GI363年―――魔教団が人類を統一する年。
最大の軍事国家だったバルシオン王国を僅か24体の鉄兵で制圧し、凄まじい速度で世界を統一していく。
世界中から虐げられていた魔法使い達が集まり、魔教団はどんどんと勢力を増していった。
そして世界統一まであと一つ、それがJAPANという国だけだった。
それも問題無く終わる―――はずだった。
しかし、予想外の存在が魔教団の前に立ちふさがった。
それこそがJAPANに住まう妖怪王…そしてもう一人、黒髪のカラーが魔法使いではない者達を守るために動いているのだった。
「全滅…本当に?」
「ああ。帰還命令を受け付けた鉄兵は一体も居ない。全滅だ」
ルーンはセルジオの報告に驚愕していた。
鉄兵の力は圧倒的で、バルシン王国ですら24体の鉄兵の前にあっさりと敗れ去ったのだ。
JAPANは色々と特別な国ではあるが、鉄兵に耐えられるとは思えなかった。
だからこそ、ルーンはその報告が信じられなかった。
「一体何が起きたか分かるかい」
「…魔法使いだ。それももの凄い強力な」
「魔法使い…私達に対抗する魔法使いがまだ居たって事か」
この世界のほぼ全ての魔法使いは既にルーンの元に集まっている。
それに、鉄兵を一網打尽に出来る魔法使いなど、それこそルーンクラスの魔法使いしかありえない。
「…黒髪のカラーかな」
ルーンは複雑な顔をする。
黒髪のカラー―――ハンティ・カラーは魔教団に協力はしてくれなかった。
種族としてのカラーからは協力を取り付けているが、ハンティは話が別だった。
そのハンティならば、鉄兵を一網打尽に出来てもおかしくはない。
「それなんだが…」
ルシラは少し言い難そうな顔をする。
「ルシラ、お前は何か心当たりが有るのか?」
セルジオの言葉にルシラは曖昧な顔をするだけだ。
「いや、可能性の一つというだけだ。だが、あれだけの魔法を放てる者を私達は一人知っているだろう」
「…まさか、彼女が?」
ルーンの言葉にセルジオもハッとした顔をする。
「ジル…彼女ならば、鉄兵を蹴散らす魔法を放てるだろう」
「…そうだね」
ルシラの言葉にルーンは複雑な顔をする。
魔教団の今の首脳陣は皆ジルの事を知っている。
魔法学院に居た才女で有り、ルーンに匹敵する魔力を持っていたとされる少女だ。
だが、彼女は魔教団への協力を拒み、一人の男に連れられて皆の前から姿を消した。
それは今から10年前の事であり、別れてからは彼女の事も、そして例の男の事も見た男は存在しなかった。
(あれ程の人だから、凄く目立つと思ったんだけど…でも彼は結局は表舞台には現れなかった)
あの男…ランスの強烈なイメージは今でもルーンの脳裏に焼き付いている。
何しろ鉄兵を真正面から叩き潰した人間なのだ。
あれからランス程の力を持つ人間など見た事が無い。
だからこそ、この10年ランスの事が何一つ耳に入ってこなかった事は正直驚いていた。
「ルーン、確認の意味も込めて私に行かせて欲しい」
「いいのかい、ルシラ」
「ああ。もし本当にジルが再び現れたなら…今の状況も分かっているはずだ。ジルが私達の仲間になってくれるならこれほど頼もしい事は無い」
「確かにそれはそうだけど…」
ルシラの言っている事も分かるが、同時に難しいと思うのも事実だ。
ランスはジルの事を奴隷と言っていたが、ジルがランスに向けている感情に気づかない程ルーンも鈍感ではない。
それに師であるフリーク・パラフィンがジルに関しては協力は難しいと言っていた。
理由は教えてくれなかったが、フリークは一貫してジルを仲間に引き入れる事そのものに反対していた。
「それにあの男が居たらな…私達の計画の強い力になるとも思う」
「それはそうだけど…」
ルーン達魔教団の計画、それはまだ魔教団の首脳陣しか知らない秘密の計画。
