ランス再び   作:メケネコ

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第一次魔人戦争②

「何だと!? 魔物将軍が倒されただと!? 奴が向かっていた場所は既に壊滅していたはずだぞ!」

「し、しかし実際に将軍は討たれ、敗走してきたようです。しかも逃走中に強力な魔法を受けて部隊が壊滅に近いダメージを受けたと…」

「バカな! 闘神と闘将は地上には居ないはずだ!」

 魔物大将軍チューザレの言葉に魔物将軍達が震えあがる。

「チッ…まさか闘神や闘将以外に我等の軍が退けられるとは…恥以外の何物でもない!」

 チューザレが机を力任せに殴ると、鈍い音を立てて机が壊れる。

「あ、あのチューザレ様…援軍を用意しては…」

「出来ると思っているのか!? そもそもこの事をあのバークスハム様に知られれば…」

 魔人筆頭の名前が出た事に魔物将軍達は息を呑む。

 バークスハム―――魔人筆頭と呼ばれ、魔王ガイの親衛隊でもある男。

 全てを見通すと言われ、その予知の力は決して外れないという噂だ。

 今回の出兵に関しては、意外な程に魔物兵の数はそこまで多くは出せない。

 理由は単純、そもそも魔人の目的は地上の人間ではなくあくまでも闘神都市だ。

 魔人達は地上には殆ど興味が無い様で、もっぱら闘神や闘将と戦っている。

 その闘神と闘将は思いのほか強く、魔人が相手でも年単位で持ちこたえるのも珍しくはない。

 事実、戦争が起きて10年経過したが落ちた闘神都市はまだ片手で数えられる程だ。

 その間地上はと言うと、歩みは非常に遅いと言わざるを得ない。

 そもそも目的が闘神都市であり、人間の虐殺が目的では無いのだ。

 なので魔王はそこまで数を出す事を許さなかった。

 あくまでも、魔人による闘神都市への攻撃は認めているが、地上に居る人間への攻撃はそれに比べれば遥かに温いと言わざるを得ない。

 しかも貴重な飛行できる魔物兵やモンスターは、闘神都市へ魔人を運ぶのに使われる。

 魔物大将軍も派遣されている数は、総数7体のうちたったの2体だ。

「過去の事を考えて数は必要無いとのバークスハム様の言葉だからな…」

 過去に一度だけ魔人が人間の軍勢と戦った記録がある。

 その時は1体の魔人と僅かな魔軍だけで、当時の人間の軍勢をあっさりと壊滅させたのだ。

 それを考えれば、無数の魔人が動いている上に指導者が地上に居ない事を考慮しても、多くの数は出せないとの事だ。

「数が用意出来れば楽なものを…人間など1年も経たずに皆殺しに出来るというのに…」

 だが、出来ない物をねだっても仕方が無い。

 そもそも自分は7人の内の2人に選ばれたのだから、相当に運が良いのだ。

「まあいい、ならば意趣返しくらいはしなければ収まらんな。で、人間達の拠点の様子はどうなっている」

「特に変わりは無いようです」

「ならば後詰めの部隊を向かわせろ。魔物将軍率いる2個大隊ならばけちらせるだろう」

 今迅速に動かせるのは、殺された魔物将軍の近くに居る部隊だけだ。

 その数は魔物将軍が指揮できる限界の数である4万。

 人間を全滅させるには心許ない数だが、正直その部隊だけでも人間の砦を落とす事くらいは出来るだろう。

 相手に闘将がいるのならば話は別だが、人間だけなら何も問題は無い。

「こちらも移動するぞ」

「はっ!」

「…まあ楽しみが増えたと思えばそれも良いか。しかし魔物将軍の数は有限…なるべく失わぬようにせねばな」

 魔物将軍は数が少なく希少だ。

 だからこそ倒された時の存在は非常に大きい。

 こちらに用意された魔物将軍の数は10体、その内の1体を失ってしまった。

(魔物将軍の数が減れば援軍は来るだろうが、その時は俺が後送される時だ。せっかくの戦争、この楽しみを邪魔されてたまるか)

 魔物大将軍は本格的な戦争を前に退く気は更々無かった。

 

 

 

