メイドさんは優秀なメイドだったようで、汚れていたランスの衣服は完全に元通りになっていた。
「うむ、綺麗になったな」
「はい。凄く汚れていたので、綺麗にしがいがありました」
ランスの言葉にメイドさんは恭しく一礼する。
そういう立ち振る舞いも、どことなくビスケッタを思い出される。
が、流石に彼女ほど優秀なメイドなどそうは居ない。
「体も調子がいいな。うむ、流石俺様」
魔王アベルとの戦いは激戦だったのか、ランスは寝ていれば体力が回復した。
実際は疲労で丸一日ほどランスは寝ていたのだが、ランスはそれを知る由も無い。
「起きたか、ランス」
ランスが目を覚ましたのを察したのか、カミーラがランスの部屋に入って来る。
狭い家なので、その辺りは丸分かりなのは仕方ないだろう。
「体は問題無いな」
「何だ突然。気味が悪いぞ」
ランスの体調を気遣うようなカミーラの言葉にランスは怪訝な顔をする。
この魔人はそんな事を心配するような女ではない。
だが、カミーラがそういう言葉を発するという事はどういう事か、これまでの経験から分かり切っていた。
「私と戦え。決着をつけるぞ」
「またそれか。お前だってあいつをぶん殴ったんだろ。少しくらい俺様の事は忘れたらどうだ」
ランスと言えども、流石にカミーラクラスの強さを持つ魔人に狙われるのは正直御免だ。
ランスを狙うと公言しているサテラと違って非常に強いという事もある。
何よりも、言葉でどうにかなる相手では無い事はランスも分かっていた。
「そうはいかんな」
そういうカミーラの目には並々ならぬ決意が感じられる。
流石のランスも今のカミーラに対して何かを言うのは無駄だと判断する。
まるで今回が最後だと言わんばかりの態度にはランスも疑問を感じていた。
「…分かった。だがちょっと待て。俺様にも準備があるからな」
「…いいだろう。終わったら外に来い」
ランスの言葉を受けて、カミーラは本当に外に行ってしまう。
そんなカミーラを見てランスはため息をつく以外に出来ない。
「おいケッセルリンク。起きてるか」
「ああ、起きているよ。大変だったな、ランス」
「それはどうでもいい。それよりも何かあったのか。カミーラの奴、焦っているぞ」
「…そうだな。私もカミーラの態度を理解出来る。正直、私としては止めたいが…そうはいかぬだろうな」
ケッセルリンクの言葉にランスの顔は不機嫌になる。
「なんでだ。普段のお前なら何だかんだ理由をつけて止めるだろう」
「ああ。普段の私なら止める。が、今の私が止められないのはお前も知っているだろう」
苦笑しながらケッセルリンクは剣の中で難しい顔をしていた―――ランスには見えてはいないが。
「それに最後になる可能性がある」
「どういう事だ」
「魔王の命令があったようだ。魔人に対して人類に手をだすなというな。それが本当ならば、この機会を逃せばカミーラはお前に手を出せなくなる」
「何だと?」
「魔王の命令は魔人には絶対だ。魔人はそれに逆らう事は出来ない。カミーラにはカミーラの事情があるからな…それを思えばな」
ケッセルリンクもまたカミーラの事情は分かる。
長年の付き合いが有るし、彼女が本気でランスを自分の使徒にしようとしているのは分かる。
そうでなければカミーラがここまで一人の人間に執着する理由が無い。
そしてカミーラにも戻らなければならぬ場所がある…己の使徒に対し自分が問題無い事を示さねばならない。
何しろカミーラは200年以上行方不明になっている形なのだ。
それを心配しない使徒達ではない。
(私の使徒達も心配はしているだろうが…まあ、無事だろう)
ケッセルリンクもまた何百年も行方をくらましている魔人だが、彼女の使徒達ならば問題は無いとも信じている。
要領がいい子が多いし、何よりもエルシールならば上手く立ち回れるのは間違いない。
「…フン、まあいい。ここであいつと決着をつけるか。だがその前に…カモーン! クエルプランちゃん!」
ランスが指を鳴らすと眩い光と共にクエルプランが現れる。
「…久しぶりですね、ランス」
