「ねえルシラちゃん。そのランスって人、そんなに強いの? ルーンが警戒するくらいに」
「ああ。私はあの男よりも強い人間を他に知らない。10年前からな」
同志の言葉にルシラは過去を思い出す。
あのランスの力はその場で見た者にしか分からないだろう。
自分も無謀にもあの男に戦いを挑んだが、相手にすらならなかった。
「恐らくはセルジオですら相手にならないだろうな。それくらいの強さが有る」
「セルジオよりも…そんな人間がよく10年間も目立たずに暮らしていたね」
ルシラの言葉にミュウも感心したような呆れたような声を出す。
「で、ルシラちゃんってそのランスって人に処女奪われちゃったんだよね。だから拘ってるの?」
「べ、別に拘ってる訳では無い! 大体何で私がその…処女を奪われたとか知ってるんだ」
「だって戻って来てから歩き方怪しかったし、結構気づくよ。ああ、でも恨んではいないんだよね?」
「…ああ。別に私はランスを恨んでいない。私の自業自得だったからな…」
ランスに犯されたのは完全に自分が悪い。
自分の力を過信し、勝てもしない戦いを挑んだ報いだからだ。
「だからルシラちゃんはあの計画にランスって人を巻き込むのが反対なの?」
「別にそれがあったから反対している訳じゃ無い。ジルの事もあるからな…」
ルシラとしてはランスを闘将とするのには反対だ。
もしそうなったら、間違いなく教団とジルは完全に敵対する。
それにあの男を闘将にするのにどれだけの犠牲が出るか分からない。
魔軍に対抗するための措置なのに、人間相手に犠牲を出すのでは本末転倒だ。
「だからこそ話し合いで終わらせたい。それにセルジオは闘将ならばランスを倒せると思っているのかもしれないが、そう簡単に行くほど容易い相手じゃない」
「だから鉄兵をこういう使い方をしてるんだ」
「言っただろう。必要の無い犠牲を出す必要は無いと。話し合いで戦いを終わらせられるのならそれに越した事は無いんだ」
ルシラは鉄兵を使い、嫌がらせに徹していた。
昼夜を問わない鉄兵の攻撃で相手の精神を削り、その上でこれ以上の戦いは望まない事をこちらから申し出る。
力づくで征服する必要はもう存在しないのだ。
「妖怪王はどうするの? 彼女の身柄、皆欲しがるでしょ。研究材料として」
「私としては彼女をどうこうするつもりは無い。それに研究材料にでもしてみろ、それこそJAPANの統一なんて不可能だ。まさかJAPANの人間を殺しつくす訳にも行かないだろう」
「そうだね。私達の目的はあくまでも魔王と魔人な訳だしね」
「そうだ。だから嫌がらせのような戦いだろうが、それがベストならそうするべきだ」
「相手を眠らせないための出陣や不安を煽るような行動、まあこれも使い方だよね」
ミュウは情報魔法を用いて、今回の戦いの結果を記載していく。
これもまた次の戦いのための立派な情報だ。
「問題はランスだな…素直にこちらの言葉に耳を傾けてくれればいいか…」
そういうルシラの顔には『そんな事は無いのだろうな』という達観の表情が浮かんでいた。
「うがああああああ! 鬱陶しいぞ! 連中は!」
そして当然のようにランスは爆発していた。
魔教団は鉄兵という圧倒的な存在が居るにも関わらず、夜襲を行ったり攻撃すると見せかけて逃亡したりといやらしい行動をしてきている。
勿論それらも戦術、ランスだって同じような事を躊躇いなくやるだろう。
ただしやられると怒る、ランスはそういう男でもある。
「ホントね…人間同士の戦争ってこんな感じなの?」
サイゼルの方もイライラしているのを隠さずに言い放つ。
「戦い方を変えたのじゃろうな。狙いをランスと我に絞っておる。正直に言えばもう降伏しても誰も文句は言わぬくらいまでに追い詰められておる」
お町が深刻そうな顔をする。
「じゃが、完全に降伏というのも癪な話よ。一度くらいはやり返さねば腹の虫がおさまらぬ」
ただ、お町も結構腹が立っていたようで、その言葉には棘が有る。
「私が番をしてるからいいじゃない」