だからこそ、魔教団は魔法が使えなくても強い者を探している。
それはある意味非人道的な計画であるが、それくらいの事が必要なのだとも想っている。
「正直私はあの男に関しては気が乗らない」
「お前の個人的な意見を言う場では無いだろう、ルシラ」
「分かってる。ただの愚痴。じゃあ私が行く」
ルシラはそうとだけ言うとテントを出ていく。
「彼…ランス、か」
「あの男か…だが確かにあの剣の腕は使える。例の計画の頭には使えないが、手足としては丁度いいと思うが」
「それが上手くいく相手ならいいんだけどね…それに、私は本格的に彼女と敵対したくはないんだけど」
「黒髪のカラー…か」
今は自分と敵対関係にある黒髪のカラー。
ハンティとも強い繋がりのある彼がどう出るか…いや、既に戦いは終わっているに等しい。
ルーンはもう戦後の事を見据えている。
魔人達に対抗するためにどうするか、ルーンの頭にあるのはそれだけだった。
「久しぶりだな、ランス」
ランス達はお町に砦に案内される。
どうやらここが前線の要…いや、最終砦のようで、大勢の兵士達が居る。
ランスの目から見ても追い詰められているのは明らかだが、その目は死んでいない。
ランスが知っているJAPANの武士の面倒臭い所がある。
「うむ、それはそうだが、一体どうなっとるんだ」
「お前の事情を知っているのは我ともう一人じゃが…生憎とハンティは今居ないのでな」
「ハンティが居るのか」
「ああ。お前達は今の情勢は全く知らないじゃろう。だから我が話そう」
ランスはそこでお町から全てを聞く。
あの時の連中が当時の世界最強の軍事国家を瞬く間に落とし、今や世界征服寸前だという事を。
僅か3年で勢力でこの大陸を制圧しようというのだ。
その速度は尋常では無いが、それも全てはあの鉄兵という存在が有っての事だと。
だが、その過程で何かがあったのか、魔法使いの中でただ一人黒髪のカラーが魔法を使えない者の味方になったという事を。
「で、何でお前が戦っとるんだ。お前、そういう奴じゃ無いだろ」
ランスが知るお町は政宗にべったりで、政宗の命令が無ければ動かない女だった。
勿論今のお町は違うだろうが、それでもお町が人間のために戦っているのは意外だった。
「我は妖怪王。黒部殿からその意思を受け継いだと思っている。そのJAPANを荒らすならば我の敵よ。と、かっこつけておるがな…」
お町は苦い顔をする。
「正直厳しい…いや、もう既に王手がかけられている。我もあの鉄の兵士を倒す事は出来るが、それでも奴等の数の方が圧倒的に多い。打開は不可能、それはお主の力をもってしても無理じゃろうな」
「む。この俺様が奴等に負けるというのか」
ランスの言葉にお町は頷く。
「言っただろう、もう詰んでいると。もう打開策は存在しない」
「むぐぐ…」
正直言えばランスもお町の言っている事は分かっている。
話だけ聞けばもう完全に終戦状態だ。
最後の抵抗をしているが、それももう無意味な状況だ。
「ランス様…」
「いいや、俺様が居るんだ、負けるはずが無い! 俺様がぶっ殺してやる!」
ランスの言葉にお町は首を振る。
「いや、お主には関わって欲しくない。これはJAPANの問題じゃ。大陸の人間であるお前を巻き込みたくはない」
「だから俺様には関係無い! 奴等が生意気だから…」
「敵です! 敵が来ます!」
「もうか」
そこを一人の兵士が報告に来る。
お町は苦い顔をして立ち上がる。
「ランス、これが奴等の強さの一つだ。奴等には人のように休息を必要としない。24時間、疲労することなく戦える。それが脅威なのだ」
ランスはそれを聞いて誰かの言葉を思い出す。
それを言ったのが誰かは分からないが、今のお町の言葉と似たような事を言われたような気がしたのだ。
