ランス再び   作:メケネコ

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魔教団の始動

「いやー! 凄いね! 他の皆から聞いてた以上に爽快だね!」

「がはははは! これくらい軽い軽い!」

 ランスは山中だというのに見事にバイクを走らせていた。

 ハンティはランスの背中で珍しく興奮気味だ。

「あの子達が興奮するのも分かるよ! 確かに面白いね!」

 ランスの腕前はまさに見事というほかなく、荒れ地だというのに全くバランスを崩さない。

 それもランスの持つ技能なのだが、それが花咲く事は本来は無かったはずだった。

「瞬間移動とは比べ物にならないくらい楽しいね! 魔人ってのはこういうのも作れるんだから凄いもんだね!」

 普通ならば時間がかかる山込もこのバイクを使えばあっという間だ。

 幸いにも雪の降らない季節だったので、特に障害にぶつかることなくランスはバイクを走らせる。

 そしてしばらく進んで行くと、荒れていた地から整備された道に出る。

 そこで人間達とすれ違うが、誰もが口をぽかんと開けてランスが通り過ぎた後を見るだけだ。

「で、スラルちゃん達は何処に居る!」

「このまま真っ直ぐ行っていいよ! ま、これを見て邪魔する奴も居ないでしょ!」

「もう魔物共は本当にいないんだな!」

「そういう事! 今は人間の時代! コソコソ隠れる生活は終わったって事さ」

 そう、今は人類が自由の時代。

 少なくとも魔人と魔軍の脅威は去っている。

 野良モンスターまでは魔王もどうしようとも思っていないが、所詮は野良モンスターだ。

 統率は取れないし、モンスター同士での争いも珍しくない。

 それが人間の脅威となる事は無い。

「ま、それはそれで別の問題も起きてるんだけどね!」

「別の問題? なんだそりゃ!」

「アンタだって経験した事あるだろ! 人間同士の争いだよ!」

「ああ、そういやそうだな」

 ハンティの言葉にランスは納得する。

 そもそもランスがリーザスの将軍達に名が知れ渡ったのも元々はヘルマンによるリーザス侵攻だ。

 ランスは総大将としてヘルマンと戦い、当時人類最強と呼ばれた男であるトーマ・リプトンを倒した。

 そして魔人アイゼル、魔人ノスを倒したのだ。

 リーザスの王であるリアはランスの活躍を隠蔽し、ライバルが増えないようにしたのだが、結果としてランスは三大国の姫それぞれとエッチしている結果となっている。

 更にランスはJAPANで藤原石丸と戦っている。

 その事はケッセルリンクからハンティに伝えられてもおかしくは無い。

「で、何かあったのか?」

「これから有るかもしれないって事さ! ま、スラル達はそれに巻き込まれないように動くだろうし、私もそんな事に巻き込みたくは無いからね!」

「そうか」

「あ、そうだ! アンタ言葉には注意しなさいよ! 特にジルを奴隷とか外では言わない方が良いよ!」

「あん?」

 ランスはハンティの言葉に少し考え込む。

 まあジルはランスの奴隷なのは間違い無いから、別にそれを隠す必要は無いのだ。

 そしてもう一つ、今はGI期という事が少し引っかかった。

(…今GI期という事は俺様が生まれた時代か。何かあったような気がしたが…)

 ランスという男は勉学には興味が無い。

 だからこの世界に起きた人類軍と魔軍の戦争なんて覚えても居ない。

 だが、その時は確実に近づいているのだった。

 

 

 