「そういう問題じゃ無い! せっかくの俺様の時間を無駄に消費させられているのが許せんのだ!」
「ああ…そういう」
鉄兵の夜襲によってランスは休めない、というのもあるがそれ以上にやはり夜のセックスを邪魔されているのが不快だった。
何しろランスはエッチをしないとすぐにイライラする性格なので、それも無理も無い事だ。
相手はそれを知ってか知らずか、疲れを知らない鉄兵を使ってランス達の精神を削る作戦に出た。
それは効果的で、ランスも既にイライラが限界に達しつつあった。
「うぐぐ…もう引きこもってるのはやめだ。とっとと頭を潰すぞ!」
「まーた無理を言う。そう簡単に行かない事は分かってるでしょ」
「やってみなければ分からんだろうが。とにかく行くぞ!」
「はいはい」
ランスの精神も限界が近そうなので、レンも同意するしかない。
相手が魔人では無いので、レンとしてはランスを守るのも結構容易い。
「私も行くわよ。私も結構頭に来てるのよね…」
サイゼルは元々短気な魔人、その性格からこっちもイライラしていないはずがない。
ただ、レンはサイゼルが何故イライラしているのかは分からなかった。
「という訳で行くぞ」
「行くのは良いけど…大丈夫な訳?」
ランス達はここから出撃する事をハンティに告げる。
「いい加減奴等を叩き潰さんと俺様の気が済まん」
「いや、アンタはそれで良いだろうけど…お町も良いのかい?」
「我とて奴等に一撃を加えてやらんと気が済まん。我とて別に気が長い訳では無いからな」
「まあいいけど…でも自分で責任は取れるんだろうね」
ハンティの言葉をランスは鼻で笑う。
「俺様があんな連中に負けると思うか」
「…ま、それもそうだと言えばそれまでだね。まあ好きにしなよ。骨は拾ってやるさ」
「フン、言ってろ」
そう言ってランス達は砦を出る。
もう皆が疲れ切っており、ここももう持たないとはランスも思っている。
「うーむ、もう限界か」
「ランス様…」
「お町の身柄が無事ならJAPANがどうなろうが俺様は構わんからな」
「そ、それは酷いのではないでしょうか…」
ランスの言葉に流石にジルは引き気味だ。
だが、これがランスという男なので付き合いの長い者達は何も言わない。
「それにどっちにしろ負けだからな。何時までも沈む船に乗る必要は無い。とっとと終わらせて逃げるのが一番だ」
「問題なのは連中の目的がランスだった時だ」
「あれ? スラルちゃん?」
「ああ。奴等の戦い方が変わったのは明らかにお前を意識しての事だ。これらの行動も、お前を誘い出すため、又はお前に正常な判断をさせないためという可能性もある」
「考えすぎじゃない? いくら何でもランスの為だけにそんな事をするというのは不自然だと思うけど」
レンの言葉にスラルは苦虫を噛んだ顔をする。
「魔人だって同じことをするんだ。人間だって同じことをしてもおかしくは無いだろう」
「そういやそうか。カミーラもやるかって言われたらやるでしょうし」
「カミーラってそういう奴なの…?」
ランス達の言葉を聞いてサイゼルは驚愕する。
カミーラとは親しいという事は無いが、ランスとは何度もやりあっているという事をケッセルリンクから聞いた事が有る。
サイゼルからしたら『あの』カミーラに狙われるなんて不幸な奴だなあと思った事もあったが、今ならばそれがどんなに異常な事か分かる。
同時に、あのカミーラがそこまでランスに執着しているという恐ろしさも感じていた。
「む、居るな」
何かの気配を感じ取ってランスの足が止まる。
「…そういや前に私が居るの分かってたみたいだけど、何で分かるの?」
「勘、と前なら言ってたが、今は何となくだが分かる。しかもあいつらは人間や魔物の気配とは違うから丸分かりだ」
「随分と恐ろしい勘ね」
サイゼルは改めてランスの恐ろしさを理解する。
魔人である自分が全く感じられない事をこの男は感じ取っているのだ。
だからこそ、これまで多くの魔人、そして魔王と戦っても生き残ってこれたのだろう。
「来たわ!」
