ランス再び   作:メケネコ

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魔王アベル

「ランス、何か考えているようだが、大丈夫か? 私から見ても結構悩んでいるようにも見える。君らしくないと言えばそれまでなのかもしれないが」

「やかましい。俺だって悩むことくらいある」

「女関係で悩むのは見ているが、今回は別の事だろう。前にも同じような事はあったが、その時と同じ感じがする」

 ケッセルリンクはランスの顔を見て心配そうな声を出す。

 ランスが悩んでいるのは剣の事なのは分かっている。

「魔王アベルは強すぎる。そもそも生命体として魔王が強すぎるのだ。いくら君が強くても魔王には勝てない。だが、それでも君は成そうとしている」

「魔王だろうが何だろうが関係ない。俺はあのバカをぶちのめすだけだ」

「………」

 ランスの言ってるバカとは当然魔王アベルだ。

 ケッセルリンクもアベルの事は名前しか知らなかったし、カミーラもアベルについては話してくれなかった。

 カミーラが話さないなら、ケッセルリンクも聞く気もなかった。

 が、まさか魔王アベルが今になっても生きている…と言えるのか分からないが、とにかくこうしてカミーラと再び話しているのだが、荒れるのは当然と言えた。

 カミーラは自分の意志で魔人になったのでは無いとは知っていたが、魔王アベルと良い関係では無いのだろう。

「ランス、魔王を倒すというのは諦めて欲しい。物理的に不可能だ」

「フン」

 ケッセルリンクの言葉にもランスは詰まらなそうにしているが、それは分かってはいるのだろう。

 だから彼女の言葉を否定しない。

「しかしお前の剣をもってしてもやはり魔王の壁は厚いな」

「俺様なら何とかなる。問題無い」

 ランスは立ち上がり剣を構える。

 バスワルドは確かにランスに教えた。

 ただ、やはりそれは感覚的なもので、ランスとしてもどうやったのかはわからない。

 本来は神の力、それを人が使えることなどあり得ないのだ。

「ランス、無茶だけはするな。私は今お前を助けることが出来ない」

「とにかくあいつをぶっ飛ばす。それだけだ」

 ランスはそう言って珍しく自分の意志で剣を振るい、己を高めるために行動するのだった。

 

 

「しかし彼は頑張るね。そうは思わないか、カミーラ」

「…何が言いたい、アベル」

 アベルは倒れながらも自分を睨んでいるカミーラに向けて唇を歪める。

「君を取り戻そうと俺を追い回してたドラゴン…それ以上に俺に対しての敵意を向ける人間。俺は人間はガイしか知らないが、人間とは皆彼のような面白い存在なのかい?」

 アベルの言葉をカミーラは鼻で笑う。

「人間は脆く弱い。ドラゴンと一緒に考えるな」

 カミーラにとっては人間とは気軽に殺せる狩りの対象くらいの存在だった。

 魔王スラルは特に人間をどうしようとは思っていなかったようだが、同時に魔人が好き勝手に人間を殺せる時代だった。

 それは魔王ナイチサになっても変わらない。

 カミーラにとっても人間は暇つぶしの狩の対象だったが、ランスは違った。

 人間でありながらもカミーラを傷つけ、そのプライドを傷つけた。

 同時に、スラルからの魔人への誘いを断ったことで、カミーラにとって興味深い人間に代わった。

 最初はランスを使徒にするのはスラルへの当てつけのつもりだっが、今は自分の力を見せつけ自分に跪かせたい人間へと変わった。

「あの男…そしてガイが特別なだけだ。人間とはお前の思うような存在ではない」

「…そうか。だとすれば俺は運がいい。お前が特別だと思う人間二人と会えたのだからな」

 アベルの言葉にカミーラは顔を歪める。

 カミーラはアベルが今でも嫌いだ。

 唯一の子供を産めるドラゴンとして、ドラゴンの王冠と言われては居たがカミーラの心は歪んだ。

 そしてそのドラゴンの王冠としての価値も無くしたのがこのアベルだ。

 臆病な性格でドラゴンに見つからないように生きてきた魔王、カミーラとしては心から軽蔑していた存在だ。

 そのアベルがこんな事を言い放つ、それはカミーラにとっては気持ちの悪い事でもあった。

「しかしカミーラ、君がそこまで執着するとは俺も思わなかった。どんな切っ掛けがあったかは気になるが、絶対に教えてくれないだろうな」

「当然だ。貴様に教える必要など無い」

「まあいいさ。俺にとっても良い暇潰しだ。さて、今度はどうなるか…楽しみでもあるね」

 アベルはそう言って目を細める。

 そんなアベルを見てカミーラはやはり気味悪そうにアベルを見るのだった。

 