(何処だったか…大分昔のような気がするぞ。そういやあの鉄兵とかいう奴もどっかで見た事あるような気がするぞ)
ランスは昔あのような連中と戦ったような気がする。
「あ」
そしてランスはとうとう思い出した。
ランスも戦った相手…魔人と同じくらい苦戦させられた敵。
それこそが闘神、そして闘将だ。
ランスはその創始者の闘神を倒した―――そう、闘神MMを。
別に興味も無かったので話はスルーしていたが、思い出せば鉄兵は闘将に非常によく似ている。
「ランス様?」
「いや、何でも無い」
ジルの言葉にランスは取り敢えず誤魔化す。
「取り敢えず行くぞ。サイゼル、お前もついてこい」
「別に良いけど、私は戦えないわよ?」
「壁くらいにはなるだろ。行くぞ!」
ランスはお町を追いかける。
そして外に出た時、目の前の光景に唖然とした。
そこには無数の鉄兵が並んでこちらを見ていたのだ。
その鉄兵の中から、一人の女性が歩いてくる。
ランスはその女性に見覚えがあったような気がしたが、それよりも先に女の方が、
「…やはりお前か。ランス、ジル、レン」
ランス達の名前を呼ぶ。
「お前は…あ、思い出した。あの時俺様に挑んで負けてセックスさせてくれた奴だ」
「そういう思い出し方は止めろ! もう10年も前の事だろう!」
勿論ランスが思い出したのは自分とセックスをした女性という事だ。
「ルシラ」
ジルが懐かしい名前を呼ぶ。
「ああ、そうだ。私だ。久しぶり…と言いたいが、一体どういう事だ?」
ルシラはランス、ジル、レンを見て訝し気な顔をする。
「お前達と別れてからもう10年…10年という期間は決して短くは無い。それなのに、お前達はあの時のままだ。特にジル…お前は変わらなすぎだ」
ジルを見てルシラは困惑する。
何しろジルは10年前から全く変わっていない。
あの時ペンシルカウで分かれた時そのままの容姿だ。
そんな事は普通はあり得ない。
「それよりも何の用じゃ。いよいよ我等を滅ぼすつもりか」
お町の言葉にルシラは首を振る。
「いや、普通に降伏勧告に来た。もう勝敗はついた。これ以上無用な犠牲を出す事も無いだろう…我等とてこれ以上無用の血を流すのは望まない」
「フン、征服者らしい傲慢な言葉じゃな…生憎とこのJAPANは帝が治める地じゃ。大陸の者共の支配は受けぬよ」
その言葉にルシラは嘆息する。
「JAPANという地は本当に変わっている…最後の地だというのに、それでもまだ抵抗をする。それももう結果が見えているのにだ」
「魔法使いで無い者を蛮人と呼ぶお前達に言われる筋合いは無い」
お町の言葉にルシラは言葉に詰まる。
それは魔法使いの間で起きている事柄…これまで差別されていた者達が支配者になった時に起きる必然の現象。
魔法を使えない者を卑下し、そして非道な扱いをする。
それだけはどうあっても変えられない事だった。
これまで差別されてたのだから、自分達はそんな事はしない―――という程人間は甘くない。
鉄兵という強大な力を得た者達による、魔法を使えない者への差別、それは起こるべくして起こっている。
「耳が痛いな…だが、今更止まる訳にはいかない。これで最後にするためにもな。妖怪王、降伏してくれ。決して悪いようにはしない。身柄は預かる事になってしまうが…」
「黙って聞いてれば随分と勝手な事をほざくな」
口に出したのはランスだ。
「俺様を無視して話を進めるとは良い度胸だ」
「ランス…お前は関係無いだろう。私としてもお前と争うつもりは無い。ここは退いて欲しい」
「関係無くは無いぞ。お町は俺様の女だ。そのお町を捕らえてあんな事やこんな事をする気だろう」
「お前じゃあるまいしそんな事をするか! あ、いやまあ完全に否定はしないが…が、JAPANの妖怪王だ。勿論丁重に扱う」
