魔王アベル―――それはククルククルに止めを刺した事によって魔王の血を継承してしまったドラゴンだ。
ドラゴンという生命体だけあって強いが、その臆病な性格ゆえに追っ手のドラゴンから逃げ回っていた。
だが、その際にドラゴンの至宝であるカミーラを奪い、魔人にしてしまった。
その結果、カミーラは子供を産めなくなった結果、ドラゴン達から無価値と判断され、その性格が歪み原因の一端を作ってしまった。
それ故に、ドラゴンのプライドを取り戻したカミーラにとっては、アベル絶対に許せない相手だった。
そのアベルが目の前に居る、カミーラはそれだけで激高し、今にも飛び掛からんばかりに睨みつけていた。
「アベル…! 貴様、生きていたのか…!」
そんなカミーラを見てアベルはその大きな口を歪める。
それは嘲りというよりは、今の自分の状態を嘆くかのような自嘲だった。
「生きている、と言えるか分からんがな。マギーホアに敗れ封印された結果、誰も俺の事を認識すら出来なくなった。こうして俺が口を開くのもお前達で2組目だ
その言葉にカミーラは眉を顰める。
アベルの口ぶりからは、まるで自分たち以外の誰かがアベルと会っていたかのようだった。
そしてカミーラはアベルの言葉を思い出す。
確かにアベルは今の魔王であるガイの名前を出していた。
「貴様…ガイに会ったのか」
「そう…ガイと言ったな。もう何百年前か…最早時間すら俺には意味の無いものとなった。だが、確かに会った。ガイと名乗る人間とな。そして奴から話を聞いた。今の時代…そして魔人としてのお前の事もな」
アベルはそう言って目を細める。
カミーラはそれを侮辱と受け止めたのか、アベルに向かってブレスを放つ。
だが、アベルはその一撃にも微動だにしない。
「ドラゴンは既に滅びかけ、子孫も残せぬ」
「全ては貴様のせいだろう」
アベルの言葉にカミーラは皮肉を言うが、カミーラにとってもこれは重要な事だ。
何しろドラゴンとして自分の価値を無くしたのは目の前のドラゴン…いや、魔王なのだから。
「カミーラ。もしかしてこいつが前にお前が言ってた奴か?」
「…フン、貴様には話してやったな。そうだ。こいつが魔王アベル…このカミーラを、そしてあのメガラスを魔人にした存在。ククルククルに止めを刺し、魔王となり…そしてマギーホアに敗れた奴だ」
ランスの言葉にカミーラは皮肉と嫌味に満ちた言葉を放つ。
「という事は…お前が原因か!」
ランスはアベルに向けて怒鳴る。
「おいお前! お前がカミーラをこんな面倒臭い奴にしたのか」
「…何?」
アベルはランスの突然の言葉に困惑したかのように首を傾げる。
「とぼけるな! お前が居たからカミーラがこんな我儘で面倒な奴になったんだろうが!」
「…おい、ランス」
カミーラはランスを睨むが、アベルに向けて怒りを向けているランスは気づかない。
「…カミーラは昔から無気力で全てを諦めていたような奴だったぞ。むしろ今のカミーラの変化が俺には驚きだぞ」
「なに? こいつは昔からそんな奴だったのか? あ、でも今は無気力じゃなくて滅茶苦茶しつこい奴だぞ。俺様を使徒にしようと何年もつけ狙ってるしな」
アベルは目を見開いて驚く。
「ほう…そうなのか? いや、昔のカミーラは死んだ目をしていたが…確かに今のカミーラは違うな。実際に今もお前と俺を睨んで…」
「貴様等いいかげんにしろ」
「あだっ!」
カミーラはランスの頭を殴り、アベルに魔法を放つ。
「このカミーラに向けて随分と好き勝手言ってくれる…」
「事実だろうが!」
「その人間の言う通りだ。確かに今のお前は昔のお前とは違う。魔人とした時もそんな目で俺を見る事は無かった。全てを諦めた目だった。そのお前に何が起きた?」
