「ではこういう事で宜しいですか?」
「はい。私達カラーはそれで構いません」
「良かった…」
女王の言葉にルーンは安堵する。
ルーンとしてもカラーとの協力は必要な物だ。
これからは種族の垣根を超え、魔軍に対抗する必要がある、ルーンはそう考えている。
人類の統一も魔法使いの解放だけではなく、将来的には魔軍と戦うために人類の意思統一を図るという目的もある。
そのための第一歩がカラーだった。
師であるフリークの紹介もあり、カラーとは円満な関係を築けると思っていたのだが、そこで少し問題が発生してしまった。
その事でルーンも少し頭を悩ませていたのだが、幸いにもカラーとの交渉は何の問題も無く終われそうだ。
「ですが、私達は本当に人類から狙われないか…その不安はあります。あなた達が世界を統一しようとすれば、あなた達に対抗すべく私達を襲うという可能性は有ります」
「そこもきちんと対応します。まだ私達は動く気は有りませんから」
ルーン達にもまだまだ時間が必要だ。
その後のためにも、カラーとは友好的な関係を結んでいく必要がある。
そのためにはカラーの存続は必要で、ルーンもそこは大事にしたい所だ。
「それでは詳しい話を…」
ルーンはカラーとの今後の話を進めるのだった。
「なあハンティ。お主、実はカラーが儂等と協力するのにはあまり良く思っておらんのじゃないか?」
友と認めたフリークの言葉に対し、ハンティはため息をつく。
「私はカラーを守るけど、カラーの方針までは否定しないってだけさ。だからカラー王国の時も私は止める事はしなかった。ただ、その後でカラーのクリスタルが兵器になる事が分かったから、人間によるカラー狩りよるカラーの絶滅だけは防がないといけないと思ってるだけさ」
「…難しい話じゃな。正直に言うと、お主は儂個人とは友好的じゃが、教団そのものとは一歩引いて見ているからの…いざとなれば、敵対する事も辞さないのかもしれんとも思っとる」
「さあね。ただ、私だって万能とは程遠い。アンタ達と敵対した所で守りたいものを守るだけで精いっぱいになるだろうさ」
ハンティの言葉にフリークも難しい顔をする。
「先の戦いもあってルーンも色々と考えとる。まさか鉄兵があそこまで簡単に破壊されるとは考えておらんかったからの」
「あいつは完全に例外。人類の範疇に含めない方がいいよ。ルーンと同じ、この世界の超越者さ」
「お主はその例の青年…ランスという男とそれなりの付き合いがあるようじゃな。ただ、儂とは違った関係のようじゃがな」
その言葉にハンティは難しい顔をする。
「まあ…私だから付き合っていける奴だからね」
ハンティとランスの付き合いは非常に長い。
勿論年月だけを考えればフリークとの付き合いの方が圧倒的に長い。
ただ、ランスとはカラーが危機に陥った時に何度も助けられ、そして協力してきた間柄だ。
それこそ戦友という言葉が相応しいのかもしれない。
(それに、アイツは初対面の私の事を知っていた。そこが気にかかるんだよね…)
ランスの名前を聞いたのはSS期…カラーの中でもトップの力を持っていたケッセルリンクが魔人となった時だ。
その後でランスという人間と会ったが、その時の態度が今も引っかかっている。
ただ、あの男はスケベだが悪意は感じられなかったし、何よりも本当にカラーのために色々とやってきてくれた。
時には魔軍、そして魔人と戦い、そしてあの魔人メディウサをも倒す事が出来た。
「ルーンはそのランスという男に興味を持っていての…お主を通じて橋渡しをして欲しいと頼んできよった。儂としてはお主の言葉次第じゃと思っておるが、正直な所どうなんじゃ?」
フリークの言葉にハンティは呆れたようにため息をつく。
「言っとくけど私はその辺に関しては干渉する気は無いよ。そこはアンタ達が何とかする事であって、私がやる事じゃない。フリークの事は友人だと思ってるけど、それとこれとは話は別さ」
その言葉にフリークはむしろ安心したように笑みを浮かべる。
「だったらいいんじゃ。儂としてもジルの嬢ちゃんの事もあるからの…それにあの青年はルーンとは合わん気もするしの」
