ランス再び   作:メケネコ

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世界のバグ

「…で、ホントにただ魔人と一緒に行動してるってだけ?」

「だからそうだと言ってるだろうが。こいつもセラクロラスに巻き込まれただけだ」

「そうよ。別に私は人間達が何しようが別に知った事じゃ無いし。ここで知った事も別に誰かに言いふらそうなんて気は無いわよ」

 ハンティはランスとサイゼルの言葉にため息をつく。

 相変わらず破天荒というか、誰の予想もつかない事をする奴で、この男の事を気にかけるのも本当に苦労させられる。

 だが、ハンティはランスがどういう道筋を立てているのか大体予想出来ている。

 出来ているからこそ、レンというエンジェルナイトはランスに何も言わないのも納得できている。

「大体私達魔人は人間と戦う事は出来ないしね。魔王の命令があるからね」

「絶対命令権か…まあそれを今更疑うなんて事も無いけどさ」

 これが魔教団に知られれば大変な事になるだろう。

 勿論サイゼル自体はあっさりと逃げられるだろうが、問題はランス達だ。

 ルーンが何を言おうと間違いなくランス達を例の計画に巻き込むだろう。

 それだけは何としても避けなければならない。

「お町。私はそろそろ限界だと思うよ。周囲を見て来たけど、皆戦いに疲れてる。降伏しても別に悪い事にはならないさ。それは私が保証する」

「…それならそれで構わぬ。ただ、我としては個人的に気に入らぬだけよ」

「それは分かるけどさ…でも戦いを終わらせるのも王の務めさ」

「全く…我ながら難儀な時に妖怪王として上に立たせられたものじゃ…」

 お町は妖怪王としての誇りから侵略者に戦いを挑んだ。

 皮肉にもその行動はJAPANの者達を一致団結させ、お町は妖怪王としての立場を確固たるものとした。

「じゃが我としてはやはり気がかりな事も有る故、今奴等に捕らわれる訳にはいかぬ」

 お町の顔は真剣で、そこには深い決意を感じさせる何かがあった。

「お町、JAPANで何かあったのか?」

 スラルの言葉にお町は頷く。

「うむ、お主等にとっても恐らくは他人ごとではあるまい。ランスは直接は相対して居ないだろうが、かつてこのJAPANを震撼させた魔人がおった」

「魔人…?」

 サイゼルが目を丸くする。

 魔人となればサイゼルにとっても同じ主に仕える存在だ。

「ああ。魔人ザビエル…奴は一度復活した」

「ザビエル…あいつか」

 魔人ザビエル…ランスにとっても因縁のあった相手だ。

 ランスの友達であった信長の体を支配し、その妹である香を苦しめた存在。

 最後にはランス率いるJAPANの者達に敗れ、リトルプリンセスによってその魔血魂を消滅させられた存在。

(そういやアイツは復活したんだったな…)

 ランスの知るザビエルは瓢箪によって封じられていた。

 そしてザビエルの使徒である藤吉郎によって壊され、ザビエルは信長の体を乗っ取った。

 だが、それはLP期の話であり、今のGI期の話では無い。

「復活したザビエルは天志教の者達によってすぐに封印された。じゃが、一度復活したという事は二度目もあってもおかしくない。そのためには天志教には残ってもらわなければならぬ。ランス、お主が日光と共に奴を殺さぬ限りな」

「魔人ザビエル…って私も殆ど聞いた事無いのよね。JAPANで倒された魔人の恥だって言われてるし。でも、ケッセルリンクはその強さと魔王に対する忠誠心は有るって言ってたような…」

「事実だ。ザビエルは魔王ナイチサの忠臣…傲慢な所から嫌われていたが、ナイチサは奴を重宝していた。尤も、奴がJAPANで倒された後は見限ったようだがな」

 サイゼルの言葉にランスの剣から放たれた声が反応する。

「お、ケッセルリンクか。目が覚めたか」

「ああ。一応剣の中から事情は把握している。面倒な事になっているな」

 剣の中からケッセルリンクが声を出す。

「ねえケッセルリンク。ザビエルってそんなに面倒な奴だったの?」

 サイゼルの質問に剣の中でケッセルリンクは苦い顔をしているのだろう、それが声にも現れる。

「ああ…この世界の全てを憎悪しているような奴だ。それは魔人も例外ではない…だが、魔王ナイチサには忠実で、有能なのは間違い無かった。ナイチサも奴を重宝していたのも事実だ」