 砦は慌ただしくなっていた。

 それもそのはず、魔物将軍率いる魔物兵達がこちらに向かって来ているからだ。

「結構多いな」

 ランスは呑気に答えるが、ジルは顔を青くしている。

「これが…魔軍」

「そういやお前はまだ本格的な魔軍との戦いは無かったな」

「そりゃそうでしょ。魔軍が本当に魔軍として動くなんてそうないし」

 ジルはNC期末期生まれなので、当然魔軍との戦闘経験は無い。

 一応魔物大将軍が襲って来た事もあったが、あの時はそもそもナイチサが策略を巡らせていたので魔軍との戦争とは言い難い。

 ランスはLPでのカミーラダーク、そしてザビエル率いる魔軍、NC期でも魔軍との戦争経験がある。

「相変わらず無駄に数が多いな」

「でも相当にキツイんじゃない? 普通の人間にとっては」

「とっととずらかりたいが…状況が分からんからな」

 ランスとしてはこんな所とっととおさらばしても良いのだが、何分外の様子が分からないので迂闊に出るのも危険だ。

 それに魔人が動いているという事は、カミーラも当然動いているだろう。

 そのカミーラに見つかった場合、間違いなくカミーラは闘神を無視してランスを襲ってくるだろう。

「あの…」

「ん、何だ」

 ラギがランスにおずおずと話しかけてくる。

「手伝って貰う事は…出来ませんか?」

「アホ、状況も分からんのに手伝うも何もあるか」

「あ…そ、そうですね」

 ランスは戦争においては非常にクレバーな部分がある。

 戦争である以上死ぬのは当たり前だからこそ、慎重に冷静に動く必要がある。

 卑怯だの卑劣だの身内には色々と言われているが、それでもランスは非常に優秀な指揮能力も持っているのだ。

「数はどれくらいだ」

「まだ分からないです…」

「違う。魔物将軍の数だ」

 ランスの言葉にラギは目を見開く。

 まさかの言葉に一瞬言葉に詰まる。

 が、彼女もまた戦場では戦士であり、取り乱す事は無い。

「私達に姿を見せてた魔物将軍の数は4体程です。ただ、あの時あなたが倒したので、援軍が来ていなければ3体だと思います」

「流石に魔物将軍3体が指揮する数じゃないでしょ。2体と言った所じゃない? 数的に」

「何だ、分かるのか」

「まあ…そういうのはね」

「そうか…2か」

 魔物将軍の数は2体、これはあまり多くは無い。

 この砦を攻め落とすならば十分な数だが、国を攻め滅ぼすには数が足りない。

 ゼスの時でも凡そ10体程の魔物将軍が来ていた。

 ただ、それ以上にあの時は魔人がカミーラ、サイゼル、ジークの3体と非常に多かった。

 それに比べれば大したことは無い。

「で、お前等はどうする気だ」

「…戦えない者を避難させ、私達は戦うしかありません。もう、支給されたアイテムも数は少ないです」

「それなのに俺様を手伝わせようとしたのか」

「それは…ごめんなさい」

 ランスの言葉にラギは頭を下げるしかない。

「フン、まあいい。魔物将軍が2体ならまあ何とかなる…か? しかし数が足りんな」

「え?」

「使える奴を何人か俺様の部下に寄越せ。そうしたら何とかしてやる」

 その言葉に彼女は目を見開く。

 それは無謀としか言えない言葉だが、ランスは自信満々に言い放つ。

「使える奴とは…」

「だから腕の立つ奴だ。魔物兵とタイマンが出来るのが最低条件だな」

「そ、それは…そんなに多くないと思います」

 ランスの言ってる事はハードルが高いが、それくらいは最低条件だ。

 それくらいの精鋭で無ければランスにとっては足手纏いでしかない。

「中々面白そうな事を言うな…だが、面白い」

「シロウズ!」

 ランスの言葉に苦笑しながらやってきたのは…金髪でアフロで仮面を被った男だった。

「うお!? 何だ貴様!?」

「私の名前はシロウズ・亜空。見ての通り軍人だ」

「お前のような軍人が居るか!」

「あの…シロウズは本当に強いです。多分ここで1、2を争う程に強いんですよ。何しろ彼は神魔法を使えますから」

「フーン…見た目は怪しいが、まあいいか」

 男はいらないというランスだが、もうこの手の男には慣れてしまった。

 それにこれだけ特徴的な容姿なら、ランスの邪魔にはならないタイプだ。

「私の部下も使ってくれ。君の要望を満たせるくらいの強さは有る」

「で、女は居るか」

「いや、私の部下は全て男だ」

「むさ苦しい…男なんぞいらんと言いたいが…ぐぬぬ…」

 もしここにランスの女が居るならばこんな奴はいらないと言ってやるが、何しろ今は数も居なければ仲間も居ない。

(まあいい。いざとなったら壁にすればいいか)