「あいつとは付かず離れずの関係が一番良いのさ。一番大変な時に助けてくれて、安泰の時は離れる―――そんな関係だからこそ、敵に回る事も無いのさ。乱世だからこそ輝く男…それがあいつなのさ」
「それはとんでもない男じゃな…じゃが、お主がそう言い切るのなら、儂としても興味が出て来るのう」
「フリークなら…まあ意外といい関係築けそうな気もするけどね」
(それにルーン達の計画が本当なら、フリークも必ずランスと関わる時が来るだろうしね)
ただ、それでもハンティは今はフリークとランスを引き合わせるつもりは無かった。
それでももし彼等が出会うのならば、それはもうそういう運命なのだろう。
「始祖様! 始祖様!」
「ん? どうした?」
ハンティとフリークが話していると、一人のカラーが慌てた様子で走って来る。
「た、大変です! 教団の方とあの人間が…」
その報告にハンティとフリークは目を見合わせる。
「人間っていうとランスだよね。あいつ、何かしたの?」
ハンティの目が細くなる。
彼女が怒っているのが分かり、フリークは背筋が寒くなる。
「その…突然戦い始めちゃったんです!」
「はあ!?」
「な、何じゃと!? 一体誰が!?」
「その…金髪の女性で…」
「ルシラか!」
フリークはその女性に直ぐに思い当たる。
カラーに会いに行くのに、彼女は同行を申し出た。
理由は勿論ジルに会えるかもしれないからだろう。
フリークとしては止めたかったが、教団のトップであるルーンが認めたのでそれ以上は言えなかった。
「全く…あの男は何時でもトラブルを引き起こすね」
「そんなになのか…?」
「そんなになんだよ。とっとと止めないとね」
「う、うむ。儂も行こう」
ハンティとフリークは二人の争いを止めるべく、その場所へと向かうのだった。
「フン、俺様に挑むとは身の程知らずだな。まあこれでお前を頂けるのなら問題は無いな」
無造作に剣を構えるランスに対し、ルシラも構える。
その構えは格闘家そのもので、とても魔法使いとは思えない。
が、ランスも相手の実力を測る目を所持していた。
なので相手の強さも大体分かる。
「そこそこやるみたいだが、俺様にかかれば雑魚だな。まあいい、とっとと終わらせるか」
ランスは無造作にルシラに近づいて行く。
全く警戒心を持っていないように見えるが、ルシラはその重圧に背筋が寒くなっていた。
(ただ歩いているだけなのに、なんてプレッシャーなの…こいつ、本当に人間!? セルジオよりも遥かに強い…!)
教団屈指の武闘派であり、肉弾戦では一番強いであろうセルジオよりも遥かに強い。
ルシラもそれが分からない程弱くはない。
(でも…私は負けない!)
ルシラはランスに向かって飛び込んでいく。
「おっ」
ランスはその様子に少し驚くが、それでも全く慌てる事は無い。
剣を構え、無造作に振り下ろす。
「!」
ルシラはそれだけで背筋が凍る衝撃を覚える。
間違いなく手加減はされている一撃なのだが、当たれば間違いなく自分は倒される。
彼女の本能が、いや、彼女の持つ力がそう告げていた。
しかしそれでも彼女は止まらない。
ランスの一撃を寸前で避けると、その顔面目掛けて一撃を叩きこむべく拳を振るう。
「おっと」
だがランスはそれを予測していたようにバックステップで拳を空かす。
そしてルシラに向かって強烈な蹴りを入れようとするが、ルシラもその蹴りを避けてランスに拳を繰り出す。
ランスはそれを剣の腹で受け止めると、空いている手で刀を抜き放つ。
ルシラはその行動が分かっていた様にランスから距離を取る。
「少しはやるみたいだな。ま、俺からすれば大したこと無いが」
「言うだけの事はあるわね…鉄兵を倒したのはやっぱり偶然じゃないって事か…」
正直鉄兵が倒されたのは信じられなかった。
アレは今の魔教団の技術を集めて作った最強の兵士だ。
その鉄兵が魔法使いでも無い人間に倒される、そんな事は想定もしていない。
だからこそ、何らかのエラーかミスを疑ったのだが、どうやらこの男は実力で鉄兵を文字通り叩き潰したようだ。
(でも…私は負けない!)
