「うおおおおおおお!」
ランスはカミーラに斬りかかるべく走る。
(滅茶苦茶体が軽いぞ)
これまでの自分とは全く違う感覚にランスは驚く。
だが、それは自分の体にしっかりと馴染み、違和感を覚える事は無い。
(早い…)
カミーラもランスの動きを見て目を見開く。
ただ走っているだけだというのに、その動きが非常に速い事に驚く。
「だあああありゃああああ!」
「クッ!」
ランスの強烈な剣の一撃をカミーラは爪で防ぐ。
先程よりも明らかに重く鋭い一撃には流石のカミーラでも衝撃を完全に受け止められなかった。
だが、それでもカミーラは喜々としてランスを見ていた。
「そうで無ければ狩り甲斐が無いというものだ」
「がははははは! 狩られるのはお前だ!」
ランスはそのまま剣と刀を交互に使い分けカミーラを追い詰める。
早さもそうだが、やはりランスの剣は異常なまでに掴み所が無い。
ランスとは何度も戦っているカミーラでさえも、ランスの剣の出所が全く読めない。
それでもカミーラが耐えられるのは魔人四天王としての圧倒的な力があるからだ。
しかし、流石に本調子でない今のカミーラではランスの攻撃は刺激が強すぎた。
ましてやランスはカミーラの不調に躊躇いなく付け込んでくる。
そしてカミーラもそれが分かっているからこそ、右半身を庇う様にして動いてしまう。
「だああああありゃあああ!」
ランスの剣がカミーラの腕を傷つける。
一撃が重いので、カミーラがアベルに傷つけられた場所からは血が噴き出す。
今や完全に傷口は開いてしまい、そのダメージがカミーラに徐々に影響を与えるのは間違いない。
カミーラもそれを自覚しているが、それでもカミーラは退かない。
カミーラにとってはそれでこそ望んだ展開でもあるからだ。
自分が不利だろうとも関係無い、そんな状況すらも楽しめるだけの心の余裕が彼女にはあった。
「調子に…乗るなよ」
カミーラはランスの剣を翼が傷つく事を恐れずに弾き飛ばす。
一見薄そうに見えるカミーラの翼だが、その強度はまさに普通のドラゴンと変わらない。
そのまま爪を伸ばしランスの肩を狙う。
爪はランスの肩を掠るが、それだけではランスは止められない。
ランスは避けた動作のまま、肩でカミーラに体当たりをする。
それでカミーラのバランスが崩れるという事は無いが、それでもカミーラの左手は伸び切ってしまっているため、負傷している右手の爪ではランスを攻撃する事は難しかった。
ランスはそのまま伸び切ったカミーラの左手を潜るようにして側面に回る。
その動作のまま、居合斬りを放つ。
空間を断ち切るその一撃は流石に受ける事は出来ないと判断し、カミーラは宙へと浮かぶ。
カミーラの立っていた場所が歪んだかと思うと、凄まじい衝撃が放たれる。
そのままカミーラはランスから距離を取って着地すると、そのままランスに向かってブレスを放つ。
咄嗟に放ったブレスだったため、ランスを完全に狙って放つ事は出来ない。
ランスはカミーラのブレスの動きを見て、最小限の動きでその範囲から外れる。
そのまま高速でカミーラへと接近する。
どんな状況だろうと、カミーラにブレスを放たれるのはランスとしても避けたい。
カミーラには破壊力のあるブレス、相手を痺れさせるブレス、そしてこちらの気力を減衰させるブレスがある。
何れもゼスでの戦いで使っていたもので、ランス達はカミーラのブレスには苦しめられた。
なのでランスはカミーラから離れないようにしてブレスを多用させないようにする。
「余裕が無くなって来たな。ブレスばかり使いおって」
ランスの言葉にカミーラは何も答えない。
それでも戦意は消えずにランスを睨みつけている。
カミーラはランスから距離を取ろうとするが、ランスの動きはそれ以上に早い。
あっという間にランスの接近を許し、カミーラは接近戦を強いられる。
「フッ…まさかこのカミーラが人間に後れを取るとはな…」
そう言うカミーラだが、それでもまだ余裕が感じられる。
「がはははは! 今の俺様はお前よりも強いぞ」
「よく言う…が、その大言を許そう。今のお前にはそれだけの力が有る。魔王と戦い生き抜くだけでなく、あのアベルがお前に力を託した。お前には不思議な程の運が有る」
ランスの攻撃を完全に防げないカミーラの傷がどんどんと広がっていく。