アベルは本当に不思議そうに首を傾げる。
昔はアベルはカミーラが本当に欲しかった。
何しろドラゴンの王冠であり、それがどれ程の名誉である事か…魔王になってしまってからも、アベルはカミーラがどうしても欲しかった。
それで魔人にしたが…カミーラはより一層暗い目をするようになった。
アベルは別にそれでも良かったが、結局はアベルはマギーホアに敗れ、もう二度とこの場所から離れる事は叶わなくなった。
「フン…貴様に話す筋合いは無い。だが…ここは何だ」
カミーラはランスとアベルのやり取りに毒気が抜かれたのか、改めてこの場所を見る。
何も無い闇の空間の中に、魔王アベルだけが存在する。
よく見れば、アベルには無数の鎖が繋がれており、身動きも出来ないようだった。
「お前はマギーホアに敗れた。尤も、その後のお前には私も興味は無かった。それに…」
カミーラはあの出来事を思い出す。
それは圧倒的な力を持ったドラゴンが蹂躙される光景。
カミーラにとってはそれは信じられない事だったが、紛れも無い事実だった。
「まあいい。お前はここで一体何をしている。今のお前からは確かに魔王の気配はする…だが、圧倒的な力は無い」
「…マギーホアの封印だ。これがある限り俺は動けない。魔王としての力も最早無い」
カミーラの言葉にアベルはどうでもいい事であるかのように言い放つ。
そこには本当に今の自分の境遇にも興味が無いようだった。
「カミーラ、最早あれ程求めていたお前にも興味が無くなった。いや、この世界の全てがな…」
アベルの言葉にカミーラの目が鋭くなる。
そこにあるのは明らかな怒りだが、同時に何か複雑な感情を思わせる何かがあった。
だが、その言葉に何よりも怒ったのは、やはりこの男だった。
「だああああああ! 全部貴様が原因では無いか! このバカが!」
「うおっ!? 痛っ!? え、っていうか何だお前!? 俺がお前に何かしたか!?」
ランスの一撃を受けてアベルから血が噴き出る。
アベルは困惑した目でランスを見る。
「お前が! 余計な事をしたから! カミーラがこんなになったんだろうが!」
「いや、カミーラがこんなんになったと言われても…俺がカミーラと共に居れた期間は短かったし…」
「期間など問題ではない! お前がこいつを魔人にしたから、こいつがこんな擦り切れた性格になったんだろうが!」
「えええ…? どんな性格?」
アベルは真剣な顔でランスの目を覗き込む。
「まず我儘だ!」
「え…そうなの? 昔の彼女からしたら信じられないな。だって昔はそれこそ死んだ目をしてドラゴン産んでたし」
「そして割と面倒くさがりだ!」
「それは分かる。昔の彼女には自由とかそういうの無かったし。でも、それでも彼女はドラゴンにとっては誇りであり、王冠だった」
「おまけに女王様だ! それも只の女王様じゃ無いぞ。滅茶苦茶暴君だぞ」
「そ、そうなのか…昔の彼女からすれば信じられないな。全部を諦めてたのに、何時の間にそんな性格に」
「それも全部お前が悪いんだろうが!」
「ええええ!? それって全部俺が悪いのか!? だってそういう性格って本人の気質じゃない? 元々そういう素質があったんだろ」
「む…まあそれはあるか」
「貴様等いい加減にしろ」
ランスとアベルの言い合いにとうとうカミーラがキレた。
「あんぎゃああああ!」
カミーラのブレスを受けてランスは吹き飛ばされる。
対するアベルはそこまで堪えていないようで、特に驚いた様子も無い。
だが、そんなカミーラも見てアベルはその目に驚きを浮かべる。
「…随分と感情豊かになった。あの頃の死んだ目とは大違いだ」
「誰のせいだと思っている…」
アベルの言葉にカミーラは鋭い視線を向ける。