ルシラには負けられない理由がある。
一つはジルをこの男から解放する事、そしてもう一つはジルと共にこの世界から魔法使いを解放する事。
ジルとならばそれが出来る、ルシラは本気でそう思っている。
だからこそ、ジルを縛るこの男を倒し、ジルの目を覚まさなければならないのだ―――ジルからすれば大きなお世話なのだが。
(相手の攻撃が当たらなければいい。どんな威力の攻撃も当たらなければ意味は無い)
ルシラにはそれを実行するだけの自信がある。
ランスの攻撃を避け、カウンターを決める。
そうするのが一番効果的だと判断した。
「フン、だったら一気に決めてやる!」
ランスは剣を横に構える。
それだけなのに、ルシラは凄まじい圧力をランスから感じる。
そしてランスが剣を動かす前には既にその体は動いていた。
「ラーンスアタターーーーック!」
横薙ぎに放たれた剣から闘気の渦が発生し、ルシラに襲い掛かる。
「クッ!」
ランスが放つよりも先に体が動いたルシラは闘気の渦から何とか逃れる。
「がはははは! 隙ありじゃー!」
だが、避けるので精一杯だったルシラは着地の際にバランスを崩す。
そこを狙いすましたランスの一撃がルシラに襲い掛かる。
(この男…!)
ルシラには相手が何をしようとも相手の攻撃に合わせる自信があった。
だが、こんな攻撃の手段を持っているとは予想もしていなかった。
それでもやはりルシラもまた素晴らしい才能を持った戦士なのは間違い無かった。
ルシラは何とバランスを崩した態勢のままランスに向かって飛び掛かってくる。
「何!」
それには流石のランスも予想しておらず、驚きの声を出す。
ルシラはランスの剣を潜るようにして近づき、そのままランスの腹部に向けて強烈な拳を放つ。
だが、その一撃は固い何かによって阻まれる。
「!」
見ればルシラの拳は何時の間にかランスが抜き放った刀の腹に防がれていた。
「とーーーーーっ!」
「ぐはっ!」
ルシラが驚いていると、その腹部にランスの蹴りが突き刺さる。
ルシラは後方に吹き飛ぶが、何とか態勢を立て直す。
「ごほっ!」
だが、強烈な一撃が腹部に突き刺さった事で口から血を吐き出してしまう。
「ルシラ! ラ、ランス様…」
「口を出すなジル。こいつは俺様に挑んできたんだ。これくらいは当たり前だ」
ジルの言葉をランスは遮断する。
そこにはジルも入れない戦士としてのランスの姿がある。
ランスは戦いに関してはドライであり、勝つためには手段は選ばない。
更に言えば、ランスはこれでも手加減をしている。
ランスが本気なら、ルシラが吹き飛んだ所で追撃のランスアタックを放つ事で相手はもう死んでいる。
「まだやるか? お前じゃ俺様に勝てん事は分かっただろ。大人しく降参するんだな」
「誰が…!」
ランスの言葉にルシラは立ち上がる。
「ファイヤーレーザー!」
そしてランスが追撃してこない事を利用し、詠唱していた魔法を放つ。
魔法は絶対命中、決して避ける事は出来ない。
(卑怯だとは思わないでしょ…あなたなら!)