ランスは剣を抜く。
「フン、そんな言葉を信用する程俺様は甘く無いぞ。勝った奴は何だかんだ言って好きにするのが当たり前だ。今はそんな調子のいい事を言っても、絶対後でそれを反故にするからな」
「………それは」
ランスの言葉にルシラは何も言えない。
ルーンの元に集まった魔教団の創始者たちは何れも高潔な考えの持ち主だ。
あらゆる種族の協力も得て、全ての者達で魔王に立ち向かう、それが魔教団の目的だ。
だが、その事を知っているのはその創始者達だけだ。
そんな夢みたいな事を信じさせるには、魔教団にはまだ実績が足りない。
だからこそ、力をもってこの大陸を制圧しなければならないのだが、その中で勝手な事をする輩もやはり出てくるのだ。
差別され、抑圧された感情が爆発して非道な事をする魔法使いも少なくない。
それはルシラにとっても頭の痛い事だが、それを容認している者が居るのも事実だ。
むしろルシラの方が穏健派と言えるのが実情だ。
「フン、言葉に詰まった時点でお前も自分の言ってる事が詭弁だと言ってるようなもんだ。そんな連中に俺様の女を好きにさせるつもりは無いぞ」
ランスが戦うのは常に女のため、それは一貫して変わらない。
どんなに不利だろうが無謀だろうが、自分の女のため、未来の自分の女のためにならばランスはどんな無茶な事だってやり遂げてきたのだ。
「私は何処までもランス様について行きます!」
ジルもハッキリと断言する。
「私はランスを守るのが仕事。邪魔をするなら誰だろうが遠慮はしない」
レンも武器と盾を構える。
それを見てルシラはため息をつく。
「そうか…だが、私達にも退けない理由がある。殺しはしない…だが、腕の一本や二本は覚悟しろ」
ルシラの合図と共に鉄兵達が動き出す。
(流石に数が多いな…)
ランスはそれを見て流石に眉を顰める。
この鉄兵の強さはその肌で実感している。
勿論魔人よりは弱いし、使徒にも及んでいない。
だが、問題なのはその数の多さだ。
しかも感情が無く、痛覚も無いのでいくら傷つけても完全に壊すまでは動きが鈍らないし、止まらない。
頭を潰せば瓦解するような連中でも無い、つまりは非常にやり難い相手だ。
「行け!」
ルシラの合図で鉄兵達が動き出す。
動きは直線的で、ランスにとっては非常に読みやすい。
人間や魔物と違い技能が無く、その頑丈な体と疲れない体で襲ってくるだけだ。
「フン、雑魚が!」
そしてランスは既に相手の体が硬い事、そして魔法に弱い事が分かっている。
ランスはサイゼルと何度もセックスをしていたので、彼女の力が今の剣に強く宿っている。
前までは刀の方に宿っていたが、今は剣の方に宿っている。
「くたばれ!」
ランスの剣が鉄兵の腕を飛ばす。
硬いのは硬いが、それでもランスの腕と今の剣が有れば、人型という構造上脆い関節の部分を砕くくらいは訳は無い。
「まさか…一撃で鉄兵を斬るか…!」
ルシラはそれを見て目を見開く。
鉄兵の強さはアレからさほど変わっていない。
あの時ランスに破壊されたが、それはランスだけが特別だったからだ。
事実、アレから鉄兵が負けた事は無い…それこそ魔法使い以外では鉄兵は無敵だった。
「フン!」
ランスは鉄兵を一撃で戦闘不能にするのではなく、腕や足を斬る事で鉄兵の戦力を確実に削いでいく方法を選んだ。
「成程ね、そういう弱点もあるか! でもそんなの出来るのランスくらいなものだけどね。ライトボム!」
そしてランスに斬られて動けなくなった鉄兵をレンの魔法が吹き飛ばす。
「電磁結界!」
ジルの魔法も鉄兵に十分すぎる程効いている。
やはり魔法に関しては鉄兵には有効。
(…やはり魔法使い相手には厳しい所も有るか。ジルとレンの魔力が凄まじいという事も有るだろうが…これだけはどうにもならなかったからな)
