ランス再び   作:メケネコ

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決着の後

 魔人カミーラが目を覚ますと、そこにあったのは先程にも見た天井だった。

 何とか体を起こそうとするが、アベルに、そしてランスにつけられた傷が大きく今でも体が痛む。

 それでもカミーラにはドラゴンとしてのプライドが有る。

 痛みを無視して起き上がった時、隣で眠っているランスの姿が目に入る。

「………」

 ランスも明らかに重症のようで、その体には包帯が巻かれている。

 見れば自分も同じような姿だ。

 それにカミーラは不快そうに顔を歪めるが、その時に何者かが部屋へと入って来る。

「目を覚まされましたか、カミーラ様」

 その者はカミーラを見て恭しく頭を下げる。

 カミーラに現状を説明したメイドさんだが、その手にはタオルが握られている。

「…このカミーラをこのような姿にしたのは貴様か」

 低い声でカミーラが言うが、メイドさんはカミーラの目を見てハッキリと頷いて見せた。

「はい。一応回復魔法はかけましたが、お二方共に重症でした。ですのでこのような措置を取らせて頂きました」

 魔人を相手にもハッキリと言い放つ態度にカミーラは思わず毒気を抜かれた。

 女の子モンスターのメイドさんのはずだが、魔人を前にしても堂々とした態度はいい度胸をしているとしか言えない。

 普段のカミーラならば無礼な態度と称して殺していたかもしれないが、今は思うように体が動かない。

 たかだか一女の子モンスター程度にムキになるのもバカらしいと、カミーラは彼女を見逃す事にする。

「カミーラ様は大丈夫そうですね。問題はこの方だったのですが…」

 メイドさんはランスの状態を見ている。

 今は深く眠っているが、カミーラとの戦いが終わった後は酷い状態だった。

 こうして回復魔法をかけて、更には包帯と薬で何とか安定したのだ。

「大丈夫そうですね。流石あの方が薦めてくれた薬です。よく効いています」

 メイドさんはてきぱきとランスの処置をすると、そのまま一礼して去っていった。

 それを見届けてから、カミーラはランスに手を伸ばす。

「今手を出すのは無粋だぞ、カミーラ」

「ケッセルリンクか…」

 聞こえてきた声を無視し、カミーラはランスの頭を撫でる。

「取り敢えずは問題は無いようだな、カミーラ」

「問題は無い…それよりも結果はどうなった」

「最後に立っていたのはランスだ。まあ相打ちと言っても良いがな。とにかく、これ以上の戦いは止めて欲しいものだがな」

「…そうか」

 ケッセルリンクの言葉にカミーラは納得したかのようにため息をつく。

 カミーラには怪我の後遺症があったとはいえ全力だった。

 魔法と飛行を封じてはいたが、ドラゴンとしての力は躊躇う事無く使用した。

 だが、それでもランスを屈服させることは出来なかった。

 その事実にカミーラは笑みを浮かべていた。

「まさか…このカミーラを本当に退けるとはな」

「全力では無かっただろう。もしお前が本気なら、お前は魔法とブレスでランスを圧倒出来ていたからな」

「フン…そんな勝ち方をしてもこの男は私に屈服せぬ。それに、そのような結末は私自身望まぬ」

「お前が納得しているのならそれでいい」

 ケッセルリンクはカミーラの言葉に一応納得する。

 付き合いは長いが、それでもやはりランスの事に関してだけはケッセルリンクはやきもきさせられる。

 今回の戦いもギリギリなんていう生温いものではない。

 どっちが死んでもおかしくないような、まさに決戦というべきものだった。

「それよりも…ランスに何が起きた? お前は理解しているのだろう」

 ケッセルリンクの言葉にカミーラは不愉快そうな顔をする。

 が、ケッセルリンクはカミーラとアベルの関係を知ってしまったし、ランスと戦っていた時の会話も聞いていただろう。

 何の事だか分からないランスと違い、ケッセルリンクならばカミーラの言葉を理解していても不思議ではない。

「アベルは…ランスにドラゴンとしての力を渡した。あいつらしい、最悪な手段なだがな」

「…そんな事が出来るのか?」

「出来るのだろうな…あいつは仮にも魔王だった奴だ。そうでなければ説明がつかぬ」

「ランスに悪影響はあるのか?」

「それは分からぬ。何しろ前例が無い…が、この男ならば問題無いのだろう。あのアベルが言っていた事は只の戯れだと思っていたのだがな…どうやらそういう事では無かったようだ」

