ランス再び   作:メケネコ

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GI期の魔軍戦

 魔物将軍…いや、基本的に魔物とは欲望に忠実なものだ。

 だからこそ人間を殺したいし、犯したい、その欲求に素直に行動する。

 GI期100年頃までは魔物は好きに人間を殺しても犯しても良かった。

 まさに栄光の時代―――だが、シルキィが魔人になってからガイは人間を解放した。

 どんなに不満を持っても、魔王に逆らえる存在はこの世界には存在しない。

 長い時間を生きている魔人は当然ながら魔王ガイの治世に不満を持っている。

 それはその下の魔物将軍達も同じだが、魔人が逆らえないのに一般の魔物が逆らえるはずが無い。

 ただ、その中にもやはり例外というものは存在するものだ。

 特に魔王ガイは魔王でありながら非常に不安定な魔王だった。

 魔王の持つ絶対命令権も完全では無い…そしてその影響が出るのも別におかしい事では無かった。

「トリジュピス将軍…本当に宜しいのですか? その…例のカラーを捕らえるなど…」

 魔物兵の一体が不安そうに声を出す。

「構わん。その黒髪のカラー…それを我が頭脳にする事で、俺はより高みに至るのだ」

 普通の魔物将軍は鉄球を持っているが、この魔物将軍は鉄球の代わりに巻物を持っている。

 そしてその体も他の魔物将軍よりも一回りは大きい。

 特徴的なのは、その腹の中に居る存在が既に朽ち果てている事だろう。

 同時に、それはこの魔物将軍が恐ろしく強いという事を現していた。

(そして俺はより高みに…魔人へと至って見せる)

 それこそがこの魔物将軍の持つ野望。

 ただ、その野望は別に特別な物ではない。

 この世界に居る生命体ならば誰もがそういう思いを抱いてもおかしくは無い。

 永遠の命と無敵結界、それらがあれば好き勝手する事が出来る。

 誰もがそう思っているし、それは決して間違いではない。

 しかし、この世界に存在できる魔人の数は24体…この世界の生命体の総数からすれば一握りにも満たない。

 だからこそ、功績を上げて魔人にしてもらおうと思うのも無理も無かった。

「それに…また新たな魔人が作られた。その魔人もまた恐ろしい力を持っていると聞く…」

「あの方ですか…魔人様すらも近寄るのを避けているとされる…」

「そうだ。魔人の席は残り少ない。だが、あの魔人メディウサを倒したとされるシルキィ様と協力したとされるカラーを捕らえれば…」

 魔物達の間で広まっている話は勿論真実ではない。

 が、シルキィはランスの事を考えてその噂を決して否定する事は無い。

 他にも真実を知っているレイも居るのだが、あのレイが本当の事を話すなんて事もあり得ない。

 なので魔物達の中ではシルキィとそれに協力したカラーが魔人メディウサを倒した事になっている。

 それは都市伝説のようなものなのだが、その噂に飛びつく奴も世界には居るものだ。

 魔物とてそれは例外では無いし、それだけの野心を持つ者もそれを実行しようとする者も居る。

「偵察の部隊はまだ戻ってこないか」

「は、はい。カラーの結界というものでしょうか。辺りをぐるぐると回っているようで…」

「魔法に詳しい奴を差し向けろ」

 魔物将軍の指示従い、魔物兵達が忙しく動き回る。

 その魔物達を見ている目にはまだ気づいてはいなかった。

 

 

 

