魔物界―――
そこではある親子が激闘を繰り広げていた。
激闘と言っても、親が子を蹂躙している光景と言っても良いのだが、とにかく激しい戦いなのは間違い無かった。
「チッ、親なら少しくらい手加減しろ」
「フン、手加減した所で意味は無い。お前が強くならねば、お前はお前自身の意思を持つ事すら許されぬ」
魔人カミーラは我が子に向けて厳しい目を向ける。
それがドラゴンの女の宿命、カミーラが味わったように女のドラゴンは子を産む存在として、そしてドラゴンの王冠としての価値を押し付けられる。
それこそ本人の意思など無視して。
「嫌ならば強くなる事だ。お前には幸い時間がある。そして強くなる意思も」
「ああ、そうだ。だったらお前をぶっ飛ばしてやる。その顔を歪ませてやるよ」
子供―――ルナテラスは親であるカミーラに向けて獰猛な笑みを浮かべる。
まだ子供の肉体ながらも、その意思の強さは非常に激しい。
その顔を見てカミーラもまた笑みを浮かべる。
「来い、娘よ。お前の意思を通すためにな」
そして魔人親子は今日も激しくぶつかるのだった。
「全く…本当に手加減しないんだからな。あいつ、本当にオレの親か」
「ルナちゃん、女の子なんだからもうちょっと言葉に気を付けたら」
ラインコックはルナテラスに包帯を巻きながら曖昧な笑みを浮かべる。
「んー…何かこっちの方がしっくりくる」
「もう…そう言う所、本当にあの男にそっくりなんだから」
ルナテラスの言葉にラインコックはあの口の大きい生意気な男を思い出す。
容姿は非常にカミーラに似ているが、性格はランスにそっくりだとラインコックは非常に残念な気持ちになる。
「オレの父か…気になる所だな。あのプライドが滅茶苦茶高い母が認めてるんだ、強いんだろ?」
「まあ…魔人を倒した人間なのは間違い無いかな。カミーラ様とも何度も戦ってるのに生きてるし…はい、これで終わり」
包帯を巻き終え、ラインコックはルナテラスから離れる。
「ルナちゃん、カミーラ様ともう少し仲良く出来ない? ボク、結構胃が痛いんだけど…」
「いいや、あの女は敵だ。自分に出来なかった事をオレに押し付けてる感じがして好きじゃない。ま、嫌いって事も無いけど」
「もう…カミーラ様もカミーラ様だし…ボクが一番大変な気がするよ」
ラインコックは勿論ルナステラの事は大好きだ。
あの男とカミーラの子供だというのは気になるが、それでもあのカミーラに似た容姿に加え、その強さは本物だ。
まだ生まれてから10年と経っていないのに、使徒にも匹敵する力を備えている。
ただ、ドラゴンの力よりも剣を振り回すのが好きなようで、そこはカミーラとは戦い方が違う。
「ルナ様」
「げ、七星」
自分の名前を読んだ声にルナステラは露骨に嫌な顔をする。
「そろそろ勉強の時間です」
「いや、必要無いだろ。オレに必要なのは純粋な力で…」
「いえ、あなたがこれから生きていく上での立ち振る舞いだけは学ばなければなりません。それにこれはカミーラ様からの命令ですから」
親の名前が出た事でルナステラはゲンナリした表情になる。
「全く…そういう所が訳分からないんだよな」
「そう言わずに。それにあなたは体面上はカミーラ様の使徒という事になっています。その振る舞いをするための勉強です」
「…オレが新たな女のドラゴンだからか?」
「その通りです。ルナ様はドラゴンから見ればまさに至高の王冠であり、その存在が露見する事も正直好ましくありません。魔王が居る間は問題無いでしょうが、それでも面倒な事はこれから先に起こるでしょう。それを避けるための自衛の手段です」
「だったらドラゴンをぶちのめせば良いだろ」
「今のあなたには出来ません。それだけの事です」
七星の言葉にルナテラスは露骨に不機嫌な顔をするが、
「分かったよ。全く、面倒くさいな」
それでも納得して大人しく七星に従う。
「全く…あなたはカミーラ様よりもランス殿によく似ている。ここから先は苦労するでしょうね」
「まだ見ぬ父か…ま、正直興味が有るな。あの母が認めているんだ、大した男なんだろう」
「…まあそうでしょうね。恐ろしく強い方です。今のあなたの何倍もね」
その言葉にルナテラスは笑う。
「ま、会う時までに強くなってやるさ」
「じゃあ私は行くわね」
