバークスハムが剣を収める。
「なんのつもりだ」
「もう私が戦う必要が無くなった、ただそれだけだ」
ランスの言葉にバークスハムはそう言って笑うだけだ。
「私の役目は終わった。後はお前達が全てを見届けるがいい」
そう言ってバークスハムは踵を返し、本当にランス達の前から消える。
「…何だあいつは」
「どうやら本当に我等の足止めだけが目的だったか…だとすればその理由は…!」
ジルを通してスラルが苦い表情を浮かべる。
「ランス…もしかしたら最悪の結末になっているかもしれない。その覚悟はあるか」
「何の話だ」
「…いや、我が今言っても仕方の無い事だ。その目で見た方がいい」
「だから何の話だ!」
ランスは声を荒げるが、スラルは何も答えない。
喋らないスラルにランスは苛立つが、それでも当初の目的を達成するために動くしか無かった。
「日光、無事か」
「何とか…しかし恐ろしい相手でした。私など歯牙にもかけない…」
日光は自分が戦力にならなかった事に唇を強く噛むしかない。
それほどまでにあの魔人は恐るべき強さだった。
「まあいい、急ぐぞ」
ランスは日光を刀にすると、そのまま日光を手に取り進んで行く。
そこは魔王の城とは思えぬほど不気味で静かだった。
まるで魔王が招き入れているかのようにランス達は進んで行く。
そしてランスはある扉の前で背筋が凍る。
それはランスがこれまで味わって来た圧倒的な力の気配。
即ち、この世界の支配者である魔王の気配だ。
だが、それでもランスはその扉を蹴りこわさん勢いで魔王の部屋へと入る。
そこにいたのは間違いなくこの世界の魔王であろう男。
そして―――その魔王から血を与えられるシルキィの姿があった。
色々と悩みましたがハム殿は純粋に魔人としての強者としました
ガイ時代の魔人筆頭ですから強いのは間違い無いと思います