 

 

 魔王アベルは強い―――それはランスも感じ取っている。

 ハッキリ言えば、いくらランスが強かろうとも魔王という存在には勝てない。

 リーザスで戦った弱体化した魔王ジル相手でも、ランスは勝てる気はしなかった。

 ランスがジルに勝ったのは、ジルに魔王の血が圧倒的に足りなかった事、そしてジルがこの世界の仕組みに気づいていた故に、ランスというバグの存在を知らなかったことにある。

 そして魔王アベルはそのジルよりも遥かに強い。

 封印されているので激しい攻撃は来ず、アベル自身が手加減しているのでランスが死なないだけだ。

「うおおおおおお!」

 ランスの一撃はアベルの硬い爪に弾かれる。

 それでもランスは剣を振るう。

 ランスは何となくだが、バスワルドが放った技がどんな感じなのか理解していた。

 それはランスが以前使っていた技―――魔人の無敵結界を斬るために試行錯誤していた時の感覚だった。

 あの時はスラルの力があってこそ、制御出来る技だった。

 その感覚が今のランスにはある。

 ランスには魔法が使えないので、スラルのように魔力で制御してバスワルドの力を引き出す事は出来ない。

 だが、今のランスならばその感覚さえあれば、その技を扱う事が出来そうな気がして来た。

「ふむ…」

 アベルはランスをじっと見ていた。

 無論ランスの攻撃はアベルにはダメージはならない。

 どれだけ傷がつこうが、魔王の体力と再生力の前にはLV3技能があろうが通用しないのだ。

 それだけの差が魔王とその他の生命体の間にはあるのだ。

(何かをしようとしているな)

 アベルは久々に心が躍る。

 以前に人間のガイが自分と戦ったが、その時には何の感情もわかなかった。

 ガイが一方的にこちらを攻撃してくるだけ、ただそれだけだった。

(だが今は違う)

 アベルの前に居るのは、自分に向けてしっかりと感情を向けてくる存在。

 そして何よりも、自分が求めてやまなかったカミーラが居る。

 過去にククルククルと戦った時の事を思い出させるような感覚だった。

「来たまえ、人間」

 アベルから距離を取ったランスは剣を構える。

 アベルはそれを見ながらも悠然とランスを見ているだけだ。

 ランスからすればその余裕の態度が気に入らないが、相手は魔王なのだ。

 絶対に勝てないが、それでもランスは退かない。

 ランスは自覚は無いかもしれないが、それは自分の為ではなくカミーラの事を考えての事だ。

 このドラゴンがカミーラという存在を歪めた原因の一つで、尚且つ今殴れる存在だ。

 だったら―――ランスがこのドラゴンを殴り飛ばすのはある意味当然だった。

「うおおおおおお! 死ねーーーーーーーっ!!!」

 剣を振るうランスに対し、アベルはブレスを吐く事で対抗する。

「チッ!」

 アベルに向けようとしていたランスアタックをブレスに向けて放つ。

 凄まじい衝撃と共にランスに衝撃波が襲い掛かる。

 何とか相殺出来た―――アベルが相殺出来るレベルのブレスを放って来たという事だが、とにかくアベルのブレスに対してランスは耐えた。

「いいね。次はどう来る?」

 余裕の顔を浮かべるアベルに対し、ランスは渾身の一撃を放とうとする。

(だが鬼畜アタックでも効果は薄いぞ。こういう奴を一撃でぶっ倒せるような技が必要だぞ)

