ランス再び   作:メケネコ

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バランスブレイカー

「久しぶり~。ハウゼル」

「姉さん…10年も行方不明でどうしたの?」

 ハウゼルは久しぶり…10年ぶりに現れた姉に驚く。

 この10年、全く音沙汰が無かった。

 ハウゼルが訪ねても全く応答が無かっただけでなく、誰かが帰って来た跡も無かった。

 その姉が突然現れたのは、やはり理由があるのだろう。

 いや、ハウゼルはその理由にはもう見当がついている。

「まあ…色々あってさ」

「色々って…ランスさんに会ってたんでしょ? いいの? 私達は今は人類には…」

「別に人間相手に何かした訳じゃ無いから大丈夫よ。実際魔王だって何も言って無いでしょ?」

「そうだけど…」

「じゃあ大丈夫だって」

 あっけらかんと言い放つ姉に対し、ハウゼルは苦笑するしかない。

「で、10年間もどうしてたの?」

「あー…私の感覚としては、10年も経って無いんだよね」

「え?」

「私もケッセルリンクと同じく、巻き込まれた」

「巻き込まれた…セラクロラス!?」

 ハウゼルは姉の言葉に驚く。

 ケッセルリンクはよく行方不明になっている…今も行方不明として処理されているが、実際にはランスと共に居る事は知っている。

 ケッセルリンクの使徒からそれとなくだが話は聞いているし、そのせいか使徒達は主の事を全く心配していない。

 だが、まさか姉がケッセルリンクと同じように巻き込まれているとは想像もしていなかった。

「でも姉さんはどうして帰って来たの? 姉さんなら理由をつけてもっとランスさんと一緒に居ると思ったのに」

「そういう訳にもいかないのよ。ケッセルリンクにも言われたしね…面倒くさいけど、ケッセルリンクに言われたら仕方ないでしょ」

「…そうね」

 魔人ケッセルリンクは魔人四天王の1人であり、最強クラスの魔人だ。

 思慮深く、その強さと冷静さから『夜の女王』という通り名がついている。

 だが、何よりも彼女はランスの事を優先して動く、それはハウゼルとサイゼルも知っていた。

 奇しくもこの姉妹もランスとは深い関係になってしまっており、同時にケッセルリンクとも親しくなった。

 それ故の彼女の言葉なのは理解出来る。

「で、ここから本題だけど」

「何? 姉さん」

「ランスに会いに行きなさいよ。向こうも探してるし」

「え?」

 姉の言葉にハウゼルは目を丸くする。

 まさか姉からそんな言葉が出るとは思っても居なかった。

「どういう風の吹き回し? 姉さんが突然そんな事言うなんて…」

「まあ色々とあってね。私はそういう説明下手だから何も言わないけど」

「…でも魔王様の命令が」

「そこは意外と何とかなりそうな気もするのよね…私も人間界に居たけど、特に何も無かったし…」

「………」

 ハウゼルは色々と考える。

 ランスには…正直言えば会いたい。

 体を重ねているという事も有るが、自分が力を与えればランスの生存確率が上がる。

 何しろランスはこれまで色々な事に巻き込まれている。

 恐らくはこれからも巻き込まるだろうが、それは最早宿命だろう。

 その時、自分が力になれるのはランスの剣に力を与える事に他ならない。

「姉さん…ランスさんと…その…沢山エッチな事してたのよね…」

「そ、そう言う事は言わないでよ! 姉妹で感覚が繋がってるのもこういう時はアレよね…」

 サイゼルも顔を赤くして強くいうしか出来ない。

 自分がどんなエッチをしたのか、恐らくはハウゼルにも筒抜けだったのだろう。

(今思うと凄い恥ずかしくなってきた…私、実はとんでも無い事言ったりやったりしてたのよね…)

