ランス再び   作:メケネコ

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始まりの時

「し、ねえええええええ!!」

 ランスの強烈な一撃がアベルの体に突き刺さる。

「いい一撃だ。成程、その剣は普通の剣では無いようだ」

 アベルの体から血が流れるが、ドラゴンの巨体だけありダメージはそう多くないようだ、

 だが、余裕の表情を崩さないアベルにランスは苛立ったように更に攻撃を加える。

「だがまだまだ」

「ぐおっ!」

 アベルの爪がランスを弾き飛ばす。

 ランスは剣で何とか防ぐが、体格の違いだけはどうにも出来ずに吹き飛ばされる。

 そして放たれるアベルのブレス。

 勿論本気ではなく、アベルからすればほんのそよ風レベルのブレスだ。

 だがそれは人間にとっては非常に危険な威力でもある。

「フン!」

 ランスは剣を腰だめに構えると、ブレスに向けて剣を抜き放つ。

「ほう!」

 ランスの剣はアベルのブレスを斬り裂き、ランスに当たる事は無い。

「防ぐのではなく斬る、か。そういう発想は俺には無かったな…ガイだってそんな事は出来なかった」

「やかましい! とっとと死ね!」

 感心するアベルに対し、ランスは剣を構える。

「鬼畜アターーーーーック!」

 ランスアタックを連発する必殺の一撃を加える。

 ただ、それでもアベルに対してはダメージにはならない。

 それが魔王の耐久力なのだから、それはランスでもどうしようもなかった。

「うん、やるね」

 アベルの眼光がランスを貫くと、それだけでランスの体が止まる。

 それはドラゴンという圧倒的な強さを持つ存在の放つプレッシャー。

 それでランスは思わず動きを止めてしまった。

「だがまだまだ」

「どわあああああああ!」

 アベルの腕がランスを弾き飛ばす。

 手加減されているというのに、その一撃はランスを軽々と吹き飛ばす。

 ランスは受け身も取れずにそのまま地面を転がる。

「うぐぐぐぐぐ…」

「今日はこれくらいにしたらどうかな? 君だって体力が限界だろう」

「やかましい! おっと…」

 ランスは剣を支えに立ち上がるが、その体が震える。

 足に力が入らず、そのまま地面に倒れてしまう。

「ランス、止めておけ。それ以上は危険だ」

「ケッセルリンク…起きてたのか」

 ランスの剣からケッセルリンクが心配そうに声をかけた事で、ランスはそのまま力を抜いて地面に倒れる。

「流石に魔王相手はお前でも無理だ。死にかけのナイチサにも勝てなかったんだ。それ程魔王の力は圧倒的だという事だ」

「フン」

 ケッセルリンクの言葉にランスは心底詰まらなそうに吐き捨てる。

 ただ、言っている事は正しく、人間であるランスでは魔王であるアベルにはどうやっても勝つ事は出来ない。

 リーザスで戦った時のジル以上に強いのはランスも分かっているのだが、それでもランスがアベルに挑むのには理由があった。

「まあいい経験値稼ぎにはなるからな」

 相手は魔王、莫大な経験値を持っている。

 ランスは自分のレベルを上げるには強力なモンスターを倒すか、それこそ莫大な経験値を持つ幸福きゃんきゃんや、プラズムゴーストといったレアモンスターを倒すしかない。

 アベルはランス相手に手加減をしているので、そこで経験値を溜めるのはランスとしても丁度良かった。

「クエルプランちゃんが呼べないのが不便だがな」

 問題があるとすれば、レベル神が呼び出せないのでレベルを上げられないという事だろう。

 なのでどれだけの経験値が溜まっているのか、そしてあとどれくらいの経験値が必要なのかが分からないのが問題ではあるが。

「それにしても見事だね。まさかブレスを斬るとは思いもしなかった」

 アベルは本当に感心したようにランスを見ている。

「フン、男に褒められても嬉しくも何とも無いわ」

「じゃあカミーラなら?」

 その言葉にランスは考え込む。

「うーむ、カミーラが素直に他人を褒める所など想像出来んな。あいつ、プライドが滅茶苦茶高いからな」

「そうなんだ。昔はすっごい暗い目をしてたんだけどね。全てに対して無関心だったといういうか、そんな感じだったんだけどね」

「それも全部お前等ドラゴンが悪いんだろうが! しかも貴様も原因の一つだろうが! 何自分は知らんみたいなこと言ってやがる!」

 しみじみと呟くアベルに対し、ランスは当然切れる。

 元がどうだったのか知らないが、今のカミーラがあるのは全部ドラゴンのせいだ。

「大体お前そんな性格だったのか。最初と全然違うぞ」

「…長い間一人だと色々と思う事もあるのさ。ましてや俺は臆病者だからな」

 アベルはランスの言葉に皮肉気な笑みを浮かべる。

「話し相手が居るのがこんなに嬉しい事だとは思わなかっただけだよ」

 そういうアベルの顔は何処か疲れているようにも見えた。

「お前が何を言おうがカミーラにやった事は変わらんぞ。いや、お前等ドラゴン全部が悪い。お前等が余計な事をしなければカミーラはもっとマシになってたかもしれんだろうが」