 今のランスの鬼畜アタックならば、日光・カオスがあれば魔人でも大ダメージを与えられるあろう。

 だが、流石に魔王に対しては効果は薄い。

 いや、そもそもドラゴンという生命体であるアベルが人よりも遥かに強いのだ。

 ランスは知らないが、アベルは元々位の高いドラゴンでは無いが、それでもドラゴンという生命体なのだ。

「やかましい! ならこうならどうだ!」

 ランスは刀を抜いて空間を斬る。

「む」

 不可視の攻撃がアベルの体を傷つけるが、それだけだ。

「面白い攻撃だ。だが、足りない」

 アベルがランスに向けて爪を振るう。

 ランスはアベルの爪を避け、剣を構える。

 そしてアベルの爪を完全に受け流し、ダメージを無効にする。

「ほう!?」

 その動きにアベルは驚愕する。

 まさかドラゴンの爪を、こんなに小さい人間が完全に受け流すなど思ってもいなかった。

 これこそが人間の持つ技術、そして剣LV3という規格外の力だ。

「くたばれ! 超鬼畜アターーーーーック!!!」

 そしてランスは態勢を整えると、刀を構える。

 魔人メディウサに対して使った技は、ドラゴンのような巨体を持つ相手にはあまり意味が無い。

 あれは人間サイズの敵に対して有効なものだ。

 流石にドラゴンの巨体だとどうしても真価を発揮できない。

 なのでランスは色々と考えていた。

 ランスは修行を面倒くさがる男で、直ぐに怠けてレベルが下がる男ではあるのだが、今回は時代がそれを許さなかった。

 魔人と、神と、魔王と戦い続けた事、そして神のイタズラの結果が今のランスの強さだった。

 そしてこの技は刀で鬼畜アタックを放つという技。

 だが、その剣技はそれまでの鬼畜アタックとは全く違う。

「…!?」

 アベルはランスの放った技を見て息をのんだ。

 目の前の人間が何をやったのか分からないが、ソレは確実にアベルに迫っていた。

 そしてアベルの周囲の空間が斬り裂かれ、その余波がアベルの体を傷つけていた。

「…! 驚いた。まさか剣で魔法みたいな事をするとは」

 アベルは本気でランスの技に驚いていた。

 以前にアベルと戦ったガイの魔法も凄まじかった。

 が、目の前の男はそれを剣という武器でやってのけた。

(これがカミーラがこの人間に執着する理由か…)

