ランス達がのんびりと過ごしていた時、突如として予期せぬ訪問者が現れる。
「お久しぶりですね、ランスさん」
それこそ魔教団のトップにして、鉄兵を作り上げた稀代の天才であるルーカ・ルーン率いる魔教団の幹部だった。
だが、この場には唯一ランスと面識があるフリークの姿は無い。
JAPANも既に魔教団の領土、そのトップがここに居ても全くおかしくは無い。
そのトップの突然の訪問に誰もが驚いた―――この男以外は。
「誰だお前」
「えー…私です。ルーカ・ルーンです」
「知らん」
ランスはあっさりとルーンの言葉を切り捨てる。
その様子にルーンは困惑した様子で頬をかく。
「あの…10年前に一度だけ会っているのですが…覚えていませんか?」
「男なんぞ覚えていない。覚える必要も無い」
そう言い放つランスに対し、ルーンは『あ、こういう人なんだ…』と思い知る。
「まあ一度だけの出会いでしたから…一緒に魔軍と戦ったのですが、それでも思い出せませんか?」
「そんな事あったか?」
ランスは本気で覚えていないという感じでジルを見る。
ジルもランスが本当に覚えていないのを察し、ルーンに対して頭を下げる。
「ごめんなさい。ランス様は本当に覚えていないみたいで…」
「うーん…私としては忘れられない経験なのですが…いえ、それにしても皆さん変わりませんね」
ルーンはランス達の姿を見て本当に驚いていた。
何故ならランス達の容姿は10年前に別れた時と全く変わっていなかったからだ。
自分はアレから10年経ち、年相応に姿になったと思っている。
だが、ランスもジルもレンも当時と全く変化が無い。
若々しい姿のまま…それこそ人とは思えない事だ。
それは不老不死の存在…魔人や使徒でなければあり得ない事だ。
(でも彼等が使徒だなんてありえない)
ルーンにも確信は有る。
彼等は間違いなく人間なのだと。
「で、男が俺様に何の用だ」
ランスは露骨に嫌そうな顔をしている。
「貴様…本当に変わらんな」
ルシラは相変わらずのランスの態度にため息をつく。
10年という時間は人を成長させるのに十分な時間のはずだが、この男は全く成長していない。
ただ、ランスの隣に居るジルとレンも全く成長していない。
前に会った時から不思議だったが、一体どういうことなのかと思う。
しかし聞いても教えてくれないのだろうという事は分かる。
「前に私と話した事を覚えていますか?」
「? お前と何か喋ったか? そもそも会った事すら無いだろ」
「ほ、本当に覚えていないんですね…あ、あの、もしかしてとは思いますが、まさかジルさんとレンさんは私の事を忘れたなんて事は…」
「あはは…私は覚えていますよ。ルーカ・ルーンさん」
「私も一応ね」
流石に共に魔法学院に居た二人が自分を覚えていた事にルーンは安堵する。
「前に私は言いました。私達と共に協力する事は出来ませんかと。アレから10年経ち、私達魔教団は世界を統一しました。改めてあなたの考えを聞きたいです、ランスさん」
ルーンの言葉にランスは何を言ってるんだと言わんばかりに呆れたため息をつく。
「もう終わっただろうが。今更何かやる事でも有るのか」
世界を統一したならそれはもうゴールだ。
これ以上もう何もやる事は無い…そこからは政治の話であり、そんな事はランスには全く関係無かった。
「いえ、それから先の事です」
「先?」
「はい。私達の目的は真の意味での人類の解放…即ち魔王の脅威から人類を解放する事です」
「ふーん」
ルーンの言葉にランスは全く興味が無さそうな顔をしている。
それにはルーンが連れてきた幹部―――セルジオ、ルシラ、そして後の闘神Λとなったダムドの表情が変わる。
この男は未来を見る事も出来ないのか、そう言わんばかりの表情だ。
「やるならお前達だけでやればいいだろ。俺様は関係無い」
「…世界の者達が一致団結しなければ魔王はおろか魔人にも勝てません。そしてあなたの力ならば魔人にだって対抗出来るはずです」
ルーンの言葉をランスは鼻で笑う。
「言っただろうが。やりたきゃお前達だけでやれ。俺様を巻き込むな」
ランスは何処までもルーンの言葉を拒絶する。
「やっぱり無理ですか?」
ルーンは困ったように眉を顰める。