「へえ…魔人四天王のケッセルリンクがそこまで言うなんて」

「ハッキリ言えば当時の奴は夜の私を上回っていたからな…それこそ最強クラスの魔人なのは間違いは無かった。だからこそ、奴が倒されたのは私にとっても驚きだったよ」

 ザビエルは嫌な奴だったが同時に有能だった。

 戦士としての才覚は間違いなくあり、当時のケッセルリンクもザビエルには勝てなかっただろう。

 今の自分ならば上回っているだろうが、それも夜という時間だけだろう。

 それだけあの魔人ザビエルは強かったのだ。

「そのザビエルに備えなければならぬという事も有る。確かに魔教団の連中は強い…が、それでも魔人には勝てぬ。無敵結界を何とかせぬ限り、全ての生命体は魔人に傷一つつける事は出来ない。日光、カオスという例外を除いてな」

「魔人…か」

 お町の言葉にハンティも苦い顔をする。

 ハンティは昔の藤原石丸と魔軍の戦いに関しては詳しい事は知らない。

 だが、世界の半分を手に入れた男の軍勢がたった1体の魔人が率いる軍勢に敗れた。

 それだけが事実なのだ。

「ランス、サイゼルと一緒にここを離れる気は無いかい。その気が有るのなら私が話をつけるよ。魔教団の連中にも手は出させない」

 ハンティの言葉をランスは鼻で笑う。

「フン、俺様の女を狙う奴など生かしておかん。ぶっ殺してやる」

「…だろうね。アンタはそういう奴さ」

 ランスの言葉にハンティは苦笑するしかない。

 無茶苦茶な奴だが、ランスはこれまでそうして強力な敵と戦ってきたのだ。

 そしてお町はランスと共に魔人とも、そして魔王とも戦った言葉通りの戦友だ。

 そのお町をランスが見捨てる訳が無いのだ。

「でもね、ルーン達も本気なんだよ。本気で人類を統一して、魔軍に対して備えている。そのためならどんなことでもする。それくらいの覚悟はあるのさ」

「知った事か。俺様の邪魔をするならぶっ殺す。それだけだ」

 

 

 

「そうか…ハンティが…」

「申し訳ありません、先生…彼女は先生の親友なのに」

 フリークはルーンの言葉を聞いて難しい顔をする。

 ルーンは二人の関係を良く知っている。

 ただ、ハンティは決して自分達と関わり合いになろうとはしなかった。

 今の魔教団の幹部の殆どもハンティの事は知らない。

 知っているのは始まりの5人と、ホピンズとして魔教団に協力している彼の一族だけだろう。

「ハンティは儂等より長い時間を生きておる…そのハンティが距離を取っているのじゃから、余程の理由が有るとは思うがの…」

「ええ…それともう一つ、ジルさんが再び姿を見せました」

「そうか…」

 フリークにとってはジルもまた自分の生徒だった。

 魔教団の皆もジルの事を知っており、ルーンと並ぶ魔法使いとして見られていた。

 が、彼女は一人の男ともう一人の女と共に姿を消した。

 それから10年、一度も彼女の話を耳にする事は無かった。

(それはそれで良かったと思っておったのじゃがな…)

 フリークはジルの右腕と右足の事を知っている。

 あの包帯に巻かれた下にあるのは異形と化した手足が有る。

 それは非常に禍々しい力を宿しており、決して人の手に収まるようなものとは思えなかった。

「そして彼も姿を見せました…あの時と変わらぬ力で鉄兵を倒したようです」

「むむぅ…アレから鉄兵もバージョンアップしとるんじゃんがの…」

 鉄兵は普通の人間に倒せる存在ではない。

 事実、バルシン王国との戦いでも鉄兵は一体も倒される事は無かった。

 それだけ圧倒的な存在なのが鉄兵なのだ。

 だが、その鉄兵すらも圧倒する人間はやはり存在するのだ。

 今目の前に居る、ルーカ・ルーンのような超人が。

「ルーン、ルシラが戻って来た」

「ああ、今行くよ。じゃあ先生、失礼します」

「うむ…」

 フリークが愛弟子に向ける視線は不安が有る。

(あのハンティが動くのじゃから、何かしらの理由があるのだろうな。あの男に手を出してはいけない何かが…)

 そう思いながらも、フリークはそれ以上何も言う事は出来なかった。

 