「うむ、俺様からすればそんな時間は経って無いのだがな。まあでもクエルプランちゃんに会えて嬉しいぞ」
「………そうですか」
クエルプランは少しの間をおいてからコホンと咳ばらいをする。
「レベルアップですね?」
「うむ。今回はかなり戦ったからな。レベルも上がってると思うぞ」
「それではいきます」
クエルプランは呪文を唱える。
「ランスはレベル…105になりました」
「おー! とうとう100を超えたか! いやー、長かったな!」
「…ランス、あなたは何処でこれほどの経験値を?」
今はレベル神もしているので、クエルプランもレベルに関しての知識を手に入れている。
それと照らし合わせれば、前回からここまでレベルが上がると言うのは非常識でもある。
「うむ、魔王と少しな。だが、流石にここまで経験値があるとはな」
「………聞かなかった事にしましょう。しかし…レベル100の褒美ですが、今はまだ保留とせざるを得ません」
「聖遺物とかいう奴か…」
ランスの言葉にクエルプランは頷く。
「はい。これも取り決めですので」
「まあいい。楽しみはまだまだ取っておいてもいいからな。が」
「何ですか?」
「いや、前にクエルプランちゃんと約束した時はレベル90の褒美が100になっただろ?」
「ええ、そうです」
「今俺様はレベル105だ。今回のも次に持ち越されるのか?」
その言葉にクエルプランは考える。
正直に言うと、ランスならば聖遺物を直ぐに見つけられると思っていた所もあった。
それに、ランスのレベルが100に行くまでに聖遺物が届けられるとも考えていた。
ランスが不正をしていない事はクエルプランも知っているし、今回は前のようにクエルプラン以外の存在にレベルアップされていない。
それを考えると、このまま褒美をずるずると先延ばしにするのも間違っているのではないか、クエルプランはそう考えていた。
実際にはレベル神は割といい加減な所もあり、彼女ほど厳格なレベル神もそう居ない。
「正直に言うと、ランスのレベルがここまで急激に上がるとは私も予想していませんでした。それに、あなたは今回は不正をしていないのは明らかです。ですが、試練を超えていないというのも事実です」
なのでクエルプランとしては妥協案を提示するのが良いと思っていた。
本当はレベル神はそこまで考えなくても良いのだが、真面目なクエルプランは本当にそう思っているのだった。
女神ALICEが言う通り、堅物クエルプランというのもある意味納得である。
「ですので…出来る範囲であなたの望みを叶えようと思います」
「出来る範囲?」
「はい。あくまでも今出来る範囲内での事です。レベル神の業務に反しない限りという条件が付きますが」
「ふむ…」
クエルプランの言葉にランスはニンマリと笑う。
思いもよらず、彼女から凄い言葉が出てきた。
(とはいえだ。クエルプランちゃんは融通が利かない性格だからな。ウィリスとはその辺が違うしな。とはいえ、望む事か)
ランスとしては気になるのが『レベル神の業務に反しない限り』という言葉だ。
レベル神とは言葉通りレベルを上げるための神様だ。
ウィリスとみかんがランスのレベルアップを担当していた。
だが、ランスとの関係はそれくらいだ。
(あてなを起動させるのにウィリスにエロい事をしたが…流石に今は無理だろうな)
ランスとしては何とかエロい事に持ち込みたいが、彼女にそれをやるのはちょっと危険な気がした。
何しろ彼女からは魔王以上の何かを感じさせるからだ。
そうなると出来る範囲は本当に狭い。
狭いが、それはそれで楽しみようがあるのだ。
(うーむ…しかしいい女だ。前にクエルプランちゃんとキスは出来たが…む、それだ)
ランスは思い出す。
彼女と最初に会った時に彼女に触れれたが、その時以来彼女に触れる機会はほとんど無かった。
手に触れる機会はあったが、接触らしい接触は皆無だ。
(まずは一歩目だな。うむ、じっくりと行けばいいのだ。志津香もそれで落としたからな)
「よーし、決まったぞ。出来る範囲なら何でもいいんだよな」
「はい。あくまでレベル神の権限で出来る範囲ですが」