ルーン達が一度消えてから数日、サイゼルは魔物界に戻る事にした。
「おう、じゃあな」
ランスはあっさりと言うが、相手は魔人だしどうせ未来で出会う事になるのは分かっている。
ゼスでの戦いでは魔人サイゼルは出てくるのだから。
「ま、精々死ぬんじゃ無いわよ。あ、それとハウゼルの事はどうするの?」
「…あいつの事だから本当に人間には干渉しないんだろうな」
確かにハウゼルともセックスしたい。
したいが、そのためにはハウゼルと会わなければならない。
が、そのハウゼルは生真面目な性格なので、魔王の指示ならば本当に人間界に干渉しないだろう。
つまりはハウゼルからこちらに接触してくるのも難しいという事だ。
「一応伝えてはあげるけど…ハウゼルの事だから、難しいかも」
サイゼルもハウゼルの性格はよく分かっている。
なので彼女とセックスをするのは難易度が高い。
「まあ何とかなるだろ」
「楽観的ね。ま、それもいいんだろうけど」
サイゼルは宙に羽ばたく。
「じゃあまたね」
「おう、またな」
二人は短く挨拶すると、サイゼルはそのまま空を飛び立っていく。
「行ったわね。ま、ややこしい事にならなくてよかったんじゃない?」
「こいつが心配性すぎるんだ」
レンの言葉にランスは自分の剣を指さす。
サイゼルが早めに帰還する気になったのは、ケッセルリンクの指摘があったかららしい。
流石のサイゼルもケッセルリンクの言葉は無視できないので、大人しく魔物界に戻る事にしたのだ。
「厄介な奴が残ったしね」
「別に俺様はかまわんぞ。それに前はやれなかったしな」
ランスはぐふふと笑う。
「ちょっと二人とも手伝いなさいよ。大変なんだからね」
そこに現れたのはルシラだ。
「手伝いならお前の連れてきたあの鉄くずにやらせればいいだろ」
「鉄兵は大雑把な事しか出来ないのよ。細かい事は人間の手でやらないと…それにしても、アンタ達が魔法ハウスを持ってたなんてね。しかもかなりのレアもの」
魔法ハウスを見てルシラは最初は驚いた。
驚いたのは魔法ハウスそのものではなく、その中身だ。
自分達の知らない魔法か技術によって作られた、これまでとは全く違う魔法ハウスには目を丸くした。
「魔法ハウスそのものはそこまで珍しいって訳じゃ無いけど、あんな未知の技術が使われた魔法ハウスは初めて見た。調べたいけど…ま、無理でしょうしね」
ルシラにはあの魔法ハウスがどういう仕組みになっているのか分からない。
魔力はあっても、ルーンやフリークのように知識に優れている訳では無い。
調べたいが、ランス達がそれを許してくれるとは思えない。
「詳しい事はジルに聞け。俺様はその手の事は全く分からん」
「それにしてもジルも凄い要求をしてくれるわね」
「それを叶えるアンタもアンタじゃない?」
レンの言葉にルシラはため息をつく。
「ジルの頼みだからな。ジルも優れた魔法使いだ、私達とは違う見方でこの世界を良くしようとしてると信じてる。それにジルの研究室は私達が潰してしまったからな…」
魔法学院にあったジルの研究施設は取り壊されることになった。
理由は単純、ジルが魔法使いでは無い蛮人の奴隷として魔法学院を出ていったからだ。
それだけジルのやった事は許される事では無く、その研究施設も研究内容も全て破壊されてしまった。
「でもアンタは残してたんでしょ?」
「知識でな。だから同じ内容をあの魔法ハウスに建設している。ジルも内容を完璧に記録していたしな。簡単な作業ではあるさ」
簡単な作業…それはやはり鉄兵の力が大きい。
大きい物でも力の強い鉄兵ならば軽々と運べる。
何よりも鉄兵は人間と違って休息も睡眠も必要としない。
なので人間とは作業効率が遥かに違うのだ。
それこそが、人類発展のための第一歩だと魔教団の皆は信じている。
「しかしお前は何処でこんなのを手に入れた? かなり貴重な物だぞ」
「フン、俺様は天才だからこういうアイテムも見つかるのだ」
「まあいいさ、聞かない事にするよ」
「それにしても何でここに残ったの? 別に残る必要は無かったでしょ」
レンの言葉にルシラは少し考え込む。
「まあ…10年ぶりの友との再会だからな。ただ、お前達が私達と同じ時間を過ごしたとは考えられないがな」
ルシラはランス達を見る。
やはり10年前と全く変わらぬ容姿、そして全く変わっていない考え方。