「そうか…鉄兵を簡単に退けるか…」

「ああ。鉄兵は人間と違って疲れないし能力も高い。が、それ以上の相手となるとやはり数が必要になる」

 ルシラの報告にルーンは考える。

 正直に言えばルーンとしてもこの戦いは最早決している。

 いくらランス達が強くても、それ以外の人間が耐えられる訳が無いのだ。

 後は落としどころを互いに模索する段階なのだが、その時になってとんだイレギュラーが現れた。

 しかもそれは鉄兵を容易く砕き、退ける程の力を持っているのだ。

「ルーン、プロトタイプを使う訳にはいかないか?」

「セルジオ…それは」

「何時かは稼働させないといけないのだ。それが今でも問題は無いとは思うが」

「闘将の初戦闘を人間相手に使うという事になるね…」

 セルジオの言っている事もルーンも分かる。

 闘将…それこそ鉄兵の次のステップの存在。

 鉄兵には意思は無いが、闘将には意思が有る。

 それも当然、闘将とは人間を素体にした新たな金属生命体。

 絶対服従魔法によって制御された、疲れを知らない不老不死の無敵の戦士―――それが闘将だ。

 そしてその闘将の上こそが、魔教団の本当の切り札だ。

 だが、生憎とまだその切り札は完成していない。

「ランスが相手なら闘将の性能を図るのにも丁度いいだろう」

「だが…人類との戦いで闘将を使うというのも…」

「それにあの男ならばいい闘将の材料になるだろう。鉄兵すらも剣で倒すあの男ならば、我々としても大きな戦力を得ることになる」

 闘将を作るのにはその人間が生きている必要は無い。

 死体からでも闘将として蘇らせる事が出来るのだ。

「私は反対だ。あの男は危険すぎる。それに、ランスに手を出せばそれこそ黒髪のカラーと敵対する事になる」

 セルジオに対して反対意見を出したのはルシラだ。

 鉄兵が倒された事で戻って来たのだが、再度出撃を要請しに来たのだ。

「ふひひ…ルシラちゃん、その男の事になると結構ムキになるよね」

「そうじゃない、ミュウ。私達の目的はあくまでも人類の統一…そしてその先だ。そのためにも、無用な敵を作る必要は無いし、不必要な犠牲も避けるべきだ」

 ルシラに対して不気味な笑みを浮かべた少女に対してルシラは苦言を言う。

「私はそのランスって人の事は知らないから何も言わないけど…結局はルーンが決める事だよ」

「…ああ」

 ミュウと呼ばれた少女の言葉にルシラは苦い顔をして答える。

 そう、自分達のトップはルーカ・ルーンだ。

 彼の意思で全ては決まる。

「闘将を動かす事は問題無いと思う。実戦テストも必要だとも思う」

「おお…ついに闘将が動くのか」

「でも…彼等を殺すのは避けたいというルシラの言葉には同感だよ。それに不必要な敵は作るべきじゃないというのもその通りだ。それに、闘将の起動の前に彼等を降伏させた方が良いと思う。不必要に力を誇示する必要も無いからね」

 ルーンの言葉にルシラは安心したように頷く。

「なら私にもう一度行かせてくれ。今度は鉄兵を突撃させるのではなく、戦略的に使うさ。鉄兵の強みを生かせばランスでも問題無い。ランスは人間だからな」

「うん、じゃあもう一度頼むよ、ルシラ」

「ああ、それじゃあ私も行きます。情報収集はしないといけないからね…」

 ミュウがニタリと笑う。

「ミュウ…お前の情報魔法が凄いのは分かるが、前に出過ぎるなよ」

「大丈夫だよー私は後ろでコソコソしてるから」

 彼女の言葉にルシラはため息をつく。

 非常に優秀な情報魔法の使い手なのだが、若干性格が悪い所もある。

 頼りになる仲間だが、やっぱり性格に難のある奴もやっぱり居るのだ。

「では行ってくる」

 ルシラはミュウを連れて歩き出す。

 その中で、ルシラはこれから先の事を考えていた。

(今私達に賛同する魔法使いは増えているが、中には下衆な奴も居る…人間だから仕方ないと分かってはいるが、そういう問題もある…)

 組織が大きくなってくれば、当然その中には最悪な奴も居る。

 そういう奴はセルジオに処断される者も居れば、逃げている奴だって居るだろう。

 そして世界を統一すれば、必ずそういう奴は増える。

「ねえルシラちゃん。随分ジルと、彼女を連れてった男に拘るね」

「…私はジルを親友だと思っている。ミュウ、お前もジルの事は知らない訳じゃ無いだろう」

「私は別にルシラちゃん程親しくなかったからね~。例の男が鉄兵を倒した所は見てなかったし。だから私はルシラちゃんの初めての男の事は知らないんだよね~」

 ミュウはニヤニヤとしながらルシラを見る。

「あのな。私は真面目に話をしているのであってな…」

「私だって真面目だよ。セルジオの言う通り、その男を闘将にする事はルシラちゃんは反対なんでしょ? ルーンもそうみたいだけど、拘り過ぎじゃ無いかな」

 笑みを消したミュウが真面目な顔でルシラを見ている。

「あの男は…私達には賛同しないのは分かっている。それに、ルーンだって言ってただろう。黒髪のカラーを態々敵に回す事は無いんだ」

「そうだよねー。そっちの方が問題だよね。まあ私はどっちでもいいよ。でも、世界統一のためには避けられないしね」

「そうだ。もうじきこの世界から争いを無くせる。それまでは突き進むだけさ」

 