「お前も来い。結構強いんだろ」

「私…ですか?」

 ランスの言葉にラギは驚く。

 が、彼女も頷く。

「分かりました。私も騎士のつもりです、あなたの足手纏いにはならないはずです」

「他には居ないのか。魔法使いとかは…」

 ランスの言葉にラギの顔が曇る。

「魔法使いの殆どは…闘神都市です。地上に居るのは魔法を使えない者が殆どです。強力な魔法使いは…残念ですがここには居ません」

「…魔法使いもおらんとか、本気で戦争する気があるのか」

「だから…聖魔教団の連中は魔法使い以外はどうでもいいんだと思います。私達魔法を使えない者を捨て駒としてしか見ていないかもしれません…」

 今より少し前の時代、魔法使いは差別されてきた。

 だが、ルーンが世界を統一した事でその差別は無くなった。

 しかし、同時に今度は魔法使いによる差別が始まる。

 魔法を使えない者を蛮人と呼ぶようになった。

「魔人からの突然の襲撃だ、聖魔教団の者達も面食らっただろう。準備が整う前に襲われたと思ってもいいだろう。それに、地上は魔人の襲撃を受けていない。負担が大きいのは闘神の方だろう」

 シロウズは落ち着いた様子で言う。

「全ては魔人達から始まった事だ。今我々の憤りをぶつけるのは聖魔教団の奴等じゃない」

「…ごめん」

 ラギはしゅんとした様子で顔を伏せる。

「そんな事はどうでもいい。それよりもとっとと行くぞ」

「行く、とは何処に?」

 ランスの言葉にラギは首を傾げる。

「まさかこのまま籠城しているつもりか?」

「それ以外に方法はあるんですか?」

「アホか。奴等をぶっ飛ばすためには頭をぶっ潰すのが一番簡単だ。狙うのは魔物将軍だけだ」

「ほう…面白い事を言うな。だが、それくらいしなければ現状の打破は難しいかもしれない。私は貴殿に乗ろう」

 シロウズはランスの無謀とも言える言葉にむしろ笑みを浮かべる。

「行くぞ」

「そうね、行動は早い方が良いしね」

「はい、ランス様」

 ランスの言葉にレンとジルが続き、シロウズとその部下もランスについて行く。

 ラギもそれを見て、何人かの人間に声をかけるとランスの後を追って行く。

 

 

 