レンの言葉と同時に四方から鉄兵が姿を見せる。
だが、この前とは違い無闇に襲ってくるのではなく、こちらとの距離を測るようにじりじりと詰め寄って来るような感じだ。
「フン、どれだけ来ようと雑魚は雑魚だ」
ランスが剣を構えると、ランスの視線に一人の女性が見える。
「む、ルシラか!」
それはルシラであり、この戦いの指揮官であるのは間違い無かった。
「がはははは! 奴を捕らえれば終わりだ!」
そしてランスはこれまでのストレスからか、何も考えずにルシラに向かって行く。
それを見たルシラは踵を返して逃げていく。
「がはははは! 待て!」
「ちょっとランス!」
レンが怒鳴るが、ランスは聞く耳をもたず追って行く。
同時に周囲を取り囲んでいた鉄兵が動き始める。
「サイゼル! ランスを追って!」
「ちょっと! 私に命令しないでよ!」
「アンタしかランスを止められる奴が居ないのよ!」
「ああもう! 人間って本当に面倒くさい!」
レンの言葉にサイゼルは怒鳴りながらもランスの後を追って行く。
鉄兵が襲い掛かるが、サイゼルの無敵結界に弾かれるので何も問題は無い。
残されたレンとジルだが、
「まあ魔法には弱いし何とかなるでしょ、ジル」
「はい、大丈夫です!」
残された二人は鉄兵を相手を相手にも全く退く様子は無かった。
「がはははは! 逃がさんぞ!」
ランスはルシラを追って行く。
そしてルシラも足を止め、ランスと向かい合う―――所でランスは気づく。
「む」
周囲に何かの気配が有るという事を。
そして無数の鉄兵がランスを取り囲んでいた。
「…やれやれ、呆れるくらい単純」
「何だと」
ルシラの隣に現れた少女がランスを見て侮蔑したように声を発する。
そこには明らかに馬鹿にしている棘があり、ランスもそれを感じ取りムッとする。
「久しぶりだな、ランス。こんな状況だが、まさかまたお前と会うとは…正直思っていた。ただ、私の予想よりも遥かに後だったが」
そしてルシラもランスに声をかけてくる。
「ランス、私は別にお前と無理に争うつもりは無い。JAPANとの戦いももう終わる。私達もお前をどうこうしようとするつもりは無い。だから引いてくれないか」
ルシラがそう言うと、無数の鉄兵が現れる。
「まだ居るのか。一体どれだけいやがるんだ」
「これが私達の力だ。いくらお前でも勝ち目は無い。お前だって必要ではない戦いなんてしないだろう。私達は妖怪王にも手を出すつもりは無い。この戦いを本当に終わらせたいだけだ」
ルシラは本気だ。
人類の統一をするのも先の未来を見据えての事。
鉄兵は確かに軍事力になるが、その矛先は本来は魔物に向いて居るのだ。
鉄兵が人間と戦うのはこれが最後、それが魔教団の共通の思いなのだ。
「でもルシラちゃん。私はデータが欲しいんだけどな」
「ミュウ、私達の目的とお前の趣味を混同させるな」
「…私は彼が鉄兵を破壊した所を直接見た訳じゃ無いからね。不公平でしょ」
「戦争をそういう目で見るなと言っているんだ。そういう目で戦争を見るようになれば終わりだぞ」
「はーい。ルシラちゃんは本当に真面目なんだから」
ルシラが本気でそう言っているのを察し、ミュウと呼ばれた長い髪の少女はため息をつく。
「お前等、何勝手な事言ってやがる」
ランスとしては上から目線で物を言う奴等が気に入らない。
それはランスが嫌っている事であり、そういう奴は必ず女ならオシオキ、男ならば叩き斬って来た。
(まあ別に俺様がこんな下らん戦いに参加する意味ももう無いか)
同時にランスもこの下らない…実りの無い戦いは飽きてきた。
何しろ相手は鉄の人形、倒しても褒美は無いし、何より面倒くさい。
別に自分が狙われている訳でも無いし、お町もハンティの口添えがあれば大丈夫だろう。
そうなるとランスももうすんなりと退いてもいいかなと思っていた時だった。
「甘いぞルシラ。この男は捕らえるべきだ」
「セルジオ!?」
そのルシラの横から体躯の良い男が現れる。
「どうして? ここは私が任されたはずだ!」