アベルとの戦いで主な負傷だった右半身だけでなく、少なくないダメージをアベルから与えられていた体全体に影響が出てくる。
カミーラとしてもまさかここまで戦いに影響が出るとは思っていなかった。
それでもカミーラは精神的には絶好調と言っても良かった。
そして彼女の精神が肉体を凌駕し、負傷してるとは思えない程の力を発揮する。
防戦一方だったが、カミーラの爪がとうとうランスの手を捉える。
「うおっ!?」
ランスはカミーラの行動に驚くと同時に鋭い痛みが腕から走る。
カミーラは自分の体が傷つくのにも構わず、ランスの左腕を狙った。
ランスの剣がカミーラの腕を斬り裂くと同時に、カミーラの爪がランスの腕を刺し貫いた。
ランスは即座に刀でカミーラの爪を斬る。
魔力で生成されたカミーラの爪は霧散するが、それはランスに隙を作る。
カミーラの爪がランスの腹部を狙い伸びてくる。
しかしランスは慌てる事無く剣の腹を使ってカミーラの爪を受け止める。
ククルククルの触手の先端の顔が浮き出た不気味な剣だが、その強度は魔人の攻撃すらも受け止められる。
ランスは逆の手でカミーラの腹部を狙って刀を突き刺そうとするが、カミーラも慌てずにランスとの距離を取る。
ブレスを使わない判断をしたのか、カミーラはそのままランスに向かってくる。
その動きをランスはハッキリと認識していた。
(うーむ、体の調子がすこぶる良いぞ。これもあのドラゴンの力という奴か? まあ便利だから構わんが)
ランスはどんな手を使おうが勝つ事を優先する。
魔人の無敵結界の前に手が出なければ、躊躇わらずバスワルドの力を使って魔人に対抗した。
なのでアベルがランスに残した力だろうが、使う事に躊躇いは全く無い。
貰ったものは遠慮なく使うのがランスという人間なのだから。
「甘いな!」
カミーラの連撃をランスは剣と体捌きで防ぐ。
今のランスにはカミーラの動きが何となくだが予想出来ている。
カミーラがどのように攻撃してくるのか、その半歩先が感覚で分かるのだ。
殺気とも言うべき気配がランスを刺激し、勝手に体が動いて攻撃を防いでいるような感じだ。
それでいて反撃も行う事が出来る、まさに剣士として隙の無い存在がそこに居た。
「フッ、楽しいな、ランス。まさかこれ程楽しませてくれるとは…邪魔者が入らぬ事がここまで心地良いとはな」
カミーラの攻撃はその言葉に比例するようにどんどんと激しくなる。
普段のクールなカミーラとは違い、今の彼女は感情を剥き出しにしてランスに攻撃を仕掛けている。
「お前がそこまで感情を見せるとなんか気味が悪いぞ」
以前彼女の使徒であるアベルトが言っていた理想の女性像―――凛として、鋼のように強く、鞭のようにしなやかで、どんな事にも負けない。それでいて艶やかな女性―――それとは違うが、それでも今のカミーラは本当に強い。
自堕落で退廃的な性格だったはずだが、その本来の未来のカミーラはもう存在しない。
自己中心的な所は変わらないが、カミーラは己を鍛えた。
ランスを蹂躙し、自分に跪かせるためだったが、それが何時しか当たり前になった。
そして魔王ククルククルの分身体との戦い、そして魔王アベルとの邂逅がカミーラを完全に目覚めさせた。
「お前は私に屈服する。今私が見ているのはそれだけだ。そしてお前は永遠に私のモノになる」
欲しいものは絶対に手に入れる、それはランスも同じだ。
そしてそれはカミーラも同じ、そんな二人がこうして激しく争うのは最早必然。
「だったらお前をぶっ倒したらお前も俺様のモノになるって事だな!」
「そうだ、それでいい。私が本当に倒したいのは今のお前だ!」
ランスとカミーラは激しくぶつかり合う。
凄まじい速度でランスは重い攻撃をぶつけるが、カミーラはそんなのは意にも介さずにランスに攻撃を仕掛ける。
ランスの周囲を覆うようにドラゴンの影がついて回る。
それを見てカミーラは不快な表情をするどころか、喜々として攻撃をしてくる。
ランスもそれを防いではいるが、普段よりも非常に重く鋭い。
本当に怪我をしているのかと思うくらいにカミーラは絶好調だった。
そんなカミーラに付き合っていては、人間のランスであれば直ぐに体力が尽きるはずだが、今のランスはそれでもカミーラと渡り合っていた。
少なくない傷を負っているが、今のランスは治癒能力も上がっているようで、痛みはそこまで感じない。