 戦場―――そこにはやはり異様な熱気がある。

 魔軍にとってはまさに1000年以上ぶりの戦争なのだ。

 人間に対して歪んだ欲望を持つ魔物達が高揚しないはずが無い―――自分が安全であるという前提ではあるが。

 人間にとってはまさに死ぬか生きるかの瀬戸際、誰もが必死だ。

 だが、そんな中でもランスだけは何時ものように変わらなかった。

「で、集まったのはこれだけか」

 ランスは自分についてきた者達を見る。

 誰もが鎧を着こんだ戦士タイプで有り、ラギが言ったように魔法使いは一人もいない。

 現状では地上に居る魔法使いの方が希少なのだ。

 そして魔法使い達は砦に残り、防衛を担当するようだ。

「本当に魔法使いがいないのか…」

「いいんじゃない? ジルと私が居れば事足りるわよ」

 ランスは不満そうだが、レンはそんなランスを慰めるように肩を叩く。

 実際、レンとジルが居れば有象無象の魔法使いが集まるよりも遥かに良い。

「貴殿はランス、という名前だったな。我等を自由に使ってくれて良い」

「フン、精々俺様の盾になれ」

 男にはランスは厳しいので、それはもう仕方ない。

 シロウズも苦笑して目の前の魔軍を見る。

「しかし魔物将軍を倒すと言ってもこれだけの状況ならば難しいとは思う。貴殿には何か策略は有るのか?」

「あんな連中に策略なんぞいらん。とにかく機会を見てぶっ殺すだけだ」

 ランスはそう言いながらも魔軍の動きをしっかりと見ている。

 とにかく一点集中、魔物将軍さえ倒せば魔軍は軍としては機能しない。

 それを狙って攻撃するだけだ。

「ランス、一ついいか?」

「何だ。スラルちゃん」

「サイゼルの力は使うな。温存しておけ」

「何でだ」

「我にも考えがある。とにかく、今は切り札をきるようなタイミングじゃない。この程度の有象無象相手にはもったいないだろう?」

「まあいい。そう言うからには何か考えがあるんだろ」

「ああ。我とジルもお前が居ない間遊んでいた訳じゃ無いからな」

 ランスの言葉にスラルはニヤリと笑う。

 そして目の前で魔軍が砦に攻撃をしかける。

 数は多くても、流石に4万全てが攻撃できるわけではない。

 だが、魔物兵は人間の兵士よりも質が高いので、破られるのは時間の問題だ。

「ふむ…どうやら攻城兵器は持っていないようだ」

 シロウズが魔物の動きを見て冷静に判断する。

「そうなの? シロウズ」

「ああ。あの砦を本気で落とすのならば大型バリスタ等を持ってくるのが普通だ。それが無い事を考えると、急にこの砦にやって来たように見える」

「どーでもいい。とにかく隙を見るぞ」

 シロウズとラギの言葉を聞き流し、ランスは魔物兵の動きを細かく観察する。

 砦側は魔物兵の侵入を食い止めるべく、あらゆる手段を用いて防衛をする。

 ただ、魔法使いが存在しないのでその手の援護は期待できないだろう。

「ランス様…」

「そんな顔をするな。そろそろ動くぞ」

 ランスは剣に手をかける。

「あの伸び切った所から一気に駆けるぞ」

「そうね。その辺に魔物将軍も居るみたいだし」

 相手の動きを見て、ランスは魔物将軍の位置を把握する。

 魔物将軍はこの戦いの何かに焦っているのか、周囲の魔物兵の数は程々に、魔物隊長に指示をして砦を落とすのに躍起になっている。

 その動きを見逃す程ランスは甘くは無い。

「あの…まさか本当にこのまま突撃するんですか?」

「当たり前だろうが。あんな連中に策などいらん。というか、この数じゃロクな策など取れんからな。力押しで十分だ」

 あまりに自信満々に良い放つランスにラギは呆れるしかない。

「フッ…言葉だけならば無謀、しかし貴殿が言うと出来るように感じる。私は貴殿とは初対面のはずなのだが、奇妙な事だ」

「気持ち悪い事を言うな。とにかく突っ込むぞ。そして相手に食らいついたら魔物将軍を一気にぶっ倒す。行くぞ!」

 ランスの言葉に皆が動く。

 魔物達はまだランス達に気づいていないのか、砦の攻略に夢中だ。

 だからランス達の奇襲をモロに受けてしまう。

「いきなりランスアターーーーーック!!!」

 ランスは勢いよく飛び上がると、必殺の一撃をぶっ放す。

「え?」

 魔物兵達はようやくランス達に気づいたようだが、その時には当然もう遅い。

 ランスの必殺の一撃が濃厚なオーラを纏い、魔物兵に一気に襲い掛かる。

 悲鳴を上げる事すら出来ず、魔物兵が一気にバラバラになる。

「は?」

 それを見てラギは茫然とする。

 凄まじい一撃なのは分かったが、まさか魔物兵を纏めてバラバラにするなど常軌を逸している。

「突っ込め! 魔物将軍をぶっ殺すぞ!」

「おう!」

 ランスの言葉にシロウズが応え、魔物兵に向かって行く。

「私に出会ったのが不運だったな!」

 シロウズは大きなバスタードソードを軽々と振り回すと、それだけで魔物兵が吹き飛ばされる。

「ふーん、中々やるじゃない。人間の中でもかなりの強さね」

 レンはそれを見て少し驚く。

 人間の中では相当に強いのは分かる。

「さて…私もこの剣を使ってみるか」

 レンはタロコンソードを抜くと、魔物兵に向かって突っ込む。

「じゃあ死になさい!」

 その剣を振るい、レンは目を見開く。

「これは…用意された剣よりもよっぽど使いやすいし、威力も段違いね」

 本来はルーンがランスのために用意した剣だが、ランスにはそれ以上の剣があった。

 なのでレンに渡されたのだが、その威力は想像以上だ。

 エンジェルナイト時代に使っていた剣よりも遥かに強い。

(これが地上のバランスブレイカーか。使ってみて納得)