そもそも魔教団の躍進すらも知らなかったみたいなので、本当に成長していないのだ。
まるで時間が止まっていたような感覚で、こちらの方が戸惑う程だ。
「がはははは! だったら10年ぶりにやるか。この前は出来なかったからな」
ランスがニヤニヤとしながらルシラに近づいて行く。
10年という時間は彼女を大人にした。
前にやった時はまだ少女と言っても良かったが、今はもう十分すぎる程に大人だ。
あの時よりもスタイルが良くなり、顔つきも凛々しくなった。
だが、女性的な部分はそう変わっていなかった。
「バカを言うな。そんな時間は無い。私はジルと共にあの施設を復帰させないといけないからな」
あの時よりも余裕があるのか、ルシラは薄らと微笑むとそのまま手を振って魔法ハウスの方に向かって行ってしまった。
「フン、つまらん」
「少しくらい大人しくしてなさいよ。子供じゃ無いんだから」
レンはランスの態度に少し呆れながらも、あの時の事を思い出す。
「それにしてもいいの? 連中にあんな提案して。まあ負けるとは思ってないけど、面倒な事にはなると思うわよ」
「余裕だ余裕。バランスブレイカーがそれで手に入るなら問題無い」
「クエルプラン様の依頼か…確かにそれを考えるとね。でも、バランスブレイカーって言っても色々有るけど…どんなのが欲しいの?」
「知らん。役に立つなら何でもいい」
ランスにとってアイテムとは使う物であり、後生大事に取っておくものでも無い。
有効な時に使えればそれでいいのだ。
「そこは私が見てあげるから問題無いわよ。クエルプラン様からいいアイテムもお借りしたし」
レンは懐からルーペを取り出す。
「なんだそりゃ」
「バランスブレイカーの力を見極めるアイテムって言ってらしたわね。これで見ればどんなバランスブレイカーなのか分かるみたい」
「ほう。便利だな」
レンの説明にランスも少し興味を惹かれたようだ。
「これはダメよ。私がクエルプラン様から直接預かったんだから、使用した後はクエルプラン様に返さないといけないんだから」
(そもそもこのアイテム自体がバランスブレイカーだしね…)
それはどうでもいいのでランスには言わない。
「しかし待ってるのも退屈だな。どっかのダンジョンにでも行くか」
「少しくらい待ってなさいよ。それとも鬼退治でもしてく?」
「めんどいからパス。鬼なんぞ相手にしててもつまらん。男臭くて近寄りたくない」
鬼は今でもJAPANの各地を荒らしている種族だ。
それも魔教団の連中によって大分叩かれたようだが、それでもやはり数が多い上に、LP期と違って地獄穴があちこちにある。
JAPANも今は再建期なので、陰陽師の数も多くない。
妖怪も妖怪で大変なようで、お町が被害に頭を悩ませていた。
「じゃあ大人しくしてなさいよ」
「うむ、少しくらい休むか。今思えば俺様は働き過ぎたからな…」
ランスは普段はだらけまくってレベルが下がっている。
ひとたび大きな冒険が始まればあっという間に強くなるのだが、ここ最近ランスは戦ってばかりだ。
しかも魔人だの魔王だの異世界の敵など…ランスからすれば面倒な事この上なかった。
「よし、じゃあ付き合え。やるぞ」
「いいわよ」
ランスの言葉にレンはあっさりと誘いに乗る。
「…お前、セックスの誘いは断らんよな」
「別に拒否する理由も無いし。それに今の私は階級が上がったからエッチしても堕天しないみたいだし。多分ランスに付き合ってエッチするのも導く事に値するんでしょうね」
「何の事だ」
「別に気にしなくていいわよ」
レンはそう言ってランスの腕に手を回す。
「じゃあ楽しみましょう」
「グッドだ! がははははは!」
ランスは束の間の休息を楽しめるくらい、今の世界は平和と言える状況だった。
そしてその日はやって来た。
ルーン達がJAPANへと例の物を連れてきた。
「やっと来たか。散々待たせおって」
「申し訳ありません。こちらとしても、準備は万全に整えなければいけませんでしたので」
ランスの言葉にルーンが頭を下げる。
「別にいいわよルーン。こいつ、待ってる間もずっとだらけてたんだから」
「フン」
ルシラの呆れた言葉にランスはどうでもいいかのような態度を取る。
実際ランスにとってはどうでもいい事なので、特に何も言う事も無い。