ルシラは魔法を放ったと同時にランスとの距離を詰める。
この一撃で相手が倒れるとは思ってはいない。
そして自分の最大の武器はこの拳、これを打ち込む事で一気に勝負を決める。
そう思っての一撃だった。
だが―――その時彼女には全く予想も出来なかった起きる。
「フン!」
ランスはファイヤーレーザーに向かって剣を振るう。
勿論そんな事には意味は無い―――はずだった。
「な!?」
ルシラの放ったファイヤーレーザーは何とランスの剣によってかき消されたのだ。
そしてもう動いているルシラはもう自分の体を止める事が出来ない。
「がはははは! これで終わりだ!」
ランスは既に剣を構えていた。
「少しサービスしてやるか! ラーンスアターック!」
普通のランスアタックはジャンプして勢いをつける事で放たれる必殺技だ。
だが、今のランスは色々なタイプの必殺技を放つ事が出来る。
これもその技の本の応用にしか過ぎない。
普通に剣を振るったようにしか見えないのに、凄まじい熱気が放たれる。
「!」
ランスの剣から炎が巻き上がる。
同時に放たれた闘気が合わさり、炎の渦となってルシラの体を包み込んだ。
ルシラは悲鳴を上げる事も出来ずに吹き飛ばされる。
そして地面に倒れたまま動けなくなる。
「ラ、ランス様!? や、やり過ぎです!」
ジルは倒れているルシラに向かって走る。
彼女の体を抱き起した時、彼女に大きな傷が無い事に気づく。
「がはははは! 俺様の新たな技、手加減ランスアタックだ!」
「…凄い技術と言うべきか、女を殺さないためにそこまでやるのかと言うべきか…判断に迷うわね」
レンはランスの技を凄いとは思うが、そこにある凄まじい下心に呆れてしまう。
「レンさん! お願いします」
「いいの? ランス」
「ああ。治してやれ。ま、手加減してやったから殆ど傷もついてないと思うがな」
ランスは戦いが終わったと言わんばかりに剣を収める。
その時、ランスはこちらにやって来ていた人物に気づく。
そこにはハンティと、見知らぬ老人が立っていた。
「全く…アイツは本当に問題を起こしてくれるね」
「いや…今回は彼女が原因かもしれんの。魔法使いに対する仲間意識が強い故な…」
ハンティとフリークはカラーの少女に案内され、ランスとルシラが戦っている場所に案内される。
そしてその戦いはもう終わりの光景だった。
「ファイヤーレーザー!」
ルシラの放った魔法がランスに直撃する―――そう思った時、ランスが剣を一振りすると、ルシラの放ったファイヤーレーザーが剣に吸い込まれるように霧散する。
「なんじゃと!?」
フリークが驚いていると、
「少しサービスしてやるか! ラーンスアターック!」
ランスの必殺の一撃がルシラを飲み込む。
ルシラはそのまま炎の渦に巻き込まれて吹き飛ばされる。
倒れたルシラにジルが近づいて行くが、どうやら気を失っているだけで大した怪我は無いようだ。
そしてランスが剣を収めると、ハンティとフリークに気づいたようだった。
「あんたね…」
「何だ。あいつから絡んできたんだ。文句を言われる筋合いは無いぞ」
「…正直アンタの言う事ってイマイチ信用できないんだよね。割と適当な事を言う奴だし」
「失礼な奴だな。疑うんならそこのカラーに聞いてみろ」
ランスが指を刺した所には一人のカラーの少女が立っていた。
ランスに言われた通り、ハンティはその少女に声をかける。
そして内容を聞くと、確かにランスの言っている事は間違ってはいない事が分かった。
ただ、問題はその後だ。
「アンタね…聞いた限りじゃそういう風に仕向けたも同然じゃない!」
「乗って来たのはアイツだ。お前が口出しする事じゃ無いだろ」
「そうだけどね…」
ランスの言葉にハンティは苦い顔をする。
どちらが悪いかと言われればランスに自分から絡んで行った彼女が間違いなく悪い。
そのランスの口車に乗せられ、とんでもない条件で戦いを行ったのも当人同士の問題だ。
ハンティが口出しするのは筋違いだ。
ただ、問題なのは彼女の仲間がそれを許すかどうかだ。
そして回答次第では、この男は間違いなく魔教団の敵になる―――下らない理由かもしれないが、この男にとっては十分すぎる程の争いの理由になるのだ。
「お主がランス殿…というのかの」
「誰だ」
「儂はフリーク・パラフィンと申す。お主の…奴隷なのかの。魔法学院でジルの嬢ちゃんの先生というのをしておった」
「フリーク? どっかで聞いたような…」
フリークという名前にランスは頭を悩ませる。
「思い出せんな。じゃあ大した事無い奴だったんだろ。で、俺様に何か文句あるのか」