 魔教団―――

「鉄兵の調子は良いようじゃな」

 フリークは目の前にある鉄兵を見て頷く。

「ええ。これならば人間同士の戦いならば負けは無いでしょう」

 ルーンも鉄兵を前に満足気に頷く。

 ようやく鉄兵も完璧なものに近づき、魔教団も本格的に動けそうだ。

「ただ、量産にはまだ少し時間がかかるかもしれません」

「うむ…まあそれは仕方ないじゃろ。万が一の事も起きてはいかんしな」

「そうですね。もっと数が欲しい所です」

「…戦争になるのじゃな」

「ええ、決めた事です…血が流れるのは覚悟の上、それでも私達が立ち上がらなければ、この世界の魔法使い達は救われないでしょう」

 魔法使い差別…ランスの世代からは信じられない事だが、それは今の時期に起こっていた事だ。

 それ故にルーンはこの世界から魔法使い達を解放すべく、魔教団を作った。

 まだ100人にも満たない組織だが、この世界の魔法使いのトップクラスの者達が集まっている。

 ここに居るのは何れもルーンの同志と言ってもいい。

「話し合いは無理なのは分かっておるが…辛い事じゃぞ」

「それでもやるしか無いでしょう。この時代を変えるためにも。それに私達の目的は人では無くその上の存在…魔人と魔王。これらが取り除かれない限り、真の平和は訪れません」

「魔人と魔王、か」

 ルーンの目的は人類の平定では無く、その上の存在である魔人や魔王だ。

 鉄兵も魔軍を見越して作ったモノではあるが、それでも同じ人類に対してそれを向けなければならない。

 それ程までに魔法使いは追い詰められていた。

「そのためにもジルさん達にも協力して欲しかったのですけど…」

「ルーン、前にも言ったじゃろ。彼女達は諦めろ。彼女達にはやる事があるからの」

 ジルの名前が出た事でフリークは難しい顔をする。

 ハンティの立ち合いを得て彼女達と話し合ったが、結局は協力は得られなかった。

(何よりも…嬢ちゃん達は危険すぎる…)

 フリークはジルの危うさ、そしてレンの恐ろしさが良く分かる。

 ルーン達はまだ人生経験が浅いので見抜けてないだろうが、レンは特に危険過ぎた。

(儂等と戦う事になっても躊躇う事無く殺しにかかるじゃろうな…)

 レンはこちらを全く見ていない。

 興味も持たず、話しかけてくるような事も無い。

 それ故に、敵となれば恐ろしい存在となるのは間違いない。

 彼女達に絶対服従魔法をかけるという話もあったが、そんなのは正に論外、絶対にやってはいけない事だ。

「触らぬ神に祟りなしじゃ。彼女達は放っておけ。それがお前のためじゃ」

「先生…」

 フリークの言葉にルーンは悲し気な顔をする。

「ルーン、これは師ではなく、友としての言葉じゃ。あの二人に深く関わらぬ事じゃ」

「………」

 その言葉にルーンは沈黙する。

 フリークの表情はそれだけ重いものなのが分かったからだ。

「心配せずとも二人はお前の敵にはならぬだろうよ…こちらから手を出さぬ限りは」

「…そうですか」

 フリークの言葉にルーンは目に見えて落ち込む。

 ルーンの想いは分かるが、それでも相手が悪すぎる。

 ルーンが落ち込んでいた時、突如として人が飛び込んでくる。

「ルーン! 敵だ!」

「数は!?」

「そんなに多くは無い…が、それでも私達魔法使いだけでは…」

 魔法使いは基本的に脆い。

 だからこそ、その魔法使いの盾になるためのガードという存在が居る。

 だが、今の時代は魔法使いは蔑まれる存在、魔法使いを守るガードなど存在しない。

「…丁度いい。鉄兵を起動します」

「ルーン! いいのか?」

「皆を守るためです。それに…ここで力を示せば、多くの同志を得る事が出来ます」

「…そうか。お前がそう決めたのならば、そうするがいい」

 ルーンは既に覚悟を決めている。

 魔法使いの地位向上のため、そして世界を一つに纏める為。

 それは果てしない苦難の道のりだが、それでもルーンは決めたのだ。

 だからこそフリークもルーンを止めない。

 これ程の才能の持ち主なのだから、世界を纏める器量もあるとフリークは思っていた。

「出ます!」

 ルーンが魔法を唱えると、鉄兵が動き出す。

 今、世界の動かす存在が動き始めた。

 