 散々ランスとセックスをしといて何だが、今更になって恥ずかしくなってきた。

 というよりも、ランスと一緒に居た時は当たり前のように抱かれていたので、最早疑問にも思わなくなっていた事に気づかされたのだ。

「と、とにかく! 一度会っておいてもいいんじゃない!? 私はそれを伝えに来ただけだから!」

 そう言ってサイゼルは顔を赤くしたまま飛んで行ってしまった。

 残されたハウゼルも顔を赤くしていたが、直ぐに真顔に戻る。

「…どうすればいいんだろう」

 本音を言えば会いに行きたいとも思う。

 だが、今の時代は人類は魔物の支配から解放された時代。

 魔王も人間界への干渉を禁じている。

 そしてハウゼルはその命令を無視出来るような性格では無かった。

 しかし、それでもハウゼルは何か予感めいたものを感じ取っていた。

 この先、必ずランスと再会する機会が出てくると。

 そこでハウゼルは一冊の本を取り出す。

 そしてその中身を見て顔を真っ赤に染める。

「…ほ、本当にどうしよう」

 そう言いながらもハウゼルは胸の高鳴りを止める事は出来なかった。

 

 

 

「この前も挨拶したのじゃが…久しぶりじゃな、ジル、レン」

「お久しぶりです、先生」

「いや、前と姿変わり過ぎてて見ただけじゃ分からないし」

 フリーク達が再びランス達を訪ねてきた。

「前は話が出来なかったからの。じゃから無理言って来させてもらったのじゃよ」

「お待たせしました、ランスさん」

 そしてルーンもランスに一礼する。

「遅かったな。これで大したものを持ってこなかったら承知せんからな」

 相変わらずランスは男には厳しい。

 それでもルーンは特に気にした様子もなく、ランスに対しても誠実に接している。

「申し訳ありません。私としても色々と考える事がありまして…それにランスさん達の役に立ちそうなアイテムを厳選して来ました」

 魔教団内部でも色々とある。

 魔法使いではないランス達に貴重なバランスブレイカーを渡すのは殆どの者が反対していた。

 それは組織として無理も無い事であり、そういう言葉が出るのはルーンも理解している。

 ただ、それでもランスに対しては誠意を示すべき、その言葉をルーンは貫き通した。

 中にはバランスブレイカーの中でも危険なモノを渡すべきだという言葉もあったが、それでランス達を敵に回す事こそ組織としてはマイナスだ。

 なのでルーンも魔法を使えないランスのために、バランスブレイカーを厳選してきたつもりだった。

「さて…ランスさんの役に立ちそうな物を持って来たつもりです」

 ルーンがそう言うと、先にランスと戦った闘将二人がランス達の前に布袋を広げる。

 そこに現れたのは様々なアイテムや、珍しそうな宝石の類だった。

「これらが私達が集めていたバランスブレイカーと呼ばれるアイテムです。ただ、中にはランスさんがお気に召さない物もあるとは思います。ですので、じっくり選んで下さい」

「…これ、全部そうなのか」

「はい。これが私達がランスさんに提供できるバランスブレイカーです」

 ランスは結構な数が並んだバランスブレイカーの数にげんなりする。

 まさかこれ程までの数を持ってくるとは思っていなかった。

「おいレン。これは本当にバランスブレイカーなんだろうな」

 レンはルーペを片手にルーンが持って来たアイテムを見ている。

 そして一通り見終わったのか、ランスに向かって頷いて見せる。

「嘘ついて無いわよ。これはバランスブレイカーなのは間違いない。でも、バランスブレイカーって言ってもピンキリが有るからね。使い捨ての物だってある」

 ランスも使い捨てのバランスブレイカーは知っている。

 呪い消しゴムや、パステルが使用する事により一時的にシィルを魔王の呪いから解除したアイテム、そしてヘルマン革命で使用した浮要塞。

 だが、その選定となると非常に面倒くさい。

「…どんなのがある」