無理ではないかとは正直思っていた。
でも、こうして真正面から断られるとやはり精神的にも来るものがある。
「当たり前だ。何で俺様がそんな事をしなければならんのだ」
「まあ…確かにそうですよね」
ランスの言っている事は別に間違ってはいない。
魔人、そして魔王と戦うと言っているのは魔教団の者達だけだ。
事実、魔王がガイに変わり人類が魔王の支配から解放されてからは、魔人が人間達の間で暴れた事は無い。
モンスターが暴れてはいるが、魔軍のように統率された集団が現れる訳でも無いし、被害は局地的なものでしかない。
今の時代を生きる人間にとっては魔王も魔人も御伽噺の雲の上の存在なのだ。
脅威であっても、その脅威が襲い掛かって来ることは無い、それが今の世界の常識だ。
「分かりました。これ以上はもうあなたを誘いません」
なのでルーンはきっぱりと諦める事にした。
確かにランスは強い…それこそ鉄兵の集団を倒せるのは魔法使い以外ではランスくらいだろう。
それ故にその力を永遠に振るう事が出来れば…と思ったが、本人は納得しないだろう。
絶対服従魔法で従える手段も有るが、そうした場合のリスクが大きすぎる。
あくまでも目的は魔王率いる魔軍、人類とその協力者たちで争う必要はもう無いのだ。
「最初からそう言え。全く、無駄な時間を過ごしたぞ」
「ははは…申し訳ない。ですが、私達はまだあなたに話が有ります」
「俺様は無い。とっとと失せろ」
犬でも追い払うような仕草を見せるランスに対してもルーンは気を悪くしない。
後ろのメンバーの顔は険しくなっているが、リーダーであるルーンが何も言わないのだから、自制している。
「私達はこれから魔物達を追い返すために動きます」
「だからそんな事俺様には関係無いだろうが」
「そのためにも…テストをしないといけません」
「お前、人の話を聞いてるのか」
「私の頼みとは、そのテストにランスさんに付き合って欲しいんです」
「やかましい! いい加減にしろ!」
ランスを無視して言葉を続けるルーンに対し、とうとうランスはキレる。
元々短気な性格だし、それは当然の事だった。
「まあ待て、ランス」
そして意外にもランスを止めたのは、その隣に居るジルだった。
(…ランス?)
ルシラはジルがランスの事を『ランス』と呼び捨てにした事に違和感を覚える。
ジルは一貫してランスの事を『ランス様』と呼んでいたはずだ。
(昔からジルは二重人格なのではないかと思った事もあったが…)
ルシラはジルとは魔法学院で親しかった自信がある。
ただ、時にそのジルがまるで別人のような振る舞いをしている事があった。
口調も違っていたし、雰囲気も違う時があった。
今のジルはそのもう一つの一面の彼女だ。
ジル―――スラルはランスの耳元に口を近づける。
「これはチャンスだ」
「何がだ」
「ここからは我に任せてくれ。上手くいけば、お前の一つの問題を解決できる」
「何の事だ。まあいい、スラルちゃんがそう言うのなら何か考えが有るんだろ」
スラルはランスよりも遥かに長い時間を生きている。
そのスラルが言うのだから、ランスにとっても悪い話でも無いのだろう。
「そのテストを受ける事に何かメリットはあるのか?」
「メリット…ですか。いえ、それは無いですね」
「無いなら無理だな。どれだけ好き勝手言っているかお前達も分かっているだろう」
「まあ…確かにそうですね」
ルーン自身、自分達が好き勝手言っているのは分かっていた。
ただ、そうしなければいけない理由があるのも事実だ。
今の魔法使い達は、魔法を使えない者達を『蛮人』と呼び見下している。
その傾向は魔教団の幹部達も同じで、ルシラのように魔法を使えない者も認めている者の方が少ない。
ルシラ本人も、ランスと出会わなければそうなっていても不思議ではない。
そんな者達をルーンは制御しなければならない。
それもまた人の上に立つ者の務めだ。
「まずはテストの内容を話せ。受けるのはそれからだ」
「あ、そうですね。テストとは単純で、私達が新たに作成したものと戦って欲しいのです」
「やはりな」
ルーンの言葉にスラルの目が細くなる。
(ランスの強さは知っているはず…が、奴等はランスの真の強さを知らない。ならば、色々と吹っ掛ける事が出来るな)