「それはそれで面白いがね。でも、時間を戻す事は出来ない。カミーラは今は魔人であり、ドラゴンからも見放された存在。でも、それでも俺は良かった。ドラゴンの王冠を手に入れる、それこそが俺にとっての唯一の目的だったんだからね」

「やかましい! 勝手な事をほざくな!」

 ランスは怒りに任せてアベルを攻撃する。

 アベルの体にランスの剣が食い込むが、直ぐにその傷は治っていく。

「フッ…そこまでカミーラの事で怒るか。しかもお前はカミーラに王冠としての価値を見出していない。それが人間だからか、それともお前という人間だからか…」

 ランスの一撃を爪で弾き、アベルはそのままランスに口を向ける。

「だからこそ面白い」

 そしてブレスを放つと、ランスは再び吹き飛ばされる。

 何度も繰り返された光景だが、基本的なスペックが違う以上はどうしようもない。

 アベルにとっては今のランスですら片手間で殺せるくらい、生物としてのレベルが違うのだ。

 そんなランスの姿をカミーラは真剣な目で見ていた。

 

 

 

「うーむ、勝てんなアレは」

「お前がそう言い切るとは珍しいな。ただ、お前が勝てないというのはそうだろうな。生物としてのレベルが違い過ぎる」

 ランスの言葉にケッセルリンクが少し驚きながらも同意する。

 魔王には勝てないのは現実であり、それはいくらランスでも覆す事は不可能だ。

「そういやお前もあのドラゴンの事は知らないんだったな」

「人類やカラーが生まれる前の存在のようだからな。スラル様も詳しくは知らないだろう。何しろ相手は無敵結界も持ってない」

 無敵結界は持って居なくても、ドラゴンとしての、そして魔王としての強さは持っている。

 だからこそどうしようもないのが現実なのだ。

「…寝る。考えても始まらん」

 ランスは詰まらなそうにそのまま横になる。

 何も無い空間なのでまともな寝床も無いが、冒険になれているランスはそれほど気にならないようだ。

 ただ、これまで当たり前のように行えていたセックスが出来ないのは相当なストレスのようだ。

 夜の間は少しイライラしている事が多い。

 一応カミーラが居るが、流石にカミーラにそういう程ランスも空気が読めない訳では無かった。

 ランスが寝ている内にアベルと戦っているようで、次の日に少し傷ついている姿をランスも見ている。

(私に体があればな…)

 そんなランスをケッセルリンクは心配そうに見ている。

 だが、どうしようもない現実を突きつけられていた。

 そうしてランスは眠りについたのだが―――ランスが目を覚ますと、そこはまた違った空間だった。

「…なんだこりゃ」

 ランスはやや茫然としていた。

 また何処かに移動させられたのかと思ったが、そうで無いのは次の瞬間分かった。

「我を呼んだか。人間」

 ランスの前現れたのは、破壊神ラ・バスワルドだったからだ。

 つまりはランスはまたここに連れ込まれたという事だ。

「いや、呼んで無いぞ」

「………」

 ランスの言葉にバスワルドは無言だ。

「お前、実はかなりでしゃばりなのか?」

「………」

 やっぱり無言のバスワルドだったが、その周囲が歪み地面を削り始める。

「だあああああ! 分かりやすく不機嫌になるな!」

 ランスはそれを見て必死で止める。

 相手は恐ろしく強い存在で、ランスでも勝つ事は不可能な相手だ。

 幸いにもこちらに敵意が無いので、言葉が通じる分何とかなる―――相手のはずだ。

 バスワルドが普通に戻ると、やはりそのまま無言でランスを見てくる。

「…で、何の用だ」

「………」

 再び無言になるバスワルドだが、こいつが顔を見せたという事はまあ何かあったのだろうとランスは予測していた。

 何しろこの剣の中に居るのはバスワルドだけでなく、もっと厄介な初代魔王がのさばっているのだから。

 少し前まではランスの剣は普通のロングソードだったのに、バスタードソード並みの大きさになった上、形がコロコロと変わる剣になったと思ったら、今度は普通のロングソードと一本の刀に変わってしまった。