「さあ…効果までは私は分からない。大雑把な事しか分からないのよ」

「使えん」

「それ、クエルプラン様の前で言ったらだめよ。大変な事になるから」

 ランスは改めて色々なアイテムを見る。

 色々なアイテムが有り、それこそ服だったりメガネだったり靴だったりと様々だ。

 それらが全てバランスブレイカーなのだから、ランスとしても非常に迷う。

「おい、どんな効果がある」

「それはランスさん達が選んでください。あ、呪いのアイテムは無いですから、間違いなくランスさんの冒険に役に立つと思いますよ」

「おい」

「ご自分で選んでください。私の説明が真実だという保証は無いでしょう?」

 ルーンは笑いながら言う。

「…ぶん殴るぞ」

「待ちなさいよ。色々と種類が有るのは確かだけど、簡易的になら私も分かるから」

 そう言ってレンは一つの鍵を取り出す。

「例えばこれはラストキー。ダンジョンの中にあるあらゆる宝箱を開ける事が出来る鍵ね」

「ほう、それは便利では無いか」

「でも使い捨て」

「…いらん」

「これは女の子モンスターを絶対に捕獲できる、超捕獲ロープ。耐久力とか関係無しに捕らえられるアイテムね」

「今の俺様には必要無い物だろうが」

 レンの説明を聞いてランスは微妙な顔になる。

 確かに便利なアイテムなのは間違い無いだろうが、ランスが求めるようなアイテムは無い。

「取り敢えずクエルプラン様に渡すものを選んだら? ただ、ある程度格のある物を渡した方が良いとは思うんだけど…」

「うーむ、だがどれがいい物なのか分からんぞ…」

 アイテムの鑑定眼はランスには無い。

 無いからこそランスは適当に選んだ結果―――一つの宝石を手に取った。

「これでいいか」

 それは何の変哲も無さそうな一つの指輪だった。

「それは…」

 ルーンは何かを言いたそうにするが、フリークがそれを止める。

「しかしどれも微妙な感じだな。基本的に使い捨てか」

「そうですね…ですがその分強力なモノです。使い方次第では無いでしょうか」

 ランスの言葉にルーンも同意しつつも、それは使い手次第と言葉を発する。

「うーむ…」

 一瞥してもアイテムが変わる事は無いし、ランスとしてもどれを選んでも今一な気がしてならない。

 正直用意されたアイテムをどの場面で使えば良いか、そのビジョンが見えてこないのだ。

「適当に選ぶか」

 なのでランスは自分の直感に任せる事にした。

 こういう時は自分の直感を信じた方が上手くいくことが多い。

 それを確信してるからこそ、ランスは液体の入った瓶を手に取った。

「で、これは何だ」

「これは…」

 ルーンは説明をしようか迷ったが、これならば説明した方が良いかと思い口を開く。

「フェロモンを抑制する香水だそうです。それは凄い強力で、どんなフェロモンでも一時的に無効に出来るそうです」

「なんじゃそりゃ。まあいい、どうせどれだろうが変わらんだろうしな」

 もっと色々なアイテムはあったかもしれないが、ランスは己の直感に身を任せるだけだ。

 自分が選んだのだから、きっと役に立つアイテムなのだろう。

 今は役に立たなくても、将来的に役に立てばそれでいいのだ。

「それと…これはランスさんの言葉とは別に、私からの贈り物です」

 ルーンは闘将から大きな布袋を受け取ると、それを開く。

「これは…」

 ジルがそれを見て目を見開く。

「はい。タロコンソード…これもまたバランスブレイカーと呼ばれる剣です」

 ルーンは剣を手に取ると、それをランスに差し出す。

 ランスはそれを受け取ると、左腕で素振りをする。

「悪く無いな」

「ランスの口からその言葉が出るという事は、中々いい物みたいね」

 中々豪華な装飾が施された美しい剣であり、相当な力が有るのは見るだけでも分かる。

「伝説の付与師と呼ばれたタロコンが作り上げた剣です。これは私が個人的にランスさんに渡したい物です」

「ふーん」

 気の無い声を出すランスだが、この剣が凄い力を持っているのは分かる。