 同時にカミーラが人間という弱い存在を目にかけている理由も悟った。

「だが…魔王には届かない」

 しかし、この技でも魔王には大きなダメージとはならない。

 魔王という存在はそれ程までに強すぎた。

「やかましい! これでもくらえ!」

 ランスは直ぐに行動を起こしていた。

 正直ランスの体は悲鳴を上げていた。

 最初に鬼畜アタックを放った時と同じように、体に影響が出ている。

 だが、それでも今のランスは不思議と好調だった。

 そしてハッキリと自覚する…あの時の力がこの剣に宿っているという事を。

「死、ねええええええええ! ラーンスアターーーーーック!」

 そして剣を両手で構え、自分の代名詞とも言える必殺技を放つ。

「…見事」

 アベルはそのランスの動きから目を離さなかった。

 それはアベルも目を見張るほどのオーラだった。

 緑と黒が入り混じったオーラはランスの剣を大きさを数倍にまで大きくしていた。

 そこからは人の物とは違う、異質な気を感じさせる。

 ランスの剣はアベルの頭から喉から胸を斬り裂くが、そこでランスの剣からオーラが消失する。

「グフッ」

 アベルは一度呻くと、その口から大量の血を噴き出す。

「うげっ!?」

 そしてアベルの血は、アベルを見上げていたランスの頭からモロにかぶさってしまう。

「うぎゃあああああ! ぺっぺっ!」

 モロに血を浴びたランスは真っ赤に染まり、その血が口の中にも入ったのかランスは気持ち悪そうな顔をしてその血を吐き出す。

「貴様! 何をしやがる!」

「いや、やったのは君だよ。俺は悪くない」

 アベルは大量の血を吐き出したにも関わらず、もうピンピンしていた。

「ぐぬぬ…大して効いて無いか」

「いや、効いたよ。俺が居た時代の魔人でも倒せる程の力だよ。だが、魔王という存在には足りないだけだ」

「チッ、無茶苦茶だな。うげーっ!」

 アベルの言葉に悪態をつきながらも、ランスは喉に入ってしまった血を吐き出そうとする。

 だが、流石に一度飲み込んでしまったものは容易に吐き出せなかった。

「満足かい? カミーラ」

「………」

 ランスの剣を見てカミーラは目を見開いていたのをアベルは見逃さなかった。

 あのカミーラが驚愕していた、その顔を見られただけでもアベルには有意義な事だった。

「さて…そろそろ時間かな?」

「どういう事だ、アベル」

 突如として奇妙な事を言いだしたアベルに対し、カミーラは怪訝な顔をする。

「そのままさ。これでお別れという事さ」

 アベルがそう言うと、ランスの体が光に包まれていた。

「あ、何だこりゃ!?」

「元の世界に戻る時が来たのさ。どうやら時間制限があったようだな」

「あ、待て! まだ俺はお前を殴り足りないぞ!」

 ランスはそう言うが、その姿が光に包まれて消えていく。

「カミーラ、君もだ。元の世界に戻る時間だ」

 アベルの言葉通り、カミーラの姿も光に包まれていく。

 カミーラもそれを自覚し、アベルを睨む。

「じゃあさよならだ、カミーラ」

「…フン、貴様の顔などもう二度と見たくは無いが…これは私なりのケジメだ」

 そう言ってカミーラは強烈な拳をアベルの頭に叩きつける。

「これで終わりだ。もう貴様との縁もな」

「ああ、そうだな」

 アベルは何処か嬉しそうに呟く。

「最後に言っておく。あの人間を見てやれ」

「…何をだ」

「あの人間は俺の血を浴びた。それがどういう意味か分かるだろ?」

「…!」

 カミーラはアベルの言葉に目を見開いた。

「ああ。魔人にはならないよ。今の俺にそんな力は無い。だが、あの人間…ランスには影響は少なからず出るだろう。それがどうなるかは俺にも分からない」

「貴様…」

「俺がククルククルに止めを刺せた、それくらいのイレギュラーが起きたんだ」

 アベルは皮肉気に笑みを浮かべる。

「ありえない事は実際に起きる。俺をここに封じたマギーホアの時代が終わったように」

「フン…」

 カミーラは詰まらなそうに顔を歪める。

「ランスはこのカミーラの物だ。例えどうなろうともな」

 そう言ってカミーラの姿はアベルの前から消える。

 そして再びアベルは一人になる。

「…楽しめたな。マギーホアは何故俺をこうしたのかは分からないが…まあ静かでいい」

 アベルはそう言って寝転がる。

「ランスとか言ったな…不思議とアイツとは楽しく話せた。何故だか俺はあの人間と相性が良さそうに感じた。性格は似ても似つかないのにな」

 苦笑しながらもアベルはもう会えないであろう人間の事を思う。

「これも何かの縁だ。魔王ではなく、ドラゴンとしての俺の力…好きに使え」

 そう言って今度こそアベルは眠りにつくのだった。

 

 

 