 と、思ったら再びバスタードソード並みの大きさの剣に変わった上に、その剣にはククルククルの触手の女性を模った模様すら浮かんでくる始末。

 そんな事も有り、ランスも実は結構難儀していた。

「我が力を欲するか?」

「あん?」

 バスワルドの言葉にランスは眉を顰めるも、今の状況を考える。

(うーむ…だがあのドラゴンに対して決定打も無いしな…でもこいつの技、レベルが下がる可能性があるんだが…)

 鬼畜アタックも覚えたての頃は経験値が下がる副作用があった。

 今でこそ慣れてきて副作用は無いが、バスワルドの技は鬼畜アタックの比ではない。

 少しは慣れてきてはいるが、体への負担も大きく連発も出来ない。

 まさに一撃必殺ではあるのだが、それでも魔王には通用しなかった。

「人間には我が力を扱う事は出来ない」

「むっ。俺様に出来ん事は無い。お前の力だろうが俺様は…」

「事実だ。神ではないお前に不可能だ」

「だったら何だと言うんだ。それじゃあお前の力があろうが意味無いだろうが」

「そこをどうにかするのはお前次第。我はお前に力の使い方を教えるだけ」

「むぅ…」

 バスワルドの言葉にランスは考える。

 確かにバスワルドから力の使い方を教えてもらい、空間を斬るというランス独自の技を思いついた。

 ただ、先の副作用からランス自身があまり使いたがらないし、魔人が相手でも無ければそんなものは必要も無い。

 そもそも練習するという事自体、ランスにはリスクがあるのだ。

 レベルの上りが遅い事と、クエルプランからの褒美を考えるとどうしても新たな技を練習するという行為が躊躇われた。

「うーむ…」

 ランスは取り敢えずバスワルドに手を伸ばし、その胸に触れる。

 触れられはするが、そこに感触が感じられない。

 やはり生身では無いせいか、そういう触感も感じられないのが大いに不満だ。

「………」

「まあいい。貰える物は貰ってやる。だから教わってやる」

 ランスの言葉にバスワルドは無表情だが、やや不満そうなのは分かる。

 それでもバスワルドはランスの手を取る。

 何時の間にかランスの手にはロングソードが握られ、その腰には刀が備わっている。

 それはバスワルドの力が強かった時の剣と刀で、紅い剣と蒼い刀がそれを表している。

「我にとっては破壊は当たり前。だが、人間はそうはならない」

 バスワルドは後ろから剣を握るランスの手を包む。

「お前の剣の中に居る事で、我もまた覚えた」

 そのままランスの手を握ったまま、剣を一振りする。

 それだけでランスの目の前の空間が歪み、そこから圧倒的な破壊のエネルギーが放出される。

「人間にこの力を放出する事は出来ぬ。だが、この剣に纏わせる事は可能」

「簡単に言うな! 大体、俺様の大切なレベルを犠牲にしてまでする事でも無いだろ」

 ランスがそう言うと、バスワルドはランスから離れる。

 そしてランスに向けて破壊の力を放ってくる。

 ランスはそれを察知し、反射的に剣を振るう。

 するとバスワルドとランスの間で凄まじい衝撃が生じ、ランスは吹き飛ばされる。

「何しやがる!」

 ランスは立ち上がって怒鳴るが、バスワルドはランスを指さす。

「お前は今私の力を相殺した。お前には十分に力を使う土台が備わっている」

「む…そういや今俺様は無意識に何かをやっていたような…」

「後はお前次第」

 バスワルドはそう言うと、ランスから視線を外し虚空を見上げる。

「あん? 何だ?」

 ランスも急に強大な存在感を感じ、バスワルドと同じ方向を見る。

 すると何処からともなく、巨大な存在が姿を現す。

「げ! お前等、まだやってたのか!?」

 ランスは強大な存在―――ククルククルを見て汗を垂らす。

 いつ見てもこのククルククルの存在感は圧倒的だ。

 ククルククルはランスに気づいたのか、その女性型の部分の手の部分に当たる所をひらひらと動かす。

 その顔の部分には少し笑みが浮かんでいるようにも見える。

 すると突然バスワルドがククルククルを攻撃し、ククルククルもそれに応戦する。

 ランスはそれを呆れた顔で見ていたが、諦めたように背を向ける。

「まあ…仲良くケンカしろ」

 そう言って二体の大怪獣から距離を取るのだった。

 

 

 