「ふむ…どういう事だ?」

 カミーラは忌々しそうに唇を歪める。

「アベルはランスに自分達は相性が良いと言っていただろう」

「ああ。私からすれば馬鹿げていると思うがな。お前を奪って逃げたアベルと、どんな相手でも退けない時は退かないランス。性格的に合う訳が無い」

「相性とはそういう事では無い。言葉通り、力の相性が良いという事だ。だから奴はランスに自分のドラゴンとしての力を渡した」

「…そういう事か」

 カミーラの説明にケッセルリンクは納得する。

 何の事は無い、アベルが一方的にランスに力を渡したという事だ。

 ナイチサがジルにした事に等しい行為にケッセルリンクは呆れてしまう。

「ランスがドラゴンになった訳では無い。ただ、奴はランスに力を渡しただけ。それがあの力を放ったランスだったというだけだ」

「やれやれ…ランスも有る意味災難だな。ククルククルとバスワルドはこの剣に紐付けられているが、アベルはランスと繋がってしまったという事か」

 考え方によってはランスの力が増したと考えられるが、それがどんな影響を及ぼすかそれはまだ分からない。

 不確定要素が増えるのはケッセルリンクとしても好ましい事では無い。

「…カミーラ。お前はランスと直ぐに戦うのか?」

「………」

 ケッセルリンクの問いにカミーラは答えない。

「次に戦えばお前が勝つ。ランスの手の内は知られたのだからな。お前の体が万全ならば、例えあの力を解放したランスでもお前には勝てない」

 今回ランスが勝てたのはカミーラが本調子では無かったからだ。

 アベルによって負わされた傷が癒えていなかったからこそ付け入れただけで、万全の状態ならばカミーラが圧倒的に優位だ。

「…いや、今は良い。久々に満足できた。それに私の傷が癒えるのにも時間がかかる…それに一度魔王の元へと戻る必要もある」

「そうか…」

 カミーラの言葉にケッセルリンクは安堵する。

 とりあえず今の危機は避けられたという事だ。

「さて…私は寝る」

 話は終わったと言わんばかりにカミーラはベッドに横になる。

 そして本当に直ぐに寝息を立てて眠ってしまった。

 それを見てケッセルリンクはため息をつく。

(本当に今はキツイという事か。確かに凄まじい戦いだったからな)

 明らかにカミーラが優位の戦いではあったが、ランスの攻撃はカミーラに大きなダメージを与えた。

 魔人の再生能力が働かなかったのはアベルとの戦いの後遺症だが、それでもランスは己の力を大分使いこなしてきている印象を受けた。

(問題はやはり安定性が無い所か…何しろランスの剣があんな感じだ)

 今もランスの剣の中ではククルククルとバスワルドが所有権を巡り争いを続けている。

 ククルククルが優位だが、何の拍子でバスワルドが所有権を握ってもおかしくは無い。

 その度にランスは戦闘スタイルを変える事になる。

 勿論それに対応できるランスは凄いのだが、それでも何とかしてやりたいとは思う。

(…私も話をするべきか。だが、ククルククルとは意思疎通が困難だからな…そうなるとやはりバスワルドしか無いか)

 魔王と破壊神の戦いの前にはケッセルリンクなど無力に等しい。

 しかし、ランスの役に立ちたいと決めている以上はそうもいかない。

 ケッセルリンクもまた、今の己の戦いをするべく意識を剣の中に向けるのだった。

 

 

 