それどころか一瞬でも気を抜くとカミーラに倒されるので、ランスは嫌でも集中せざるを得ない。
ただ、肉体は大丈夫でもランスの精神が少し疲弊してきた。
(つ、疲れるぞ…こいつ、何処まで元気なんだ)
体力面では問題は無いが、精神面はそうはいかない。
これまでも多数の魔人と戦ってきたが、ここまで長期戦になった事は無かった。
魔人と1対1で戦うという場面がそもそも無かったから無理も無い。
しいて言えばカミーラ戦がそうだが、今のカミーラはこれまでのカミーラとは全てが違う。
そんなカミーラの気迫にランスは押されつつあった。
(落ち着けランス。カミーラも疲弊が激しい。自分の限界を無視して動いている節がある)
そんな時、ランスの耳元に小さな声が聞こえてくる。
その声の主はケッセルリンクだ。
(私は手は出せないが、こうして助言するくらいは出来る。だから耐えてくれ)
(そうは言うがな…)
ケッセルリンクの助言はただ今は耐えるしかないと言っている。
ただ、彼女の言っている事は正しいのは間違い無かった。
今のランスにはカミーラの猛攻を耐え凌ぐ以外に道は無かった。
事実、カミーラの血は止まっておらず、かなり無茶をしているのは見て取れる。
だからランスは耐えた。
自分の持つ技術を集め、魔人四天王であるカミーラの猛攻を凌いでいた。
「…!」
どれだけの間カミーラの攻撃を防いできたかランスも分からなくなってきた時、とうとうその瞬間は訪れた。
カミーラの攻撃が目に見えて鈍って来た。
その事にカミーラも気づいたのか、喜々としていた顔に苛立ちが混じって来た。
見れば全身が血に塗れており、ランスに貫かれた傷からもかなりの出血が見て取れた。
そしてランスはその好機を見逃さなかった。
「だあああああああ!」
気合を込めてカミーラの攻撃を弾くと、そのまま剣を一閃してカミーラを弾き飛ばす。
足元が頼りないのか、カミーラの体がふらつく。
「超ランスアターーーーーック!!」
ランスはその隙を突き、刀で目の前の空間を一閃する。
同時に剣でその空間を斬りつけると、その空間から凄まじい衝撃波が生じる。
歪んだ空間が元に戻る際に凄まじい力が生じる―――その力をランスはカミーラに飛ばした。
「!!」
カミーラは目に見えぬ衝撃に脅威を感じたようで、自分の体を守るべく翼と腕でその衝撃波を防ごうとする。
が、今の傷つき、無理に体を動かしてきたツケが来たのか、思うように体が動かない。
凄まじい衝撃がカミーラの翼と腕に走る。
魔人であるカミーラの腕をへし折らんばかりの衝撃にカミーラはとうとう吹き飛ばされる。
健在だった翼も一部が捻じ曲がり、しばらくは動かせない程の傷を受ける。
(体が万全ならば…!)
カミーラは内心で舌打ちする。
アベルが残した傷は深く、万全ではないカミーラにはランスの必殺の一撃は重過ぎた。
「こいつで…終わりだ!」
ランスの声と共に、カミーラはその凄まじい力を感じ取る。
天から雷が落ちたと言わんばかりの電撃がランスの剣を覆っていた。
ランスの周囲に漂っていた雷が剣に集まっているのだ。
「…アベル!」
それはまさにアベルのブレスとでも言わんばかりの力を放っていた。
人間でありながら、ドラゴンのブレスを感じさせる力を見て、カミーラはそれでも唇を吊り上げた。
「来い! ランス!」
カミーラは体に溜めていた力を解き放ち、ブレスを放つ。
隙を伺っていたのはカミーラも同じで、いつこの破壊力のあるブレスをランスにぶつけるか隙を伺っていた。
今はその時では無いのは分かってはいるが、ランスの剣を見てカミーラは全力をぶつける事を選んだ。
「ラーンスアタタタタターーーーーック!!!」
そしてランスとカミーラの一撃がぶつかり合う。
ドラゴンのブレスがぶつかり合ったような凄まじい衝撃が周囲を襲う。
カミーラはその衝撃にも負けずに突っ込んで行った。
これで終わる相手ではない、カミーラはそう確信していた。
衝撃が消えると同時に、ランスもカミーラも互いに距離を詰めていた。
考えて居る事は二人は同じで、互いにこれが最後だと確信していた。
先手を仕掛けたのはランスで、刀による凄まじい速度の居合がカミーラを襲う。
カミーラはその一撃を怪我の無い腕で受け止める。
無論大きなダメージはあるが、それは全て承知の上だ。
そしてあえて怪我をしている方の爪でランスの胸を狙う。