「やっぱりいたな。一匹程度か」

「今の時代そう動かせないって事じゃない?」

「だから言っただろ、そういう時代だって」

 ランスとレンの言葉にハンティが呟く。

「でもいいの? アンタがこっちに来ても」

 レンの言葉にハンティは苦い顔をする。

「目的がカラーじゃなくて私だからね。全く、迷惑な事だよ。私じゃ無くてカラーに対してね」

「まあ俺様がぶっ殺してやるから気にするな。魔人も居ないから余裕だ余裕」

 ランスの言葉にハンティは薄く笑う。

「ま、そこの所は信用してるよ。確かにカラーだけだと厳しいけど、アンタ達が居ればね」

 ランス達の会話を聞き、フリークは改めてランスとハンティに友好関係があるのだと理解する。

 魔物兵の斥候を全滅させた時、突如としてハンティが瞬間移動してきた。

「ちょっと…何勝手な事してるのよ」

「あ、ハンティだ」

 ランスが最後の魔物兵に止めを刺した後、ハンティが突如として現れたのだ。

「あの子も私じゃ無くてアンタに言いに行くなんてね…ま、あの子は女王の親戚だから真相を知っていてもおかしくは無いけどさ」

 ハンティは呆れた顔をしながらも、その唇は笑っていた。

「ハンティ!」

「フリーク達も来たんだ。ランス達だけで十分だと思うけどね」

「…お主がそこまで言うか」

 ハンティの言葉にフリークは目を丸くする。

 ランス達が強いのは分かっていたが、あのハンティにそこまで言わせるとは正直信じられない。

「経験の違いさ。それに、奇襲だの不意打ちだのはこいつの得意技だしね」

「それよりもお前も協力しろ。お前なら余裕だろ」

「別に良いさ。これは私の問題だからね。相手は魔物隊長? それとも将軍? まさか魔人は来てないだろうね」

「魔物将軍じゃよ。数はそれ程多くは無いが…カラーは大丈夫なのかの?」

 フリークの言葉にハンティは頷く。

「それ程簡単には結界は破られないさ。それよりも早く相手を全滅させればいいだけさ」

 そう言ってハンティもランス達と共に行動を共にする事になる。

 

 

 そして目の前の魔物兵達に様子を伺っていたランスだが、ルーン達は流石に緊張していた。

(あれが…魔物将軍)