「全ては魔教団のためだ。この男こそ素材に相応しい奴だ。やれ! 鉄兵!」
セルジオの言葉と同時に、大量の鉄兵がランスに向かって来た。
「チッ!」
突然の襲撃にもランスは見事に反応する。
が、何分数が多すぎるので、ランス程の力が有っても危険な数でもある。
鉄兵の攻撃をランスはいなすが、左右からも鉄兵が襲い掛かって来る。
ランスは何とか攻撃を避けるが、それでも数が多いので鉄兵の拳がランスの体に突き刺さる。
「うげ」
ランスもレベルが高いので体力も相当に高い。
が、それでもこうまで連続して襲われては危ない。
「邪魔だ!」
ランスは何とか鉄兵を斬るが、やはり一撃では鉄兵を倒すのは今のランスでも難しい。
「もう! 何なのよ!」
ランスを追って来たサイゼルも鉄兵に襲われる。
サイゼルは無敵結界を発動させないようにして何とか攻撃を避ける。
「セルジオ! 余計な敵を作る必要は無いと言ったはずだ! それにお前はアレを使うと言ってただろう!?」
「ケースバイケースだ。今の状況で倒せるならばそれで良いだろう」
「だ、だが…!」
セルジオの言葉にルシラは憤るが、もうどうしようもない。
セルジオの方がルシラより命令権が上なので鉄兵に対する命令が出来ない。
その数にはランスも流石に追い込まれていく。
ランスももうキレ気味になっていたが、それ以上にキレてしまった者が居る。
「あああああ! もういい加減にしろ!!」
それは当然サイゼルだった。
元々サイゼルは短気な性格だし、人間だってよく思っていない典型的な魔人だ。
そもそもサイゼルは面白そうだからランスについてきただけで、この戦いには完全に巻き込まれただけだ。
ハウゼルからランスと一緒に冒険したという話を聞かされ、ちょっと興味が湧いていた。
そこをたまたま再会したランスに誘われ、どんな事が起きるか、そしてその後はエッチなんかもしちゃったりとか思っていたのだ。
だが、それは完全に崩壊してしまった。
しかもこの戦争ではランスとエッチも出来ないし、サイゼルは『なんで私こんな事してるんだろ』と常々思っていた。
そしてそれがついに爆発したのだ。
「ランス! 剣!」
「何だ急に!」
「いいから! 剣!」
サイゼルは周囲に群がる鉄兵を弾き飛ばしランスの側に行く。
そのままランスの手の上に自分の手を重ねる。
すると強烈な冷気がランスの剣へと集まっていく。
「お、こいつは…!」
「やっぱり…! この剣、私の力を貯められるんだ…!」
ランスとセックスをした事でサイゼル・ハウゼル姉妹の力はこの剣にも宿った。
そして体を重ねるごとに、その力はどんどんと増していった。
ランスと再会してから、サイゼルはかなりの頻度でランスとセックスをしていた。
レンやジルともセックスをしていたので毎日という訳では無いが、それでもかなりの頻度で体を重ねていた。
今のランスのメインとなるロングソードは青い輝きを放っており、冷気の力を感じ取れる。
サイゼルはそれが自分の力で、前に剣が紅かった時がハウゼルの力なのだと本能で察した。
だが、エッチではなく直接自分の力を送ったらどうなるのか、とも考えてしまった。
それは何の考えも無い、唯の興味でしか無かった。
だが、今ランスが危機な事、そして自分にストレスを与えてくる相手に対してとうとう爆発した。
(私は人間に手を出せないけど、人間に手を貸してはいけないなんて言われてないし!)
魔王から人間に手を出すなと言われているので、直接人間を攻撃する事は出来ない。
でも、人間に手を貸してはいけないとは言われていない。
そもそも魔人が人間に手を貸すのがあり得ない事なので、魔王もそんな事は言わなかったのだろう。
「おお…凄い事になってきたぞ」
「ええ…まさか私の力がここまで乗るなんてね」
ランスの剣からは、ランスですらも感じ取れるほどの魔力が放たれる。
サイゼルも自分の力がまさかここまで放たれるとは思ってもいなかった。
(これって…私のクールゴーデスと同じように私の力が乗る。どうなってるの?)