 分かりはするが、一つの問題もある。

「こっちの方が使いやすいな」

 それはランスが普段使っている剣と刀だ。

 こっちは本当に手に馴染む剣で、一々形が変わったりはするが使いにくいと思った事は一度も無い。

 どんな形態だろうが肌に合うのは事実だ。

「…この剣よりもランスさんの持つ剣の方が使いやすいですか?」

 ルーンは正直ランスの言葉に驚いた。

 このタロコンソードは伝説の付与師であるタロコンが作った剣であり、間違いなくバランスブレイカーと呼ばれる剣だ。

 まさに一撃必殺の剣だが、魔教団においては必要とされるかどうか微妙だった。

 闘将に持たせる事も考えたが、ランスの存在を知ってからはどうしても闘将に持たせるべきか迷っていた。

 それこそこの剣は最強の剣士が持つべきだと。

「こっちの方が便利だからな。ま、貰える物は貰ってやる。レン、お前が使うか」

 ランスはタロコンソードをレンに渡す。

 レンはそれを受け取ると、素振りをする。

「かなり凄い剣なのは間違いないわね。でも、流石にランスの剣に比べると劣るでしょうね」

「…成程、ランスさんの剣はそれ程までに強力なのですね」

 ルーンはランスの剣に興味を持つ。

 魔法使いであるルーン達は剣等の武器にはあまり興味は無い。

 だからこそ、ランスが持っていた武器にもそれ程興味を持っていなかった。

 ただ、ルシラだけは例外で、その手の武器についても色々と調べていた。

『…ねえルーン。剣で魔法を防げると思う?』

『何かあったのかい?』

『いや…私の魔法はランスに効かなかった。まるで剣に魔法が飲み込まれたように感じたんだ』

 そんな会話をした事があった。

 それからルシラは色々と試していたようだが、結局はそういう武器は見つからないと言っていた。

「ランスさんの剣…調べてみたいですね」

「やらん。これは俺様のだ」

「冗談ですよ。でも、その剣はランスさんに差し上げます。強力な武器はあっても損は無いでしょう」

「…フン、返せと言っても返さんぞ」

 ランスもルーンが渡して来た剣が強いのは分かっていた。

 これでもランスは超がつく一流の剣士だ。

 武器の良し悪しも十分に分かっている。

 それこそ今のランスの剣が無ければ、魔人が相手でなければ不安定なカオスよりもよっぽど使いやすいだろう。

「それとこれをジルさんに」

「これは…」

「魔教団で支給してるロッドです。ジルさんに渡す前にいなくなってしまいましたから…」

「そういやまだお前の武器は用意してなかったな」

 ランスはジルに武器を渡していなかった事に今更ながら驚く。

 別に杖だけが魔法使いの武器という訳では無い。

 シィルは手袋を使っているし、ミラクルも魔導書を武器として使っている。

 志津香がクリスタルロッドという杖を使っている。

「正直私は武器はあまり選びませんから…」

 ジルは魔法使いではあるが、元魔王という事も有り普通の魔法使いよりも遥かに頑丈だ。

 下手な人間ならそれこそ素手でも倒せてしまう程だ。

 それだけにジルは武器を選ばない、選ぶ必要が無いという特徴を持っている。

「それでも受け取ってはくれませんか? 決して邪魔にはならないはずです」

 ジルはルーンからロッドを受け取る。

 特に特別な力を持っている訳では無い、普通のロッドだ。

 だが、それでもこれはあの魔教団…後の聖魔教団が作ったロッドだ。

 LP期の市販品よりもよっぽど強力だ。

「使えるか」

「大丈夫だと思います。ただ、私としてはもう少し頑丈な方が有難いですけど」

「セルジオのような事を言うの…そのギャップが激し過ぎるぞい」

 ジルはセルジオのような筋骨隆々の男では無く、まだまだ成長期の少女だ。

 ただ、ジルが普通の少女で無い事はフリークは知っている。

 その右手には包帯が覆われており、見えないようになっている。

(その下には…恐ろしい程の力が秘められているようじゃからな)