 ルーンにとっては魔物兵とは話の上だけの存在だ。

 魔王ガイの治世で魔物達は大陸の西側へと移住した。

 ただ、野良モンスターの数は多く、その野良の存在までは魔王は関知していない。

 それでもあの強大な魔人の襲撃が無くなっただけでも人類にとっては有難いだろう。

 しかし、ルーンの目的はその強大な魔王、魔人から人類を解放する事だ。

 そのためにも色々な種族とも協力し合わなければならないと思っている。

 今回の戦いもカラーを守るために絶対に必要な事だ。

 にも関わらず、ランスという男は本当に気軽そうだ。

 まるでこの戦いすらも何処か楽しんでいるようにさえ見える。

「ルーン…そんなに緊張しない方がいいよ」

「ルシラ…君は随分と余裕そうに見えるね。私よりも肝が据わっているよ」

「私だって思う所はあるんだけどね…不思議とあの男なら何とかするんじゃないかって思ってるのよ。強さもそうだけど、あの態度がね」

 ランスという男と戦ったからこそ分かる。

 あの男は本当に強すぎる―――それこそ魔物兵すら相手にならないくらいに。

 一体どれ程の死線を潜り抜けてきたのだろうか、それすらも計り知れない。

「それにレンとジルも居るしね。二人も相当に戦闘経験が有るはずよ。一体どういう事かは分からないけど」

 ジルがまだ小さかった頃からの知り合いだが、そのジルと今のジルが一致しない。

 だが、それでもジルが恐ろしく強く、そして戦闘経験も豊富なのが分かる。

「それでランス殿。一体どうするんじゃ? この数であの魔物将軍という奴を倒せるのか?」

 フリークの言葉にランスは『何言ってんだこいつ』と言わんばかりの表情をする。

「だから奴等をぶっ殺すだけだ。ま、今居る連中が離れてからの方が楽だな」

 ランスは相手の事を良く見ている。

 魔物将軍はここに脅威が居ないと思っているのか、魔物兵の護衛をほとんど残していない。

 殆どをカラーの捜索に当てているので、周囲の魔物兵は少ない。

「あの連中が離れたら一気に行くぞ」

 ランスの言葉にルーン達は緊張を深める。

 ルーンにとっては初めての魔物兵との戦いだ。

 それも相手は魔物将軍という強力な魔物、無理も無い事だ。

 ランス達が魔物将軍を見ていると、魔物将軍が指示を出し、同時に魔物兵が魔物将軍の側を離れる素振りを見せる。

 その魔物兵が居なくなれば、周囲にいるのはごくわずかの魔物兵だけだ。

「よし、まずあの魔物兵をぶっ飛ばせ。出来るな、ジル」

「はい、ランス様」

 ランスの言葉にジルは頷く。

「待って下さい。その役目は私にやらせて下さい」

「あん? 何をいってやがる。ジルにやらせる方が確実だろうが」

「いえ、私としても何としてもやり遂げたいんです」

 そう言うルーンの顔は真剣だ。

 その顔を見てランスは鬱陶しそうにするが、

「間違いなく出来るんだろうな。出来なかったらこの戦いの後、俺様がお前を殺すぞ」

「勿論です。私は魔力に関してはジルを上回っている自信が有ります。あなたの期待に応える事は出来ると思います」

 ルーンの言葉にランスはジルを見る。

 ジルはランスの視線に頷いて見せる。

「ランス様、ルーンさんは魔力に関しては私を上回っています」

「お前をか」

「はい。だから任せても良いと思います」

 ジルの言葉にランスは少し考える。

「まあいい。じゃあやってみろ」

 ジルがそう言うのなら、ランスはそれに任せてみる。

 レンとスラルが何も言わないのなら、本当に問題は無いのだろう。

「有難う御座います。合図は任せますので、お願いします」

「大きな音は出すなよ。それと魔物将軍は俺様がぶっ殺すからな」

「分かりました」

 魔物兵が魔物将軍の側を離れる。

 ランスは十分に距離が離れたのを確認し、合図を出す。

「やれ!」

「はい! 電磁結界!」

 ランスの合図に合わせて、ルーンが魔法を放つ。

「ぐぎゃああああ!」

「な、何だ!? うぎゃあああああ!」

 突然の魔法に魔物兵達は全く対応できなかった。

 何よりも、ルーンの放った魔法はそれこそレベルが段違いだった。

 その魔法の威力にはランスですら驚いたほどだ。

「な、何だと!?」

「凄い魔力…! エンジェルナイトの私をも上回ってる…!」

「これが…ルーンさんの本当の魔力…」

 ランス、レン、ジルは驚愕の声を出す。

(こいつ…もしかしてあの役立たずのアニス並みの魔力を持ってるのか? あいつは規格外の役立たずだが、こいつはそういう事も無さそうだな)

 ランスが思い出したのは、ランスも痛い目にあったあのバカの事だ。

 魔法LV3を持ちながらも、本人が規格外の役立たずなせいで戦いにまるっきり役に立たない魔法使い。

 それ故に山田千鶴子が管理しているのだが、そのアニス並みの魔力を持っているんじゃないかとランスは感じた。

 魔法に関してはランスは分からないが、それでも身近に魔法使いが沢山居るので分かる。

 雷の魔法が得意で、ゼスで四天王をしている程の力を持っているあのマジックをも軽く凌駕している。

「まあどうでもいいか。行くぞお前等! ぶっ殺せ!」

 ランスの合図でレンとルシラが飛び出す。

「魔物は…倒す!」

「別に気負う必要は無いと思うけど。こんな奴等に対して」

 やる気満々のルシラに対し、レンはマイペースだ。

 レンにとっても魔軍との戦いは最早当たり前になってしまった。

「魔物将軍は何処だ! ぶっ殺す!」

 ランスも魔物将軍を始末するべく突っ込んでいく。

「な、何だこいつ等!?」

「ま、まさか人間!? 何で人間がこんな所に!?」

 ルーンの電磁結界を生き残った魔物兵は、その責務を果たすべくランス達の前に立ちふさがる。

(凄い統率が取れている…これが魔物兵)

 ルシラはその素早い動きを見て驚く。

 野良のモンスターでは考えられないくらい動きをしてくる。

 この動きを見て、将来の自分達の行動がいかに困難なのかを思い知らされたような気がした。

「この女! 殺してやる!」

 斧を持った緑色の魔物兵がルシラに対して攻撃を仕掛ける。

 その動きは直線的だが、威力は人間のものより遥かに高いのだろう。

 だが、それも当たらなければ意味は無い。

 そしてルシラには相手がどういう攻撃をしてくるのか手を取るように分かる。

 彼女の持つ格闘家としてのスキル、そして生まれ持った魔法の力が相手がどんな動きをしてくるかを教えてくれるのだ。

 カウンターの一撃を魔物兵に当てれるが、それだけでは魔物兵は倒れない。

「ぐ…このアマ!」

 一撃を受けた魔物兵が激昂してルシラに襲い掛かる。

(ク…ランスとレンは一撃で倒せていたのに!)