あの時の鉄兵との戦いでさえ、ランスは本気を出して戦ってはいない。
それはランスと共に戦って来た自分が一番良く分かっている。
ならば、それを利用して最大限の譲歩を引き出させる、スラルは心の中で笑みを浮かべる。
「ならばメリットを示せ。そうでなければお前達の言うテストとやらを受ける意味は無い」
「なるほど、確かにその通りですね」
スラルの言葉にルーンは頷く。
そのルーンの肩をセルジオがつつく。
「いいか、ルーン」
「失礼しますね」
ルーンは席を離れると、連れてきた幹部達はルーンに話しかける。
「おいルーン。別に相手の話を真に受ける必要は無いだろう。こちらは勝者なんだ。譲歩する必要は無いだろう」
セルジオの言葉にルーンは首を振る。
「いや、だからこそ歩み寄りも必要なんだ。それに彼をこちらの土俵に乗せるには相手の要求を飲むしかない」
「だがな…」
「セルジオ。俺はルーンの言っている事は分かる。あの男に我等の強さを見せつける事もまた必要な事だ」
「ダムドの言う通りだと思う。あの男の強さは本物だ。それに相手だってそう無茶な要求はしてこないはずだ」
自分の同志たちの言葉にセルジオは何も言えなくなる。
ルーンは席に戻ると、
「分かりました。私達に受けられる範囲であれば受けましょう」
スラルの言葉を受け入れる発言をする。
「まず聞きたいが我…私の使っていた魔法学院の施設は今どうなっている?」
ジルの言葉を受け、ルーンは頭をかく。
「いや…申し訳ない。ジルさんが出て行ってから、あの場所は別の人が使ってまして…もう無いです」
「ぐ…予想はしていなかった訳では無かったが、もう無いのか…」
スラルはルーンの言葉を聞いてショックを受ける。
中々気に入っていた施設なので、アレが有れば自分の研究もジルの研究も捗るのだが、世の中はそう甘くは無いようだ。
「施設そのものは新たに作る事は出来ますが、そうもいかないのは分かるでしょう」
「フン…」
ルーンの言葉にスラルは詰まらなそうに鼻をならす。
ようは『自分達の所に来なければあの施設は使えない』と暗に言っているのだ。
まあそれは分からない話では無いので、スラルも何も言わない。
「ならば要求はバランスブレイカーと言われるアイテムの引き渡しだ。お前達は世界を統一した。ならばその手のアイテムも収集しているはずだ。無いとは言わさんぞ」
スラルの要求にはルーンも目を見開く。
バランスブレイカー…言葉通り、この世界のバランスを崩しかねない強力なアイテムである。
中には本当に危険な物もあるため、使用には気をつけなければならない物も多数ある。
「…どのような物をご所望ですか?」
「それは見てみないと分からないな」
ルーンの要求をスラルははぐらかす。
(正直バランスブレイカーと認定されればどんな物でも構わんがな。どうせ我等が使うのではなく、クエルプランに差し出すものだしな)
バランスブレイカーとは有用な道具だが、扱いが難しい物もある。
それにランスが受け取れるクエルプランからの褒美を考えれば、バランスブレイカーより有用なアイテムが渡される可能性も有る。
(まあランスは全ての褒美を色事と考えているようだが…)
あの神に対しての交渉は難しいが、ランスに対しては妙に優遇してくれている。
それを考えると、やはりバランスブレイカーをクエルプランに差し出す方がいい。
「少々お待ちください」
こればかりは自分だけでは決めるのは難しいと思い、同志と相談する。
「という事だけどどうする?」
「いや、どうすると言われてもな…割に合わないだろう」
「ダムドの言う通りだ。バランスブレイカーは俺達が将来魔軍と戦うために必要になるもの。それを出してまでやるような事か?」
「だがそうしなければランスは乗ってこないぞ。それに無茶を言っているのはこっち側でもある」
それぞれの言葉を聞いてルーンも悩む。
人類の未来のために集めているバランスブレイカーと呼ばれるアイテム。
それを渡すとなると確かに割に合わない。
だからと言って、向こうの要求を跳ね除ければテストにはならない。
無理矢理やらせる事は不可能では無いだろうが、その時は彼等を敵に回す時だ。