 

 

 戦場―――いや、これは戦いとも言えないだろう。

 何しろ圧倒的な数で相手を蹂躙するのが目的なのだから。

 魔教団は成立したが、その数はまだ100程度しかない。

 そう思った近隣の国はこの地を制圧すべく部隊を送り込んだ。

 別にそれはおかしな事では無いし、ある意味当然の事とも言えた。

 魔王から解放された人類が、人類同士の戦いになるのはある意味当然の事だ。

 だから今回もあっさりと終わる―――誰もがそう思った。

 しかし現実は違った。

「な、何だこいつは!?」

「ぶ、武器が効かない!」

「ど、どうすればこのバケモノを倒せるんだ!?」

 そこに居たのはたった2体の鉄の人形。

 だが、それだけでも500を超える部隊を退けるのには十分すぎた。

「おお…圧倒的じゃ無いか」

 セルジオはその光景を見て目を見開く。

 鉄兵が強いのは分かっていた。

 だが、まだ実践には至って無かったので少々の心配はあったのは事実だ。

 しかし、それは良い意味で裏切られた。

 圧倒的な力で500もの相手をあっさりと退けたのだ。

「この鉄兵が量産の暁には、魔軍ですらも…」

 ダムドもそれを見て強く頷く。

 自分達が信じた男はやはり凄い男だったのだ。

「問題なのは相手の背後に居る連中ね。多分バルシン王国辺りだとは思うけど」

 ルシラはこの戦いの結果には特に興味を示さず、その背後に居る者達の事を考える。

 現在の人類の世界で最も力が有るのがバルシン王国だ。

 その周囲の地域を吸収し、どんどんと領土を拡大している軍事国家だ。

 魔法使いは例外なく奴隷のように扱っている、魔教団にとっては避けられぬ相手になるのは間違い無かった。

 そしてその戦いを別の方向から見ている者も居た。

「凄まじいな…成程、あれほどの物を作れるのならばこのような組織を作るのも納得が出来るな」

 その女性はジル―――いや、スラルだ。

「そんなに凄い?」

「ああ。アレを作れるという事がな。何しろ材料さえあれば作れるのだ。一番重要なコストを無視出来るのはやはり大きい」

「一番重要なコスト?」

 不思議そうに聞いてくるレンにスラルは苦笑する。

「まあお前には関係無い事だからな。コストというのは時間さ」

「…時間?」

「人間というのは不便な生き物だ。脆弱で脆く、すぐ死ぬ…そして成長にも時間がかかる。その際にかかる時間を無くした上に、並の兵士よりも遥かに強い。これが兵士になるのならば人間というコストが不要になる」

「そんなもんなんだ…でも魔物は?」

「魔物はどんな魔物だろうが、魔物スーツを着て魔物隊長、魔物将軍が居れば軍隊になるからな。まあ逆に言えば魔物スーツと魔物将軍が居なければ烏合の衆になるし、魔物特有の個性も失われるがな」