 更に魔物兵の急所に連撃を加える事で、ようやく魔物兵は血反吐を吐いて倒れる。

「殺してやるぞ!」

 そのルシラに対して同じく斧を構えた赤い魔物兵が襲い掛かって来る。

「雷撃!」

 赤魔物兵にジルの放った魔法が突き刺さる事でその動きを止める。

 が、完全に死んだ訳では無い様なので、ルシラがその赤魔物兵に止めを入れる。

(…硬いわね!)

 赤魔物兵に一撃を与えた感触が緑魔物兵とは違う。

 間違いなく赤魔物兵の方が緑魔物兵より強い。

 ただ、数的には緑魔物兵の方が赤魔物兵よりも多いのはルシラには有難かった。

「光の矢!」

 そこにルーンの魔法が突き刺さり、赤魔物兵が絶命する。

(流石ルーン…この魔物兵すらも一撃で倒せる!)

 ルシラがルーンの力に感心していると、

「邪魔だ!」

「ぎゃあああああ!」

 凄まじい悲鳴と共に魔物兵の体が砕け散る。

 しかもその魔物兵は自分が苦戦していた赤魔物兵だ。

(無茶苦茶過ぎる…本当に人間?)

 あの魔物兵を一撃で倒しながらも、その破壊力はやはり異常だ。

 更に訳が分からないのは、剣で相手を破壊しながらも、刀で相手を滑らかに斬っている事だ。

 この二つの相反する技術をこの男は当たり前のように行っている。

 力だけでなく技も凄まじい、改めてこの男が凄い強い事を思い知らされた。

「電磁結界!」

「エンジェルカッター!」

 ジルとレンの魔法で魔物兵が倒れ、ついに魔物将軍の姿が見える。

「き、貴様等…人間が! 人間如きが俺の邪魔をするのか!」

「がはははは! 当たり付きのモンスターが何をほざいてやがる…ん?」

 ランスは魔物将軍を見る。

 そこに居たのは大柄だが、確かに魔物将軍だ。

 が、その腹の中に居るのは美女ではなく、最早朽ち果ててる人間の死体だった。

「…貴様! 魔物将軍のくせに当たりですら無いとはどういう事だ!」

「…は?」

「お前は俺様に可愛い女の子を持ってくるのが仕事だろうが! それすらも出来んのか! この役立たずが!」

 ランスの本気の怒声に魔物将軍は一瞬言葉を失うが、直ぐに怒りを見せる。

「人間如きが訳の分からん事を! …む」

 その時ランスの後ろに居て魔物を蹴散らしていた一人の女に視線を向ける。

「おお…黒髪のカラー! やはり存在していたのか! お前こそ我が頭脳に相応しい!」

「…私も長い時間生きてるけど、そういう理由で魔物に狙われたのは初めてだわ」

 ハンティは呆れたようにため息をつく。

「どけ! 人間!」

 魔物将軍がランスを押しのけハンティに向かって行こうとした時、

「アホか貴様は」

 ランスの強烈な一撃が魔物将軍の腕を飛ばす。

 その凄まじい切れ味に魔物将軍は訳の分からないと言った顔をするが、噴き出し始める己の血に激高する。

「う、腕が! この俺の腕が!?」

「やかましい」

「うぎゃあああああ!」

 ランスの一撃が魔物将軍のもう片方の腕を飛ばす。

「全く、悲鳴だけは煩いな。当たりも持っていないお前にもう用は無い。さっさと死ね」

 そう言ってランスは魔物将軍の頭に一撃を喰らわせる。

 ランスの剣による一撃に魔物将軍の頭は潰れ、その体があっさりと崩れる。

「…魔物将軍をこうもあっさりと」

 フリークはランスの腕前には最早驚く以外に無い。

 強いのは分かっていたが、その強さはフリークの想像の遥か彼方にある。

(…ハンティが関わるなと言うのも分かるわい。この若者は…強すぎる。それこそルーンに対抗できるくらいに)

「さーて終わりだ」

 ランスはニヤリと笑って生き残っている魔物兵を見る。

 魔物兵はランスを見て明らかに怯えている。

「やるか?」

「ひ、ひいいいいいいいいい!」

 ランスの言葉に一体の魔物兵が悲鳴を上げながら逃げていく。

 それを見た他の魔物兵も一目散に逃げていく。

 ルーン達はそれを目を見開いて見ていた。

「数の上ではまだ相手が有利だったと思うんですが…」

「魔物兵は魔物隊長、そして魔物将軍が居ないと軍として成り立たないんです。だから頭が倒されると逃げちゃうんですよね」

「そ、そうなんですか」

 ジルの言葉にルーンは感心したように頷く。

 これで相手の性質が一つ分かったのだから、それは将来役に立つだろう。

(それを知っているという事は…やはりこの人達は魔軍との戦闘経験が有る。それも私達が想像も出来ないくらいに…)