その場合、こちらに犠牲者が出る可能性が非常に高い。
今自分達は別にランス達と敵対している訳でも無いのに、態々敵を作るというのはそれこそハイリスクローリターンだ。
「だが、テスト相手ならランス以上の人間は居ないと私は断言するぞ」
ルシラの言葉に皆は考え込む。
ランスは鉄兵すらも倒す存在、そんな事が出来る魔法使いではない人間はランスしか居ないだろう。
これまでも鉄兵が普通の手段で倒された事は無いのだ。
「リスクのあるバランスブレイカーを渡すというのではどうだ?」
「それではジルが納得しないだろう。あの娘の知識は素晴らしい物があっただろう。そのジルが要求しているんだ、生半可な物では拒絶されるのがオチだ」
セルジオの言葉をダムドが否定する。
「同感だ。ならばこう考えてはどうだ?」
「何か考えがあるのかい? ルシラ」
「ああ。私達には使えないが、ランスには有用なアイテムを渡せばいい。ランスだって人類だ。私達と魔物とどっちと敵対するかといえば、やはり魔物だろう」
ルシラの言葉は絶妙に間違っているのだが、ランスの経歴を知らない彼女がそう言うのも間違ってはいない。
「妥協案は出さなければならぬ。俺はルシラの案に賛成だ」
「なら決まりだね」
同志たちの言葉にルーンは納得する。
(良かった。どうやら人類の統一が出来た事で、皆の意識も次の段階に向いてくれているみたいだ)
ルーンとしても今現在の事に懸念を抱いていたが、皆が冷静に対処するようになってくれて安心した。
敵はあくまでも魔物達、人類を相手にこれ以上無駄な犠牲を出す事も出させる事も無いのだ。
「分かりました。提案を飲みましょう…と、言いたいですが、そのバランスブレイカーのアイテムを今は持ってきていません。私達にも準備が有りますし、少々時間を頂けませんか」
「別に構わないぞ。さて、そのテストの内容を教えてもらおうか。まあお前達がランスにテストと言っているのならば話は簡単だ。『鉄兵』の上とランスを戦わせようというのだろう」
「…そこまでお見通しですか」
ジルの口を借りたスラルの言葉にルーンは驚く。
昔から聡明な人だと思っていたが、どうやらこちらの次の手までも読んでいたようだ。
「一応お前達の研究とやらを見てきたからな。アレが通過点なのは分かっている」
「…ええ、私達には自信が有ります。だからこそ、こうしてあなた達に私達の持つ力を分かって欲しいという思いも有ります」
「知らん」
ルーンの言葉をあっさりとランスは断ち切る。
ランスにとってはどんなお題目だろうが関係無い。
自分の思うがままに行動し、それが不思議と上手くいくのがランスなのだ。
「ま、まあとにかく少し時間を下さい。それともう一人連れてこなければいけませんし…」
「で、相手は何体だ」
ランスが突如として言葉を切りだす。
「え? え、ええ。当然1体ですが…」
「フン、だったら2体纏めて相手にしてやってもいいぞ」
「!」
ランスの言葉にルーンは驚く。
「その代わり、バランスブレイカーをもう一つよこせ。それが条件だ」
「…成程」
ルーンは考える。
正直言えばランスの言葉はルーンから見れば無謀な言葉だ。
しかし、この男に関してはまだまだ底が見えない。
剣技に関しては素晴らしく、更には鉄兵すらも斬れる剣も所持している。
それらを考えると、2体が相手でも大丈夫では無いか…同時に未知の敵に対してもどうなるのかのテストも行えるかもしれない。
「分かりました。ですが、バランスブレイカーの提示はランスさんが勝った時のみ…それで構いませんね」
「フン、俺様が負ける訳が無いだろうか」
自信満々に言い放つランスに対し、ルーンも自信ありげな顔をする。
「分かりました。では準備が出来るまで待っていてください。私達から出向きますので」
「ああ…連れてくるのはお前達だけだ。他の連中は来させるな。これも条件だ」
ジルの言葉にルーンは一瞬考えるが、結果を見届けるのは今のメンバーだけでも十分だと考える。
「分かりました。ただし、もう一人だけ連れて来ます。それだけは譲れません」
「…構わないさ」
ジルも納得した事で、ルーンは仲間を連れて去っていく。
「あの…ご、ごめんなさいランス様! スラルさんもどうして…」