 

 

「それにしてもランス、これからどうする気?」

「どうする気とは何だ」

「言葉通り。ランスだって理解してるでしょ」

「フン」

 レンの言葉にランスは詰まらなそうな顔をする。

 魔教団との戦い、それは既に勝敗は決していた。

 これは言わば負け戦、ランスがそれに付き合う道理は無いのだ。

「適当な所でずらかる。ハンティが居るならお町も酷い事にはならんだろ」

 お町もまたランスと共に魔人と戦った仲で有り、見捨てるという選択肢は無い。

 なのでランスも戦ったが、ハンティが居るならお町も酷い目に合うなんて事は無いだろう。

「サイゼル、お前は魔物界に帰らんのか」

「私? 別にあっちに戻ってもやる事なんて無いし…人間に負ける訳無いからどーしようかは考えてるけどね」

「戻っても構わんぞ。万が一お前が連中に見つかると厄介な事になるかもしれん」

「厄介って…人間が私に何か出来るとは思えないけど。カオスと日光も無いし」

「意外とそうでもない。それよりも我はお前の存在が連中に知れる事の方を危惧している」

 スラルとしてはやはり先の事が気になる。

 もう魔教団が世界を統一するのはもう確定的だ。

 そうなった時、奴等はランスをどうするか…という思いも有る。

 もしそこでサイゼルの存在が知られれば、ランスがどうなるか…それが不安なのだ。

「面倒くさいわね、人間って。魔人も魔人で意外と面倒くさいけどね…ま、私はどうあっても手は出せないし、いざとなったら飛んで逃げるけど…」

 サイゼルとしては今の状況は確かに面倒くさい。

 まさか人間の戦争に巻き込まれるとは思ってもいなかった。

 正直言えば、ランスと適当に冒険をして時間が来たら魔物領に帰るかくらいにしか考えていなかった。

「いざとなったら私がアンタ達を連れて飛んで行ってあげるわよ。ケッセルリンクに睨まれるのも嫌だし…」

「問題は連中がランスをどう扱うか、だからね。逃げる準備だけはしとかないとね」

 レンもランスを守るためには逃亡する事も必要になる。

 ただ、魔王ジル時代の魔人に狙われてる状況に比べれば楽だ。

 レンも階級が上がった事により十分に強くなった。

 逃げるだけならば問題は無いとも思っている。

「そう言えばランス。お前はカミーラと特訓をしていたんだろう。一体何の特訓をしていたんだ? いい加減教えてくれてもいいと思うが」

 スラルの言葉にランスはニヤリと笑う。

「まだだ、まだ。だいたいあんな連中に使う必要は無いからな」

 そう言うランスにも、スラルはやはり不満そうな顔をするのだった。

 

 

 