 フリークはジルの秘められた事情を知っているが、それを口外する事は無い。

 ただ、この先彼女がどう生きていくか…それだけは心配だった。

「使えるならいいだろ。貰っとけ」

「はい、ランス様。ルーンさんも有難う御座います」

 ジルはルーンに頭を下げる。

「いえいえ。私としては正直これからも皆さんとは仲良くしていきたいんです。確かに色々とありましたが、私達が争う理由はありませんから」

「フン、お前達から喧嘩を売って来たんだろうが」

 ルーンの言葉にランスは不愉快そうだが、ルーンはあまり気にしている様子は無かった。

「私達はこれから魔物達を追い出します。この闘将を使って」

「好きにすれば良いだろ。何度も言うが、俺様を巻き込むな」

「ええ、別に協力して欲しいとは言いませんよ。ただ、皆さんはこれからどうするんですか?」

「そんなのお前に一々言う必要は無いだろうが」

「まあ…そうですね」

 ランスの言葉にルーンはその通りと言うしか無い。

「魔物を追い出す…でもその後はどうするんですか?」

 ジルの言葉にルーンは表情を改める。

「勿論…魔物の上、魔王と魔人です」

 ルーンの言葉にジルは難しい顔をする。

 魔人の強さは当然ジルも十分に知っている。

 魔王の記憶は無いが、かつてランスと共に魔人の一体と戦い辛うじて勝利した。

 その魔人もランスの言葉では「大したことない」レベルの強さだった。

 勿論ランスが異常な強さを持っているのは知っているが、それでも当時のジルにとっては魔人は強力な相手だった。

 だが、それ以前に魔人には無敵結界があるので、そもそも勝負にもならないのだ。

 あの時勝てたのは魔封印結界の力と、ランスが持つ剣が無敵結界を斬れたからなのだ。

 今はカオスと日光があるので魔人も決して無敵ではなくなったが、そもそもカオスも日光も今は誰も所持していない。

 それでは魔人に勝つ事は不可能なのだ。

「ふーん。まあどうでもいい」

 ランスは特に気にする事も無く、本当に興味が無さそうに答える。

 一応結果は知っているが、過程が全く分からないのでランスとしても介入する気は全く無い。

 これで日光があるならば話は変わって来るだろうが、無い物はどうしようもないのだ。

(そういや日光とカフェはどうなったんだ? 探してみるか)

 二人の事を思い出し、ランスはあの二人を探してもみようと決める。

 日光が有れば不測の事態があっても十分に対応できる。

「ではランスさん、私達はこれで失礼します。あ、ルシラはまだここで作業が有ると言っていたので残りますが…」

「そういやまだ作業しとるのか」

 ルシラはまだ魔法ハウスで色々と作業をしているようだ。

「儂も残るぞ。点検しなければならんからの」

 フリークも魔法ハウスを見るために残る事に決めたようだ。

「フン、好きにしろ。だが、俺様の魔法ハウスをぶっ壊したら許さんぞ」

「そこは大丈夫じゃよ。少しの間よろしく頼むぞい」

 そしてランスとルーンの二度目の邂逅は終わりを告げる―――そしてこれがまともな会話になるとは二人とも思ってはいなかった。

 

 

 

「カモーン、クエルプランちゃん!」

 ランスはクエルプランを呼び出すと、久々の眩い光と共にクエルプランが姿を現す。

「お久しぶりです、ランス。レベルアップですか」

「ああ、その前に…クエルプランちゃんの出した試練とかいうのがあっただろ。これでいいか」

 ランスはそう言って指輪を取り出す。

「これがバランスブレイカーとかいう奴なんだろ。これでいいか」

「…はい。確認しました。確かにこれはバランスブレイカーのようです。受け取りましょう」

「うむ、これでようやく褒美をもらえるな」

 ランスはクエルプランに指輪を渡すために、彼女の柔らかな指に触れる。

「あっ…」

 その刺激にクエルプランはどきどきするのを押さえられない

「ランス…聖遺物に関してはどうなっていますか」

「…まだだ」

「そうですか…こちらの方が探すのが難しいのですけどね」

 クエルプランが出した試練は二つ、それがバランスブレイカーの提出と聖遺物の提出だ。

 前者の方が難しいのだが、それもまた巡り合わせというものだろう。

「だがこれで俺様が不正をしてないという事が分かっただろう」

「そうですね…」

 ランスはこう言っているが、実はクエルプランはランスが不正をしていない事なんて分かっている。

 ただ、ランスが自分以外の手でレベルアップをしたのが気に入らなかっただけだったのだ。

 なのでランスが自分の課した課題をクリアした時にどうすればいいか、それは考えていなかった。

(ALICEにも釘を刺されていましたからね…)

 ALICEはクエルプランがランスに肩入れする事に反対していた。

 レベル神を担当する事については文句は無いのだろうが、色々とサービスする事には反対していた。

 ただ、他の神からは『レベル神が施すサービスの範囲なら構わない』という言葉もあり、ALICEもそこにまでは何も言ってこない。

(…どうしましょうか)