「だったら簡単だ。キスさせろ」
「………はい?」
「お、いいのか。だったら早速…」
「…待って下さい」
迫って来るランスをクエルプランが制止する。
「何だと。足が動かん」
クエルプランの言葉を受けると、ランスの足が止まる。
「…キスをさせろとは」
「言葉通りだ。俺はクエルプランちゃんとキスがしたい。それも触れるだけじゃなくてディープな奴だ」
(ディープ…ディープとは何でしょうか)
ランスの言葉にクエルプランは疑問を覚える。
そもそも人間達が使うような性的な言葉など、彼女に分かる訳が無い。
「…分かりました」
なのでクエルプランもそれを受け入れてしまう。
一度ランスに唇を奪われた事もあるため、キスとはそういうものだと思っていた事もある。
彼女の無知に付け込んだ形にはなるが、当然それはランスが意図したものでは無かった。
「じゃあ行くぞ」
ランスはクエルプランに近づく。
(うーむ、いつ見ても凄いな。なんつーか、他の奴と違って神々しいとでも言えば良いのか)
これまで色々な種族とセックスしてきたが、クエルプランはその中でもずば抜けている。
魔王も魔王で凄いのだが、クエルプランはその魔王よりも凄く感じてしまう。
最初はランスですら委縮してしまう程の気配を放っていたので無理も無い。
だが、こうして長い間付き合っていればランスも慣れてきた。
ランスはクエルプランの頭に手を伸ばすと、そのまま彼女の唇に自分の唇を重ねる。
「…ん」
クエルプランはその感触に戸惑う。
これで人間に触れられたのは二度目…本来はメインプレイヤーが1級神に触れる事などありえない。
ましてや人前に出ないクエルプランならば尚更だ。
ただ、その感触は決して不快では無かった。
が―――その後の感触にクエルプランは閉じていた目を見開く。
彼女の形の良い唇をこじ開けるようにして、ランスの舌が彼女の口内に入って来た。
「!!!」
その衝撃にクエルプランは思わずランスから体を離す。
「あ、こら。何をする」
「い、いえ…あなたが突然意味の分からない行為を…」
「なんだ。クエルプランちゃんはキスをしてもいいと言ったではないか。それもディープなやつを」
「…では、私の口の中に舌を入れてきた行為が」
「ディープキスというやつだな。クエルプランちゃんは分かりましたと言ったぞ」
「…確かに言いましたね」
クエルプランは確かに自分が許可した事を記憶している。
ただ、まさかこれがランスの言うディープなやつだとは想像もしていなかった。
「だったらいいだろ。じゃあ続きをやるぞー」
「ラ、ランス…あっ」
ランスはクエルプランに再び唇を重ねる。
今度はクエルプランも拒否すること無く受け入れる。
クエルプランの心臓は自分が想像した以上に早く動き、ランスがそうしているのと同じようにランスの背中に手を回す。
ランスのように激しく舌が動く訳では無いが、何とかランスの舌に合わせようとしている。
(あっ…)
そしてランスの口から溢れた唾液がクエルプランの口内に入って来る。
クエルプランはどうして良いか分からないが、それでも口内に入って来た唾液を飲み込むしかない。
そんな刺激がどれだけ続いたか、ランスがクエルプランから口を離す。
「これがディープなキスだ」
「………意味が分かりません。何故人間はこのような行為をするのですか」
「そんなの気持ちいいからに決まってるだろうが。クエルプランちゃんは嫌だったか?」
「………いいえ」
クエルプランはランスの言葉を否定しなかった。
事実、クエルプランは嫌では無かった。
神からすれば人間は魔王に蹂躙されるだけの存在、ドラゴンに比べれば弱く愚かな存在だ。
その人間が繁殖するためにする行為であるセックスはクエルプランからすれば意味の分からない行為だった。
そして今の行為もまた、セックスのための行為の一つなのだと思い知らされた。
「………そ、それではこれで褒美は終わりです。こ、今度はきちんと聖遺物を提出して下さい…」
クエルプランは消え入りそうな声でそう言うと、そそくさと姿を消してしまった。