「む…ここは何処だ」

 眠っていたランスはようやく目を覚ます。

 一体どれだけの間眠っていたのか分からないが、結構長く寝ていたのは間違いない。

「あだだだ…おのれカミーラ。滅茶苦茶やりおって」

 まだ痛む体をさすりながらランスは毒づく。

 流石のランスも起き上がるのは怠く、素直にそのまま寝ている事にする。

 が、隣に気配を感じ、その方向を見てみると魔人カミーラがランスの横で眠っていた。

「うお!? ってこいつも寝てるのか…」

 カミーラが隣に居た事にランスは驚くが、今も目を覚まさないのを見て安心する。

「カミーラを倒したか。うむ、流石俺様だな」

 こうしてランスが人間であるという事は、勝ったのは自分だったと納得する。

 これまでの戦いの中でも1、2を争う程の激戦だった。

 リーザスでノスやジルと戦った時もここまで疲れはしなかった。

「うーむ…しかし、カミーラが寝てる所を見るのは初めてだな」

 カミーラの寝顔を見るが、その顔は確かに美しい。

 が、ランス同様にその体には多くの包帯が巻かれている。

 それを見るとカミーラもかなりの重傷を負っているのは間違いない。

「………むふ」

 ランスはそんなカミーラに手を伸ばし―――その手をカミーラに掴まれた。

「あだだだだだ!」

「…何のつもりだ」

「起きてたなら言え! というか離せ!」

 ランスの言葉にカミーラは意外にもあっさりとランスの手を離した。

「フン、このカミーラの寝込みを襲おうなどと、無礼にも程が有るな。普通なら殺している」

「別に襲おうなんて思っとらんわ。ちょっと触ろうとしただけだ」

「それでもだ。今のお前を殺すなど造作も無い事だ」

「何だ。まだやる気か」

「当然だ。お前を使徒にする事を諦めた事は無い。どんな邪魔が入ろうともな」

 カミーラは静かに、だがその言葉の奥にある炎は決して消える事は無い。

 ランスはそれを知って呆れたようにため息をつく。

「俺様が勝っただろうが。いい加減諦めろ」

「ならば貴様は一度の障害で諦めるのか。そういう男ではあるまい。欲しいものはどんな手段でも手に入れる、それは私も同じだ」

 それを言われればランスも黙るしかない。

 カミーラの言う通り、ランスは欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れてきた。

 取り返すものは絶対に取り返していた。

 カミーラの言っている事も同じで、ランスを手に入れるためなら諦めるつもりは無いと言っているのだ。

「だが…そうだな。私は非常に機嫌が良い。だから一度だけ言ってやろう、ランス」

「何をだ」

「見事だ。このカミーラが退けた事…褒めてやる」

 カミーラの言葉にランスは目を丸くする。

 まさかプライドの塊のような魔人であるカミーラがそんな事を言うとは思っても居なかった。

 しかもその言葉には全く棘が無く、純粋にランスを褒めているように感じられた。

「…お前、何か悪いもんでも食ったか?」

「………」

 ランスの言葉にカミーラは体を起こすと、ランスの体にのしかかって来た。

「あだだだだだ! 今は止めろ!」

「このカミーラへの無礼は許さぬ」

 ランスは痛がるが、カミーラはそんなのを無視してランスの顔に触れる。

「フム…やはり僅かに影響は出ているか。アベルの奴…」

「あ、そうだ。アベルってあのドラゴンだろ。あいつが俺様に何かしたんだろ。まあ便利だから使ってやるが」

「そうだ。アベルはお前にドラゴンとしての力を渡した。だが、お前がドラゴンになった訳では無い。あくまでも力だけを渡した。忌々しい事だ…このカミーラの記憶に残るために、このような手段を取るとはな」