そしてランスはその名前を思い出す事が出来なかった。
それも無理は無い…もしフリークがランスの良く知るフリークの容姿だったなら、別の未来もあっただろう。
だが、今のフリークはまだ人間の老人だった。
男を覚える気が無いランスでも、流石にあそこまで特徴のある存在は一応は記憶の片隅にはのこっているのだが、時代はそれを許さなかった。
「ルシラが無礼を働いたようじゃな。まずは師としてそれを謝罪したい」
「大した事無いぞ。強かった訳でも無いしな」
「そ、そうか…」
本当に何でも無い事のように言うランスにフリークは驚く。
ルシラは魔法学院の中でも相当な使い手…それこそ魔教団創立に関わる5人の1人だ。
その力は並では無いのだが、それでもランスにとっては大したことの無い強さでしか無いのだ。
「う…」
「ルシラ、大丈夫?」
「ジル…私は…」
その時ルシラが目を覚ます。
そして自分が倒れている事を自覚し、何が起きたのかハッキリと理解する。
「負けた…のか。私が」
「おうそうだ。お前の負けだ」
ランスはニヤリと笑いながらルシラに近づいて行く。
「フン、大したことない癖に俺様に挑むとは身の程知らずだ」
「…貴様、何者だ」
ルシラはジルの腕から離れ立ち上がるとランスを睨む。
この男が凄まじいのはもう疑いようが無い。
あの時鉄兵を倒したのはまぐれでも何でもない、本当に力で鉄兵を破壊したのだ。
そして自分も全く相手にもなっていなかった…相手の攻撃がどんな形でくるのか分かっていても、体がそれに追いつかなかった。
単純に力と技術で圧倒的に負けていた、それが負けた原因なのだ。
「がはははは! それよりも約束は覚えているな?」
「約束…? あっ!」
ルシラはそこで思い出す。
自分が言った事、そしてランスが何と返してきたか、そして自分が何と答えたか。
「まさか今更約束を破るとは言わんだろうな? ん?」
ニヤニヤと笑いながらランスが迫って来る。
それを見てルシラは心底悔しそうな顔をする。
「…分かった。元々は私から言い出した事だ。それを反故にするつもりは無い」
「がはははは! いい心がけだ! だったら早速楽しませて貰うか!」
ランスがニヤリといやらしい笑みを浮かべていると、
「ちょっと待って欲しい」
突如として外から声をかけられる。
「あん? 何か文句あんのか」
ランスが声の主を睨む。
「先生!」
「フリーク先生」
ルシラとジルが声の主を見る。
それは彼女達に魔法を教えていたフリーク・パラフィンその人だった。
「彼女のやった事は師として儂が謝罪する。だからルシラを許してはくれんか」
フリークはそう言って深々と頭を下げる。
「止めて下さい先生! 元々は私が…」
「お願いする」
ルシラの言葉を無視してフリークはランスに頼む。
だが、当然の事ながらランスがそんな言葉を受け入れるはずが無かった。
「何も知らん奴が口を出すな。元々こいつから俺様に訳の分からん理由で絡んできたんだ。そして俺様は勝った。だから勝者の特権を使うだけだ。関係無い奴は引っ込んでろ」
「それを承知でお願いする。何とかルシラを許してやってくれ。この通りだ」
フリークは地面に手を突いて謝罪する。
が、ランスはそんな事で心が動くような人間では無かった。
「フン、お前がそんな事をした所で何の意味も無いわ」
ランスはそんな事など知らんと言わんばかりにフリークに背を向ける。
そのままルシラを担ぐと、そのままカラーの家の一つに消えていった。
「フリーク、アイツにそういう行為は無駄だよ。そういう奴さ。言っただろ、悪い奴だって」
ハンティにそう言われてフリークはため息をつきながら立ち上がる。
「先生…」
「ジルの嬢ちゃん…お主からも何とか頼めんかったのかの…」
「無理です。それに元々はルシラからランス様に絡んでいったので…」
「ふぅ…ルシラも真っすぐな性格なのは長所じゃが、短所でもあるのかのぅ…」
フリークも自分の言葉で相手が引き下がるとは思ってはいない。
だがそれでも、師としては弟子を守らなければならないのだ。
「では私も失礼します。ランス様~!」
ジルもランスを追って行き、レンもその後を追って歩いてく。
「こうなると思ったからなるべく関わらせたくは無かったんだけどね…」
「すまんの、ハンティ。お主の気遣いを無駄にしてしまって」
「私としては敵対関係にならなきゃそれで良いんだけどね。向こうから魔教団に干渉しようなんて思っても居ないでしょうし」
「お主がそう言うのなら間違いは無いのじゃろうな…じゃが、問題なのはこちらという事か…」
ハンティとフリークは互いに深いため息をつく以外に無かった。