 元々の彼女の素質にこの剣が加われば最早魔物兵では彼女を止めるのは難しいだろう。

 これまでの戦いの結果が彼女をより強くさせていた。

「がはははは! 雑魚はとっとと死ね!」

「この…人間如きが調子に乗るな!」

 騒ぎに気付いた魔物隊長がランスに向かってくる。

「邪魔だ!」

「うぎゃああああああ!」

 魔物隊長は持っていた大剣ごとランスに真っ二つにされる。

「雑魚が俺様の邪魔をするなど100年早いわ! 魔物将軍をとっとと殺させろ!」

 魔物隊長クラスがたったの一撃で人間に殺されるのは、魔物兵達に大きな動揺を与えた。

 今までも人間相手に倒される者は居たが、まさか相手にならないレベルで一蹴されるなんて事は無かった。

 そしてその恐怖は直ぐに魔物兵達に伝搬する。

 瓦解しないのは魔物将軍が居るからだが、それでも魔物兵には共通点がある。

 それは『こんな所で死にたくない』という点と、『人間を苦しめて楽しみたい』という点。

 魔人が参戦しているこの戦いは魔物兵からすればただの蹂躙劇のはずだった。

 これまでがそうだったのだから、それがずっと続くと思っていた。

「お、俺は嫌だ! こんな所で死にたくない!」

 魔物兵がそう言ってランスから後ずさりする。

 目の前の相手は、魔物兵にとっては人間には見えなかった。

 まさに魔人と相対しているような恐怖感が魔物兵達を襲っていた。

 そしてそんな躊躇を見逃すランスではない。

「今更そんな都合の良い理屈が通用すると思うなよ!」

「ぎゃああああああ!」

 ランスの剣が魔物兵を真っ二つに両断する。

 そして恐ろしいまでの連撃が魔物兵達を襲い、たったの一撃だけで魔物兵は倒れていく。

 魔物兵はその強さに恐怖に震え、動くことが出来ない。

 そこを攻撃され、魔物兵達はどんどんと逃げ腰になっていく。

「ま、待て! たかがこれだけの数、包囲すれば何とでもなる!」

 魔物隊長が指示を飛ばすが、

「死爆!」

「ぐわあああああ!」

 ジルの放った魔法が魔物隊長と魔物兵を同時に吹き飛ばす。

「ライトボム!」

 レンも魔法を放ち、無数の魔物兵達が吹き飛ぶことでまた道が生まれる。

「く、くそ! どうしてこれだけの数が止められない!? 他から部隊を持ってこれないのか!?」

「だ、駄目だ! 将軍の目的はあの砦を落とす事だ! こんな連中に戦力を回してくれるはずが…!」

 魔物隊長達も、自分達を襲ってきている人間達がこれまでの人間とは違う事を理解する。

「ま、まさかあの魔人様達が戦っている闘神や闘将とかいう奴がここにいるのか!?」

「そ、そんな…あの連中は魔人様達と何年も戦ってる奴等なんだぞ…まさかこんな所に!?」

 目の前にいるありえないくらい強い敵に対し魔物兵達は混乱するしかない。

 が、ランス達はそんなのお構いなしに突き進む。

「ランス! 見えた!」

「何処だ!」

「真っすぐ! ジル! やれる!?」

「大丈夫です!」

 レンの言葉にジルは頷く。

「ライトニングレーザー!」

 レーザー系の魔法は凄まじい貫通力を持って魔物兵達を貫いて行く。

 そしてとうとうランス達は魔物将軍の一体の所に辿り着いた。

「な、何だお前等!? 何処から出てきた!?」

「知った所で意味など無いわ! 死ねーーーーーーっ!!」

 ランスは驚いている魔物将軍の事など意にも介さずに斬りかかる。

「させるか!」

「調子に乗るなよ! 人間!」

 魔物兵達がランスの前に立ちふさがるが、

「邪魔だ! 雑魚が!」

「「ぎゃあああああ!!」」

 ランスが剣を一振りするだけで魔物兵は斬り殺される。