 元魔王であるスラルは当然魔軍の欠点は分かっている。

 が、そもそも魔王には軍など必要無い。

 魔王が1人いればそれだけでこの世界の全ての生命体を絶滅できるのだ。

 ただ、魔王とも渡り合える存在が例外にこの世界に存在するだけだ。

「人間というのはやはり面白い。長い時間の中に色々な存在が現れる。かつて世界の半分を制圧した藤原石丸、魔人になってもジルに反抗したガイ、そしてルーカ・ルーン」

 スラルは感心したようにその名を呟く。

「やはり傑物というのはどんな時代にも現れるものだな」

「それはそうとハンティから連絡あったけど、ランスと合流した後はどうするの?」

「我はランスについて行く。それは変わらない…まあ少々惜しいがな。もう少し時間が有れば奴等の技術も有る程度は理解は出来たかもしれんが…」

 ジルもそうだが、スラルもなるべく現代の人類とは距離を取っていた。

 今は人間が解放された時代、なるべくならば干渉はしたくはない。

 ランスが決めたのならば別だが、そのランスが居ない今は適度な距離が必要だった。

 だが、その時間ももう終わりが近づいて来ていた。

「ランス様もそろそろこちらに来るんですよね?」

「まあそうね。ハンティからも連絡あったし。バイクがあるなら時間はかからないでしょ」

 スラルからジルに切り替わる。

 二人の意識があるので、突然切り替わるのはやはり困惑する。

「最後に挨拶くらいはしていきます」

 ジルはそう言って着替え始める。

「律儀ね。あ、でも人間ってそういうものか」

 レンもジルに倣って準備を始める。

 尤も、神であるレンには特に着替えの必要は無い。

 ただ、冒険に行く準備は必要だ。

「魔法ハウスも有るし、お帰り盆栽もある。まあこれがあれば何処ででも大丈夫かな」

「レンさん…ちょっとアバウトじゃ無いですか? 冒険って結構な準備が必要なんですけど…」

「そう? まあ…今まで他の奴に任せてたか、そう言えば」

 これまで冒険の準備をしていたのは大まおーやシャロン、エルシールと言ったメイド達だ。

 彼女達は手際もよく、レンもそういう事は彼女達に任せっきりだった。

「…カラーの里に行かなきゃダメか。ま、ランスも最初にカラーの所に行くか」

「色々と準備も必要ですし。何よりランス様は今の世界の有り方を実感して無いでしょうし」

「それに関しては心配いらないと思うけどね。ま、それも含めてランスに任せるか」

 二人は準備をすると、自分達が住んでいた場所を後にする。

 そこにはもう何も残されてはいなかった。

 

 

 

 魔教団は歓喜に湧いていた。

 自分達の作った鉄兵はたったの1体で相手の部隊を壊滅させたからだ。

 しかも鉄兵には傷が全くついておらず無傷。

 その兵士が無休で戦えるのだから、この存在がどれ程の力を持っているか思い知らされたのだ。

 沸き上がる歓声の中、ルーンは二人の女性の姿を見つける。

「ジルさん、レンさん!」

 ルーンがその二人の名前を呼んだ事で歓声は止む。

 魔教団―――魔法学院の中で二人の名前を知らない者は居ない。

 1人は魔法使いとは思えない程の肉体的の強さ、そして無関心さで。

 そしてもう一人はルーンに匹敵する魔力を持つ女性として。

「見てらしたんですね」

「ええ」

「…今一度言います。私達に力を貸してくれませんか」

「ルーン…」

 ルーンの言葉にフリークは難しい顔をする。

(あれ程忠告したのだが…いや、それだけ彼女に対して本気という事か。魔法使いとしても、女性としても…)

 だが、フリークは分かっている。

 ジルが何というかを。

「お断りします」

 フリークの予想通り、ジルはハッキリと口にする。

 その言葉に周囲の空気が変わる。

 同じ魔法使いであり、魔法学院に在籍して居ながらも、ルーンの言葉をハッキリと拒否するのは信じられない事だった。

 ましてやこれから新たな世界を作るというのに、ジル程の魔法使いがそれを断るのが理解出来無いのだ。

「…何故ですか」

「前にも言った通り、私には待っている人が居ます。それに…私はあなた達の理念には賛同できません」

「賛同が出来ない、か。それは気になるな」

 同性であり、ジルともそこそこ親しかったルシアが眉を顰める。

「お前は確かに人との関わり合いを避けてきた…が、それでもお前には強い意思を感じられた。だからこそ、私もお前と同志になれると思っていた。そう思っていたが、お前がそこまで我々の理念に賛同できないと言う…それは何故だ?」