 なのでクエルプランは少しだけ困っていた。

 ランスの望みはレベルアップだが、それに関しては自分が渡した腕輪…それこそ経験値を多く取得できるように祝福を与えた物を渡している。

 それは今もランスは装備しており、経験値に関してはこれ以上干渉は止めるべきだろう。

「ランス、あなたは何を望みますか?」

「クエルプランちゃんとセックスしたい」

「………」

「うお!? ま、眩しいぞ!? 急に光るな!」

「いえ、失礼しました。ですが唐突な言葉は止めるように。ですが…少し迷っています」

「何がだ」

「あなたは不正をしていない証を立てました。ならば、私もそれに則りあなたに何かを差し出す必要が有ります」

「そういうもんか?」

「レベル神とはそういうもの…だと思います」

 実際にはそんな事は無い。

 レベル神は割といい加減な奴も多いし、何だかんだ言ってサボったりしている奴も多い。

 事実、ウィリスにしてもランスの才能が無限大である事は上に報告していない―――面倒だという理由で。

 だが、クエルプランはそんなレベル神の実態など知らないし、ランスもそんな事を知る由も無い。

 だからこそ、何かしらの対価を与えるのは当然だという間違った認識が彼女にあるのだ。

「…ならばこうするのが一番ですね」

「何だ?」

「いえ、これから先の事ですが…必ずあなたの助けになるでしょう」

「意味が分からん」

「分かる必要は有りません。ですが、悪い事にはなりませんので」

 相変わらず神の言う事は良く分からないが、クエルプランが悪意を向ける事は無いだろうとランスも楽観視する。

「それよりもレベルアップで宜しいですか」

「ああ、そうだな。久々だが…やはりレベルが上がりにくくなっとるんだよな」

「ええ…それがこの世の理です」

 クエルプランはそう言うと呪文を唱える。

(そういやクエルプランちゃんの前なのにレンの奴、何も言ってこなかったな…)

 レンがこれまで無口だったことにランスは意外に思う。

 これまでずっとクエルプランに関しては口うるさかったのだが、今回だけは何も言ってこなかった。

 ランスは知らない―――クエルプランが時を止めてランスと二人だけで話していた事を。

「ランスのレベルは106になりました」

「…1だけか。まあそんなもんか」

「レンのレベルは変化有りません」

「そうですよね…私、特に戦って無かったし」

「ジルはレベル67になりました」

「良かった…下がって無かったです」

「以上でレベルアップは終わりです。ではランス、またお会いしましょう」

 そう言ってクエルプランは姿を消した。

「うーむ、クエルプランちゃんは何が言いたかったんだ?」

 ランスにはクエルプランの言葉の真意は分からない。

 が、分からない事を考えても仕方が無い。

「ランス様、これからどうしますか?」

「ん、ああ。日光とカフェを探すか。あいつ等が居れば魔人が来ても問題無いしな」

「そうね。特に日光の力は必要かもね」

 次の目的も決まり、ランス達は束の間の休息を楽しむのだった。

 ―――この先に待っている大きな争いに巻き込まれるなど、この時のランスには知りようも無かった。

 

 

 

「ところでルーン。ランス殿が選んだあの指輪はどういうアイテムなのじゃ? まさか呪いのアイテムという事は無いじゃろうな」

 師匠の言葉にルーンは微笑む。

「違います。あの指輪は、どんな身分の差が有っても、贈った者と贈られた者は結ばれる…と言われているんです」

「なんと…そんな物があったのか。じゃが、それこそ使い方を誤れば問題なのではないか? あの御仁の事じゃからとんでもない使い方をしそうなものじゃが…」

「大丈夫だと思います。あの人なら余程の人じゃ無いとそういう物は贈らないと思いますし」

「うーむ…まあ今更じゃからな…」

「それにあの人なら、そんな道具を使わなくても強引にでも手にすると思います」

 ルーンとフリークはそう言って笑っていたが、実はとんでもない存在に指輪が贈られたなど、それこそ知る由も無かった。




バランスブレイカーに関しては本当に悩みました
あんまり強すぎるのも何か違うと思いましたし、正直活躍の機会なんて無いよなと思いました
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