ルシラが敢えてランスと戦う事を選んだのは、未来の敵を想定しての事だ。
それは勿論魔人や使徒、そして魔軍という存在。
魔物の中には魔法を使う奴は当然要るし、魔人も当然魔法を使ってくる。
(でもそこはルーンをもってしてもどうしようもなかった…魔法で動く以上、魔法を遮断する素材で鉄兵を作ることは出来ない)
鉄兵に魔法防御を与えるのは難しいと判断されたのは、そもそもルーンの理論が全て魔法で成り立っているからだ。
そうである以上、ミスリル等といった強力な魔法防御力を持つ素材は使えない。
それに時代が時代なので、魔法を弱点としてもそれは大きな影響にはならないと皆が判断した。
だが、その例外が今目の前にある。
ジルとレン、二人の魔法使いが今正に自分の敵に回っている。
(どうするか…)
ルシラとしてはジルを殺したくない。
だからと言って、ランスを殺しても間違いなくジルは敵に回る。
絶対服従魔法という手段も有るが、それは最終手段だ。
「鉄兵でも押されるか…!」
ランス達の実力を見誤っていた…というよりも、今初めてランス達の力を思い知った。
ランス達は間違いなくバケモノと評していい恐ろしい存在だった。
「さて…準備は整った。我の力、思い知るがいい!」
今の数の鉄兵では突破は難しいかもしれない、そう思った時お町からとてつもない力が感じられる。
「時間をかけ過ぎたか…!」
それは今まで何度か味わった妖怪王の力。
それを発揮させないためにこれまで戦ってきたのだが、ランス達が居る事によって攻めあぐねてしまっていた。
「受けるがいい…大雷撃!」
お町の放った強烈な電撃が鉄兵達に襲い掛かる。
ジルの雷神雷光とは違うが、それでも鉄兵を打ち倒すのには十分すぎる程の威力を持っていた。
「…退くしか無いか」
ルシラは相手の攻撃の射程の範囲外に居たので影響は無い。
だが、それでもかなりの数の鉄兵が戦闘不能になってしまった。
「がはははは! 逃がすか!」
「! ランス!」
ルシラがそう考えていた時には、ランスは既にルシラとの距離を詰めていた。
そのあまりの速さにルシラは顔を青くする。
あれからルシラも強くはなったが、それでもランスに勝てるとは思えない。
ルシラがランスを迎え撃とうとした時、
「そこまでにしてくれないか」
突如として何も無い空間から一人のカラーが登場する。
「退きな、ルシラ」
「ハンティ・カラー…」
現れたのは黒髪のカラーである、ハンティ・カラーだ。
その姿を見てルシラは苦い顔をし、残っていた鉄兵達は動きを止める。
「ランス、ルシラを見逃して欲しい」
「何言ってやがる! 今俺はこいつをぶっ倒せてた所だぞ!」
「そこを何とか頼むよ。今あんたがルシラを殺したら、それこそ魔教団はあんたを殺すべく動くようになる。それだけは避けたいんだ」
「ぬぐ…」
ハンティの言葉にランスは呻く。
別にルシラを殺すつもりは無かったが、それ以外の奴等なら女以外は躊躇いなく殺すつもりだった。
「ルシラも一度退きな。この戦いはもう終わったはずだよ」
「…分かった。ここは退く」
ハンティの気迫にルシラは押されたのか、素直に撤退する道を選ぶ。
ルシラと鉄兵が消えた事で、ハンティはようやくランス達の方を向く。
「久しぶり…っていう状況でも無いか」
「邪魔しやがって…ってあれ? カラーは連中に協力したんじゃ無かったのか?」
ランスは魔教団とカラーが協力するために会っていたのを知っている。
ハンティもそれを否定していなかったので、てっきりハンティも連中に協力していると思っていた。
お町が何か言ってた気がしたが、詳しい話を聞く前に連中が攻めてきた。