「…きっと同じ事が繰り返されるから」

「それは…」

 ジルはルーンの目を見る。

 そのジルの目はルーンから見ると酷く濁っているように見えた。

 底の無い沼に引き込まれるような嫌な感じがし、思わず目を逸らしたくなる…そんな目だ。

「あなた達は本当の人の悪意を知らない。人は嫉妬と悪意で簡単に人を殺せる」

「ジル…」

 これまでのジルとは全く違う様子に、比較的に親しかったはずのルシアも思わず背筋が凍る。

 それだけジルの目は暗く、冷たいものだった。

「それが…あなたが私達に協力できない理由ですか?」

 ルーンの言葉にジルは首を振る。

「別に…私の一番の理由は、私には待っている人が居る。それだけ」

 ジルはそう言ってルーン達に背を向ける。

「ジルさん!」

「今までお世話になりました」

 そう短く行って、ジルは歩き出す。

 そのジルの前にセルジオ・コンポが現れる。

「ルーン、いい加減覚悟を決めろ。このままこの二人を行かせて良いのか?」

「セルジオ…」

 セルジオが何を言っているか分からないルーンではない。

 絶対服従魔法、それをこの二人にかけて戦力にしようと言っているのだ。

 ルーンはそんな事はしたく無いので、その案は却下したのだが、このままでは二人は何処かへと行ってしまうだろう。

「何よ。邪魔する気?」

 レンの目が細くなる。

 それだけで周囲の気温が下がったと思うくらいに低く、冷たい言葉だった。

「…これからの世界のためにはお前達が必要なんだ。誰もがそう思っている」

「興味無いわね。私達は私達の意思で行動する。邪魔をするなら潰すだけ」

 レンの手が剣に伸びる。

 ルーンはそれを察知し、鉄兵を動かす。

「レンさん、止めて下さい」

「止めるのはそっち。邪魔をしないなら私も何もしない」

 鉄兵が動くがレンは気にもとめない。

 レンからすれば、鉄兵が居ようが関係無い。

 まさに一触即発―――誰もが息を呑んでいると、何かがとてつもないスピードでこちらに向かってくる。

「な、何だアレは?」

 誰かが言葉を発するが、それが何なのかは誰も分からない―――二人を除いて。

「アレは…」

「ようやく来たわね」

 それは猛烈な速度で近づいてくる。

「な、何だ!?」

「邪魔だ! どけ!」

「うぎゃああああ!」

 そして突如としてやってきた巨大な何かはセルジオを跳ね飛ばす。

「ちょ、ちょっと! アンタ何してんのよ!?」

「がははははは! 俺様のバイクの道を塞いだバカが悪い!」

 その男は忽然と現れた。

「レン! ジル! スラルちゃん! 俺が居ない内に他の男に靡いたりしてないだろうな!」

「ランス!」

「ランス様!」

 ランスと呼ばれた男は何処までも偉そうに馬鹿笑いをしていた。

 

 

 