そして気絶しているランスを掴むと、そのまま床に寝かせる。
「しかし『人』か。我等ドラゴンと違って随分と脆弱だが…お前はその人間が気にっているのか?」
「アベル…貴様」
「もう俺はお前に手をださんよ。ここから動く事も出来ない。だから言葉位は良いだろう。俺の元へ来た人間『ガイ』は特に俺と話す事も無かったからな」
「フン…貴様に話す義理は無い、と言いたいが」
カミーラは真っすぐにアベルを見据える。
「貴様には色々と言いたい事もある。そして教えてやろう…お前が行った行動の結果をな」
GI120年―――
突如とした人間解放令、それは世界を騒がせた。
人間牧場は廃止され、魔物達は人間を解放した。
それが魔王の命令なので、魔人も魔物もそれに従うしか無かった。
勿論不服とする魔物が殆どだったが、それでも人類はとうとう魔王と魔物支配から解放される日が来たのだ。
そしてそれはカラーにも伝わっていた。
「…そうか。そういう結果になったか」
ハンティは日光の言葉を聞いて難しい顔をする。
「始祖様?」
「ああ、いや別に人間が魔物から解放されるのはそれはそれで良い事さ。でも、そうなると今度は別の一面でカラーが脅威に晒される可能性があってね」
「…人間によるカラー狩りですね」
日光の言葉にハンティは頷く。
「そっか…そう言えばホ・ラガも言ってよね。昔は人間によるカラー狩りがあったって。カラーのクリスタルは凄い道具になるって」
カフェも昔の仲間の事を思い出す。
「でもシルキィさん…本当に魔王とそんな約束をして、魔王はそれを受け入れたんだ。正直信じられないんだけど…」
「私も正直懐疑的です。ですが、ガイが嘘をつくとも思えませんし…」
日光の言葉にカフェは首を傾げる。
「日光さん、ガイの事を個人的に知ってるの?」
「…はい。まだ話していませんでしたが、私はカオス、魔人ガイと共に魔王ジルと戦いました」
「え!? そうなの!? でもだったら教えてくれてもいいと思うだけど…」
不満そうに唇を尖らせるカフェに対し、日光は頭を下げて謝罪する。
「すいません…あまり人に話せる話でもありませんし、事情が事情でしたから。それに、この事は私の口からは軽々とは言えないのです…ごめんなさい、カフェ」
日光の真摯な謝罪にカフェはため息をつく。
彼女がそう言うと言う事は、間違い無くランスが関わって居るのだろうと察しが付く。
共に行動をしていた時も、日光はランスの事に関しては決して口にしなかった。
仲間達も無理に聞こうとはしなかったし、日光は間違い無く自分達の仲間だった、カフェにはそれで十分だった。
「うーん…でも魔王からの解放か…私達も人間の解放を目指してたけど、それがある意味成されたって事なのかな…」
「仮初の時間かもしれませんから、私からは何とも。それよりもカラーの皆が心配です。ランスもいなくなってしまいまし…レンとジルもセラクロラスによって飛ばされました」
「それに関しては難しいね…正直、私達にとっては魔物よりも人間の方が脅威だったんだよ。魔物達はケッセルリンクの睨みもあって私達を狩ろうだなんて意思を見せてなかったしね。魔人メディウサだけが例外だったんだよ。そのメディウサももう居ないしね」
「カラーはカラーで別の問題があるんだ…」
ハンティの言葉にカフェも深刻な表情を浮かべる。
カフェはカラーには大きな恩が有るし、何よりも男に狙われる恐怖もその身をもって知っている。
彼女の達の脅威はまだまだ消えた訳では無いのだ。
「その辺はもう時代の流れを読むしか無いね。多分人間との大きな接触はどうしても起きると思う。そればっかりは避けられないからね。だから、その辺りは人間次第になっちゃうのさ」
「カラーは人間が居ないと増える事が出来ませんからね…」