「カラーはそうだけど、私は別さ。カラー全体が選んだことなら私は止めないからね。ただ、今回は別の意味で拙い事になりそうな気がするからね」
そう言うハンティの顔は非常に厳しい。
「まあ取り敢えず話はしようか。私なら詳しい話を出来るからね」
「いいの? あなたが私達を巻き込んでも」
レンの言葉にハンティは苦笑する。
「こうなった以上もうどうしようもないからね。全てを聞いたうえで、どう動くかはそっちが考える事さ。ま、少しは時間が稼げたから取り敢えず戻ろうか」
ハンティに促され、ランス達は再び砦の中に戻る。
そして先程お町に案内された部屋へと入る。
「さて…どっから話したらいいかね」
「ハンティ、我が教えたのは現状と発端だけだ。だから最初から話した方がいい」
「そうだね…じゃあバルシン王国が滅んだ所から話すか」
ハンティは嘆息して言葉を発する。
そこには僅かな後悔があるようにも感じられる。
「バルシン王国…って言っても、ランス達は分からないか」
「知らん。というか今の時代の事はさっぱり分からん」
ランスは今の時代になってからも殆どの者達と交流は無い。
「当時の最大の軍事国家、って言うしかないね。まあ魔教団に滅ぼされるまでの最強の国家だと思ってくれて良いさ」
「ふーん。どうでもいいが」
「その軍事国家は滅んだ…たった24体の鉄兵の前にね」
「…! たったそれだけの数に?」
ジルはその言葉に驚く。
鉄兵には関わって居ないが、情報だけは聞かされていた。
強いという事も、その利点に関しても分かっていたが、まさかそれだけの数で一つの国家を滅ぼせるまでの強さだとは思っていなかった。
「そしてそのバルシン王国の跡地に魔教団を作った。それからは世界の統一に向けてあっという間さ」
「ふむ…鉄兵は疲れを知らぬ兵器。それだけでも脅威だな」
ジルの口から彼女とは違う口調の言葉が飛び出す。
「スラルちゃんか。起きたのか」
「ああ。少し前からな。だが、凄まじいものだな。たった24体か」
「その鉄兵を量産して、今の世界最大の国家が有るのさ。魔教団は今や魔法使いだけでなく、この世界の種族からも協力を得ている。カラーもそうだし、ポピンズもそうだ。多分ドラゴンにまで行くんじゃないかな」
「しかし、何故お前がその魔教団と相対する? その必要は無いはずだ。魔教団が有る限りカラーは安泰のはずだ」
スラルの言葉にハンティは首を振る。
「永遠の安泰なんて無いさ。ドラゴンだってそうだったんだ。そして魔教団が滅んだ時、カラーも大変な事になるのは分かってるからね…」
「未来のためか。永遠を生きる黒髪のカラーだからこその悩みか」
「それに…魔教団がやってる事も正直やりきれない所もあるからね」
「何かあるのか?」
「色々さ。特にアンタみたいな強い人間は特にね」
ハンティは苦い顔をする。
「それにあんたを巻き込むのは避けたい。ハッキリ言うと、セラクロラスの力にさっさと巻き込まれて欲しいのが本音さ」
「お前な…」
凄まじい言葉にランスは絶句する。
あのハンティがこうまで言い放つとは思いもしなかった。
「で、気になってたんだけどさ…その子は誰だい?」
「え? あたし?」
変身魔法で姿が変わって見えるサイゼルをハンティは細い目で見る。
「…何かの魔法? ほら」
変身魔法がかかっているサイゼルに向けてハンティは解除魔法を唱える。
それは姿を変えているのが気になっただけなのだが、その真の姿を見てハンティを口を開けて絶句する。
「ラ、ランス…あんたね」
「何だ。こいつも巻き込まれただけだぞ」
「なんだって魔人が一緒に居るのよ! いや、というか何自然に魔人と行動を共にしてるのよ、アンタは!」
ハンティの絶叫は虚しく響き渡ったのだった。
聖魔教団に関しては独自解釈とかが結構入ると思います
というかそうしないと話が書けないです…