「さて、ではいつ開始する? こちらは何時でもいいぞい」
そう言って姿を現したのは、青銅の体を持つ存在だった。
「…その声」
「おお、久しぶりじゃなジル。こんな姿になってしまったが、儂じゃ。フリーク・パラフィンじゃよ」
その青銅の男はそう言って笑う。
「フリーク先生!? その体は」
ジルは流石に驚く。
その姿は人ではなく、これまで対峙してきた鉄兵と同じだった。
「まあ見ての通りじゃ。故あって、儂はこの鉄の体になった」
「何だじいさん。生きてたのか」
「それは随分な言葉じゃな。まあこの体じゃから人として生きていると言って良いのか微妙じゃが…ってお主、儂が分かるのか?」
フリークはランスの言葉に驚く。
この男の事だから、自分の事など全く覚えていないと思っていた。
「…あ、そうか。そういう事か」
ランスは自分で言った事に気づく。
そう、ランスの知るフリーク・パラフィンはヘルマン革命で死亡した。
今目の前に居るフリークは過去のフリーク。
(そういや昔から生きてるって言ってたな。ハンティと知り合いだって事は、この時代から生きてるって事か。ありゃ? そうなると待てよ…)
ランスは今更ながら重大な事に気づく。
(このじいさんが居るって事は…まさか)
「それよりも私達から発表させて頂きます。こちらが鉄兵の次の段階です」
ルーンがそう言うと、二体の巨大な何かが歩いてくる。
「これが新たな私達の戦力…その名も闘将です」
「やっぱりか!」
闘将という言葉にランスが大きな声を出す。
「? どうかしましたか?」
「いや、何でも無い…」
不思議そうな顔をするルーンにランスは言葉を濁す。
(マジか…じゃあこいつらが闘神と闘将を作った連中って事か)
ランスも闘神と闘将とも因縁が有る。
最後の闘神である、闘神ユプシロンだけでなく、最強の闘神であるMMを倒したのもランス達なのだ。
「という事でランスさんには私達が用意したこの闘将と戦って頂きたいんです」
「…マジか」
まさかこの時代でも闘将と戦う事になるとは思っても居なかった。
いや、それも全てランスの勉強不足、興味の無さが招いた事でもある。
世界の歴史を少しでもかじっていれば、これくらいの事には気づいたかもしれない。
だが、ランスはそういう人間では無かったというだけだ。
「この闘将を持って、私達はこの人間の世界から魔物達を追い出します。そのための最後の試験…それがあなたとの戦いなんです。鉄兵すらも倒すあなたが」
ランスは若干げんなりする。
闘将とはランスにとってはただただ硬くて面倒くさい相手だ。
魔法は有効だが、ランスは魔法は使えないので結構苦労させられた。
最強の闘将ディオに関しては、ランスですら逃げるしか無かった程の強敵だ。
勿論ランスは闘将ディオの事など最早覚えてすらいないが。
「お前が鉄兵すら倒す戦士か」
「その力、我等に見せてもらおう」
ルーンが連れてきた闘将が喋る。
「喋る…知能を持ってるんですか?」
闘将が喋った事にジルは驚く。
「ええ。この鉄の体に人の技を組み込んだ存在…それが闘将です」
ジルはルーンの言葉に顔を歪める。
確かに凄い魔法と技術の集まりだが、ある意味残酷な方法だ。
だが、それくらいの力が無ければ魔物達の相手をするのも厳しいのも今の世界の現実だ。
「ではランスさん、約束通りお願いしますよ」
「…つまらん」
ランスは露骨に嫌そうな顔をする。
まさかこの時代でも闘将の相手をするとは思っても居なかった。
「まあいい。こいつらをぶっ倒せばレアアイテムをドロップすると思えばいいか」
ランスはニヤリと笑い、剣に手を伸ばす。
それを見てルーン達は距離を取る。
JAPANはまだ再建期故に、こうして広い場所を簡単に用意できる。
そしてこの戦いを魔教団からはルーン率いる最高幹部5人が、ジルとレンとお町が、そしてJAPANの人々が固唾をのんで見ている。
「では…始め!」
ルーンの言葉と共に二人の闘将が動く。
「我が名は闘将トワクン!」
「俺の名は闘将ミドテリー!」
「「行くぞ! 小僧!!」」
「やかましい! お前達の名前など覚える気も無いから一々名乗るな!」
二人の闘将の名乗りにランスはイラついたように怒鳴り返す。
闘将はランスの声など意にも介さずに二手に分かれる。
「成程、そういう事ね」