「それなのですが…私達があなた達を守るという事は…」
日光の言葉にハンティは首を振る。
「いや、これはカラーの問題だ。ここからカラーが新たな時代をどう生きるか…それはカラー達が決めていかなきゃならないのさ。だから、アンタ達はアンタ達でやる事をやるべきさ」
「しかし…ランスが戻ってくるまでは…」
「ランスもケッセルリンクも今は居ない。それはそれで乗り越えなきゃいけない事さ。ま、突然襲われるなんて事は無いだろうから、その辺は大丈夫さ」
ハンティの言葉に日光は何かを言いたげだが、当の本人がそう言うのならばもう何も言えない。
「じゃあ日光さん、私達はブリティシュとホ・ラガを探しに行かない?」
「カフェ…」
「あのブリティシュがそう簡単に死ぬ訳無いし、だったら皆を探しに行きましょうよ。幸い私達には時間は有るし」
「…そうですね。ハンティ殿、私達は」
「ああ、構わないさ。アンタ達なら何時でも戻って来てくれていいさ。アタシが認める、顔パスさ」
ハンティの言葉に日光とカフェは一礼する。
そしてエターナルヒーローの二人は、かつての仲間を探すべく世界を放浪する事となった。
日光達はカラーの里を出ながら、世界を旅しているようだった。
ハンティは時々カラーの里に顔を出す二人から色々と話を聞き、カフェも定期的に呪いをかけて貰っている。
呪いのせいか、カフェはアレから男に言い寄られる事は無いらしい。
そしてそんな変化がカラーにも襲って来た。
それは決して良い事では無く、カラーのクリスタルを狙って人間達がカラーを襲いに来たのだ。
カラーのクリスタルが強力な武器防具になるという文献が残って居たのだろう、人間達はカラーのクリスタルを狙って襲い掛かって来た。
勿論カラーもただやられる訳も無く、その都度人間達を撃退していた。
ただ、それでも犠牲になる時はどうしても犠牲になってしまう。
それがハンティには歯がゆかった。
が、そんな日常に変化が訪れる。
ハンティに親友と呼べる人間の男が出来たのだ。
名前はフリーク・パラフィン―――後の聖魔教団5人衆の1人である男だった。
フリークはカラーの立場を憂い、色々と便宜を図ってくれた。
同時に、カラーと協力関係にありたいとも言って来た。
カラーからも好意的に見られており、ハンティは何時の間にかフリークと親友と言える仲になっていた。
(…まああいつとは親友にはなれなかったしね)
ハンティは自分のもう一人の知り合いの男を思い出す。
今もまだ姿を現さないが、魔王城に行ったのだから何かしらの出来事があったのは予想はつく。
ただ、同時に心配もしておらず、またあの男はここに顔を出すだろうとも思っていた。
「で、魔法使いの立場ってのはまだ低いのかい?」
「うむ…同じ人間のはずなのじゃがな…何故そうなったのか、儂にもわからんわい」
フリークと出会ってからもう何十年も経ったが、フリークとは今でも親友だ。
その親友は本当に今の人類の事を憂いていた。
「まあ人間はこれまで抑圧された日々を送っていたからね。それが噴き出したら変化は起きるとは思っていたけど…こういう事になるとは予想もしてなかったね」
現在の人類は、魔法使いが蔑まれるという時代になってしまっていた。
ハンティはカラーなのでどうしてそういう事になったのか全く分からない。
これまで人類の歴史も見てきたが、この世界を統一しようとしていた藤原石丸はそういう事はしていなかった。
人類が解放され、何故かそういう流れになったのかはもう誰も分からないだろう。
「うむ…儂が生きている内になんとかしたかったが…まあ難しいじゃろうな」
「こればっかりはね…」
フリークの言葉にハンティも難しい顔をする。