「何だ。お前、今でもあいつの事引きずってんのか」

 ランスはカミーラに対して呆れたように呟く。

「ガラじゃ無いから一度しか言わんぞ。もう忘れろ」

「………」

「最後にチラッと見えたが、お前アイツをぶん殴ってただろ。それでもう終わりでいいだろ」

「…簡単に言ってくれる。奴が私にした事を思えば…八つ裂きにしてもまだ足りん」

「もう会う事も無い奴だ。そんな奴の事を何時までも考えていても下らんだろうが」

「人間であるお前には分からぬだろうな…私が受けた屈辱が」

 カミーラは今でも脳裏に焼き付いている。

 ドラゴンが自分にした仕打ちを。

 その原因の一端となった魔王アベルの事を。

「どうにもならん事を今更考えても意味無いだろうが」

「………フン、人間にここまで言われるとは、このカミーラも堕ちたものだ」

 そう言いがらもカミーラはランスの体から離れる。

 そしてランスの隣で寝転がる。

「ランス、貴様は忘れたい過去は無いのか」

「特に無いな。過去は所詮過去だからな。昔の事など今の俺様には関係無いからな」

「…単純な男だ。ある意味羨ましいな」

「お前が拘り過ぎてるだけだろ。魔人ってのは何時までも過去の事を引きずるもんなのか」

「さあな…だが、引きずる奴は引きずるのだろう。私も例外ではなかっただけだ…」

 カミーラは小さく呟く。

 魔人となった事でドラゴンから無価値とされたカミーラだったが、新たな時代になった時にはもう好きにしようと思った。

 だが、アベルと再び出会った事で過去がカミーラに手を伸ばした。

 そして今も拘っている自分が居て、気分が悪いのは事実だ。

「お前はそのアベルの関わった。お前を見るとアベルを思い出す。厄介な事だ」

「そんなのは知らん。貰える物は貰ってやるだけだ。ま、お前も一々下らん事を引きずるのは止めるんだな。そんなの思い出しても楽しく無いだろ」

「何も知らぬ奴の言葉だ。だが、お前の言う事も分からなくも無いが、まあいい。今は気分が良い…貴様の無礼を許そう」

 そう言ってカミーラは再び寝息を立てる。

 あっという間に眠りについたカミーラにランスは呆れながらも、自身も体力を回復させるために眠りについた。

 

 

 