 魔物領―――今の魔人達は魔王の命令により人間に干渉できない。

 その事にストレスを感じている者は多いが、魔王の命令は絶対なので逆らう事は出来ない。

 レキシントン等はトッポスと戦ったりと相変わらず好き勝手している者が居れば、魔王の命令を素直に聞き入れて人間に無関心な者も居る。

 そんな魔物領の地で、魔人カミーラは剣を支えにして荒い息をついている1人の存在を見下ろして居た。

「どうした。お前の力はその程度か。私は無敵結界を使っていない。それでもお前は私に傷一つつける事は出来ない。それが現実だ」

 荒い息をついていた少女は歯を食いしばって立ち上がる。

「フン、相変わらず容赦の無い女だ。それでも親か」

「親である以上にお前と私はドラゴンだ。ならばこそ、お前は強くなければならない」

「ドラゴン、か。そんな事はどうでもいいが、それ以上にお前が気に入らない」

 その言葉にカミーラはその唇に微笑を浮かべる。

「いい言葉だ。来るがいい…お前はまだあの男に遠く及ばない。このカミーラに傷一つつける事すら出来ない」

「フン、上等よ。その傲慢さ、しっかり後悔させてやる!」

「ならば来い、ルナテラス。我が娘よ」

「はあああああああ!」

 ルナテラスと呼ばれたドラゴンが剣を振るいカミーラに斬りかかる。

 カミーラはそれを片手でいなし、その強烈な爪を振るう。

 その光景をはらはらした顔で見ている使徒が居た。

「ううう…七星、本当に大丈夫なの? カミーラ様、本気だよ」

「だろうな。カミーラ様は本気であの方を鍛えている。恐らくは己とは違う道に進ませるためにな…」

「ボクはその辺の事知らないし…ルナちゃんもルナちゃんでカミーラ様に向かって行くし…」

「ルナ様は流石にランス殿とカミーラ様の子だ。日に日にその力をつけて行く」

 七星は争い合う親子を見て複雑な顔をする。

 それは今から10年前―――カミーラが今の魔物領と呼ばれる所に戻って来てからの事だ。

 別にカミーラが何をしていのか、それを気にするのは誰も居ない。

 ケイブリスが煩いくらいだが、カミーラはアベルとの戦いで結構な怪我をしていたので、怪我の療養という事で己の城に籠っていた。

 事実、ドラゴンであるアベルとの傷は中々治らないのでカミーラとしても、体を癒す時間を作りたかったのは本音だった。

 ただ、戻って来てからのカミーラの生活は少し変わった。

「あの…これ、カミーラ様のお好きなワインなんですけど…美味しく無かったですか?」

 ラインコックはカミーラがワインを残したのを見て怯えた声を出す。

 もし主の気分を損ねたら…それがラインコックが一番恐れる事だった。

「気分ではない…というだけだ。ラインコック、お前のせいではない」

「は、はぁ…大丈夫ですか? カミーラ様。戻って来てから体調がすぐれないようですけど…」

「問題無い…いや、問題無いはずだ…」

 カミーラも己の体調は自覚している。

 少々体の異変があるが、カミーラは意に介していなかった。

 が、その顔がどんどんと無表情になっていくのには魔人にとってそう時間がかかる事でも無かった。

「カミーラ様…」

 七星はカミーラの姿を見て絶句するしか無かった。

 そこにはあり得ない事が起きていた。

「…あり得ぬ事だ。私が魔人になったからこそ、ドラゴン共は争う事が無くなった」

 カミーラは世界に残った唯一のドラゴンの女。

 しかし、それも魔人になった事で繁殖力を失い、ドラゴンからも無価値を判断された。

 それこそがカミーラの精神が歪んだ一番の原因だった。

「し、しかし…」

「言うな、七星。私にも分かっている」

 カミーラの腹は明らかに膨れている。

 そう、カミーラは妊娠しているのだ。

 魔人になって失ったはずの事が今起きているのだ。

「こ、これはどうするべきなのか…魔王に伝えるべきなのか…」

「いや、魔王には伝えるな。面倒な事になるのは目に見えている。問題なのはあの愚か者共よ…」

 カミーラは憎々し気に唸る。

 今のカミーラにとってドラゴンは憎悪の対象でしかない。

「相手は…」

「あの男以外に考えられぬ…思えばアベルもそれを狙っていたか…いや、それは無いか」

 あのアベルの思惑かと思ったが、流石にそれは考えすぎかと思いため息をつく。

「だが、これは事実だ。事実ならば…受け入れるしかあるまい」

「カミーラ様がそう仰せられるのであれば…しかし、問題なのはこの先です」

「フン…」

 そしてまた数か月が経過し―――カミーラは子を産んだ。

 それも女性のドラゴンを。

「カミーラ様…」

 七星は青い顔をしている。

「…まさかこんな事が起きるとはな」

 その子はカミーラによく似ている。

 成長すればカミーラと同じような姿になるのが分かるほどに整っていた。

「七星。この事は口外は許さぬ。この子はこのカミーラの使徒…そうだな」

「はっ、その通りです。この娘はカミーラ様の使徒でございます」

 七星はカミーラの言葉の意味を理解する。

 この子供をあの『ドラゴン』に奪わせるわけにはいかない。

 そしてカミーラが子を産んだとなれば、ドラゴンが何をしてくるか分からない。

 更にはそれは魔王とドラゴンの決闘という、アベルとマギーホアの戦いが再び起きかねない。

 無敵結界があるので勝つのは魔王なのだろうが、相手はあのマギーホアだ。

 魔王を力で下す事が出来るのがドラゴンの王なのだ。

 そうなれば世界は荒れるのは間違い無い。

「そして…このカミーラが直々にお前を鍛えてやろう」

 そう言うカミーラの目は何処か楽しそうだった。




最初は名前はエリザベートにしようかと思ったけど、
普通にキャラとしていたよな…ってなった
ちなみにランスは魔人だろうと妊娠させられる可能性があるという正に世界のバグなので
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