人間の出来事にはハンティは首を突っ込まないようにしている。
自分が何かをするのは良く無いと分かっているからだ。
「じゃが、希望は生まれそうじゃわい。儂を師と慕ってくれる優秀な奴がおっての」
「へー。フリークがそう思うなんてね。なんてヤツだい?」
「ルーカ・ルーン。一見すると気弱な男に見えるが…実に素晴らしい力を秘めておる。魔力に関してはお前をも超えるじゃろうな」
「それはまた。ま、私だって無敵って訳じゃ無いしね。実際魔人相手には私だって無力だよ」
魔人という言葉が出た事に、フリークは難しい顔をする。
「魔人…儂は魔人とは会った事が無いからの…どういう脅威なのか、今一ぴんとこんのじゃがな」
今の時代の人間らしい言葉にハンティは苦笑する。
それだけ魔人の脅威から人間が解放された証でもあるからだ。
「ま、本当に恐ろしい相手さ」
「そのルーンも魔力ならば魔人をも超えておると思っておる」
「そりゃ凄いね。問題なのはどんな魔力があっても魔人に無敵結界がある限り、意味が無いって事でもあるんだけどね」
魔人の無敵結界がある限り、どんな力があっても魔人には勝てない。
中には例外も有るが、それは奇跡のような確率で起きる例外中の例外だ。
「ルーンがおれば…この大陸から争いを無くせるかもしれぬ、儂は本気でそう思っておるよ」
「フリークがそこまで言うなんてね…」
フリークの言葉にハンティは純粋に驚く。
彼にそこまで言わせるのであれば、ハンティもそのルーンに会ってみてもいいかもしれないと思った。
そしてもう一つの変化がハンティに、そしてカラーに起きる。
ジルとレンがカラーの里に現れたのだ。
「あー、ようやく戻ってこれた…」
「久しぶりです、ハンティさん」
「ああ…そうだね。で、ランスの姿が見えないようだけど?」
ハンティは久々に現れた二人に怪訝な顔をする。
中心人物であるランスの姿が見えないのだ。
それを訪ねると、二人はあの時にあった事を教えてくれた。
「………成程ね。そりゃとんでもない事だね」
「セラクロラスは私達を飛ばしたけど…まだランスとは会えてないんだよね。ここに来てるかなって思ったんだけど」
「いや、ランスはまだ姿を見せて無いよ。でもそうか…あの魔人カミーラと共に魔王ガイに何処かに飛ばされたか…」
ハンティは最早呆れるしかない。
魔人に縁のある奴だと思っていたが、まさか今度は魔人カミーラと共に何処かに飛ばされるとは思わなかった。
「シルキィさんは…」
「シルキィの事は日光から聞いたよ。ま、今から100年以上前にだけどね。それにしても、あの男がまだ戻って来てないのは…ちょっと気になるね」
ランスは殺しても死にそうにない奴だ。
すんなりと戻って来るかもしれないと思っていたのも事実だ。
だが、実際はそうでも無い様だ。
「ランス様を探したのですが…でも探すにしても何処を探せばいいか…」
「魔王によって飛ばされたのなら何処に行ったのかは検討もつかないからね…ま、少しの間ここに留まっても…」
そう思った時、ハンティは一人の人間の事を思い出す。
それは当然、フリーク・パラフィンの事だった。
「ねえ、もし良かったら、人間達の所で暮らしてみる気は無い?」
「え?」
「知り合いに凄い奴が居てね。魔力に関してはそいつに話を聞いた方が良いくらいさ。ジルの体の事は…流石に見せられないだろうけど、話をするくらいはいいと思ってね」
「意外ね。カラーであるあなたからそういう話が出るなんて」
レンの言葉にハンティは苦笑する。
「ま、時代は変わったって事さ。で、どうする? ここに居るよりも有意義な時間を過ごせると思うけど」
ハンティの言葉にジルとレンは顔を見合わせ―――頷いたのだった。