「別に構わんぞ。それにバランスブレイカーが手に入るなら安いもんだろ」
主導権を戻して貰ったジルはランスに謝るが、ランスは構わないという感じで不敵な笑みを浮かべる。
「それにしても条件を増やしたのには驚いたわね。ランスってこういう面倒な事嫌いでしょ」
「がはははは! 余裕だ余裕!」
何時ものように自信満々にランスにレンは呆れたようにため息をつく。
「ま、負けるとは思ってないけどね」
それでもレンはランスが負けるなんて思っていない。
これまでの死闘を考えれば、人間同士の争いなど物の数ではない。
それだけの修羅場をランスは切り抜けてきたのだ。
「まあ準備だけはしとくか。サイゼル!」
「何よ」
名前を呼ぶと、ルーン達と対面をしなかったサイゼルが入って来る。
「私、そろそろ帰らないといけないんだけど。ケッセルリンクにも釘刺されちゃったし」
「そうか。まあ仕方ないな。が、まだ居るんだろ」
「もう少しくらいいいかなって思ってはいるけど。で、何の用?」
「やるぞ! お前とやれば俺様の剣がパワーアップするからな!」
ランスの言葉にサイゼルは少し呆れた顔をする。
「アレだけやっといてまだ足りないの? 正直これ以上しても影響は無くない?」
「何度もやればまた新しい変化があるかもしれんではないか。それにお前だって拒否した事無いだろ」
「…うるさいわね。でもあんたのその性欲に付き合うのも大変…ってコラ!」
ランスはサイゼルを軽く担ぐと、そのまま自分のために用意された部屋へと入っていく。
サイゼルは何だかんだ言いつつも、ランスと濃厚な一夜を過ごすのだろう。
「フン、無謀な連中だな」
「元魔王が言うと説得力あるわね」
ランスが消えた後でスラルは魔教団の事を形容し、鼻で笑う。
「当然だ。いくら強くとも魔王はどうしようもない。ガイがジルを封じれたのも、魔王としてのジルの力が大幅に消失していたからだ。ましてやガイは100%の魔王、倒す事など出来ぬよ」
「でもそう思うこと自体は止められないでしょ?」
「止める理由も無いからな。まあ魔王側から仕掛けるという事は無いとは思うが…だが、人間から仕掛けたのなら人類の文明は再び終わるかもしれんな」
スラルはそう思いつつも、あのガイならそんな事は無いだろうと思っていた。
だが、事実は違う―――スラルはまだ魔王ガイという異質な魔王の事を分かっていなかった。
「成程…そんな話になったのじゃな」
「はい、先生。ですので、これが闘将の最初の戦いになると思います」
「まさか最初の相手が人間とはの…」
先生―――フリーク・パラフィンは弟子の言葉に複雑そうな声を出す。
「初めての闘将の戦いです。それらがどうなるか…私としても見極めなければなりません」
フリークの表情は変わらない―――いや、変えられない。
フリーク・パラフィンは既に闘将の体へとなっていた。
もう高齢なのもあり、フリークはいち早く闘将の体へと変わっていた。
つまりは、ランスが知っているフリーク・パラフィンへと。
「じゃが向こうも中々の条件を出してくるの。それだけ自信があるという事なのか…」
「そうしなければ彼等も受け入れてはくれなかったでしょう。確かに条件としては厳しいですが…」
戦いのための条件としては非常に厳しい。
他の者と相談しても間違いなく突っぱねるべきだと言って来ただろう。
蛮人の条件など必要無い、そのまま闘将をぶつければいいと言ってくるだろう。
ルーンはそんな事は望まないし、この戦いの結果はフリークを含めた自分達5人だけが知っていれば良いとも思った。
「先生も来ていただけますね」
「うむ…久々に嬢ちゃん達にも会いたいしの。まあこんな姿じゃから儂だとは分からんだろうが」
「その時にもう一度…彼女達と話をしたいとも思っています」
「難しいと思うがの…特にジルの嬢ちゃんは」
フリークはジルの背負っている重い枷を知っている。
アレは異質なモノで、人のモノとは思えない。
人の踏み入れる領域ではない、そうとも感じていた。
「まずは闘将の事を考えます。この結果次第で、次の段階に進みます」
「魔物達を追い出す、か」
「はい。全てはそこから…そのための一歩になる事を私は信じています」