 魔物領―――魔王ガイが人類を解放してから、大陸の西側は魔物領と呼ばれていた。

 ただ、今はまだヘルマン、そしてゼスが存在しなく、それぞれの境界を守っていた砦も無いので魔物達は行こうと思えばいくらでも人間の所に行ける。

 魔人レイも人間と特に諍いを起こす訳でも無く、たまに酒を飲みに行ったり食事を取ったりと割と好きに行動している。

 その魔物領に激震が走っていた。

 理由は単純、約200年も行方不明だった魔人四天王が突如として帰還となれば誰もが驚くだろう。

 魔王城を歩くカミーラは声をかける事も出来ないくらいの気迫を備えていた。

 カミーラは無言のまま魔王の城の扉を開ける。

 そこに居たのは魔王ガイ―――この世界の支配者だ。

「戻ったか…カミーラ」

「…ガイ」

 カミーラはガイを睨む。

「時間がかかったようだな…いや、私の時とは違うという事か」

「お前の事はどうでもいい…それよりもアレは偶然か。いや、違うな…何故私を巻き込んだ」

 その言葉にもガイは顔色一つ変えない。

「答える必要があるか」

「………」

 そう言われれば魔人であるカミーラは何も言えない。

「まあいい…お前の思惑はどうあれ、有意義な時間だった」

 カミーラはそうとだけ言うと、ガイに背を向けて去っていく。

 カミーラが消えた後、魔人バークスハムが姿を見せる。

「戻ってきましたか…カミーラ」

「ああ…お前の言う通りにな」

 ガイはバークスハムを見る。

「どれ程の意味があるかは分からぬがな…」

「それが分かるのはもっとずっと先でしょう…ですが、これが世界を動かす大きな一手になる…私はそう思っています」

「フッ…何処まで見えた? バークスハム」

「さあ…それは私にも分かりません。これが吉と出るか凶と出るか…未来は誰にも分かりません」

 

 

 

「カミーラ様!」

「カミーラ様! やっと…やっと戻られたと…うわーん!」

 カミーラは己の城へと戻って来た。

 かつて自分が使っていた城は既に放棄され、この地に新たな城が出来たのは分かっていた。

 七星がその辺りをぬかるはずが無い。

 その予想通り、七星は新たな地に城を築いていた。

「カミーラ様…その傷は…」

「そんな…あのお美しいカミーラ様にこんな傷が…」

 カミーラは己のために作られた椅子へと座る。

 その姿を見た七星とラインコックは驚愕する。

 こうして改めてその姿を見ると、カミーラの体には細かな傷がある。

「問題無い…少々傷が開いただけだ」

「し、しかしカミーラ様がこれほど傷をつけられるなど…ランス殿との戦いでもこうはならぬでしょう」

 カミーラは魔人なので強力な再生能力が備わっている。

 だが、その再生能力があるにも関わらず、今は傷口から薄らと血が流れている。

「構わぬ…それに再生には時間がかかる。こればかりはどうしようもない」

「も、もしやノスと…? いえ、そんな事はあり得ない…」

 同じドラゴンである七星にはカミーラの言っている事が分かる。

 傷口の再生に時間がかかるという事は、同じ種族であるドラゴンによってつけられたからに他ならない。

 そして魔人であるカミーラにこれ程の傷をつけらるのであれば、同じドラゴンの魔人であるノス以外にありえない。

 が、もしカミーラとノスがぶつかればその余波で凄まじい傷跡を大地に残すはずだ。

 そのぶつかりが確認されていない以上、それはありえない。

「…ラインコック、下がれ」

「え…?」

「下がれ」

「は、はい…」

 主の言葉にラインコックは驚きながらも素直に下がる。

 残されたのは同じドラゴンである七星だけだ。

「アベルと戦った」

「は…?」

「アベルだ。魔王アベル…このカミーラを魔人にした忌まわしき魔王だ」

「な…そんな事が!? し、しかしアベルはマギーホアとの戦いで…」

「死んでいなかったという事だ。そしてガイはこのカミーラをアベルの元へと送った…それが意図していたかどうかは知らぬがな」

 カミーラの言葉に七星は絶句する。

 そんな嘘を言う存在では無いし、その体の傷がアベルによってつけられたのであれば確かに納得は行く。

 何故ならアベルは魔王でありドラゴンなのだから。

「では魔王アベルは…」

「もう二度とは会わぬだろう。私も会うつもりも無い」

「…カミーラ様、何か良きことが?」

 七星はカミーラの表情を見て恐る恐る尋ねる。

 アベルはカミーラにとっては嫌悪の対象、その名を口に出すのも忌々しいと思っていたはずだ。

 が、今のカミーラからはその鬱屈した感情が感じられない。

「七星…」

「出過ぎた事を…」

 カミーラの言葉で七星は全てを察する。

 だが、それは同時にカミーラが魔王アベルを乗り越えた証でもあった。

(カミーラ様はまだまだ強くなられる…)

 何処までも強く、そして美しい…全てにおいて素晴らしい主の姿に七星は改めて畏敬の念を覚えたのだった。

 

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