「うーむ、やっぱりクエルプランちゃんは可愛いな。こう何も知らんと言うのがいいな」
ランスは結構ゲスい事を言いながらニヤニヤと笑っている。
「ランス、それよりも大丈夫なのか? カミーラは本気だぞ」
ニヤニヤとしているランスを戒めるようにケッセルリンクは真剣な声を出す。
「ん? ああ、ケッセルリンクか。お前も起きてたのか」
「まあな。最近は少し調子が良くてな。だが、それよりもお前の事だ」
ケッセルリンクは本気でランスを心配している。
カミーラの態度を見たが、カミーラが本気なのはケッセルリンクは嫌と言うほど分かる。
メイドさんの言葉はケッセルリンクも剣の中で聞いていたが、魔王が人間を解放し、手を出す事を止めさせたという事はそういう事だ。
もう魔人は人間に対しては手を出せないという事になる。
ケッセルリンクもスラル、ナイチサ、ジルと歴代魔王に仕えてきたが、ジルを除けば基本的に魔王は魔人が人間に手を出すのを止めない。
魔王ジルの時代では一度ランスとカミーラは戦っているが、それもジルが容認していた節がある。
しかし、今回の魔王はあのガイだ。
ガイもランスと因縁が有るが、ガイは人間を魔物の手から完全に解放した。
ジルの時とは状況が違う。
「カミーラは本気でお前を使徒にする気だ。これが最後になる可能性が高いとあいつも感じているのだろう」
「ふーん、そうか」
ケッセルリンクの言葉にもランスは割と適当に返す。
その態度にケッセルリンクは剣の中で訝し気な顔をする。
「ランス?」
「ま、何とかなるだろ。少なくても今ならな」
ランスの言葉にケッセルリンクは剣の中で目を見開く。
カミーラに対してこれ程までに自信満々なランスを見た事は無かった。
これまでの戦いも横槍が入ったりと勝負は流れていたが、何れもランスが負けていたのは間違いない。
それなのに今回はランスは問題無いという。
何故そうまで断言できるかは分からないが、それでもケッセルリンクはランスを信じるしか無かった。
魔法院―――
「面倒な事になって来たわね」
「そうだな。少々予想外の方向に向かって来ているな」
レンとジルは自分達の部屋で話し合っていた。
「で、スラル。そっちはどうするの?」
「どうもこうも無い。確かに彼等の技術は興味深いが、深く関わる気は無い」
ジル―ーーいや、スラルはレンの言葉に対してハッキリと言う。
スラルから見ても非常にユニークな技術だった。
魔力を蓄積する装置と、それで動く人形、何れもスラルが感心するものだ。
ただ、彼等はそれを利用して世界を統一しようとしている。
そしてその仲間にジルとレンを引き入れようとしているのは間違いない。
「絶対服従魔法をかけるだって。上等じゃない」
レンはそう言って酷薄な笑みを浮かべる。
彼等の言葉をレンは聞いていたのだ。
元々レンは人間に対してそんなに友好な存在ではない。
例外なのはランスと関わる者達だけで、それ以外の連中など本当に眼中にも無かった。
それ故に彼等の言葉はレンに対して喧嘩を売っているという事に他ならなかった。
「レン、いくらお前でもここにいる連中全てを相手にするのは厳しいだろう。ルーカ・ルーンの魔力は魔人すら上回るだろうからな」
「ふーん…人間って時折本当に意味の分からない存在が生まれるのよね」
スラルの言葉にレンは呆れたようにため息をつく。
思えば藤原石丸も剣だけならばランスを上回っていた。
今戦えばどうか分からないが、当時はランスでも石丸には勝つ事が出来なかった。
「まだ何を考えているかは分からないがな」
スラルとしても非常に悩ましい所ではある。
絶対服従魔法をかけるのも辞さないという連中と一緒に居るのはリスクが大きい。
カラーの所に行こうにも、ここを勧めたのはそもそもハンティだ。
いざとなればハンティもこっちを見捨て、相手に売らないとも限らない。
実際それは杞憂なのだが、スラルは何時も『最悪』を考える。
それがスラルが魔王だった頃からの癖なのだから仕方が無い。
「じゃあどうする? ここを出る?」