レンは闘将の動きとその意図を見抜く。
「分かったのか? レン」
「人間の意識と技術を持った鉄兵、そう言えば分かるでしょ」
「成程な。それが本当ならとんでもないモノを作ったものじゃな」
闘将は左右からランスに襲い掛かって来る。
「フン」
ランスは左右から放たれる攻撃を僅かな対捌きで避けて見せる。
それどころか、すれ違いざまに闘将に向けて居合斬りすらも放つ程だ。
金属と金属の触れ合う鈍い音を立て、ランスが闘将から距離を取る。
「相変わらず無駄に硬い連中だ」
ランスの刀が刃こぼれするような事は無いが、それでも流石に闘将を一撃で斬る事は出来ない。
だが、対する闘将はその事に驚愕していた。
「な、何だと!? この鋼のボディが…」
斬られたミドテリーが己の体に触れて驚愕する。
そこには確かに傷が出来ていた。
これが人間の体なら間違いなく両断されている、それくらいの一撃で有る事が闘将には分かる。
闘将の元となった人間も、人間の頃から名の有る戦士だけに目の前に居る男の腕が嫌でも分かる。
「だが我等を倒すにはまだまだ力不足よ! 散れい!」
闘将は尚もランスに向かって行く。
「フン」
昔のランスならば闘将相手にも苦戦していただろう。
それだけ人間と闘将には大きな差―――肉体強度の差と、スタミナが有る。
いかに魔人を何体も倒しているランスといえども、その差は決して埋まる事は無い。
だが、それでも今のランスは人間の目から見ても異常な強さ…そう、この世界のトップクラスの存在なのだ。
闘将の攻撃をランスは難なくいなす。
剣の腹で滑らせ、態勢を崩させた所を斬りつける。
その剣は確実に闘将の装甲を削っていく。
そして己の自慢の装甲が削られる事は闘将に大きな動揺を与えていた。
「貴様…本当に人間か!?」
「バケモノめ…!」
闘将はランスから距離を取る。
何しろ攻撃が当たらないのだ。
全ての攻撃はその剣で防がれ、返す刀が確実に装甲を削っていく。
「あの御仁は…ここまでの力を持っていたというのか…」
フリークはこの戦いを見て戦慄を覚えていた。
(ハンティの言っていた通り…まさに剣の怪物じゃ。いや、生命体としての圧倒的な力と言うべきか…)
闘将はこの世界から魔物を退けるための新たな力だ。
その力をもってしても、1人の人間を倒す事が出来ないのだ。
無論、数の暴力を使えば勝つ事は出来るだろうが、まさか闘将が二人がかりで一人の人間を倒せないなど誰も思いもしない。
「まさに技術の差だ…闘将はその素体となった人間の力に作用する。その人間の力が桁違い過ぎる…」
セルジオの言葉に皆が静かに頷く。
もう認めなければいけない…魔法を使えない者でもこれほどまでの力を持つ事が出来るのだと。
「フン、もう飽きたな。遊びはここまでにしてとっととぶっ壊すか」
ランスは剣を構えて何時ものように不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、そうだ。お前等俺様が何をしていたのかと言ってたな」
ランスはジルとレンを見る。
「まあそうね。修行してたって聞いてたけど、結果は知らないし」
「ランス。そう言うのであれば、見せてくれるのだろうな。その修行の成果を」
レンとジル―――スラルの言葉にランスはニヤリと笑う。
「ここらで俺様の力を見せつけてやらんといかんからな。お前達程度に使ってやるんだ、有難く思え」
そう言うとランスの気配が変わる。
「な、何だ…?」
ルシラは得体の知れない気配に身を震わせる。
目の前の居るのは確かにランスなのに、そのランスから異質な気が放たれているのだ。
ルーンもまたその気配に冷や汗が流れるのを感じた。
「がはははは! これが俺様の新しい力だ!」
ランスがそう言うと、その体から凄まじい雷光が放たれる。
バチバチと何かが弾けるような音が鳴り響き、それがランスの周囲を覆っている。
「な、何だアレは…」
誰かがそう呟く。
「アレは…ドラゴンか!?」
スラルはランスの周囲を覆うように現れた雷光を見て目を見開く。
「これはまた…とんでもないモノを身につけてきたわね…」
レンもランスから放たれる力を感じ取り、驚愕する。
黒い雷光を放つ剣を肩に担ぐようにしてランスは笑う。
「さーて、直ぐにぶっ壊してやる」