「そ、そんな馬鹿な!?」

 魔物兵を一撃で倒す、そんな事を出来る人間を魔物将軍は知らなかった。

 そしてその隙を見逃すランス達では無かった。

「じゃあ死になさい」

「ぐ、ぐほ…」

 ランスしか目に入って無かった魔物将軍の頭をレンの剣が貫く。

 レンの剣もまたランスには劣るが、人間に比べても基礎能力が違い過ぎた。

 あっさりと魔物将軍の頭部を潰し、魔物将軍は頭を失って倒れた。

「がはははは! 魔物将軍程度、こんなもんだ!」

「しょ、将軍が…に、逃げろ!」

 目の前で魔物将軍が死んだ事で魔物達は士気を維持する事が出来なくなった。

「うわああああああ!」

 蜘蛛の子を散らしたように魔物兵達が逃げていく。

 そこにはもう隊列も何も無い、ただただ逃げるしか無かった。

 そしてその混乱はもう一体の魔物将軍が指揮する軍団にも伝搬する。

「何だ!? 何があった!?」

「た、大変です! グーン将軍が戦死しました!」

「何だと!? バカな! 人間共は砦の中で籠城しているはずだ!」

「そ、それが突如として奇襲を受けた様で…」

「奇襲を受けた程度で奴が率いる2万の兵で捻り潰せるだろうが! 闘将や闘神が居たとでもいうのか!?」

「そ、その可能性も否定できず…」

 部下の報告に魔物将軍ゾノはうめき声を漏らす。

 もし本当に闘神や闘将が来たのならば根本的に戦略を見直す必要がある。

 そしてそれを大将軍に伝えなければならないが…その大将軍は失敗した自分を決して生かしてはおかないだろう。

 魔物大将軍とは力もあるが、それと比例せずに器が小さい物も多い。

 生憎と、自分達の上司である魔物大将軍もその手の存在だった。

 だからこそ、こんな無理な行軍でも実行しなければならないのだ。

「何の情報も持たされずに行動させられた結果がこれか…!」

 魔物大将軍の狭量さに憤るが、そんな事を言っても始まらない。

 チューザレの元に戻るのは嫌だが、それでも残った兵士達は戻さなくてはならない。

「撤退だ! 残存勢力を纏めて撤退するぞ!」

「は、はっ!」

 将軍の言葉に魔物隊長達は慌ただしく行動する。

 ここで兵を失うのはバカらしいし、魔物大将軍の面子のために死ぬなんて御免だ。

「フン、こんな戦列など知った事か…!」

 そう吐き捨て、魔物将軍もその場から慌ただしく逃げていくのだった。

 

 

 

「魔物兵達が撤退を始めてる…?」

 ラギは戦況の変化に気づいた。

 混乱していた魔物兵達が、組織立って撤退を始めたのだ。

 ランス達を無視し、我先へと逃げていく。

 その光景を茫然と見つめるしかなった。

「ランス様…」

「チッ、もう一体は逃げたか」

 魔物将軍は2体は居るのは分かっていたが、どうやらもう一体の魔物将軍は早々に逃げる選択をしたようだ。

 それを不満に思うが、無理な追撃はしない。

 数が居るならば攻めても良いが、こんな数では追撃など不可能だ。

 こうして不意打ちが決まり、魔物将軍を1体倒しただけでも良しとしなければいけなかった。

(だが意味が無いな。所詮魔物将軍一匹ぶっ殺したところでどうなるもんでもないしな)

 一応この危機は脱したが、所詮は一時の猶予を得ただけだ。

 ランスから見てももうこの状況は詰んでいるに等しい状態だ。

 魔人をどうにかしない限りはこの勝利も無意味なものなのだ。

(予想以上にマズいかもしれんな。もしかして俺様かなりピンチか?)

 ランスはこれ以上ない危機に流石にどうするべきか分からない状態だった。

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