 そしてランスが寝込んだ次の日―――ランスは既に体を動かしていた。

「うーむ…治ったぞ」

 自分の手を動かし、体が全快になっているのを実感する。

 あれ程の傷を負ったのだから、そんな直ぐに治るのはおかしくはある。

「お前達を運んだメイドがお前達の傷口に何やら薬を塗っていたが…確かに治るのが早いな。彼女は簡単な回復魔法しか使っていなかった」

 ケッセルリンクもランスの傷があまりにも早く治った事に驚いている。

 彼女の見立てからしても、ランスの傷はもう少しかかるものだと思っていた。

「お前にはスラル様が授けた血があるが、それでも魔人のような再生能力が有る訳では無い。勿論並の人間よりも遥かに高いだろうが…それでも早すぎるとは思うぞ」

「治ったなら別に構わん。無駄に寝てる時間も惜しいからな」

「…確かにな」

 ケッセルリンクにはランスの言う事が分かる。

 この世界の戻って来たのだから、スラル、ジル、レン達の行方が気になっているのだろう。

 しかも今は魔王が人間を解放した時代、どんな事になっているのかケッセルリンクも想像もつかなかった。

「大丈夫ですか?」

 ランスが体を動かしていると、ランス達を介抱したメイドさんが入って来る。

「うむ、問題無いぞ」

「では失礼しますね」

 メイドさんはそう言うと、手際よくランスに服を着せていく。

 血塗れだったランスの服も完全に元の状態に戻っていた。

「うむ、ご苦労」

「とんでもございません。それよりも、カミーラ様が外でランス様をお待ちになっています」

「…あいつ、まだやる気か?」

 ランスは少々うんざりした様子で呟く。

 流石にもう一度カミーラと戦えと言われたら正直避けたい。

 今回カミーラを倒せたのはカミーラがまだ完全に傷が癒えていなかった事、そしてランスの体に宿った新しい力があったからだ。

「そんな事は無いと思うぞ。カミーラとてまだ完治していないはずだ」

「まあ…何処からか声が」

 ケッセルリンク声がランスの剣から聞こえてきた事にメイドさんは首を傾げる。

「まあいい。待たせると面倒ま事になるからな。とっとと行くか」

 ランスは剣を持つとカミーラが待っているであろう外へと向かう。

 カミーラはランスと戦っていた時と同様に、空を見上げていた。

「なんだカミーラ。もう一度お前と戦うのはもうやらんぞ」

 ランスの言葉にカミーラは視線をランスに向ける。

「いや…いい。今はお前と戦おうとは思っていない。それなりに…満足した」

 カミーラはそう言うとランスに向かって歩みよる。

 そしてランスの体に触れる。

「…フム、あの時の力は感じぬか」

 今のランスからはアベルの力は感じられない。

 だが、あの時の一度だけで終わるともカミーラは思えない。

「ああ、あの時のか。そういやありゃ何だったんだ」

 ランスとしても不思議な感覚だったが、とにかくあの力無くしてカミーラには勝てなかった。

 そして便利な力であり、ランスとしてもまた使ってやってもいいと思っていた。

「常時お前の力になっている訳では無いという事か。いや、お前は人間…それも無理は無いか」

 カミーラは一人納得したようにランスの手を離す。

「ランス、貴様はあの力を再び使いたいと思うか」

「あん? まあそりゃ使えるなら俺は何でも使うぞ」

「…ふむ」

 ランスの言葉にカミーラは思案する。

 そしてランスから一度距離を取ると、ドラゴンとしての力を解放する。

「む!? カミーラお前…」

 ランスがそう言った時、ランスの体から黒い電が出てくる。

「あ、また出てきたぞ」

「やはりか…お前の力はこのカミーラのドラゴンの力に反応した」

 カミーラはそう言って力を消す。

 するとランスからも黒い雷が消える。

「ランス、お前が望むならば教えてやろう。この力の使い方をな」

「は?」

「このカミーラが直々に教えてやると言っている。ドラゴンの力をな」

「どういう風の吹き回しだ。お前、ドラゴンそのものを嫌ってただろうが」

 ランスの疑問は当然だ。

 正直カミーラ自身、自分の口から出た言葉に驚いているのだ。

 極自然に、当たり前のようにその言葉が出てきたのだから。

「…戯れだ。それに貴様がその力を得る事で、私の楽しみが増える」

「お前、まだ諦めておらんのか。俺様が勝っただろうが」

「負けたつもりは無い。お前はこのカミーラに止めを刺さずに気を失った。そして私が早く目覚めた。そういう事だ」

「屁理屈を言いおって。お前、そういう奴だったか?」

「知らんな。だが、お前にとっても悪い話では無いはずだ。その力の使い方を教えられるのはこの世界に私しかいない」

「む…」

 ランスはカミーラの言葉に若干迷う。

 カミーラの言っている事は間違いでは無く、ランスもあの力をどうやって振るえるようになるのか全く見当もつかない。

 使えれば後々の戦いの役に立つのは間違いない。

 普段ならば面倒くさいという所だが、ランスとしてはカミーラから歩み寄って来た事実に思う所もある。

 何しろあの無気力でランスへの復讐すらも諦めた魔人が、今やランスを使徒にしようと何度も戦いを挑んできているのだ。

 それなのにカミーラはランスに力の使い方を教えるという。

 美人の言葉は基本的に断らないのがランスだ。

 それにカミーラからは全く敵意が感じられないのならば、その案に乗るのも面白いと思った。

「良いだろう。教わってやる」

「偉そうに良く言う…が、許そう」

 カミーラはランスに手を伸ばす。

 そして殺気をランスに向けると、ランスの体は自動的に反応して剣を抜く。

 すると同時に再びランスから黒い稲光が放たれる。

「フム…私の気配に反応するか。アベルめ…」

「冗談でもそういうのは止めろ。勝手に体が動くぞ」

「そうしなければその力の発動すらままならぬだろう。ならばまずは慣れる事だ。その状態にな」

 カミーラはそう言ってランスから距離を取る。

 ランスは自分の体から放たれる力を感じながら難しい顔をする。

「うーむ、お前と戦っていた時の感じとは何か違うな。ぶっちゃけ言うとあの時より弱い」

「それはお前が力を使い果たしたからだろう。魔法とて魔力が尽きれば使う事は出来なくなる。それと同じだ」

「ふーん。俺様は魔法を使えんから分からんな」

 魔力が無くなれば魔法は使えなくなる、それはランスも分かる。

 シィルや志津香も魔力が尽きれば魔法は使えないし、それを補うためにもGI、LPの時代には色々なアイテムがあった。

 冒険者が愛用しているハピネス製薬の薬が良い例だろう。

「で、これは魔力では無いんだろ」

「…私はお前では無いから断言は出来ぬ。だが、似たようなものだと思っていい」

 カミーラはランスから放たれる力が弱いのはハッキリと感じ取っている。

 ただ、これをどう使うか…流石にそこまではカミーラも分からない。

「あ、駄目だな」

 ランスがそう言うと、ランスから稲光が消える。

「うーむ、急に力が無くなったような感じだな。しかも今日はもう無理な感じがするぞ」

 自分の体に触れながらランスが呻く。

「直ぐに使える力では無いという事だろう。が、お前とて感覚位は掴めたはずだ」

 カミーラの言葉にランスは憮然とする。

「お前が殺気を向けまくって来たからだろうが。お前、実はどうやって教えるか全く考えて無かっただろ」

「………この方が早い」

「嘘をつくな! お前、今絶対適当な理由を言っただろ!」

「下らんな…」

 カミーラはランスに背を向ける。

「あ、そうだ。俺様が勝ったんだからやらせろ。勝者としての当然の権利だ」

「フッ…先程も言ったが、お前に負けたつもりは無い」

 ランスの言葉にカミーラは不敵に笑う。

「が、今私は機嫌が良い。貴様に寵愛を与えるのも悪くない」

 そんなカミーラに対し、ランスは変な顔をする。

「…やっぱお前悪いもんでも食べたか?」

「………」

 カミーラは無言でランスの頭をどつくのだった。

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