「ついに完成しました…これが鉄兵です」

 GI353年―――あれから3年が経過していた。

 そしてついにルーカ・ルーンはこの世界を統べる兵士を完成させた。

「やっとか…これがあれば世界から魔法使いを解放出来るな、ルーン」

「ええ、セルジオ。これでようやく…この世界から人間同士の諍いを無くせそうです」

 ルーンは自分の仲間であり、フリークの親友でもあるセルジオ・コンポに向けて笑みを浮かべる。

 セルジオも魔法使いだが、その肉体は筋骨隆々であり、一見すると魔法使いとは思えないだろう。

 事実、彼は魔法使いでありながらも肉弾戦を得意としていた。

 後の闘神Υと呼ばれ、ルーンの最後の命令を守り人類を抹殺しようとしていた男だが、この時はまだこの世界を憂いていた普通の青年に過ぎなかった。

「後はこれを量産できれば…という事かな?」

 もう一人の小柄だが、引き締まった肉体を持つ女性が難しい顔をする。

「それも問題無く出来そうですよ、ルシラ」

 ルシラと呼ばれた女性はルーンの言葉を聞いても慎重な顔を崩さない。

 後に魔人ノスと戦う事となった闘神Θ、黄金の女神と呼ばれる存在だが、この時はやはり一人の女性だった。

「やれやれ…結局はこうするしか無かったのかの」

 フリークは鉄兵を見て複雑な表情をしている。

「フリーク、そうは言うが世界は結局は変わらない。魔法使い達は今でも虐げられている。こうなってはもう力で示すしかない。対話でどうにかなる問題では無くなってしまったんだ」

 そんなフリークに対し、一人の男性が憤りを持ちつつも熱く答える。

「ダムド…」

 ダムド―――後の最強の闘神と呼ばれた闘神Λとなる男に対し、フリークは難しい顔を崩さない。

「わが師フリーク…ダムドやセルジオの言う通り、話し合いではもう解決出来ないと思っています。事実、この魔法院にもバルシン王国の手が迫るのは時間の問題でしょう」

 バルシン王国、それは今現在における大陸最強の軍事国家だ。

 世界の中心とも言われ、そこには無数の人間が集まっている。

 ただ、この例外なくこの地でも魔法使いは虐げられている。

 奴隷として売られるのは当たり前、殺されるのも日常茶飯事だ。

 バルシン王国もまた大陸を制圧しようとする野心を持っているのか、魔法院もその手中に収めようとしている動きがある。

 幸いと言って良いのか、周辺地域を収めるのに苦心しているようで、直接的な動きを見せた事は無い。

 だが、間違いなくここを狙っているのは事実だ。

「フム…カラーもまた狙われているようだしの」

 フリークはバルシン王国の動きに、自分の親友が脅かされるのは気にかけていた。

 何しろ数が多いので、カラーが狙われればひとたまりも無いだろう。

 いくらカラーの結界があっても、それは決して万能では無いのだ。

「カラーのクリスタルは強力な武器や防具、そして道具になる。出来ればカラー達の協力も得たい所なのだがな…フリーク、やはりそれは難しいか?」

 セルジオの言葉にフリークは首を振る。

「人同士の争いにカラーを巻き込むのは反対じゃよ。それこそ儂がハンティに恨まれてしまう」

「伝説のカラー…確かに敵には回したくない」

 ルシラも難しい顔をする。

 黒髪のカラーの伝説は人の間でも有名で、恐ろしい力を持っているとの事だ。

 そのカラーを敵に回すのは愚策というものだった。

「同士を増やし、この力を持って戦うしかありません。そうしないと私達は未来を作る事も出来ない」

 ルーンの言葉に皆が頷く。

 その時、二人の女性が部屋に入って来る。

「失礼します」

「どうも」

「おう、嬢ちゃん達か」

 入って来たのはジルとレンの二人だ。

 この魔法院ではルーンの次に凄い魔力を持っているジル、そして魔法使いというかは微妙だが、この魔法院で一番の強さを持つとされるレン、勿論この場に居る者達は全員二人の事を知っていた。