サイゼルは自分が破壊神ラ・バスワルドの半身なのは知らない。
だから何故ランスの剣が自分とこんなに関係が有るのかは分からない。
でもそんなのは今は関係無い。
これがあればあの生意気な人間達を蹴散らせる、それがサイゼルには重要なのだ。
「ランス、行けるわよ!」
「フン、元々俺様だけでも余裕だ」
「よく言うわよ。ま、でもやってきなさい」
サイゼルはランスの剣から手を離す。
ランスの剣にはサイゼルの力が乗り、その刀身からは青白い冷気が目に見える程に放たれていた。
それを見ていたルシラ達は背筋が凍る。
「な、何だアレは…!?」
「ば、バカな…あれではまるでルーンの力…」
「信じられない…剣と魔力が融合している…」
セルジオ、ルシラ、ミュウは凄まじい力を放っているランスの剣を見て驚愕するしかない。
「…! セルジオ、ミュウを連れて逃げろ!」
「ルシラ!?」
「いいから早く! あの男はお前なら確実に殺す! だが、私なら殺されない!」
「ルシラちゃん!?」
「行け! ここでお前達が死ぬ方が問題だ!」
ルシラは尚も何かを言い放とうとする二人を無視し、鉄兵と共にランスに向かって行く。
「がはははは! 俺様の前に立ち塞がった己の愚かさを呪え! ラーンスアタタターーーーーーック!!」
それは最早氷の嵐としか表現できなかった。
サイゼルのクールゴーデスから放たれる極寒の冷気がランスの必殺技と合わさり、サイゼルが個人で放つクールゴーデスと互角…いや、それすら上回る嵐となって放たれたのだ。
「な…」
「嘘…これ、ルーンの魔法と互角…ううん、それを上回る程の…!」
ルシラに言われて何とか退避してたセルジオとミュウはその氷の嵐を見て茫然とするしか無かった。
氷の嵐に巻き込まれた鉄兵は全身が凍り付いている物もいれば、全身に氷柱が突き刺さりぐちゃぐちゃになっている物もある。
ランスの側に居た鉄兵に至ってはもっと悲惨で、その闘気と冷気に巻き込まれたのか、全身がバラバラになった挙句にその体は完全に凍り付いている。
「く…退くぞ!」
「ルシラちゃんはどうするの!?」
「奴は女は殺さんはずだ! 何とかする!」
セルジオはミュウを抱えて急いで退散するしかなかった。
あの圧倒的な暴力の前には魔法使いも何も無い。
立ち向かった所で氷像になるか斬り殺されるのがオチだ。
「あ…く、あ…」
そしてその氷の嵐の中でも何とか生きている人間が居る。
ランスの剣は魔法では無いので必中ではない…が、あの範囲では避けるなんて不可能だった。
全力で防御魔法を展開する事で何とか生きていた。
「お、無事だったか。ま、お前には手加減してやったからな」
凍り付いた道をランスは鉄兵を踏み砕きながら平気で歩いてくる。
「てか…げん…」
「おう。お前が飛び込んできたからな。ギリギリ当たらないようにしてやったんだ。有難く思え」
「あ、相変わらず…バケモノめ…」
あの一撃を放ちながらも、自分の動きを見て当たらないようにしてやったという。
つまりその余波だけで自分は今動けずにいるのだ。
「相変わらず…無茶な奴…」
そう言ってルシラは意識を手放した。
「うお、冷たいな。ま、死ぬことは無いだろ」
ランスはルシラを担ぐと、そのまま歩き始める。
「うーむ、まだ力が残っているな。お前が直接やったからか?」
「そうかもね。私も腹立っちゃって過剰にその剣に力を渡したからさ」
サイゼルの言葉にランスは改めて剣を見る。
サイゼルとセックスをしてからずっと青い剣になっていたが、サイゼルに力を渡されたからか、その剣にはバスワルドを思わせる装飾が浮き上がり、剣の色は更に深い青に変わっている。
「まだアレが出来そうな感じだな」
「うーん、我ながら凄いと思うわ。でもそれ以上に不思議な力を感じるのよね」
サイゼル自身もそれは不思議だったが、難しい事を考えるのは自分らしくないと思ったのか、
「ま、いいか」
そう言って考えるのを止めた。
「そ、それよりもさ」
サイゼルは顔を赤くしてランスの服の袖を掴む。
「か、勝ったから暫くは連中も来ないでしょ。だ、だからさ…」
「がはははは! そうだな、連中も流石に来ないだろ。じゃあしっぽり楽しむか!」
ランスも久々に上機嫌の笑いを上げるのだった。