「…最悪それも選択肢だな。まあ奴等の中でも意見は割れているだろう。強硬派と穏健派、組織が出来れば必ず出来るものだ。魔王という絶対的な制度がある魔物でも例外は無い」
魔物の中でもそういう連中は必ず出てくる。
魔王が絶対命令権を使えば話は別だが、魔物だって完全な一枚岩でも無いのだ。
「ランスもこの世界に戻ってきたら必ずカラーの所を目指すだろう。それを考えてもあまり移動はしたくはないのだがな…」
スラルとしてはやはりランスが居ないのはもどかしい。
常に一緒に居た存在が消えるというのは意外と心に来ると思い知った。
「あー、居た居た。久しぶり」
「ハンティ」
その時突如としてハンティ・カラーが現れる。
「瞬間移動か。やはり便利なものだな」
「そういいものでも無いよ。私一人だけの移動方法だからね。って違う違う。アンタ達に話があって来たんだ」
ハンティは少し慌てた様子でスラル達を見る。
「ランスがこの時代に戻って来たって。さっきセラクロラスが現れて私に話してきたんだよ」
「ハンティに?」
「そう。理由は分からないし、聞いても意思疎通は難しいだろうからね」
「で、ランスは何処?」
レンは身を乗り出してハンティを見る。
レンにとってはランスは護衛の対象、女神ALICEから命令を受けた人物だ―――と、今でもレンは信じている。
「あー…それがどうやら厄介な状況らしくてね。それを解消するために頼みがあって来たんだ」
「頼み?」
「バイクを貸して欲しい。それをランスに届けるのさ。どうやらかなり厄介な所に出たみたいでね。このままだと合流するのにも一苦労だよ」
ハンティは苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「それと別の意味でも厄介な事でね」
「別の意味? それはどういう意味だ」
スラルの言葉にハンティは神妙な顔をする。
「カミーラと一緒らしいのさ。そうなると後は分かるだろ?」
「…カミーラとの戦いは避けられないって事ね」
ハンティの言葉にレンも苦い顔をする。
魔人カミーラもランスと一緒なのは間違い無いが、確かに同じ時代に同時に戻って来たのならそうなるのは自明の理だ。
「何処に居るのよ。私はランスを守らないといけない」
「セラクロラスが言うには大丈夫らしいんだけどね…でも、今は動かない方がいいさ。厄介な事になりそうなんだろ?」
ハンティの言葉にスラルは肩をすくめる。
「知ってるのか?」
「言っただろ、私はフリークの親友だって」
「我等をここに送り込んだのはお前だ。が、来たという事はカラーの方針に何かあったのか?」
スラルの指摘に今度はハンティが肩をすくめる。
「私はカラー全体の方針にまでは口は出さないからなね。結果どんなに痛い目にあってもね。流石に人間がカラーのクリスタルをああ使うようになったのは予想もしてなかったけどね…」
「カラー王国か」
「あの時はカラー全体の意思だったからね…ま、酷い教訓だったけどね」
「だが、それを持ちだすという事は、もしやカラーが人間と再び関わるという事か?」
「協力を打診されているって段階さ。カラーも人間不信なのが当たり前だからね。ましてや今はケッセルリンクが居ないって事もあるしね」
ハンティとしてはカラーという種族が絶滅するのは絶対に避けたい。
だが、何時までも自分が干渉し続けるのも良くないとも思っている。
「ま、それはともかくとして、バイクを貸してよ。あいつに届けるだけだからさ」
「それは良いけど…お客さん来てるけどどうする?」
レンの言葉にスラルは目を閉じる。
その目が開いた時、そこに居たのはスラルではなくジルだった。
「ああ、警戒しなくていいよ。フリークには話しておいたから」
ハンティの言葉に呼応するかのように、扉がノックされる。
「どうぞ」
ジルがそう言うと、フリークが部屋に入って来る。
「全く、何時もお主は唐突じゃな、ハンティ」
「悪いね。でも私も急いでるからね」
ハンティの言葉にフリークは苦笑するしかない。
「先日は悪かったの、二人とも」
フリークはそう言ってジルとレンに向けて笑みを浮かべるのだった。