「…おいルーン、まさかこいつにも?」

 ただ、セルジオはレンを見て露骨に嫌な顔をする。

「何よ。まだ私にやられたこと根に持ってるの?」

「いや、そうじゃなくてだな…」

「了見が狭いぞ、セルジオ」

 レンに言い返されてあたふたしているセルジオにルシラは呆れたようにため息をつく。

「まあ…二人の戦いは凄かったからね」

 レンとセルジオはぶつかった事がある。

 と、言ってもセルジオがレンという強者に興味があり、喧嘩を吹っ掛けていたのだが、レンは全く興味を示さなかった。

 そこでセルジオがレンに決闘を申し込んだのだが…結果はセルジオの完敗だった。

 圧倒的な力でレンはセルジオをねじ伏せたのだが…その方法が魔法院としては珍しい決着だった。

 何しろレンは腕力だけでセルジオを倒したのだから、他の皆は何処か微妙な顔で二人の戦いを見守っていたのだ。

「それよりもこれは…」

「ああ、これが鉄兵だよ。ようやく完成したんだ」

 ジルはルーンの言葉に促されるように目の前の鉄兵と呼ばれた存在を見る。

 それは正に鉄の人形と言うべきものだった。

 が、同時に凄まじいい魔法技術によって作られた精巧な物でもある。

「…凄いですね」

「分かるか?」

 ルシラが感心したようにジルを見る。

 同じ女性であるルシラはジルとは比較的親しかった。

(まあ…ジルは何処か人と壁を作っているようだがな)

 ルシラはジルの手に巻かれた包帯を見る。

 結局ジルがその包帯を外している所見た所は一度も無かった。

 共同の風呂にも入らないので、その包帯の下がどうなっているかは誰も知らない。

「でもこれで何を?」

「これを使い、この世界の魔法使い達を解放する」

 ダムドが低いが、決意を秘めた顔で重々しく告げる。

「今の魔法使いの現状…ジルさんも知っているでしょう」

 ルーンも悲し気な表情をしている。

 同じ人間なのに、魔法使いというだけで蔑まれる世界、そんなのは間違っているとルーンは思っている。

 人類の敵はあくまでも魔王と魔人、そして魔物達なのだ。

 ジルも今現在の魔法使いの立場を理解しているので、ルーンの言ってる事も分からないでも無かった。

 が、それでもジルはNC期の生まれ…つまり、魔人が跋扈していた時代を生きてきた人間なのだ。

「だからジルさん…それにレンさん、あなた達にも私達の同志になって欲しいんです」

 ルーンは真剣な顔で二人を見る。

「あ、私そういうの興味無いから」

 が、帰って来たのはあっさりとした断りの言葉だった。

 レンは本当にこちらに興味が無いと言わんばかりの態度だった。

 前からそういう人間なのは分かっていたが、こうもあっさりと言われるとやはり落胆してしまう。

「私もです。私にもやる事があります」

 ジルもハッキリと言葉にして断って来た。

 ジルも正直人付き合いが多い人間では無かった。

 それこそ一緒に居るのはレンくらいのもので、どこか壁のような物が感じられた。

「ジル、お前のやる事は私達と一緒では出来ない事なのか?」

 ルシラが真剣な顔で問いかける。

 彼女は同性のためか、人一倍彼女の力に期待していた。

 ルシラは比較的ジルと親しく、色々と魔法談義も行ったものだった。

 それ故に、ジルもまた自分達と同じ道を歩んで欲しいとも思っていた。

「申し訳ありません。でも私には待っている人が居るんです。私はその人のために出来る事をしたいんです」

 ジルはハッキリと、そして明確にルーン達と共に行動できないと告げた。

「…そうですか、残念です」

 ルーンは引き下がるしか無かった。

 彼女には確かな強い意思を感じ取った―――それこそ自分と同じくらいに強い意思を。

 そんな人を仲間に引き入れるのは難しい、ルーンはそう判断せざるを得なかった。

「では、失礼します」

「じゃあね」

 そう言って二人は部屋を出ていく。

「ルーン、いいのか?」

 ルシラが敢えてルーンに尋ねる。

 答は分かってはいるが、彼女もまたジルに仲間になって欲しいと思っている。

「いざとなれば絶対服従魔法で従えるという手段も有るぞ」

「セルジオ!」

 とんでもない事を言いだすセルジオをフリークが窘める。

「彼女達に手を出すのは止めた方が良い。彼女達に手を出せば、儂が親友から絶縁されてしまうからの…」

 ジルとレンはハンティから預かった大切な存在だ。

 その二人に手を出せば、間違い無くハンティは怒るだろう。

 何故ならハンティは『あの二人はカラーにとっても恩人だからね。だからこそ頼むよ、フリーク』と言って自分に預けたのだ。

 内容は分からないが、ハンティがそう言うのならば本当にそうなのだろう。

「待っている人が居る…か。一体どんな人なんだろう」

 ルーンは彼女の言葉を思い出し、その誰かに対し興味を抱くのだった。




闘神Θとλの人間の時の名前は不明なのでオリジナルで
ようやく聖魔教団の前身である魔教団設立まで
そしてフリークって何年くらいにあの姿になったんだろう…
ランス9との回想シーンでは結構な高齢にも見えるんだよな
ただ、GI353だと59歳…いや、悩みます
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