カミーラの爪はランスの胸を貫くと思われたが、ランスは咄嗟に体をずらす。
カミーラの爪がランスの肩を貫き、そして爪の一本がランスの胸を刺し貫くが、ランスはお構いなしにカミーラに剣を振るう。
「…ククク、そう来ると思ったぞ」
カミーラは爪を消し去ると、後ろに跳びランスの剣を躱そうとする。
ランスはそれを見て叫ぶ。
「いい加減とっとと倒れろ!」
ランスがそう言い放った問、ランスの体から再びドラゴンの影が現れる。
そして影は再びランスの剣に伸びると、何とランスの剣自体が伸びる。
「!」
そして伸びた剣―――いや、剣のオーラがとうとうカミーラの腹部を貫いた。
そこから凄まじい電撃が放たれ、カミーラの体に大きなダメージを与える。
「…最後まで貴様は…いや、使ったのはお前か…ランス」
そう言って、とうとうカミーラは後ろから倒れる。
それと同時にランスもバランスを崩し、カミーラの直ぐ側にうつ伏せに倒れてしまう。
「あー…しんど…」
カミーラは気を失ったようで、動けていない。
それを見てランスは心底しんどそうな声を出す。
「だが…やったぞ!」
ランスは剣を支えにして何とか立ち上がると、勝ち誇ったように何時ものように笑う。
が、それも一瞬、直ぐにカミーラと同じように後ろに倒れてしまう。
「ランス! 無事か!」
「全然無事じゃ無いぞ。あ、マジでヤバイ…」
ランスもかなりの重症で、カミーラに貫かれた肩、そして最後に胸を傷つけていた箇所を押さえる。
そこからはかなりの血が流れており、このままで命が無いのは明らかだ。
「ようやく終わりましたか。それでは回収しますね」
そこに何処か場違いな呑気な声が響く。
それはランス達に現状を説明したメイドさんで、彼女は驚くべきことにカミーラを右肩に担ぐと、そのままランスも左肩に担ぐ。
それにはランスも驚くが、
「あ、遠慮なく寝ててください。きちんと看病しますから。それもメイドの心得ですので」
その言葉と共に、ランスも意識を手放すしか無かった。
「で、何の用?」
レンは入って来たフリークに対して特に感情も見せずにたずねる。
特に警戒もしていないのは、フリークが単身でやって来たのが分かっているからだ。
フリークは知識は凄いが魔法使いとしては普通とも言えた。
何かしようとも、レンが居れば瞬時に制圧する事が出来る。
「相変わらずじゃな、お主は。一人の老人が話があって来ただけじゃよ」
フリークは苦笑して椅子に座る。
「話と言っても前の続きになるのじゃがな。お主達の今後についての事じゃよ」
「それに関しては私達は参加する気は有りません」
前の話、となれば当然今出来ている組織の話なのは間違いない。
ルーカ・ルーンを中心に一つの組織が出来上がりつつある。
いや、もう既に組織としての形は成り立っているのは間違い無かった。
そしてその組織にジルとレンを誘って来たのはつい最近の事だ。
「…理由くらいは知りたいのじゃがな」
「フリーク…断られたんなら止めなよ」
フリークの言葉にハンティは呆れたように呟く。
事情を知っているハンティとしては二人がその組織に参加しないのは明らかだ。
が、知らない人間からすれば彼女達の力は本当に大きい。
スカウトしない方が嘘だろう。
「儂とて皆の意見は尊重したいのじゃが…儂にも今は目的が出来てしもうた。そのためには嬢ちゃん達の協力もして欲しいとおもってしまったのじゃよ」
「…まあ分からんでもないけどね」
フリークは人間だ。
それならばジル達の事が諦めきれないのも分からないでも無かった。
だが、ジルとレンはその人間達と事情が違う。
ハンティはそれが分かっているが、それを他言する訳にはいかない。
それが例え親友であるフリークであったとしてもだ。
「ジル、お主の目的は我等とは成し遂げられぬものなのか?」
ジルが目指している魔法はフリークも分かる。
その類稀なる魔力…それこそルーンに次ぐ魔力の持ち主の上、その技術はルーンをも上回るかもしれない。
魔法陣の構築とその展開の速さ、それを複数同時に設置し魔力の底上げをする。
そして古代言語を組み合わせた彼女独特の魔法。
同じ炎の矢でも彼女が使えば違ったものになる、それくらいにジルの力は素晴らしいものだった。
「申し訳ありません。前にも言いましたが、私には待っている人がいるんです」