 ルーンはそれが気になるが、決して教えてくれないだろう。

 無理矢理聞き出すつもりも無いし、むしろこれからは自分達が考えていかなければならない。

 だからこそ、今の経験を糧にしなければならないのだ。

「悪いね。私が原因なのにさ」

「別にお前が悪い訳じゃ無いだろ。ケッセルリンクが居ないからこういう馬鹿共が出てくるんだ。早く何とかせんとな」

(ケッセルリンク…)

 ルーンはランスがハンティに言った名前が非常に気にかかる。

 ケッセルリンクと言えば魔人四天王の1人と同じ名前だ。

(…いや、そんな事は無いか。相手は魔人だし)

 非常に気にはなるが、それも全て偶然だという事で片付けておく。

 いくらランスでも、魔人とも面識がある…そんな事は考えられないからだ。

 だが、その考えられないのがランスという人間なのだが、ルーンもそこまでは考えが至らなかった。

 無理も無い事だし、ルーンが悪いという事でも無い。

 全てランスという男が今の時代に居る事が原因なのだ。

「取り敢えず戻らないかい。多分魔物兵も逃げていくと思うし」

 ハンティの言葉に皆は頷き、ペンシルカウへと戻り始める。

 が、その戻っている途中で奇妙なモノを見つける。

「なんだこりゃ」

「何だって…氷漬けの魔物兵の死体にしか見えないけど」

 そこにあったのは、言葉通り氷漬けになっている魔物兵の死体だった。

 ルーンはその魔物兵の死体に近づき、その体を覆っている氷に触れてみる。

「…何という冷気なんだ。普通の魔法ならこんな風にはならない」

「ルーン、それって…」

「うん…これをやったのはかなりの使い手だよ」

 難しい顔をしているルーンを見て、フリークがハンティを見る。

「ハンティ、お前以外のカラーは来ていないのか?」

「私以外には来ていないよ。万が一の事も無いとは思っていたからね。流石にこんな短時間でペンシルカウの結界が破られるとも思えない。だとしたら、こいつらは一体誰にやられたのか…」

 ハンティも魔物兵の死体を見て考え込む。

 その時、ランスは別の方向を見ていた。

 そして全てを察したのか、一度ため息をつく。

「おいお前等。先に戻ってろ」

「ランス様?」

「いいから戻ってろ。ハンティ、こいつらをさっさと連れてけ」

 ランスの言葉にハンティは怪訝な表情を浮かべたが、直ぐにランスの言葉の意味を察したのか微妙な顔をする。

「戻るよ。ルーン、フリーク。里の方も気になるからね」

 ハンティはルーン達を連れて先に戻るべく声をかける。

「で、でもこの状況は…」

「いいんだよ。こいつがそう言うって事はそういう事なのさ。だから戻るよ」

 ルーンの質問には答えず、ハンティはルーン達を連れて森の中へ消えていく。

「ランス様…」

「お前も先に行ってろ。外に出る準備はしておけよ」

「は、はい」

 ランスの言葉にジルは素直に従う。

 ジルの姿を消えたのを確認した後、レンがランスの隣で耳打ちする。

「気づいたの?」

「当たり前だ。お前もジルを見ていろ。別に問題は無いからな」

「了解。ま、滅多なことは起きないでしょ」

 レンもランスの言葉に従いジル達の後を追う。

 残ったのはランスと氷漬けの魔物兵の死体だけだ。

 ランスは皆の気配が完全に消えた後、一本の木を見上げる。

「出て来い。居るんだろ」

 その言葉に少しの間沈黙が続くが、観念したように一人の天使が木の上から降りてくる。

「気づいてた訳?」

「俺様を誤魔化せる訳無いだろうが。それよりも何でお前がこんな所に居る」

 そこに居たのは魔人の1人にして、ランスとも深い関係でもあるラ・サイゼルが少し気まずそうな顔をしてランスを見ているのだった。

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