そしてハンティはジルとレンをフリークに引き合わせた。
「という訳でフリーク。良かったらこの二人の面倒を見てくれない?」
「突然じゃな…それにしても、お主にこのような知り合いが居たとは驚いたぞ」
フリークはハンティに紹介された二人の女性を見る。
金髪の女性は特にこちらに興味が無いようだった。
だが、フリークは彼女が只者ではない事を感じ取っていた。
全身の空気が違う…例えるのならば、人間よりもハンティのような存在に近い。
そんな超常的な存在だと思ってしまった。
そしてもう一人はまだまだ幼い水色の髪をした少女だった。
ただ、フリークは少女、ジルを見て驚愕した。
(この少女は…)
この少女もまた、恐ろしい程の魔力をその身に宿しているのが分かった。
少女の右手には包帯が巻かれているが、その包帯は只の包帯ではない。
魔力を封じる特別な包帯なのは理解出来たが、それがどれ程の魔力を秘めているのか見当もつかなかった。
「こっちの金髪のがレン。そして水色の髪をしてるのがジル。あたしの知り合い…いや、恩人でもあるかな?」
「恩人? お主のか?」
「まあ色々あってね。あたしからは詳しくは話せないから聞かないでよ」
フリークはハンティの言葉に目を見開いて驚く。
彼女がそんな嘘を言うとは思えない…という事は、何か特別な理由があるのだろう。
「あの…ハンティさんから魔力事はあなたに聞くのが良いと言われました」
ジルと名乗った少女は、その幼い容姿とは考えられないくらいに落ち着いて話してくる。
容姿とはかけ離れた落ち着いた言葉にフリークは驚くしかない。
だが、それでもフリークは優しく微笑む。
「儂が教えられる事などたかが知れてるがな。それでも良ければ、儂がお主達の面倒を見よう」
「有難う御座います」
フリークの言葉にジルは頭を下げる。
レンは本当にこちらに興味が無い様で、特にリアクションは無い。
「魔法院…という所があるんですよね? 私、凄い気になってて…」
ジルは目をキラキラさせて聞いてくる。
その顔を見てフリークは苦笑する。
「うむ…まあ大した所ではないがの。じゃが、それでも現在の大陸で一番魔法が発達している所なのは間違いない」
「じゃあ…よろしくお願いします。フリーク先生」
こうしてジルとレンはフリークと共に魔法院に向かう事になる。
フリークの生徒、そしてルーカ・ルーンとも引き合わせ、二人は共に優秀な生徒として名を上げていった。
そして年月が経ち―――ジルは非常に美しい姿に成長した。
もう少女とは言えぬ程の色気が身に付き、その見事なまでのスタイル、そして美貌は魔法院の男達の憧れの的となった。
それはルーンも例外ではなく、彼女の前では珍しく緊張する彼の姿が見えた。
皆も若かったので、ジルに言い寄る男も当然いたが、彼女は頑なに誘いには乗らなかった。
だが…フリークとしては非常に気になる事もあった。
「フリーク・パラフィン。また聞きたい事がある」
「う、うむ…」
それはジルの言葉遣いが突如として変わる事だった。
容姿は全く同じだし、声もジルのものだがまるで別人だった。
興味を示す部分も別で、まるで同じ容姿だが別の人間を相手にしているような感覚だった。
ただ、それに対してフリークは何も言葉を放つ事は無かった。
ハンティから紹介された時から訳アリだとは思っていたし、ハンティが決して彼女達の事については口を開かないのだから、何かしらの事情があるのだろう。
自分達に悪意は無いし、フリークももう一人のジルについても気に入っていたので、特に何かを起こす事は無かった。
フリークはそんな日々が続くと思っていた。
だが―――そんな日々はあっさりと崩されるとは思っても居なかった。
それもたった一人の人間の登場によって。