「その待っている者なのじゃが…もう何年もお主に会いに来とらんじゃろう。一体どういう御仁なのじゃ?」
ジルが誰かを待っているのは間違い無いが、それがどういう存在なのかは全く不明だ。
しかもフリーク達は誰もその人物を見た事が無い。
しかももう何年も経過しているにも関わらず、ジルに会いに来た様子が一度も無い。
「どれだけ待とうとも、私はその人のためだけにこの力を使いたいんです。魔法使いのため、人類のため…先生たちが色々と尽力をしているのは分かります。でも、私にはその人が全てなんです」
「全て、か…」
ジルがそう言い切った事にフリークは難しい顔をする。
きっと自分には分からない事なのだろうとフリークは判断する。
何よりもハンティが止めているのだから、相当に重い何かがあるのだろう。
「残念じゃが…儂からはもう言える事は無いの」
だからフリークはあっさりと引き下がった。
これ以上言うのは野暮というものだし、ジルの決意が固いのも分かった。
「じゃが最後にこれだけは聞いてもいいかの?」
「何ですか?」
「ルーンの事はどう思っておる? 一人の男としてじゃ」
フリークの言葉にジルは目を丸くする。
レンはその言葉に意地の悪い笑みを浮かべ、ハンティは手を仰ぎ目を覆う。
「…特に何も」
そして素っ気なく出されたその言葉にフリークはがっくりとうなだれる。
(うーむ…ルーン、これは全くの脈無しじゃな…)
少しくらい何か有るかと思っていたが、ジルには思った以上にどうでもいい存在のようだ。
「そうじゃ。お主のその手…一度も包帯を外している所を見た事は無いが、大丈夫なのか?」
フリークは頭を切り替えると、本当に心配そうにジルを見る。
ジルもそれを察したのか、微笑みながら頷く。
「大丈夫です。でも、これはあまり人に見せたくは無いので…」
「傷が有る、という事では無いのじゃろう? 腕のいい神魔法使いもここには沢山おるしな。まあただ爺が心配しているだけじゃよ。気に障ったらなら許してくれ」
フリークの言葉にジルも「大丈夫です」と言って笑う。
が、真剣な顔になって自分の右腕に触れる。
「ジル」
その様子を見てレンは驚く。
ジルが何をしようとしているか、彼女には分かったのだ。
「先生にはお世話になりました。だから、私も誠意をもってお答えしますね」
そう言ってジルは自分の右腕の包帯を魔法で外す。
その時フリークはジルから感じた異常なまでに禍々しい魔力に思わず立ち上がる。
フリークの額からは冷や汗が流れ、今目の前に居る少女ジルが異質な何か変わったように見える。
「これが私の手です」
そしてジルは包帯を解く。
そこにあったのは、真っ黒い腕だった。
火傷の跡などではない、黒いながらも美しい腕。
だが、それは普通ではない異質な何かだった。
ジルが直ぐに包帯を巻くと、ジルを覆っていた異質さが消える。
「理由はこれです」
「………成程、どうやら嬢ちゃんはとんでもない何かを背負っていたようじゃな」
フリークは全てを察し、ため息をつく。
「では儂も無粋な真似は止めて大人しく去る事にしよう」
そう言ってフリークは部屋を出ていく。
フリークが出ていったのを確認し、ハンティは深刻な顔でジルを見る。
「ジル…どうやら結構な状況みたいだね」
「スラルさんが押さえてくれていますが…私が成長するにつれて、こっちも成長しているみたいなんです」
今のジルは魔王ジルが魔王であるジルと人間であるジルに分けた存在の人間の部分だ。
だが、魔法が不完全だったので、人間のジルにも魔王としてのジルの部分が残ってしまった。
それが今のジルの右腕と右足だ。
同時に魔王であるジルも左腕と左足が異形となっている。
「魔王に乗っ取られる…という事は無いとスラルさんも言っていますけど、魔力だけが暴走しちゃいかねない状態らしくて…」
「難儀だね…ルーンも大きすぎる魔力を押さえているけど、ジルもそれは同じな訳か」
ハンティは難しい顔をするが、今彼女に出来る事は何も無い。
「あ、それよりもバイク。バイクを貸して貰うよ」
「良いけど壊さないでよ。壊したらランスは荒れるわよ」
「大丈夫さ。そんなヘマはしないから」
そう言ってハンティはニヤリと笑うのだった。
カミーラ戦、一応の決着です
今までずっと横槍ばっかでしたが、ようやく最後まで行けた感…
まあそうしないとカミーラが勝ってたし仕方ないんですけどね