「あだっ! 何処だここは!?」

 ランスは突如として地面に投げ出される。

 高所からの落下では無かったが、それでも痛いものは痛い。

 周囲を見渡すが、そこには殺風景な岩肌があるだけだった。

「なーんか見た事があるような…」

 その光景はランスは記憶にあるような感じがしたが、思い出す前にカミーラがランスの前に現れる。

 カミーラはランスを一瞥すると、ランスと同じように周囲を見渡す。

「…どうやら戻って来たようだな」

「分かるのか」

「お前よりも長い時を生きている」

 魔人であるカミーラは流石にここが何処かは分かるようだ。

「元の世界に戻ったか…だが」

 カミーラはこの世界の空気に眉を顰める。

 カミーラが知るGI期はそれこそ破壊と殺戮に満ちた世界だった。

 魔王が人間を殺す事を容認してからは、人間にとっては非常に苦しい世界だった。

 人間に興味が無いカミーラはその殺戮には関与して居なかったが、その淀んだ空気だけは肌で理解出来ていた。

 しかし、今の世界にはその空気が薄いように感じられた。

「あのー…どうしましたか?」

 その時、突如としてランスとカミーラに話しかけてきた存在が居る。

 カミーラはその存在に向けて手を伸ばしたが、その姿を見て手を止める。

 そしてその人影もカミーラを見て跪く。

「これは…申し訳ありません、魔人様」

「よい。それよりも…何故お前のような者がここに居る」

「私はこの付近に居る方の家に住んでおります。まさかこんな山奥に魔人様が居られるなんて…」

 人影―――女の子モンスターのメイドさんは魔人がこんな所に居るのに本当に驚いているようだった。

 カミーラもメイドさんの事は知っている。

 七星がカミーラの屋敷を維持するために使用していたし、魔王城でもその姿は全く珍しくない。

 そういう事が得意な女の子モンスターであり、カミーラも己の屋敷に居た時は特に気にする事は無かった。

「何故ここに居る」

「私はこの付近に住んでいた方に仕えていたメイドです。その方が亡くなった後、その家の管理をしておりました」

 メイドさんの言葉にカミーラは眉を顰める。

「このような所にか」

「はい。私の主は魔物使いでしたので」

「魔物使い…人間か」

 魔物使いとは、モンスターを使役する事が出来る人間の事だ。

 そういう技能が有るとはカミーラも聞いていただけで、特に気にした事は無かった。

 そしてカミーラはこのメイドさんが人間に仕えていた事に違和感を感じる。

「今はGI何年だ」

「今…ですか? 今でしたらGI358年でございます」

「!」

 メイドさんの言葉にカミーラは目を見開く。

 GI358年とは自分達が居た時代の遥か先の事だ。

 つまりはアレから200年以上は経過しているという事だ。

「そんな事はどうでもいい。風呂はあるか風呂は」

 ランスはクシャミをする。

 ランスは魔王アベルの血を浴びたため、体が濡れ鼠になってしまっている。

 そしてここの空気は冷たいので、このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。

「失礼しました。魔人様、一先ずは小さな所ですが、我が主の家に来ませんか? お連れの方の姿…私、非常に気になります」

「………まあいい。案内しろ」

 カミーラは色々と考える事もあったが、取り敢えずはメイドさんについて行く事にする。

(…成程、これがケッセルリンクの感覚か。そう思えば奴が居ない期間、その間の事を私に聞いてきたのも納得か)

 まさか自分がこんな体験をするとは思っていなかったカミーラは苦笑するしかない。

(七星は…まあ上手くやっているだろうな)

 カミーラは使徒の力量を疑っていない。

 七星ならば主の求める物が何なのか理解している。

 それよりも、カミーラは今の状況を知る必要があった。

 

 

 それは山の中に存在する一つの家だった。

 決して豪華では無いが、ボロくも無い。

 それでいて清潔感を感じさせるのは、このメイドさんが優秀な証だろう。

「では失礼しますね」

「うむ、破いたら許さんぞ」

 メイドさんはアベルの血に塗れたランスの服を受け取ると、そのまま何処かへと消える。

 カミーラはメイドさんが人間を優先した事に少しだけ唇を歪めたが、女の子モンスターの習性に文句を言っても仕方が無い。

 それだけランスの服は汚れていたのだから仕方が無い。

 ランスは代わりの服を着ているが、やはり何時もの服ではないせいか少々不満気な顔をしている。

「魔人…カミーラ様ですね?」

「そうだ。私の名を知っていたか」

「はい。それもメイドの嗜みでございます。しかし、そのカミーラ様が何故このような所に? 魔王様の命令で今は魔人は西に移動したと聞いております」

「それだ。今の状況を教えろ」

 メイドさんはカミーラの言葉に表情を変える事は無かった。

 これもまたプロのメイドさんなのだろうと納得する事にする。

「かしこまりました。と、言いましても私は一般のメイド故に細かな事は知りません。大まかな事になりますがお許しいただけますか?」

「許す。話せ」

「はっ。それでは…」

 メイドさんは今現在の世界の情報を話した。

 と、言っても彼女もまた魔王が人間を解放してから生まれた魔物なので、伝聞になってしまうのだが、カミーラとしてはそれでも構わなかった。

 大まかな事が分かれば、後は使徒である七星とラインコックと合流すればいいだけだ。

 そして全てを聞いた時、カミーラは不快そうに顔を歪める。

「…ガイは本当に人間を解放したのか。あの女と引き換えに」

 カミーラは今現在の状況に目を見開く。

(あのガイが…何が起きた?)

 ガイは人間を殺す事を許可した魔王、延々と人間を生かし続けたジルとは違う。

 そのガイがそんな判断をするとは信じられない思いもある。

 が、同時に自分はそんな判断を下せる程ガイと親しくも無かったとも覆う。

 しかし、そうなるとカミーラにはやる事がある。

 一度魔王の元に戻らなければならない―――自分を待っている者達の為にも。

(そして…決着を着けねばならぬな)

 カミーラは決意を秘めた目でランスを見るしか無かった。

 

 

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